嫁「……宜しくお願いします」
俺「いやそんな神妙に言われても困るんだけど。楽にして」
嫁「もう俺さんしか頼れる人がいないんですっ!」
男っぽすぎる外見をどうにかしたいとか言われた。
土下座までされた。
知らんがな。
俺の友人に真性の百合カップルがいる。
今でも一緒にメシ食いにいったり愚痴はきあったりする仲で、とてもお似合いの2人。
そんな2人(仮にAとBとする)から、ある日大学生の女の子(嫁)を紹介された。
なんでも百合の「恋人募集!」みたいなサイト?で知り合ったらしい。
が、嫁は百合じゃないという。
じゃあ何なのかっていうと、男みたいな外見で悩んでて
周囲から色々とからかわれ続けてたらしく、
「もしかしたら本当に女性と付き合った方が良いかもしれない」
とサイトに登録したんだそうな。
んで、近所に住んでいたAとBに行き着いたと。
メールで悩み相談してあげたらしい。
嫁は長身で貧乳でショートヘア、ハスキーボイス。
小中高とバスケ部に所属。
子供の頃から女子たちに黄色い声援と熱い視線を浴び続け、それが嫉妬を呼んだのか男たちから軽いイジメ? というかイジリ?にあっていたらしい。
「お前ホントは男だろ?」
「うわっ男子のくせに女子トイレに入ってるー!」
みたいな。
ふざけて言ってることは理解していたがどうにも悔しい。
んで化粧してみたり女の子っぽい服装を心がけたり髪を伸ばしてみたり色々とチャレンジしたのだが、どうにも似合わない。
女子陣からは宝塚男優のようなポジションに遇されていたらしく、
「お願いだから嫁ちゃんは今のままでいて!」
と説かれる始末。
そのせいか彼氏なぞできたこともなく、むしろ男友達から恋愛相談をたびたび受け、何年もずーっと
「男っぽい」
と言われ続けてきたせいで半ば洗脳されていたらしい。
そんな悩みを受け、百合2人は嫁の改造を決意。
可愛らしく、かつ似合う服装や仕草、言葉遣いなどを次々と嫁に仕込んでいった。
嫁は洗脳の余韻がまだ少し残っていたらしく
「恥ずかしい」
「似合わない」
と連呼。
なら実際に男性の意見を聞こうということで、唯一の男友達である俺にお鉢が回ってきたのだった。
そして冒頭に続く。
嫁の劇的ビフォア・アフターを検分させられる事になった俺は、どうにも困り果てた。
AとBが実に百合らしく自分達の好みを反映させた結果、嫁は「お姉様」と呼ぶに相応しい姿になっていた。そういう女性が好きな男性諸氏が彼女に出会ったら、踏んでくださいと懇願していたに違いない。
だが俺にそっちの趣味は無かった。
嫁「……やっぱり駄目ですかね」
俺「いやいやいや、そんな事ないよ。すごく綺麗だよ。大学の男みんな寄ってくるよ!」
3回目か4回目の顔合わせ&品評会の時、嫁は見るからに凹んでいた。
初回から俺の反応がいまいち悪いと感じていたらしい。
女性の観察眼は実に鋭い。
同席していたAとBも同様に感じていたらしく、俺は3人から疑いの視線を受けて脂汗をかいていた。
A「正直に言って。嫁ちゃんもその方がスッキリするから」
B「俺さん、いつもズバッと言うじゃないですか。なんで黙るんですか」
嫁「……今までご迷惑おかけしてすみません(帰り支度してた)」
よし解った。
もうこうなったら全てを暴露してくれる。
結果AやB、嫁から白い眼で見られようとも俺は俺自身の尊厳の為に戦おう!
PC電源ON! デスクトップから「画像」フォルダをクリッククリック!
貴様らこれを見て納得するが良い! これが俺の生き様じゃあ!!
俺「今まで黙っててごめん! 実は俺、変わる前の嫁さんの方が好みだったんだ!」
そして俺は3人に、今まで集めに集めたボーイッシュな女性の画像フォルダを曝け出した。
(但し下は除く)
女性陣は硬直した。
俺からマウスを渡されたBが代表として画像を次々とクリックしていく。
その後ろで嫁とAが
「おお…」とか
「わ…」とか
言葉にならない声を発していた。
画像に夢中になる3人に、俺は自分の女性観と好みを滔々と語った。
ハスキーボイスが好きである事。
長身の女性に萌える事。
クールな口調の女性は素晴らしいという事。
髪型はショートこそ至高である事。
スレンダーな体型が好みである事。
そして服装は今まで嫁が来ていたような、スポーティなものorラフなものが大好物だという事。
ストライクゾーンど真ん中すぎる天使が現れたのは良いが、2人の改造計画で徐々に俺の好みからズレていく様を見るたびに複雑だったという事。
全てを語り終えた時、嫁が振り返った。
嫁「あの。この画像まだありませんか?」
聞いちゃいなかった。
俺は黙って2次元フォルダを解放した。
それから俺と嫁はぎこちないながらも一緒に遊ぶようになった。
この日の事は互いに語らず、それが暗黙の了解になっていた。
お互い恥ずかしかったんだと思う。
特に俺はあの日の事を白昼夢だと思い込みたかった。
だって目の前に現れた天使に自分の好みと性癖を赤裸々に暴露しまくった上に、今まで収集してきた画像フォルダを無言でガン見されたのだから。
嫁は、Tシャツにジーンズというラフな格好に戻っていた。
嫁に乞われるまま色々なところに遊びに行った。
手を繋ぐこともキスをすることも無かった。
告白もしてないのだから当然だった。
12月24日。
祖母の営む小料理屋から
「アンコウが入荷した。鍋するから来い!」
との連絡を受けた。
アンコウ大好きな俺は
「雑炊の用意を忘れるな!」
と告げて自転車で爆走した。
良い感じに煮込まれた鍋に箸をつけようとした瞬間、携帯が鳴った。
嫁からだった。
嫁「今どこですか」
俺「小料理屋でアンコウ鍋食ってる。暇だったらおいでよ」
暫くしてから来た嫁と一緒に鍋を食った。
雑炊も食った。
熱燗を2人で2、3本ほど開けた。
俺はべろべろに酔っぱらっていたが、嫁は平気な顔をしていた。
嫁「クリスマスイブにアンコウ鍋ってのも不思議ですね」
俺「だねー。でもカップルに嫉妬の視線を投げかけるのもアレだし、こういうのも良いんじゃない?」
嫁「ですねー」
そして無言。
俺は酔いすぎて眠かった。
そろそろ帰ろうかなーと思って財布を出すと、嫁がそれを制した。
嫁「俺さん。もう少しボクと話しませんか?」
俺「んー、まあ良いけど。……ていうかボクって何よ」
嫁「いや、あの。この前ほら、俺さんのパソコン見たときに、そういう子が居たんで」
俺「あーあーあー。いや、でもアレはそういうキャラクターだから。嫁ちゃんはダメだよ、それやっちゃ」
嫁「ダメなんですか?」
酔っぱらっていた俺は嫁にボクっ娘はあくまで二次元だからこそ萌えるという事。
かといって「オレ」も一人称としては宜しくない事。
個人的な好みとしては「私(わたし)」または「ウチ」こそが究極であるという事。
これらを力強く語った。
嫁は納得したらしく、いつも通りの「私」に戻してくれた。
正月が明けてから、A、B、嫁と俺の4人で遅めの初詣に行った。
おみくじを引き、破魔矢を買い、神様にご挨拶してから俺の車で帰宅というコース。
助手席に座る嫁が、唐突に言った。
嫁「俺さん、付き合ってください」
後ろでポカリ飲んでた百合2人が盛大に吹きこぼしてた。
俺の愛車スバルはベタベタになった。
俺「…………は?」
嫁「本当はイブに切り出そうと思ってたんですけど。
俺さんが語ってるの聞いてたら機を逃しました。あとアンコウ美味しかったですし」
A「え、ちょっと2人ともどういう事。説明しろ」
B「アタシらに黙ってアンコウ食べたの!?」
Bよ、そういう事じゃない。
俺「…………良いの?」
嫁「はい。俺さんが良いです」
嫁よ、そういう意味で聞いたんじゃない。
でも嬉しかった。
俺はあまりに好みすぎる嫁を自家発電ネタにも出来ず、例えるなら子供が買えないと解ってるトランペットを店先で眺めて満足する気分だったので狂喜乱舞。
こちらこそ俺とお付き合いしてくださいと頼み返し、OKを貰ってお付き合いした。
んで、順調にお付き合いを続けて結婚した。
ちなみに告白の理由を聞いたら、その時は恥ずかしがって黙ってしまった。
後々確認したら
「最初は悩み相談がメインだったけど、
俺さんの集めた画像を見てたらこんな自分でもそれなりに需要があるかもしれないと思った」
「大学の男性陣には、相変わらず姐さん扱いされていた。
なら需要のある人とお付き合いしたいと思った」
「俺さんがマニアックすぎて、悩んでるのがばかばかしくなった」
との返答を貰う事ができた。
付き合う事になって数日は、ベッドの上をごろごろ転がりまわってた。
嬉しくて仕方なかった。
今まで嫁に対しては、上記トランペット少年の気分でいたせいかあまり意識してなかった。
正確に言えば意識しないようにしてた。
あまりにタイプすぎて
「この子はきっと大学でも人気が出るだろうから、若い子同士で恋愛するんだろうな」
って漠然と考えてた。
傷付かないように自己防衛してたんだな。
んで、いざお付き合いとなっても何をすれば良いか解らなかった。
あまりに唐突すぎて何も考えてなかった。
恥ずかしながら百合とも二人に相談すると
「んなことは自分で考えなさい」
と突っ撥ねられ、観光情報誌みたいなのを何冊か貰った。
だけど俺、それに載ってる観光地やレジャー施設っておおよそ全員で遊びに行ってたんだ。
まあ、百合が遊びに誘う→俺と嫁も参加ってルートが多かったから仕方なかった。
そこで俺は情けなくも、嫁に
「どこ行きたい?」
と聞いてきた。
嫁は
「じゃあ俺さんの地元に行きたいです」
と言った。
なので嫁の夏休みを利用して俺も休暇を取り、実家を拠点に遊びに行く事に。
ちょうど良いから家族にも紹介するという運びになった。
当時の話を嫁にすると無口になる。
可愛い。
10歳違い。
出会った当時は嫁20の俺30だった。
俺の良いところ……あんまり聞いたことない。
良い機会なんでちょっと聞いてくる。
実家に着くと、家族全員が俺を待ち構えていた。
長男坊の癖に彼女なんて作ったことないから光の速さで話題が広がってたらしい。
田舎だから娯楽も少ないし。
んで、対面。
俺「こちらが彼女の嫁ちゃんです」
嫁「初めまして。俺さんとお付き合いさせて頂いてます、嫁です」
父(ぽかーん)
母(ぽかーん)
弟(ぽかーん)
妹(ぽかーん)
犬「グルルルルルルル」
犬は俺の存在を忘れていた。
トイプードルの癖に牙が鋭くて困った。
さっき嫁に聞いてきた俺の良いところ。
1.美味しそうに食事を食べてくれるところ
2.女性の前では決して煙草を吸わないところ
3.私より背が高いところ
だそうです! うひょー嬉しい!
父「ちょ……モデルさん?」
母「……え、若い。え?」
妹「と…年上? 年下? どっち?」
弟「………負けた」
嫁はよくできた嫁だった。
家族への挨拶を済ませると、1年ちょっと前に亡くなった祖父の仏壇に行って買ってきた線香と果物を供えていた。
それを見て両親の株が急上昇したらしい。
俺をべしべし叩きながら涙目になっていた。
付き合って数か月なのに結婚を意識した反応すぎて困った。
だがもっと困ったのは嫁の爆弾発言だった。
父「嫁さん。こんな事を聞いて何だが、本当に息子で良いのかね?」
母「そうよ。この子ド変態よ。良いの? 騙されてない?」
弟「そうだよ! 考え直すなら今だよ!」
嫁「いいえ。私は自分の意思でこの人についていこうと思っています」
嫁「既に覚悟は決まっています。俺さんがド変態なら私もド変態になるまでです」
慌てて俺は嫁を連れて外出しようとするも、家族にブロックを食らいエスケイプ不可能。
2泊3日の予定は全て実家で過ごす事になった。
なし崩しのうちに結婚話が浮上し、付き合って1年で両家が対面することに。
嫁の家は義父が病気で長期入院しており、両親が見舞いがてらの顔合わせとなった。
義母は嫁ほどじゃないけど背が高かった。
やはり血筋なのかもしれない。
この間、俺は流されまくり。
俺の家族と嫁の家族がはしゃぎ倒して半ば勝手に話を進めていった。
嫁は終始クールなまだったけど、決して嫌じゃなかったっぽい。
むしろ積極的に両家のパイプ役となっていた。
実際に結婚するまでの考えが無かった俺は焦りまくって両家にブレーキをかけた。
もちろん結婚はしたかったよ。
三十路だし、長男だし。
でも大学在学中の嫁を貰うわけにもいかんだろうと話を強引にストップした。
俺の話に筋が通っていたので両家は納得。
嫁の卒業までこの話は保留となった。
卒業と同時に婚姻届を提出したのが今年の4月。
現在新婚4か月目です。
ちょっと嫁さんに呼ばれたので子作りしてきます。
この話してたらイチャイチャしたくなったらしい。
うひょー!
女の子だったら「マコト」か「アキラ」か「ツカサ」と名付けようと思うんだけどどれが良いかな。
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