15年ほど前の修羅場。
ある企業の管理職時代に起きた出来事だ。
ここに出てくる主要な登場人物を書いておく。
オレ:40過ぎの管理職
A男:28才くらいの他部署の男性社員。結婚したばかりの新婚さん。
B子:23才くらいの独身。オレの部署の配下。本当に初心な女性社員さん。
C子:30過ぎ。B子をなだめるために依頼した他部署の女性社員でバツイチさん。
同僚の部長に喫茶店に呼び出され、社内の噂を相談された。
話によると、毎日、退社時刻になるとB子が会社のロビーでA男を待ち続けているので噂になっているという。
A男は同僚部長の配下。
B子はオレの配下だった。
どうもB子がA男に付きまとっているらしい。
オレには初耳だった。
A男を喫茶店に呼び出して訳を聞くことにした。
これがオレにとって不倫騒動の始まりだった。
やって来たA男は、大して特徴の無い男だ。
少しイケメンか。
B子のストーカー的行為を確認したところ、自分も困っているので最近では地下の出入り口から逃げるように帰ると言う。
何故か言ってみろと言うと、部長2人を前にして処罰を恐れているのか、ブルブル震えながら話し始めた。
何かの打ち合わせでB子と顔を合わせ、その後、飲み会でも一緒になった。
A男が新婚なのはみんな知っていた。
たまたまB子がA男の隣に座った。
どんな奥さんかと聞かれたので
「君の方が良い。君と結婚すれば良かった」
と冗談を言ったらしい。
それが始まりだったとのこと。
その後、A男はB子に呼び出されて何回か会い、そのうちB子にせがまれて2回男女の関係になったと白状した。
それでB子は本気になった。
妻と離婚して、自分と結婚して欲しいと毎日のように付きまとってくる。
あの子は狂ってるという。
最近、B子は何回もA男のアパートにも押しかけ、玄関口でA男の奥さんにも離婚してくれと泣き喚いたとのことだった。
ドアを開けないでいると、何時間でも泣きながらドアを叩き続けるのだと。
最初は、妻もビックリしてA男を責めたが、今では狂っているB子からA男を守る立場に立ってるという。
オレは席に戻り、B子を応接室に呼び出した。
その時は軽く考えていた。
B子に対して、A男に離婚を迫るのは無理がある。
A夫婦は被害者意識になっていると伝えたところ、A男とした行為は自分にとって初めての経験であり、絶対に諦められないと言って泣き出した。
初めて?そんなことまで言うとは、確かに狂っている?オレは途方にくれてしまった。
会話が成り立たないのだ。
それからしばらくB子は会社に出てこなかった。
2、3日後、B子が手首に包帯を巻いて出勤して来た。
周りは見て見ぬ振りをしている。
また応接に呼び出したが、その包帯はどうしたとも聞けず、下手に何か言うと本当に死ぬかも知れない。
もうオレの手には負えない。
そこで、以前、オレの配下だった離婚経験のある30過ぎのC子に助けて欲しいと依頼した。
女性同士なら何とか話し合いが可能ではと思ったからだ。
離婚理由は知らないが、C子は長身で美人の部類に入る。
いろんな男が言い寄ってるはずだ。
1週間ほど経ってC子が報告したいと言ってきた。
B子とは毎日のように話し合ってるという。
C子は、A男があんなバカな冗談さえ言わなければこんなことにはならなかった。
更に、あんなに初心なB子に対してA男は何てことをしたのかとAを攻めた。
アレさえしなければB子は狂わなかった。
男女関係のことだ。
B子は純粋過ぎて私には止められないと言い、むしろ私はB子に同情しているという。
話しながら、感情が高ぶったのかC子は涙を浮かべている。
今度は、オレはC子をなだめるはめに陥った。
それから数日後、突然、B子の父親がオレに会いたいとの電話が飛んできた。
本来はオレから接触すべきだった。
覚悟して、最も実情を知っているC子を連れて父親の会社を訪ねた。
50過ぎの温厚そうな人に見えたが、開口一番、娘にひどいことをしたA男をクビにして欲しい、と怒りのこもった口調で言い出した。
もし、クビに出来ないのなら社内不祥事を理由に依願退職でも良いという。
お茶を飲む手が震えていた。
お怒りは重々解ります。
会社でもA男を叱り飛ばしています。
オレはお詫びしながら、しかし、このままだとお嬢さんが危険なので、会社を辞めさせて欲しいとお願いした。
父親は、とっくに会社を辞めるように娘を説得している。
娘が言うことを聞かないのだという。
しかし、さすがに手首を切った時は、我が子ながら救いがたいと思ったらしい。
この期に及んでは、娘を救うにはA男に消えてもらうしかないという。
娘を傷物にされた父親としては、A男は許しがたい存在だろう。
父親はもう涙目だった。
オレの横でC子もはらはらと涙を流している。
オレには息子しかいない。
もし、自分の娘がこんな風に追い込まれたらA男をどうするか?
迷いはあったのだが、よやく決心がついた。
オレは必ず何とかしますと約束した。
A男を遠方への転勤させるしかない。
翌日、A男の上司と相談し転勤させることに決めた。
そして、A男を呼び出して転勤を指示した。
しかし、この期に及んでもA男は妻とも相談したいのでと返事を保留したのだ。
数日後、A男がやってきて自分の妻に会って欲しいと。
転勤に納得していないのだという。
その夜、またC子を連れて出かけた。
この時は、どういう訳かC子は積極的だった。
A男の妻はそこそこ美人で、亭主の浮気に対して怒ってはいるが離婚までは考えてはいないらしい。
自分の夫は被害者であり、また、自分も会社勤めをしているのでA男が転勤となれば自分が辞めざるを得なくなる。
これは非常に不本意だと。
相手のB子こそ辞めさせて欲しいと主張したのだ。
当然のことながら、今回の件ではA男の妻の方が主導権を持っているようだ。
連れてきたC子は、A男の妻をにらみ、新婚2ヶ月で浮気した男をよく許せますねと言う。
A男の妻は、この人は悪い女に引っかかった被害者だと言い返した。
悪い女?それじゃ加害者であるB子が自殺未遂までしたのはどうしてかとC子が突っ返す。
悪いのは貴女のご主人A男であり、誰が見ても初心な女性をたぶらかしたとしか思えない。
2回も関係持ったのですよ。
同じ女性としてこれが許せますか?
A子の妻とC子が論争になりそうな気配だ。
オレは、B子が辞めたらお前だけを許す訳にはいかない。
お前にも辞めてもらうことになる、とA男を脅した。
話は平行線をたどったが、最後は、転勤は社命でありA男の家庭の事情までは考慮しないと言い渡した。
再度、B子の父親に会いに行き、A男を最北端に転勤させるのでしばらくB子の様子を監視して欲しいと伝えた。
父親は、クビに出来ないのが不満のようだったが、最後は最北端の転勤先に理解を示した。
しばらくして、A男の転勤の噂を聞いたB子が、転勤させないでくれとオレに泣きついてきた。
転勤すると会えなくなるのが理由だ。
唖然として、あんな男のどこが良いのか?
逃げ回っている男を追っかける女は一体何なんだと思いながら、A男の転勤は社命で押し通した。
1ヶ月ほどしてA男は妻帯同で転勤した。
更に1ヶ月ぐらいしてB子が退職し、一件、落着した。
約2ヶ月間、B子をフォローしてもらったC子には感謝の言葉もない。
B子が自殺を繰り返さなかったのは、C子が同情心を持って話し相手になってくれたおかげだ。
ある日、C子をいつものレストランに誘った。
C子とは何回も来たが、多分、これが最後になるだろう。
C子を巻き込んだのはオレの責任だ。
特に離婚経験者であるC子には辛いことだったに違いない。
この日のC子は以前の明るさを取り戻していた。
お互いに不倫騒動が終わったことを妙に懐かしく思い出していた。
軽く飲みながら、女心を理解しないA男のバカさ加減を笑ったりして話が弾んだ。
結局は、あの行為さえ無ければ、と2人で再認識したのだ。
約2ヶ月に亘る騒動だった。
それも終わった。
安堵感が2人を包んでいた。
この時、オレとC子は、誰にも話すことの出来ない、何か共犯者のような感情を共有していた。
C子の目を見ているとオレは妙な気持ちに襲われた。
オレはハメを外したい。
C子はどうか?
少し酔ったのかC子の目が潤んでいる。
このままでは帰れそうもない気配を感じ取った。
ホテル街に足を向けるとC子は黙って着いてきた。
その日、ミイラ取りがミイラになるようにC子を抱いた。
こうして、オレとC子の新しい社内不倫が始まったのだが・・・
これが最後だ。
C子と2度目の時。
終わって2人で天井を向いて余韻に浸っていたら、C子は何でもないことのように、私には結婚を約束した婚約者がいると言い出した。
ビックリして飛び起きた。
こんな時、何を言えば良いか?思わず、社内か?と口が滑ったことで思わず2人とも笑ってしまった。
C子は社内だったら焦ったでしょう?と言いながら、婚約者は他社の男性だという。
先に婚約者がいることを言ってくれば誘わなかったと言うと、あの時は私もあのままでは帰れなかった。
誘ってもらえて嬉しかったと言うのだ。
女ってのは解らない。
しかし、これ以上こんな関係を続けるわけにもいかないので、これで終わりにすることにした。
それから、3年ぐらい経ってからだったと思う。
A夫婦、結婚したB子、再婚したC子、それぞれ子供が生まれたという噂がオレの耳に届いた。
久しぶりに思い出した。
あの時は修羅場だったが、結局はハッピーエンドだ。
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