だいたい女子のスーツっていうのが色っぽいよね
うちもそうだよ
仕事帰りにジャズバーのアマチュアライブでサックス吹いてる姿がセクシーで格好良くて、一曲終わる間もなく秒殺された。
ジャケット脱いで袖まくりしたブラウス&タイトスカートの格好と、少し酒入って薄ピンクになった横顔がメチャクチャ色っぽかったんだ。
あの色っぽさには抵抗できない。
無理。
カウンターの端でスゲースゲーと感動しながら酒飲んでたら、演奏終わった嫁さんが上機嫌で隣に座り、店長と親しげに話し始めた。
久しぶりで気持ち良かったとか、でも次回はもう少し早く言えとか。
このセクシーなコルトレーンは誰だ?初めて見る顔だけど常連かな?とか俺は俺で(0゚・∀・)wktk してたら、察した店長が紹介してくれた。
「こちら、ごひいきにして下さってる常連さん。で、これ姪です。兄の娘」
というわけでkwsk
・嫁さん
ライブ出演者の員数合わせで助っ人に呼ばれた店長の姪。
音響機器メーカーに就職したばかりの当時23歳
サックス吹いてない時はちっとも色気がない可愛い系
・俺
店長とそこそこ仲良しになったモブキャラ。
何の変哲もない金融系SEで常連客A、当時26歳
既に酒入ってたし、ついつい名刺交換なんかもしちゃった勢いで、思わず、一杯奢らせて下さいって言ってしまった。
「すごく良い演奏でした。お疲れ様です」
「はーい、ありがとうございますっ」
かちゃん、とカウンターで乾杯したのがたぶん初めての会話。
このあとはすごくカッコ悪い。
嫁さんにセッション誘われて断りきれずに、高校・大学以来
数年ぶりのベース、泣きながら練習やり直したりしてな。
でも、何歳になっても、惚れた女の子には格好良いところ見せたくなるよね。
それから、店でお客さん同士として2〜3度会った。
仕事帰りだからスーツ着てるんだけど、それがいつもいつも似合ってて、でもがっついたら退かれちゃうんで、内心、可愛いなちくしょうと思ってても表に出さないようにぐっと抑えて、無難に、世間話や好きな音楽の話なんかをしてたんだが、嫁さんの方は店長から俺の話を聞いてたらしい。
「ベース弾けるんですよね?今度一緒にライブ出ましょうよ」
”弾ける”じゃなくて”弾けた”なんだが、店長はその辺に敢えて尾鰭をつけてた。
正直にその場でもう弾いてないって言えれば良かったんだが、嫁さんが社交辞令じゃなく本気で誘ってくれたように見えちゃった上に、カッコよくキメられればもう少し仲良くなれるかもという欲もあり、断りそびれた。
で、しょうがないから練習ですよ。
なんだかんだと言い訳してライブのスケジュールを先延ばしにしてもらい、誰にも何も言わずに密かに黙々と練習、というかリハビリ。
ブランク長かったんで、ちっとも動かない指には水ぶくれにマメと散々だったが、聴く方も演奏する方もほとんど常連同士の素人ライブなんで、技術の巧拙はひとまず置いといて、ミスさえなければそれなりに体裁は整えられる筈と、それだけ信じてひたすら必死に練習した。
そして本番、セクシーなサックスを間近で堪能する余裕なんかある筈も無く、冷や汗かきながらなんとかノーミスで演奏を終えて、初めて会った夜みたいにカウンターで乾杯。
いっぱいいっぱいな俺と対照的に余裕な嫁さん、俺の指を見てニコニコ笑った。
「迷惑だったら断ってくれれば良かったのに。練習大変だったでしょう?」
「必死でリハビリしたの、お見通しですか(´・ω・`)」
嫁さん曰く、以前は俺の指はそんなじゃなかったってさ。
まあそりゃそうだ、ブランク長かったのなんてすぐ解るわな。
ずっと弾いてなかったヤツの指って、タコできちゃうんだよね。
しょうがないから全部白状した。
高校から始めたベースは大学生の頃にやめて、もうずいぶん弾いてなかったことや、誘われたのが嬉しくて断れなかったこと。
そもそも、女の子にモテたいなんて動機で始めた楽器がモノになる筈もなく。
「結局、ベース弾けてモテたことなんて1回も無かったですよ(´・ω・`)」
「そうかなぁ……少なくとも”1回も”じゃなくなったと思いますけど?」
「(´・ω・`)?」
コケティッシュっていうの?その時の笑顔が可愛くてね。
んで、笑顔に気を取られてその場では解らなかった言葉の意味が、帰宅して
シャワー浴びてたら唐突に思い浮かんだ。
うそっ?!って声出た、素で。
次の日、居ても立ってもいられなくなって、いかにも仕事相手ですみたいなフリして名刺の電話番号に掛けた。
「あの、ゆうべのお話の事なんですが……」
付き合いが始まったのはこの辺から。
我ながらカッコ悪いなーと思うものの、嫁さんは
「ちゃんとカッコ良かったよ」
と言ってくれたんで、よしとするんだ。
一人だけ褒めてくれれば充分だね。
退かれない様に仲良くする方法が思いつかなくて、必死だったんだよね。
ベースしくじらなくて心底ホッとしたもんさね。
俺の人生であのライブみたいな冷や汗かく緊張は、あとプロポーズした時くらいかな。
ライブの後、付き合い始めてから2年と少し経った冬。
ベースの一件以来、詰めの甘さをあっさり見透かしてはいつも余裕のニコニコ笑顔を見せてくれる嫁さんに、俺はもう敵わない。
でも、上手くいえないがそういう敗北感すら既に気持ちよく、居心地のよい関係が出来上がってた頃。
クラシックを志した嫁さんの10年来の親友のフランス女子が、念願かなってついにオーケストラで演奏するということで、招待されてフランスに行った。
静かで可愛いところだよと嫁さんに聞かされていたその町は、なるほど都会から離れた静かな田舎町で、その時既にきっかけを探りながら時間を浪費してしまっていた俺としては、なかなか絵になる雰囲気と周りに日本語話す人間がいない状況がプロポーズに好都合だと思ってた。
指輪を持って、シチュエーション練って、なんて言おうか考えて、しっかり作戦を立てた。
一度くらい、びっくりさせてみたかったからね。
だもんで、町にいる間中ほとんどずっと緊張してたよ。
さて、盛況で終わったコンサートの後、夜の街を二人で歩いた。
久しぶりに再会した親友の晴れのステージで感無量だったとはいえ、少しはしゃぎ過ぎな感じの嫁さんが可愛いくも珍しくてついつい
じっと見てしまうと、嫁さんは照れ笑いを浮かべた。
「あの子ね、今度は新婚旅行で遊びに来てね。だって」
まさかそういう言葉が嫁さんの方から出てくるとは思ってなくて、でも今
このタイミングを逸して翌日言ったりしたら、少しわざとらしいんじゃ?とか、一瞬で色々思い浮かんだら緊張がピークに達してしまい、頭の中が真っ白になった。
ほとんど条件反射で立ち止まって手を繋ぎ
「うん、そうしよう」
って、
「年上なのに頼りないけど、人生全部俺に預けてくれませんか?」
って、そういって、その町に来て以来ずっと持ってた指輪をはめたら、
「ちょっと、今言うのはずるいよ、するいってば」
そう何度も言いながら俺の胸に頭預けて、嫁さんはぽろぽろ涙を零した。
そんな状況に通りがかった知らないおばさんが、笑いながら”お幸せに”って言ってくれたのが辛うじて聞き取れたが、お礼を言う余裕も語学力も残念ながら俺には無かったんだよ。(´・ω・`)
というわけで、いろいろなアレがきっとあんまり伝わってないのは、要するに文章力の無さゆえです。
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