15年くらい前の話を。
私が通っていた私立の女子中には、中2の夏に「山合宿」という行事がありました。
長野の志賀高原に二泊三日で、二日目はやや登山に近いハイキング。
ハイキングから帰って食事が終わると、ホテルの宴会場で合宿の打ち上げ会がありました。
私たちは行動班ごとにちょっとした劇やダンスなどを披露します。
引率の先生たちも、あまり上手くないピアノの弾き語りや落語などを聞かせてくれました。
次は国語のA美先生(当時二十代後半)の番というとき、体育のB子先生が
「A美先生は、小さい頃クラシックバレエを習っていたんですって!
今日は『白鳥の湖』を踊ってくれるそうです。皆さん拍手拍手〜!」
と、普段よりさらに倍くらいのハイテンションで煽りました。
会場内は少しザワつきました。
というのも、A美先生はかなりの天然キャラで、平らな道を歩いていて
何もない所でコケてしまうような人です。
「あのトロいA美先生が、クラシックバレエ……?」
ほとんどの生徒がそう思っていたはずです。
そしてB子先生(たしか当時は三十代半ば)は、もう一人の男性体育教師
(陰で生徒からセクハラハゲジャージと呼ばれていました)と組んで、
よくA美先生をいじめていたという噂も流れていました。
「……これって、あの二人がA美先生に嫌がらせをしてるんじゃない?」
あちこちでそんなヒソヒソ話が聞こえてきました。
するとA美先生が、
「えっ……と、音楽ってあるんですか?」
「あるわよ?wちゃんとCD持ってきてるからw」
B子が意地悪さの見え隠れする笑みで答えました。
A美「じゃあ、白鳥じゃなくて黒鳥の踊りをやりますね」
B子&セクハラハゲジャージ&その他大勢「えっ!!!?」
A美先生が選んだ曲は「白鳥の湖」第二幕の「黒鳥のヴァリエーション」。
TシャツにロングスパッツのA美先生、普段のトロさはどこへやら。
痩せて小柄なのに手足がピンと延びて、宴会場の端から端までを使って回る、回る、回る、跳ぶ。
誰も言葉を発することすらできません。
踊り終わってお辞儀をすると、一瞬の静寂の後に大喝采となりました。
生徒は口々に
「すごい、A美先生、プロのバレリーナみたい!」
「かっこいい!」
おそらくA美先生をハメて恥をかかせようとしていたであろう、
B子とセクハラハゲジャージの悔しそうな顔が今でも忘れられません。
実は、私と二人の友人だけは知っていました。
A美先生は大人になってもずっとバレエを続けていたんです。
私と友人たちは、たまたま入ったバレエ教室が先生と同じだったので、先生が教室の発表会でパ・ドゥ・ドゥー(男性と二人での難しい踊り)をたびたび踊っていたことも知っています。
「恥ずかしいから学校では内緒ね」
と口止めされていましたけどw
私は大学受験でバレエをやめてしまいましたが、先日イオンでご主人とお買い物中のA美先生をお見かけしたので思い出した。
|
|
