嫁「(俺の名字)さん?ですよね?」
俺「(嫁のフルネーム)さんですか?」
嫁「はい、乗って良いですか?」
俺「ええ、もちろん」
助手席に座った嫁、タオル地のハンカチで汗をぬぐった。
嫁「凄く小さい赤い車っていうからもっと小さいかと思っていました」
俺「ええ?この車(KPスターレット)は小さいですよ」
嫁「だって、ナンバープレートの色が黄色くないじゃないですか」
俺「え?」
嫁「友達に聞いたんですよ、私、車の種類なんか全く知らないから」
俺「ナンバープレートが白くてもこれは小さいと思いますよ」
嫁「え、でも、お父さん、お母さん、子供2人の四人家族なら充分じゃないですか」
俺「…そうですか?」
嫁「…私が身長低いから、そう思うだけかもしれません、、」
20代の気の利いた社会人男性はみんなデートカーを持っていた80年代の事。
車種(車の形)と車体色を伝えていた。
世間一般には小さいと言われ馬鹿にされていた車であった。
共に淡色の日傘とワンピースというフェミニンな感じの女性が手を振っていた。
当時女子大4年の嫁であった、化粧っ気が殆ど無かった。
はっきりいって女子大生と言われてワンレンボディコン、バッチリメイクな感じの女性が待っていると思っていた俺は時間通りに来ていた嫁を何度もスルーしていたのだった。
嫁「…何回も目が合ったのに、行っちゃうから嫌われたのかなぁって泣きそうだったんです」
俺「嫌うなんて、可愛過ぎるから自分とは関係ないと思っちゃタンです」
チラッとみた嫁は目が泳いでいた。
嫁「…水筒の中はアイスティーなのです、アールグレー、です。」
俺「え?なんですか?」
会話が繋がらないので思わず聞き返した。
嫁「紅茶の種類です、フルーツサンドも作って来ました」
俺「はぁ?」
嫁「…嫌いですか?」
俺「好きですよ?」
後から聞けば嫁は無理をせずに「箱入り娘」で居られる容姿にコンプレックスを持っていたらしい。
若い男の人と話すのが久しぶりで、ただでさえドキドキしてたのに
いきなり可愛いとか言いだした軽い感じの俺を警戒しつつも、嬉しかったらしい。
嫁は悪い意味でシャイだったので、一緒にいて面白くなかった。
会話も弾まなかったが、社長からはいつもGOサインが出ていたので断れず、ズルズルと月一程度でデートに誘っていた。
会うたびにお菓子とか、お弁当とかを作ってきたのは嫁のアピールだと気付かなかったので、嫁の方でも断れなくなっていると考え、どう別れを切り出すべきか考えていた。
最初の出会いから半年ほど経った2月に、そのKPの助手席に座った嫁は今まで音楽など気にしてなかったのに、カセットテープを取り出して
嫁「これ、聞いていいですか?」
俺「…ええ、どうぞ」
それには松田聖子の曲が入ってた、正直いうと音楽でも趣味が合わないと思った。
でもある曲になったら突然嫁が歌い出した、カラオケは恥ずかしいから嫌いといってたのに。
嫁「♪なぜ知り合ってから半年過ぎても貴方って手もにぎらない♪」
その当時微妙に古臭くなっていた、『赤いスイートピー』だった。
俺はその時まで嫁の手を握った事などなかった(仕事に影響するといけないので)。
ああ、と思った。
嫁は詰まらない女なのではなく、俺の感性が鈍かったんだと悟った。
横目で嫁を見ると真っ赤な顔をしながら俺の方を見ていた。
嫁「♪なぜ貴方が時計をチラッと見るたび泣きそうな気分になるの♪」
嫁の後ろには相模湾に沈む夕陽。
その日にの内に給料の3ヶ月分の現金が用意できなかったので、嫁に赤いスイートピーを買おうと思って花屋に行った。
赤いスイートピーなんてないと嫁と店員に笑われた。
代わりに買った黄色いフリージアと白いカスミソウは嫁がドライフラワーにして、今も嫁の箪笥の奥に仕舞ってある、、、と思う。
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あの歌、ウソかよ!!(怒)
今は品種改良が進んで明るい赤のスイートピーが売られている
松田聖子の歌より前の話だよ。
大昔から赤いスイートピーはあった
電ちゃんネタかと思った
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