ある男が床屋で理容師に言った。
「見てのとおり俺は頬が痩けてるから、頬は剃りづらいだろう?」
すると理容師は引き出しから小さい木製のボールを取り出して言った。
「お客さん、この玉を頬の内側と歯茎の間に入れてごらんなさいよ」
男が言われたとおりにすると、剃りづらかった頬がきれいに剃れた。
片方の頬を剃り終わると、男はボールを口から出し、つるつるの頬を撫でながら言った。
「こりゃいいや。こんなにきれいに剃れたのは初めてだ」
「そうでしょ? じゃあ、今度は反対側の頬に入れてくださいな」
男は言われるままにボールを口に含み、もごもごと尋ねた。
「ところで親父さん、もしこのボール、間違って飲み込んじまったらどうなるんだ?」
「はは、それなら大丈夫でさ」
理容師は笑いながら答えた。
「他のお客さんみたいに、次の日に返してくれりゃ結構です」
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