旦那はいわゆる青年実業家で、自分の親ほどの年齢の社長と対等に渡り合い、仕事をこなし、とにかく田舎者の私には雲の上の人レベルで、尊敬してた。
尊敬しすぎて、結婚してからも敬語。
旦那にやめろよと言われても、
「いえいえ。だって、旦那クンがかっこよすぎてつい、キャハ」
って感じ。
で、陣痛。
なぜか10分感覚までは私も冷静で、深夜帰宅した旦那に、業務報告みたいに簡潔に報告。
やはり冷静に「いざ出陣」の顔の旦那。
車出すより、歩く方が早いはずのすぐ近所の大病院へ。
と、これが失敗だった。
途中から歩けない。
立てない。
動けない。
なんとかして病院の裏玄関に着いたとき、
「やっぱり車にすればよかったですー」
と突如号泣した私。
深夜でロビーは照明もなく誰もいない。
と、なぜか旦那が持ってきたのは、受付事務の小さな回転椅子。
「車だよ、車、かっこいいだろ、これ!これに乗って!ビュビューンて押してあげるから!さあ!」
そこにインタホンで出てきた看護師さん達が駆け付け、旦那の回転椅子はすげなく取下げられ、
「しっかり歩いて!」
と年配看護師に叱られた私は、
「はい!」
と気合いを入れなおし、
回転椅子の横でぽつんと突っ立ってる旦那を残し、エレベーターへ。
分娩台に乗ってからは、旦那の「ビュビューンと押してあげる」がツボにはまり、
「病院コントかよっ、笑ってはいけない病院スペシャルかよっ、ねえ先生?!」
と笑い続けた。
旦那とはそれ以降タメ口。
何度思いだしても、幸せなお産だったと思う。
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