勇者「ついにここまで来た……魔王!今日がお前の命日だ!!」

勇者「この海の向こうにある孤島が魔王城みたいだ。場所を特定するのに大分時間がかかってしまったな」

勇者「迷いの森を抜ける途中で仲間とはぐれてしまったが……いつ合流できるかもわからない、魔王城で会えることを期待しよう」

勇者「よしっ!!魔王城に乗り込むぞ!!」

勇者「くっ!なんておぞましい妖気なんだ!こんな恐ろしい城は見たことがない。さすがは魔を統べる者の住まう地か」

勇者「ん、結界が張ってあるな?しかしこんなもの、勇者の力をもってすれば」

パキンッ



勇者「造作もな……

??「あ、魔王様ー。勇者来たみたいですよー」

勇者「!?ど、どこからともなく声が!?」

??「やっぱり勇者は結界とけちゃうみたいだねー、いま迎えに行くからそこで待っててね」

勇者「なっ……貴様は何者だ!?なれなれしい口をきくな!」

魔女「どーも魔女です。魔王様お待ちなんでさっさと大広間に転移魔法しちゃお!」

勇者「は……はあ!?」

ヒュン

勇者「うわ!」

魔女「連れてきましたよー魔王様ー」

勇者「ま……魔王!!俺は貴様を倒しにきた、勇者だ!
   貴様に苦しめられてきた人々のために、今日俺はお前を討つ!!覚悟しろ!!」

勇者「……?おい、魔王の姿が見えないが……?」

幼女「ここにおろう」

勇者「…………?」

幼女「待ちくたびれたぞ勇者。ようこそ我が城へ」

勇者「……?」

幼女「いつまでそこに立っているつもりかな?一緒に夕食を食べながらいろいろ話をしようではないか」

魔女「村でとれた新鮮野菜をふんだんに使ったご飯も用意してあるよー!ほらほらおいしそうでしょ?」

竜人「ああっ!!もういらっしゃってます!?勇者さんこんにちは、いまエプロンはずしてきますんでね!」

幼女「早くしろ、勇者くんがお腹をすかしてるだろう」

竜人「すいません魔王様!!ただいま!!」

勇者「……え、ちょっと待ってくれ。そこの君」

幼女「なにかな」

勇者「どうして子どもがこんなところにいるんだ!?ここは魔王城だぞ!!危ないからさっさと逃げなさい!俺が使った舟があるから!」

幼女「どうして逃げる必要がある?ここは私の城だ」

勇者「うそつくんじゃない!どっからどう見ても村の子どもだろうが!」

幼女「私は子どもではないぞ、魔王だ」

勇者「はあああああああっ!?」

勇者「そんなはずない。魔王は禍々しい緋色の邪眼に、同じ色の翼を背中に生やして、どんな魔法も使いこなすと言う……」

勇者「その顔には邪悪な笑みが浮かんでおり、好物は処女の子宮だとか」

魔王「そんなグロイもん、生まれてこの方口にしたことがない」

魔王「それに一応瞳は赤いだろう」

勇者「だが、翼がないじゃないか!」

魔王「生やすこともできるが……」バササッ

勇者「うおっ」

竜人「あああーーー!!もう魔王様!!また洋服の背中側だめにしてっ!!繕うのはだれだと思ってるんです!?私ですよ!」

魔王「すまん。……こうなるので普段はしまってるんだ」

勇者「魔王らしくねえなあ……」

魔王「魔法も使えるぞ。ちょう上手だぞ。ほんとだぞ」

魔女「魔王様はほんとに魔法が上手だよー!」

竜人「ええ、ほんとうに」

魔王「ふふん」

勇者「信用できねえ……。じゃあ横のお前らは何者なんだ!?お前らも見たところ人に見えるが」

魔女「えっとー、二天王の魔女と竜人だよ」

勇者「二天王って。初めて聞いたぞ」

竜人「あと二人はいま求人広告だして募集中なんですよ。なかなか採用条件にあった魔族がいなくてですね」

勇者「四天王ってそうやって募ってたのかよ。もういい、分かった。お前らが魔王と側近だということは認めよう」ジャキ

勇者「勝負だ、魔王!さあ剣をとれ!」

魔王「私は勇者くんと争うつもりはないのだが。今日は夕食に招いただけだし」

勇者「戯言を。俺はお前を倒すためだけに旅をしてきたんだ」

竜人「せっかくご飯作ったのに冷めちゃいますよ」

魔女「私さき食べてていい?」

勇者「お前ら二人は黙ってろ!!さあ勝負だ、魔王!!!」

魔王「……はあ、分かった」

魔王「好きにしろ」

勇者「……何故剣を構えない。むしろ両腕を広げて、それでは切ってくれと言ってるようなもんじゃないか」

魔王「勇者くんなら私を斬らないと信じている」

勇者「なに……!?舐められたものだ……見くびるな!!」

バッ!

勇者「……」

魔王「……」

竜人「……」ハラハラ

魔女「……」モグモグ

魔王「どうした、あと一寸動かせば私の額を割れるぞ」

勇者「……くっ、俺は無抵抗な女子供を殺す趣味はない」

魔王「魔王だとしても?」

勇者「……」ギリギリ

魔王「ふふふ、やっぱり聞いていた通りだよ。外見に惑わされるなんてやっぱり君は優しいな」

勇者「なんだと……!?」

魔王「貶したつもりはない。だから私は勇者くんとじっくり話してみたかったのだ。さあ剣をおさめて席につけ。夕食にしよう」

勇者「……少しでも不審な動きをしたら斬るからな」

魔王「かまわんぞ」

魔女「あ 終わった?先に食べちゃってるよー、てか勇者の剣ちょうピカピカだね!すげえ!聖剣ってやつ?」

竜人「こら魔女、食べながらしゃべらない。あと魔王様、袖がスープに浸りそうですよ、気をつけてください」

魔王「分かってる」

勇者(なんだこれ……なんだこれ……。あ、うまい)

勇者「……ハッ!まさか……この肉、人肉だったり…!?」

竜人「いまどき人肉なんて魔族でも食べませんよ。それは牛です、牛」

魔女「ていうかやっぱまだそういうイメージあるんだ?ヤダー」

勇者「お前らほんと魔族っぽくないな…」

魔王「ところで勇者くんよ、たった一人で魔王城に来たのか?」

勇者「ああ。仲間とはその手前の森ではぐれたんだ」

魔女「あの森は絶対に魔王城に辿りつけないように魔王様が魔法をかけてあるからねー、そんじょそこらの人間じゃ辿りつけないよ」

魔王「ちなみに勇者くんがといた結界もそうだぞ。あれを外側からといたのは君が初めてだ」

勇者「じゃあ俺の仲間たちは絶対ここに辿りつけないじゃないか。まさかそれが狙いか!?」

魔王「別にそんな魂胆はなかったが、まあいい。とりあえず勇者くんひとりに話したいことがあるのだ」

勇者「話したいこと……?」

魔王「うむ」

魔王「君はきっと人間の王に、なんて命を受けたんだ?」

勇者「魔王の居場所を突き止めて、討つこと。そしてお前の悪逆非道を止めることだ」

魔王「なるほど。でももうひとつあるんじゃないかな?」

魔王「例えば魔族の殲滅とか」

勇者「…ああそうだ。100年前の戦争で生き残った魔族を、今度こそ殲滅するようにと」

魔王「うん、そうだろうな。で、お願いがあるんだ」

魔王「見逃してほしい」

勇者「……はあ?」

魔王「見逃してほしいんだ。ここに魔王城があって、魔族の生き残りが住んでいることを、誰にも公表しないでほしい。勿論、人の王にも」

勇者「な、なに言ってるんだよ?俺は勇者でお前は魔王だ。そんなことできるわけないだろ」

魔王「私たちが別に人たちに敵意はもってないし、再び戦争を始めようとか復讐しようとか考えてるわけじゃない」

魔王「ただひっそりと、この地で暮らしたいだけなんだ」

魔女「てか100年前の戦争でほとんど魔族死んじゃってさー、ぶっちゃけ今生きてるのなんて残りかすみたいなもんなわけ」

竜人「戦争を仕掛けようにも世界征服しようにも、戦力的に月とミジンコみたいな差がありますからね」

魔王「そういうことだ。私たちは人に見つからないよう、様々な魔法をかけてここで暮らしていた。
   事実勇者くんが来るまでここの居場所は誰にも知られていなかった」

勇者「確かに……突き止めるのに苦労した」

魔女「まあたまに海で遭難した人とか流れ着いてくるけどね。それは例外ってやつだね」

魔王「というわけで私たちに害はない。だからここで戦うのも、自国に戻って王にこの居場所を報告するのもやめてほしい」

勇者「勝手なことを!!魔王の言うことなど信用できるか!!
   いまは戦力がなくとも、10年後100年後にどうなってるか分からない!
   ここでお前を見逃したら、いつかきっとまた人類は蹂躙される。そんなこと許すわけにはいかない!!」

竜人「まあまあ落ち着いて……」

魔女「勇者こわーい」

勇者「なんの非もない人々が家を焼かれたり、食い物にされたり、ひどい有様だったと聞く。そんな非道を平気で行う魔族を、先代勇者が打ち砕いたのだ。
   そして世界に光が戻った。また絶望の闇の中に落とすわけにはいかない。
   ここで魔王を殺す、それが俺の勇者としての役割だ」

魔王「先代魔王がしたことは謝ろう。でも私たちは全く別の意志をもった魔族だと思ってほしい」

勇者「信じられるわけあるか!」

魔王「……分かった。じゃあ一日だけ時間をくれるか?勇者くんよ」

勇者「なにをするつもりだ……?」

魔王「明日私たちの村を案内しよう。勇者くんは海を渡ってすぐ城に着いたから、魔族たちの生活している様子を見てないだろう」

勇者「そんなもの見て何になる」

魔王「まあそうカリカリしないで、ところで夕食は口にあったかな」

勇者「……まあまあ」

魔王「それはよかった。では竜人、勇者くんを部屋に案内してさしあげろ」

竜人「はい。魔王様、食後はしっかり歯磨きするんですよ。八重歯は念入りに」

魔王「わかったわかったから。早く」

竜人「それに昨日みたくご飯の後にお菓子も食べちゃだめですよ?こっそりベッドに持ち込んだりして、虫歯になっても知りませんからね!」

魔王「それ以上勇者くんの前で私の威厳を貶めないでくれ。早く行くんだ」

勇者(魔王って……魔王ってなんだろう……)

竜人「はい、こちらが勇者様のお部屋ですよ。何かあったらこちらのベルを鳴らしてくださいね、すぐ参りますから」

勇者「やたらと豪華だな。なんというか敵にこんな待遇を受けて複雑な心境だ」

竜人「私たちは敵だって思ってませんからね。魔王様も、勇者様に会えることを本当に楽しみにしてたんですよ」

勇者「魔王があんな幼い少女の姿をしていたなんて、誰が思いつくだろう」

竜人「ええ本当に少女らしく、毎日結界の様子を見てはため息をついたりして。
   あ、でも言っときますけど手をだしたら承知しませんよこのロリコン野郎
   戦力の比とか関係なく人類に喧嘩売りますからね、魔王様にちょっかいかけたら」

勇者「誰も手なんかださねーよ。なに言いだしてんだよお前」

竜人「いえ私としたことが……ではおやすみなさい」ニコニコ

勇者「なんなんだ…」

魔王「……」

魔女「さすがにすぐ承諾しないねー、勇者」

魔王「まあ予想していたことだ。でも私は信じている。勇者くんは公正に物事を見れる人だと」

魔女「でも所詮人間なんだよ?魔族と人間の歴史が人間社会でどんな風に語り継がれてるか、魔王様も知ってるじゃん?」

魔王「確かに偏見と先入観は取り除くのが難しい。種を越えて歩み寄ることも」

魔女「なにも勇者に全部話さなくても、魔王様が催眠魔法かけちゃえば一発じゃないのー?」

魔王「……私は勇者くんがこの城に辿りついたことは、チャンスなんじゃないだろうかと思ってる」

魔女「チャンス?いやいや魔族のピンチじゃ?」

魔王「人と魔族共存の第一歩に、なりえないだろうかと。勇者くんがその懸け橋に……もしなってくれれば。
   魔族のみんなもこの狭い島からでて、広い世界を見ることができる」

魔王「この島で生まれた子どもたちは、この島の景色しか知らないんだ。それが不憫でならない。
   世界の広さを知らずにこの島で生まれ死んでいく。そんな生を強いてしまっているんだ。それで本当にいいのだろうか…」

魔女「うーん」

魔女「魔王様はそんなに色々みんなのことを考えてくれてたんだねー
   まあそりゃちょっとは外に出たいって考えてるのもいると思うけどさ
   結構みんなこの島気にいってるよ?魔王様のこともね」

魔女「魔王様今日もかわいーって、いつもありがとーってみんな言ってるし」

魔王「……そうか。ありがとう。……」

魔女「顔真っ赤で照れてる魔王様かわいーっ!もうギューってしちゃおしちゃお!!」

魔王「やめろ。くるし……苦しい。胸を押し当てるな苦しい」

魔王「……ん。そういえば勇者くんの仲間が森にまだいるのだった」

魔女「ああ、そうだね」

魔王「ええと……いま西の方にいるみたいだ。魔女、迎えに行ってもらえるか?そのまま部屋に案内してくれ。明日私が挨拶しに行こう」

魔女「了解。じゃあ行ってくるねー」

魔王「頼むぞ」

勇者「なんだかんだで飯も食って夜もここに泊まることになってしまった」

勇者「まさか飯に毒入ってたりしないよな?魔王ならそんな姑息な手使わないか。
  こっちは闘うつもりで気合入れてきたのに拍子抜けというか、なんというか」

勇者「街での言い伝えや王の話とは全く異なる魔王で、正直混乱している。
   でも俺勇者なんだぞ?魔王と仲良しこよしってわけにもいかないだろ」

勇者「……とりあえず、寝るか」

バタンッ

神官「勇者様!ご無事だったんですね…!」

戦士「おお、安心したわ」

勇者「神官、戦士!お前らも無事だったのか!よかった」

神官「はい。森で勇者様とはぐれてからずっとさ迷っていたのですが。
   先ほど魔女と名乗る女性がこちらに案内してくれて……
   ええと。ここって、本当に魔王城なんですか?」

勇者「そうらしい。俺もちょっと状況がよくわからない」

戦士「魔族とはああいう生き物なのか?予想よりフレンドリーで人間に近いような」

勇者「うん…」

勇者「旅の途中で全然魔族に出会わないから不思議だったんだけど、どうやら今生き残ってる魔族はこの島に住んでるそうだ」

戦士「ならば、王の勅命を遂行するには好都合だろうな。……しかし…」

神官「あんまり恐ろしい人たちには見えなかったんですけど。私はもっと魔族って怖くて言葉も通じない生き物だと思ってて」

勇者「俺もだよ。というかそんな風に聞いて育ってきたしな。
   とりあえず、明日魔王が魔族の村を案内してくれるそうだ。そこで自分たちの目で、魔族は殲滅するべきなのか否かを判断してほしいと」

戦士「ま、魔王に会ったのか!?」

神官「あ、あああの目も翼も血のように赤くて、視線一つで気にいらない者を殺すといわれる、魔王に!?」

勇者「えっと……あー、うん。明日会えば分かると思うぞ…」

翌日

神官「この先に……魔王が……!」

戦士「一応いつでも剣をとれるようにしておこう…」

勇者「あんまり身構えてると拍子抜けしてすっ転ぶぞ……じゃあ扉開けるな」

魔女「あ、おっはよーん」

竜王「おはようございます。よく眠れました?」

神官「……ッ!」ゴク

戦士「……」ゴクリ

魔王「ふわぁ〜 ああ……おはよう。ふわ…」

戦士・神官「……?」キョトン

勇者「この子どもが魔王だぞ」

戦士・神官「えっ!?」

魔王「だから子どもと呼ぶなぁ……魔族の血のせいで成長は遅いが、私も勇者くんと同じ年くらいだぞぉ…
   ああ、それにしても眠い。いつも言ってるが、朝食の時間が少し早いのでは?竜人」

魔女「あたしもそう思う!まだ眠いし〜」

竜人「なにを言ってるんですかっ!これでも私にとっては遅い方ですよ!
   魔王様、人前でそんな大きな口を開けてあくびなさらないでください!!はしたないですよ!!」

魔王「朝から大声だすな…ええと。そちらのおふた方は勇者くんの仲間かな」

戦士・神官「……」ポカーン

勇者「そうだ。おい、戦士、神官。驚きも分かるが、そろそろしっかりしてくれ」

戦士「…ああ。わ、私が戦士だ。しかし驚いた…まさか娘と同じ年くらいの女子が魔王とは」

神官「は、はひ……神官です…」

魔王「私たちに敵意はない。どうか二人も武器をしまい魔王城を楽しんでいってくれ……ふわぁ…」

勇者「せっかくかっこよく台詞言ったのにあくびで台無しにするなよ」

魔王「朝ごはんも食べ終わったところで、今日はさっそく『勇者御一行 魔族村観光ツアー 〜いま明かされる新世代の魔族の秘密!〜』を始めようと思う」

勇者「なんだその頭悪そうなツアー……」

神官(なにこの幼女かわいい。いけない、油断しちゃだめっ!!相手は魔王なんだからっ!)

魔王「戦後から、まぁいろいろと魔族についてネガティブキャンペーンが行われているだろうということは分かっている。
   魔族側でも同じことが起こっていたしな。
   今日は百聞は一見に如かずということで、今まで教えられた魔族についての知識を取っ払って純粋に私たちの村を楽しんでいってくれ」

勇者「楽しむって言われてもな」

魔女「魔女ちゃんお手製パンフレットもあるよ〜!いる?」

戦士「『ようこそ☆ まぞくむら!』…」

神官(字きたなっ…)

竜人「はいこれ、お弁当作ったんで、途中昼休憩で食べてくださいね。
   今日は魔王様の好きなハンバーグいれたので、楽しみにしててください」

魔王「ほんとか!?」

勇者「……」
戦士「……」
神官「……」

魔王「……こほん。別にいいだろう、好物を楽しみにしたって」

勇者「ああ、うん。ハンバーグはおいしいよな……ほんと」

魔王「その顔はなんだっ。言いたいことがあるならはっきりと言えばよかろう。
   もういい、さっさと出発するぞ。魔王自ら案内してやるのだ、光栄に思え」スタスタ

竜人「いってらっしゃーい」

魔女「暗くなる前に帰ってきてねー」

勇者「あ、はい…」


魔王「ここが学校」

勇者「え」

神官「ま、魔族の学校なんてあるんですか……?」

魔王「作ったんだ。魔法は勿論、歴史や農法について主に学ばせている。
   この村は基本的に自給自足だからな。農法の知識は欠かせない」

子ヴァンパイア「あ!魔王様だー!」

子エルフ「魔王様こんにちは!」

勇者「うおっ」ビク

魔王「こんにちは」

子エルフ「後ろの奴だれ?新しく村に住む魔物?」

魔王「人間だよ」

子エルフ「ええええ!?人間!?これが人間なんだー!俺初めて見た!!」

子ヴァンパイア「すげー!すげー!ねえ人間ってどんな血の味するの?」

神官「ひぃぃぃぃっ!!」

魔王「ところで先生は?」キョロキョロ

キマイラ「おや魔王様。今日は授業を見学しにいらっしゃったのですか」ヌッ

神官「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」ビクッ

勇者「うおぉぉ!?」ビクッ

戦士「や、山羊……いや、ライオン、蛇……キマイラか」

キマイラ「いかにもいかにも。そちらが魔王様がおっしゃってた勇者御一行ですか」

魔王「ああ。今日は村を案内しようと思ってな」

キマイラ「ほう。それは素敵ですね。どうぞ楽しんでいってください。ここはいい村ですよ」ニコ

勇者「し、紳士的なんだな……(見た目に反して)」

魔王「村で一、二を争う人格者だ。では次は商店街に行こう」

子エルフ「えー魔王様、もう行っちゃうの?遊ばないのー?」

魔王「また今度な」

神官(子どもたちが戯れてるようにしか見えない…)

魔王「こら。いま何か失礼なことを考えたろう」

神官「よ、読まれたっ!?いえ、滅相もないです!」

商店街

がやがや

勇者「随分にぎわってるなあ」

魔王「うむ、いつ見ても活気がある通りだ。
   そうそう、中には人を怖がる魔族もいるから、まあ勇者くんたちなら大丈夫だろうけど
   言動にはちょっぴり注意してくれ」

戦士「魔族が……人を怖がる?」

魔王「さっきの子どもたちはここで生まれて人に会ったことがなかったから、あんな風だったが…
   よそから来た魔族は、程度に差はあれど迫害された経験がある」

勇者「迫害って…!逆だろ?人が魔族に虐げられてきたんだ!」

魔王「まあそんな怖い顔せずに、商店街を見て回ろうではないか今日はいい天気だな……」スタスタ

勇者「おい、待てよ!」

魔族「魔王様じゃないっすか!今日はどちらに?」
魔族「魔王様、うちの新メニュー食べてきませんか!?」

魔王「今度頂こう」

神官「ひぇえ……ま、ま、魔族がこんなにいっぱい……」ブルブル

魔王「とって食おうとする者なんかおらんぞ。大丈夫だ」

神官「……。確かに…みなさん姿はちょっと恐いけれど……なんか優しそうですね…」

魔王「そうだぞ。優しいのだ。えっへん」

戦士「む…。あれはうまそうな定食だな」

勇者「……」

マオウサマー
 マオウサマダー

勇者「随分慕われてるんだな。魔王らしからぬ外見をしているのに」

魔王「らしからぬとはなんだ、らしからぬとは。成長が遅いだけだと言ってるだろうに」

勇者「なんか、のどかで……いいところだな。俺の育った田舎の町に似ているよ」

戦士「みな楽しそうだな」

神官「私たちがいままで教わってきたことって、間違いだったんでしょうか」

ハーピー「あらあら魔王様。今日はうちのお店によってかないの?かわいいお洋服できあがりましたのに」

魔王「また今度くる。今日は客人を案内しているのだ」

ハーピー「お客さん?……あら!かわいい女の子っ!このあいだ作ったワンピースがとっても似合いそう!」

神官「わ、私ですか?そんな……かわいいだなんて///」

ハーピー「どこの種族の方なのかしら?見たところかなり魔族の血は薄いみたいだけれど」

神官「えっと…」

魔王「人間だ」

ハーピー「…………え?」

魔王「勇者御一行が島にくることは先日伝えただろう。この者たちがそうだぞ」

ハーピー「ひ…っ!!」

勇者「……?」

ハーピー「ご、ごめんなさいっ わたし……その……っ」

勇者「…大丈夫か?顔が真っ青だぞ」スッ

ハーピー「きゃっ!」ビク

勇者「えっ…」

ハーピー「さ、さわらないで!こっちに来ないでっ!」

勇者「俺は別に、危害を加えようとしたんじゃなくって」

ハーピー「うぅぅ……っ」

魔王「……落ち着け。この者たちは私の客人だ。君が出会った人間たちとは違うから、大丈夫。
   それに何があっても私がみんなをまもるから。私は魔王だぞ」

ハーピー「魔王様……魔王様……」

魔王「今日は家でゆっくり休むといい。暖かいハーブティーでもいれてな」

ハーピー「はい。すみませんでした…」

勇者「……」

戦士「……」

神官「……」

魔王「勇者くんが悪いわけじゃないから、気にしないでくれ」

勇者「お、おう…」

ガシッ!

勇者「うあ!?」

魚人「おーっす」

神官「ゆ、勇者様ぁ!?!?」

勇者「な、なにするんだよっ!離せ!」

神官「ゆゆゆゆ勇者様から離れてください!」

戦士(まずいな。先ほどのハーピーの件で反感を買ったか?
   俺たち3人でこの商店街の魔族みんな相手にとるのは厳しいぞ…)

勇者「この…!」

魚人「へえ〜〜〜〜〜お前が勇者?なんだ、意外とガキでもなれるもんだなぁ!!
   あとそこの女の子かわいいねえ。今度俺の店来ない?あの角の酒場だからさ!」

勇者「へ?」

魚人「そっちの屈強なおっさん好みの渋い酒も揃えてるぜ。旅の話、聞かせてくれよ。
   俺、冒険譚ってだいっすきなんだよな!!」

戦士「……む?」

神官「えっ…?」

魚人「つかなにその腰の剣、あれ!?いわゆる聖剣てやつ!?まじ!?触らせてくれよ!!いい!?」

勇者「おい!勝手にとるなよ!」

魚人「うはァ〜〜〜〜〜〜!!!やべえめっちゃ輝いてるぅ〜〜〜〜〜!!!」

勇者「やめろー!返せー!」

神官「なんなんですかあの人…人?」

魔王「酒場のマスターをやってるぞ。私はまだジュースしか飲んだことがないが、なかなかお酒もおいしいそうだ」

戦士「ほう」

神官(戦士さん…絶対あとで行く気だ!)

魚人「でな?でな?俺は人間どもに追いかけられたとき、あったまきてな?
   川にもぐって水あやつって奴らを泥水まみれにしてやったわけよ!
   そんときのあいつらの顔ったらねーよwwwwwwwまじうけるwwwwwwwwww」

勇者「聞いてねーよ!いい加減離せよ!」

魔王「そろそろ先に進まんとな。グリフォンのところにも行きたいし。魚人」

魚人「へえへえ!魔王様のご命令とあらば!」パッ

勇者「やっと解放された…」

魚人「今度酒場に来てくれよな!待ってるぜ!」

魔王「さあ、行こう」

魔王「……ん。それより先に昼ごはんにするか…
   あの丘に上が見晴らしがいいんだ。そこでご飯を食べよう」

神官「ピクニックですか。いいですね〜」

戦士「もう昼か」

勇者「魔王とピクニックって……いやいいけどさ…」

丘の上

勇者「おお、すごい眺めだな」

神官「海も見えますね。風が気持ちいいです」

戦士「もっと底なし沼やらマグマが流れる火山やらを想像してたんだがなぁ」

勇者「魔界観が完全に崩れたよな」

魔王「おっ デミグラスハンバーグか!」パカッ

戦士「ハンバーグで喜ぶ魔王か…」

勇者「魔王観も完全に崩れたな」

魔王「うまいな」モグモグ

勇者「ほっぺにソースついてんぞ」

魔王「む……どこだ?」

勇者「右」

魔王「ほんとだ。ありがとう」

勇者「お、おう」

神官「竜人さんお料理上手ですねぇ」モグモグ

戦士「宮廷の馳走にも劣らない味だな」モグモグ

魔王「口にあってなによりだ」

勇者「ところでさ。さっきのことなんだけど。
   魔族が人に迫害されたってどういうことなんだよ?」

魔王「ああ。そうだな…話は100年前に遡るのだが」

神官「100年前……人魔戦争のことですか?」

魔王「うん。大陸南部に住む人間と大陸北部に住む魔族が始めた戦争だ。
   戦争は皆も知ってる通り、魔族の敗北という形で終結した」

戦士「その結果には勇者……先代勇者が、先代魔王を打ち破ったことが大きく貢献していると聞くな」

神官「ええ、そうです。
   もともと治癒術や預言など、戦争向きでない白魔法使いが少数いる王国と、
   種族ごとに強力な魔法が使える魔族とでは、戦争を始める前から勝敗は見えていました」

魔王「詳しいな。では勝敗が見えている戦争をなぜ人間は始めたのか?」

神官「恐らく勇者の存在が生まれたからじゃないでしょうか。
   あの戦争に関しては信頼できる文献がほとんどなくって……知識も多くないのですが」

神官「魔族の存在に人間は脅かされていた。しかし対抗できる軍力も高度な術もなく、ただ耐え忍ぶしかなかった。
   そんなときに魔王を討ち滅ぼせる勇者が王国に生まれて……」
   
神官「勝機を得た人間は、満を持して戦に臨んだんじゃないのでしょうか」

勇者「ん?待ってくれ。俺の村では確か…
   魔族がある日、ある村を燃やしたことをきっかけだったって聞いたが?」

勇者「溜まりに溜まった魔族への怒りがそれで爆発して、負け戦でもやってやろうと意気込んでるときに、
   勇者が現れて魔王を倒して、形勢逆転。一気に人間の攻勢になったとか」

神官「火事?なんて村です?」

勇者「いや名前まではわからん。そう教えられただけだ」

魔王「ちなみに、魔族の間では戦争のきっかけとしてはこう伝えられている」

魔王「先祖の代からまもってきた宝石を人が盗んだり、不老不死が得られるからと人魚の村に襲撃したり。
   そのような人の行いが魔族の間で不満や怒りにつながった」

魔王「このままでは魔族に未来はない、人に踏みにじられるだけだと。
   好戦的な種族を筆頭にそんな声が高まって、そうして戦争をするに至ったと。そんな風に聞いている」

戦士「そんな話は初めて聞いたが……」

勇者「どういうことだ?みんな違う風に戦争のきっかけが伝えられてるって」

魔王「まあ…歴史とはそんなもんだろう。
   見栄や種の誇りという色眼鏡を通しては、正しい歴史など語れるわけがない」

魔王「本当の歴史を知るのは第三者だけだ。そんな者、100年前にいたのかわからんが」

神官「大陸ほとんど巻き込んだ戦だったそうですから……ほとんどいないでしょうね」

魔王「戦争が魔族の敗北という形で終わったあと。人間がどうしたか分かるか?」

勇者「どうしたって。戦争は終わったんだから、平和に暮らしたに決まってんだろ?」

魔王「平和に暮らすために、やらなくちゃいけないことがひとつ残ってるだろう」

神官「なんですか?」

戦士「残党狩り……か」

魔王「そう」

魔王「いつ第二の戦争が始まるのか分からないからな。最後の一仕事がそれだ。
   最も、戦力になる種族は先の戦争で殺されてて、残ってたのは力ない魔族や子どもばかりだったろうけど」

勇者「そんな、そんなこと、人がするわけないだろ。戦力にならない者をわざわざ!」

魔王「まあ食事の間の与太話として聞いてくれればいい」

魔王「それで、魔族はほとんど滅んだはずだ。それほどまでに先代勇者パーティは協力だったんだろう」

戦士「ほとんど、と言ったな?ならば、いまこの島に住んでる魔族の祖先は、どうして生き残ったのだ?」

魔王「魔族のような外見をしてない者が、残党狩りから逃れて生き残った」

勇者「魔族のような外見をしてない?」

魔王「つまり魔族の血が薄まった者だ。人と魔族のハーフとか、もしくは半分以下の魔族の血を受け継ぐ者。
   人の血をひいていれば人に化けることのできる者もいるし、ほとんど人と変わらない容姿をもつ者もでてくる」

神官「なるほど……そして生き残った魔族は人の社会の中で生きてきたんですね」

魔王「魔王も有力魔族も死んで、魔族社会は壊滅してしまったからな
   そうして魔族は生きてくしかなかった」

魔王「でも、異物であることを隠し通すのは難しいものだ 
   うまくやったと思っても……小さなことから魔族であることがばれて」

魔王「嫌われて、殴られて、石を投げられて、住む場所を追われて
   100年前から、そうやって細々と魔族は歴史を紡いできたのだ」

神官「じゃあ……さっきのハーピーさんも」

魔王「島にいる魔族のほとんどがそんな経験をもつ。
   だから私は、島全体を覆える強力な結界魔法を完成させて、
   魔族だけで暮らせる村をつくったのだ」

勇者「……」

魔王「私はここのみんなをまもりたい。この村をまもりたい。
   だから勇者くん、いま一度頼みたいんだ」

魔王「この島の居場所を、秘密のままにしてほしい」

勇者「……」

神官「ゆ、勇者様…」

戦士「勇者…」

魔王「答えは今すぐじゃなくていいんだ」

勇者「……即答できなくて悪い。でも俺も、国民の期待を背負ってる身なんだ」

魔王「うん」

勇者「でも今まで王国で聞いていた話を鵜呑みにしたままじゃいけないってことも分かった。
   この島に、しばらくいさせてもらえないか。
   その間、自分の目で真実を確かめたいんだ」

魔王「勿論。いつまでだっていてもらって構わない。なんなら、永住してもらっても構わないぞ」

勇者「永住はしねーけど」

魔王「1年中暮らしやすい気候で、竜人のご飯が3食無料だぞ?
   家賃も0、自然も多くていい隠居先だと思うが?」

勇者「本格的に営業はじめるなよ!隠居って俺まだ10代だけど!?」

魔王「そうか……残念だ」シュン

魔王「じゃあこのあとは、村で一番の年長者、グリフォンのところへ行こう」

神官「グリフォンですか。なんか、緊張しますね…」

魔王「そんな緊張しなくていいぞ」

グリフォン家

魔王「グリフォン、いるか?」カランカラーン

勇者「やべえ……普通の家だ」

グリフォン「なんだ、魔王様かぁ」バタン

魔王「やあ。突然だけど勇者くんたちに君を紹介したくて」

グリフォン「勇者?へえ…」

勇者「あ、あれ?普通の男なんだけど……本当にグリフォンか?」

戦士「人間……?」

グリフォン「ああいや。本を読むときは本来の姿だと不便だから、人型になってるだけさ」

神官「ほぇー」

魔王「グリフォンは物知りなんだ。いつも本を読んでいる。何か分からないことや疑問に思ったことがあれば、ここに聴きに来るといい」

グリフォン「魔王様にそう言われると照れるね エッヘヘヘ」

勇者「なんだこいつきもい」

魔王「ちょっと癖のある者だが……知識は、すごい。知識だけは」

神官「いま、“だけ”って言いましたよね!“だけ”って!」

グリフォン「ひどいなぁ……まあいいけどさ。
     来ればお茶くらいだすよぉ。人間の生態にも興味あるし…」ジッ

勇者「なんかマッドサイエンティストのかほりがする!こわい!」

戦士「解剖されそうだ」

グリフォン「いつでも来てね…」ニッコリ

勇者(多分こない)

魔王「では……城に帰るか」

神官「なんか、普通に楽しかったです」

戦士「新境地だったな。興味深い」

勇者「俺は疲れた…」

勇者「とりあえず、しばらく厄介になるぞ、魔王」

魔王「ゆっくりしていくといい。勇者くん」

勇者「一週間後、定期報告のために王国に帰る。それまでに俺たちの答えを決めようと思う」

魔王「そうか。じゃあ一週間まったりしていってくれ。我々にとってよい返事を期待しているよ」

* * *

次の日

魔女「ねーねー 神官はさぁ、彼氏とかいんの?」

神官「ブハッ!!な、なにを言いだすんです魔女さん」ポタポタ

魔女「あー、やっぱいないの?そんなだっさい服着てるからだよー、あたしの服貸したげよっか?」

神官「ださい服!?これは教会から支給された聖なる神官服ですよ!?」

魔女「もっと足とか胸とかだした方がいいっしょ」

神官「魔女さんじゃないんですからっ 私はこれでいいんです!」

勇者「なあ、二人とも?竜人と戦士知らないか?」

神官「あの二人なら、中庭で剣の手合わせしてますよ」

勇者「そうか…俺も混じってこようかな」

魔女「それなら魔王様のところに行けばー?多分図書館か研究室にいると思うよー」

勇者「魔王か?……まあ、行ってみるか。ありがとな」

図書館

勇者「うわっ すげえ蔵書数だ。壁一面に本ばっか。
   俺こういうところ頭痛くなるんだよな。昔から剣ばっか振ってきたから」

勇者「……魔王?いるのか?」

魔王「勇者くん?どうしたんだ?入って右奥の棚にいるぞ」

勇者「こっちか」

魔王「ちょうどよかった。この上の方にある本がどうしても届かなくてな。
   勇者くん、とってくれないか」プルプル

勇者「……」

魔王「その呆れた目はなんだ?全く、こんな上に本を積み上げたのは竜人か魔女か……
   梯子を使っても、これでは届かないではないか」プルプル

勇者「チビだもんな」

魔王「うるさいな」

勇者「しょうがねえな。とってやるから、梯子から降りて来いよ」

魔王「助かる……ふう、腕が疲れた。……ん?」グラッ

勇者「おい!?」

魔王「まずいな。落下する」

勇者「落下する。じゃねーーーーよ!ばか!…………うおっと!!」ドサッ

魔王「さすが勇者くんだ。素晴らしい反応速度」

勇者「嬉しくねえよ。お前ほんとに魔王なの!?梯子からうっかり落っこちる魔王ってなに!?」

魔王「随分……間抜けな魔王だな。王たる自覚はあるのだろうか」

勇者「言っとくけどお前のことだよ?」

勇者「…で、とりたかった本ってこれか。ええと?『天候と水魔法の関連性について』……うわ、難しそう」

魔王「古い本だからな。でもいま研究してる魔法に必要な文献なのだ」

勇者「魔法の研究ねぇ。魔王ってのは普段そういうことをやるんだな。
   で、何の魔法を研究してるんだ?」

勇者「天候をまるまる変える魔法なんて、伝説の魔術師くらいしか使えたっていう試しがないぞ
   それも本当かどうかなんて分かんないけどな」

魔王「天候を変える魔法か…それもあったら便利そうだ。でも今研究してるのは違うんだ。
   雨を花びらに変える魔法だよ」

勇者「……ハイ?」

魔王「結構難しいんだ。水魔法と物質変化魔法を組み合わせて……あと重力魔法とかも組み入れたほうがよりそれらしいし……」

勇者「……あのさ。そんななんの役にも立たなそうな魔法開発して、どうすんだ?」

魔王「なんの役にも立たないとは、ひどいじゃないか」

勇者「いや、普通、より強力な攻撃魔法とかさ、そういう研究してると思うじゃん」

魔王「攻撃魔法か…一応たまにしてるけれど。それより私は見る者を喜ばせる魔法を研究する方が好きだ」

勇者「雨が花に変わってもなぁ……それって喜ばしいか?」

魔王「喜ばしいよ。きっとわくわくするような光景だ。それを成功させたら、空から菓子を降らせる魔法の研究にとりかかろうと思う」

勇者「子どもか!……子どもだったな、そういや」

魔王「なんだ。じゃあ勇者くんはどういう魔法を使うんだ」

勇者「俺は大体、雷魔法か転移魔法とかだな」

魔王「雷ね……このあたりの本とか、雷魔法の発展理論について書かれているぞ」スッ

勇者「むりむりむりむり!頭痛くなる!
   つーか、こんだけの本どこから調達したんだ?この島から魔族はでられないんだろ?」

魔王「ああ…」

魔王「基本的に転移魔法が使える竜人と魔女に、たまに島の外にでてもらって物質の調達をしたり情報収集したりしてもらってる」

勇者「そうだったのか」

魔王「有事のときでも自分一人で身をまもれるくらいの戦闘能力があるのがその二人だけだからな」

勇者「あれ?魔王は外にでないのか?」

魔王「私は島の結界を維持しなければならないから、島の外に出れないんだ」

勇者「ふーん」

魔王「だから勇者くんに会ったら、旅の話を聞きたいと思っていたんだ。この大陸中を見て回ったんだろう?」

勇者「魔王城が全然見つからないおかげでな」

魔王「すごいな……!ぜひ聞かせてほしい。勇者くんの村は大陸のどのあたりにあるんだ?名産品は?まず一番最初に行った街はどこ?
   どんな敵に出会ったんだ?なにか印象に残った出来事はあるか?」

勇者「死んだ魚の目が急に輝きだした!落ち着け、どうどう」

魔王「すまん。全然反省してないけど」

勇者「ふてぶてしいなお前…」

魔王「さあ、冒険譚を聞かせてくれ。私の部屋に行こう、竜人にお茶をもってこさせる」

バタン

竜人「魔王様」

魔王「早いな。気がきくじゃないか竜人」

竜人「いやなんの話ですか?村の者が魔王様に用事があるそうです。下に降りてきてくれませんか?」

魔王「ああ、あの二人かな。勇者くん、旅の話はまた今度聞かせてくれるか?」

勇者「大したもんじゃないけどな。いつでもいいぜ」

魔王「楽しみだ。じゃあ行ってくる」

勇者「魔王って結構ひまそうだな」

竜人「それがそうでもないですよ。魔王城はケガ人病人も診てますし、発展的な学問を学びたい者のための施設にもなってます。
   さらに役場も兼ねてますので結婚出産葬式もろもろの報告も承らなくちゃいけませんしね」

勇者「多忙だな。3人で足りるのか」

竜人「足りませんよ。だから一応お手伝いさんに来てもらって事務仕事やってもらってますよ」

勇者「俗っぽいなあ。ファンタジーの世界観ぶち壊しだぞ」

竜人「ファンタジーねぇ」ハッ

勇者「竜の末裔がファンタジー鼻で笑うなコラ」

竜人「ファンタジーで飯食えませんよ」ハッ

勇者「やめろ、さっきまで魔法がどうのこうのって話してたんだからやめろ。雰囲気ぶち壊すのやめろ」


魔王「……」カリカリ

魔王「……」カリカリ

魔王「…ん。いけない、もうこんな時間か。夜、勇者くんに旅の話を聞きたかったのにすっかり忘れてた。
   明日の夜でいいか…」

魔王「そろそろ寝ないと…竜人がまたうるさいな。でもあともう少し。この本を読み終わったらにしよう」

魔王「……」

魔王「……」コクッ コクッ

魔王「…………ん…」ゴシゴシ

魔王「……」

魔王「……ぐー」バタン

『―――!―――ッ!!』

『放せ!勇者くんが!』

『だめです、魔王様……いま飛びだしたら……!』

『いやだ、こんなのいやだ、私は認めないぞ!』

『うっ、うぅ……私のせいだ、私の。私があんなこと、言ったから!』

『やめて……やめろ!!ふざけるなっ!!』

『やめろーーーーーっ!』

――――ザシュッ

…ゴトン

『……あ。あ。あ。あ、』

『        』

魔王「……ッ!?」ガバ

魔王「っは……はぁ……え?」

チュンチュン

魔王「あ、朝?今のは…なんだ?予知夢?
   いや、そんな能力もってなかった……ただの、夢か」

魔女「おっはよーう魔王様!いい天気だなー って、ああああっ!また机で本読みながら寝ちゃったんですか!?なにやってんの!?」

魔王「おはよう…魔女。……背中痛い」

魔女「そら椅子で寝たんだからそうでしょーよ。全く、風邪ひいたらどうすんのさ。魔女ちゃん特製ゲロニガ風邪薬飲ませるよ?」

魔王「勘弁してくれ。お前の薬はなんで効き目抜群なのに、味が最悪なんだ」

魔女「味付けなんてよくわかんないしィ」

竜人「ちょっと魔女、早く魔王様起こしてきてくださいって……はァん!?
   魔王様、まーーーたベッドじゃなく椅子で寝たんですかァ!?」

魔女「うっさいの来た…」

竜人「何度言ったら分かるんですか!ベッドで寝てくださいって!」

魔王「今度から気をつける」シュンッ

竜人「あっ!転移魔法で逃げましたね……!これが反抗期ってやつですか…」

魔女「いやー無理もない反応でしょーありゃ。あんたどこのオカンだよ」

竜人「追いますよ魔女!」シュンッ

魔女「追いますよって、普通に大広間にいるでしょ。なにあいつ馬鹿なの うける」シュンッ

勇者「なかなか強いな!」

竜人「勇者様こそ。さすがといったところですね」

キィン!

魔王「…………」

戦士「なんだ、浮かない顔だな?」

魔王「戦士殿。…………いや、そういうわけじゃないんだが。ただ夢見が悪くてな」

戦士「夢見とな。魔王殿は予知夢の能力も持っているのか?」

魔王「多分、もってないと、思うが」

戦士「そうか」

魔王「……王国には夢で未来を視る預言者がいると聞いたが」

戦士「ああ、宮廷お抱えの預言者がひとり。かなりの腕前だそうだ。
   あそこにいる勇者のお告げも、今の代の預言者が行ったそうだぞ」

魔王「ほう。天からのお告げというものか。勇者くんはすごいんだな」

戦士「あいつはすごいぞ。なかなか骨のある若者だ」

魔王「三人は同じ村の育ちなのか?」

戦士「いや全然違う。俺は中央都市の生まれで、神官は教会に育てられた孤児だ。
   勇者はかなり田舎の生まれで、魔王討伐の旅に出かける際に初めて顔を合わせた」

魔王「討伐の旅か……どんなところに行ったんだ?
   世界の果て、星の墓場、虹の降る谷、地底に眠る遺跡群。そういったものは本当に実在するのか?」

戦士「……魔王殿は、旅にでたいのか?」

魔王「まさか。想像するだけで十分だ。
   あ、竜人たちが呼んでるぞ。手合わせばかりして飽きないな」

戦士「魔王殿も混じってみるか」

魔王「私は肉体派ではない。……先に城に戻っている」スタスタ

戦士「……(難儀な娘だな…)」


勇者「あー 今日はいい汗かいた。やばいな、普通に魔王城満喫しちゃってるな俺ら」

コンコン

勇者「?こんな時間にだれだ…?待ってろ、いま扉を開け……」

魔王「こんばんは」シュンッ

勇者「ぎゃあおっ!!お前かよ!つーかノックしといていきなり転移魔法かましてくんなよ!びびるだろ!!」

魔王「シッ!静かに。竜人にばれたらまたうるさいぞアイツ」

勇者「なにしでかしたんだよ……怒られんの多分俺だぞ……かえれよ…」

魔王「旅の話をいつでも聞かせてくれると言ったのは勇者くんだろうに」

勇者「昼じゃだめなのか?」

魔王「だめだ。今すぐ。ここで。聞かせてくれるまで帰らんぞ」

勇者「まじかよ」

魔王「まじだ。大まじだ」モソモソ

勇者「おい、勝手に人のベッドにもぐりこむんじゃねーよ!」

魔王「このベッドも元をただせば私のものだ」

勇者「屁理屈こねやがって……わかったよ、途中で寝んなよ?言っとくけど大した話ないからな?」

魔王「かまわない。大丈夫だ。寝ない。さあ早く。早く話せ。まだか?」

勇者「落ち着けよ!ええと。旅の初めからか?うーん、どうだったかな…」

〜〜〜〜

王「勇者よ。お前に王からの勅命を言い渡す」

勇者「ハッ。なんなりと」

王「お前も勇者として預言をうけてから幾数年経ち、立派な剣の使い手になったな。そろそろ魔王を討伐する旅にでてほしい。
  今のお前はそこらの兵士より数倍強い。さらに伝説の勇者の力をもってすれば、魔王打倒も夢ではないだろう」

勇者「必ずや魔王を倒してみせます。して魔王城はどこに?」

王「それが全くわからんのだ」

勇者「えっ」

王「どうやら特殊な術を用いて居場所を隠しているらしい。勇者、お前なら魔王城の居場所も突き止められると信じているぞ」

勇者「御意に」

王「それから、もうひとつ。世界に残っている魔族の殲滅も頼みたい」

勇者「殲滅、ですか」

王「戦争の生き残りの魔族がまだいるらしくてな。度々目撃情報があがるのだ。
  人村にふらりと現れては食物を盗んだり、人を攫ったり、暴虐の限りを尽くしているらしい」

勇者「なんて奴らだ!罪も無き人々がいまだ魔族の影におびえなくてはならない生活をおくっているなんて!
   必ずこの俺が魔族どもを成敗してみせます。お任せ下さい」

王「期待しているぞ。魔族の血が絶えん限り、我々人類の未来はない。
  あの戦争を繰り返すことだけは絶対に避けなければならない」

戦士「お前が勇者か。俺は戦士、以前はこの国の傭兵部隊に所属していた。大剣なら自信あるぞ、よろしく」

神官「初めまして、勇者様。私、教会から指名されました神官です。ええと、回復魔法ならおまかせくださいね」

勇者「ああ。よろしくな。さて……魔王城の居場所が分からないということだが……手始めにどこに行こうか」

戦士「まずは情報収集しつつ適当に大きな都市を回ってみればよいのではないか?その道中で魔王に勝てるだけの力を身につけられるだろう」

神官「そういえば……武器の話ですけれど。この世界のどこかにある、時の神殿というところで、聖なる剣が埋まってるらしいですよ」

勇者「勇者っぽいな。でもそれも居場所がわかんないのか。うーん、まあ適当に旅してれば、そのうち情報を掴めるだろう」

戦士「そうだな。まず適当に大きな都市に行こう」

神官「そうですね、適当に。くじでも引きます?」

〜〜〜〜

魔王「適当すぎないか」

勇者「それでもここに辿りつけたんだから、結局適当でいいんだって。
   えーと、魔王は俺たちの大陸が3国に分かれてることは知ってるよな?」

魔王「それくらいは。大陸北部がもともと私たち魔族の土地だったところで、南部が勇者くんたちの太陽の国、それから雪の国、星の国だったかな」

勇者「うん、そうだ。1年中雪の降る冬の地、雪の国。天文学をはじめとした学問の都、星の国」

勇者「で、俺たちの太陽の王国。太陽神信仰で、神官が属する教会も太陽神を一神教とするものだ。
   経済力も軍力も領土も3国中最大、最近は航海術にも力を入れてて大陸以外の国とも交易が盛んだ」

魔王「ふむ、そうなのか」

勇者「俺たちはまず王国を旅して、次に雪の国に向かったんだ。
   めっちゃくちゃ寒かった。信じられないくらい寒かった」

魔王「雪というのは、どういったものなのだ?私は見たことがない」

勇者「雪っつーのは……えっと、白くて、冷たい。触ると解ける。そんなのがいっぱい空から落ちてくる」

魔王「……」

勇者「そんな怪訝な顔するな。別に恐ろしいものじゃない、結構きれいだぞ。俺は寒くて嫌いだけど」

魔王「へえ。そうなのか……いつかこの島にも降ればいいのに…」

勇者「……魔法で作り出せるかもな」

魔王「ほんとかっ」

勇者「でも俺は書を読んで研究なんてしたことないからな!すぐにはできないぞ!!」

魔王「それでもいい。いつまでだって待つ。楽しみにしてるぞ、勇者くん」

勇者「あんま期待しないで待ってろよ……
   で、ええと。雪の国に行ったところだったな。そこで変な奴にあったんだよ」

〜〜〜〜

雪の国 酒場

勇者「旅を続けてもう5カ月か。大分俺たちも強くなったんじゃないか」

神官「そうですね、魔王城の情報はまだ掴めてませんけど」

戦士「ところでひとつ、言いたいことがあるのだが」

勇者「奇遇だな、俺もひとつある」

神官「私もありますね」

勇者「魔物いなくね?」

神官「王国を出発してからまだ一匹の魔物とも遭遇してないって、これも神のご加護でしょうか?」

戦士「来る日も来る日も盗賊団や麻薬売人を倒すばかり。どういうことだ?」

勇者「王の話では、魔王の復活に伴い人村に魔物の被害が広がってるっていうことだったんだけどな。
   旅の途中で寄った村でも、最近ではそういう被害はないって言ってるし」

戦士「なんでも10年前くらいからパッタリ被害がなくなったとか」

勇者「ふーむ…」

神官「このままじゃまずいですよ!いきなりラスボス戦で魔族初対面とか、恐ろしすぎて失神する自信ありますよ!
   この魔族大図鑑見てイメージトレーニングしとかないと……」

勇者「イメトレする勇者一行ってなに?なんか決まらないよな」

戦士「まあ、俺たちが盗賊をとっ捕まえて、街に平和が訪れてるんだ。それも大事な勇者の仕事だろう」

勇者「そうだな」

マスター「よう、兄ちゃんたち。この酒、あっちのお客さんからだぜ」

勇者「ん?ありがとう。あっちのお客?」チラ

旅人♂「……」ニコッ

勇者(吟遊詩人かなにかか?見たところ俺よりも年上で、旅にも手慣れてそうだ)

神官(詩人にしては筋肉もりもりですね。戦士さんほどついてないですけど)

勇者「もしよかったらこっちのテーブルで話さないか?旅について色々聞きたいしさ」

旅人「……」ガタッ

神官(寡黙な人なのかな?)

旅人「……」スタスタスタスタ

旅人「……」ガシッ!!

勇者「ギャッ!?な、なにすんだよお前!?ケツさわんじゃねーよ!!」

旅人「あらぁ〜〜いいオ・シ・リ」

勇者「」

戦士「」ダッ

神官「」ダッ

勇者「オイ逃げんなよ!!!勇者見捨てんなお前ら!!!」

旅人「逃がさないわよぉ、かわいい勇者サン。うふふ」

勇者「助けて!マスター助けて!助けて!」

旅人「へぇ〜〜それでぇ、勇者ちゃんは魔王を探して旅してるのねぇ」

勇者「はい……ええ……」ゲッソリ

旅人「私もいろんなとこ旅してるんだけどぉ、勇者ちゃんの噂は聞いてるわよん」

勇者「やっぱり旅人なのか。なんでカマ口調なんだ……お前男だよな……?結構屈強な成人男性だよな?」

旅人「いやん。もう、そんなひどいこと言うと、イイコト教えてあげないわよ?」

勇者「結構っす……」

旅人「勇者ちゃんが一番ほしい情報だと思うんだけどねぇ」

勇者「一番ほしい…?ま、まさか魔王城か!?」

旅人「んっふっふっふ、せいかぁい」バチコン

勇者「ゥオエ…ッ うっぷ、教えてくれ!魔王城はどこにあるんだ?」

旅人「そうね。勇者ちゃんなら大丈夫そうよね。あたしもはっきり覚えてるわけじゃないんだけど
   ちょっとドジって海で死にかけちゃってさぁ」

勇者「で?」

旅人「もうこれ完全天国コースだわ、って思ってたら、なんか竜があたしをでっかい城に運んでくれててさあ。
   魔王様、漂流者みたいです。とか言ってて」

勇者「魔王に会ったのか!?」

旅人「会った、と思うんだけどねぇ。ここから記憶があいまいで、そのあとは太陽の王国の宿屋で目を覚ましたわ。
   覚えてるのは血みたいに真っ赤な瞳だけね。多分魔王の目だと思うけど」

勇者「お、お前、魔王に会って生きて帰ってこれたのか……」

旅人「まああたしみたいなゲテモノ、さすがの魔王もいらなかったんじゃない?」

勇者「ああ納得……じゃなくて!えっと、その、口調以外はまあまあだと思うぞ」

旅人「あらぁん、嬉しい☆ 勇者ちゃんうわさ通りの色男ね☆」

勇者「やめろひっつくな」

勇者「魔王城は海の向こうにあるのか。もっと思い出せることは?」

旅人「あんまりないのよ。多分島だったと思うけど。あとは覚えてないわ。
   でもその時あたしが旅してたのが星の国と太陽の国の狭間くらいだったから
   もしかしたらそこの海に近いところかもね」

勇者「なるほど。ありがとう。次の行き先が決まった」

旅人「んふふ。がんばってねぇ、あたし応援しちゃう。
   じゃ、そろそろあたし帰るわ。いつかまた会えたらいいわね」

勇者「あんたはこの村の次はどこへ?」

旅人「さあね。歩きながら考えるわ。ばいばい、勇者ちゃん」ブチュ

勇者「」

旅人「ごちそうさま、うっふふ」

勇者「」

〜〜〜〜

勇者「うぐぅぅ……今思い出しても吐き気が」

魔王「待ってくれ、勇者くん。私もその旅人を知ってると思う」

勇者「え」

魔王「汚れた金髪、碧眼で女のように振る舞う大男だろう?その者は確かにこの島に流れ着いて私たちが介抱したのだ」

勇者「おお。じゃあやっぱりあいつの言ってたことは本当だったのか」

魔王「でも、おかしいな。たまに奴みたいな者が島に流れ着くが、人里に返すときは必ず忘却呪文をかけてるのだ。
   完全にここの存在を忘れるようにな。なんでその旅人は記憶をもってる?」

勇者「さぁ……。お前が魔法ミスったんじゃないのか?」

魔王「まあ確かにあの日は寝不足だったけど。まさか。い、いやあり得ない。大丈夫だ、…多分」

勇者「めちゃくちゃ動揺してんじゃねーかよ。うっかりか、うっかりさんなのか」

魔王「それで、ダンジョンとやらには行ったのか?」

勇者「ああ。割と見境なしにいろいろ入ったぜ。伝説の武器とかとりにな
   一番大変だったのは、俺のこの剣をもらった時の神殿だよ。ほんと死ぬかと思ったわ」

魔王「時の神殿……本で読んだことがある。最奥に辿りついた者は、時を司る女神に会えるとか」

勇者「ああ、会った会った」

〜〜〜〜

時の神殿

勇者「はぁ、はぁ、やっと辿りついた」ボタボタ

戦士「去年死んだばあちゃんが、視界の隅で手をふっている……」ボタボタ

神官「ごめんなさい、二人とも。MPがもうほとんど枯渇していて。そうでなければ今すぐ治療できるんですけど…」

勇者「き、気にするな、神官。俺たちなら大丈夫だ ゴフ」ビチャア

神官「勇者様ァーーーーーーーー!」

戦士「む、あそこの光る球はなんだ?」

神官「あ!もしかしたらあれが女神様のいる場所への鍵かもしれませんよ!さっそくさわってみましょう!!」

戦士「お、おい」

パァァァァアッ

女神「『女神だけどなんか質問ある?』っと……」カタカタカタ ターン

女神「やべっ 金曜ロードショー始まる!!あーんもう、こんな時に限ってリモコンみつかんない!くそっ!!
   あ、オコタのなかにあったわ。やっぱジ○リは紅○豚一択っしょ」

勇者「」

女神「ラーメンでも食いながら見よっかな。皿洗いたくないし、鍋のままでいいや……はー うま」ズルズル

神官「」

戦士「」

女神「………………ん?」

勇者「えっと……ごめんください……」

女神「fじぇいおあぐれおあjdfs!?!?」

女神「い、一分待ちなさい!!!」

キラキラキラキラ…

女神「よくぞここまで辿りつきましたね、勇者よ……
   ここは時の神殿最奥部。私は時を司る女神です」

勇者「あ、はい」

神官「さっきの珍妙な器具たちが全て隅に押しやられてますね…」

戦士「シッ!」

女神「先ほどのことは忘れなさい……」

勇者「あ、あれは一体?」

女神「……私は未来現在過去、全ての時を操れますので。あれは未来から持ち出してきた物品です。
   打ち明けたんだから、このことはお忘れなさい。いいですね?」

勇者(なんちゅう女神だ…)

戦士(ダ女神……)

女神「ここまで辿りついた勇者には、この聖剣を与えましょう」

勇者「これが伝説の……」

女神「剣に埋め込まれている石を見なさい。それは一度だけ時を巻き戻すことのできる聖石です」

勇者「ま、まじで!?さすが伝説の聖剣!!」

女神「ただし、その代わりあなたの命を頂きます」

勇者「なんだそれ!?意味ねーじゃん!」

女神「代償なしで時空を捻じ曲げることができるわけないじゃないですか。
   人間ごとぎが調子のらねーでほしいです」

戦士「だんだん素に戻ってるぞ、女神様」

女神「まあ勇者なんですから、世界のために俺の命を捧げるーみたいな感じで、その石を使うときもくるんでしょ?どうせ
   さあ、剣は与えました。私はテレビ見たいので、さっさと神殿から出てってください」

神官「せ、せめて二人の治療をお願いします!血だらけなんですよ!」

女神「チッ わかったよ。はい。
   じゃあね、ばいばい」

勇者「ちょ」

パァァァァァァアッ

勇者「強制的に追い出された」

〜〜〜〜

魔王「うそつくな。女神がそんなだらしないわけないだろう」

勇者「気持ちは分かるが、事実だ」

魔王「……」

勇者「そんな落ち込むなよ。多分、ほかの神はあんな風じゃないはずだ。そ、そう信じたい」

魔王「そ、そうだな。これが、その剣か」

勇者「おう」

魔王「……きれいだな。石は見たことのない色をしている。これが……
   勇者くんにぴったりだ」

勇者「褒めてもなんもでねーぞ」

魔王「本音を言ったまでだ」

魔王「勇者くんとずっと、こうして話をしてみたかった。私はとても嬉しいぞ」

勇者「……でもさ、お前ら魔族はずっと人間に迫害されてきたんだろ?なんでそんなこと言えるんだよ。
   俺はお前らに憎まれても仕方ない存在だろ」

魔王「私は別に恨んでないぞ。……勇者くんの噂を魔女と竜人ごしに聞いていてな。
   会って、みたかったのだ。魔王城の居場所が…ばれてはまずかったのだけれど……」

勇者「お、おい、寝るなら自分の部屋で寝ろよ」

魔王「いや、まだ眠くない。ねむくな…………グー」

勇者「寝てんだろーが!ばか、俺はどこで寝りゃいいんだよ」

魔王「ぐー」

勇者「おおおおおおい」

* * *

コンコン

竜人「魔王様?魔王様、朝ですよ。入りますよー」

シーン…

竜人「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!??ど、どちらに行かれたんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」

竜人「勇者、貴様かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!ブチ殺すぞッッあの青二才がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


勇者「だからちげーって言ってんだろ!なんで俺が追われなくちゃいけないんだよ」シュンッ

勇者「くそ、なんでこうなった。魔王のせいだぞ」

魔族子「あ、勇者だー!」

魔族子「勇者だ勇者だ!」

魔族子「遊んで遊んでー!」

勇者「は?お前ら学校だろ」

キマイラ「まだ授業まで時間ありますから」

勇者「そうなのか。どうせ竜人が落ち着くまでは城に帰れないしな……
   よしっ、なにして遊ぶか!」

魔族子「わーい!!」

勇者「さて、学校も始まってしまって、暇になったな。まだ竜人はマジギレ中だろうし……商店街でも見てるか」

魔族「おう勇者さん!果物はいらんかね?とれたて新鮮だぜ」

勇者「へえ…これはなんて果実なんだ?見たことないな」

魔族「この村でしか獲れない果物さ」

勇者「おいしそうだな、ひとつもらってこう」

魔族「毎度!」

魔族「勇者さん、新しい靴はいかが?」

魔族「おっ 勇者じゃないか。城での生活はどうだ」

勇者「おかげさまで」

魔族「魔王様や竜人様、魔女様によろしくな!」

ハーピー「……」スタスタ

勇者「ん?あれは…」

ハーピー「……あっ!りんごが…」コロン

コロンコロン…

勇者「…はい、どうぞ。そんなに買い物袋にたくさん詰め込んでたら、家につくまでに全部転げ落ちるぞ?」

ハーピー「あ…勇者さん」

ハーピー「あ、ありがとう…ございます」

勇者「気にすんなって。じゃあな」

ハーピー「あのっ!」

勇者「ん?」

ハーピー「……この間は、すいませんでした」

勇者「謝らないでくれよ。お前はなんも悪くないだろ」

ハーピー「勇者さんって、優しいんですね。人間にも怖い人ばっかりじゃないって知ることができました。
     魔王様が島にいれた方ですもんね、怖い人なわけなかった」

勇者「買いかぶりすぎだって」

ハーピー「いえ、なんとなくわかりますよ。村のみんなもそう言ってますし。そうだ、これ。
     城でみなさんと食べてくださいな」

勇者「こんなにもらっちゃ悪いよ」

ハーピー「いいんです。父の畑でとれたものですから。この間の非礼のおわびに!では、失礼します」

勇者「悪いな。ありがとう」

がやがや
 がやがや

勇者「あかりが灯ってきたな…そろそろ帰っても大丈夫だろうか」

戦士「お、勇者ではないか」

勇者「戦士!なにしてるんだ?」

戦士「魚人の酒場に行こうと思ってな。勇者も一緒にどうだ?」

勇者「げっ お、俺はいい…」

戦士「まあまあそう言わずに」ガシ

勇者「放せよ!おい!!」

魚人「らっしゃーい!って、勇者と戦士じゃねーの!!よく来たな!座れ座れ」

戦士「おすすめの酒を頼む」

勇者「俺は未成年だから酒は飲まないぞ」

魚人「オコチャマでちゅねー しゃーないな、勇者には特製イモリジュースだ!」ドンッ

勇者「飲めねーよ」

ガラッ

魔女「今日は外食だー!わーいわーい!っしゃあ酒飲むぞー!!」

魔王「飲みすぎるなよ。お前は酔っ払うと面倒くさいんだから」

神官「お酒ですか……ちょっと楽しみですねエヘヘ」

竜人「こんばんは、魚人。席は空いてますか…………あ」

勇者「あ」

勇者「だから誤解!いや誤解っつーか俺なんも悪くないし!」

竜人「うるせーこのロリコン勇者が!!魔王様の半径10m以内に近づかないでください!」

勇者「お前ちょっと頭おかしくない!?ロリコンじゃねーよ!!ふざけんな!!」

魔王「だれが竜人の子だ、だれが」

戦士「っはっはっはっは、いいぞ、もっとやれ!!」

魔女「あははははは!あはははははは!あはははははは!」

神官「なーんかぽわーんとしてたのしいですー えへへへへへへへへ」

魔王「」

魔王「ま、魔女はいいとして神官は大丈夫なのか、これは」

神官「だーいじょーぶでーっす!」

竜人「二度目はありませんからね チッ」

勇者「こええよ……えらい目にあった。はぁ、それにしても騒がしいな」

勇者「うちのテーブルもだけど……」

魔族「がっはははは!そんでどうしたんだ?」
魔族「そんでうちの女房がさぁ…」

がやがや がやがや

勇者「大繁盛だな、魚人」

魚人「ったりめーよ。俺の店だぜ?」

勇者「ははは。……」

勇者「いい村だな。ここは。……魔王、俺決めたよ」

魔王「ん?」

勇者「この島に来たことは誰にも口外しない。

勇者「お前たちや、この村に住んでる魔族が戦争なんか起こしそうもないし。
   人を襲う奴もいるようには見えない。多分、俺が王から聞いた話はデマだったんだろう」

魔王「……ありがとう。勇者くん」

勇者「こんないい村を作って、ずっと守ってるお前はすごいと思うよ、これからも頑張れ」

魔王「うん」

勇者「明日、王への謁見のために、王国へ帰る。そのまま俺たちは大陸で旅を続けよう。
   短い間だったが、世話になった。ありがとう」

魔王「そうか。いつかまた、気が向いたときにでも島に寄ってくれ。
   私も勇者くんと会えてよかった。楽しかったぞ」

勇者「……お前、笑うときは笑うんだな」

魔王「ん?」

勇者「いつも笑ってた方がかわいいと思うぞ」

魔王「わっ…頭をなでるな。髪がぐしゃぐしゃになるだろう」

勇者「次会うときは、背も伸びてるといいな。ははは」

魔王「や、やめろ」

魔女「えぇぇぇぇーーー勇者たち帰っちゃうのぉ?さーびーしーいー!」

神官「もうちょっといましょうよぉぉー ねー勇者様ー」

戦士「まだまだぁ!呑みたらんぞ!!」

魚人「あんたつえーな!呑み比べ3連勝だ!!」

竜人「あー おいしいですねこのお酒。あれ もう空ですか」

魔族「竜人様は相変わらずザルですね…」

勇者「……よしっ!魚人、俺にも酒だ!」

魔女「いえーーーい!!勇者の一気飲みだー!!」

神官「勇者様のっ ちょっといいとこ見てみたいっ!!」

魔王「だ、大丈夫か?」

がやがや がやがや

次の日 朝

勇者「忘れ物ないか?」

神官「ええ…大丈夫、です……」

戦士「頭が、割れそうだ…」

竜人「だから呑みすぎはよくないって言ったじゃないですか」

魔女「YES!飲酒、NO!二日酔い」

戦士「お主たちが異常なのだ……うう…」

魔王「勇者くんたち。島のことを口外しないでくれてありがとう。今一度お礼を言わせてくれ」

勇者「礼を言うのは俺たちの方だ。今まで誤解していて悪かったな」

魔王「元気で。また会おう」

勇者「そちらこそ元気で。また会うときはよろしくな」

勇者「じゃあ、転移するぞ。神官、戦士、掴まれ」

魔王「……勇者くん、本当にまた…会えるのだな?」

勇者「ああ、必ず!再会を誓おう」

竜人「さようなら」

魔女「まった来てねー」

魔王「……またいつか」

シュンッ

王国

シュンッ

勇者「ふう」

神官「戻ってきましたね」

戦士「懐かしいな」

勇者「そのまま、王宮に向かうか。分かってると思うが、魔王城のことは秘密だぞ。うまく口裏を合わせてくれ」

神官「ええ、分かってますよ」

戦士「それにしても、ここ数日の経験は驚愕に値するものだったな」

神官「本当に……。でも、私たち以外の人々がこれからも魔族のことを誤解したままっていうのも、なんだか、納得いきませんね」

勇者「ああ。どうにかあいつらのことを知ってる俺たちで、なんとかしてやりたいがな。難しいものがあるよな…」

戦士「誤解をとくためには魔王城に行ったことを明かさざるを得ぬからな。
   でなければ根拠のないただの空想を語ってるに過ぎん」

勇者「まあ、そのことは王の謁見が終わったら考えよう。そろそろ王宮だ」

兵士「勇者様、お久しぶりでございます。王が玉座の間にてお待ちです」

勇者「ありがとう。さ、行くぞ。覚悟はいいか。特に神官。お前顔にでやすいから気をつけろよ」

神官「そそそそんなことないですよっ」

王「帰ったか、勇者よ」

勇者「はい」

王「お主の噂は他方から私の耳にはいってくるぞ」

勇者「お褒めに預かり光栄です。しかし、魔王の居所については依然手がかりがつかめず……申し訳ありません」

王「いや、よいのだ。もうそれは」

勇者「……?」

勇者「どういう、ことでしょうか」

王「預言者が魔王城の在り処をつきとめたのだ」

勇者「!?」

神官「……!」

戦士「!!」

勇者「なっ……なぜ今になって!?」

預言者「占いには魔力の痕跡を辿る必要がありますから、魔王の魔力を感知しないことには居場所を占いこともできません。
    今まで魔王の魔力は何かしらの術で完全に遮断されていたようで、私もなすすべがなかったのですが。
    
預言者「一週間前……一瞬だけ微かに魔力を感知することができました。
    それを元にしてようやく魔王の居所をつきとめることができたのです」

勇者「一週間ほど、前?」

王「本当はもっと早く勇者に伝えられればよかったのだが。
  急な話ですまんが、明後日魔王城に攻め入る計画を立てている」

勇者「な…!?」

王「勇者、神官、戦士。お前たちも魔王を討つために力を貸してほしい。
  さっそくだが準備を整えてくれ」

王「どうした?顔色が悪いが」

勇者「いえ、武者震いです。明後日の件、了解しました……」

王「そうか。今日は長旅で疲れているだろう。ゆっくり休みなさい」

勇者「失礼します」

バタン

勇者「おい、どーする!?!?」

神官「やばいですよ やばいですよ!!」

戦士「お、落ち着け」

勇者「一体なんで預言者が急に……!とりあえず、魔王に伝えなきゃな」

戦士「作戦の概要を、将軍に聴いてこよう」

神官「そ、そうですね。私は教会の魔法使いの人たちに話を聴いてきます」

勇者「ああ、頼む。転移魔法は一日一回しか使えないから、明日朝一で魔王城に向かおう」

神官「本当は今すぐにでも伝えられたらいいんですけど……!」

戦士「言っても仕方ない。今俺たちができることをしよう」

魔王「……」パラパラ

竜人「……」

魔女「……」

魔女「魔王様ー、その本おもしろい?」

魔王「ああ、なかなかおもしろいぞ」

魔女「表紙が上下逆ですケド…」

魔王「……む」

竜人「ま、魔王様。大丈夫ですよ、すぐにまた勇者様たちいらっしゃいますって」

魔王「別に寂しがってるわけではない」ギロ

竜人「そうですよね。失礼しました」

魔王「含み笑いするな。ハァ、学校にでも顔を出してくるか…」

ヒュンッ

勇者「魔王!!」

魔王「!」

竜人「おや勇者様!ちょうどいい」

魔女「え、なに忘れ物?パンツでも忘れてった?」

勇者「ちげぇ!!大変なことになったんだ!!」

魔王「なに…?」

竜人「魔王城の居場所がばれた!?」

勇者「明日、王国軍が森から攻め入ってくる」

神官「教会の魔術師部隊の精鋭も一緒だそうです…」

魔女「でもさ、おかしくない?なんでそっちの預言者がいきなり最近になってここの居場所を突き止められたわけ?
   この城は10年前からあるんだよ?」

魔王「……」

魔女「結界はさ、魔王様が10年前からずっと維持してるんだよ。
   物理攻撃・魔法攻撃を防ぐのも勿論、魔力の漏えいも防いでる。どんなすごい魔術師だって感知することできないって」

勇者「魔女と竜人はよく結界を抜けてるんだよな?その時に魔力が漏えいする可能性は?」

魔女「ないない。魔族は結界を自由に通り抜けられるんだからさ」

勇者「……ん?」

魔王「……確かに魔女や竜人が出入りする分には問題ない。しかし外から解かれた場合は、別だ」

「「「「…………」」」」

勇者「……俺か!!!!!!」

神官「勇者様〜〜〜〜〜〜!!!」

魔女「勇者ぁ…………」

勇者「ごめん!!!!ごめんなさい!!!!」

勇者「そうか……一週間前、魔王城に辿りついた時、魔法を使ってこの城の結界を一時的に解いてしまったんだった……」

魔王「勇者くんのせいではない。まさかあんな一瞬で預言者に居場所がバレるなどとは思ってなかった。完全に私の落ち度だ。
   こんなことなら迷いの森にいる時点で、覚悟を決めて勇者くんを迎えに行けばよかった」

竜人「まあ、あのときは森で迷って引き返すならそれはそれでいいかなって感じでしたしね」

魔女「てかさ、どーすんの?明日」

魔王「軍は森から到来するのだったな」

勇者「ああ、そうだ」

魔王「それなら、森の幻術を強化しておこう。魔女も協力してくれ。
   また森から来るのなら、海を渡るための舟もろくなのを持ってこれないだろう」

魔王「万が一森を抜けられたら……海で迎え撃とう」

竜人「そうですね」

勇者「できるのか?」

魔王「できなくても、やるつもりだ。私の命に代えても」

勇者「……すまない、俺のせいで。……やっぱり、今から王を説得してくる!」

魔女「やめなよー、そんなの怪しすぎるって。勇者が魔王討伐を止める理由ってなによ?」

勇者「理由はないが、なんとかしてやる……!」

竜人「勇者様、責任を感じているのならよしてください。もともと私たちの問題ですしね」

魔王「そうだ、勇者くんはそちらの国王に言われた通り、軍に合流してくれ。そうしないと不自然だ」

魔女「なーに、300人くらいならへっちゃらだって!私の幻術でみんな森で足止めさせてやるからさ!」

戦士「すまぬ、魔王殿」

神官「ごめんなさい……力になれなくて」

魔王「事前に計画を知らせてくれただけでも十分すぎるほどだ。これで対策も練れる」

勇者「一応聴いときたいんだけどさ、魔族で戦えるくらいの戦闘力をもってるのってどれくらいいるんだ?」

魔王「私と」

魔女「あたしとー」

竜人「私ですね」

勇者「3人だけかよ!本当に大丈夫か!?」

魔王「大丈夫だ。それより勇者くんたちも私たちと接触したことを悟られないように気をつけてくれ」

勇者「あ、ああ……」

2日後

将軍「ここが迷いの森か。この先に魔王が……
   魔族の妨害があるかもしれん、慎重に進め!」

兵士「はい!」

勇者「……」

勇者(結局俺は何もできずに侵攻の日を迎えてしまった。でも、いざとなれば、これで魔王たちを助太刀しよう)

神官「勇者様、それなんです?」

勇者「露店で売っていた東洋の仮面だ。万が一の時には、これを被って魔族のふりをして戦うつもりだ」

神官「わあ!さすがです勇者様!それなら絶対勇者様だってばれませんよ」

戦士「それは、ひょっとこと呼ばれる仮面じゃあないのか…?」

将軍「く……さっきから同じところをぐるぐるとまわっているな。勇者殿、魔法でなんとかなりませぬか!?」

勇者「すまん、わからん。全っ然わからん」

将軍「そうですか……」

魔術師「将軍、お時間さえ頂ければ、我ら魔術師部隊がこの幻術を解いてみせましょう」

勇者(まじか)

魔術師「……魔法陣が完成しました……アンチスペル発動します。離れてください」

神官「あんな大がかりな呪文を……うわ!まぶしっ!!」

魔術師「成功です。森の幻術は消えました」

将軍「よくやった!さあ、夜が明けぬうちに先に進むぞ!!」

勇者(くそっ)

兵士「森を抜けました!海です!」

将軍「ようやく抜けたか。軍の約三分の一の者が、なぜか錯乱して使い物になくなっているのだが、これも魔王の仕業か。小癪な真似を」

戦士(魔女殿か)

勇者(魔女だな)

神官(えげつないほどの薬の効き……間違いなく魔女さん)

兵士「ヒィーーーハハハハwww」

兵士「アロエリラルエ……アルレ……」

勇者(こわい)

将軍「あれが魔王城、か。総員油断するなよ!舟に乗りこめ!!魔王城に侵入するぞ!!」

兵士「うおおおお!!!」

将軍「勇者殿!あなた方のパーティにはぜひ先陣をお任せしたいのですが!」

勇者「ああ、承知した。行くぞ戦士、神官」

兵士「おい、なんか勇者殿、テンションひくくね……?」ヒソヒソ

兵士「ほんとだ……どうしたんだろうな……」ヒソヒソ

勇者「絶対にこの手で魔王を討ち取るぞ!!!勇者の名にかけて!!!
   聖剣の錆にしてくれるわ ウオォーーーーーー!!!!」

兵士「す、すげえ気迫だッ!?」

兵士「さすが勇者殿!!」

ヒュオォォォ……

魔王「きたか……」

魔女「やっぱ舟ちゃちぃね。これならいけそう?」

竜人「ですかね。おや、先頭にいるのは勇者様たちではないですか」

魔王「夜目がきくな、竜人。私の目では何も見えん。もう少し月明かりがあればいいのだが。
   まあ、いいか。勇者くんたちが先頭なら、多少の無茶も大丈夫だろう」

魔女「私は森のトラップ頑張ったから休んでていい?」

魔王「ああ、私と竜人にまかせてくれ。……いくぞ。言っとくが殺すなよ。戦争の口実を与えないために」

竜人「分かってますよ、魔王様」

竜人「この姿に戻るのは久しぶりですね…」

バサッ!

神官「……わー」

戦士「……おお」

勇者「……。何が戦力的に月とミジンコほどの差がある、だよ。嘘をつけ、嘘を!!!」

勇者「これの、どこが!!」

ゴォォォォオオオオオオッッ
 ザッパーーーン!!
ビュォォォォォォッ

竜「ガァァァァッ!!!」

兵士「うわぁぁぁぁぁ!!!波に飲まれるーー!!」

兵士「前に進めません将軍!!!舟が転覆します!!」

兵士「ぎゃーーーー!火を噴くドラゴンだーーーーー!!」

勇者「これのどこがミジンコの戦力なんだよ!!!」

魔王「水魔法、風魔法。これくらいでいいかな
   周りが海だと防衛面で楽だな」
   
   
   
ビュオオオ

ギャーー
 ワーー ザッパーーーン
 
 
魔王「……ちょっとやりすぎか?範囲が広いと加減が難しい……」

魔王「……まあ、大丈夫か」

魔王「勇者くんなら、多少私たちが無茶をしても大丈夫だろう。手加減むずいし」

勇者「……って絶対考えてるだろ、あいつ。せいっ!!」ズバッ

兵士「勇者殿!炎さえ斬るとは……!!助かりました!」

戦士「むんっ!海に落ちた者はほかにおるか!?」ザパッ

神官「ええと、怪我した人はいますかー!?」

将軍「っく!!この嵐とドラゴンでは、撤退するほかないか……!!
   一時撤退だ!岸まで戻れーーー!!」

竜人「やりましたね」バサッ

魔王「よかった。あとは……」

竜人「なにをするおつもりで?」

魔王「もうここの場所がばれているとなれば、することは一つだろう」

勇者「はっくしゅっ!」

神官「はぁぁ、ずぶぬれですね」

戦士「さすが魔王か。あんな嵐を引き起こすほどの魔力があろうとは……それにしても疲れたな」

将軍「くそ、夜間に襲撃したのに何故もうこちらの存在に気づかれているんだ。
   それにしても舟がもう少し立派なら……」

猫「こんばんは、王国軍の将軍よ」

将軍「むっ!?!?」

魔術師「将軍!その猫は使い魔です。きっと魔王の……!」

将軍「なに!!叩き斬ってやるわ!」ジャキ

猫「やめて頂きたい。ただ私は貴公に話があるだけだ」

将軍「話だと!?」

猫「人と争うつもりはない。私たちはそちらに干渉しない、なのでそちらも私たちを放っておいてくれないか」

将軍「信じられると思うか?魔族め。悪逆の限りを尽くす魔王よ、貴様は必ず!!ここにいる勇者殿が倒す!!」

勇者「……お、おうっ!」

猫「言っても聞かないか。ならこの文を、人の王に届けてほしい。承諾してくれるなら、森からすぐに脱出させてやろう」

将軍「取引をしかけようと言うのか、魔王……!」

猫「邪推するな、先ほどの嵐でかなり疲弊しているようだったから手をさしのべたまでだ」

将軍「……くそ、分かった。受け取ろう」

猫「ありがとう」

戦士「ふう。なんとかなったな」

神官「ええ、ホッとしました…」

勇者「……むしろこれからどうなるか、だな。問題は」

神官「え?」

王国 城

王「……魔王の手紙だと?」

将軍「ええ。呪いの類はかかっていないようです。魔術師に調べさせました」

王「ほう。……」

勇者「どのような内容が?」

王「戦争をしかける意志はない。島から出るつもりもない。人とは友好的関係を築きたい、と」

勇者「……あちらが人に危害を加えるつもりはないと言っている以上、こちらも何もしない方がよいのではないですか?」
   悪事を働かぬ魔王なら、討伐する必要はないと思いますが」
   
王「何を言っておる、勇者?魔の者の言葉を信じるのか?」

勇者「相手は魔の者と言えど、意志伝達のできる生物です。それに、この度の魔王城侵攻でも、死者はでませんでした。
   あの魔法で作られた嵐の規模を見るに、魔王にとって我らを皆殺しにすることは容易かったはず。
   それでも今我々が生きてここにいるのは、奴が手心を加えたからに違いありません!」
   
王「勇者よ、考えが少し甘いな。魔族などどいうものの言葉を素直に受け取ってはいかん。裏の裏を読まねば。
  ここで奴らを見逃したら、いつ何時、復讐に燃えた野蛮な連中が王国に攻め入らんとも分からん」
  
王「それに魔族が絶滅すれば、未開拓の大陸北部にも本格的な調査団が出せる。
  大陸北部が我が国の領土にできればどれほどの利益を生むか、想像してみるといい」
  
  

勇者(利益だって……?)

王「さて、今回の討伐では舟が悪かったな。艦砲を搭載した軍艦の使用を許可しよう」

将軍「しかし、王よ。迷いの森を抜ける以外に魔王城へ辿りつく方法があるのですか?」

王「長い航路を辿れば可能だ。我が国も東洋諸国との交易の経験により、昔よりは航海術も進歩した。
  そうだな……1カ月後だ。1カ月後に再び魔王城に向かうぞ。勇者よ、今度こそ魔王を倒すことを期待しておる」
  
勇者(艦砲!?)

勇者「ま、待ってください!」

王「なんだ?」

勇者「王、あなたは魔族が人を度々襲ったり誘拐したりしていると仰ってましたが、俺たちの旅では魔族に一度も遭遇しなかったんです。
   出会った村の人々に聴いてもそうだと言ってました。
   つまり、昨今魔族は全く人の住む地に現れていないのです」
   
勇者「彼らは……本当は無害なのではないですか?本当に、殲滅しなければいけない存在なのでしょうか?」

王「……」

王「やけに魔族の肩をもつな、勇者?」

勇者「ッ……」

王「なにか、旅の途中で価値観を変えるようなことがあったのか?」

勇者「そのようなことは、ありませんでしたが。しかし……今一度よくお考えになった方がよろしいのでは、」

王「お前の王国への忠誠心が変わっておらず、安心したぞ 勇者よ」

勇者「……はい」

王「さて、これから私は大臣たちと会議がある。対魔王の策を練らねばな。下がってよいぞ」

勇者「……はっ」

将軍「はっ!」

勇者「……」

* * *

戦士「はぁぁっ!!!」ブンッ

ガキィィィン!!

戦士「なかなかの強度であるな、結界というのは。俺の渾身の一撃でもヒビひとつ入らぬとは」

竜人「ええ。物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返すように作られてます。
   しかし魔法はともかく物理攻撃は、今の戦士様の剣や弓の攻撃を基準に考えられたのであって……」
   
魔女「大砲はどーなんだろねー」

竜人「試したことありませんからね」

戦士「ふむ……」

魔女「困ったよねー」

勇者「はぁ」

グリフォン「浮かない顔だねぇ。はいお茶。怪しいものは入ってないよ」

勇者「ほんとかよ。ま、ありがとな」

グリフォン「で?なんか用?」

勇者「……や、ちょっと、な。……この本、なんだ?あんた、子ども向けの本も読むのか」

グリフォン「人間社会の教育に興味があるのさ。それは勇者譚。読んでみるかい」

勇者「子どもの頃に読んだやつとほぼ一緒だな。勇者が仲間たちと魔王を倒す旅にでて。最後は魔王を倒して世界に平和が訪れる。
   勇者は英雄としてもてはやされて、最後は自国の姫と結ばれるってオチさ、大体」
   
勇者「俺は勇者に選ばれたとき嬉しかった。普通誰だってそう思うだろ?世界を救う英雄になれるってんならさ。
   ……この本みたく、現実も簡単ならよかった。魔王も悪い奴で、人々は虐げられてて、そうだったなら……
   あ、悪い。あんたに言える話じゃないよな」
   
グリフォン「別に気にしなくていいさ。話半分に聞いてるから」

勇者「そっか。……俺、どうしたらいいのか分からないんだ。魔族を救ってやりたい。でもどうすればいいのか…。
   俺は勇者なのに無力だ。情けない話だよな。
   あんたならどうする?街で一番の年長者なんだろ?年の功とやらで教えてくれよ」
   
グリフォン「私かい?んー……私なら、君の国の王様暗殺して、自分が王になって魔族を救うけど」

勇者「あ、暗殺?あんた……本気で言ってるのか?」

グリフォン「冗談に決まってるじゃん ブフッ」

勇者「殴っていいか?」

グリフォン「だってもしそうなったとしても、国民の魔族への負の感情は残ったままなわけだし、結局同じ歴史を辿っちゃうよねぇ」

勇者「難しいな。なんでこうなっちゃったんだろうな。俺はこの島に来てみて、人間も魔族もそんな大差ないように思えたんだけどな」

グリフォン「難しいだろうさ。知ってるかい?
      100年前勇者に倒された先代魔王が、魔族を統一するまで、それぞれ種族同士の争いが絶えなかったそうなんだ」
      
勇者「そうなのか?」

グリフォン「魚人とマーメイド族。ケンタウルスとエルフ。ヴァンパイアと悪魔族。ずっと戦いが続いてた。人間だってそうじゃないの?」

勇者「……そういえば、そうだな。王国ができる前はもっと小さな都市同士で争いが続いてた」

グリフォン「だろう?つまり、魔族同士、人間同士でだって、違う種族・民族間で手を握り合うのは至極困難なことなんだ。
      どうして魔族と人間がそれぞれ魔王や国王のもと、一つにまとまったかっていうと、多分お互いの存在が鍵だったんじゃないかな。
      ほら、よく言うでしょう。敵の敵は味方だって」
      
勇者「より大きな敵から身を守るために、敵同士まとまったってことか」

グリフォン「だからさ、魔族と人間も、もっと強大な敵が新たに現れれば団結するかもねぇ」

勇者「宇宙人でもこの世界を侵略しに来ねえかな……って、来るわけないだろ」

グリフォン「はははは。まあ、なんとかなるさ。ところで私はいま本を読むだけじゃなく、書いてもみているんだ」

勇者「へえ、どんな本?」

グリフォン「勇者と魔王が手を取り合う話。結末はまだ書いてないけど、ハッピーエンドの大団円さ」

勇者「……そうなればいいけどな。完結したら、読ませてくれよ」

グリフォン「いいとも。君をモデルにしているんだから、本の中の君に負けないくらい、頑張ってくれよ」ニコ

グリフォン「君はきっと、英雄になれるさ」

* * *

魔女「はぁ〜〜〜〜〜 疲れたぁぁ。人間たちが来るまであと1週間かぁぁ。もう対策にヘロヘロだよ〜〜
   まじ勇者たちの王様ってなんなの?ちょう腹立つんですけど」
   
竜人「魔女、当日の回復薬は伝えた分全て精製できましたか?」

魔女「待ってあともうちょっと。ったく、回復薬じゃなくて回復役がほしいんですけど」

竜人「ガンガン攻めるぞパーティですからね、私たち。
   魔王様、当日の魔族全員の避難経路確保しました」
   
魔王「分かった。あとは防護結界の補強なんだが……大砲の威力とはどの程度のものなのだろう。
   一応術式を組みなおしてみたが、もっと強力なものにした方がいいだろうか」
   
竜人「そうですね。でも、これ以上強力になんてできるんですか?」

魔王「正直かなり難しいが、結界は破壊されたら終わりだからな。やれるところまでやってみよう」

魔女「魔王様、ちゃんと休んでる?なんか疲れてない?」

竜人「……確かに。いけませんよ魔王様。研究は少しの間とりやめにして、お休みになられては」

魔王「軍隊がくるまでもう時間があまりないんだ、ここで私が休むわけにはいかない。
   今日は勇者くんたちが来る日だったな。私は研究室にいるから、彼らが来たら呼んでくれ」

バタン

竜人「魔王様……大丈夫でしょうか」

魔女「……」

魔王「……」パラッパラッ

魔王「古い文献を見ても目ぼしいものはないな。……ならばここをもう少し変えてみれば……」カリカリ

魔王「いや、違うな。これでは魔力の消費が激しすぎる。あんまり結界に魔力を使っては、ほかの魔法が使えなくなる……」

魔王「……」カリカリ

魔王「……、あ」ガタン

魔王「しまった、インクが……ああ、せっかく……羊皮紙が全部真っ黒に…………」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……ああもう!!」

ガッシャァァァァン!!
 バサバサ……
 

……ガチャ

魔女「魔王様?なんかおっきな音聞こえたけど、どうし……」

魔王「……」

魔女「うわあ、よろけてぶつかっちゃったの?机の上のもの全部、床にぶちまけられてるけど」

魔王「……ない…」

魔女「……魔王様?」

魔王「なにもかも、全然うまくいかない!!なんでだよ!!!なんで……!!
   私は10年前からずっと、頑張ってきたのに!!!」
   
魔女「え?ま、魔王様、どうし」

魔王「もっともっと強い魔法を考えないと、みんな死んじゃうんだっ!
   早くしないと、時間が、時間がないって分かってるのに!!」ダンッ
   
魔女「ちょ 落ち着いてって……まお」

魔王「うるさい!!!うるさいうるさいっ 大体なんで人間の王はあんなに分からず屋なんだよっ
   こっちは戦争とか始めるつもりなんかないって言ってるじゃないか!!
   どうせ権力が脅かされるのが怖いだけだろっ!!」ダンッダンッ
   
魔女「ま」

魔王「魔族に会ったこともないくせに!この臆病者が!!」

魔王「一週間後もし私たちが人間どもを撃退できたとしても、いつかまた人間どもはこの島に来る。
   また逃げればいいのか?どこまで?そもそも、そんな都合のいい土地あるのか?」
   
魔王「私たち魔族は………………この世界で生きていくことすら許されないのか!?」

魔王「ふざけるなっ!!!」

魔女「魔王様、」

魔王「やっぱり、人と魔族が分かり合うことなんて無理なんだ……ッ!!!
   私たちの声はあいつらに掻き消されるばかりだ!!!」

魔王「私たちは……人間に勝てない……!!」

勇者「そんなことねぇよ」

魔王「……ッ」ギロ

勇者「分かり合えないなんてことはない。絶対できる」

魔王「所詮詭弁だ。勇者くんは人間だからそんなことが言える!私の、私たちの気持ちなんて分かるはずもない!」
   それとも慰めのつもりか?滅びゆく種族への憐憫か!?
   もういい……たくさんだ!!!もう、いやだ……」
   
魔王「人間なんか大っきらいだ!!ずっとずっとずっとずっと思ってた!!
   きらいきらい大っきらい!!!みんな死んじゃえばいい!!!」
   
勇者「……」

勇者「その、嫌いとか、[ピーーー]ばいいってやつに、俺もはいってるのか?」

魔王「…………っ、……………ぅ」

勇者「俺もさ、この城に来て、魔王や竜人、魔女に会う前は…島に住んでる魔族に会うまではそう思ってたんだ」

勇者「でも今は違う。ほら、俺は勇者で人間で、お前は魔王で魔族だけど、
   こうして今は分かり合えてる。手をとりあえてるじゃないか」
   
魔王「それはっ 勇者くんが……変なんだ!」

勇者「違う、むしろ世界で一番ありえない組合せだろ。神だって予想できなかった組合せのはずだ。
   一番難易度の高い俺を一番最初に落としたんだから、これからはもっと容易いはずだろ?」
   

勇者「人間と魔族は、共存できる。俺とお前がその証拠だ!」

魔王「……っ」

勇者「…本気で思ってたわけじゃないんだろ。ちょっと疲れちゃったんだよな」

魔王「……」

勇者「お前はひとりじゃないよ。竜人も魔女も俺も神官も戦士も、お前の味方だ。一緒にこの島を守ろう」

魔王「…………とり乱して、ごめん。魔女も…」

魔女「ううん。びっくりしたけど。魔王様、やっぱりちょっと休んだ方がいいよ!ほら、こっちのソファに座って!」

魔王「床かたさないと」

勇者「いーーから、さっさと休め!どーせ最近寝てないんだろ、お前のことだから。睡眠不足だと身長伸びないぞ」グイ

魔王「わっ ゆ…勇者くん。降ろしてくれ」

魔女「私たちがここ片づけるからさ。ゆっくり休んで!ね!」

魔王「い、いや。大丈夫だから」ワタワタ

勇者「濃い隈つけた奴が足掻くな。寝ろ」

魔王「隈などつけては…………ぐー」

勇者「こいつって、寝付きだけは異常にいいな」

魔女「勇者助かったよー 魔王様普段あんまり怒らないからさー」

勇者「だろうな。ま、大勢の期待を一身に背負うって結構きついから、ストレス溜まってたんだろ。それにこんな状況だし」

魔女「魔王様があんなに怒ったところ……」

勇者「初めて見たってか?」

魔女「私が勝手に魔王様のケーキ食べた時以来だよ……怖かった」

勇者「意外としょうもなかったな」

魔女「魔王様の負担を少しでも、減らさなくっちゃね。私もさっそく頑張って薬品作りますか」

勇者「……あと、一週間か」

勇者(……俺は……)

* * *

魔族「魔王様だ。今日うちで獲れた野菜もってきます?」

魔族「魔王様!おはようございます」

竜人「いい天気ですね。魔王様」

魔女「ねえねえ魔王様〜 今日人間の街に行ったときにね、ちょうおいしいお菓子買ってきたよ!一緒に食べよ」

魔王様!
 魔王様……
 
 
魔王(私の大切な、大切な宝物)

魔王(この島にあるもの、全部、消させはしない)

魔王(絶対……絶対に、守ってみせる)

魔王(私は魔王なんだから……)

* * *

そして時が過ぎ、運命の日がやってきた。

時の女神「……」

時の女神「また、戦争がはじめるのですか。いや戦争と言うにはあまりにも……」

時の女神「……」

星の都

王子「……今日か。太陽の国の軍隊が魔族を制圧するというのは。
   さてどうなることやら……」

雪の国

女王「私の国の軍隊も貸せなどと厚かましくも文をよこしおって。だからあの国の王は嫌いなのじゃ。
   ふん、あいつの国も魔族も関係ない。せいぜい高みの見物でもさせてもらおうかの」
   
女王「結果が楽しみじゃ。あ奴の自慢の軍が負けるとも思えんがの……噂の魔王とやらはどうでるのか」

子エルフ「わーい魔王城だ魔王城だー!」

子ヴァンパイア「冒険しようぜ!」

エルフ「こら!だめ、今日は母さんと父さんの近くにいなさい!!」

魚人「人間が舟で攻めてくるって?この間みたいに魔王様と竜人様がズガーンとやっつけてくれんだろ?」

キマイラ「そうなればいいのですがね」

魚人「なーに 心配いらねえって。酒でも飲むかい!?」

キマイラ「あっ、海を見てください!あれが人間の乗った船ではないですか?」

魔王「……ついに、来たな」

魔女「ふはは、よく来たな愚かな人間たちよ!返り討ちにしてくれるわ!!」

竜人「なんですかソレ」

魔女「魔王様の代わりに魔王っぽいセリフを吐いてみた」

魔王「いらん。しかし……その心持でいった方がいいかもしれない。
   随分大きな船だ。それもあんなにたくさん、か。一か月前とは比べ物にならないな」
   
竜人「手加減なんてしてる余裕ありませんね」

魔王「とりあえず砲撃が一番厄介だ。射程距離に入られる前に追い返すことが目標だぞ」

竜人「ええ。そろそろ行きますか、魔女」バサッ

魔女「箒に乗って飛ぶのイヤなんだよねー だって下から見たらパンツ丸見えじゃん?」

竜人「馬鹿言ってないで、行きますよ」

魔女「はいはい」

魔王「二人とも、…………」

竜人「死にませんから大丈夫ですよ。必ずあなたの元に帰ってきます。では」バササッ

魔女「頑張ってくるね、魔王様!」ビュン

魔王「……頼りにしてる」

将軍「見えてきたぞ、魔王城だ。魔王軍は見えているか?」

兵士「ぐ……軍?なのか分かりませんが、幼子と細身の人物が二人……」

将軍「ふむ?軍を用意していないとは、まだこちらの来襲に気づいていないのか、はたまた慢心しておるのか……
   砲撃の射程範囲に島が入り次第、一斉に撃つぞ!!」
   
兵士「ハッ!」

兵士「……!将軍!!ドラゴンとあともう一人こちらに向かってきます!!」

兵士「マストに火がー!!」

兵士「くっ、なんて力だ!!」

魔女「こっちだって負けないよ!睡眠魔法!混乱魔法!麻痺!失神!魅了!!」

兵士「うわあああああっ 状態異常のオンパレードだぁぁぁぁ!!早く逃げろおおおお!!」

魔女「はい毒薬プレゼント!毎秒体力30%削る魔女ちゃんお手製ですよ!」ポイ

兵士「逃げろーーー!!もしくは撃ち落とせーーー!!!」

ワーワー
 バキャッ ニゲロー

将軍「ひるむな!!ええい、弓兵!射撃兵!撃ち落としてしまえ!!!」

兵士「ハッ!!」チャキ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ズォオオオオオオオオッ

魔王「……クラーケンは生憎会ったことがないが。
   その姿、お借りしよう。最大水魔法」
   
   
クラーケン「ォォォォォォオォオォッッ」

兵士「ぐ、軍艦と同じくらいの大きさの……イカ!?!?」

魔術師「いえ、これは魔法で作られたまがい物です!」

ッバッシャァァァアン!バキボキボキッ!!

将軍「くそぉ!このままでは軍艦が破壊されるのも時間の問題か!!しかし、もうすぐで射程距離に……!」

将軍「勇者殿!!しばらく時間を稼いでくれませぬか!?」

勇者「やってるよ!」

戦士「fjりえsfじょrs」

神官「きゃーー!戦士さん!!混乱状態になってるー!!」

勇者「あーこのイカ斬っても斬っても意味ない(棒)」

勇者「しまった、イカ斬ろうとしたら大砲ぶった切っちまったぜ(棒)」ズバッ

戦士「jrふぃおえsじおdsr」バキボキ

将軍「ちょっ なにしてんだあんたら!!!」

竜(く、なんて頑丈な船だ。全部燃やしつくしてやろうと思いましたが、難しいみたいだ)

魔女「チッ うざったい魔術師だなぁ!私がかけた状態異常魔法、かたっぱしから解かないでよっ!!」

竜(数が多すぎる!私たちが戦闘不能にしていってる人数は確実に増えているはずなのに…これでは)

魔王「3艦やったな。あと残り何艦だ…?数える暇も惜しい。早くしないと」

兵士「将軍!射程範囲に入りました!」

将軍「よし、やっとか。砲撃用意!!!」

将軍「今だ!撃てーーッ!」

ドガァンッ!ドガン!

ひゅぅぅぅぅぅ…

魔王「!!」

魔王(持ちこたえてくれっ……!)

バチンッ!!!バチバチッ!!バキッ!!

魔王(……耐えたか…?いや、一か所ヒビが入っている。同じところに2回砲撃を食らうと流石に耐えきれないか)

魔王(今なら修復が手早く済ませられる!一回水魔法は解かねばならないのが痛いが。竜人、魔女、ひとまずまかせるぞ)

将軍「なんだ、結界かなにかが張ってあるのか!?弾かれたな」

魔術師「結界でしょうね。ですが一か所綻びができたようで……。さて、こちらも準備が整いました」

勇者(イカがいきなり消えた?まさか、結界が破られたのか!?)

神官「ゆ、勇者様!」

勇者「!?」

竜「くそっ 魔王様!!」

魔女「竜人!あそこの船の魔術師たち、なんか大がかりな魔法発動させようとしてる!!」

竜「!!させるか!!!」

魔術師「……」ニヤ

魔術師「彼の者たちを捕えよ!捕縛魔法!」

バチバチバチッ

竜「!?か、体が……」

魔女「ぎゃーっ!なにすんのよー!!」

将軍「捕えたな。全く手こずらせてくれたものだ……!!
   よし、再装填……といきたいところだが、先ほどのイカの化け物のせいで予備の砲弾が使い物になるかどうか」
   
兵士「少し時間がかかるかもしれません!」

召喚師「それならば我ら召喚術使いにおまかせを。時間稼ぎくらいならできますよ」

将軍「頼んだ。よし、大砲班以外の兵士たちは上陸の準備を済ませておけ!!」

将軍「これは……王から仰せつかったことだが。適当に何匹かの魔族は殺さず捕えておけとのことだ」

兵士「何故ですか?」

将軍「見世物にでもするのだろう。もしくは学者たちに譲渡されるか……私には理解できぬ趣向だがな。
   しかし王の命令ならば従うほかない」
   

召喚師1「召喚魔法!いでよ大鳥!」

召喚師2「さ、行きますか!」

召喚師3「結界の綻びを狙うぞ!!」

勇者「あっ おい!!」

兵士「将軍!捕えたドラゴンと魔女はどうなさいますか?」

将軍「捕縛魔法にも限界があるからな、今のうちに撃ち殺せ」

兵士「ハッ」

竜「うぐッ……!この……!!」

魔女「ちょっと、竜人……なんとかしてよ……!!」

兵士「構えろ。一斉に撃つぞ」

兵士「はい」チャキ

勇者「……!!」

魔王「!!竜人!魔女!くっ……!
   焦っちゃだめだ、結界を早く修復しないと……ええと」
   
魔王「…?なんだ あれは?……人か!?」

召喚師1「見つけた、ここが結界の綻びだ!」

召喚師2「俺がやる」

魔王「な……っ やめろ!」

ガキィィン!!!
―――パリンッ……

魔王「……!!」

召喚師2「成功だ!結界が破れたぞ」

召喚師3「こうなりゃこっちのもんだな。将軍に知らせよう。上陸できますとな」

召喚師1「ん?ウオォ!!?」ヒュッ

ゴォッ

魔王「お前ら!よくも!」

召喚師3「げっ!?なんだこの火炎魔法!!もしかして、これが魔王!?」

召喚師1「こんな子どもが?なんにせよここからすぐに去るぞ!戻れ!」

召喚師2「ああ。……ほらよ、置き土産だ!!出でよ幻獣!奴を噛み殺してやれ!」

幻獣5匹「グルルルル…」

魔王「小賢しい真似を。しかし上陸される前に結界を一から張りなおさなければ……」

魔王(魔力の残りも結界を張るので精いっぱいだ。こいつら相手に使っていられる余裕もない。
   剣は得意じゃないんだが、早くこいつらを片付けて結界張って竜人と魔女を助けないと)
   
幻獣「ガァッ!!」

魔王「っうぐ…!」ガキン

魔王「……こ、こんなことならもっと剣の訓練をしとくんだったな」

魔王「ちょっと厳しいかもしれないな、これは……」ハァハァ

竜「魔王様!」

魔女「魔王様ぁー!」

兵士「…よし、撃」

勇者(くそ!!!なんとか……なんとかする方法はないのか!?)

勇者(………ハッ!!)

勇者「ウワァー!!急に体が勝手にウゴクー!!
   魔王に操られてしまったみたいだ最大雷魔法(レベル99)!!!!」
   
   
カッッ! 
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!

兵士「ガッ」

将軍「グッ!?」

魔術師「ギッッ」

神官「ええええええ!?」

戦士「神官、伏せろ!」

パチパチ……バリッ……

将軍「」
全兵士「」
魔術師「」

勇者「やっちまった……大丈夫か、竜人!?魔女!?」

竜人「え、ええ。少し体がしびれますが」

魔女「勇者って……ちゃんと勇者だったんだね」

勇者「どういう意味だよ。って違う!それより魔王が!!」

  
カッッ! 
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!

魔王「!?うわっ…なんだあの魔法は?」

幻獣「ガゥ!」バッ

魔王「!……いっ……」

幻獣「ガァァァァ!!」

魔王「ッ!(間に合わない…!)」

ガキン!!

魔王「え?」

魚人「無事ですかい魔王様!おらっ獣は消毒だぁー!」ブンッ

幻獣「キャウンッ」

キマイラ「魔王様下がっててくださいね」

グリフォン「やれやれ、もう戦えるような年じゃないんだけど」

キマイラ「なに言ってんですかまだまだ若いでしょう」

魔王「なんで……危険だ!城に避難していてくれって伝えただろう!」

魚人「そりゃあ俺たち魔法も何も使えませんがねっ こちとら毎日酔いつぶれた客相手にしてんだ!
   それに比べりゃこんな獣、相手になりませんよ!」
   
ボカッ!ザシュッ!

キマイラ「そういうことですね」ガブッ

幻獣「ギャッ!」シュゥゥゥ…

グリフォン「生命をもたぬ獣か。人間もなかなかおもしろい術を考える」

魚人「おいっ くっちゃべってねぇであんたも戦ってくださいよ」

キマイラ「魔王様は早く結界を!」

魔王「っあ、ああ!」

ヒュンッ

勇者「魔王!無事か!?」

魔王「えっ!?勇者くん?」

竜人「お怪我されてるじゃないですか!なにしてくれとんじゃこのクソ幻獣がッ!!」バキッ

魔女「結界が破られてるね」

勇者「あれ?さっきこっちに来た召喚師どもは?」

魔王「船に戻ったが……勇者くんこっちに来て大丈夫なのか?」

魔女「船の人間全部、勇者が気絶させたよ」

魔王「え」

竜人「どうやらその召喚師とやらで最後みたいですね。3人くらいならば私一人で十分です、食いちぎってきます」

魔女「いや殺しちゃだめでしょ?」

竜人「フ○ック!魔王様に怪我させた奴ら生かしといていいんですか!?嫁入り前の娘になんてこと!」

魔王「……竜人、私はいいからとりあえずその召喚師を気絶させてきてくれ。気絶な、き・ぜ・つ」

竜人「承知しました!!ぶっ殺す!!」バサッ

勇者「話聞いてたかお前!?」

魔女「ハァ、あたしもついてくよ……」

魔王「……」

魔王「……ん」パチ

魔王「……いつから寝てたのだろう」

竜人「あ、お目覚めですか。よかった」

魔王「今日は何日だ?」

竜人「人間が軍艦でやってきてから1週間です。
   魔王様は結界を張りなおしたことによって魔力を使い果たして、あのあと倒れてしまったんですよ」
   
竜人「獣にうけた傷も塞がってますね。痕が残らないで本当によかった」

魔王「そうだ……勇者くんは?人間たちを気絶させるために魔法を使ったのだろう。
   無事なのか?今どこに?」
   
竜人「そこらへんはうまくごまかしたみたいですよ。今彼は王国にいます。
   一度、魔王様が眠っている間彼らが話をしにやってきました」
   
魔王「……どんな?」

バタン

魔女「半年後。さらに兵士も魔術師も増やして、これで最後の最後、本気で仕留めるって覚悟で
   もう一度魔族討伐作戦を決行するってさ」
   
竜人「魔女、」

魔女「やっぱ今回の軍艦破損が痛かったのかな。大分時間が空いたよね。助かるよ」

竜人「どうでした?見つかりましたか?」

魔女「全然。そんな簡単に見つかるわけないしね」

魔王「……なんの話だ?」

魔女「魔王様」

魔女「この島から逃げましょう」

魔王「え…?」

竜人「いま魔女と私で、まだ人に見つかっていないような土地を探しています。魔族が全員住める、この島のような、土地を」

魔女「もうここはだめだよ。2度目の襲撃で陥落しそうになったのに、3度目で耐えられるわけない。
   私たちがいくら頑張っても、所詮3人じゃ無理があるよ。しょうがないよ」
   
竜人「幸い時間は半年間も残されています。その間に私たちで新たな魔族の地を探しだしてみせます。
   魔王様は何も心配されなくて大丈夫ですよ。ご療養に専念してください」
   
魔王「待ってくれ。逃げるって……新たな魔族の地なんて、まだこの世界にあるのか?
   この島だってようやく見付けだしたものなのに…」
   
魔女「大丈夫ですよ。なんとかなる!また、逃げましょう。昔みたいに。逃げて逃げて逃げまくろう。この世の果てまで」

竜人「せっかく10年かけて作り上げたこの街や畑を手放すのは惜しいですが。また作ればいいんです。ね」

魔王「…………うん…そう、だな。仕方のない……ことだ」

魔王「……頼む」

勇者「待ってくれ!!」バタン

勇者「勝手に上がらせてもらってるぞ」

神官「こんにちは皆さん。魔王さん目が覚めたんですね」

戦士「久方ぶりだな」

竜人「勇者様たち。どうされたんですか?」

勇者「話があってきたんだ。俺は……」

勇者「俺は、6か月以内にクーデターを起こすことにした!国王を王の座から引き下ろす!!」

魔王「え?」

魔女「?」

竜人「えええ!?」

勇者「といっても暴力的な手段に訴えるわけじゃない。無血クーデターだ。俺の国の法律には特例があってだな……」

魔王「ちょ、ちょっと待ってほしい。勇者くん。なにを言ってるんだ?」

勇者「なにって?クーデターを起こすんだよ。魔族を救うにはそれしかない。何度説得してみようと思っても無駄だった。
   魔族に強い嫌悪感をもってるあの王が国王のままじゃ、いつか魔族は滅ぼされるぞ。もしまた半年後に軍隊を撃退できてもな」
   
魔王「クーデターって、そんなことを勇者たる君が率先して行っていいのか?大体ばれたらどうする」

勇者「ばれたらまずい。そりゃあな。しかしばれなければまずくない」

戦士「当然だな」

魔王「…危険だ」

勇者「大丈夫だ。俺は正しいことを行いたいだけだ。道を踏み外したくはない。俺が見た限りでは、
   国王のやろうとしていることは悪で、お前らの主張が正しいように思えるんだよ。善悪なんて二元論じゃ語れないかもしれないが」

勇者「とにかく、まあ聞け」

〜〜〜〜

勇者「半年後に……また、ですか」

王「これで最後だ。そのつもりで惜しみなく軍力を注ぐ」

勇者「…………」グッ

王「雪の女王はまた素気無く断るだろうが、星の王子は捕えた魔族を被験体として差し出すと申せば、
  もしかしたら軍をよこしてくれるかもしれんな」
  
王「今度こそ必ず魔族をこの地から根絶やしにする。分かっておるな、勇者」

勇者「……何故ですか?」

王「何故と申すか?おかしなことを聞く。この世界は我ら人の支配する地だ。危険因子となる野蛮な種族は……
  浄化してやらねばならん。神の仰せのままに」
  
勇者「……………………」

バタン!

姫「お父様!今のお話は本当なんですか!?」

勇者「!」

王「やれやれ。盗み聞きとは感心しないぞ、娘よ」

姫「それより、今のお話。また半年後に軍隊を出動させるですって?軍費は無限じゃないんですよ。
  そんな害をなすか分からない魔族に資金を費やすより、もっとやることがあると思います」
  
姫「福祉施設や学問施設の設立。今ある数多の孤児院や病院だって、お金を必要としているところはたくさんあります。
  難民の問題だって残っているじゃありませんか」
  
王「娘よ。王たる者は長い目で物事を見通さなければならん。ここで魔族を取り逃がしたら将来苦労するのはお前たちの代だぞ」

姫「ですが……」

王「もうよい、さがれ。勇者も下がってよいぞ」

姫「なによ!お父様の分からず屋。勇者もそう思うでしょ?」

勇者「あー……ははは。相変わらずですね姫様」

姫「お父様は私の話なんてちっとも聞いてくれないの。どうせ娘は王位継承者じゃないからって、軽んじてるんだわ!んもう」

勇者「そんなことありませんよ……多分」

姫「気をつかわなくて結構ですわ。私、お父様が時々風車を巨人だと思って突進するドン・キホーテに思えます」

勇者「なまじ力があるだけに厄介だよな。……あっ!も、申し訳ありません!」

姫「ふふふ、そのように気さくに喋って頂いて結構ですのに。何度も申し上げていますけれど。
  ではまた会いましょう、勇者」
  
勇者「ええ。また」

勇者「……ドン・キホーテね……原作なら突進して大けがするけれど、王が騎士なら風車は全壊だ」

勇者「……なんのために、この剣を振るうべきなのか。俺はもう分かっているはずだ」

宿

神官「半年後って、どうしましょう、勇者様」

戦士「これはかなりまずい事態だな……なんとかならんのか」

勇者「……国王を裏切ろう」

神官「はい、そうですよね……って、はいいぃぃ!?」

戦士「ブゴッ!」ビチャ

勇者「国王を!裏切る!!俺は決めた!!」

神官「ちょっと!!声が大きいですって!!処刑されかねない発言はせめてもうちょっと小さな声でお願いしますよ!」

勇者「俺はもう王のもとで剣を振るうことができない。神の仰せのままにとか言ってるけど
   要するに戦争になったらまずいから今のうちに反乱因子を排除しようってのと、元魔族の住んでいた大陸北部の土地がほしいだけだろ!」
   
勇者「完全に小心者が私利私欲に目がくらんだ結果じゃないか。魔王たちは戦争なんて起こすつもりなんかない。
   なのにこのままだとあいつら本当に絶滅させられちまう。クーデターしかねえよ」
   
戦士「しかし……クーデターとは。具体的にどのように起こすか考えているのか?」

勇者「う…それはまだ。できれば穏便に済ませたいんだが」

神官「それならあるかもしれません」

勇者「ほんとか!?」

神官「た、ただですね。かなり成功率は低いと思いますよ……事実歴史上いまだ誰も達成できていない方法です」

勇者「それでもいい。どんな方法なんだ?」

神官「この国は、国王が治める君主制の国です。太陽の国だけじゃなく、雪の国も星の国も。それは知ってますよね?」

戦士「うむ」

神官「でも絶対君主制ではないんです。制限君主制なんですよ、大陸にある3国とも」

勇者「おい、話が難しいぞ。よく分からない」

神官「ええとだから、国王が好き放題できるかと思ったらそうではないんです。一つだけ、国王の定める法より上位の法が存在しているんですよ」

神官「それが神法です。一条だけ神によって定められたという、神法」

神官「その一条とは、『一人の国王が王らしからぬと判断された場合、他の二国の王がそれを認めれば、その王を王座から追放することができる』
   というものです」
   
戦士「……??」

勇者「……??」

神官「えーと!ええっと!」

神官「神法が制定されたのは、大昔に三国のうちどこか一国で悪質な独裁者が生まれてしまったことが発端だったんですよ。
   その国の国民だけじゃなくて、大規模な人間同士の戦争も起こっちゃってかなり被害が大きかったそうです。その年は一気に人口が減って……」
   
神官「で、そういうことがまた起きたらまずいってことで、国王以外の者が条件を満たせば国王を追放できるっていうこの法が生まれたんですよ」

勇者「へえ。つまり、俺たちも雪の女王と星の王子から認定をもらえば、無血で革命が起こせるってわけか!!」

戦士「なるほどな、幸い俺らはその二人とも面識がある。便利な法があったものだ」

神官「あ……でもですね!これには続きがあって。革命によって国王がいなくなったら、そのあとだれでも王になっていいってわけじゃないんです
   その国が法律で定める王位継承者。正式な継承者と、二国の認定書があって初めて行えるものなんですよ」
   
勇者「この国の王位継承者って王子だよな。姫様の兄の」

戦士「いま他国に留学中だと聞いたが」

勇者「つうか俺会ったことないな。いつから留学中なんだ?」

戦士「さあ。俺も見たことがない」

神官「私もです。これは噂なんですけど、留学とは言えど行方が分からないそうですよ……」

勇者「は!?」

勇者「一国の王子がそれで大丈夫なのか!?オイオイ」

神官「たまに王宮に手紙が届くそうなので、生きてはいらっしゃるんでしょうけど……」

戦士「その王子を連れ戻さなければ、無血クーデターも始まらんというわけか」

勇者「まあ、どうせ世間知らずのボンボンなんだろ?行方不明とは言っても多分大都市を見て回ればすぐ見つかるんじゃないか」

神官「だといいですけど。ああ、それにかなりの美男みたいですよ。結構目立つと思います」

勇者「羨ましい限りだ。よし、とりあえずクーデターの方向性は決まったな。あとは動くのみだ!
   ……勝手に話進めたけど、お前らは別に危険を冒す必要はないぞ。俺が勝手に決めたことだしな」
   
戦士「といっても、計画のほとんどを今話してしまったではないか。これで俺が今すぐ王にこの件を伝えたらどうするつもりだ?」

勇者「うっ……」

戦士「ハハ、冗談だ。水臭いことを言うな。協力するに決まっているだろう」

神官「わ、私も……やってやりますよ!勇者様、協力します!共に魔王さんたちを救うために頑張りましょう!」

勇者「ありがとう、神官、戦士。そう言ってもらえると心強いぜ」

勇者「よし……!打倒国王だ!!」

神官「おーー!」

〜〜〜〜

勇者「というわけだ」

魔王「勇者くんは馬鹿だったのかな?」

勇者「ええー!!?なんだこの言われよう。お前らのためにと思ってだな!」

魔王「危険すぎるだろう。そんなのマーメイドの目前で魚料理食べるレベルの危険度だ」

神官「例えがよくわかりませんけど魔族ジョークかなにかですか?」

魔王「その神法が勇者くんや戦士殿が知らないくらい公にされていなかった理由はなんだ。それが歴代国王にとって都合の悪いものだからだ。
   あの王がこの神法を利用しようとする者を畏れないはずがない。その危険性がわずかでもあれば躍起になって探すはずだ」
   
魔王「死ぬぞ」

勇者「死なないよ。これしか方法はないだろ?だったらやるしかないじゃないか」

勇者「行方不明の王子を見つけ出す!雪と星の国から認定書をもらってくる!そしてお前らを救ってみせる」

魔王「……なんで、そこまで。勇者くんは人間なのに…」

勇者「あーもう、人間とか魔族とかもうこの際関係ねえだろ!俺は守りたいもんを守るために力を使いたいんだ、ただそれだけだ!」

魔王「……。………馬鹿か」

竜人「皆さん……ありがとうございます。そこまで力になって頂けるなんて」

魔女「ほんと助かるなー!私たちも勿論クーデターに参加するよ!ていうかクーデターってなに?」

竜人「あなたはちょっと黙ってて下さい」

勇者「で、だな。まず王子の居所を突き止めるのと、2国への遠征をするのも勿論なんだが、
   俺たちの支持者を集めることも大事だと思うんだ」
  
戦士「いきなり王位が変わっても理由が分からなければ国民にとってはなんの意味もないからな。
   俺たちの行動意義を世間に広めなくては」
   
神官「どうせ水面下で活動するなら、輪を広げてやった方がいいですからね」

魔王「なるほど。でもどうやって?」

勇者「まず姫様みたいに度重なる侵攻を軍費の無駄遣いと考えてる人。
   それからきっとこれから税も重くなるだろうし、それを不満に感じる人もでてくるだろう」
   
勇者「まあそこらへんの王への不満を逆手にとって、こっちの仲間にしようかと思う。
   王都だと魔族にほとんど無関心……つまりいい感情も悪い感情ももってない人がいるしな。姫様みたく」
   
神官「できれば影響力と経済力のある人を早々に味方にいれたいですけど、難しいですかね」

戦士「やってみなければわからんぞ」

勇者「まず俺と神官と戦士で支持者集めをするから、魔女と竜人は王子を探してほしい
   その王子っていうのがどこにいるのか分からないんだが……とにかく美男らしいぞ。今のところ手がかりはそれだけだ」
   
魔女「美男!?イケメン!?よっしガンバろーね竜人!」

竜人「えええ手がかりそれだけですか!?さすがに難しいですよ!?」

勇者「一応王子だから身なりは小奇麗だと思うし、オーラもあるんじゃないか?」

竜人「だから曖昧すぎますって。そんな人物世界で何人いると思ってるんですか」

魔女「要するにキング・オブ・ザ・イケメンを探せばいいんでしょ?大丈夫、あたしにまかせてよ」

竜人「こら安請け合いしない!後で後悔しますよ!」

魔王「地盤から固めていくのだな。よし勇者くん!私も精いっぱい頑張るぞ。なにをすればいい?」

勇者「あー……」

魔王「なんでもやるぞ。遠慮せずに言ってほしい」

勇者「えっとな。遠慮とかじゃなくてな。お前は何もしなくていい」

魔王「なっ 何故だ。私だけ何もせずにいるなど、魔王の名が廃る」

勇者「お前この城から出れないしな……ぶっちゃけ今の段階じゃあ役立たず!」ビシ

魔王「や…役立たず」ガーン

勇者「つーわけでしばらく俺たちに任せろよ。魔王はこの島の自治とかいろいろあるだろ?あと城の草むしりとかさ」

魔王「勇者くんたちがクーデターのために尽力している間に、魔王の私が草むしりだと?
   やだ」

勇者「やだってお前」

魔王「私も何かしたいんだ」

竜人「魔王様はゆっくり休んでてくださいよ」

魔王「やだ。やだやだやだ。何かできることはないのか」

勇者「残念ながらねえな。とりあえず当分俺らにまかせろって。駄々こねんな」

魔王「……」

勇者「睨んでも無駄だ」

魔王「…………っ竜人、魔女。何か…」

魔女「じゃああたしの部屋片付けといてー」

竜人「自分で片付けなさい!!全くちょっと目を離すとすぐに自室散らかして!散らかしの天才ですかあなたは!!」

魔女「ぶー」

魔王「違う、そういう日常的なものじゃなくて、もっと重大な役割を……」

戦士「……」ポン

神官「……」ポン

勇者「諦めろ、魔王」ポン

魔王「やだ!」

* * *

王都

神官「いよいよ今日から活動開始ですね。で、誰から声をかけますか?勇者様」

勇者「いろいろ考えたんだけど、姫様がいいんじゃないか」

戦士「い、いきなりか」

神官「勇者様……ちゃんと考えてますか?裏切ろうとしてる王に最も近い人物じゃないですかっ
   いいですか、私たちの支持者集めは、声をかけたら99%承諾してくれる人を選ばなくちゃならないんですよ!」
   
神官「だってクーデターのことを話すってことは、当然私たちがクーデター策謀者だってこと正直に明かすってことなんですよ」

勇者「分かってるさ。でも姫様なら、絶対いい返事をくれそうな気がするんだよ。彼女は国民のことを真摯に考えてる」

戦士「リスクが高すぎる気がするが……まあ、旅の中でお前のそういう直感が外れたことはなかったな。俺はお前に着いていこう」

勇者「悪いな、いつも無茶つき合わせて」

神官「ええー…本当にいきなり姫様にいくんですか!?私だって姫様を疑うわけじゃないですけどぉ…もうちょっと考えた方が……」

勇者「問題ない!俺にまかせろ!!」

神官「えええええー…」

宮殿

門番「これは、勇者様。いかがいたしましたか。陛下には今謁見できないのですが…」

勇者「いや、陛下じゃなくて、姫様は……」

姫「?勇者、私になにか用なの?」

勇者「姫様!ちょうどよかった。少しばかりお話が」

姫の部屋

神官(うわーうわー!姫様のお部屋、すごい豪華……)

戦士(こらキョロキョロするな)

姫「珍しいですわね、私個人にお話なんて。一体どうしたの?」

勇者「ええと、昨日、王との謁見の後にしたお話を覚えてらっしゃいますか」

姫「?ええ。それが何か?」

勇者「……えっと、なんて言ったらいいのか…。俺たちクーデター起こそうと思ってるんですけど」

姫「!?!?」

神官「」ズコー

戦士「」ズコー

姫「くっクーデターですって…?」ガタガタ

神官「勇者様ぁーーーー!!いくらなんでも言葉選ばなすぎです!!!」

勇者「ぐえぇッ 苦しい…!」

神官「違うんです姫様!あの衛兵呼ぼうとしないで下さいごめんなさい!ちょっとうちの勇者様アホの子で!!」

戦士「まことにすまん!とりあえず話を聞いてくれ!!勇者が馬鹿で本当に申し訳ない!」

勇者「誰が馬鹿だオイっ 申し訳ありませんでした姫様!ちょっとだけ話聞いてください!!」

姫「……で、どこが誤解ですの……勇者、まさか本気でクーデターを起こそうとしてませんよね?聞き間違いですよね?」

勇者「姫様は国王様が魔族相手に軍を派遣することに否定的でしたよね?」

姫「ええ。もっと使い道はたくさんありますもの……」

勇者「俺たちも姫様と同じように考えてるんです。軍隊なんて派遣するべきじゃない。
   なんとか国王様にそのことを訴えたんですけど、どうにも……」
   
神官「姫様は神法のこと、ご存じですか?」

姫「神の法……勿論ですわ。まさか、あなたたちはそれを実行に移そうとしていらっしゃいますの?」

勇者「……はい。半年後の一方的な戦争を起こすのを阻止するためには、国王に王座から退いて頂くほかないと判断しました。
   姫様。どうかあなたの力を貸していただきたいのです」
   
姫「……」

戦士・神官「……」ゴクリ

勇者「お願いします。俺たちに力を貸してください。よりよい国の未来のために」

姫「……二つ、質問させて下さい。神の法をもし仮に本当に執行させたとして。……その後お父様をどうなさるおつもりなの?」

勇者「俺たちはあくまで戦争を止めたいだけです。処刑をするつもりはありません。国の最高権力を譲り渡して頂くだけです」

姫「そう……。では二つ目の質問です。先ほど『半年後の一方的な戦争』と言いましたが、どういうこと?
  魔族側の戦力を知っていないと出ない言葉だわ。あなたは魔族にも魔王にも接触してないと報告では聞きましたが?」
  
勇者「正直に申し上げますと、それ嘘です。俺たちは魔王にも魔族にも会いました。
   魔王は人間に敵意なんて持ってません。復讐なんて起こそうとしてません!」
   
姫「……確か、お父様にそのような旨の手紙が届いたそうですわね」

勇者「全て真実です。ですが国王様の意志は変えられなかった。このままでは確実に魔族は滅びます。
   俺はそれをなんとかしたい。救いたいんです。人間と魔族の共存だって絶対できるって思ってます」
   
姫「…………全く。この宮殿で、国王の娘たる私に、父を裏切れと申すのですか。私が一声上げればすぐに騎士も衛兵も駈けつけるのに。
  実直を通り越して愚直な行為ですよ、勇者」
  
勇者「…………姫様を信頼しての行動です」ダラダラ

姫「すごい汗よ。…………でも。誠意は伝わりました。とりあえず、詳しいお話聞かせてくださいますか?」

勇者「は、はい!」

姫「……なるほど。あなた方のお話を真実とするなら、魔王はハンバーグがお好き、と……」

神官「いや、そこですか。もっといろいろ話したじゃないですか」

姫「冗談です。魔族側の事情、意志。しかと聞きました。本当に今のお話は全て真実なのね?」

勇者「はい」

姫「そう……なら、やはりお父様を止めなくてはなりませんね……」

姫「私もあなた方に協力しますわ」

戦士「おお…」

神官「姫様…!」

勇者「有難うございます、姫様!」

姫「それで、私は何をすればいいの?」

勇者「まず反戦同盟のメンバーをできるだけ多く集めたいんです。
   姫様の人脈を使って、俺たちの考えに一致する……もしくは開戦に反対する人に声をかけて頂けませんか?」
   
姫「思い浮かぶ人は結構います。私の周りでも、お父様の急進的な考えに戸惑いを隠せない人は少なくありませんし……
  分かりました、出来る限りやってみるわ」
  
戦士「有り難い。宮殿や貴族のことは姫様に一任できるな」

姫「あ、あと、お兄様の居場所は見当はついてますの?神法執行にはお兄様の存在が不可欠ですよね?まさかもう見つかって…?」

神官「あう……」

勇者「いや全然、全く。見当すらついてません」

姫「そ、そう。まあ……難しいかもしれませんね……私もお兄様が留学と銘打って宮殿を出てから会ってませんもの」

戦士「王子の特徴や、行きそうな場所など心当たりはないだろうか?我々も今探している途中なのだが」

姫「特徴……うーん。私と似てる、くらいでしょうか。特に目の色なんかはよく瓜二つだなんて言われます。
  ええと、あとは女性によくもてますね。舞踏会なんかはすごかったわ。本人はうんざりしてたけれど」
  
勇者「姫様もお綺麗ですもんね」

姫「そっそんなこと言われても嬉しくなんかないんですからねっ!と言っておけばいいですか?」ハァ

勇者「雑!」

姫「あとは行きそうな場所ですか?うーん……そういえば星の国には興味を持ってましたよ。一度あの天文台に上ってみたいって言ってたわ」

神官「本当ですか!すぐに竜人さんと魔女さんに伝えないとっ!」

戦士「初めて手がかりらしい手がかりを入手できたな」

勇者「ああ!よかった。ありがとうございます姫様!」

姫「……さて、ごめんなさい、そろそろ私は稽古の時間ですので……」

勇者「じゃあ失礼しますね。姫様、本当に……有難うございます。俺たちに力を貸してくれて」

姫「力を貸す、という表現は不適切ですわ。私もあなた方の理念に賛同したから、行動するだけよ。
  力を合わせましょう。よりよい人の……いえ、人と魔族の未来のために」
  
勇者「…ええ、そうですね。頑張りましょう!では、失礼します」

城下町

勇者「やったな!」

神官「もう勇者様ったら、最初いきなりクーデターって言いだした時にはどうなることかと思いましたよ……」

戦士「姫様もドアに駆け寄ろうとしていたぞ?頼むから今度からは言葉を選べよ」

勇者「悪い悪い。まあ結果オーライじゃないか。かなりいい出だしだ。姫様は人を見る目もあるし、強力な支持者が集まるぞ!」

神官「確かに」

神官「さて、それでは私はこれから神殿の何人かに声をかけてみようかと思います」

戦士「俺は傭兵部隊に所属していた頃の仲間を何人かあたってみよう」

勇者「ああ頼む。俺は……そうだな。冒険者のギルドとか行ってみるかな。
   じゃあ今日の午後は別行動にして、明後日あたりにまた集まって報告しよう」
   
神官「分かりました。………………ふふふ」

戦士「どうした神官」

神官「ごめんなさい。う、生まれて初めて、その……大声で言えないことをしてるのに、なんだか高揚してるんです」

戦士「ははは。神官は反抗期なんかはなさそうだしな。かく言う俺も、罪悪感より高揚感の方が高いぞ。
   ただ上に言われるままに敵を排除するのより、よっぽど今の方がやりがいがあるわ」
   
神官「ちょっと昨日はびくびくして眠れなかったんですけどね。……私、小心者なんです」

勇者「大丈夫、できるさ。俺たちなら。明後日の報告も期待してるぜ」

神官「は、はいっ」

戦士「俺たちもお前の報告に期待しておるぞ?勇者」ニヤ

勇者「はん、上等だ。あまりの成果に驚くんじゃねえぞ」

戦士「言ったな。じゃあ3人のうち誰が一番支持者を集められるか、勝負だな」

勇者「いいぜ」

神官「ええええっ!ちょっ勝手に!」

勇者「一番少なかった奴は罰ゲームだな」

神官「だから私抜きでやってくださいよ!!!」

戦士「罰は何にするか」

勇者「一日語尾に『にゃん』をつけて話すのはどうだ?かなり恥ずかしいだろう。いい年した俺たちが『にゃん』とか」

神官「いやですよ!何言ってんですか!?」

戦士「フッ いいだろう。俺が負けたら娘と妻にそのまま会いにいって『パパ帰ってきたニャン』と開口一番告げてやろう」

神官「離婚嘆願されても知りませんよ!?」

勇者「じゃあ明後日、楽しみにしてるぜ!あばよ!!」ダッ

戦士「それはこちらの台詞だ!!」ダッ

神官「ああ〜もう!こうなったら絶対負けられない!!」ダッ

2日後

神官「3人が集めてきたメンバーを合わせると、結構な数になりましたね!まだ一週間も経ってないのに、かなり順調ですよ!」

勇者「おい」

神官「…………かなり、順調ですニャン……」

戦士「うむ。これで冒険者ギルド、兵士、神殿、宮殿……それなりに反戦同盟の種をまけたな」

神官「ええ。それなりに実力も影響力もある人々が集まったので、
   私たちが動くと共にこれからその人たちが同盟の輪を広げていってくれれば、支持者集めも楽になりますね」
   
勇者「おい」

神官「とりあえず同盟の基盤はできたと思いますニャン!!幹部メンバーも集まりつつあると思いますニャン!!!これで満足ですか!?」

神官「なんで私が罰ゲームうけなくちゃいけないんですか!!完全にとばっちりじゃないですか!!
   ここは最年長で厳つくて妻子がいる戦士さんがニャンニャン言って周りにドン引きされる展開が一番おいしいじゃないですかニャン!!」
   
戦士「ふざけんな」

勇者「お前が一番集めてきたメンバーが少ないんだよ。なんだ8名って。俺24名、戦士19名だぞ。ひとけたってなめてんのか」

神官「だって神殿って宮殿と繋がり深いですしぃ……ていうか頭固い人多いですしぃ……
   勇者様が勧誘した冒険者みたく『魔族も国王もどうも思ってないけど、勇者に着いてくぜ!』みたいな人滅多にいないですよ……ニャン」
   
勇者「お前の人徳がなかったんだろ」

神官「割と心に刺さります!!やめて!!」

戦士「そういえばそろそろ昼時だな。話の続きはここの喫茶店でしないか」

勇者「ん?こんなところに店なんてあったのか。……結構いい雰囲気だな。入ろう」

神官「うう……なんで私だけいっつもこんな役割……」

カランカラン…

女主人「いらっしゃい。空いてる席に座りなよ」

勇者「おう」

勇者「そう言えば竜人と魔女は今どこにいるんだろうな。王子が星の国に興味を持ってたってこと、伝えないといけないのに」

神官「場所が分かれば一気に転移魔法で行けるのに、残念ですニャン」

戦士「少ししたら魔王城に行ってみてはどうだ?報告もかねてな」

勇者「だな。もうちょい落ち着いてからだけど」

神官「魔王さんも寂しがってるでしょうしねニャン」

戦士「おいだんだん雑になってきてるぞ神官」

勇者「ああ……最後まであいつ駄々こねてたなー。それにしてもこの店の飯うまいな」

ガタ

女主人「そりゃどーも。ちょいと話に参加させとくれよ」

勇者「お、おい?」ギク

神官(いつの間にそばに……さっきの話、聞かれてなかったですよね……)

女主人「あんた、勇者だろ?王都に戻ってきてたんだ」

勇者「ああ、そうだけど」

女主人「噂の勇者が、随分きな臭い話をしてるもんだね」

勇者「……きな臭い?……なんのことだ?」

戦士・神官「」ギクッ

女主人「私は耳はいいんだ。客で賑わった店内でも、おもしろそうな会話が聞き取れるくらいにはね」

勇者「おもしろそうな会話か。確かに神官が語尾にニャンとつけて話してる姿はかなり滑稽だろうが……」

神官「誰のせいだと思ってるんですか」

女主人「すっとぼけんじゃないよ。……魔王とかなんだとか聞こえたけどね?」

「「「!」」」ギクギクッ

女主人「詳しい話、聞かせておくれよ。今日の夜12時、また店で待ってる。
    勇者が魔王と手を組んでるって言いふらされたくなきゃあ ちゃんと店に来るんだね」
    
勇者「なっ……なんのつもりだ?」

客「おーい!オーダー頼む!」

女主人「はいはい。じゃあ、夜にね」ガタン

勇者「お、おい。…行っちまった……」


神官「どどっどどどうするんですか勇者様。さっそく処刑の危機じゃないですか」

勇者「あ、慌てるな。まだ焦るような時間じゃない!あの女主人が国王にチクるとはまだ決まってない!」

戦士「二人とも落ち着いてくれ。とりあえず部屋をうろうろするのをやめてくれ」

神官「もう夜ですし……約束の12時まであともう少しですよ」

勇者「女主人、なにを考えてるんだ?俺たちを店に呼び出してなんのつもりなんだ」

戦士「俺たちの弱みを握ってることをちらつかせて取引に持ち込もうとしてるのだろうか」

勇者「くそ。なんだってんだ。とりあえず行くしか…ないか。よし、行くぞ!!」

神官「はいぃ……うう なんでこんなことに」

ギィッ カランカラン…

勇者「……」

女主人「ああ、来たか。待ってて、ちょっと後片付けあるからさ。この店、夜はバーをやってるんだ。さっき閉店したばっか」

勇者「……おう」

勇者「で、なんだ?話って。……金か?それとも別のものか?」

女主人「は?何のことだい?」

勇者「何のことって、昼間の続きだ。あんたの目的はなんなんだ?俺たちが……魔族と関わりがあることを知ったんだろ?」

女主人「……ああ!別に私はあんたらを告発するつもりなんかないよ。
    ただ魔族の話をちょっと聞きたかっただけ。銀髪の女の魔族にあんたらは会ったことある?」
    
戦士「銀髪?」

神官「もしかして村にいた方じゃないですか?ほら、定食屋で働いてた」

勇者「ああ……確かケット・シーの血が入ってるとかの。会ったことあるが、それがなんだ?」

女主人「そうか。生きてたのか。よかった……」

勇者「あんた、魔族に会ったことがあったのか」

女主人「ああ、私は地方の田舎生まれでね。昔、その魔族の女の子に命を助けられたことがあったんだ」

神官「え?」

女主人「小さい頃、山に山菜を取りにいった帰りさ。うっかり道に迷っちまってね。
    陽も暮れ始めて、真っ暗な森の中でうろうろしてたら腹をすかせた狼に遭遇しちまった」
    
女主人「もうこりゃだめだって思ったね。そしたら茂みから女の子がでてきてさ、私を助けてくれたんだ」

戦士「ほう」

女主人「その子は傷だらけになりながらも狼を撃退した。私はびっくりしたんだ。
    狼に勝てるその強さもだけど、よく見たら明らかにその女の子の姿は人間のものじゃなかった。
    村では魔族に出会ったら食い殺される前に逃げろって言われてたんだけど……魔族に会ったのは初めてだった」
    
女主人「その子の体さ、狼にやられた傷より、もっとたくさんの傷跡があったんだ。古傷が大きいのも小さいのもたくさんあった」

女主人「……その後。真っ暗な森の中、その子が森の出口まで案内してくれたんだ。おかげで私は自分の家に帰れたんだけどさ」

女主人「その子は家がないって言ってた。別の村を追い出されて、逃げてる途中だって言ってたんだ」

女主人「それなら私の家に来なよって誘ったら、すごい悲しい顔して笑ってた。その顔が今でも忘れられないんだ」

女主人「いつか生きてたらまた会おうって約束して別れたんだけど。そっか……生きてたか。よかった……」

勇者「いっつもにこにこして明るい娘だったよ。幸せそうだった」

女主人「そうか……フッ 安心したよ。
    で、あんたら何企んでるんだい?協力させてくれないか?魔族のために動いてんだろ?」

女主人「私はあの時の魔族の女の子に、恩返しをしたいんだ」

勇者「勿論、大歓迎だ」

女主人「ふーん、なるほどね。おもしろいじゃん。その反戦同盟とやらに入れとくれよ」

勇者「魔族に会ったことがある奴に初めて会った。さらに魔族に友好的な人間って、かなりレアだ」

女主人「はん、大体私以外のみんながおかしいんだ。会ったこともない魔族をそんなに憎むかフツー?」

神官「やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね」

戦士「国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな」

勇者「そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。
   何か効果的な方法ないかな……」

女主人「ま、小難しいことは分かんないから何もできないけどさ。ここの店の地下、結構なスペースあるんだよ
    そこを同盟の集会場所に貸してやらないこともないよ」

勇者「えっ 本当か!?」

女主人「聞いたところ結構人数も集まってるみたいだし。ひとところに集まって話する場って必要だろ?」

勇者「そりゃ有り難い話だ。さっそく会合の日を決めよう」

神官「うわーうわー!なんか本格的に秘密結社って感じですね!」

戦士「一気に状況が好転したな。首が飛ばなくてよかった」

女主人「店に入ってきたときはあんたら青ざめた顔してたね。勇者パーティの名折れさ、ハッハッハ!」

数日後 深夜 街

姫「……」コソコソ

姫「今なら人がいないわね。よしっ!城を抜け出すわよ、騎士!」

騎士「ちょっと……本気でやめてくださいよ姫様……夜中に街にでるとか正気じゃないですよ…」

姫「なに言ってるの?今日は勇者たちとの第一回会合ですよ。私が参加しなくてどうするの。
  それに私に何かあったらあなたが守ってくれるから大丈夫でしょ。弱気なこと言わないで」
  
騎士「そんなこと言ったって……ああもうこの我がまま姫め」ボソ

姫「何か言った?」ギロ

騎士「いえ何も。ほらもっとフード深くかぶってください。そろそろ例の店が見えてきます」

姫「そうね。ここのお店かしら……?」ギィ

カランカラン…

女主人「ああいらっしゃい。うちはもう閉店の時間だよ」

姫「あの…その」

女主人「ああ……『フラッシュ』」

姫「!『サンダー』」

女主人「入りな。地下の扉そっち」

姫「ありがとう」

ギィ……

ガヤガヤ ガヤガヤ

騎士「わ。すごい人ですね」

姫「あら本当。これだけもう人が集まったのね。さすが勇者パーティ」

勇者「姫様!本当にお城抜けだしてきたんですか……まじすか、大丈夫なんですか」

姫「大丈夫よ」

騎士「大丈夫じゃないですよ…」

宮殿司書「私は前々からなんとなくおかしいと思ってたんですよ……」

歴史研究家「ええ、誠にそうです。第一100年前の人魔戦争についても普及してる説に私は違和感がありましてですな……」

傭兵長「些か強引すぎると思っておりました……あのときも……」

冒険者「つーか冒険でてもモンスター全然でねーのなwwwwwwwwレベル上げしんどかったwwww」

ザワザワ ザワザワ

女主人「やーっと仕事終わった。随分賑やかだね」

勇者「これでみんな揃ったかな」

勇者「みんな、今日は集まってくれて有難う。知ってるもいるだろうけど……てか大体知ってると思うけど、俺が勇者だ。
   今日は第一回目の集会ってことで、顔合わせの意味合いが強いからさ、気楽にやってくれよな」
   
ざわざわ
 ざわざわ
 

戦士「ふむ。意外と……教養人が多いようだな、見た限り」

神官「ですね、国の政治方針や教育方針に疑問を感じてた人も少なくなかったってことでしょうか。私たちがいい発破になったのかも」

勇者「……」

姫「勇者?何か考え事を?」

勇者「……ん、ああ。この間話してたことについてちょっと考えてまして……」

『やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね』

『国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな』

『そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。
 何か効果的な方法ないかな……』

勇者「なんかうまい方法……か」

司書「そういうことなら、勇者様。私に考えがあるのですが」

勇者「え?」

〜〜〜〜〜〜

勇者「……なるほど。いいな、それ」

司書「ただの思いつきなのですが……やってみる価値はあるのではないかと」

勇者「うん、俺もそう思うよ。協力してくれそうな奴の心当たりもある。
   そうと決まれば俺は明日にでも魔王城に行ってみよう。色々報告したいこともあるし」
   

勇者「そういやぁ、魔王の奴元気かな?」

勇者「しばらく会ってないけど……」

* * *

魔王「……くしゅっ」

魔王「……なんだ……誰か噂でもしてるのだろうか」ブチブチ

魔王「……」ブチブチ

魔王「ふう。ここら一帯の草は刈れたか。一仕事した後は気持ちがいいな」

魔王「ガーデニングなんで今までしたことなかったけど、これを機に始めるのも悪くない」

魔王「……ん?裾に葉でも入ったかな。なんかもぞもぞする」

蜘蛛「」モゾモゾ

魔王「」

魔王「わーーーーーーーーーっ!!」ブンブン

庭師「うおっ なんじゃあ!?今の叫び声は……!?」

魔王「叫び声?叫び声なんて聞こえたか?はぁはぁ…」

庭師「ま、魔王様!?お庭にいらしてたんですかい!?……ちゅーか草むしり!?え!?」

魔王「ああ、暇で」

庭師「そんなこと魔王様がしなくていいんですよ!私めにお任せ下さいって!ほら、お洋服もこんなに汚れちゃって。もうお城に戻ってください」

魔王「別に私は……うう、追い出された……」

魔王「もう夕暮れか。今日も一日が終わってしまった」

魔王「……戻るか」

魔王「竜人と魔女はいまどこにいるんだろう。あれからずっと会ってない。勇者くんたちも」

魔王「……」

魔王「誰かと一緒に見る夕日は素直にきれいだって思えるのに、一人で見る夕日はなんでこんなに寂しいのだろう……」

魔王「みんな頑張ってるのに、私だけこう……暇なのは申し訳ないな…」

魔王「何かできることはないのだろうか。せめてみんなが帰ってきたときに、疲れをいやせるようなことは……」

魔王「……料理だ!」ピコーン

翌日

ハーピー「まずお料理する前に手を洗って下さいね」

魔王「うん」

ハーピー「で、今日はアップルパイを作るんですよね」

魔王「ああ。アップルパイはすごいんだ、あれこそ天上の神々が食しているものに違いない。
   それに甘いものは疲労を癒す効果があると聞くし、リンゴはこの島でたくさんとれるし」
   
ハーピー「いい考えだと思いますよ。さて材料も揃えてきましたし……さっそく作りますか!じゃあ最初はリンゴをカットしましょう!」

魔王「そうだな……で、包丁はどうやって持ったらいいんだ?」

ハーピー「そっ、そっからですか?ええとですね……」

ガランガラン

「おーい、魔王いるか?俺だけど」

魔王「!?この声、勇者くん?」ダッ

ハーピー「あっ……魔王様!包丁もったまま走ったら危ないですって!」

魔王「勇者くん?」タッタッタ

勇者「おう、久しぶりだな。魔王」

魔王「勇者くん!」タッタッタ

コケッ

魔王「あっ」

ヒュンッ!

勇者「うあああああああぁっ!あぶねーー!!包丁投げ飛ばすなよオイ!!」パシッ

魔王「いてて。流石勇者くんだな、見事な包丁キャッチだ」

勇者「流石、じゃねーよ、冷や汗すげぇ出たぞ。つーか何もないところでコケんなよ」

魔王「ドレスにつんのめってしまったのだ。私じゃなくてドレスが悪い」

勇者「無機物に責任押し付けようとするな。それより包丁なんて持って、なにしようとしてたんだ?」

魔王「あ、ああ。料理を始めようとしていたところだったんだ。まだできてないから、ちょっと時間をつぶしてきてくれ」

勇者「RYOURI……?COOKING……?お前が?」

魔王「そんなあからさまな反応されると傷つくのだが」

勇者「いやだって魔王って、魔法以外の才能まったくないように見えるから」

魔王「勇者くんって意外とデリカシーがないな?それにそんなことはないぞ。
   今日は草むしりを極めたのだ。褒めてもいいぞ」
   
勇者(草むしりほんとにやったのか)

勇者「……ま、じゃあ期待しとくな。俺はちょっとグリフォンの家に寄ってくる」

魔王「せいぜい期待しておくがよい。頬が腐り落ちても知らないぞ、ふふん」

勇者「こえーよ!腐り落ちるとか初めて聞いたよ!」

勇者「まともな料理ができあがってることを願うぜ。
   おーいグリフォン、いるかー」
   
グリフォン「んー?なんだ勇者か。なんか用?」

勇者「あのさ、前、本書いてるって言ってたよな?あれもう完成した?」

グリフォン「ああ……ちょうど昨日完成したんだ。読んでみるかい」

勇者「サンキュ。……」パラパラ

勇者「うん、やっぱいいなこれ。これをな、王国で出版しようと思ってるんだけど、どうかな」

グリフォン「は?出版?なに言ってんの?」

勇者「勿論匿名でな。人々の間にある、魔族のイメージを改めるキッカケにならないかと思って。
   話題性も作れたらなおよし!」
   
勇者「あんたのこの本、おもしろいよ。
   魔王が悪で勇者が善っていう勧善懲悪物語に慣れ親しんでる俺みたいな人間からすれば
   かなり意外性があってうけると思うんだよな」
   
グリフォン「ふーん……そううまくいけばいいけどね。まあ、その本は好きにしてくれていいよ。
      もともと君か魔王様にあげようと思ってたものだから」
      
勇者「ありがとな」


勇者「…………………で」ドキドキ

魔王「アップルパイだ。切り分けよう……うっ、テーブルが高いな……」

ハーピー「あ、私やりますよ」ザクザク

勇者「おお なんか意外といい感じじゃないか。うまそうな匂いしてる」

魔王「そりゃあ、ほとんどハーピーが手伝ってくれたからな」

ハーピー「あははは……あ、私そろそろ仕事に戻らないと。ごめんなさい、失礼しますね」

魔王「もう?そうか……有難う、助かった」

ハーピー「いえいえどういたしまして。ごゆっくりどうぞ」ニコ

……パク

魔王「……おいしい」

勇者「ん、うまいな」

魔王「そうか。それはよかった」モグモグ

勇者「ありがとな」モグモグ

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

勇者「おい、口の端にパイの欠片を大量につけながら真面目な話に突入するのやめてくれ」

魔王「ん?うわ、本当だ。失礼。テイク2だ」

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

勇者「ええと、まあ、順調だな。ほら、これ。今のところ集まったメンバーのリスト」ペラ

魔王「……!こ、こんなに……?」

魔王「本当に……人間が……これ、みんな……私たちの……味方に?」

勇者「そうだ。人間も一枚岩じゃないってことだな。魔族と一緒でさ。少しずつこうしてメンバーを増やしてけば……
   クーデターも成功するし、いつかこの城の結界も必要なくなる世界になるかもな」
   
魔王「…………なんだか……笑いたいような泣きたいような、不思議な気持ちだ」

勇者「笑うのはいいけど泣くのはまだ早いぞ。それからさ、竜人と魔女に会う機会ってあるか?」

魔王「いや……ない。二人とも、城を旅立ってからずっと帰ってきていない。いまどこにいるのかさえも分からない」

勇者「そっか。じゃあ次帰ってきたら、王国の王子が星の都に興味をもってたって伝えてもらっていいか?」

魔王「星の都だな。分かった。それにしても二人は今どこらへんにいるのだろう」

勇者「今頃くしゃみでもしてんじゃねーのかな」

魔王「古典的な表現だ。ところで、その本は?童話……?」

勇者「ん、ああ。これはグリフォン作の絵本だよ。勇者と魔王の物語。王都の人たちの世論操作に使えないかと思ってさ」

魔王「ふうん……?これは、もしかして私と勇者くんがモデルなのか?」

勇者「そう言ってた。俺は明日王都に戻るつもりだから、それまで読んでていいぞ。グリフォンもお前に読んでほしいだろうし」

魔王「いや、いい」

勇者「え?」

魔王「今日の夜、勇者くんに寝物語として読んでもらうから、いい」

勇者「お前……また勝手に決めやがって……」


魔王「早く早く」バフバフ

勇者「こら、枕叩くな。てかお前文字読めるだろ?なんで俺が」

魔王「読めない。難しい単語とか読めない」

勇者「うそこけ!!お前が訳分からん古代文字すらすら解読してたの見たぞ俺は!!」

魔王「ゆ……うしや……ま、ま……お」

勇者「今更わざとらしく文字読まなくていいよ!分かった分かった」

勇者「えーと……『その年、勇者は人々に見送られて魔王を倒す旅に出ました』」

魔王「ふむ」

『真ん丸な月を背負った荘厳な城の中で、勇者は魔王にとうとう出会いました。
 勇者は魔王に斬りかかろうと、背中の剣を抜きかけて、それからハッと息をのみました。
 月明かりに照らされて自分に微笑む魔王の姿が、あまりにも美しかったからです。』
 

魔王「なんだ、あのとき勇者くんはそんなことを思ってたのか。照れるなぁ」

勇者「あのときには、なんでこんな子どもが魔王城にいるのかと目を疑ってたよ。
   こんな劇的な出会いじゃなかったよな。竜人はエプロンつけてでてくるし、魔女はひとりで料理先に食ってたし」
   
魔王「でも物語らしくていいじゃないか。このくらいの演出過多の方が私は好きだ」

勇者「そうかよ」ペラ…

『すると、いつのまにか大勢の敵たちが二人を取り囲んでいました。逃げ道はどこにもありません。
 「勇者、狙われてるのは私一人だけです。私を置いてあなたは逃げてください」魔王が涙を目に湛えて言いました。
 
 しかし勇者は魔王の手を離そうとはしませんでした。
 むしろより強く握りしめて、こう言いました。』
 
 
勇者「『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』 おい、聞いてるのか?」

魔王「……〜〜」バフバフ

勇者「あのー」

魔王「この勇者くんは随分かっこいいな……はぁ」バフッ

勇者「このってなんだ、このって!?今朗読してる俺はかっこよくないってのか!?」

魔王「ふう なんだか顔が熱い。グリフォンはすごいものを書いてくれたな」パタパタ

勇者「さっきの聞き捨てならないんだけども」

パラ…

勇者「これで最後のページみたいだ」

魔王「笑いあり涙ありのいい物語だったな。こんなふうに現実もうまくいけばいいのだけど」

『こうして世界に平和が訪れました。
 魔族と人間は手を取り合って、ずっとこの平和な世界を保っていこうと誓い合いました。
 勇者と魔王はと言うと、その年の終わりに式をあげ、二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
 
 
魔王「ん!?」

勇者「はい、終わり。……っと、もうこんな時間か。今日は自分の部屋に戻って寝ろよ?」

魔王「えっ?え?」

勇者「どうした?」

魔王「け……結婚とは」

勇者「お前結婚知らないのか?」

魔王「いや知ってるとも。知ってるけども。……その本、本当にそのままで王都の人々に配るのか?」

勇者「そうだけど、何か不都合があるのか?」

魔王「い、一応私たちが実在してる訳だから、色々とまずくはないのか?別に私は構わないけれど、勇者くんは……」

勇者「?俺も別に構わないけど」

魔王「えっ……」

勇者「だって、魔王。お前、」

魔王「えっ えっ!?」

勇者「まだ子どもだろ?」

魔王「………………………」

勇者「お前がそれなりの年だったら、まあ、本の中でも結婚とか書かれたら恥ずかしいんだけどな。ハッハッハ」

魔王「………………………」

勇者「さ、そろそろ寝ようぜ。転移してきたから俺もう今日は疲れたよ。おやすみ」

バタン

魔王の部屋

魔王「だから……私は……勇者くんと同じ年だと言うのに……!」

魔王「なんで私はこんなに成長が遅いんだ……っ
   生きてる年数で言えば、四捨五入したら20だぞ。ぎりぎり20なんだぞっ」
   
魔王「魔族の長寿がこんなに恨めしいなんて。別に勇者くんと結婚とかは全然考えてないけども。
   全然全くこれっぽっちも、一瞬も頭をかすめたことはないけども」
   
魔王「……」

『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』

魔王「〜〜……っ」ボフボフ

魔王「勇者くんかっこいいな!……はっ」

枕「」ボロボロ

魔王「……何やってるんだ私は」






勇者「さて、そろそろ出発するかなー」

魔王「……ん?」

ヒュッ!

竜人「ただいま戻りました」

魔女「うぅぅぅぅ、寒かったぁぁ」

魔王「竜人、魔女……久しぶりだな」

勇者「なんだ、偶然だな。俺もちょうど魔王城に寄ってたところなんだ」

竜人「そうだったんですか。なら少し現状報告し合いません?」

勇者「だな、せっかくだし」

魔女「魔王様も勇者も久しぶり!雪の国付近まで行ったから超寒かったよー、先にお風呂入ってきていい?」

魔王「だめ。報告が先だ」

魔女「魔王様つれないっ!かわいくないっ!」





竜人「なるほど。……ふむ」

勇者「だから王子探しは星の国優先でやってくれ。頼んだぞ」

竜人「そのことなんですが、王子探しの前に、勇者様が集めたその同盟メンバーに私を会わせて頂けませんか」

勇者「えっ?」

魔女「あー私も会いたいかも」

勇者「いやいや、お前らが王都に入国するなんて危険すぎるだろ」

魔王「……」

竜人「その点は大丈夫ですよ、よっぽどの魔術の使い手に遭遇しなければ私たちを魔族だとは見破れませんし」

竜人「目的は何にせよ、私たちの力になってくれる方々に顔も見せないなんて二天王の名が廃ります」

勇者「二天王ってマジだったんだ」

魔女「そうそう!組織っていうのは結束を固めて心を一つにしないと、いざという時にすーぐ崩壊するからね。仲良くしなくっちゃ」





勇者「まあ、そういうことならいいけど」

魔王「私の分までよろしくな。気をつけて」

竜人「ええ、そりゃあ勿論」ニッコリ

魔女「魔王様の魅力ぶっ続け3時間語りとか人間相手にやらかすのやめてよねー」

勇者「やりそうで怖いな。じゃあ、直接俺がとっている宿にテレポートするから、掴まってくれ二人とも」

竜人「はい」ギュ

魔女「うん」ギュ

魔王「……」ギュ

勇者「……なあ、魔王、お前はテレポートしてきちゃだめだろ」

魔王「分かっている。冗談だ。……行ってらっしゃい、みんな」

竜人「魔王様!!またすぐ絶対帰ってきますから!!お菓子食べすぎないでくださいね!?歯もちゃんと磨くんですよ!?」

魔女「あーうるさいうるさい。さっさと行きましょ勇者」

勇者「お、おう」

シュンッ

魔王「……はぁ」ショボン





* * *

王都 宿

勇者「じゃあ俺、昼間のうちに出かけてくるから、この部屋から出ないでくれよ。
   お前らの顔覚えてる兵士が街にいたら面倒なことになるからな」
   
魔女「わーかってるわ―かってるぅ」ゴロゴロ

竜人「さすが王都、人が賑わってますね」

勇者「……ほんとに出ないでくれよ?じゃあな」

神官「勇者様!こっちです。……本、持ってきました?」

勇者「よお神官。ああ、ばっちりだ。これ」

神官「わあ!後でじっくり読ませてくださいね。王室の司書さんから紹介してもらった本屋は、ここの角を曲がったところです」

勇者「その本屋が、魔族が書いたこの本を出版するのを頼まれてくれるといいんだが」





神官「……ええと、このあたりのはずなんですけどね」

勇者「もしかして……この廃屋みたいなボロい建物か?
   よく見りゃ本屋の看板があるぞ」
   
神官「えー……」

勇者「うーん……」

神官「俄かに不安になってきましたが……とりあえず行きましょう。
   あ、聞くところによると主人はかなりの変人らしいです」
   
勇者「えー……さらに不安になってきた」

ギィィィィッ

勇者「うるせっ……おーい、主人いるか?」

神官「す、すごい埃っぽい店内……本が雑に積み上げられてる。ここお客さん来るのかなぁ」

本屋「は〜い。んおっ!珍しいねえ。勇者サマに神官サマじゃないか。こんなインチキ本屋になんの用かね。ところであんたいい体しとるな」ジロジロ
   
神官「うっ。なんか私この方苦手ですぅ……」ササッ





勇者「1つ頼みがあってな。この本を出版してほしいんだ」

本屋「ん?ん〜〜。ほっほ、こりゃこのご時世だと出版してすぐ禁書指定を受けそうな本じゃの。
   作者名は、なしか。まあ珍しくないわい」
   
勇者「作者は魔族だよ」

本屋「……ほ?」

* * *

勇者「というわけ」

神官「勇者様、いいんですか?この怪しげな人に全部話しちゃって……」

本屋「ブァッハッハッハッハ!!おもろいことに手ぇだしとるのぉ!いいぞ、のった。出版しちゃる」

勇者「助かるぜ」

本屋「なーに、この店はもともと明るみに出せないような本ばかり扱ってるのさ。魔族が書いた本なんてのよりもっとすごいのもあるぞ」

神官(なんでそんな怪しいお店を、王室司書さんが知ってるんでしょう……)





本屋「発行部数はどうするね?」

勇者「うーん。すぐ禁書になりそうなんだろ?少なめがいいのかな」

神官「ですかねえ」

本屋「お主らてんで素人じゃのぉ。こういうのは……禁書指定されてからの方が売れるんじゃ。禁じられるほど見たくなるのは人間の性じゃからの」

勇者「そ、そうなのか?じゃあそこらへんはあんたに一任するよ」

本屋「そうしてもらえると助かるね。出版自体は2週間あればできる。またそのころにここにおいで」

勇者「おう、頼むぜ。ありがとな」

本屋「ま、横の姉ちゃんは今夜あたりにでも来てもらって一向に構わんがの!」ニヤ

神官「ひぃぃっ お断りですよ!」

ギィィィィッ…バタン





勇者「2週間っていうと、ちょうど俺たちが同盟結成を考えたときから3カ月経つ頃か」

神官「早いですね。もう半分ですか」

勇者「人集めっていう地道な作業だったからな。でも、そのおかげで着々と基盤は固まりつつある。
   でもそうだな。そろそろ次の段階に進むべきかもしれないな」

神官「次って言うと、星の国か雪の国に、認証書をもらいに行くんですか?」

勇者「ああ。本を配ってもらったり、ほかの普及活動は同盟のみんなに任せられるだろうし」

神官「そうですね。今夜の集会でそのこと皆さんに話してみましょう」

勇者「あ、そういえば。一週間後の集会に竜人と魔女も参加するから」

神官「ええ分かりました、竜人さんと魔女さんも―――って、ええぇぇぇ!?」

勇者「ばっ 声が大きい!注目されてんだろうが!」

神官「す、すいません!で、でも。なんでお二人が!?」

勇者「ちなみに今、俺の宿に二人ともいるから」

神官「えええぇぇっぇ!!」

勇者「だからいちいちリアクションでけーよ!!」





一週間後 夜 バーの前

神官「まさか本当に王都に滞在するなんて……ほんと無謀というかなんというか」

竜人「一回来たところでないとテレポートできないところが不便なんですよね。でも無駄な時間を過ごしてた訳じゃないですよ」

魔女「そうそう、あの後勇者と話してからちゃんと王子探しにまた出かけたしー」

勇者「結局王子の手がかりは掴めないままか……どこにいるんだろうな。案外この王国に戻ってたりして」

カランカランッ

ざわざわざわざわ がやがやがや

勇者「おお、今日も集まってるな。みんな暇なんだな」

姫「暇じゃないわ、もう。忙しい中時間を縫ってきてるの」

騎士「私も姫様がもっと城で大人しくしてくれれば、よりお暇頂けるんですけどね」

司書「おや勇者様。本の件はいかがでした?」

勇者「滞りない。出版は2週間後だそうだ」

歴史家「2週間後ですか……その前に原本を見てみたかったな。待ちきれん。なにせ魔族の書いた本など前代未聞だからな」

冒険者「だよなー!早く読んでみてーなー!」





戦士「……む?勇者、横のフードを被った2人はもしかして」

勇者「ああ。気づいたか。おい、みんな、魔族の話なら本じゃなくて直接いま聴けばいいさ」

姫「どういうことですの?」

バサッ

勇者「今この場に魔族2人がいるからな」

竜人「初めまして。竜族の者です」

魔女「魔女ちゃんでーす!」

「!?」

「ま……魔族!?」

ざわざわっ





姫「なっ……!?」

騎士「姫様、念のためお下がりください!」

冒険者「うっひょー!魔族初遭遇なんすけどー!」

勇者「落ち着けよ、みんな。まあ俺も同じようなリアクションとっちゃったんだけどさ、最初」

戦士「この者たちに敵意はない。俺が保障しよう」

神官「お二人ともいい方たちなんですよ!ほんとに!」アワアワ

司書「……た、大変失礼しました。初めて違う種族の方にお会いしたので、少々動揺してしまいました。情けない……」

歴史家「無礼をお許しください、魔女殿、竜人殿」





魔女「あはは、そりゃーちょっとびっくりするよねー。いいよ全然気にしてないから。私の心は海並の広さを持ってるから」

魔女「でも、剣を構えるのは警戒しすぎなんじゃないの?騎士さん」パチン

騎士「う、あ、も、申し訳ない……///」

姫「えっ、なに貴方、ちょろすぎないかしら。ウインクひとつで真っ赤ってどれだけ初心なの」

竜人「もしかして貴女がこの国の王女様ですか?私たちのためにお力を貸して下さって、本当にありがとうございます」

姫「私?いえ……むしろ私は謝らなければ……あなたたち魔族に」

竜人「謝るなんて、よしてください。これからよろしくお願いしますね、王女様」

姫「あ、あ……そうね。ええ……勿論です。こちらこそ///」

勇者(あれー?)





冒険家「いろいろ話聞かせてくれよ!魔族のオニーサンオネーサン」

歴史家「ぜひ詳しい話を私にも!いっそこうなったら私も本を書いてみるかな」

小説家「それなら私も。匿名なら問題なかろうて」

神官「あら……大人気ですね」

勇者「盛り上がってるとこ悪いが、しばらくこっちでの活動はあんたらにまかせていいか。
   俺と神官と戦士、竜人、魔女はこの国以外で活動するからさ」

戦士「む、ついに認定書入手に動き出すか」

勇者「ああ、そろそろいいだろう。王子探しのために、雪の国より星の国を優先しようと思う」

竜人「私も星の王に謁見させてほしいのですが」

勇者「……いやいやいやいや。それは流石にまずいだろ」

竜人「ではどうやって勇者様は王を説得なさるつもりで?」

勇者「そりゃーまあ」





勇者「戦争はよくないから」

竜人「あちらは魔族を害獣か何かと同列に見なしてるんですよ。害獣駆除はなされるべきであって、いい悪いでは語れません」

勇者「じゃあ、こう言うさ。このまま戦争になれば、星の国もうちの国の軍力増強に協力させられるだろう、と。あちらさんはそういうの嫌いらしいしな」

竜人「それではどうして勇者様が神の法を使って無血クーデターを起こそうとしてるかの理由になってません。怪しさ満点ですよ」

勇者「うっ……」

神官「勇者様が押され気味だ!」

竜人「つまり、説得力を持たせるためにはやはり私が王に直接会わなければ。魔族は害獣なんかじゃないとはっきり認めさせるのです」

戦士「しかし、かなりの危険が伴うのでは?」

竜人「それも承知の上ですよ」

魔女「あ、ちなみにあたしはパスね!うまく敬語とか使えないから!」

竜人「それは元から期待してないから大丈夫です」

魔女「ひでーや!」





勇者「じゃあ王に謁見組が俺、竜人。星の国で太陽国王子を探す組が魔女、神官、戦士、って感じでいいか」

魔女「いいよー」

戦士「承知した」

神官「あの、謁見組は二人で大丈夫なんですか?」

勇者「俺も竜人も転移魔法使えるし、やばくなったら逃げるよ。大丈夫大丈夫」

竜人「まかせてください」

魔女「がんばってねー」

姫「……」チラチラ

騎士「あの……なにさっきからチラチラ向こう盗み見てるんですか、姫様。ばればれですよ」

姫「なっ……あなただって、さっきから聴き耳立ててるのばればれです!」

騎士「べべべべつに俺は!なにも!姿だけじゃなく御声も美しいだなんて、おおお思ってませんよ、ええ!///」

姫「あらそう。その割には耳が真っ赤だわ」





* * *

勇者「よっしお前ら!準備はいいか!」

神官「ええ、ばっちりです!薬草に、魔水に、気つけ薬も十分持ちました。あとお菓子とお弁当とお金と――」

戦士「張り切っておるな」

勇者「神官、菓子と弁当はいらないだろ」

神官「え?でも長い道中暇じゃないですか」

勇者「あのな、テレポートで行くに決まってんだろ?時間が節約できる時に節約しなきゃ」

神官「へあ!?あ、そっか!」

竜人「私たちも準備万端ですよ」

魔女「張り切っていこー」ダルン

勇者「行くぞ」

シュンッ





星の国 

がやがやがやがや ざわざわざわ

シュンッ

勇者「よし、うまい具合に路地裏に出たな」

戦士「なんだか不法侵入みたいで気がひけるな」

神官「で、でも竜人さんと魔女さんいますし、正規ルートはまずいですよね」

勇者「大丈夫だろ。前に俺たち一回きたし、勇者パーティだし」

魔女「あれれ、意外と大雑把」

勇者「俺たちは王宮がある都をここから目指そう。馬車ですぐだ」

神官「私たちはいろんな村や街を回りながら情報収集しましょうか」

魔女「なんかもっとキラキラしたところ想像してたんだけど、森とか畑ばっかりだね」

戦士「天文台のある都はすごいぞ。特に夜は身惚れるほど美しい」

魔女「ええっ!あたしも都に行きたいなぁ。宝石とか洋服とかみたい〜〜」

戦士「だめだ。そら行くぞ」

魔女「ああ〜〜」

神官「じゃあ、勇者様も竜人さんも、頑張ってくださいね!」パタパタ






がやがやざわざわ 

竜人「うわ……すごいですね。建築物のデザインが全て幾何学的に統一されてて、きれいな街並みです。それにあの王宮より高い塔は一体……?」

勇者「ありゃ天文台だよ。ここは別名、学問の都だ。ありとあらゆる分野の最先端をいく研究がなされてて、その中でも特に天文学が進んでるんだ」

竜人「それにしても高いですね。雲を突き抜けそうだ。魔王様にも見せてあげたいです」

勇者「夜はもっとすごいぜ。王宮に行くより先に宿をとっとこう」

竜人「ええ、分かりました」

宿屋

主人「いらっしゃい。2人かい?」

勇者「ああ、2部屋頼む」

主人「毎度あり。2階の部屋使ってくれ。1階の奥は食事処になってるから、よかったら食ってってくれよな」

竜人「食事ですか。先に腹ごしらえしていきます?勇者様」

主人「都限定、星入りスープが人気だぜ!」

勇者「それ一回食ったけど、何が原材料なのかさっぱり分かんないんだよな……。先に食事するか」





がやがや がやがや カンパーイ

竜人「……このスープのこれ、本当に何でできてるのか分かりませんね。まさか本当に星じゃあ……」モグモグ

勇者「だよな。俺もよくわからん」

料理人「栄養バランス完璧だぜ!栄養学も発展してるからな、この国は!タンパク質27%、ビタミン16%、それから……」

勇者「あーあーいい、いい!そういう話は聞かせてくれなくていいから!俺頭痛くなるから!」

 「おやっさん、肌荒れにきくいい食事よろしくっ!」
 
 「あ、ああ、構わねえが――あんたが食うのか?」
 
 「コラーゲンたっぷりのカクテルももらっちゃおうかな?」
 
 
勇者「!(この声……どこかで聞いたことあるような?)」

勇者「野太い掠れた声で甘ったるく女子みたいなことを喋る奴、どこかで会ったことがあるような」チラ

竜人「勇者様?」

勇者「!!!!!!」





勇者「竜人、今すぐこの店を出るぞ!」ガタッ

竜人「はい?まだ食べ終わってないのですけど」

勇者「いいから!この世界で一番の危険人物が背後にいるから!」ヒソヒソ

旅人「ん?あら?あらあら〜!?やだ!!勇者ちゃんじゃないのぉ!?偶然ね!」ガタッ

勇者「Noooooooooo」

竜人「えっ……と。こちらの男性は、勇者様の知り合いですか」

旅人「例えて言うなら、ベガとアルタイルってとこかしら」

勇者「チガウ!チガウ!」

竜人「ああ。そういう愛の形もありますよね。私は応援してますよ、勇者様。安心してください」ニコ

勇者「誤解が加速して止まらないよ!俺を置いてけぼりにしないで!」





旅人「で?星の都になにしにきたの?勇者ちゃん」

勇者「あんたにゃ関係ないだろうが……おい!頼むからすり寄ってこないでくれ」

旅人「つれないわー。そんなところも好きだけど。でもあたし、これでも情報通だから役に立つかもよ?」

竜人「あの、私席はずしましょうか」

勇者「余計な気回さなくていいよ!ああ、もう。星の王にお願いしたいことがあって来たんだよ」

旅人「お願いしたいこと?へえ〜 だったらいいこと教えてあげる」

勇者「いいこと?」

旅人「あ、別にやらしい意味じゃなくてね」

勇者「知ってるわい」

旅人「盗賊団の噂きいたことない?最近猛威を奮ってるらしいわよ、3国を股にかけて」

竜人「ああ、そういえば少し聞いたことがあるかも」

旅人「少数精鋭でかなり腕っ節の強い連中みたいよ。で、そいつが今狙ってるのが、この都の天文台のてっぺんに飾られてる宝石!っていう噂」

勇者「ふーん」





竜人「なら、その盗賊団を捕まえて王に差し出せば印象良好って訳ですね」

旅人「そーゆーことね。どう?いい情報じゃない?」

勇者「確かに試してみる価値はあるな。盗賊団のアジトとかも知ってんのか?」

旅人「さすがにそこまでは知らないわ、ごめんなさいね。でも最近都ではその噂でもちきりだから、色んな人に話を聞いてみたらいいんじゃないかしら」

勇者「そうしてみるか。よし、食事も済んだし、行こう」ガタッ

旅人「あら?まだ情報料もらってないんだけど」

勇者「あ。……いくらだ?」

旅人「お金じゃなくても構わないわよ?」

勇者「い く ら だ」

旅人「つれないわね」

竜人(この人どこかで見たことあるような……)

旅人「……」

竜人「……!?な、なんでしょう。私の顔に何かついてますか?」

旅人「ん〜。あなた、あたしと会ったことなぁい?見覚えがあるようなないような……」

竜人「!それが、私もそんな気がしてt……ハッ!」

竜人(この人、以前魔王城に流れ着いてきた人だ!やばい!それにしても、私が覚えているのはいいとして、
   忘却呪文かけられたはずのこの人がなんで私の顔を覚えているんだ?)
   
竜人「き、気のせいじゃないですかね、ハハハ……」

旅人「怪しいわね」

勇者「お、おい。もう俺たちは行くからな。じゃあ世話になったな!」

旅人「あ、んもう。逃げ足速いわね」

* * *

盗賊1「兄貴!兄貴ー!」バタバタッ

盗賊2「大変ですぜ兄貴!」

仮面をつけた男「んだよ……騒がしいな。天文台への侵入ルートでも割れたか」

盗賊1「それはまだですけど、もっとすごいこと聞きました!」

盗賊2「この星の都に、勇者が来てるそうです!!」

仮面「なに?勇者が……。確か勇者は神話級の剣を持ってるって噂だったな?」

盗賊1「時の神殿から持ち帰った『時の剣』ですね!さっき宿屋の窓を覗いてみたんですが、ばっちり持ってましたよ。
    大層高そうな宝石が柄に埋まってやした!」
    
盗賊2「しかも連れは一般人の男のみみたいですぜ!こりゃあ千載一遇のチャンスだ兄貴!」

仮面「ふん……そいつは本当なんだろうな?だとすると『時の剣』……いくらで売れるかね。
   よしお前ら。ターゲットを変更だ。勇者の剣を盗み取るぞ!!」
   
盗賊1・2「おっす!!」

勇者「うーん。いろいろ聞きこみしてみたけど、やっぱ盗賊団のアジトを知ってる者はいなかったな」

竜人「噂はそこここで聴くんですけどね。相当有名な盗賊みたいじゃないですか。悪い噂ばかりじゃないですし」

勇者「変に民衆に人気のある盗賊っているよな。義賊ってわけでもなさそうだが。で聞いた話によると……
   今回星の都で狙われているのは、この街の天文塔の頂点にある“アステリオス”という宝石だ」
   
勇者「いくら民に人気がある盗賊っていっても、アステリオスが狙われてると知ったら天文学者たちは怒髪天だろうな」

竜人「その宝石にどんな価値があるんです?」

勇者「そいつには魔力が宿ってるとされてる。別名「星の王」とも呼ばれるアステリオスは、星空を守護してるんだ。
   俺も神官から昔聴いた話だけど、天球を観察するのに邪魔なものはたくさんある。
   汚れた空気や街の灯り、人里と切っても切り離せないそれらをアステリオスは退けてくれるんだとさ」
   
竜人「なるほど。確かにそれは学者からしたら生命線とも言える代物ですね」

勇者「今日の夜から天文台に護衛に行こう。話はつけておいたからな」

勇者「あーあ、盗賊狩りならもっとこっちに人数いれりゃよかったな。神官、魔女、戦士のうち誰か一人でもこっちに入れてれば……
   そういえば、竜人って竜に変身しない場合、どれだけ戦えるんだ?」
   
竜人「それなりに剣術は嗜んでます。勇者様には負けますけどね。私も頑張りますよ」

勇者「そうか。頼りにしてるよ」

竜人「辺りが暗くなるまであと1時間ってところでしょうか。先に休みます?」

勇者「だな、今のうちに飯を食っとこう。今度はあいつに会わないといいが」

竜人「同感ですよ……ん?」

ガシッ!!

男1「よお兄ちゃん二人でなにしてんだ!?これから飯かい?ならあそこの角の定食屋がオススメだぜ!」

男2「看板娘がとびきりかわいっくってな!……ん!?その姿……まさかオメェ勇者か!?」

勇者「あ、ああ」

男1「こいつぁすげえ!!まさかこんなところで勇者に会うとはよ!聞いたぜオイ、昔、北の大盗賊団を壊滅させたってマジか!?」

勇者「(あのころ魔物に全然遭遇しないから盗賊狩りばっかしてたんだよな……) 本当だ」

男2「かぁ〜!かっくいいね!よしきた旦那、今日は俺の奢りだ!一緒に飯食わせてくれや!」

竜人「どうします、勇者様……って、ああ、ちょっと。引っ張らないでくださいって!」

勇者「お、おい。俺たちあんまり時間がとれないんだが」

男2「かまわねえかまわねえ!」

がやがやがやがや

男1「勇者様とそのお仲間様にかんぱーい!!遠慮せずに飲んで食ってくれや!!」

男2「ここの葡萄酒は格別でね、俺も毎晩呑みにきちまってるのさ!おかげで酔ってるのか素面なのか誰にもわかんねえ有様だ!」

勇者「奢ってくれんのは有り難いけど、食事だけにさせてもらうよ。悪いな」

男1「なんだ勇者、お前下戸かい!?んなこと言わずに!!ほれほれ!!男なら一気に呷っちまいな!」

勇者「ちょっ!?ごぼごぼ……」

竜人「ああ、なにしてるんです。お酒は……」

男2「ほら兄ちゃんも呑みな!!!奢りだ奢りだ!!」

竜人「いや私はいいですって、ごぶっ!」

男2「はーはっはっはっは!!いい呑みっぷりだ!さすが伝説の勇者パーティだな!!」

半刻後

勇者「うっく――くっそ、なにしやがる。人の話も聞かずに――うぐっ。ああクラクラする」

男1「おいおい、もう終いかい?顔が茹だこみたいになっちまってるぜ!!」

竜人(これじゃ天文台に行くのは明日からになりそうですね。まあ仕方ありません。今日盗賊が来ないことを祈りましょうか)

竜人「勇者様、大丈夫ですか?」

男2「あんたは随分酒に強いんだなあ!呑んでも呑んでもしらーっとしてる」

竜人「まあ体質でして」

男1「ここの上は宿屋になってるんだ。俺が勇者を連れてってやるよ。お前らはまだ呑みたんねぇだろ?そこにいろよ」

竜人「いえいえ、私が連れてきますよ」

男1「呑ませちまった俺に責任があるからよ。気にすんなって。よいしょっと」

勇者「うっ」

竜人「そうですか……じゃあお願いしますね」

……バタン

男1「ふう、ふう。重いなくそったれ。おい勇者」

勇者「……」

男1「完全に寝入ってやがるな。しめしめ。これが、『時の剣』……。生きて出てきた者はいないという時の神殿の奥に眠っていたという……
   へへっ!すげえや!!それじゃこいつを失礼して!」
   
盗賊1「兄貴のところに持ち帰るか!!」

男2「あんたの出身はどこだい?」

竜人「太陽の国の北あたりですよ」

男2「へえ。あの国のか。それじゃさぞかし星の国の住民は奇妙に映るだろうな。周りを見てみろよ」

竜人「……」

「東洋から伝わった学術書をもう読んだか?あれに書いてある惑星の平均運動について疑問があるんだが……」

「天体の位置計算の補足表、最新のものがでたらしいね。これで私の研究も一歩前進といったところだ――」

竜人「……まあ、酒の肴に学問の話とは、結構変わってると思います」

男2「だろ?どこを見ても勉強のことばっかで、学のない俺らにとっては居心地悪いったらねえや」

竜人「ところで、お連れの方遅くないですか?ちょっと見てきましょう」

男2「あーあー!待て待て、俺が行ってくるよ!」

ガタッ!!バタバタ……

男2「よう。どうだった」

盗賊1「へっへ、見てみろこれ」

盗賊2「うおおおお!すっげえな!こりゃ高く売れるぜ!あいつらが気づく前に、兄貴のところに行こう!」

盗賊1「ああ!」

盗賊のアジト

盗賊1「兄貴ー!!盗んできやしたぜ!!時の剣だ!!」

仮面「おお、よくやったな。俺の方も朗報だ。天文塔への侵入ルート見つけたぜ」

盗賊2「さっすが兄貴だ!」

仮面「これから盗みに行くぞ。「星の王」――アステリオスを」

仮面「勇者が邪魔に来たとしても、この剣があれば無敵だ。丸腰の勇者と、伝説の剣を手にした俺、果たしてどっちが勝つだろうか」

盗賊1・2「兄貴だ!!」

仮面「そうとも。勇者が酔いつぶれた今がチャンスだ。行くぞ!!」

盗賊1・2「おう!」

「…………ま……う……さま、勇者様!!」

勇者「ん……!?な、なんだ?竜人?」

竜人「起きてください勇者様。腰に差してた剣はどちらに?」

勇者「へっ?どこにも置いてないけど――あれっ!?ない!!どこいった!?」

竜人「もしかして、さっきの男たち……私たちが追っていた盗賊団のメンバーだったのでは?」

勇者「なに!?っつ、頭いてぇ!あいつらどこ行ったんだ?」

竜人「勇者様を連れてった一人も、様子を見に言ったもう一人も、全然戻ってこないので見に来たらこのありさまですよ。多分もう逃げたかと」

勇者「あいつら!!最初っからそのつもりだったのか!くっそ!!急いで天文台へ行くぞ、竜人!」

竜人「天文台へ!?でも勇者様、足元ふらついてますけど」

勇者「俺から奪った剣を手にしてて、俺が体調万全じゃないこの今こそ、奴らにとって最大のチャンスだ!急ぐぞっ!」

竜人「勇者様そっち扉じゃなくて――」

ガターーン!!ゴシャァァァン!!!バタバタッ ゴトッ!

  おいなんだ!?上からなんか落ちてきた!人!?

竜人「開け放たれた窓です――って、ああもう。遅かった……」

ダッダッダッダッ

守衛「止まれ、職員の印か推薦状は――ああ、勇者殿か……え、勇者殿!?なんで血まみれ!?」

竜人「さっき窓から落ちて……」

守衛「大丈夫ですか!?」

勇者「だいっ、だ、大丈夫だ!!気を抜くと吐しゃ物まき散らしそうな状態だが、大丈夫だ!」

守衛「それ大丈夫って言わないんじゃあ!?あ、行っちゃった……」

ダッダッダッ ズルッ バターーーン!!

 ユウシャサマー!!
 
 
 
 
守衛「……大丈夫だろうか……」

竜人「ここが最上階、宝石が保管されてる階ですね。!!護衛の人たちが倒れてる!?」

勇者「俺も倒れそう……おい、あんた!気絶してるだけか。息はある」

竜人「まずいですね。もしかしたら宝石はもう……急ぎましょう」

勇者「ああ!」

勇者「この部屋か!開けるぞ竜人、準備しろ」

竜人「ええ」

バタンッ!

盗賊1「げっ!?誰だ」

盗賊2「勇者とその仲間!もう追いついてきやがったか!」

勇者「お前ら、やっぱり定食屋の男ども!!盗賊だったのか!!俺の剣を返せ!!」

竜人「全く、まんまと騙されてしまいましたよ。そして奥の、仮面をつけたあなたが親玉ですか?」

仮面「まあなぁ。でもそれがなんだってんだ?」

竜人「捕えます。剣は返してもらいますし、宝石もあなたたちに渡しません」

勇者「覚悟しろよ、お前ら」

竜人「勇者様、どこ向いてんですか。そっちただの柱ですしっかりしてください!!」

仮面「ッハッハッハ!剣も持たず、酒で千鳥足、そんな様で俺らと戦おうってのか?お笑い草だ。
   おい、お前ら、戦闘準備しろ!俺も……」
   
   
スラッ――ジャキッ!

仮面「このお前から頂戴した剣の試し斬り、したいと思ってたところだ」

勇者「ハッ。強さってもんは剣で決まるんじゃない!本当に強い奴ってのは例え剣が鈍らだとしても立派に立ち振る舞えるもんさ」

仮面「いや、俺はこっちだ。どっち向いて構えてんだよ」

勇者「あーくそ!!もう!!いいからかかってこい!!」

仮面「じゃあ遠慮なくっ!」

ガキンッ!ギンッ!ガッ!

盗賊1「俺たちの相手はあんたか!?」

盗賊2「あんたみたいなひょろい野郎、10秒で地に臥せてやるよ!!」

ヒュッ―― ガッ

竜人「うっ、流石に速いですね!これは骨が折れそうだ……」

竜人(勇者様は大丈夫だろうか。あの仮面の男、相当な使い手だと思うのですが……)

仮面「ほらほら!どうしたよ勇者様!?防ぐのすらできなくなっちまいやがったかぁ!?」

勇者「くっ!ベラベラうるせーな!!」

仮面「すげえな、お前の剣。こんなに切れ味が鋭いのに、羽のように軽いぜ。ちょっと本気出せば――」

スパッッ

仮面「――お前のその鈍らも、真っ二つだ」

勇者「……ですよねー」

仮面「ハハハッ!ついに虚勢すら張れなくなったか。終いだな」

勇者(くそ、後ろは窓か!もう逃げ場がない)

仮面「こっから落ちたら、さすがの勇者様も命の危機ってやつじゃあねえのか?ん?」

勇者「ぐ……てめぇ……。一日に二度も窓から落ちてたまるか」

ヒュォオオオオオオ……

勇者(……さすが世界一の天文塔、てっぺんとなると雲も突き抜けてるのか)

仮面「どうだい、上半身まるまる雲の上に浮いてるってのは、どんな心地なんだ?なんなら落ちてみるか?」

勇者「…………その前に、ひとつだけ教えてくれよ」

仮面「なんだ?」

勇者「今――何時だ?」

仮面「あぁ?変なこと聞くな、お前。ちょうど12時を回ったところだ。時間がそんなに気になんのか?」

勇者「そうか。ありがとよ」ガシ

仮面「おい、なに剣掴んで―――――ばっ!離せオイ!!落ち――――」

勇者「一緒に夜空の散歩と洒落こもうぜ、仮面野郎!」

ヒュッ……

キンッ ガッ ガキン!

竜人「すばしっこいですね、本当っ……ってあれ?勇者様たちはどこに?」

盗賊1「よそ見してる暇はねぇぞ!」

竜人「その様ですね……!さすが盗賊、評判になるのも分かりますよ」

盗賊1「へへっ!だろ!?」

盗賊2「双子の俺たちは息もぴったりさ!」

盗賊1「どんな野郎も二人で倒してきた!」

盗賊2「あんたも食らいな!!ほらよっ!!」

盗賊1「背中がガラ空きだぜ、おいっ!!!」

ザクッ!

竜人「いっ……」

盗賊1「ハハハ!食らったな!」

竜人「かすり傷ですよ」

盗賊2「かすり傷でも傷は傷。俺たちのナイフには象でも動けなくなるほどの痺れ毒が塗ってあるのさ!」

盗賊1「どんな猛者もひとたまりもないくらい強烈な毒だぜ!あんたも今にぴくりとも動けなくなるね!」

竜人「毒ですか……」

ヒュッ!!キィンッ!

盗賊1「なっ!?なんで動けるんだこいつ?」

盗賊2「この毒を食らって動ける奴なんて初めて見たぜ!」

盗賊1「なんなんだお前……?ただもんじゃねえな!?」

盗賊2「この毒を解毒できんのは、貴重も貴重、ドラゴンブラッドだけだ。でもあんなの実在してるかどうかも怪しいね」

竜人「そうですね……。竜の血はどんな病も治し、どんな毒も解毒するってあなたたちの間では伝えられてますね。
   もっとも純粋な竜族なんてもうこの世にいないので、万能の秘薬はもう作れなくなってしまいましたけど」
   
竜人「そんなもののために、私の母も父も……」

盗賊1「ああん!?なにブツブツ言ってんだぁ!?」

竜人「いえいえ、話しすぎましたね、すいません。では勇者様のことも気になりますし、そろそろカタつけましょうか」

盗賊2「フン、毒が効かないからって調子に乗ん―――」

竜人「オラァァァァ―――!!!」

バキッッ!!

盗賊1「拳!?ぎゃぶっ!」

盗賊2「っがぁ!?」

盗賊1・2「」

竜人「さて、勇者様とあの仮面の男はどこに……」

ビュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

仮面「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!馬鹿かテメェ!!!馬鹿か!!!本当に飛びおりやがって!!しかも俺も道連れとかふざけんなよクソ野郎!!!」

仮面「酒で脳もイカレたか!?テメェなんかと心中する気さらさらねーんだよッ!!!」

勇者「ぎゃあぎゃあうるせえな!落ち着け!」

仮面「これが落ち着いていられるか!!!死ぬんだぞ俺ら!!!」

勇者「まあ聞け!俺は転移魔法を使える」

仮面「はっ!?」

勇者「でもそのためには、お前が持ってるその剣が必要だ。俺に剣を返すか、このまま墜落死するか」

勇者「どっちにする?」

仮面「……ッ!!!剣でもなんでも返すから、さっさとその魔法とやらを使えクソ勇者!!!!!」

勇者「はいよ!」

シュンッ

シュンッ

勇者「……ふう」

仮面「はーっ、はーっ、はーっ、気狂いかテメェ」

竜人「勇者様!ご無事でしたか。びっくりしましたよ、気がついたらいないんですから」

勇者「ちょうど時間が12時過ぎててよかったぜ。この魔法は一日に一回しか使えないからな。おら、返せよ宝石」

ジャキッ

仮面「くっ……この野郎」

勇者「剣も取り戻せたし、宝石も守れたし、盗賊団も捕えたし。一件落着……あれっ?」

竜人「あっ」

バタンッ

竜人「勇者様!」

* * *

勇者「うーん……まぶし……。ん?朝か。ここは……宿?」

勇者「あれ、俺確か昨日盗賊と戦って、その後……」

ギィ バタン

竜人「お目覚めですか」

勇者「竜人!俺、どうなって?」

竜人「盗賊団のリーダーを倒した後、倒れたんですよ。まああれだけケガした後ですからね。体調はどうです?」

勇者「もう万全だ」

竜人「……この国の王から、召集がかかってます。勇者様が目覚め次第、体調が良好なら城にきてほしい、と」

勇者「国王から?そうか。じゃあ、行くか。お前、本当に来る気なんだな?」

竜人「ええ。もちろん」

勇者「ふう、じゃあ気を引き締めていくぞ。俺たちの本来の目的――認証書をもらいに行くんだからな」

竜人「はい。魔族と人の未来のために」

勇者「……」

勇者(魔王、見てろよ。認証書を絶対持ち帰ってやるからな)

魔王城

魔王「……」

ニンフ「魔王様、どうかしましたか?」

ノール「さっきから上の空ですけど」

魔王「……いやなんでもない。えっと、日付はこの日でよいのだったか」

ニンフ「ええ。でも……魔族が危機に晒されているこの状況で、本当にいいのかしら。その……」

魔王「いい。こんな状況だからこそ、何か皆を明るくさせるようなことが必要なのだ」

ノール「そう言って頂けると救われます」

魔王「私も楽しみにしている。竜人や魔女、勇者くんたちも来られたらいいのだがな。で、もう決めたのか?」

ニンフ「はい」

ノール「もう村のみんなにも伝えましたし衣装も準備しました」

魔王「そうか。もうすぐだな」

ニンフ「魔王様、どうぞ宜しくお願いしますね」

ノール「お願いします」

魔王「うん、分かってる。楽しみにしているぞ」

魔王(勇者くん、神官、戦士、竜人、魔女……元気にやっているだろうか)

魔王(やはり私だけ何もできないというのも歯がゆいものだな)

魔王(なんとか私の魔力と私の体を分離できれば、結界を維持しつつこの島以外で私が活動できる。
   その魔法を先日から研究しているのだが……一向に完成しない)
   
魔王(……はあ。いまごろみんなはなにしているのだろう……)

* * *

ゴゴゴゴゴゴ……バタ…ン

星の王「やあ。久しぶりだな勇者。横の彼は初めて会ったね」

勇者「お久しぶりです。星の国の王子よ」

竜人「初めまして……」

星の王「僕の国に来ていたのなら、言ってくれればよかったのに。盗賊団を捕えてくれて感謝しているよ。
    なにせ狙われてたのは天文台のアステリオスときたもんだ。盗まれていたらと思うとぞっとしないよ」
    
星の王「今盗賊たちは地下の牢につないで――」

騎士「失礼します!謁見中申し訳ございません、囚人どもが奇妙なことを口走ってまして、ぜひ王の耳にお入れしたいことがあるとか……」

星の王「僕の?そうか、じゃあここに連れてきてくれ」

騎士「よろしいのですか?」

星の王「ああ、いいよ」

勇者(王の耳に入れたいこと?なんだ?妙なことを言わないといいが……)

仮面「チッ 離せよテメェ!」

騎士「暴れるな!!」

星の王「罪人たちよ。僕に言いたいことがあるって言ってたけど、なんのことだろう」

盗賊1「王子様!聞いてください!そいつらは、少なくとも勇者でない方のそっちの男は!!人間じゃありません!!!」

勇者「!?」

竜人「……」

星の王「……なんだって?」

盗賊2「おかしいんですよ!人なら間違いなく効くはずの毒薬を食らってもピンピンしてやがったぜ、そいつは!!
    あり得ないかもしれねえが――そいつは!!」
    
盗賊2「人間じゃない!!魔族だ!!!」

勇者「なっ……!」

ざわざわざわざわ

騎士1「……っ!」

騎士2「魔族だと!?太陽の国が魔族との戦争を目論んでるとは聞いていたが、我が国にまで!?」

勇者(くそ!場の空気がもってかれた。交渉を有利にするために盗賊団を捕えたってのに、これじゃ逆効果だ)

星の王「騎士たちよ、剣をおさめなさい。ここにいるのは、私の友人だ」

勇者「!」

星の王「どういうことだか説明してもらってもいいかい?勇者……そして、お隣の彼は、なんて名前なのかな」

竜人「星の国の王子よ。素性を明らかにせず、あなたの御前に現れた無礼をお許しください。
   私は正真正銘、魔族の――竜族の血をひく者です」
   

ざわざわっ

騎士「貴様!!一歩たりともそこから動くな!宮殿にまで入り込んできおって!!」

勇者「俺たちは!!あなたに危害を加えようとしてここに来た訳ではありません!!どうかお話を聴いてください、王子!」

仮面「魔族だと!おいおい牢獄にいれる相手を間違ってるんじゃないか王子様!!俺たちを釈放してあいつらを牢にぶちこめよ!!」

盗賊2「どうりで毒がきかねぇわけだ!薄汚い魔族の血め!!」

騎士「動くな蛮族!!!」

星の王「……静かに」

星の王「我が国らしく、理性をもって物事を判断しようじゃないか。そのためにまず勇者と竜人の主張を聴こう。
    なぜ魔族の者が僕の国に?人間の希望たる勇者、君は何故魔族と共にいる?」
    
勇者「……有難うございます。ではお話しましょう。俺が魔族と共にここにいる理由、そして」

勇者「俺たちここ星の国に来た理由を」

勇者「俺は太陽の国の王に命じられて魔族討伐の旅に出ました。そしてついに魔王城の居場所を突き止めたのです。
   でも、そこで出会ったのは、想像していた魔族とは全く異なる者たちでした」
   
勇者「そして聴かされた魔族の歴史、境遇。俺たち人間に伝えられてきたものと全然違います。
   100年前の人魔戦争、その原因についても人間と魔族では伝えられてきたものが異なっています。
   俺は、何が正しいのか分からなくなりました」
   
勇者「歴史の曖昧さは仕方のないことです。でも1つだけ、分かっていることがあります。
   魔族は、俺たちが思っているよりずっと善良で、人間と性質が一緒だってことです」
   
星の王「一緒?どういうことだろう」

勇者「一緒です。気性の荒い者もいれば、血を見るだけで卒倒する者もいます。大体は、俺らと一緒です、平和な世界が好きなんです」

竜人「勇者様の仰る通りなんです。私たち魔族は戦争を始めて人間たちを脅かそうなんてこれっぽっちも思ってません。
   100年前の戦争で我らはどんどん種を減らし、今では純粋な魔族もほとんど残ってません」
   
星の王「……」

竜人「聴いてくれますか。私たちの歴史を」

星の王「……」

騎士「惑わされないでください、王よ!王宮の奥に魔族が入り込んでいるこの状況が既に危険ですよ!」

星の王「……聴かせてほしい。ぜひ」

騎士「王よ!!」

勇者「……!」

竜人「……!有難うございます……!」

星の王「騎士たちよ、少し黙っていてくれ。僕の身を案じてくれるのはいいが、それではなにも新しい見聞など得られないのだから。
    真実とは常に思いもよらぬ方向から我らを導く。僕たちはそれを拒んではいけないのだ」
    
騎士「……っ!仰せのままに、王よ」

星の王「さあ、聴かせておくれ。魔族の話を聴くのは初めての経験だ。歴史学も、天文学ほどではないが、この国では盛んなのだよ」

竜人「……はい。では……」

星の王「……なるほどね。実に興味深い話だ。それで、君たちは僕に何をお願いしたいんだい。
    盗賊たちを捕えたのも、交渉をスムーズに進めるための交渉材料のつもりだったんだろう?」
    
竜人「ばれてましたか……」

勇者「さすが王子です。太陽の国が魔族を殲滅しようという動きがあるのはご存じですよね」

星の王「ああ、確かあと3カ月後くらいだったかな。また軍隊要請の文が届いていたよ」

勇者「俺は、俺たちは、それを阻止しなければなりません。でも国王は聴く耳を持っておらず。
   よって、神の法を執行させるために貴方様の認定証を頂戴しにまいったのです」
   
星の王「神の……法?」

星の王「………………フフ」

竜人「?」

星の王「あーっはっはっはっはっは!!」

竜人「!?」

星の王「まさか本当に!?そんな制定以来一度も成功していない神法を本気でやろうと思っているのかい?」

勇者「……本気です。
   例え成功率が低くとも、やらなければ魔族は、こいつらは殺されるんですよ。人間の勝手な都合で。
   そんなの見過ごせるわけありません!!3カ月後に行われるのは――粛清じゃない、ただの虐殺だ!!」
   
竜人「お願いします。認定書を下さい。私たち魔族に生きる希望を下さい」

星の王「では、メリットとデメリットを考えてみよう」

勇者「……は?」

星の王「まずメリット。ゼロ」

勇者「いやいや!ゼロじゃないですよ!罪のない魔族たちが殺されずにすむんですよ!?」

星の王「それは魔族たちのメリットであって、僕たち星の国のメリットではないよね。
    では次。デメリット」
    
星の王「まず神の法執行失敗した場合、太陽の国の僕たちに対する風当たりは間違いなく強くなるだろうね。
    交易、外交、いろんな面で影響がでてくるだろうさ」
    
星の王「しかも神法はこれまで成功例がないときた。理由は分かってるよね。国王がそうむざむざと玉座から引きずりおろされるものか。
    なんとしてでも妨害するのさ。あらゆる手段を使って。大体君たちみたいな国の是正を目論む若者たちは暗殺されて、歴史の闇の中に葬り去られてきた」
    
星の王「こんな条件の下で、僕が認定証をだすと思うかい?
    魔族の君には同情するよ。でも頑張ってとしか言えない。悪いけどね」
    
竜人「……!!」

竜人「……ひとつだけ、いいでしょうか」

星の王「なんだい?」

竜人「……人と魔族。悪だとすれば、どちらでしょう?」

星の王「難しい質問だ。でも多分、人だろうね。罪深い生き物だよ」

竜人「……そうでしょうとも。私も今、そう感じているところです」

騎士「貴様っ!」

竜人「……」

勇者「…………待ってください!!あります。メリット」

星の王「ん?」

勇者「あ、ありますよたくさん!!えっと……」

勇者(くそ、こんなとき神官がいてくれりゃあいろいろと喋ってくれてるだろうに……!
   でも俺が考えなければいけないんだ。考えろ!この頭でっかちの王子様を納得させられるような案を思いつかないと……)
   
勇者(魔族……魔王城……あの島……そうだ)

勇者「神の法が無事執行された場合、魔族たちも交易ができるようになります。魔王城のある島では、人間界にない農産物や資源がたくさんあります。
   もし魔族が自由の身になった暁には星の国を交易面で優先しますよ!な、竜人!」
   
竜人「えっ?あ、はい!」

星の王「なるほど。でもそれだけかい?」

勇者「う……あ、あとは……」

竜人「……あともうひとつあります」

竜人「先ほど、あなたは『天文学ほどではないが、歴史学も盛んだ』と仰いましたね。
   学問の都であるここでは、歴史学、民族学、民俗学諸々最先端の研究がなされていると思います」
   
竜人「魔族という『滅びゆく種族』の語る歴史や文化、そのまま葬り去っていいのですか?
   あなたがたにとっては貴重な研究材料ではないのですか?私たちの仲間には、純粋な血族ではありませんが
   エルフ、ヴァンパイア、グリフォン、ハーピー、マーメイド、キマイラ、様々な種族がいます」
   
竜人「人体実験はごめんですが、認定書をくださればあなたがたに惜しみない協力をすることを約束しますよ」

星の王「……………………ハハ、やるじゃないか」

星の王「いいよ、認定書を差し上げよう」ニッコリ

勇者「!」

竜人「ほ、本当ですか……」

星の王「試すような真似をしてしまって申し訳ないね。まさか魔族に、本当に我々のような知性があったとは。
    いや恐れ入ったよ。どうやら君たちの話も真実みたいだ。僕は今日、また未知の真理に出会った。
    星に感謝をしなければ」

竜人「有難うございます」

勇者「やったな、竜人!王子、有難うございます!!」

仮面「おい、ちょっと待てよ。なに和解ムードになってんだコラ。魔族だぞ!?
   なんで魔族は見逃して俺たちは牢獄行きなんだよ!」
   
星の王「ああ、忘れていた。罪人たちを牢へ戻せ」

騎士「ハッ」

仮面「待て待て!離せよ!!」

星の王「どうしてアステリオスを盗もうとなんてしたんだい?あれがなくなったら天球の観察に支障をきたす。
    我らの国の一番大切な宝石なんだよ」
    
仮面「ケッ!石がなんだ、星がなんだ!!んなもん、腹の足しにもなんねぇよ!」

仮面「いいかよく聴け!俺はこの国が大っきらいだ!この世界には朝食うパンにすら事欠く奴がたっくさんいるんだ!
   あんな宝石、すぐ金にしちまって食いもんにした方がよっぽど役に立つってもんだ!
   それを後生大事に塔のてっぺんに保管しやがって、この国は勉強しすぎてアホに成り下がった奴ばっかさ!」
   
勇者「……」

星の王「学問の発展がいずれ国の発展にも繋がる。そもそも僕は慈善活動にも積極的だけど」

仮面「あの宝石を売った方が、その高邁な精神による慈善活動とやらよりもよっぽど民のためになるね!
   結局口だけだてめぇらは!教科書だけ見て国の汚い部分を見てねぇんだよ!!」
   
星の王「ひどい言われようだ」

騎士「貴様ッ!黙れ!!」

仮面「ぐっ…!」

盗賊1「兄貴ー!」

盗賊2「兄貴、もうしゃべらん方がいいですって!」

勇者「王よ、もうひとつお願いがあります。あの者たちを俺にまかせてくれないでしょうか」

仮面「はっ!?」

竜人「え!?」

星の王「理由は?」

勇者「俺たちが結成してる同盟はまだまだメンバーが足りません。できるだけいろんなところに人脈をはりたいんです。
   盗賊団のメンバーはまだいませんし、こいつらかなり腕が立ちます。俺にまかせてくれませんか」
   

盗賊2「はあああ!?なに言ってやがんだてめぇ!」

星の王「分かった、まかせよう」

盗賊1「ええええ!?なに言ってんだこのクソ王子!」

星の王「ほかならぬ勇者の頼みなのだから。星が僕に示してくれている。
    君は世界を導く者だって……」
    
勇者「は、はあ」

勇者(相変わらず、たまに訳分からないこと言う人だな)

星の王「じゃあその者たちを釈放しよう。では勇者、竜人、盗賊団よ」

星の王「――君たちの行く末に、星の導きがあらんことを」

竜人の性別逆だって思ってる方いそうだなーと思ってたらやっぱりいらっしゃいましたか
一応顔合わせで、姫が竜人に一目ぼれしてる描写いれたんだけど分かりにくかったですね…

男 勇者 戦士 竜人 仮面 盗賊1・2 騎士 グリフォン魚人キマイラ
女 魔王 神官 魔女 姫 ハーピー 

くらいかな?では投下

――その頃――

魔女「ぜっっっっ」

魔女「んぜんっ!見つからないじゃん!!どこ行ったんだよ君らの王子様!?」

神官「はあ……そんな簡単に見つからないとは思ってましたけど」

戦士「今日も成果がだせなかったな」

魔女「あ、あそこに座ってる人かっこよくない?もしかして王子かな?ねーねーそこの君!」

魔女「違いました」

神官「ていうかやっぱり手かがりがですね、少なすぎますよ。……あれ?なんですあの鷹、こっちに飛んできます」

戦士「文が結んであるぞ。どうやら俺たちあてのようだな。なになに。
   ……む?なんだこの文字は。暗号か?」
   
魔女「見して。……これ、竜人からだね。んーと」

魔女「認定書ゲットしたって!!」

神官「ま、魔女さん、しーっですよ!ちょっと声小さくしてください!」

魔女「いけね。ごめんごめん」

戦士「なんと!よくやりおったな勇者と竜人の奴」

魔女「続けるね。しばらくあっちも都で王子の聴きこみしてから帰るってさ。
   ……おっ!星の王様があたしたちが探してる王子様と幼少の時に知り合いだったみたいで、話聴いたって」
   
神官「え、なんて書いてあります?」

魔女「髪は金で、左目の下に泣きぼくろがあって、鎖骨あたりに昔剣術大会で負った傷の痕があるはずだって」

戦士「ほう。容姿は大分絞れたな」

魔女「ふーん。剣はかなりの腕前らしいよ。大会で優勝したこともあるみたい」

戦士「貴族たちの剣術大会なら俺も一度見たことがある。実戦よりも型の美しさの方が重視されるような大会だったが、
   それなりに白熱しておった。かなり独特な構えでな、こう片手を前に突き出してもう一方を……」
   
魔女「あたしたちに言われてもちんぷんかんぷんなんですけどー。魔術師組だもん。
   なんならお返しに光魔法と闇魔法の比較考察について講釈したげよっか?」
   
戦士「む……結構だ」

神官「それにしても、これからちょっとは人探しも楽になりそうですね!勇者様たちも探してくれているそうですし!
   明日は武器商人の方たちにお話窺ってみましょう」
   
戦士「そうだな」

魔女「早く王子様に会ってみたいなー。どんくらいかっこいいんだろ?噂になるくらいだから相当だよね。神官も気になるよね?」

神官「へ?いえ私は別にそれほどでも」

魔女「好きな男とかいないの!?」

神官「はい!?な、なに言ってんですか!?魔女さん、今そういうことお話してる場合では!」

魔女「いいじゃん別に、もう今日することないし。教えてよーねえねえー」

神官「いやですっ、もう勘弁してくださいよ!私そういうの興味ありませんからっ!」

キャッキャ キャッキャ

戦士「…………」

戦士(早く勇者たちと合流したい……)

星の都

勇者「なあ。こういう顔の男見たことないか?」

学生「なんですそれ、似顔絵ですか?……うーん、見たことないですね」

竜人「金髪で左目の下に泣きぼくろがある男の人、ここに泊まったことありますか?」

宿屋「んん?ごめんな兄ちゃん、覚えてねーや。なにせ一日に何十人も客が来るからな」

勇者「……なかなか、見つからないな。やっぱり」

竜人「人が多すぎることがかえって仇になってますね」

勇者「おおい、お前らどうだった?」

盗賊1「へい!成果なしです!」

盗賊2「全然だめでしたぜ勇者の旦那!」

勇者「そっか。あれ、あいつは?」

仮面「……気安く呼ぶんじゃねぇよ。チッ」

勇者「いたのか。西の方の酒場と宿屋はどうだった?」

仮面「……」

勇者「おい、ちゃんと聞きにいったんだろうな。無視すんなよ」

仮面「言っておくがな、俺はお前の下についた訳でもなんでもねぇからな。今逃げたら即牢に戻されるだろうから、協力してやってるだけだ」

盗賊1「兄貴、でも俺たちこの人たちのおかげで助かったんですぜ?おまけに昨日飯奢ってもらったし」

盗賊2「竜人の旦那にも悪いこと言っちゃったな。すいません」

竜人「いや別にもういいですよ」

盗賊2「魔族がこんないい人だなんて知らなかったぜ。でもこの人の仲間が王国に殺されそうなんだろ?
    弱きを助けて強きをくじく!それが俺たちの信念じゃねえですか兄貴」
    
盗賊1「俺と弟は孤児でね、きたねえ路地裏で、泥棒の濡れ衣着せられて追いかけまわされて、餓死しそうになってたところを
    兄貴に助けてもらったんだ。だから、竜人の旦那の気持ちもちょっとばかし分かるんだ」
    
竜人「そうですか……大変でしたね」

盗賊2「兄貴、俺たちも協力しましょうよ!」

仮面「チッ!ほだされやがって馬鹿ども。まあいい、今だけだ。
   西は宿屋も酒場も目撃情報ゼロだったよ。このお前さんが描いた美青年像もちゃんと見せてやったぜ」
   
勇者「そっちもだめか」

勇者「つーか、気になってたんだが」

仮面「あ?」

勇者「お前なんで仮面なんてつけてるんだ?怪しまれるだろ、とれよ」

仮面「うるせえな、いいだろ別に。ほっとけ」

勇者「まあ無理にとは言わないが……不便じゃないのか」

盗賊1「兄貴は俺たちと出会った時からこの仮面を愛用してんだ。よっぽど気にいってんですね!」

仮面「まあな。そんなことより、おいあそこの武具屋にはもう寄ったのか」

竜人「あそこはまだです。休憩してから行こうかと」

仮面「さっさと行くぞ。大きめの店だから客もいっぱいいんだろ。おーい親父、ちょっと話聞かせてくれよ」

盗賊2「あ、待ってくだせえ兄貴!」

竜人「急にやる気出しましたね。行きましょうか勇者様」

勇者「お、おう。……ん?こっちの狭い通りの奥……看板が見えるな。もしかして……」

勇者「悪い、先に行っててくれ」

竜人「え?あ、はい。……?」

勇者「やっぱり武器屋だったか。目立たないところにあるし品ぞろえも悪いが、なかなかいい剣を売っている。市場じゃ見たことのないものばっかりだ」

鍛冶屋「おやいらっしゃい。見慣れない客だ。新しい剣かね?買い取りもやっとるよ」

勇者「ああいや、買いにきたわけじゃないんだ。人を探していて」

鍛冶屋「むっ!?お主、その腰の剣は……まさか神殿の……ふぉおお!ちょっと見せとくれ!後生じゃから!後生じゃから!」

勇者「ええっ!?あの、話聞、」

鍛冶屋「やはりそうか!!この美しい刀身……わしが何年修業を積んでも到達できんレベルだ。素晴らしい」

勇者(聞いてねえ……)

鍛冶屋「しかし、万人にとって扱いやすい剣という訳でもなさそうだな。この重さと刀の薄さ、しなり具合。なかなか扱いづらそうじゃ。
    そういえばこの間、店に何年も置いてあった業物を金髪の若者が買っていったわい。
    それも癖のある形でな、わしもなんであんなの作ったのか分からんのだが」
    
勇者「!金髪の若者!?詳しく聞かせてくれ!そいつ、もしかして左目の下になきぼくろとかあった!?」

鍛冶屋「んなもん知らんわ」

勇者「ええっと、じゃあ、どんな剣買っていったんだ?」

鍛冶屋「こんな形の短剣だ。お前さんに使いこなせるのかと訊いたらな、わしが見たことのない構えをとってみせた。
    こう左手に短剣を握って、右手にサーベルを控えさせとるんじゃ。で足がこう」
    
勇者(これが貴族の剣術なのか?俺大会見に行ったことないんだよな……今度戦士に訊いてみるか)

勇者「あっ、じゃあ首元に傷跡はなかったか?」

鍛冶屋「傷跡ねえ……おお、そう言えば若者が来た時には雨が降っておってな、天気が悪いと古傷が痛むだのなんだの言っとった」

勇者「本当か!そいつで間違いない。ありがとなおっさん!じゃあ剣返してくれ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「……いや、早く返してくれよ」

鍛冶屋「……」

勇者「おい!!」

* * *

竜人「勇者様。どこ行ってらしたんです?ここの店も手掛かりはありませんでしたよ」

勇者「ちょっと手こずったが……聞いてくれ、王子の手がかりを見つけたんだ」

竜人「えっ」

勇者「近々雪の国に発つと言ってたそうだ。間違いなく最近まで彼はこの都にいた。もう少し目的地を絞り込みたいから、聞きこみを続けよう」
   
仮面「雪の国だぁ?はーん、奴さん随分飛びまわるもんだ。俺は星の国だけの協力でいいだろ?
   お前ら2人は好きにしろ。この際盗賊から足を洗っちまえばいい。俺は俺で好きにやる」
   
盗賊1・2「そんな、兄貴〜!」

勇者「だめだ。最後まで協力してもらうぞ。そういやさっきの鍛冶屋との話で出たんだが……
   俺の剣、一般人にはかなり使いづらい形状だそうだ。あの天文塔で、よくお前あんな身のこなしできたな」
   
竜人「確かに変わった剣ですよね。装飾用や鑑賞用とも思えるくらい」

仮面「剣と名のつくもんなら大抵使えるさ。生きるために手当たりしだい近くにある刃物で戦ってきたからな」

勇者「へえ……」

しばらくしたあと 魔王城

シュンッ

盗賊1「おお〜!ここが魔王城ですかい!?すげえ!でけえな!」

盗賊2「俺たちまで連れてきてもらえるなんてな!ラッキーだぜ!」

仮面(魔王城か……いい宝あるか?)

竜人「盗んだら殺しますよ」

仮面「!?」

勇者「結局あれから王子の目撃情報はチラホラあったけど、雪の国のどこに行ったかまでは特定不明だったな」

竜人「まあ、これでもちょっとは前進しましたよ。雪の国ではきっと見つけられるはずです。……おや」

シュンッ

魔女「あ。勇者に竜人と――え、横の人たち誰?」

神官「お久しぶりです!皆さん!」

戦士「おお、認定書のことは聞いたぞ。でかしたな二人とも」

勇者「おー久しぶり」

神官「聞いてください勇者様!王子を見たって人、いましたよ!なんと、次は雪の国に向かったそうですっ!!!」

勇者「ああ、俺たちもそれ聞いた」

神官「エッ」

勇者「雪の国のどこに向かうかは特定できたか?」

神官「いや……ええと……いえ……。ごめんなざい゛……」

勇者「なんで涙ぐんでるんだよ!?」

神官「調子に乗りました……穴があったら地核まで掘り進めて埋まりたい……」

勇者「ナイーヴすぎだろお前!」

魔王「……いつまで城の外でおしゃべりしているつもりだ?」

竜人「魔王様。ただいま戻りましたよ」

魔女「魔王様ぁぁ!ただいま〜!」

仮面盗賊1・2(魔王……??あれが……?)
            
                  ↑
勇者「恒例の行事になってるな、これ」

魔王「本当に認定書を……?すごい……まさか……。それに王子の行方もあと一歩というところだな。
   みんな、本当にありがとう」
   
勇者「あの国にもどうせ認定書をもらいに行くつもりだったしな。でもあと2カ月と少しで見つかればいいが……」

竜人「勇者様たちはこの後太陽の国に戻って、皆さまに報告なさってください。出版した本のこともあるでしょうし。
   表だって動けない私と魔女は、雪の国で引き続き王子探しをやりますよ」
   
魔女「はあ〜……あたしあの国寒いから嫌い」

竜人「我がまま言うんじゃありません」

戦士「そうだな。それからこちらも落ち着き次第雪の国に向かって認定書を女王からもらおう」

神官「はい」

魔王「ところで、竜人たちも勇者くんたちもここを発つのは明日になるだろう?ぜひみんなに参加してほしいことがあるんだ」

勇者「ん?なんだ?」

魔王「ふふふ」

勇者「なんだよ、楽しそうだな」

魔王「明日は結婚式があるのだ」

勇者「結婚式?ここでか?」

神官「わあ、素敵です!」

戦士「めでたいな」

竜人「ああ、あのニンフとノールのですね。間に合ってよかった」

魔女「大変!じゃあ明日のための洋服とメイクとヘアセットの準備して今日は早く寝なくっちゃ!おやすみみんな!」

勇者「はやっ まだ陽が沈んだばっかりだぞ」

魔王「式を執り行うのも魔王の役目なんだ。準備はもうばっちりしてあるから、勇者くんたちも楽しみにしててほしい。
   一緒にきたあの仮面の彼と盗賊たちにも伝えてくれ」
   
勇者「おう、分かった」

翌日

仮面「なんで俺たちまで……」

竜人「あなた、夜中城の中をこっそり徘徊してたでしょう」

仮面「べっ、別になんもしてねぇけど!?」

竜人「……」

魔王「盗む価値のある芸術品なんかこの城にないぞ。物色しても無駄だ」

勇者「つーか、お前、結婚式くらいその仮面とれよ。一人だけ舞踏会の招待客だぞ。
   あとそれからいつもつけてるそのマフラーも。確かに今日は肌寒いけどおかしいだろ」
   
仮面「うるせぇな、ほっとけ。魔王のお譲ちゃんの言う通り、全然お宝ねえんだもんな。来て損した」

魔王「仲間の彼らはすごく楽しそうだが」

盗賊1「おお、ここが式場かぁ。俺結婚式にでるのなんて初めてだ」
盗賊2「俺もだぜ。花がたくさんあってきれいだなぁ!てか魔族ばっかだここ!すげえ!」
子エルフ「兄ちゃんたちも人間だー!人間いっぱい増えたー!すげえ!」

仮面「……はあ」

魔王「じゃあ先に私たちは先に中に入ってる」

魔女「またね〜」

ニンフ「魔王様、今日はよろしくお願いします」

ノール「よ、よろしくお願いします」

魔女「わああっ ニンフすごく似合ってるよ!きれい!ノールも男前じゃん!」

竜人「いやーやっぱりこういう行事は心躍りますねえ。幸せになるんですよ二人とも」

魔王「手順はこの間の言った通り、ここで婚礼の儀を終えたあと、外にでて島のみんなが作ってくれたアーチを潜って
   離れたところにある東屋まで歩いて行ってくれ。……そんなに緊張しなくていいと思うが」
   
ノール「そ、そそそそうなんですががっがね!」

ニンフ「やだもう、ノールったら……この人緊張しいなんです」

魔女「でも、ちょっと天気が心配だね―――あ、うそ……」

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

竜人「雨が……」

ニンフ「あら……どうしましょう」

ノール「これじゃ延期、かな?」

魔王「ああ、大丈夫。ちょっとこの荷物持っててくれ、魔女」

魔女「魔王様、えっ?なんで杖構えて」

竜人「ちょっと待ってください特大の風魔法発動して雨雲を吹き飛ばそうとかそういうの洒落にならないんでやめてくださいよ!?魔王様!?」

魚人「いよぉ、久しぶりだな勇者御一行」

ハーピー「こんにちは」

勇者「久しぶり」

グリフォン「認定書ひとつ手に入れたって本当かい?すごいなあ」

戦士「まことだ。もうひとつも必ず手に入れる」

キマイラ「それは頼もしい。いやはや、あなた方のご活躍と今日の結婚式のおかげで久しぶりに島に活気が戻りましたね。
     子どもたちも元気に振る舞ってはいるもののやはり一抹の不安を感じていたようですが、今日は元気いっぱいで安心しました」
     
魚人「俺はいつでも元気爆発だけどな!!!!!フゥッ!!!!式場から二人が出てきたら秘蔵の酒を新郎にぶっかけようと思ってな!!!ワインシャワーだ!!!」

ハーピー「頼むからやめてあげて」

神官「花嫁ブチ切れますよ、それ……」

勇者「そろそろ式が始まるかな……。ん?」

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

戦士「む、雨か」

マーメイド「大変!私はむしろ大歓迎だけど」

魚人「俺もむしろ大歓迎なんだけどな」

グリフォン「魚人族はそりゃそうだろうけどさ。これじゃ式は中止かな?」

子ヴァンパイア「ええー!俺結婚式見たいー!」

盗賊1・2「「俺も見たい!!」」

仮面「てめえらすっかり馴染んでんなぁオイ」

カッ!

神官「うわあ!?眩しい……これ、魔法の光じゃないですか?誰かが魔法を使ったんですよ」

勇者「魔法を?でもどうして。……あれ……雨が止んだ。代わりにあの白いの――雪か?」

戦士「いや、これは」

子エルフ「花びらだー!空から花びらが振ってくるー!」

仮面「……魔法でこんなこともできんのか」

グリフォン「僕も初めて見たなあ」

ハーピー「すごい……きれい」

勇者「これって――そうか、魔王か。完成させたんだな」

子ヴァンパイア「あ!お姉さんとお兄さんでてきたー!」

魚人「よおしお前らみんなでアーチ準備しろ!!あいつらを出迎えるぞー!!」

わいわいわいわい がやがやがやがや
「おめでとう!」 「おめでとうございます!」 「お幸せに!ニンフ!ノール!」

ニンフ「わ……す、すごいです。本当に雨が花びらになっちゃった……!」

ノール「こんなことが……」

魔王「ほら、みんな待ってるぞ」

ノール「は、はい!有難うございました!」

ニンフ「こんな素敵な結婚式を挙げることができて、私たち幸せです……ぐすん」

魔女「泣いたらメイク落ちちゃうよ?夜に宴会もあるのにさ」ニコッ

竜人「さあ、行ってらっしゃい」ニコニコ

わーわー
 オメデトー ……
 
 
竜人「はあ……なんか涙でてきた……魔王様もいつかお嫁にいくのかと思うと。うぅ」

魔女「でたよー竜人の親ばか」

魔王「……。心配せずとも嫁にはいかないよ」

竜人「え?いまなんか言いました魔王様?」

魔王「なんでもない。私たちも行くぞ」

魔女「はいはーい」

* * *

魔王城 鐘塔

魔王「……」

魔王「……誰だろう。ここに上ってくる足音が聞こえる。みんな宴会の準備をしているはずだけど」

勇者「なんだ、魔王。こんなところにいたのか。どうりで姿を見かけないと思った」

魔王「勇者くんか」

勇者「なにしてんだ?」

魔王「もうすぐ陽が暮れるなって」

勇者「ああ」

魔王「思ってた」

勇者「つまりサボリかよ。宴会の準備手伝えよ」

魔王「サボリではない。休憩と言う」

勇者「あの魔法完成させたんだな。以前言ってた魔法だろ?」

魔王「そうだ。私は魔王なのに城から出れない無能魔王だからな、魔法の研究か草むしりくらいしかすることがないのだ」

勇者「そんなに卑下せんでも」

魔王「最近は空から菓子を降らせる魔法の前に、魔力を自分の体から分離させる魔法を研究している。それが完成したら私もいろいろ役に立てるのに……」
   
勇者「そんな魔法が作れたら、魔術界が騒然とするな」

魔王「作るさ。絶対」

勇者「本当に作りそうだから怖いよ。……お前と図書室で魔法のことを話していた時から随分時間が経ったもんだ」

魔王「色んなことがあったけど、今のような状況になるとは夢にも思わなかった」

勇者「俺も。……そうだ。忘れてた。ほらよ、これお前にお土産」

魔王「?ブローチ?」

勇者「星の都で売ってたものだ。陰で見てみろよ、火が灯ってるわけでもないのに光るんだ。
   露店の商人は本物の星が入ってるって言ってたけど、まあ売り文句だろ。原理は分からないな。お前なら分かるか?」
   
魔王「これは……多分、月桂樹の葉とガラス球と……いや」

魔王「……本物の星が入っているんだな、きっと。だってこんなにきれいなんだから。ほら、ささやかな光だけど頑張って瞬いてる」

魔王「勇者くんが星をくれた。君は本当にたくさんのものを私にくれる」

タンッ

勇者「おい、そんなところに登ったら危ないぞ。ただでさえ運動能力ほぼゼロなんだから」

魔王「う、うるさい。少しくらいはある」

魔王「……この鐘塔は島で一番高いところにあるんだ。ここからなら島の全貌も、その向こうに広がる海も見える」

勇者「おー……。きれいな眺めだな」

魔王「勇者くんは死にたいって思ったことはあるか?」

勇者「なっ、なんだ突然。どうした。そんなことあるわけねぇだろ」

魔王「そっか。じゃあ勇者くんは強い人だ。実を言うと、私は昔何回も思ったことがある……早く死んでしまいたいって」

勇者「………………なあ、そこから降りろよ。そろそろ宴会も始まるんじゃないか?もう戻ろう」

魔王「竜人と魔女に会うまで毎日毎日毎日毎日そう思ってた」

勇者「魔王。降りろって。手、貸してやるから」

魔王「……ん」

グイッ

勇者「ちょっ――馬鹿、落ち……っ」

魔王「でも、今は生きててよかったって思ってる。みんなと一緒に、勇者くんと一緒にこれからも生きたいって思ってる」

魔王「ありがとう、勇者くん……!」ニコッ

魔王「一緒に飛ぼう!掴まって!」

バサッ!!

勇者「わっ!?」

魔王「ほら、いま私たちは塔より高いところにいるんだ!」

魔王「夕陽に照らされて、空も私も勇者くんも、村も海も……全て金色に輝いている。なんてきれいなんだろう。そう思わないかな?」
   
勇者「風景を楽しむ心の余裕がないんだよっ!飛び降りたのかと思っただろ!ったく、お前に翼があるの忘れてたぜ……」

魔王「飛び降りるなんてそんなこと、しないよ」

勇者「まぎらわしいんだお前は」

ノール「……ん?あれは……」

ニンフ「あら」

子エルフ「えー!じゃあ兄ちゃんたち、とうぞく団なの!?宝石とか盗んだの!?」

盗賊1「まあな。星の都の宝石だって、あともう少しで手に入れられるところだったんだぜ」

盗賊2「そうそう!星の都の次は雪の国宝物庫のスノーダイヤ、その次は太陽の国の美術館の『ほほ笑む女』を狙ってたんだぜ」

子ヴァンパイア「俺それ知ってるー!本で見たことあるー!すげえな兄ちゃんたち!」

盗賊1「勇者の野郎のあの剣だって、一回は盗みに成功したしな!へへへ!」

子エルフ「じゃあ兄ちゃんたち勇者より強えの!?」

子ヴァンパイア「……あー!!勇者と魔王様が空飛んでるー!!」

魔女「ほんとだぁ。あたしも箒もってこよっかな」

竜人「ああ、帰ったら魔王様の服を繕わなくては……」

勇者「もう少し暗くなったら、ほんとに星まで手が届きそうだな」

魔王「うん……でもいらない。勇者くんがさっきくれたこのブローチがもうあるから。
   これから空が暗くなって、みんな旅立って、いつか私一人になったとしても」
   
魔王「この星がいつでも私を照らしてくれるから、さびしくないよ」

勇者「……。一人になんかなってる暇ないだろ?あのさ、お前雪を見たことないって言ってたよな」

魔王「うん、ない。でもいつか勇者くんが魔法で見せてくれるって言った」

勇者「あれやっぱり俺には難しい。無理だ」

魔王「えっ」パッ

勇者「ばっ!!おい手を離すな落ちる!!!」

魔王「ご、ごめん。……そうだな、難しいか。別に気にしなくていいぞ、勇者くんだって忙しいんだから……」

勇者「だから、代わりに!お前を雪の国に連れてってやるよ。俺たちが認定書を集めて、王子も見つけたら、
   魔族がこの島に留まる必要も、結界を魔王が張る必要もないだろ?
   そうしたら俺がお前を雪の国まで連れてってやる」
   
勇者「あそこに行ったら雪なんて腐るほどあるから、1日で見あきるだろうけどな。ハハハ」
   
魔王「私がこの島の外に……?」

勇者「そうだよ。鼻が真っ赤になるくらい寒いから覚悟しておけ」

魔王「うん……そうなったら、嬉しい。すっごく嬉しい」

勇者「じゃあ約束な」

魔王「うん。約束だ」

勇者「……もう陽が沈んだな。宴会も始まってるだろう。戻ろうか」

魔王「……………………勇者くん、」

勇者「ん?」

魔王「   」

ビュッ バササ…

勇者「わっ すごい風だ。悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか」

魔王「……いや。大したことを言ったわけではない。気にしないでほしい」

勇者「なんだよ、気になるって」

魔王「あ。やっぱり宴会もう始まってた。早く行かないと料理がなくなってしまうな。急ごう」

勇者「?お、おい、引っ張るなって」

がやがやがや わいわいわい

魚人「はいはーい!俺一発芸やりまーす!!秘儀水提灯!!」

グリフォン「わぁ。すごいなあ。それ腹の中どうなってるんだい?かっ捌いて本の通りか確かめてみたいな」

竜人「魚人、今すぐ逃げなさい」

ハーピー「人間同士の結婚式と、魔族の結婚式ではなにか違うところあるんですか?」

神官「人間同士といっても宗教によってしきたりは異なるんですよ。我々太陽の国では――」

ニンフ「魔王様」

魔王「ん?」

ニンフ「それなんですか?不思議なブローチ……きれいな灯りですね」

魔王「星の灯りなんだ。勇者くんからもらったのだ。ふふふ」

ニンフ「まあ、素敵。……魔王様は勇者様をとっても慕っていらっしゃるんですね」

魔王「…………。…………聴いてくれ、ニンフ」

ニンフ「はい」

魔王「この世界が変わったら、勇者くんが私を雪の国まで連れてってくれるって言った。
   二人で一緒に旅をするんだ。見たことのない景色を見て、会ったことのない人に会って、アクシデントもないと……つまらないな」
   
ニンフ「ええ、そうですね」

魔王「きっといつか勇者くんも誰か人間の女の子と結婚するだろう。それまででいいから……
   それまでずっと勇者くんと一緒にいたいな。いっぱい色んなものをくれたから、今度は私が返したいんだ」
 
ニンフ「魔王様と勇者様、すごくお似合いだと思いますのに、どうしてそんなことを言うんです?
    あ!姿かたちのことでしたら、私の一族に伝わっていた成長薬のレシピがあるので心配しなくとも!」
    
魔王「そういうことじゃない。というかそんな薬あったのか」

魔王「とにかく!いいんだ。絶対にこの世界を変えてみせる。全部うまくいく。魔族のみんなを救ってみせる。ニンフもみんなも何も心配しなくていい」

ニンフ「魔王様……」

魔女「ニンフちゃん、魔王様!主役と王様がそんな隅っこでなにしてんのー?こっちおいでよー!」

ニンフ「あ……」

魔王「行こう」

魔王(全部終わったら、雪を見に行く)

魔王(勇者くん。約束、忘れないでね……)

ここまでです
いつもレス励みになってます、ありがとうございます

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勇者「じゃあ俺たちは王国に帰るぜ」

竜人「私たちは雪の国へ先に行ってます」

魔女「残り時間も折り返し地点に来ちゃってるし、ちゃちゃっと王子見つけないとね」

仮面「ちょっと待て。なあ!俺たちも雪の国に連れてってくれねぇか」

戦士「む?何故だ?お前は俺たちと一緒に王国に来る予定ではなかったか」

仮面「雪の国に同じ盗賊やってる奴らいるから、そいつにコンタクトとってやるよ。王子様探してんだろ」

竜人「有り難いですけど、急に協力的になりましたね?」

勇者「怪しいな……」

仮面「うるせぇな。この俺様がせっかく協力してやろうと思ってんだからゴチャゴチャ言うんじゃねぇ」

盗賊1「兄貴がいれば百人力ですぜ!」

盗賊2「兄貴は盗賊ギルドの中でも有名なんだ!」

仮面「そういうこった。いいだろ?」

勇者「じゃあまかせるよ。ところで魔王の姿が見えないがどこ行った?」

ぱたぱた

魔王「……すまない、待たせた」

神官「魔王さん、どうしたんですそんなに息を切らせて」

魔王「昨日の夜、書庫で古い古い魔術書を見つけて。それを読んでたんだ……
   竜人、魔女。もし王子の持ち物を見つけたらここに持ってきてくれ」
   
魔女「え、なんで?」

魔王「この書に書いてある魔法を発動させれば、その持ち物から本人の居場所が特定できるんだ。
   まさか本棚の奥にこんな本があったとは思わなかった。もっと早く気付けばよかった」
   
神官「そ、そんな魔法あるんですか?」

魔王「勿論古い魔法だから準備もめちゃくちゃ面倒だが、なんとかこっちで用意しよう。
   ヤモリの子どもと3日間月明かりに照らしたムーンストーンと女子の生き血400ミリリットルなどなど」
 
勇者「もろ黒魔術だな!生き血とか久々に聞いた」

盗賊1「怖い」

盗賊2「怖い」

戦士「しかし、持ち物なら姫様に頼んで城から持ち出してもらえばよいのでは?」

魔王「それが本人が手放して1年以内のものでなくてはならないのだ。
   王子がいなくなったのはそれよりも前だろう?だから使えないんだ」
   
仮面「残念だったな」

魔王「あと残り時間は約3カ月……そろそろあの魔族に敵意むき出しの王も準備を整えていることだろう」

竜人「ええ。一刻も早く王子を見つけ出さなくては」

魔女「ちょっとのんびりしすぎちゃったかなぁ。でも全然見つからない王子が悪いよねーまじ腹立つんですけど」

仮面「王子ねぇ。今までそんなに探しても見つからなかった奴頼りにする前にほかの方法ねぇのか?
   まあ俺はあんたらの目的なんてどうでもいいんだけどよ。さっさと自由にしてもらいてぇんだこっちは」
   
勇者「いいや、これしかない。俺たちも王国の様子を確認したらすぐ雪の国に行って認定書をもらう」

神官「そろそろ王様も勇者様を呼びだしそうですよね。戦争の準備しろーって言って」

戦士「だな。ボロを出さないように気をつけろよ勇者」

魔王「そうだ、十分気をつけてくれ、勇者くん。特に、勇者くん」

魔女「ついカッとして王様に喧嘩売っちゃだめだよ?勇者」

竜人「全て水泡に帰しますからね、勇者様」

仮面「お前が一番危ねぇよな勇者」

盗賊1・2「確かに」

勇者「おいおい!なんで俺にだけ注意するんだよ!?そんなに信用ないのか俺!」

魔王「まあ強いて言うなら」

勇者「傷ついた!俺傷ついたよ!あーもう分かったよ、気をつける。じゃあそろそろ行くわ俺たち。お前らも達者でな」

竜人「では私たちも行きますか。魔王様、私がいなくても規則正しい生活を送ってくださいよ」

シュンッ

魔王「……行ったか。急に静かになってしまったな」

魔王「さて私は先ほど話した魔術の下準備でもしておこう。まずはヤモリ……」

夕方

魔王「ああ、疲れた……。もう自分の部屋まで歩いてくるのも面倒だ。一人で使うにはこの城は広すぎる」

魔王「急に眠気が……いやでも今寝たら夜に眠れなくなってしまう……うぅ……」

魔王「ちょっとだけ、ちょっとベッドに横たわるだけ、ちょっとだkグーーーーーー」

バタンッ

魔王(…………ん……?)

魔王(これは……夢か……。というか普通に1秒くらいで寝てしまったな。不覚だ。
   ここは、外?行ったことのない場所だ。あっちに人だかりが見える……なんだろう)
   
魔王(音は聞こえないな。この人間たちは一体何を見ているんだ?……誰かが両脇の騎士に剣を突き付けられている。
   手を後ろ手に縛られて……ああ、罪人か。処刑でもするのだろうか)
   
魔王(私たちの島にはこのような罪人がでたことないから助かるな。このような処刑を行いたくも見たくもない)

魔王(なんの罪だろう…………罪人の顔は…………)

魔王(あれ……おかしいな。見覚えがある……彼は……勇者くん?)

魔王(そんな。どうして勇者くんが捕えられて……。いや落ち着け、これは私の夢だ)

魔王(私が不安がっているからこんな夢を見るんだ。早く覚めよう。早く早く……)

魔王(夢であっても、こんな光景見たくない……!早くしないと剣が振り下ろされてしまう……)

魔王(早く夢から覚めなくては……っ)

魔王「…………ッ!!」

ガバッ

魔王(……はぁ……やっぱり夢だった。嫌な夢だ……。
   部屋が真っ暗だ。こんな時間まで寝てしまうとは。灯りを……)
   
魔王「……!?そこにいるのは誰だ?」

男「……貴様が今の魔王か」
  
魔王「村の魔族ではないな。人間……でもない。誰だ?そもそもどうやってここに入ってきたんだ?」

男「まさかこのような娘が魔王を名乗るとは……随分魔族も落ちぶれたものだ」

魔王「質問に答えろ」

男「こんな、部屋にぬいぐるみ置いていたり、リボンをあしらった天蓋付きベッドで寝るような娘が魔王なんて片腹痛いわ」

魔王「勝手に入って勝手にじろじろ部屋を見るな。なんて失礼な奴だ。やめろ馬鹿そこはクローゼットだ開けるなっ」

男「馬鹿だと?口のきき方を誰かから教わらなかったのか、無礼者」

魔王「無礼なのはお前の方だ!捕縛魔法……あれ?捕縛魔法!……ん?」

男「無駄だ、ここも貴様の夢の中だ」

魔王「夢……?じゃあさっきのは……」

男「それも夢だ。これも夢。まあそうカッカするな。一度貴様と話をしたかったから夢に介入させてもらった」

魔王「夢に介入なんて私でもできないぞ。何者だお前は」

男「自惚れるなよ。それに口のきき方に気をつけろと先ほど言ったはずだ。俺は魔王……貴様からすると先代の魔王にあたるか」

魔王「えっ?」

男「ふん、貴様も俺と同じ赤い瞳か。100年たっても受け継がれるものは受け継がれるのだな」

魔王「ええっ?」

男「なにを驚いておる」

魔王「先代魔王……お前が私の祖先なのか?」

男「なんだ、知らなかったのか。あとお前と言うな。
  正確には祖先と言うより、血族というだけだ。俺の妹がお前の祖先だ」
  
魔王「えっ……ええ?そうだったのか?」

男「本当に知らなかったのか。随分とぼけた奴だ。それで魔王をやっていけてるのか貴様。
  まあいい。些細なことだ。それより貴様に話がある」
  
男「何故勇者を殺さない?魔族が危機に瀕しているこの状況で貴様は一体なにをしているのだ。
  貴様と今の勇者なら、苦戦はするだろうが貴様の方が力はあるだろう」
  
男「さっさと殺して勇者の肉を食らえ」

魔王「食らう……?気持ち悪いことを言うな」

男「勇者の肉を食らえばあいつの魔力も手に入る。そうすれば魔族を脅かす人間どもも一掃できるだろう。
  同胞を守れるばかりか人間どもへの復讐もできるのだぞ。なにを迷うことがある?」
  
男「情けを捨てろ。憎しみだけ心に抱いておけばよい。貴様らを散々虐げてきた人間どもが憎くないのか?」

魔王「…………私はこの魔力をそんなことのために使いたくない。
   傷つける魔法じゃなくて、誰かを幸せにできるような魔法を使いたい」
   
魔王「私は勇者くんも人間も殺さない。魔族のみんなだって殺させない。私は、お前と同じ道を辿らない」

男「そんな世迷言が通用すると思っておるのか」

魔王「通用させてみせる」

男「……ふん。せっかく忠告しに来てやったのに、親不孝な娘だ」

魔王「だれが親だ」

男「その頑固なところ、あいつによく似ておる。……ならばやってみるがいい。後悔しても知らんぞ」

魔王「……」

男「では俺はそろそろ行こう。ではな」

魔王「あっ、待ってくれ。訊きたいことが……」

ガバッ

魔王「………………」

魔王「誰もいない……今度こそ、現実か」

魔王「寝たのに疲れがとれてない……あれが先代魔王、か。まさか血がつながってたとは」

魔王「……全然私と似てないじゃないか」

魔王「似てない。……うん」

魔王「……ん?ベルの音。誰か城に来てる」

ケット・シー「……あ、こんばんは魔王様。どうしたの?なんか顔色優れないよ」

魔王「いや、なんでもない」

ケット・シー「今って竜人様いないんだよね?うちのお店に食べに来ない?魔王様も一人ぼっちで食べるのなんてさびしいでしょ?」

グゥゥゥ

魔王「……」

ケット・シー「……お腹すいてるみたいだし」

魔王「腹の虫が鳴ったぞケット・シー」

ケット・シー「ナチュラルになすりつけられた!?さすがだ魔王様!」

魔王「行くぞ」

ケット・シー「あー待ってくださいよー」

太陽の国

カランカランッ

女主人「いらっしゃ……おや勇者たちかい。やっとお帰りなすったか」

勇者「よう。なんというか、賑わってるな」

ざわざわざわ

「この本ほんとうに魔族が書いたってのか?」
「魔族って字書けるのか!?流石に嘘じゃないのか」
「例え嘘だとしても、変わったストーリーだな。魔族と人間がねぇ……本当にそうなれば、平和が一番なんだけどさ」
「しっ。宮殿の騎士が通るぞ、本を隠せ」

神官「本、出版できたんですね。私たちの居ぬ間に、どうも有難うございます」

戦士「ここに来るまでもそこかしこでグリフォンの書いた本を読んでる連中を見たぞ。なかなか話題になってるようだな」

勇者「後で本屋の主人にも礼を言いに行かなくちゃな」

女主人「ちょっと店の倉庫で話をしないかい。今は客もあんまりいない時間帯だし」

勇者「ああ」

女主人「さて、と。ここなら普通に話をしていいだろう。あんたらがいなかった間のことを話しておこうと思ってさ。
    とその前に成果を聞いておこうか。認定書はどうだったのさ?」
    
勇者「ふっふっふ」

神官「えっへっへ」

勇者「刮目せよ!これが星の国の王子からもらった認定書だ!」

神官「わー!」パチパチ

女主人「うっ!眩しいー!認定書から謎の後光がぁ!?」

戦士(この茶番、俺も乗らねばならないのだろうか)

勇者「認定書はもらった。うちの王子はまだ見つかってないんだけどな。全くどこにいるんだか」

女主人「やったじゃないか。さすがさね」

戦士「してそちらは?」

女主人「こっちはねぇ、結構大変なことになってたよ。まず本が売られて、すぐ禁書指定されたよ」

神官「ええっ!?だめじゃないですか!」

女主人「いや、かえってよかったよ。禁書指定なんて滅多にされないからさ、どんな本なんだろうって逆に人気が出たらしくって。
    あの胡散臭い本屋も珍しく客でいっぱいだよ」
    
勇者「おお、あの主人が言ってた通りだったな」

女主人「それから王様の魔族殲滅について色んなとこでみんな本を片手に語り合ってるってわけ。
    うちの店でも御覧の通りだ。で、よさそうな客には同盟加入しませんか〜?って声をかけて仲間を増やしてるとこ」
    
女主人「こんな感じで仲間は結構増えたよ」

女主人「でも、いっこトラブルがあってさ。いつものようにあんたら抜きでここの地下で集会を開いていたときに、
    突然王様直属の騎士団がやってきてね」
    
戦士「なに?」

勇者「なっ、ここがばれたのか!?」

女主人「どうしてあいつらが嗅ぎつけたのかは分からない。なんとか全員逃げのびたんだけど、あいつら完全に納得してる空気じゃなかったね」

神官「ひえぇぇ……っ」

女主人「王様もちょっと街の空気が変わったことに気付いたのかもね。あんたらが戻ってきてくれてよかったよ。
    5日後に王様が住民に向けて、演説をするらしいよ」
    
勇者「そうか……。ここが正念場だな。流れを持ってかれたら仕舞いだ」

神官「で、でもどうするつもりですか?表だって反論できたらそれが一番ですけど、そしたら私たち逮捕されちゃいますよ」

勇者「俺にひとつ考えがある」

女主人「へえ……あんた脳筋タイプかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだ。まああんたらも旅で疲れてるだろう。
    今日は奢りで御馳走してあげるよ。テーブルにつきな。そろそろ私も店に戻らなくちゃ」
    
勇者「そりゃ有り難いが、前半でさらっと失礼なこと言わなかったか。
   俺のパーティは脳筋、非脳筋、半脳筋の俺というバランスがいいパーティだぞ」

戦士「おい聞き捨てならんぞ勇者よ……」

勇者「いってぇ!!叩くなよ!!冗談だって」

がやがやがや

勇者「相変わらずここの飯はうまいな」

神官「それにしても……」

「俺は魔族に会ったことねえが、やっぱり殺すのはかわいそうじゃないか?そもそもそれがきっかけで戦争につながるかもしれんぞ」

「魔族がどうのこうのは分からないけど、税が重くなったのには困ったよ。私も王様には反対だね」

「本当に王様の言ってることは正しいのか?大体なんで魔族が書いたからと言ってこんな普通の本が禁書指定されるってんだ」

神官「……ここまで反響を呼ぶとは思いませんでした」

戦士「成功と言っていいだろうな」

勇者「王様の言うことを全部鵜呑みにすることが一番まずいからな、国民たちがちょっとでも疑うようになったらそりゃ大きな進歩だ」

「はあ?あんたら何言ってるんだ?俺は田舎の村出身だが、昔魔族の奴らに畑を荒らされたぞ!!それに奴ら妙な魔法を使いやがる!気持ち悪い連中だ!」

「そうよ。私の村なんて、人間に紛れて吸血鬼が住んでたのよ!!犠牲者は出なかったけど、もし誰かが殺されていたらと思うと!ああおぞましい!」

「あんな底知れない不気味な者たちと仲良くなんて、冗談でも無理だ。お前らは実際に会ったことないからそんなこと言えるんだよ」

勇者「……」

戦士「……まあ、ああいう意見もゼロではないのだな」

神官「悲しいですね……あんなにいい方たちなのに。きっと誤解ですよ」

勇者「誤解じゃないとしても、本当に悪い奴がいたとしても、それで全員殲滅しようっていうのは極端な話だ。
   うーん……なんて言えば伝わるんだろうな。俺は舌戦なんて得意じゃないんだ」
   
神官「舌戦?え、勇者様なにするつもりですか」

バサバサッ

戦士「む、この白い鳩……宮殿からの伝達ではないか」

勇者「俺宛てだ。明日戦士と神官と、王に会いに来いってさ。さっそくお呼び出しだぜ」

神官「なんか緊張しますっ……きゅ、宮殿に入った途端に捕まえられたりしませんよね!?」

戦士「もしかしたら罠かもな。それで明後日の演説の代わりに俺らが処刑されるのだ」

神官「ひぃぃぃ!!縁起でもないこと言わないでくださいよ戦士さん!!!」

戦士「先に言ったのは神官だろう」

勇者「しっかし、ここの地下で集会をやってることあっちが感づいているとしたら、もう集会やらない方がいいかもしれないな。
   これからは大っぴらに集まることもできない……できても少人数でだ。大人数じゃいざというとき逃げられないし」
   
戦士「なに、あと俺たち3人が集中すべきなのは認証書と王子のことだけだ。同盟管理に関しては、女主人がかなりのやり手だしな」

神官「確かに……ビラとかいつの間に作ったんでしょう」

戦士「姫様も、彼女にお付きの騎士もなかなか頼りになる。王室司書や歴史家も頭が回るし、本屋の主人も曲者だ」

勇者「曲者って」

戦士「彼らの頑張りに応えるためにも、絶対に目的を達成しよう。俺たちパーティの真骨頂を見せるときだ」

勇者「ああ!そうだな!いける気がしてきたぜ!神官もそろそろ震えを止めろ!」

神官「むっ、武者震いですっ!!」

翌日 王宮

神官「はあ……はあ……ごくり……」

戦士「大丈夫か神官」

神官「実は昨日寝れませんでした……あああ、胃が痛いっ。単体治癒魔法……!」

戦士「魔法使うのか!?胃痛で!?」

勇者「おい大丈夫か?そろそろ謁見の部屋につくぞ」

 「殿下、勇者様、神官様、戦士様をお連れしました……」
 
国王「御苦労だった。下がってよい」

 「はい」
 
 
国王「さて勇者、神官、戦士よ。魔族侵攻まで3カ月をきったが、お主たちの調子はどうかね。日々鍛錬を重ねているか?
   魔族殲滅ではお前たちの鬼神のごとき活躍を期待している」
   
戦士「はい、心得ております」

神官「ひゃい!……し、失礼しましたっ……はい!」

国王「そう緊張するな。魔族に恐ろしさを感じるのは仕方のないことだ。だが案ずるな、我々も着々と準備を進めている。
   我々の全軍力、そしてお主たちの力をもってすれば例え魔王と言えど恐るるに足らん」
   
勇者「……」

国王「勇者?先ほどから口を閉ざしたままだが、どうかしたのか。まさか今更戦うのが怖いなどと申すでないぞ。
   お主の戦力も既に計算に入れておるのだからな」
   

勇者「……そうではありません」

神官「(勇者様?ど、どうしたんですか?)」

戦士「(勇者、こらえろ)」

勇者「……っ、いえ、申し訳ありません。全身全霊をかけて……魔族を討つ、ことを約束します」

国王「それでよい。勇者よ、迷うな。敵に情けをかけるな。期待しておるぞ」

国王「さて本題だが、近頃この国で不穏な動きが見られるのだ。どうやら同盟を組んで国に楯突こうという不遜な輩がいるらしい」

神官「」ギクッ

勇者(やっぱり感づかれてる……でも首謀者が俺たちとはまだ思ってないか。本人に言うってことは)

国王「テロやクーデターなど起こされては敵わん。国民の安全にも関わることだ。
   勇者、神官、戦士。お主たちにその者たちの正体を突き止め捕えてほしいのだ」

勇者「ええ……勿論です」

国王「頼むぞ。それからあともうひとつ……」

国王「4日後王宮の前で、国民に向けて私自ら演説を行う。
   勇者よ、国民の期待を背負う者として、彼らの志気を上げるためにお主にも演説をしてほしいのだが」
   
勇者「すいません。4日後から星の国に向かう予定なのです。どうしても外せない用事がありまして」

国王「そうか。残念だが強制はすまい。ではこれからも修練に励んで、いずれ訪れる戦いの時まで己を磨くがいい。
   下がってよいぞ」
  
勇者「はい」

国王「………………」 

国王「……待て勇者よ。これを持ってゆけ」

勇者「これは?」

国王「魔除けの札だ。お主を魔の者から守ってくれよう」

勇者「どうも有難うございます。では」

宿屋

神官「緊張した……寿命が5年縮んだ……」

戦士「同盟のことやはり感づかれていたな。流石にあの時は心臓が止まった」

勇者「俺、魔王城でみんなが言ってたことが分かったよ。俺が一番ボロ出しそうだ」

神官「ひやひやしましたよ、もう。ところで、星の国にまた行くんですか?」

勇者「いや行かないよ。この大事な時に行く訳ないだろう」

戦士「ではどうしてうそを?」

勇者「……これだ」

戦士「引き出しから出した……いつかのひょっとこの面か。それがどうした」

勇者「これを……こうだ」

神官「顔につけましたね」

勇者「そして、このローブを羽織る」

戦士「うむ」

勇者「これでどっからどう見ても俺には見えまい。俺は正々堂々国王の前に姿を表わして議論で勝負してやる!」

戦士「神官」

神官「はい、戦士さん」

勇者「?」

スパーーーンッ!!

勇者「いった!!!なんだよ両脇からビンタって!!!?ああっ面が!飛んでいった!!」

戦士「お前は馬鹿か」

神官「それでばれないと思ってるんですか。声は勇者様そのものですよ」

戦士「姿はただの怪しい変質者だがな。大体演説と言ったら騎士たちも王の周りにいるだろう。
   戦えば強さで勇者と分かる。逃げるのも転移魔法は使えないんだぞ?」
   
勇者「いや、分かってるけどさ。つーか今のビンタで顔が腫れて面いらずだよ畜生」

神官「とにかく、やめてくださいよ!?だめですからね!戦士さんだってこう言ってるんですから」

戦士「勇者、気持ちは分かるが危険すぎる。今は動くときではない」

勇者「あーはいはい。分かったよ……。じゃあまた明日な」

ガチャ バタン…

勇者「……でも、だったらどうするんだよ?」

勇者「認定書や王子探しも勿論大事だけど、もっと根本的に変えなくちゃいけないこともあるんじゃないか?」

勇者「とにかく、もう寝るか……明日、危惧したようなことが起きなければいいが……」

  

* * *

時の女神「さて……」

女神「ここが運命の分かれ道」

女神「一方はいずれ破滅に至る道。一見勇者たちの目的が完遂されたかのように見えるけど、じわじわと破滅へと至る道」

女神「もう一方は光の道。犠牲は少なくないけれど、勇者が守りたいものは守れる、彼が望んだ道」

女神「彼はどちらを選ぶのでしょう」

女神「…………どちらも、私にとっては悲しい結末しか待ってませんけどね」

* * *

翌日 宮殿前広場

ざわざわざわざわざわざわざわ
  がやがやがやがやがやがやがや

神官「わ、すごい人だかり」

戦士「これじゃ帽子やフードを被って顔を隠さなくとも、俺たちのことを気にする者もいないだろうな」

勇者「まあ念のためだよ。……あ、国王と姫様が出てきたぞ。姫様すごい不機嫌な顔してるなぁ」

神官「勇者様、絶対、ぜーったいこらえてくださいよ?」

勇者「分かってるって」

国王「国民たちよ、よくぞ集まってくれた。今日私が皆に告げたいのは、後に控えた魔族侵攻および殲滅についてだ」

王様―!国王様!

国王「皆には税を増やして申し訳ないと思っておる。しかしそれも無駄にはせん。
   100年前の戦争で、我々太陽の国は辛くも成功をおさめた。それから魔族は絶滅の道を辿ったかのように見えた……」
   
国王「戦争から100年、我々は勝ち取った平和を享受して過ごしていた。永遠にこの平穏が続くと思っていた」

国王「が、しかし。魔王の復活したという知らせは皆の耳にも届いただろう。我々の平和なる時は今にも崩れ去ろうとしている!」

国王「このまま放っておいては、戦争の前の状態……人々がただ魔族に搾取され、虐げられて疲弊する悪夢の時代に逆戻りだ」

国王「国民たちよ、今こそ立ちあがるべき時が来た。我々は戦おう、そして再び自らの手で勝利をつかみ取ろう」

国王「我々には伝説の勇者がついている。案ずるな、恐れるな。魔の者をこの世から排除し、偉大なるあの太陽のような栄光を!」

国王「今こそ、この手に!!」

わーーーーーー!!王様ーーー!!
 今こそ魔族を殲滅する時だ!!今やらなくていつやるんだ!!
人類に偉大なる栄光を!!

ざわ…ざわ…
 
 「でも……本当にいいのかしら?魔族にも家庭があって子があって……避けられる戦いなら……」
 
 「俺はちょっと王様には賛同できない……かも」
 
 「戦争が今やるべきことなのか?もっとほかにあるんじゃないのか?」
 
 「戦いに税を使うなら私たちの孤児院に少しでも寄付をして頂きたいです……」
 
 
勇者「(おっ……!いいぞ!)」

神官「(もっと声を大きくです!流れを変えましょう!!皆さん!)」

姫様「(皆さん……!)」

国王「ふむ……やはり毒されておる者たちが少なからずおるようだな」

国王「なにやら私の知らないところで、あることないこと嘯いてる輩がおるようだが、騙されるな」

勇者(嘯いてるのはあんただろうが!)

国王「魔族が書いたという本を出版したり、私への不信を煽ってよからぬことを企む輩に唆されてはいかん」

ざわざわ…ざわざわ……

  「でも……」  「俺は反対だ」
  
  「やっぱりおかしいよ」 「魔族は戦いなんて望んでないんじゃないか?」
  

国王「ならばこう言おう。今我々が魔族を殲滅しなければどういうことになるか」

勇者(……?)

国王「いずれ魔族と人が共に同じ土地で生活するようになる日が来るかもしれん。ある者が言うように、魔族に戦いの意志がないならば」
   
国王「そしていずれ、人と魔族の血は入り混じってゆくことだろう。だんだんと純粋な人の血を持つ者は減ってゆく。
   想像してみるといい、自分の娘や息子の結婚相手に魔族の者を連れてくる光景を。
   魔族の血が流れている自分の孫や子孫を、本当に愛せるか?」
   
国王「人とは違う肌の色、目の色、体質、寿命、全て受け入れられるのか?
   私の息子や娘がそのようなことを望んでいたら、なんとしてでも目を覚まさせようとするだろう」
   
   
ざわざわっ!ざわざわ…

「そんなこと……想像してなかった」
「本当にそんなことが起きてしまうのか?」

国王「起きる。絶対に」

姫「お父様……っ!」

国王「人類の尊厳を守るためにも、今我々は行動せねばならん。国民たちよ、皆はただ私を信じてくれればいいのだ」

国王「国を信じ、私を信じ、私にただ着いてきてくれればいい。私は常にこの国を一番に考えておるのだから」

「そうなのかな?」
「俺馬鹿だから、なんかよくわかんなくなってきちまったよ。やっぱ王様の言うこと聞いてた方がいいのかも」
「そうよね……王様は間違いなんてしないもの。私なんかが頑張って考えるよりずっと素晴らしいことを思いつくはずね」

国王「そう……それでよい。流石は我が国の民だ。賢く強い。それでこそ、我が太陽の国の民」

わーーーー!!王様万歳ーー!!
  わーーーわーーー!!!太陽の国万歳!!
  

女主人「なんだいこりゃ……!ねえみんな!どうしちまったんだい!」

本屋主人「ぬかしおるわい」

司書(これでは……私たちの今までの地道な努力が……)

姫(だめ、このままみんなを解散させてしまっては挽回することができないわ。
  ここで何かアクションを起こさないと!でも、どうやって?……私がやるべきなの?)
  
  
  

勇者「このぉっ……!」

神官「勇者様、だめだって言ったじゃないですかー!危ないですよ!おさえてください戦士さん!」

戦士「やってる!!落ち着け勇者、頭を冷やせ!こいつ、ちゃっかり面を持ってきおって!」

勇者「じゃあどうするんだ!?このまま国民たちが王の言いなりになったままじゃ、いくらクーデターを起こせたって何も変わりはしない!」

勇者「同じことの繰り返しになるだけだ!今ここで俺が出なくちゃ皆の考えを変えさせることができない。もう時間も残されてないんだぞ!」

神官「うっ……それは分かってますけど!!」

わーーーーわーーーー!!国王様ーーー!!!

国王「有難う。では」

勇者「国王が壇上から降りていっちまう!離せよ戦士!!!」

勇者「待っ―――」

少年「王さま、まってください」

勇者「!?」

国王「ん……?」

だれだあの坊主? 確かパン屋の息子の……ああ、あの知恵遅れの?

少年「ぼくは戦いなんてしないほうがいいと思う。だって戦いって自分がころされたり相手をころしたりするんでしょ?
   だれかがしぬのは悲しいよ。だから戦いなんてしない方がいいよ」
   
少年「ぼく、本読んだ。まぞくの人が書いた本。ぼくそれ好きなんだ。まおうとゆうしゃさまがなかよくなるはなしなんだ。
   読んじゃだめって言われたけど、こっそり読んじゃった」
   
母親「こらっ!!あ、あんた王様になに言ってんの!!」

国王「坊や、君はまだ小さいから色んなことが分からないのだよ。君は母親の言うことをきちんと聞いていい大人になりなさい。
   そのような胡散臭い本は読むべきではないよ」
   
少年「うさんくさい……本当かうそか分からないってことだ。でも、じゃあ、王さま。
   王さまは、まぞくの人に会ったことがあるんですか?」
   
母親「こらっ!!!!」

国王「…………」

少年「会ったことないのに、悪いって決めつけるのは、うさんくさいってことじゃないんですか?」

国王「随分と……」

母親「黙りなさい!!この子ったら!!」

少年「ぼく、お母さんに“この世にはうそがいっぱいある”って言われた。
   だからぼくみんなにバカって言われてるけど、いっぱいいつも考えてる。
   どれがうそか、どれが本当か。ぼくは……王さまより本を信じる!」

少年「ねえ、お母さんもそこのおばさんもおじさんも、それでいいの?」

少年「いっぱい考えなくて、本当に、それでいいの?」

少年「ぼくは……ムグッ」

母親「す、すいません本当にうちの子馬鹿たれで……ハハハ」

ざわ…

「なんだあの坊主、生意気な」
「でも……じゃあどうしろって言うんだ?俺はなにを信じれば?」
「王様を信じてれば間違いなんてないのよ!」

国王「……なかなかおもしろいことを言う子だ。子どもはそれくらい元気な方がいい。
   しかしいずれ君も大人になった時に分かるだろう。絶対的に正しい存在があるということを」
   
   
神官「あ、あの子……!すごいですねって あれ!?!?戦士さん、勇者様はどこに!?」

戦士「ぬ!?おらんぞ!!どこいったあいつ!?」

神官「ああああっ!あの少年に注目してるうちに逃げられましたっ!早く見つけないと!!」

戦士「!!神官、あそこの屋根の上だ!」

神官「え!?」

ひょっとこ「よく言ったな、少年!」

神官「あああああああああああああああああああああっ!!!」

戦士「あのバカ……」

「なんだあの変質者!?」
「だれだ?」

姫「なにあれ……」

国王「……?」

神官「いやーー!変な感じに広場がどよめいてるーー!もうあんなに止めたのに勇者様の馬鹿ー!」

戦士「無駄だったな……」

ひょっとこ「あることないこと嘯いてるのは一体どっちだろうな?みんな……」

ひょっとこ「少年の言う通り、本当にそれでいいのか!?国の言うことをなんでも鵜呑みにして、信じて」

ひょっとこ「ああ、そうして自分の意見を誰かに委ねてれば、もしその選択が間違いだったとしても
      自分が責任を負わなくていいから楽だよな」
      

「……!」

「なんだあいつ!知った口を!」

国王「貴様が主犯か。……捕えろ」

傭兵「ハッ!」

ひょっとこ「だからみんな選択肢がひとつだって思いこみたいんだろ?王様だけを信じてればいいって」

ひょっとこ「でもそれじゃだめなんだ!!いま、みんなの前には二つの選択肢がある」

ひょっとこ「王様を信じて魔族殲滅に賛同するか、俺たちを信じて殲滅に反対するか、二つに一つ」

ひょっとこ「選ぶのはみんなだ。王様が言うからとか、誰かが賛成してたからとかじゃなくって、自分で真剣に考えてほしい」

ひょっとこ「自分の気持ちを大事にしてほしい。どんな小さなことでも下らないことでもいいよ。
      それは誰にも否定されていいものじゃない、例え……国王であっても」
      
国王「蛮族めが……たわごとを。さては貴様も魔の者か!?」

ひょっとこ「そうやって悪い奴はなんでも魔族にしちゃうから、魔族は悪って思われてんじゃないのか?」

傭兵「覚悟しろー!!うおおおおお!!」

ひょっとこ「チッ!いいかみんな!俺たちは国王に対して戦うぞ!この世に絶対的存在なんていないんだ!
      考えを放棄して自分の言うこと全て信じろなんて宣う王について行く気なんてさらさらないからな!!」
      
ひょっとこ「うおっと」

傭兵「おい!逃げたぞ!!追えー!!」

わーわー!なんだなんだ!?どよどよ……

神官「……」

戦士「本当に正面きって喧嘩売りおった……あいつ」

宿屋

勇者「すいませんでした」

神官「もー!なにやってんですか!?勇者様の頭にはもしかして馬糞が詰まってるんですか!?」

勇者「ひどい……でもさ!声色だって変えたし、俺だとはばれてなかったろ?」

神官「ドヤ顔しないでくださいっ!ばれてた、かも!しれないんですよ!?どうしてこう向こう見ずなんだか」

戦士「まあ……落ち着け神官。結果よければすべてよしとしよう。
   勇者の言葉の後では、かなり広場の空気も変わっていたではないか」
   
神官「確かにあのちょっと怖いくらいの王様盲信ムードはなくなったからいいんですけど……もうあんなことしないで下さいよ?
   冷や汗だっらだらだったんですから、私」

勇者「ごめんって。でも、これで少しは流れをこっちに持ってこれたろ。この勢いのまま、雪の女王のところに行こうぜ」

戦士「街の同盟メンバーに話を聞いて、準備を整えたらすぐに発つか」

神官「分かりました。……あの女王様、素直に認定書くれますかね」

勇者「俺の予想だと、拍子抜けするほどあっさりくれるか、めちゃくちゃ難易度高いかのどっちかだと思う」

戦士「同感だ」

神官「ああ〜……はい」

勇者「前者であってくれることを祈ろうか。じゃ、明日はそれぞれ行くところがあると思うし、別行動だな」

戦士「ではまたな、勇者、神官。無茶するなよ」

神官「私も勇者様に念を押したいですね……ではまた」

勇者「はいはい」

数日後

勇者「あーよく寝た。今日は本屋の主人と武器屋と露店商人に会って……あとは姫様にも会えたらいいんだけどな、難しいか」

コンコン

勇者「こんな朝早くに誰だ?」

兵士「おはようございます、勇者様。国王様より言付けを預かって参りました」

勇者「王様からっ?なんて?」

兵士「本日正午過ぎより軍で勇者様方を含めた全体訓練を致しますので、宮殿隣の訓練場までお越しください」

勇者「全体訓練……分かった。ありがとう」

兵士「よろしくおねがいします」

勇者「まあ、仕方ないか。本当ならやるつもりもない戦いに向けての訓練なんてのに時間を割いている場合じゃないんだが」

翌日

勇者「よし、今日は昨日こなせなかった用事を済ませるぞ」

コンコン

勇者「まさか……どうぞ」

兵士「おはようございます勇者様」

勇者「おはようございます……」

そのまた翌日

勇者「今日は!今日はないだろう!よっし出かけるぞ!」

コンコン

勇者「あわわわわ」

兵士「おはようございます勇者様。どうかなさいましたか?」

勇者「な、なんでもない」

* * *

昼のバー

勇者「どーなってんだ、おい!!」

女主人「荒れてるねぇ勇者」

神官「最近訓練訓練訓練訓練、訓練ばっかりで筋肉痛です」

戦士「おかげでこっちの用事が全然こなせないな。まかせっきりで済まない」

司書「いえ大丈夫ですよ。しかしまさかバッタリ勇者殿たちとここで会うとはね。このあとの用事は?」

神官「今日もこれから訓練場に呼び出されているんです。訓練は夜までミッチリ行われるので、全然暇な時間がないんですよ」

勇者「もしかして……俺ら疑われてたり……?」

女主人「……あはは」

戦士「ははは」

神官「うふふ」

司書「……ハハ」

勇者「そそそそそんんんなわけないよな!!」

神官「そそそそそそうですよ!」

戦士「おいお前ら、コップから飲み物零れてるぞ」

女主人「でもすぐ捕えないってことは、疑われてるとしても『怪しいなこいつら』くらいじゃないの?」

司書「それ以上疑われないように気をつけて下さいね。あなたたちが要なんですから」

勇者「ああ……」

訓練所

将軍「今日はこれで終いだ。勇者殿たちもお疲れ様でした。次の訓練は一週間後となります。
   大事な全体訓練ですのでくれぐれもご欠席なさらぬよう。殿下からのお達しです」
   

勇者「(一週間後!?よし、チャンスだ)」

神官「(これまで毎日訓練強制参加でなにもできませんでしたからね。この機を逃す手はないですよ)」

戦士「(ふむ。雪の国に行くのか)」

将軍「?なにか?」

勇者「いやなんでも!」

勇者「よし、やっと訓練が終わったぜ!明日の朝雪の国まで出発するぞ!二人とも準備しとけよ」

神官「了解です。……ってあれ?こっちに歩いてくるの姫様じゃないですか?」

騎士「姫様、ちょっ待ってくださいよ〜」

姫「いた!勇者!こっちよ騎士!」

勇者「姫様?訓練場にいらっしゃるなんて珍しい」

戦士「というかお久しぶりです」

姫「あなたたちに会いに来たのですよ。ところでその前にひとつ確認したいことが」

姫「……ひょっとこ?」

勇者「イエス、ひょっとこ」

姫「馬鹿!!」

騎士「やっぱり勇者さんだったんですかあれ。大胆なことしますね!」

姫「大胆どころの話ではないわよ!お父様もあれからピリピリしてるし、もうちょっと慎重な行動を……
  と言いたいところですが、……ごめんなさい」
  
勇者「どうして姫様が謝るんです?」

姫「あの場でああするべきだったのは、王族である私だったのに。
  私がなにもできなかったせいで、あなたを危険に晒してしまって、申し訳なく思っているわ」
  
騎士「姫様……」

勇者「いや、あなたが気にすることではありませんよ。あれは俺が勝手にやったことですから」

姫「……ごめんなさい。それから、ありがとうございます。……それで、これをあなたたちに渡したくて」

勇者「手紙?」

姫「ほかの方からお話を聞きました。なんでも魔王さんがお兄様の居場所を特定する魔術を発見したとか。
  その手紙、お兄様からのはずです。この間お父様のお部屋にこっそり侵入した時に発見しましたの」
  
騎士「侵入!?いつの間にそんなことを、姫様!?」

姫「ただそれが、いつ頃の手紙なのか分からないの。1年以内のものでないといけないのよね」

勇者「そうですか。でも、大事な手掛かりですよ。一応魔王のところに持っていこうと思います。
   それから雪の国に認定書をもらいに行くつもりです」

姫「お願いしますね。……いけない、そろそろ戻らなくては。では、ご武運をお祈りしてます」

騎士「王国の方は僕たちにまかせて下さい。……あ、あの最後に……魔女さんはお元気ですか?」

戦士「今は雪の国にいるぞ。寒いのは苦手と言っていたが、まあいつも通り元気だろう」

騎士「そっ、そうですか。よかった。いや別に大した意味はないんですけども」

姫「あっずるいわ!私は聞かなかったのに……!」

神官「ふふふ、竜人さんも元気でしたよ」

姫「誰もあの方のこととは言っていないでしょう!なんですその生温かい微笑は。やめなさいっ」

姫「本当に本当に私たちもう行きますわ。ほら騎士」

騎士「ええ。では」

勇者「竜人も魔女も幸せ者だなー」

神官「ふふふふ」

翌日 朝

勇者「準備はいいか?二人とも」

神官「ええ、バッチリです」

戦士「雪の国に行くのに随分予定から遅れてしまったな。もう残りあと2カ月しかないぞ」

勇者「無駄な時間を過ごしちまった。まず魔王に昨日の手紙を渡すために魔王城に行くぞ」

シュンッ

勇者「よし到着っと。ん?なんか島の様子おかしくないか?」

神官「なんでしょう。今日はお祭りですかね。提灯と旗がいっぱい島中に……夜になったらきれいでしょうね」

戦士「変わった紋様が描かれているな。不思議な印だ」

子エルフ「あー勇者だ!久しぶり!」

魚人「おっお前ら元気だったか!!今日来るたぁタイミングばっちりじゃねえかよ!!さては狙ったな!?ハッハッハ!!」

ケット・シー「こんにちはー」

勇者「なんだ、今日は祭りなのか?」

ノール「そうなんですよ。一年に一度の魔族の祭り、今日は月祭りです」

勇者「月祭り?なんだそれ」

子ヴァンパイア「月明かりの道を通って死んだ人が帰ってくるんだよー」

神官「へ……?」

ハーピー「こんな時にお祭りなんて不謹慎かもしれませんが……ずっと続いてきたお祭りなので」

魚人「夜からやるからよ、お前らも参加しろよ!うまいもんいっぱい用意してるからよ!!
   この祭りも最後になっちまうかもしれんと思うと盛大にやらなくっちゃな!!」
   
キマイラ「おや、そんなネガティブなこと言うなんて、魚人さんにしては珍しい」

魚人「ハハハ!いっけね!!うそうそ!!じゃあまたなお前ら!魔王様のところに行くんだろ?」

神官「死者が蘇るお祭り……ってあのあの、本物の死者じゃないですよね?ね?」

戦士「……」

勇者「……」

神官「黙らないで下さいよ!」

勇者「さあ……未知の世界だからな。まあ魔王に直接聞いてみよう。おーい魔王、いるか?」

シーン

勇者「あれ?城にいないのか?」

神官「おかしいですね。探してみましょうか。私は庭を見てきます」

戦士「じゃあ俺は大広間へ」

勇者「自室にでも行ってみるか」

勇者「おーい魔王、いるか。……ノックしても返事がないな。……あ、開いてる」

勇者「魔王?」

ビュンビュンッ!

勇者「ファーーーッ!?なんだこの矢のトラップ!?」

勇者「げっ なんか魔法陣踏んじゃった!これ一体なんの……」

バリバリバリバリッ!!!ビシャァァァン!!!

勇者「ぐあっぁあああああああ!!!」

プスプス…

勇者「おい……なんで自室にこんな罠しかけてんだよ……ここはダンジョンか。もう満身創痍だよ」

魔王「……」スヤスヤ

勇者「寝てるし。よくあの大騒音の中で起きないな……。」

勇者「寝顔だけ見てれば本当ただの子どもだな。おーい、魔王。朝だぞ」

魔王「…………ん……牛?」

勇者「俺のどこらへんを牛と見間違えた?言ってみろこの野郎」

魔王「あれ?勇者くんか。来てたのか。いらっしゃい。ところでなんでそんなボロボロなんだ?」

勇者「お前のせいだよ!なんなんだよあの入り口のは!」

魔王「ごめん。この間不法侵入されてな。一応しかけといたのだが勇者くんが引っかかるとは。ところで何か用事でも?
   あ、別に用事がないと来るなという意味ではないぞ。いつでも歓迎するが。お腹はすいているか?
   一緒に朝食を食べよう。この間パンケーキの作り方を習ったから作れるぞ」
   
勇者「え、なに!?畳みかけるように喋るな!お前ってそんな饒舌だったっけ!?」

魔王「だって久しぶりに会ったから仕方ないじゃないか。では着替えるので先に広間に行っててく……」

勇者「どうかしたか?」

魔王「なんか……変な感じがするな。勇者くんから」

勇者「え?」

魔王「君から知らない魔力を感じる。勇者くんのものではないな。赤ん坊でも身ごもったか?」

勇者「どういう発想だそりゃ」

魔王「では何か魔術具でも身につけているのか」

勇者「もしかして……これか?国王からもらったっていう魔除けの札だ」

魔王「ああ、きっとそれだ。なんだかすごく嫌な感じがする」

勇者「へえ。じゃあちゃんと効いてるんだな。ほれほれ」

魔王「や、やめろ。それを近づけないでくれ。鳥肌が立つ。やめろったら。」

勇者「ちょっと楽しくなってきた。はっはっは」

魔王「わーーーーーっ気持ち悪い気持ち悪い!それ以上近づけるなーーーっ」

魔王「……は」

勇者「……」

魔王「……」

魔王「いま何か悲鳴のようなものが聞こえたな。神官が虫でも見つけたのかもしれない。早く行こうか」

勇者「お、おう……なんかすまんな」

魔王「なにが?」

勇者「いやそんな下手な嘘つかせて……いたいっ!杖で殴るな!ごめんって!」

大広間

神官「かくかくしかじかってわけで、これが王子からの手紙らしいのです。ただ条件に合致するかは分からないんですけど」

魔王「なるほど。ではさっそくやってみようか。準備は整えてある」

戦士「ほう、用意がいいな」

魔王「大分頑張ったのだ。全身全霊で褒めてほしい」

勇者「よしよし」

魔王「勇者くんの全身全霊はそんなものか。がっかりだ」

勇者「よぉぉぉぉしよぉぉぉぉぉぉぉし!!!!」

魔王「そういうことじゃなく……もういいや。もういい、いいから。髪の毛ぐっしゃぐしゃになる。さて、あとは女子の生き血だけ採ればすぐに儀式を始められる」
   
戦士「そうか。よし神官」

神官「えっ!?わ、私!?」

魔王「?別に私の血を採るつもりだったから平気だ。ではいくぞ、……はぁ……はぁ……いくぞっ……!うっ……くぅ……!」

戦士「神官!」

神官「うぅぅぅ、魔王さんのこんな姿見せられたら立候補するしかないじゃないですかー!!いいです私やりますぅぅう!!」

魔王「わっ……あ、」

ザクッ!!

神官「っきゃーーーーーー!?魔王さん大丈夫ですか!?ごごごごめんなさい私が大声あげたから!!」

魔王「わーーーーーー!?い、いたいぞ!」

勇者「そりゃ痛いだろ!なにやってんだ!神官、治癒魔法!!」

神官「え、あ、はい!でも魔族の方って教会の魔術効くんでしょうか!?」

戦士「ええいそれより先に血を採取だ!そんなに大けがじゃないから落ち着け3人とも!」

* * *

魔王「ではこれより儀式を始める」

神官「うわああ、この部屋の禍々しさすごい」

勇者「そのいかにもな黒いローブは必要なのか」

魔王「当たり前だ。ふう、じゃさっさと終わらせてしまおう。手紙を魔法陣の中心において……」

魔王「……どうやらこの手紙は1年以内のものではないな。魔法が発動しない」

勇者「なんだ……じゃあ無駄足だったか。せっかく貴重な一週間を割いてきたのに」

神官「残念でしたね」

魔王「ところで、この王子からだという手紙には目を通したのか?もしかしたら何か手掛かりをつかめるかもしれないぞ」

勇者「ばか、そんな倫理に反すること、勇者がするわけないだろっ!」ガサガサ

戦士「といいつつ手紙を封筒から出しているお前の手はなんだ」

勇者「いや居場所の手がかりがつかめたら見ないつもりだったんだけどな。もう時間も多く残されてないし、ちょっとくらいは許してくれ、王子様」

勇者「えーどれどれ」

勇者「…………これと言って……特筆すべきことは書いてないな。至って普通の内容だ」

戦士「ふむ。内容を見るに、なかなか素直で親思いの青年のようではないか」

魔王「ん?待ってくれ、これ、行の文頭だけ見ると……『くたばれじじい』」

勇者「oh」

戦士「ぬ……」

神官「あ、あれれー?私の王子様像がガラガラと音をたてて崩落していく」

勇者「なんか居場所特定するの、自信なくなってきたわ俺」

魔王「まあそう憂慮せず、前向きにいこうではないか。今日は泊まっていくのだろう」

勇者「もう今日は転移魔法使えないしな」

魔王「外の様子を見て分かったかもしれないが、今日は祭りの日だ。ぜひ楽しんでいってほしい」

神官「あ、それ村の方に聞きました。あああああの!本当に亡くなった方がいらっしゃるのですか……?」

魔王「怖いのか?」

神官「いえ、そんなことは決してありませんけど!」

魔王「それは……参加してからのお楽しみ、だ」ニッコリ

神官「そんな魔王さん……意地悪しないでくださいよ〜!」


神官「わーっ!きれいですね戦士さん!提灯がいっぱい光ってて幻想的です。それからこの音楽……島の方が演奏されてるんですか?魔王さん」

魔王「うん、そうだ」

戦士「ほう。賑わっておるな」

神官「でもなんでみなさん、面をつけてるんですか?」

魔王「二人にも用意してあるぞ。祭りの日はみんなこれをつける決まりだ」

戦士「あのいつも仮面をつけている男も、今日なら溶け込めたろうに」

神官「変わった面ですね。木彫り?」

魔王「死者が月明かりを渡って蘇る祭りと銘打ってあるが、本当に死者が紛れているかは分からない。
   でも、たまに見かけない背格好の者を目にすることもあるから、もしかしたらいるかもな。運がよければ会えるかもしれないぞ」

神官「ハハハ……マタマタ、ゴジョウダンヲ……」
   
魔王「ところで勇者くんは?」

神官「あれ、てっきりもう参加されてるのかと」

魔王「いや、まだ来てない。まだ城にいるのだろう。私が探してくるから二人は先に祭りを楽しんでてくれ」

戦士「すまんが頼むぞ。あいつ寝起き悪いから気をつけてくれ」

魔王「うーん。大広間にも客間にもトイレにもいない。
   ……ここは図書室か。勇者くんはあまり本を好きな様子ではなかったけれど、一応見てみるか」

勇者「……」

魔王「あ、いた。机に突っ伏して寝てると、腕がしびれてしまうぞ……起きて勇者くん。勇者くーん」

魔王「全然起きない。どうしよう。かわいそうだがゆさぶってみるか、って渾身の力でも全然揺れないぞ。あ、あれ?」

勇者「うぅ……」

魔王「困った。…………ふーっ」

ガタガタッ!ゴシャッ!!

勇者「!?……なにした!?」

魔王「耳に息を吹きかけただけだが。思いのほか大きい反応でこっちが慄いたぞ」

勇者「起こすなら普通に起こせよ!お前の100倍こっちはびっくりした」

魔王「そんなにか?昔魔女にやられた悪戯をしてみただけなんだけども。大丈夫か?」

勇者「ああ、一人で立ち上がれる。ってもう夜か。俺、随分寝てたみたいだな」

魔王「迎えに来た。ところで何の本を読んでたんだ?」

勇者「これだよ」

魔王「それ……」

勇者「グリフォンが書いたあの本。本屋の主人に返してもらったんだ。で魔王に渡そうと思って忘れてた」

魔王「いいのか?私がもらっても」

勇者「もともとお前のものみたいなもんだ」

魔王「そうか。じゃあ遠慮なく。これから毎日読もうっと」

勇者「やっぱり字読めるんじゃないかよ……」

魔王「うーん、何も聞こえなかったな。さあ、もう祭りは始まっているぞ。早く行こう」

勇者「わっ、引っ張るなって」

がやがや がやがや

魔王「今年は竜人と魔女は参加できなかったな。残念だ」

グリフォン「だねぇ」

魔王「そのひょろ長い体に間延びした声。君はグリフォンか」

グリフォン「面つけてもやっぱり分かっちゃうね。チ……じゃなくて矮躯に長い髪、君は魔王様だよね」

魔王「チってなんだ、チって。なにを言いかけた」

グリフォン「いや〜今年は彼らも参加してくれてたんだね。ほんと人間なのによくやってくれてるよねぇ」

魔王「話をそらしたな。……まあいい。勇者くんたちのことなら、本当に感謝してもしきれないくらいだ」

グリフォン「あれれ、彼、女の子たちに囲まれて楽しそうに話してるけど、行かなくていいのかい?」

魔王「質問の意味が分からないな」

グリフォン「えぇ、そう?意外だな。じゃ僕お店に料理もらってこよっと」

魔王「……」

魔族女1「勇者様、お話聞かせてください!」

魔族女2「付き合ってる人、いるんですか?」

魚人「初体験はいつですか!?」

勇者「おい最後。面で顔が見えないが明らかに違う奴混じってるだろ」

魔王「……はあ」

グリフォン「『私も早く大人になりたいなぁ』……ってところかな?」

魔王「まだいたのか。早く行け。違う」

魔族女「あれ、勇者様どこ行くんですか?」

勇者「いやちょっとトイレに……ははは」

勇者「ふう。ああいう話題はなんか慣れない……思わず逃げてきてしまった。
   
勇者「海辺には誰もいない、か。しばらく休憩するか」
   
勇者「それにしても。本当に村で見かけたことのない奴がチラホラ混じっているんだが、まさかな……。面のせいで分からないだけだよな、うん」
   

ザッザッザッ……

男「……」

勇者「よう。あんたもあんまり村じゃ見かけない姿だな。一休みしに?」

男「……」

勇者「あのー……?」

男「幻滅した」

勇者「え、ええぇ……」

勇者「流石に初対面で幻滅されたのは今日が初めてだ」

男「全く、魔王だけかと思えば勇者まで日和っておったとは。なんだその貴様の情けない面は」

勇者「いやお面だからこれ。あんた一体何者だ?」

男「貴様は、奴には似てないな。血縁関係はないのか」

勇者「……おいおい何の話だ?」

男「今の俺でも勝てそうだな」

勇者「はっ?――うっ!!」

キィンッ!

男「ふん、なんとか凌いだか。呆けた顔のくせに剣の腕はそれなりらしいな」

勇者「いきなりなにするんだ!?危ないだろ!」

男「むしろ貴様とあの娘が、どこまでやれるか興味が湧いてきた。せいぜい頑張ってみろ」

勇者「はぁ?あの娘ってだれだよ?」

男「これを貴様にやろう。有り難く受け取れ」

勇者「おい、俺の話聞けよ!って、なんだこれ?小ビン?
   なあこれなにが入っているんだ?……あ!?い、いない」
   
勇者「なんだったんだあいつ……怪しい奴だな。あんな男この村にいたか……?」

魔王「勇者くん?一人でなに騒いでるんだ?」

勇者「うわっ!魔王か……。いやさっきまで一人じゃなかったんだが」

勇者「怪しい男に怪しいものをもらった」

魔王「すぐ捨てるべきだと思う」

勇者「だよな。城に帰ったらゴミ箱にいれるわ」

魔王「怪しいものって、それか?……この液体、すごい魔力を感じる。しかもなんとなく覚えがあるような……
   まさか、その怪しい男って……勇者くん、大丈夫か?なにもされてないか!?」
   
勇者「いきなり切りかかられた」

魔王「えっ。け、怪我はないのか?…………脱げ」

勇者「最近耳の調子が悪いな。え?なんか言った?」

魔王「今すぐ服を脱げ」

勇者「えっちょ、なんで杖構えてっイヤァーーー!!!」

魔王「……よかった。怪我はないみたいだな」

勇者「ねえほかに確かめる方法いくらでもあったよね!?なんで服破いちゃった!?」

魔王「つい無我夢中で」

勇者「ふざけんなよ!ついで人のこと裸にするなよ!」

魔王「ところでこれだが……どうやってあいつは自分の体と魔力を分断したのだろう。
   液体化……ふむ。もしかしたら、いけるかも。もう私を無能などと言わせないぞ」
   
勇者「お前がそんな苦戦するなんて、よっぽど難しいのか。その魔法」

魔王「難しい……です」

勇者「口調が変わってしまうくらいなのか。分かった」

魔王「魔力は生命そのものと密接に結びついている。その証拠に、魔族が魔力を全部使い切ると、死ぬ」

勇者「そうなのか?」

魔王「だから魔力を切り離す魔法は、命を二分するくらい難しい。それを容易くやってしまうとはやっぱりあいつ、さすがというべきか」

勇者「だからあいつってだれだよ?知り合いか?」

魔王「いや、えっと。えーと。まあ」

勇者「ふーん。ま、訊かれたくないなら詳しくは探らないよ」

魔王「……助かる」

ザザーン……ザザーン……

魔王「……海面に月明かりが反射しているのが見えるか?」

勇者「ああ」

魔王「あそこを通って死者たちが帰ってくる。面をつけて、だれとも分からないように。
   今日は死者も生者も入り乱れて、悲しみも何も全部忘れてみんなで楽しむ日なんだ。勇者くんや神官や戦士殿は楽しんでいるだろうか」
   
勇者「向こうにいる二人楽しそうだぞ」

魔王「それはよかった」

勇者「裸同然だけど俺もそれなりに楽しいよ。裸同然だけど」

魔王「それはよかった」

勇者「よくねえよ」

魔王「明日、雪の国へ?」

勇者「ああ」

魔王「そうか」

勇者「女王に会ってくる。心配すんな、すぐ認定書もらってきてやるよ」

魔王「うん。信じてる」

勇者「な、なんだ。やけに素直だな」

魔王「私はいつも素直だ。やっぱりその小ビンについてだが、捨てずにとっておいた方がいい」

勇者「なんでだ?正直気味悪くて持ち歩きたくないんだけど」

魔王「万が一ということもある。こういうときの勘はよくあたるのだ。大人しく従っておけ」

勇者「まあお前がそこまで言うなら……なんか身につけるグッズが多くなってきたな……」

魔王「国王に先代ま……もごもご……からの贈り物か。では私からも贈ろう」

勇者「いいよ別に、ってなにしてんだお前」

魔王「元気がでるおまじないだ。君の頭をなでている」

勇者「どんな画だよ、これ。見た奴になにか誤解されそうだからやめろ」

魔王「む……」

グリフォン「あーあ。もう月が落ちていくね。祭りも終わりだ」

魚人「また来年かぁ。じゃ、まぎれてるかもしれない死者さんたちよ、また来年な!!」

マーメイド「片付けましょうか」

神官「お祭りも終わりですか……なんだか寂しいですね」

戦士「また来年、参加させてもらえばいい。さあ、俺たちも片付けを手伝うぞ」

神官「……はい!」

* * *


神官「うん、今日も快晴ですね!旅立ち日和です」

戦士「どうせあちらについたら雪だがな」

勇者「一瞬で着くから温度差やばいな。じゃあ、行ってくるな、魔王」

魔王「ああ。あちらの竜人と魔女とあの仮面の彼たちによろしく」

魔王「行ってらっしゃい。気をつけて」

雪の国

ビュォォォオオオ

神官「さっむっ……」

勇者「この国はいつ来ても寒い。だが負けるな!!よっしゃさっそく女王のところに行くぞ!!」

戦士「待て勇者。あそこを見てみろ」

勇者「ん?」

仮面「あそこで飲んでいる男、随分と金に余裕があるようだな。少しくらいちょろまかしても罰はあたらねぇだろ。適当に指輪や装飾品を頂いてくるか」
   
盗賊1「そっすね兄貴!」

盗賊2「それ売っぱらってもっと上着買いたいですぜ兄貴!寒ぃ!」

仮面「いつもの作戦で行くぞ。今日は豪華な飯が食えるから楽しみにしとけ」

勇者「なーにーしーてーんーだ仮面野郎。その仮面剥いで燃やすぞ」

仮面「あ?なんだてめぇら、こっち来てたのか。遅かったな」

戦士「お前らちゃんと王子探ししておったのだろうな。泥棒業ばっかりやっておったのではないか」

盗賊1「その通りですz ピギャー!痛いよ兄貴!!」

仮面「やってたに決まってんだろ?あんまり偉そうな口きくなよオッサン。髭凍ってんぞ」

戦士「よーしオッサン怒ったぞ、こいつらも女王のところに一緒に連れてくか」

神官「賛成ですね」

勇者「賛成だな」

仮面「おい!誰も行くなんて言ってねぇだろうが!」

盗賊2「兄貴行ってらっしゃい!」

盗賊1「ご武運を、兄貴!」

仮面「てめぇら、裏切りやがって!離せこら!!」

勇者「行くぞ」

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この記事のコメント一覧
1 . 仝  ID:mJM9.Jw30編集削除
長すぎるから、禿げたぞ❗
2 . 名無しさん  ID:Wc6X3EnA0編集削除
しかも、途中で終わってるじゃねぇか!
3 . 名無しさん  ID:gUlL.KbO0編集削除
おもしろテキストは全身真っ黒な犬
4 . 通りすがりさん  ID:D.F51lK50編集削除
つ ロデム
5 . あ  ID:UsyPQHAz0編集削除
続きまだか!
6 . 名無しさん  ID:7c59LKrj0編集削除
ひたすら寒いわ。
7 . 名無しさん  ID:.u8J3eWz0編集削除
みんな最後まで読んだのか!?
8 . 名無しさん  ID:Mh4tDEiH0編集削除
もうやめてくんないかな、こういうの
9 . 名無しさん  ID:XLfGwU.f0編集削除
昔、SS宝庫で見たな

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