先日、蒸し暑い日。
踏切に差し掛かったところ、珍しく混雑。
見ると踏切の中に一匹、首輪のない犬がうろうろと歩き回っている。
どの車も犬を轢かぬようにのろのろと小刻みに踏切を渡る。
犬はあっちに逃げ、こっちに逃げ。
ド田舎とはいえ、30分に一度は電車が来る踏切だ。
犬の鼻先を大型ダンプがゆるゆる進んでいく。
しばらく周りを見ていたが、飼い主らしい姿もない。
とうとう見ていられなくなって、踏切に入って犬を確保した。
ひどく息遣いが荒かったので、車のクーラーを効かせてガンガン風を当て、近くのホームセンターで首輪とリード・餌を買って
その足で近場の駐在に拾得物として届けた。
保護センターが引き取りに来てくれることになり一安心。
が、しかし警察官のいうことにゃ、
「普通の拾得物でしたら、持ち主不明で半年経ったら、拾い主の物になります。
ただ、犬猫となると、三日から一週間で殺処分される規則だそうで…。
もし、飼い主が見つからなかった場合ですが…。
あなたの拾い主としての権利はどうしますか?放棄されますか?」
俺たちの横で水たらふく飲んで、餌をガツガツ食って、やっと一息ついてるこの犬。
優しい瞳だ。
お手もできるし、背中を撫ぜても耳を触ってもウ―ともいわない。
絶対誰かに飼われてた子だ。
たった三日やそこらで、うまく本来の飼い主が現れるだろうか。
少し悩んだけど、
「飼い主が出て来なかった場合、俺が引き取ります」
と言い切った。
でさ、あと保護センターのタイムリミットが三日間。
腹ぁくくって飼う準備を始めている。
結構楽しい。
とりあえず、もう一匹分のスペースを確保すべく物置部屋を片づけている。
うちの子と仲良くやってくれるだろうか。
こうなったら、元の飼い主よ、出てくるな。
いや、元の飼い主が出てくるのが一番だけどさ…。
経過報告。
あの後、駐在から電話があった。
預かった餌やリードをお返ししたい、と。
それらを受け取りに行くと
「保護センターが、犬の拾得者はちゃんと犬を飼える人間か心配していた」
そんなら直接会って、譲与の件を正式に申し込もうとセンターまで足を伸ばした。
係員が、犬の状態から随分長期間に渡って放浪していた可能性があること、体は小柄だが、歯の状態からかなりな老犬であること。
踏切の中をぐるぐる徘徊していたのも、熱中症と飢餓からだろう、と。
首輪が無かった事や、随分痩せていたことから、おそらく捨て犬ではないかと。
今から飼っても、そんなに生きられないかも、と含みをもつ言い回しだった。
かまわないから、期限が来ても飼い主が現れなかったら自分に連絡を下さい、自分はルールを守って飼います、と約束し、とりあえず誓約書をゲット。
帰宅した。
捨て犬かも、と言われたのには内心それは抵抗があった。
あの犬はそれはそれは性質が良くって、穏やかで、亀も取り逃がすぐらい運動神経零の自分の手にも捕まってくれるくらい、人間を信用してる犬だった。
こんな優しい犬に育てたかつての飼い主が、犬を捨てるだろうか?
自分は妄想族なんで、こんな時は妄想が炸裂する。
独居老人に可愛がられる犬。
ある日老人は出先で孤独死。
自宅で餓え、痩せていく犬。
ある日首環からすっぽりと抜け、犬は飼い主を探して一緒に行った田畑や山を放浪しはじめる。
…なんてな。
ものすごく可愛がられていただろう、この犬。
雷や工事の轟音でパニックを起こして脱走したのかもしれないじゃないか。
自分の妄想はふくれあがる。
犬が年寄りなら、飼い主もそんなに若くはないかも。
脱走期間が長いのなら、最初は死に物狂いで探しても、飼い主にも生活があるから、悲しみながらも、心配しながらも、見つけられないうちに諦めの境地に達してしまったかも…。
なんとか、飼い主(必ず居たはずの)にこの犬の所在を知らせたかった。
センターの方でもタイムリミットを明記しての迷い犬の画像をアップしてくれている。
とりあえず、自分の地方の愛護団体の迷い犬情報に、保護の際の細かい状況を書き込んだ。
現在の居場所の保護センターでの画像・連絡先も明記した。
犬を捕まえた踏切付近の家や犬の散歩の年寄りにも聞き込みして回った。
自分ながらかなり怪しい奴と思われたような気もするが、気のせいだろう。
半日は費やしたが、特に進展はなかった。
帰宅し、その夕方は新しく来る子(老犬)の為に開けたスペースに犬セットを設置。
うちの子とお揃いで食器・水皿、ペットシートも完璧だ。
あとはおいおい揃えていこう、と他のガラクタ排出を続けた。
うちの子はえらく不審そうに、首環などの匂いをしつこくふんふん嗅いでいる。
↓
解決しました。
それも、とびっきり最高な形で!
今日夕方、ケータイに着信。
「こちら保護センターですが。あの犬の飼い主が見つかりました。
確実に飼い主であることを確認して、先ほど引き渡しも済みましたので。
引き取りの申し出、有難うございました。解決しましたので御報告まで」
「あ、はあ。…ワンコは喜んでましたか?」
「ええ、それはもう」
個人情報保護とかで、飼い主の事情は詳しく聞けなかったが、飼い主を見たワンコの反応には胸が熱くなった、と職員の話。
自分が飼うと覚悟していたから、聞いて肩から力が抜けた。
良かった、本当に本当に良かった。
ここ数日、あの犬のことで頭がいっぱいだった。
今夜はのんびり、我が愛犬とこころおきなく散歩しよう。
今日はぐっすり眠れそうだ。
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