私達姉妹の学生時代に父が死去。
遺産どころか借金が残る状態だったんだけど、母が頑張って働いたのと奨学金の助けもあって、姉妹そろって大学まで卒業できた。
妹は就職先でダンナと出会い、結婚という運びになったんだけど、ダンナは仕事を続けることを同意していてくれたにもかかわらず、むこうのトメが「
息子チャンの世話が中途半端になるから」
と大反対。
「新婚主婦を働かせるなんてどういうつもり!?」
と会社に電話攻撃までかましたせいで、妹は会社に迷惑をかけるわけにはいかないと退職、専業主婦になった。
ウトメとは別居だったんだけど、それからは例に漏れず毎日のようにアポなし凸。
細かいやりとりは妹が話してくれないんでよく解らないんだけど、そのころ久しぶりに逢った妹の頭に十円禿ができてたのには、母と二人で驚いた。
それからしばらくして、妹ダンナが事業を始めるからと会社を退職。
でも脱サラ事業がそうそううまくいくわけはなくて、早々に借金まみれになり、別居だとお金がかかるからという理由でダンナ実家でウトメと同居することになった。
その頃、父の借金も返し終わり、私の仕事が順調だったこともあって、ずっと借家住まいだった母の夢を叶えるために私の名義でローンを組んで家を購入。
ところがウトメは、私が妹と母をいいくるめて父の遺産を独り占めして、家まで建てて悠々自適の生活をしていると思いこんだらしい。
愛する息子チャンの借金精算のため老後の資金すべて使ってしまい、金の亡者になったウトメが、私に対して罵詈雑言の電話をかけてくるようになった。
妹も
「父の遺産は借金しかなかった」
と何度も説明しているにもかかわらず、「嫁子は姉と母に騙されてる」「他家に嫁いだ娘には金をやりたくないんだ」と決めつけて、まったく聞く耳をもたなかったらしい。
それ以前からウトメの攻撃が私や母に及ぶことを怖れた妹は、うちの住所や電話番号をウトメにはもちろんダンナにもいってなかったらしいが、緊急時にそなえてダンナにだけ教えていた私の携帯番号を聞き出したらしく、ことあるごとに
「嫁子が相続する分の金を払え!」
「嫁子の金はうちの金。それをよこさないのはうちから金を盗んだのと一緒だ」
「現金がなければ家を売って、その半額をよこせ」
みたいな電話攻撃が頻繁に来た。
その当時、新居に越して間もなく母が病気で倒れたこともあり、私は仕事と介護の両立で手一杯の状態だったから、そんな電話攻撃をしてくるようなウトメの元で妹がどんな生活をしているのかまで想像をめぐらせることができなかった。
母は一年もたたずに亡くなったんだけど、その連絡を妹にしようとしても捉まらない。
携帯電話はいつの間にか解約されていたらしく、かけたらまったく別の人が出るし、ダンナの実家にかけるとウトメから
「嫁子を泥棒と話させるわけにはいかない」
といわれ、母が亡くなった旨を告げると
「今度は母親の遺産も独り占めか!」
とののしられた。
ウトメに葬儀の場所や時間を伝言するという方法もあったんだけど、それで家にまで押しかけてこられたら私一人では対応できないので、妹には申し訳ないが、折り返し連絡をくれるように頼んだきりだった。
結局、妹からの連絡はなく、当然葬儀も欠席することになった。
その一件から何かおかしいと思った私は、ダンナ実家をアポなし訪問。
ところが応対に出たトメは来客が私だと解ると、玄関をあけてもくれずに締め出し、玄関の中から
「母親を殺して遺産を独り占めにした鬼娘だよ!」
と罵詈雑言の嵐。
専業主婦で家にいるはずの妹は、声もしなければ姿も見えない。
自己弁護させてもらうと、母は父の借金を清算するときに自分の生命保険を解約してるので、改めて近年入った生命保険では200万円程度にしかならず、葬式代でほぼチャラの状態。
入院費もほとんど私の給料から出しているので遺産泥棒よばわりされるいわれはない。
大体、残ったお金を妹にあげようにも、連絡がつかないのでは渡しようがない。
どうも変だと思った私は、その足で近所に聞きこみ。
すると、どうやらダンナは体を壊して入院中らしく、妹の姿も見ないという。
これはもう家に乗り込んで、ちゃんと話をさせてもらうしかないと思った私は友達二人の協力をあおいで、一緒に車に乗ってダンナ実家に突撃。
ダンナの女友達を装って玄関を開けてもらったところで、隠れていた私が乗り込んだ。
玄関で妹の名前を呼ぶと、奥から
「お姉ちゃん、助けて」
とかぼそい妹の声が。
靴を脱ぐのももどかしく入っていったら、なんと妹は腰にチェーンをつけて台所にいた。
そのチェーンの先は逃げられないように配水管に繋がれていて、鍵がないと外れない。
驚いてウトメを問いつめると
「嫁子が反抗的だからやった」
「これがうちのしきたり」
「招いてもいないのに勝手に入ってきて訴える」
などと言い出したのでブチ切れ。
一緒に突入した友達がウトメを抑えていてくれるうちに、車にとって返して、積んであった工具からでっかいモンキーレンチを持ち出して再び台所に突入。
チェーンが太くてペンチでは切れそうになかったっていう理由もあるんだけど、むちゃくちゃ腹が立ってたのでレンチでぶっ叩いて配水管を破壊。
ついでに手が滑って、台所の棚の扉も叩いて穴だらけに破壊。
すぐそばにあった食器棚のガラスも破壊。
中の食器にもスパナが当たって破壊。
勢い余ってレンジを棚から叩き落としたりして、ぐちゃぐちゃになった台所から妹を連れ出した。
玄関まで出てきたところで、妹が突然
「お姉ちゃん、ちょっと待ってて!」
と制止。
スパナで辺りを叩きつつウトメを牽制してたら、しばらくして妹はコトメちゃんを連れてきた。
「行こう!」
という妹の号令で、私達は車に飛び乗って撤収。
なぜかコトメちゃんも一緒。
車で二時間くらい走って、ようやく家に着いたところで落ち着いてよく見ると、妹は見る影もないくらいに痩せている。
コトメちゃんもなにか落ち着かない感じ。
妹の話によると、私から金を引き出すまでは逃げられたら困ると思ったウトメは、妹を鎖で繋いで監禁状態にしながら家事などをさせていたらしい。
そのほか、いわゆる嫁イジメはフルコースで経験。
従わないと鉄拳制裁。
ダンナは事業の失敗から鬱になり、現在は心の方の病院に長期入院中。
まだ高校生のコトメちゃんも虐待されていたらしく、妹は自分が逃げるときになって、「こんな家に置いておいたらコトメちゃんも壊れる」と思って連れ出したらしい。
友達のアドバイスもあって、翌日、妹とコトメちゃんを病院に連れて行ったら、あからさまに虐待の跡が残っていて、実の両親でも訴えられるほどだった。
それから弁護士の友達に相談。
改めてダンナ実家に乗り込んで、きっちり話をつけた。
妹は、まだ子供ができてなかったこともあって、ダンナと無事離婚。
コトメちゃんのことは児童相談所とか各所に話を持ち込んで、かなりゴタゴタしたけど、本人の希望と、私と妹の強い申し出もあって、うちで預かることになった。
あれから数年、最初はおどおどしっぱなしだったコトメちゃんも次第に明るくなり、無事に卒業、就職していい人と知り合い、結婚という運びになりました。
「もう結婚はこりごり」といっていた妹も昨年再婚。
コトメちゃんのダンナも妹の新ダンナも、今までの経緯を解った上で大切にしてくれる人みたいです。
二人が巣立ってしまって、ちょっと寂しくなってるんだけど、二人とも今でも「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と慕ってよく遊びに来てくれます。
今度は私の番だな。
昔から親戚一同に「女息子」と揶揄されていたほどの体育関係大女の私をもらってくれる人がいればの話ですけどね。
でもあのときの台所を破壊しまくった挙げ句、妹を待つ間、廊下に仁王立ちになって、壁やら扉やらに穴を開けまくっていた自分のDQ行為を思い出すと冷や汗が出る。
寂しい中年女の昔話でした。
|
|