<刃牙ハウス>


ストライダム「な……なんだとォ!?」


刃牙「うん……」


ストライダム「今の台詞……本当にあのオーガに……?」


刃牙「いったよ。一言一句、完璧に再現させてもらったよ」


ストライダム「…………ッッ」


ストライダム「しかしなんでまた、そんなことに……」


刃牙「あれはちょうど親子喧嘩が終わってから、一ヶ月後だったかなァ……」




〜回想〜


<刃牙ハウス>


刃牙「褒美?」


勇次郎「うむ……」


勇次郎「先の親子喧嘩──」


勇次郎「この俺に味噌汁まで作らせた、お前の強さはホンモノだった」


勇次郎「反抗的な息子をしつけるのが、父親として当然の責務であるのと同様──」


勇次郎「出来のよい息子に、褒美をくれてやるのは父親として当然のこと」


勇次郎「お前のいうこと、願い、命令……なんでも一つだけ聞いてやる」


刃牙「ランプの魔神かよ、親父は……ハハ」


刃牙(この人がその気になりゃ、それこそなんでも叶えてくれそうだけどさ)


刃牙(なんでも……かァ……)


刃牙(食器を洗わせるか?それともエアじゃない味噌汁を作らせるか?)


刃牙(兄さんも誘って、この間みたく豪華なホテルで食事ってのも悪くない)


刃牙(子供の頃みたいに、トレーニングしてもらうってのもアリかも)


刃牙(いや、トレーニングよりはマナーを教えてもらう方が先か……)


刃牙(それよりも、一緒に母さんの墓参り──)


刃牙(いやいやいや、待て待て待て!)


刃牙(今、俺が思い浮かべた願いなんて全部──)


刃牙(父親なら、するのが当然のことじゃん!)


刃牙(わざわざ褒美にやってもらうようなことじゃないじゃんッッッ!)


刃牙(よし……)


刃牙(だったら──)ゴクッ…


勇次郎「決まったか?」


刃牙「ああ、決まったよ……親父」


勇次郎「ほう……」


勇次郎「ではいってみろ。なんだってやってやる」


刃牙「いったね……?」


勇次郎「くどいぞ」


刃牙「じゃあお願いさせてもらうけど……」


刃牙「親父ィ……サラリーマンやってくんね!?」


勇次郎「!!!」


〜現在〜


<刃牙ハウス>


刃牙「…………」


ストライダム「…………」


ストライダム「事情は分かった。しかし、なぜサラリーマンなんだ?」


ストライダム「考えてもみろ、バキ」


ストライダム「あのオーガが、オフィスでデスクワークに精を出すという超不自然!」


刃牙「たしかにね……。だけどあれでも父親なんだし、たまには働かないと、さ」


刃牙「それにさ……」


ストライダム「?」


刃牙「スーツ姿の範馬勇次郎……見たくね?」


ストライダム「バ、バカをいえ……」


ストライダム(見ってェ〜〜〜〜〜ッッッ!)


刃牙「顔が緩んでるよ……ミスターストライダム」


ストライダム「ゴホン」


ストライダム「──で、肝心のオーガはなんと返事したのだ?」


刃牙「少し目を丸くした後、『うむ……』っていったよ」


ストライダム(今の『うむ……』結構似てたな)


刃牙「だけど、なんの事情も知らない会社で働かせるのは」


刃牙「いくらなんでも会社の人が可哀想だからね」


ストライダム(たしかに……想像するだけで気の毒になる)


刃牙「とりあえず、徳川のじっちゃんの系列の会社で働かせてもらおうってことで」


刃牙「二人でじっちゃんの家に向かったんだ」


〜回想〜


<徳川邸>


光成「ほう、勇次郎がサラリーマンに!?」


光成「オーガも人の子、いや人の親といったところかのう」


勇次郎「うるせェよ、ジジィ。すっかり完治しやがって」


刃牙「なにもずっと働かせてくれってワケじゃない」


刃牙「一回給料をもらえばいい……つまり一ヶ月だけでいいんだ」


光成「そういった事情なら、すぐにワシが系列会社の社長に話して──」


刃牙「ちょっと待った」


光成「ん?」


刃牙「今……就職難じゃん」


刃牙「俺の高校にも、就職活動で苦労してるヤツがいっぱいいるんだ」


刃牙「なのに、親父がじっちゃんのコネでなんの苦労もなく入社ってのは……」


刃牙「ちょっとずるくね?」


光成「……ってことはつまり──」


刃牙「親父には就職活動からやってもらう!」


光成「えぇ〜〜〜〜〜!?」


刃牙「親父……どうだい?」


勇次郎「…………」


勇次郎「いいだろう……やってやる、就職活動ッッッ!」


〜現在〜


<刃牙ハウス>


ストライダム「…………」


ストライダム(あのユージローの就職活動……まったく想像できん)


ストライダム「……それで、どうなったんだ?」


刃牙「俺もいってみたはいいけど、就職活動ってよく知らないからさ」


刃牙「梢江に聞いてみたら──」


刃牙「応募する時には大抵履歴書が必要らしいから、履歴書から書くことにしたんだ」


ストライダム(オーガの履歴書……ッッ!)


〜回想〜


<刃牙ハウス>


勇次郎「できたぞ」スッ…


刃牙「へえ、親父って案外字もウマいんだなァ……」


刃牙「…………」



【職歴】

傭兵(ベトナム戦争他)


【資格】

アメリカ合衆国と友好条約、海皇(ただし辞退)


【趣味・特技】

格闘技、水泳、料理


【志望動機】

雇え



刃牙「〜〜〜〜〜ッッッ!」


刃牙(とてもツッコミきれねェよ……親父。特技料理ってアンタの味噌汁しょっぱいし)


刃牙「俺も就活ってしたことないし、あまり偉そうにいえる立場じゃないけど……」


刃牙「もう少しこう、普通にした方がいいような……」


勇次郎「ふむ……」


勇次郎「この就職難の時勢、求職者が職を得るために」


勇次郎「自分がよりよく映るよう、面接や履歴書で己以上の装飾を加える……」


勇次郎「その装飾するスキルもまた、一種の才能といえるかもしれぬ」


勇次郎「しかしながら、職についたとたん、それらと大きなギャップが出てしまう」


勇次郎「これでは健全とはいいがたい」


勇次郎「雇用関係となる前に、雇う側と雇われる側が──」


勇次郎「互いが互いを正しく理解することこそ、職には肝要だ」


刃牙(なんてマトモなことを……ッッ!)


刃牙(いや、だったらもっとマトモな履歴書書けよってハナシだけど)


刃牙「んじゃあ、履歴書はこれでいいか……」


勇次郎「うむ」


〜現在〜


<刃牙ハウス>


ストライダム「まったくオーガらしいというか、なんというか……」


ストライダム「で、その後はどうなったんだ?」


刃牙「写真屋で写真を撮って……貼り付けて、郵送して……」


刃牙「ちなみにこれが写真」スッ


ストライダム(あのオーガが……ッッ!リクルートスーツ!?ピチピチだ……!)


刃牙「それで、徳川グループ系列のある商社で、面接を受けることになったんだ」


ストライダム「面接は……いつやるんだ?」


刃牙「今日の三時からっていってたから、もうすぐじゃないかな?」


ストライダム「今日なのか……」


ストライダム「グッドラック……面接官」


その頃──


<徳川商事株式会社>


人事部長「質問よろしいでしょうか、社長(プレジデント)」


社長「なにかね?」


人事部長「総合商社ナンバーワンとして、華々しい歴史を誇る我が徳川商事が」


人事部長「なぜこんなにも突然!なぜこんな中途半端な時期に!」


人事部長「なぜ、こんなどこの馬の骨とも知れぬ男を面接せねばならんのですッッッ!」


人事部長「人事を務めて20余年──こんなふざけた履歴書は初めてだ!」バサッ


社長「徳川グループ総帥、直々の依頼があったのだ……誰も逆らえぬさ」


人事部長「あの徳川光成が……ッッ!?会長でもめったに会えぬという……ッッ」


社長「うむ」


社長「だが、依頼はあくまでも面接をさせてくれ、というところまでだ」


社長「採用か不採用かは、我々の──つまり君の裁量に任せるそうだ。ワカるね?」


人事部長「なるほど……」ニィッ


人事部長「では本日の面接、私に一任していただきたいッッッ!」


人事部長『君は若いからさァ……ウチじゃなくてもいっぱいいいとこあるんじゃない?』


若者『いえ、そんなことは……!』


人事部長『資格だけあってもねェ〜……実績がなきゃなんの意味もないのよ、ワカる?』


青年『それは……そうなんですが……』


人事部長『こんなスッカスカの経歴で、よくウチに応募する気になったね、アンタ』


中年『ですが、募集要項には……』



人事部長(相手の弱点を徹底的に突き、えぐる、私の面接術……)


人事部長(面接中に学生どころか、いい年した大の大人が泣くことも珍しくない)


人事部長(そしていつしかついた異名が……“ミスター圧迫”)


人事部長(範馬勇次郎……)


人事部長(こんなふざけた履歴書の時点で、すでにキサマの不採用は確定しているが)


人事部長(わざわざ来てくれるのだから、土産をくれてやろう……)


人事部長(この私の“圧迫面接”をな……ッッ!)ニィッ


<面接室>


社長「もうまもなく、だな」


副社長「ええ」


総務部長「頼みますぞ、人事部長」


人事部長「お任せを──」


グニャァ〜……


社長「!?」ビクッ


副社長(な、なんだこの重圧感は……!?)


総務部長(まるで巨大な足で踏みつけられてるかのような……ッッ)


人事部長(こ、こんな現象は初めてだッッッ!)


コンコン


人事部長「!?」ビクッ


勇次郎「返事がねェな……入るぜ」


ガチャッ……メキュッ!


勇次郎「チッ……」


人事部長(ドアノブが……ねじれて、ちぎれたッッッ!?)


社長「〜〜〜〜〜ッッッ!」


総務部長(この男の風貌……まるで鬼ッ!)


副社長(もしかしてこの男、親子喧嘩をしていた……!?生で見られるとはッ!)


勇次郎「オイ」


人事部長「は、はい!?」ビクッ


勇次郎「椅子の横に立ったら、“どうぞ”といわれるハズなんだが……?」


人事部長「あ、はい!ど、どうぞっ!」


勇次郎「失礼する」スッ… ガタッ


人事部長(人事一筋20余年──こんなこと初めてだ……ッッ!)


人事部長(いうなれば──逆圧迫面接ッッッ!)


ドアが外れ、外から丸見えの部屋──


オフィスよりも戦場が似合いそうな、求職者──


汗だくの社長以下、百戦錬磨の面接官たち──


これが一流企業の採用面接の現場だと、信じる者が果たしているだろうか。


シ〜ン……


勇次郎「オイ」


社長「はいっ!」ビクッ


勇次郎「なにか質問はねェのか……?」


社長「君……さっき『一任してくれ』といっただろ……?」ボソッ


人事部長「は、はい……ッッ!えぇと……」ゴクッ…


勇次郎「…………」


人事部長「…………」


人事部長「さ、さささ、さ……さ、ささ……」


人事部長「採用ッッッ!」


人事部長の判断は的確(ただ)しかった。


もしこの鬼の逆鱗に触れれば、会社が物理的に倒産しかねない。


眼前の鬼を刺激せずに、面接を終わらせる方法──これしかなかった。


社長「では採用ということで、本日はこれでお開き──」


勇次郎「オイ」


社長「オワッ!?」ビクッ


勇次郎「徳川のジジイになにを吹き込まれたか知らねェが──」


勇次郎「この範馬勇次郎の前に座る以上、手抜きは許さねェ」


勇次郎「俺を他の受験者と同じように扱え」


勇次郎「でなくば、ここにキサマらの屍が出来上がることになる」


社長「〜〜〜〜〜ッッッ!」


社長「わ、分かりました……いつもどおりやりましょう」


社長「さ、君!」


人事部長(ぐっ……もはや私の手にも負えないと分かってるくせに、このタヌキが!)


人事部長「で、では……いつもどおりに……」ニコッ


人事部長「まず最初に……この会社に応募した動機を教えて下さい」


勇次郎「雇われてェからだ」


人事部長「〜〜〜〜〜ッッッ!」


人事部長「私どもの企業について、なにかご存じのことは……?」


勇次郎「ねェな」


人事部長「め……」


人事部長「面接を受ける会社のことをなにも調べてないというのは、いささか──」


社長(いうなッ!殺される……ッッ!)


人事部長「ふ、不勉強なような、気がいたしますが……?ど、どうでしょ?」チラッ


勇次郎「…………」ギンッ


人事部長「ヒッ!」


人事部長「いえいえいえ、いいんです!企業研究なんざやるヤツはバカ──」


勇次郎「たしかにな……不勉強だったかもしれぬ」ペコッ…


人事部長(え……会釈ゥ!?)


人事部長「え、えと履歴書によると……傭兵……を一時期なさっていて……」


人事部長「その後、職歴がない時期がありますが、なにをされていたんですか……?」


勇次郎「ふむ……」


勇次郎「各国の首脳どもにちょっかいをかけたり、餌を喰らったりしていた」


人事部長「餌を喰らう……とは?」


勇次郎「猛獣や格闘士を闘争でブチのめすことだ」


勇次郎「闘争とは力の解放──最上のカタルシスを得られる最高の娯楽だ!」


人事部長「〜〜〜〜〜ッッッ!」


人事部長「ナ、ナルホド……」


人事部長「では……それらは当社にとって、どのようなメリットがありますか?」


勇次郎「寝ぼけるな」


勇次郎「なにもてめぇらのためにやってたワケじゃねェ」


人事部長「で、ですよね〜」


面接はおよそ30分に及んだ。


いかに勇次郎の迫力が常軌を逸しているとはいえ、30分も同じ空間にいれば多少なりとも慣れというものが生じてくる。


そしてにわかに──


「この範馬勇次郎という男、案外話せる男なのでは?」という希望的観測が生ずる。


だがそれは──大いなる錯覚なのである。


人事部長「──それにしても、範馬さんほどの男なら女性が放っておかないでしょうな」


社長「うむうむ」


人事部長「どうです?女性関係はお盛んなんでしょう?」


ハッハッハ……


勇次郎「…………」


ボッ!


人事部長「え?」


面接官たちの前にあるテーブルが──天井にめり込んだ。


原因が天を向いている勇次郎の右足であることは明らかだった。


勇次郎「多少俺のことがワカったつもりになったんだろうが……」


勇次郎「図に乗るんじゃねェ」


人事部長「〜〜〜〜〜ッッッ!」


人事部長「す、すす、すびばせん……ッッ」ジョボボボ…


社長(鬼ッ!)


副社長(いやァ〜さすが、地上最強といわれるだけのことはある)


総務部長「…………ッッ」


面接官が尿を漏らすという異常事態のため、面接はその場で中断となった。


勇次郎「……で、俺はどうなるんだ」


社長「えっ」


社長「あ……もちろん、採用ですよ。ハハハ……」


勇次郎「そうか」


社長「それで……いつから出社されますかな?一ヶ月後?あるいは一年後?」


勇次郎「明日だ」


社長「え……」


勇次郎「明日までに俺の席を用意しておけ」


社長「は、はい……ッッ」


勇次郎「では失礼する」ペコッ…


副社長(一応、面接の作法に乗っ取って、退室するんだ……)


ドアのない部屋から、勇次郎が退出した。


徳川商事、激震!!!


新入社員、範馬勇次郎──


いうなればいつ爆発するともしれぬ不発核爆弾である。


こんな危険物を、いったいどこの部署が引き取るのか!?


企業もまた、一種のヒエラルキーが存在する。


こういう場合(ケース)において貧乏くじを引くのは、実績に乏しく、発言力の少ない部署となる。


むろん、今回もその原則が適用された。


徳川商事第六営業部四課──


扱う商材は地味で、華もなく、業績もパッとしない。


ゆえに活気もないが、細々とした業務が多く、忙しさと拘束時間だけは一流以上。


出世街道を歩む者からは『会社から無視(六四)されてる』『虫(六四)ケラ』などと揶揄され、会社のお荷物の域にすら達していない、ある意味での聖域。


ここに入れられたら真っ先にやるべき仕事は転職活動ともいわれる最弱中の最弱の部署。


地上最強の生物の配属先は、ここに決定した。


徳川商事入社五年目、皿理満夫(28)はこう述懐する。


満夫「えぇ、課長に呼ばれた瞬間、すぐに直感(わか)りました」


満夫「仕事の勘は冴えないンですが、こういう勘だけはよく当たるもので」


満夫「ああ、これはとんでもないことを押しつけられるな、と」



課長「皿理君」


満夫「……はい」


課長「明日から、この課に新人が配属になる」


課長「ただし、一ヶ月の間だけだそうだ」


課長「君が面倒を見てやってくれ」


満夫「はぁ……」



満夫「──断る?」


満夫「出来るワケないじゃないですか」


満夫「就職難を勝ち抜いてきた優秀な新入りがウチの課に入るハズもなく」


満夫「課で一番若いのは五年目のボクでしたし……」


満夫「長年冷や飯を食っているせいか」


満夫「ウチの上司や先輩って、下の反目にはものすごく敏感なんですよ」


満夫「逆らうと必要以上に過酷な仕打ちが待ってる」


満夫「ムチャな仕事を押しつけられたり、些細なことで延々小言をいわれたり」


満夫「ま、そんなんだから六四に配属になったンでしょうけど」


満夫「彼らに何も出来ないボクも含めてね」


満夫「そんなわけでこのボクが彼の面倒……教育係に決まったワケです」


満夫「あの範馬勇次郎の、ね」


出社初日──


<刃牙ハウス>


勇次郎「……ジジィにストライダム」


勇次郎「こんな朝っぱらから、なんでてめェらまで来てやがるんだ」


刃牙「まぁまぁ、親父」


刃牙「ジッちゃんは徳川財閥のトップ、ストライダムさんは友人代表として」


刃牙「範馬勇次郎の初出勤を見届けたいんだよ」


勇次郎「……ケッ」


光成「ほぉ〜う……。スーツ姿も決まっておるのう、勇次郎」


ストライダム(本当に……ユージローがサラリーマンに……ッッ)


勇次郎「んじゃ、行ってくるぜ」ズチャッ…


刃牙&光成&ストライダム「行ってらっしゃ〜い」


地上最強の出勤、開始……ッッ!


<駅>


不思議な光景であった……。


大混雑の真っただ中にある早朝、東京都心──


その中をただ一人、無人の野を行くが如く闊歩する男があった。


勇次郎「…………」ザッザッ


権威には道を譲るべしという人としての習性か、あるいは強者には近づくなかれという動物としての本能か、範馬勇次郎の周囲半径1メートル圏内はまるでバリアでも張り巡らされたかのように


無人の領域と化していた。


勇次郎「フンッ」


勇次郎(避けられてるようで、いい気分じゃねェな)


<徳川商事株式会社第六営業部四課>


満夫「はぁ……」


満夫(ただでさえ無駄に忙しいってのに、なんで俺が教育係なんか……)


満夫(──にしても、一ヶ月だけ来る新人なんていったいどんなヤツなんだろ)


満夫(無能だったら俺が苦労するし、優秀だったら扱いにくいし……)


満夫(気が重い……)


すると──


ズチャッ……


勇次郎「ここが第六営業部四課か」


満夫「!?」


満夫(なんだコイツ!?なんつう筋肉……肌とか金属っぽいし……新種の人類!?)


満夫(ま、まさか……まさか、コイツが新入社員……ッッ!?)


始業時刻──


課長「えぇと……今日からウチの課に入った、範馬勇次郎君です」


勇次郎「よろしく」グニャ〜


課長「は、範馬君は……皿理君についてもらうことになる」


課長「皿理君、頼んだよ」


満夫「は、はい……」


満夫(頼んだよ、か)


満夫(いつもいつもいわれるこの言葉)


満夫(いつだったか、『頼む』の意味を辞書で調べたことがある)


満夫(当てにする、信用する、委ねる……)


満夫(だけど、俺がこれらの意味でいわれたことはほとんどない)


満夫(今回だって、ただ押しつけられてるだけ……)


満夫(俺なんて、その程度の存在なんだ……)


満夫「え、えぇ〜と……よろしくお願いします、範馬さん」


勇次郎「うむ」


満夫(なんつう威圧感だよ……まるで鬼か恐竜だ。どっちも見たことねェけど)


満夫「きょ、今日のところは初日ですので」


満夫「私が仕事をしているところを見る、という感じにいたしましょう」


勇次郎「うむ」


満夫(ぶっちゃけ、俺に他人の世話する余裕も能力もないしな)


満夫(今日のところはこれでしのぐとするか……)


満夫「さっそく外回りにいきましょうか」


満夫「ボクが運転しますので、助手席に──」


勇次郎「…………」ズチャッ…


ドカッ……!


後部座席に腰かける勇次郎。


満夫「〜〜〜〜〜ッッッ!」


満夫(後部座席に……一切の迷いなく……ッッ)


満夫(どうしよう、注意すべきか?)


満夫(いや……このヒトが助手席にいたら俺への圧迫感もハンパじゃなさそうだし)


満夫(このままでいいや……)


満夫「じゃ、出発しまァ〜す」ブロロロ…


<得意先A>


得意先課長「…………」


満夫「…………」


ソファにどっかりと腰を下ろす勇次郎。


勇次郎「どうした……?打ち合わせを開始(はじ)めろ」


得意先課長「そ、そうですな」


満夫「は、始めましょうか」


満夫(肉食動物みたいな人間の横で、落ちついて打ち合わせなんかできるかよ……)


満夫(相手の課長さんなんか、完全に目が泳いじゃってるし……)


勇次郎「早くしろ」


満夫&得意先課長「は、はいッ!」


満夫(無理だ……ッッ)


打ち合わせが終わり──


勇次郎「フン……一時間も居座って、なんも決まらなかったじゃねェか」


満夫(アンタのせいだろうが……ッッ)


満夫「範馬さん、次に向かう会社の部長さんはオヤジギャグが好きなんです」


勇次郎「オヤジギャグ?」


満夫「要は、ダジャレとかをよく口にするンですよ」


満夫「──で、愛想笑いでも浮かべないと、とたんに不機嫌になるんです」


満夫「なので、相手がギャグをいったら、たとえつまらなくても笑って下さい」


勇次郎(下らねェ……)


勇次郎(だが、全力でやらなければ、サラリーマンになった意味がねェ)


勇次郎「よかろう……」ニィ〜


満夫(嫌な予感しかしない……俺の勘がそういってる)


<得意先B>


ハハハハハ……ワハハハハ……


満夫(最初はさっきの得意先のように、緊張感にあふれてたが──)


満夫(相手が範馬勇次郎の迫力に慣れてきた……そろそろ来るぞ)


得意先部長「それにしても、最近は洋菓子がないねェ〜」


満夫(……へ?)


得意先部長「ケーキがない……不景気、なだけにね」チラッ


満夫「……あっ!あははっ!そうですよねェ〜……アハハ、アハ……」


勇次郎「エフッ」


満夫&得意先部長「?」


勇次郎「エフッ!エフッ!エフッ!」


勇次郎「アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


ベリベリィッ!バキバキッ!メリメリメリ……!


笑いながら、ソファをみるみるうちに破壊(こわ)す勇次郎。


満夫&得意先部長「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」


打ち合わせが終わり──


勇次郎「どうだった」


満夫「え」


勇次郎「俺の愛想笑いは……?」


満夫(あれ愛想笑いだったのかよ……ッッ)


満夫(てっきりつまらなすぎて、激怒したものかと……)


満夫(向こうの部長なんか、二度とギャグはいうまいみたいなツラしてたし……)


満夫「よ、よかったんじゃないでしょうか……オス」


勇次郎「オイ」


満夫「え」


勇次郎「世辞は許さねェ……教育係だってんならちゃんと教育しろ」


満夫「〜〜〜〜〜ッッッ!」


満夫「え、と……」


勇次郎「早くいえ」


勇次郎「手加減……いや口加減を感じたら、ブチ殺す」


満夫「笑い方は……もっと穏やかでいいと思います」


満夫「こう……少し唇を上げるぐらいで……」ニッ…


勇次郎「ふむ……」


満夫「あと……今回はなんとかなりそうですが、ソファを壊すのはどうかと……」


勇次郎「ふむ……」


満夫(ちゃんと聞いてるのか?)


満夫「では今日のところはこれで帰社しましょう」


満夫「帰社して終業時刻になったら、範馬さんは退社してかまいませんので」


勇次郎「うむ、明日もよろしく頼む」ペコッ…


満夫(え……ッ!会釈ゥ!?)


その夜──


<刃牙ハウス>


刃牙「お帰り、オヤジ」


勇次郎「ジジイとストライダムはいねェのか」


刃牙「さすがにずっとここにはいられないよ。二人とも、ああ見えて忙しいしね」


勇次郎「フンッ……」ムスッ…


刃牙(なんで不機嫌になってんだよ)


刃牙「──で、どうだった?」


勇次郎「ふむ……」


勇次郎「なにしろ初めてのことだ。まだなんともいえねェな」


刃牙「たしかにね……ま、一ヶ月は頑張ってくれよ。なんたって褒美なんだから」


勇次郎「いわれなくとも分かっている」ムス…


翌日──


<徳川商事株式会社第六営業部四課>


勇次郎「皿理よ、今日はなにをやるんだ」


満夫「えぇ〜……本日はデスクワークをしましょうか」


勇次郎「ほう……」


満夫「表計算ソフト『エクセル』で、売上のグラフを作ってもらいます」


勇次郎(デスクワーク……)


勇次郎(考えてみれば初めての体験……)


満夫(絶対デスクワークとかパソコンとかとは、無縁なタイプだよな……この男)


満夫(あ〜あ、こりゃまた手こずりそうだ……)


カタカタカタカタ……


満夫の予想に反し、キーボードを巧みに操る勇次郎。


満夫(ウ、ウマい……ッッ)


満夫(こういう頭脳労働は苦手だと決めつけていたが──)


満夫(この人……アタマいいんだァ……。俺なんかよりずっと……)


勇次郎「どうだ」カタカタ…


満夫「いや……なんていうか、文句ナシですよ。もちろん口加減なんてしてません」


満夫「このまま印刷して、会議で使えるレベルです」


勇次郎「ふむ……」カタカタッ ターン


メキッ……


満夫「ああっ、キーボードが!」


勇次郎「…………」


勇次郎「ちィと、張り切りすぎたか」チッ


満夫(このエンターキー、指の形にヘコンでやがる……!どんな圧力……ッッ)


キーボードの尊い犠牲と引き換えに、勇次郎はデスクワークをマスターした。


またある日のこと──


<徳川商事株式会社第六営業部四課>


満夫「総務から、範馬さんに名刺が届きました」


勇次郎「ほう……」


勇次郎「これが名刺……」


満夫「自己紹介を兼ねて、これを渡すわけです」


勇次郎「ふむ……」ニィ〜


満夫(わ、笑ってる!?)



勇次郎「徳川商事の範馬勇次郎だ」スッ


通行人「〜〜〜〜〜ッッッ!」


満夫(出会った人に手当たり次第渡してる……よほど気に入ったのか)


満夫(一ヶ月しか勤めないのに、名刺交換なんかしても仕方ないだろうに──)


満夫(しかし、あの行動力はスッゲェよなァ……俺には出来ない)


そして、一週間が過ぎた頃──


満夫「範馬さん、今日は接待があります」


勇次郎「ほう……」


満夫「しょせんウチの課なので、大した客じゃありませんし大した店にも行けませんが」


満夫「くれぐれも粗相のないよう、お願いします」


勇次郎「むろんだ」


勇次郎(接待か……)


勇次郎(されることは多かったが、するってのは初めてだな)


勇次郎「面白ェ……」ニィ〜


満夫(俺は面白くない……ッッ)


<居酒屋>


シュッピンッ……!


勇次郎の人差し指が、ビール瓶の頭を切断した。


接待相手「〜〜〜〜〜ッッッ!」


満夫(手刀とかじゃなく……指ィ!?ナイフでもこんなことできねェだろ……)


勇次郎「注いでやる……飲め」グッ


接待相手「は、はいッッッ!」バババッ


ドボッドボォッドボッ……


勇次郎「乾杯だ」スッ…


接待相手「ありがたくッッッ!」カチンッ


満夫(もはや、どっちが接待してるのか、されてるのかワカらん……)


満夫(これじゃまるで──)


満夫(逆接待ッッッ!)


営業車で移動中、こんなハプニングもあった。


ブロロロロ……


満夫「次の行き先は、と──」チラッ


満夫「ん?」


満夫「クソッ、カーナビがズレてやがる……道は覚えてるけど不便だな……」


勇次郎「フンッ」


勇次郎「アイツら……。どっちか知らねェが……はしゃいでやがんな」


満夫(突然なにいってんだ、この人!?)



<アリゾナ刑務所>


オリバ「オオオ〜ッ!マリアとの待ち合わせに遅刻してしまう!」ダダダッ


<ゲバルの島>


ゲバル「ヤイサホーッ!!!」ダダダッ


手下「飲みすぎッスよォ、ボスゥ〜!」


そして、半月を過ぎる頃には──


<得意先C>


得意先社長「これはこれは……範馬様と皿理様」


得意先社長「どうぞ、こちらへ」スッ…


勇次郎「入るぜ」ズチャッ…


満夫(すっかり得意先がひれ伏すようになってしまった……ついでに俺にまで)



得意先社長「ブルーマウンテンのコーヒーです」スッ


満夫「ど、どうも」


満夫(オイオイ、ブルーマウンテンなんて飲んだことねェよ)ズズッ…


勇次郎「皿理よ」


満夫「はいっ!?」ビクッ


勇次郎「出された物を、漫然と口に運ぶな」


満夫「は、はいっ!」


<徳川商事株式会社第六営業部四課>


満夫(スゲェなァ……範馬勇次郎)


満夫(メチャクチャな男だが、憧れちまうよなァ……男として)


満夫(それに引き換え、俺は──)


課長「皿理君、ちょっと来たまえ」


満夫「は、はい」ガタッ


課長「なんだね、この書類は?ええ?ふざけてるのかね?」


課長「おかげで私が部長に叱られてしまったじゃないか」


満夫(なにいってんだ、この人……アンタのいうとおりにやったんじゃないか!)


満夫「で、ですが、それは課長がそうしろと──」


課長「皿理君……口答えする気かね?」ジロッ


満夫「い、いえ……申し訳ございませんッ!」


課長「皿理君、これ明日までに頼むよ」


満夫「明日まで!?ムチャですよ、課長──」


課長「…………」ジロッ


満夫「や、やります。やります」


係長「ついでにこれも頼むよ」ドサッ…


先輩「これ頼むわ。今夜サッカー見たいしな」ドサッ…


満夫「は、はい……」


満夫(それに引き換え、俺は──)


満夫(いいようにこき使われ、利用され、不満の一つも怖くてこぼせやしない)


満夫(最弱部署の最弱サラリーマンのまんまだ……)


満夫(ま……これが俺にはお似合いの人生なんだろうけどさ)


<刃牙ハウス>


刃牙「頑張ってるじゃん、親父」


刃牙「もうすぐ一ヶ月経つけど、サラリーマンってのはどうだい?」


勇次郎「ふむ……」


勇次郎「サラリーマンって仕事は、いらぬ不純物が多すぎる」


勇次郎「この一ヶ月でようやく分かったが、俺には向いてねェな」


刃牙(ようやくって……。親父、最初から分かり切ってただろ……)


刃牙「ま、俺もこの先ずっとサラリーマンやってくれなんていわないよ」


刃牙(もし延長なんかさせたら、会社の人が気の毒だしな)


勇次郎「うむ」


勇次郎「ただ……」


勇次郎「最後に一つだけやっておきてェことができた」


刃牙「やっておきたいこと……?」


ブロロロロロ……


満夫「いやァ〜、もうすぐ一ヶ月ですね、範馬さん」


満夫「しっかし、本当に退職してしまうんですか?」


満夫「せっかく仕事も覚えてきたというのに、残念で──」


勇次郎「おべんちゃらはいい」


満夫「え」ギクッ


勇次郎「皿理よ」


勇次郎「常々思っていたが──」


勇次郎「なぜ、同僚にいいように打たれっぱなしでいる?」


勇次郎「反撃はおろか──回避も防御(うけ)さえもしねェ」


勇次郎「しかも、それを全て受け入れるほどの強靭さ(タフネス)を」


勇次郎「持ち合わせてるワケでもねェときてる」


満夫「…………ッッ」


勇次郎「サラリーマンなる社会──」


勇次郎「地位やしがらみ、暗黙のルールなど不純物こそ多いが、本質は闘争と同じだ」


勇次郎「いかに己のワガママを通せるかで、高みに登れるか否かが決定(きま)る」


勇次郎「しかし、おめェのやり方じゃ高みに登るどころか」


勇次郎「地の底まで沈んでいくだけだ」


勇次郎「それがワカらぬほどのボンクラでもあるまい」


満夫「ハハ……さすが範馬さん、痛いところを突く」


満夫「ですが……ボクの人生なんてこんなものなんです」


満夫「六四とはいえ、天下の徳川商事に入れただけで、ボクにとっては快挙なんです」


満夫「もう、十分満足してるんですよ」


満夫「このまま低空飛行でいいんですよ」


満夫「わざわざ波風立てるようなマネはしたくないんです……ハハ」


勇次郎「フンッ……なるほど」


勇次郎「つまり闘わぬ人生を甘んじて享受する、と──」


勇次郎「ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


満夫「!?」ビクッ


勇次郎「いやァ〜笑わせてもらったぜ」


勇次郎「駄犬ですら追い詰められれば牙をむくもんだが……」


勇次郎「ここまでの負け犬は、もはや天然記念物だなァ、オイ」


満夫「…………」


満夫「う……うっ……」


満夫「うるせェんだよォォォッッッ!」


満夫「そりゃ俺だって、やってみたいさッ!やれるもんならッ!」


満夫「一度でいい、一度ぐらい──牙をむいてみてェさッッッ!」


満夫「課長たちに怒鳴り返す俺の姿を、何度妄想したか分からねェッッッ!」


満夫「だがよ──できねェ人間もいるんだよ!」


満夫「アンタみたいな強いヤツにゃワカらねェだろうがよッッッ!」


勇次郎「…………」メキッ…


満夫「────!」ハッ


満夫(しまっ──)(大声出したの久々だな)(無謀)(怒らせた?)(死ぬッ)


勇次郎「止めろ」


満夫「え……」ビクッ


勇次郎「車を止めろ」ギワ…


満夫「は、は、はは、はいっ!」


満夫(お、終わった……殺されるッ!)ガタガタ…


キキィッ……!


ガチャッ……!


車を止め、歩道に出る勇次郎と満夫。


勇次郎「皿理よ……俺にあそこまで怒声を浴びせた人間はそうはいねェ」ニタァ…


勇次郎「褒美をやろう」ニィ〜


満夫「え……ッッ」


勇次郎「俺に拳を打ち込んでこい──全力でな」


勇次郎「名のある格闘士でも、俺に拳を打ち込めた奴はほとんどいねェ……光栄に思え」


満夫(全力でってアンタ──)


満夫(殴り合いの喧嘩なんかしたことない俺でもワカる……反撃する気満々じゃん!)


満夫「ボ、ボクにはできませんよ、そんなこと──」


勇次郎「やらねェのなら、殺す」


殺す。


陳腐な脅し文句などではない──現実(リアル)な殺害表明。


一介のサラリーマンである皿理満夫に、もはや選択肢は残されていなかった。


満夫(本気じゃん……ッ!殴らなきゃ、殺される……ッ!)


本気で人を殴るという未体験──


その初体験の相手が、よもや地上最強の生物になってしまおうとは──


満夫「で……でやぁぁッ!」シュッ


ベチッ……!


満夫「つっ……!」ビリビリ…


満夫(硬ッ!)(初めての感覚──)(岩!?)(拳痛い)(微動だにしてねェ)


勇次郎「ふむ……」


勇次郎「ならばもう一つ、褒美をくれてやろう」


満夫「は……?」


勇次郎「この範馬勇次郎の拳をな」ギュゥ…


満夫「ハァ!?」


勇次郎「俺に拳を打ち込むってのは──そういうことだ」


ブオンッ!!!


誕生──(なんでこんなことに)幼稚園──(褒美じゃなくね!?)


小学校──(ハメられた……)中学校──(即死だな、こりゃ)


高校──(っていうか、さっきからなんだこれ)大学──(走馬灯ってやつ!?)


就職──(こうして改めて体験すると俺だって──それなりに頑張ってるじゃん)


死にたくないッッッ俺の人生はこんな簡単に終わっていいもんじゃない!!!


勇次郎の拳は──直撃寸前で停止(とま)っていた。


満夫「…………ッッ」ジョロ…


勇次郎「皿理よ……なにが見えた。そして、なにを感じた」


満夫「今までの……自分の、人生が……見え、ました……」


満夫「そして、俺の人生は捨てたもんじゃない……死にたくない、と……」


満夫「“こんなもんだ”なんて、簡単に諦めていいもんじゃない、と……」


勇次郎「車に戻るぞ」


勇次郎「これ以上──ベチャクチャとしゃべる趣味はねェ」


満夫「…………ッッ」


勇次郎「ただしこれだけは覚えておけ」


勇次郎「キサマはこの範馬勇次郎の拳を向けられて、生きている、ということをな」


満夫「…………!」


満夫「……あ」


満夫「あ、あ……ア……」


満夫「アリガトウございましたァッッッ!!!」


勇次郎(……我ながら下らねェことをしたもんだ)


勇次郎(だが、サラリーマンたる者──)


勇次郎(出来のワルい先達のケツを叩くくらいしなきゃあな……)


そして──


課長「皿理君、例の件のプレゼン資料、今日中に作っておいてくれたまえ」


満夫「…………」


満夫(あれ……?なんだか課長が、いつもより小さく見えるぞ……?)


満夫「分かりました」


満夫「ですが、この資料は三日後のプレゼンテーションで使うので」


満夫「明日中でも十分間に合うはずですよね?課長」


課長「なんだと、口答え──」


満夫「…………」ジッ…


課長(ぐっ……!?な、なんだこの目つきは!?)


課長「わ、分かった……明日中でかまわんよ……」クルッ


満夫「…………」ホッ…


満夫(さすがに範馬勇次郎みたいにゃいかないが、俺にしちゃ上出来、かな?)


皿理満夫は最後にこうしめくくった──


満夫「ええ」


満夫「それからまもなく、範馬勇次郎は退職しましたよ」


満夫「まさに嵐の如し、でしたね」


満夫「──え、ボクですか?」


満夫「あいにく、そこまで劇的に生活や性格が変わったワケじゃありませんよ」


満夫「ですが──」


満夫「少なくとも以前より、ずっと前向きになったのはたしかです」


満夫「なにしろ、あの地上最強の拳を間近で体験したんですからね」


満夫「アレに比べれば、他のどんな人物や事件も、小さく見えてしまいますよ」


<刃牙ハウス>


刃牙「親父、一ヶ月のサラリーマン生活はどうだった?」


勇次郎「ふむ……思ったよりは楽しめた」


勇次郎「強さって山は登り詰めちまったが──」


勇次郎「こうやって色々な職を体験するのも悪くはねェかもな」


刃牙(親父には悪くなくても、みんなに悪いっての……)


刃牙「ところで……初任給兼退職金は、いったいなにに使うつもりなんだい?」


勇次郎「決まってんだろ……」


勇次郎「初任給の使い道は、親孝行と相場が決まっている」


勇次郎「範馬勇一郎の墓前に、少し豪華な花と酒でもそえてやるか」


刃牙「オォ〜、それいい!」


勇一郎『フフ……らしくもないことを……』


〜完〜

 

 


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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:98dJ9mhW0編集削除
無理
2 . 名無しさん  ID:3iF7DnNZ0編集削除
1に同意
3 . 名無しさん  ID:K06QopjW0編集削除
2に胴衣
4 .    ID:FPAg.7cA0編集削除
握撃っつーより悪劇だな
5 . 名無しさん  ID:V5aQWU.I0編集削除
SS?
6 . 名無しさん  ID:7.pO.HzP0編集削除
SSなんて初めてやな
7 . 名無しさん  ID:h56FYiyN0編集削除
>職には肝要だ

クソワロタ。www

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