当時小学校低学年だった私は飼育係で、校庭の隅にある小屋には何匹か兎がいました。


掃除当番で小屋に向かうと、乱暴者でいじめっ子の上級生(男)が小屋の中で何かしているのを目撃しました。
私も彼に苛められた事があるのでどうすべきか迷っていると、彼は私の視線に気付いたのか、驚いて走り去っていきました。
急いで小屋に入ると、薄汚れた兎がぐったりとしているのを見付けました。
兎の手に血が滲んでいて、どうやら彼は兎を苛めていたようでした。
応急処置をしようと思って兎を抱き上げると、それと目が合いました。
私は兎の顔を見て、危うく悲鳴を上げて兎を落としそうになりました。
兎には目が一つしかありませんでした。
しかも、顔の中央に付いているそれは人間の目でした。

 


正直怖かったのですが、飼育係として何とか堪え、小屋に備え付けてある薬箱で兎の治療をしました。

その兎を小屋に戻して掃除を始めようとした時、私は何か妙な音を聞きました。
文字に表すなら「ヒュル、ヒュウルル」という感じの口笛のような音です。
風の音かと思っていると、その音に混じって機械音のような高い声が聞こえたんです。

「ヒュウ、ヒュルル……ジコ、ジコ」

と。
発音は「事故」のものでした。
驚いて辺りを見回すと、また声がしました。

「ヒュルル、A、A」

それはさっき兎を虐めていたクラスメイトの名前でした。
気のせいではないと確信すると、さっきの一つ目兎と目が合いました。
愕然とする私の前で、兎は

「ヒュルル、ツブレル、ツブレル。ウデ、ウデ」

と言ったのです。
私が思わず

「どうして!?」

と聞くと、兎は

「ヒュル、インガ、インガ」

と答えました。
信心深い祖父母によく言い聞かされた、『因果応報』の事かと思い当たりました。
実はAは以前、遊び半分で兎の腕を折ってしまった事があったのです。
親がいわゆるモンスターペアレントで、教師は注意しか出来なかったようです。
そして、この兎も腕に怪我をしている事から、彼はまた同じ事をしようとしたのでしょう。

驚きと恐怖のあまり、私はそこから逃げ出しました。

次の日、小屋に行ったのですが、一つ目の兎の姿はありませんでした。
あれは夢だったのだろうかと思って教室に戻ろうとすると、目の前にAが立ち塞がりました。

「お前、昨日見てただろう。先生にチクったら殺すからな」

そんな感じの脅しをされ、私が何も言えずにいると、不意にあの兎の声がしました。

「ヒュルル、ヒュゥ、サガレ、サガレ」

と。
不穏なものを感じて、私が咄嗟に後退ると、次の瞬間Aの姿は消えていました。
飼育小屋の隣にある、補修工事中の倉庫の壁に立てかけてあった鉄筋がAの上に倒れたのです。
Aは鉄筋の下で、

「腕が潰れた、痛い」

と何度も叫んでいました。
見ると、ぺしゃんことまでは言いませんが、腕が鉄筋の下敷きになって潰れていました。
鉄筋が倒れる際の轟音と私の悲鳴を聞き付けた教師達がAを助け出し、彼は救急車で運ばれていきました。

呆然としていると、飼育小屋から視線を感じました。
振り向くと、扉には固く鍵をかけたはずだったのに、あの一つ目の兎が小屋の前に座っていました。
兎はあの独特の「ヒュルル」という声を出した後、

「返したぞ、この恩返したぞ」

と、昨日聞いた機械音のような声とは違う、野太い男の声でそう言うと、駆け出して近くの茂みの中に消えていきました。
それ以降、その兎に会う事はありませんでした。
もしあの時、兎を見捨てて帰っていたら、私も鉄筋に潰されていたかと思うとぞっとします。

 


コメントの数(38)
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:2SXgijWM0編集削除
ヒュルル、ヒュゥ、イチ、イチ
2 . 名無しさん  ID:HuUuULVk0編集削除
ヒュルル、ヒュゥ、ニ、ニ
3 . 名無しさん  ID:ad.TctSJ0編集削除
 よく分からんけど、学校のウサギってよく虐めにあってるよな、飼わなければいいのに
4 . 名無しさん  ID:.XSc8gJ20編集削除
上級生(男)がいつの間にかクラスメイト

これいかに
5 . 名無しさん  ID:r1VLQT.v0編集削除
後のボーかロイドである
6 . 名無しさん  ID:iflm5mtr0編集削除
小学生も留年するんだろ
7 . 名無しさん  ID:BPJRwj1o0編集削除
人の目で人の言葉を喋るって、くだんみたいだな
8 . 名無しさん  ID:fFln.lMRO編集削除
低学年の子がよく治療なんて出来たなw
9 . 名無しさん  ID:Pg6qqBN60編集削除
ラリホー唱えて来そうなウサギだな
10 . 名無しさん  ID:.ePpsgfp0編集削除
※8 「ヒュルル、ヒュゥ、ソウサク、ソウサク、キニスルナ」
11 .   ID:6mBswxSy0編集削除
兎を数えるときは1羽2羽です
12 . 名無しさん  ID:96NK00AZ0編集削除
一匹二匹でも問題ねぇよww
13 . 名無しさん  ID:.CK8t2aj0編集削除
ウサギ可愛い

虐める奴は死ねばいい
14 . 名無しさん  ID:oXUw6g1HO編集削除
ウサギ美味しかの山
15 . 名無しさん  ID:scN0NH0t0編集削除
ヒュールリー、ヒュールリーララァァァァ
16 . 名無しさん  ID:gzSjdWnZ0編集削除
こういうヤツの対処にはさぞかし骨が折れただろうな・・・
17 . 名無し  ID:8WdKbaAqO編集削除
兎「ヒュルル、ヒュー」


(´・ω・)っ◎←トローチ


兎「ア、ドウモ…」
18 . な  ID:AGVooR1.O編集削除
ヒュルル ヒュル ポニョ ソウスケ スキ
19 .    ID:Wc57.DsU0編集削除
お前らが米でヒュルルヒュルル連発して笑わせるから
怖い話が笑い話になっちまったw
20 . 名無しさん  ID:YJSLBYGj0編集削除
ヒュルル ヒュル コンゴトモヨロシク
21 . 名無しさん  ID:3OISNAvCO編集削除
北風小僧は関係ねーだろ!
22 .   ID:VeNqddNBO編集削除
なにも恩返してもらってない件
23 . 名無しさん  ID:EORv389U0編集削除
鉄骨じゃなく、鉄筋で腕が潰れるのかー
24 . 名無しさん  ID:IfFoz7P.0[評価:2 ]編集削除
ぬーべーからの出典だな
25 . 名無しさん  ID:rOobzPku0編集削除
※17が好きだわ
26 . 名無しさん  ID:cp1DV3eS0編集削除
※23
D51の2mくらいのだったら腕つぶせる可能性はあるが、D51がそこらに立てかけてって状況に無理があるかも。
そして、鉄骨が立てかけてある状況にも無理がある。

さもなくば、本数で勝負だ!
27 . 名無しさん  ID:rAb8Slab0編集削除
>2 . 名無しさん  ID:HuUuULVk0

こういうこともあるんだなID
28 . 名無しさん  ID:Sm.2.yUv0編集削除
親が慰謝料すげー請求してそうだのー
29 . 名無しさん  ID:Z12DxpsP0編集削除
※6
マジレスすると小学生でも中学生でも留年は存在するぞ
長期入院してて勉強についていく自信が無かったりすると認められたりする
後は引きこもりになった奴が卒業する気ある?とか校長から聞かれたりしたとか言ってたな
卒業する気無きゃ居て良いのかも知れんしな
まぁこのケースじゃありえないだろうけどなw
30 .      ID:zTS8uV3C0編集削除
この記事のコメ蘭は面白いなww
31 . 名無しさん  ID:43Vmt.7d0編集削除
ヒュルルンルンヒュルルンルン
奇想天外
32 . 名無しさん  ID:.esQ5NmW0編集削除
アウターゾーンにも似たような話があってな・・・


おや?誰だろう
33 . 名無しさん  ID:tfoad4Io0編集削除
「当時小学校低学年だった私は飼育係で」
気持ち悪い
「飼育係だった小学校低学年のころ」
にしろ
34 . 名無しさん  ID:pPn8ZclQ0編集削除
※33
え、それはなくね この場合大切なのは「飼育係」だろ
35 . 名無しさん  ID:K1u.51Iz0編集削除
おかしいく感じるのは点の位置のせい
当時小学校低学年だった私は飼育係で、校庭の隅に←元
当時小学校低学年だった私は、飼育係で校庭の隅に←校正
36 . 名無しさん  ID:cSoUy88J0編集削除
ヒュルル、ヒュゥ、ウハw、オkw、ハアク
37 . な  ID:MRVm4d9b0編集削除
うち、ウサギ飼ってるけど、凄く頭良くて人間の感情とか分かるよ
俺が息子を叱ってると息子を庇う
家族の誰かが喧嘩してると足ダンして喧嘩止めろの合図したり
思春期の息子と掴みあいやってたころは、やめてくれと俺と息子の足の回りをグルグル走り回るし、俺に前足かけてやめてくれって顔見上げてくる
なんか話すとイメージで伝わるらしく、分かったわみたいな顔してる
実家にいた犬より家族思いだよ
38 . 名無しさん  ID:Pn3N8rJ.0編集削除
すごい
俺もう成人してるけど怪我してる動物の治療なんかできないぞ

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