その昔(今から40年以上前ね)、同じ職場にいたおとんとおかん。
同じ職場での顔見知りくらいの関係でしかなかったらしい。
そんな職場におかんの弟が研修で入ってきて、たまたまおとんの部署についたそうな。
ひと月ほどしたある日、それまで一言も口をきいたことのないおとんから
いきなり、
「弟さんのことで話がある。仕事が終わったらちょっと顔を貸せ。」
と、なにやら怖い面持ちで言い渡されたおかん。
「いったいなんだろう?ひょっとして弟が何か不始末でも!?」
あれこれ悩むおかん。
少しばかりビビりながら呼び出された喫茶店に行ってみると、そこにはすでに難しい顔をして腕組みしたまま席に座るおとん。
ますますビビりつつ
「あの、遅れてすみません。」
とおそるおそる声をかけ、対面の椅子に座ろうとしたその時。
がばっ!と立ち上がったおとん。
次の瞬間べたっ!と床に正座し、
びたっ!と土下座して
「お願いです!僕と結婚を前提にして付き合って下さい!」
とのたまった。(おかんの実況によるとこういう感じだったそうだ)
それまで、あれやこれやと気を悩ましていたおかん。
怒りと恥ずかしさと安堵と脱力したのとで呆気に取られてつい承諾してしまったらしい。
あとからよくよく話を聞いてみると、なんでもおとんは恩師の娘と無理やり結婚させられそうになっていて、その恩師の娘ってのが力道山そっくりだったから
こりゃいかん、早いとこ既成事実を作って逃げちまえと思ったんだと。
おとん28歳おかん23歳のときのはなし。
おとんからはついにこのはなしを聞くことは出来なかったよ。
このあいだ、遺影を前に家族で飲んでるときに、無理やりおかんから聞き出した。
その日はおとんが生きてれば41回目の結婚記念日。
変わり者の親父殿に乾杯!
|
|
