昔の話。
俺は釣りに行くのが趣味で、よく嫁と釣りに行く。
嫁は基本的に磯でヤドカリやイソギンチャクを眺めている事が多いんだが、その日は自ら竿を持ち釣りにチャレンジしていた。
そして初ヒットが小さな河豚。
俺は海へ返してやれと言ったが、嫁は連れて帰ると言い張り、結局お持ち帰り。
家が海に近かった為、嫁は毎日海水を取りに海へ行っていた。
そのお陰が小さな河豚は2週間経っても生きていた。
いつの間にか「フグリン」と言う名前までついていた。
そして3週間程経ったある日。
嫁の河豚が危篤状態に。
俺はその日仕事で会社にいた。
嫁は何を思ったのか会社に電話してきた。
運悪く、電話に対応したのが俺の直結の上司。
「え!ふぐり?!ふぐりがですか・・・?!」
社内に響き渡る上司の声。
・・・・ふぐり?金玉か?
いたずら電話だろうと思ったその時、上司が俺の所に来て小声で一言。
「今な、おまえの嫁さんから電話があってな、
相当焦っているようであまり聞き取れんかったが、どうやらおまえのふぐり・・・いや・・・
あの・・・金玉がな、危険らしい。今日の所は早退して病院で診て貰った方がいいんじゃないか?」
とりあえず嫁の河豚が危険な状態なのは把握した。
だが、上司の嫁の河豚の事なんですとも言えず、とっさに
「え、そうなんですか?玉がですか・・・心配なんで病院行きます。」
と言い、早退し帰宅。
その時には河豚は死んでいた。
河豚を手に取り泣いている嫁。
会社に河豚如きに電話してきた事を叱ろうにも叱れず、二人で河豚の墓を作った。
後日会社に行くと、みんなから玉の心配をされ、挙句、フグリマンと言うあだ名までつけられた。
あの小さな河豚が、こんな大事になるとは。
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