嫁と俺は幼馴染で、途中俺が引っ越して4年位間が開いたり、俺母が亡くなったり
それが原因で嫁が病んだりしたけど、大学卒業と同時に結婚して幸せだよ。
嫁とは幼馴染だった。
元々俺母と嫁母家が知り合いで家も近く、物心つく前からの知り合い。
母親同士の他愛もない冗談だったと思うが、
「年頃になってもお互いに特別な相手が居なかったら、夫婦にしたいねー」
なんて言っていたそうだ。
その後も普通に仲のいい友達、同級生として付き合っていたが小5の時に俺家が父親の栄転で引越し。
泣きながら、またね、手紙書くからね、を繰り返す嫁に困惑しながら別れ、200kmほど離れた土地へ。
最初こそ頻繁に連絡が来ていたがそれも段々と少なくなり、4年が経った頃。
俺の母親が死んだ。
発見から6ヶ月も持たず、母は亡くなった。
病名は急性白血病だった。
母命だった父は俺と姉以上に憔悴しきって、元居た土地(母の実家が近い)に戻ることになった。
姉が高3、俺が高1の秋のこと。
前述の経緯で、嫁とは高校で再会する。
学力と地理的な問題で県下ではあまり選択肢がなかったため、それほど運命的なものではない。
嫁は小柄で髪を伸ばしていて、贔屓目なしでも可愛らしかった。
お互いに意識していなかったといえば嘘になるが、嫁とすぐ付き合うなんてことにはならず、2年になったころ俺は一つ上の先輩と彼氏彼女の間になった。
嫁も決してそういう話がなかったわけではなく、彼女は他の男子生徒に告白され、どうしようか迷っている、と相談された。
俺にはその時付き合っている先輩がいたし、自分の中の小さな蟠りを感じながらも、そうか、としか返してやれなかった。
嫁がその相手と付き合うことになって、1ヶ月程した頃。
土曜の夜中、俺の家に電話が来た。
喉を痛めたようなひどい泣き声で内容は殆ど分からなかったが、とにかく会いたい、と。
そしてなぜか、ごめんなさいと。
家を飛び出して自転車に跨り必死にこいで15分。
立派な一軒家の嫁家前に愛車を放ってチャイムを鳴らすと、嫁母がでてきて、夕方に帰ってから部屋に閉じこもってると教えてくれた。
嫁部屋に案内されて中に入ると、ベッドの端で電話の子機握り締めて蹲ってる嫁の姿。
俺の顔見てその場で泣き出してしまい、俺大混乱。
隣に座って、どうした? って聞いても何も言わない。
ただ、1、2分くらいして黙ったまま手を握ってきた。
多分これが嫁と初めて意識して触れ合った行為だと思う。
そしたら、嫁が泣きながら笑いながら困ってるような顔で、
「……やっぱり、平気なんだぁ……」
と言った。
嫁曰く、付き合おうとしていた相手と手を繋いだ時、違和感が凄まじかった。
鳥肌がたって、2度目も3度目も変わらなかった。
今日、キスを迫られ応じた瞬間、違う!と思って走って逃げた。
気持ちが悪くなって、帰路の途中でトイレに駆け込み吐いた。
廊下で嫁両親も聞いてたんだが、どうも異性に触れられて嫌悪感を抱いたのは初めてじゃないらしかった。
嫁のあまりの落ち込み様に、嫁両親は病院に相談しようとしたが嫁が全力で拒否。
俺も理由を知りたい、一緒に行くからと説得して平日にそろって学校休んで病院へ。
――この時、嫁はなんとなく分かってたんだと思う。
内容が内容だけにすぐには分からず、何日か通うことになり、嫁は何度も問診表を書きカウンセリングを受けて、結果が出た。
簡単に言えば、嫁の思い込み。
自分には決まった相手が居るという刷り込みがあって、約束なのに別の相手とそういう関係になりそうな状態を拒否してるらしい。
この辺はもっと専門的な言葉で説明を受けたはずだが、なにぶん昔の話なので要点しか覚えてない。
最初に書いた俺母と嫁母の会話を嫁は覚えていたが、俺が土地を離れてる間に少しずつ内容が嫁の中で無意識に変化し、かつ俺母が亡くなってしまったことで、遺言めいた約束事と思い込んでしまっていたらしい。
もちろん、本人は自覚してなかったけど。
嫁は週一でカウンセリングを受け、嫁母からも繰り返しそれはあくまでも昔の話だと話をしたそうだ。
半年ほど掛かって、嫁は大分精神的に落ち着いたように見えた。
本来ならそのキスして吐かれた、可哀相な彼氏候補が嫁を支えてやるのが筋のように思えるが、嫁がごめんなさいして関係は終了。
その間、俺は医者から時間が経って落ち着くまであまり親しくしないほうが良い、と言われていて、出来るだけ接しないようにしてた。
ただ、やっぱり自分のせいで、って気持ちもあって、負い目があって、3年になる頃学校の帰り道で、
「もう、大丈夫か? 昔のことでつらい目にあわせてごめんな」
って話しかけたんだよ。
そしたら
「昔の話とか、そういうのじゃなくて……私は、○○(俺の名前)にはっきり言ってもらわないとダメだよ」
って言われた。
その時の嫁の横顔見て、初めて本当に好きになった気がした。
それと同時に自分がひどい奴だってのも。
すぐに答えたかったけど、その時は待っててくれるか?と聞いて了解をもらった。
次の日、俺は付き合っていた先輩に、ひたすらごめんなさいと頭を下げて別れを告げた。
その時の彼女の
「……うん、なんとなくこうなるって知ってた」
という台詞は覚えてる。
その後俺は嫁に告白。
受験真っ只中の頃から付き合うようになり、大学を卒業すると同時に結婚に至った。
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