うちの職場に居た泥キチママの話。
ある地方都市の飲食店なんだけれど、自分が入って半年ほどしたころ、食材の減りが異常に早くなった。通常消費される量よりも一升ほど多く、毎日お米がなくなっていく。
他にも、仕込んだはずの食材が、なぜか翌日無くなっていたり。
疑われたのは、私。
「疑われた」のではなくて、ある人が
「あいつが犯人だと思う」
とうわさを流してた。
でも、Wさんは前科があって、過去にも1度新人が入ってきたときに食材を大量に盗んでたことがあったとのこと。
そのときも、新人の人のせいにしようとしたけれど、最終的にバレて、厳重に注意を受けたとのこと。
Wさんの家は古い名家で、経営者の人もWさんのお父様にお世話になったとかで、クビを切れなかったんだね。
ある日、経営者の方が、
「Wさん呼び出して注意するんだけれど、悪いんだけれど、君も同席してくれる?
私じゃなくてあいつだって、言い張って聞かないんだ。」
と、出勤早々声をかけてきた。
「なんで私が・・・」と思ったけれど、古参のパートのIさんが
「私もちょっと同席していいかしら?私さんだけだと、心細いでしょ」
と、助け舟を出してくれた。
で、事務所に行ったんだけれど、すでに事務所の中で座ってたWさんは、私を見るなり開口一番
「こいつです!!この女が泥棒です!!!!!」
と指出して大声でわめきちらしはじめた。
.....はぁ?!?
Wさんの主張はこうだった。
「自分は名家の娘だ。大学も出た名誉ある○○家の娘がそんなことをするわけがないでしょう!!
それに比べて、私さんの家はどこの馬の骨かわからないよそ者だ。
学歴も高卒で、若くしてできちゃった結婚したようなレベルの低い人だ!
私はこの人がお米を盗んでるところを見たし、この人が犯人で間違いない!!」
で、私に向かって
「私やオーナー、職場のみんなに謝りなさいよ!!
あんたのせいでね、みんな迷惑してるのよ!!!!」
ここまで、オーナーな心細いでしょとついてきてくれたIさんも、無言。
もしかして、本当に私が犯人だと思い込んでるんじゃないだろうか、と、泣きそうになった。
オーナーが口を開いた。
「現場を見た、ということですが、具体的などういう場面ですか?」
W「倉庫から米の袋を持ち出してるのを見ました!!!」
オ「米の袋ひとふくろ、ですか?」
W「そうです!!」
オ「それはいつですか?」
W「○月○日の、退社時間直前です!!」
オ「他には、どんな場面を見ましたか?それだけではなく、あるんでしょう?」
Wさんじゃなくて、私が疑われてるんだ、と顔が青ざめた。
W「そうそう!!事務所の机の上のお金を盗むのも見ました!それは○月○日です!!!」
そこで、そこまで静かな口調でしゃべってた経営者の方が、いきなり大声を出して怒鳴った。
オ「事務所のテーブルの上の金!!!!本気でいってるのか!!!ああん?」
W「そうです!そうです!事務所のテーブルの上にあった、お金です!!
この人、こんな大人しそうに見えて、とんでもないことスル人なんです。」
オ「バカヤロウ!!!それが盗られたこと知ってるのは、俺だけなんだよ。
他のどの従業員にも話してねーんだよ!!どうしててめぇが知ってるんだ!」
W「え?」
オ「どうして知ってるんだ?盗った人間じゃねぇとしらねぇはずだぞ!!」
W「え、あ、それは私さんから聞きました。」
オ「嘘つくな!!嘘を!!!」
W「○○家の人間の私が嘘をつくわけがないでしょう!!(私に向かって)この泥棒!!
白状しなさい!!!」
オ「Iさん、あれ!!!」
Iさんが、事務所の机の上のノートパソコンを持ってきて、動画ファイルを開いた。
事務所の中の様子を撮ったものだ。
オ「あの金はな、罠だったんだよ。Wさんのことだから、
きっと盗るに違いないって、webカメラで撮影しといたんだ。」
動画の上には、机の上に置かれた封筒から、お金を何枚か抜き取るWさんの姿。
突然、Wさん土下座。
Wさん「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい。
お金は返します。お米は盗んだけれど食べてません。
家の前の水路に流したので食べてません。だから許してください。」
オ「あんた、前も同じ言い訳したよな!!あんときは米だけだったけど!!
家の前の水路に流して食べてないって、それで許されるわけねーだろ!!
頭おかしいのか!?それも嘘だろ!!!もっとまともな嘘をつけ!!!」
あたし、ポカーン。
Iさんが
「ごめんねぇ、つきあわせちゃって。ひとまず、仕事に戻ってもらっていい?
って、そういう気分でもないかしら?大丈夫?」
と声を掛けてくれた。
後ろで経営者の方が携帯で警察に電話を掛けている。
Wさんが
「勘弁してください、堪忍してください、家の名前に泥を塗ることになってしまいます、
ごめんなさい、ごめんなさい」
とすがり付いている。
オ「うるさい!あんた、自分の世間での評判知ってるのか!!
そろそろきちんと自分でけじめをつけろ!!あんたの親父さんにも話は通してあるんだ!!!」
Wさんが
「ヒィ〜〜、ヒィ〜〜」
と声を上げて泣いてる。
Iさんに連れられて、私退出。
ぽかーん、とするほかなかった。
「え?私、今ここに来る必要あったの?え?あったの?マジで?
別に私、いなくてもよかったんじゃない?」とか、
「え?米を水路に捨てたから食べてないって、何、その嘘?色々おかしくね?」とか。
Iさんに
「私、いる必要ありましたっけ?」
と聞くと、意外という顔をされた。
「あなた、あの人と今後長い付き合いになるんだから、どっちが上かってのは
しっかり示しといたほうがいいでしょ?後々面倒だし、
あの人ああいう人だから強気に出られるところもいるでしょ。
って、これはWさんのお父さまや弟さんからの提案だったんだけれど。」
は?長い付き合い?Wさんのお父さん?弟さん?
「Wさんの姪っ子さん(Wさんの弟さんの娘さん)と、あなたの弟さん、
結婚を前提にお付き合いしてるでしょ?」
ちょwwwwまwwww私、それ知らないwwwwwwちょ、弟wwww
Iさんによると、Wさんはとかく私に目をつけてたようで、あれこれと陰口を流してたらしい。
とはいえ、Wさんはとかく周りから信用がなかったので、誰も真には受けてなかったようだけれど。
「あの女は昔風○で働いてたんじゃない?そんな女に見える」とか
「あの女は窃盗癖があるに違いない。そういう目つきしてる」とか
「あの女、浮気してるみたいよ。出入りの業者の若い子とよく話してるけど、
すごく仲よさそう。男女の仲よ、あれは」とか。
その理由は、よそ者であるうちの弟と、地域の名家である本家の跡継ぎがお付き合いするのを、良く思っていなかったから。
いやいやいやいや、どっちかっつーと、風○で働いてたのも、窃盗癖あるのも、浮気話色々あったのも、全部Wさんのことだし。
いや、うん、それ、よく言えたもんだな、とあきれる。
Iさんは言葉を続ける。
「Wさんね、色々あって、W家を勘当されたようなもんだったんだけれど、
その後結婚して戻ってきて、お父さんとか弟さんとは表面上は仲直りしたのね。
でも、金銭面や人間性の面でWさんも旦那さんもまったく信用されてなくて、
相続権は何にもないのよね。で、Wさんね、本家の姪っ子さんと自分の息子、
結婚させるつもりだったみたいでね、そこにあんたの弟さんの話が出てきて、
それであんたを追い詰めるつもりだったみたい。」
いや、ちょ、ま、従兄弟同士で結婚て。
え?なんか、色々突っ込みどころが多すぎて、ぽかーんとするしかないんですけれど。
Iさん「まぁ、うん、言いたいことはわかるわ、その顔見れば。
あの人、頭はいいし、仕事もできるけれど、頭がちょっと、アレなのよ。」
その後、Wさんのお父さんと弟さんがいらっしゃって、経営者の方に謝罪されたとのこと。
また、私のうちにもいらっしゃった。
謝罪されたけれど、実際のところ私はそう被害はこうむってるわけじゃないし、(周りの方はWさんまったく信用してなかったおかげで)、気にもしてないし、むしろこちらのほうが気をつかっていただいて申し訳ないですとお話。
(本音を言うと、Wさんご自身にしっかりと謝罪していただきたかった。)
「○○家は名家!!」と常々言っていたWさんのイメージが強かったので、よほど高慢な方がいらっしゃっるかと思ったら、ものすごく物腰の柔らかい、きわめて常識人な方がいらしたのでびっくりした。
「弟さんはお元気ですか?娘が気にしておりましたので」
と聞かれたので、
「元気ですが、何かうちの弟がしでかしたのでしょうか?」
と問うと、
「いえ、先日娘に別に好きな人ができて別れたということで、
気を落とされていなければと思いまして。彼のような子がうちに入ってくれたら、
私どもも安心だったのですが、残念ですし、申し訳ない。」
ちょwwwww弟wwwwww私って、もしかして、なんかひどい目にあっただけでめっちゃ損した感じ???wwwww
Wさんはその後、首都圏のほうに引っ越されたとのこと。
実質の勘当、らしい。
年末年始ということでこちらに帰省してきたようで、W家の玄関前で
「入れろ!!」
「入れない!!」
と押し問答をしてるWさんと使用人さんを見たと同僚が言っていたと、仕事に向かった旦那からメールが来て、ふと思い出した。
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