自分が勝手に跡取りにされていた。
俺の両親は数か月前に離婚したんだけど、俺は母に付いていくことにした。
はっきり言って父はモラハラクソ野郎だったし、母方にはずっと可愛がってくれた祖父母がいたから迷いはなかった。
父との話し合いで「お前の人生だから」と母に着いていくことに反対はなかったが、
「付いていくなら絶縁させてくれ。自分の中で納得したいんだ」
と言ってきた。
俺も父に未練などなかったから了承。
で、離婚に伴って苗字変えることにしたんだけど、財産分与とかの話し合いの中で母がそれを伝えたら父は酷く狼狽したらしい。
その夜に電話がかかってきて
「確かに絶縁するとは言ったが、苗字まで変えろと言った覚えはない。
もし俺に気を使ったつもりならそんなこと考えなくていい。無理に苗字を変える必要はない」
みたいなことを言ってきた。
いまさら何を…と思い
「もう決めたことだから」
と言うと
「そうか」
とだけ言われて終わった。
「今更何なんだろうねー」
と母に電話の事を話すと母が以下のことを教えてくれた。
父の家系(仮に山田家とする)は、とにかく男子に恵まれなかったらしい。
父は11人兄弟の末っ子なんだが、一番上の兄(以下伯父)と父以外は全員女。
尚且つ、伯父の子供は3人とも女。
もっと言えばうちは4人兄妹だけど俺以外は全員女。
結婚した伯母さん達の中には男を生んだ人もいたけど、「鈴木」とか「佐藤」とか相手先の苗字に代わってるから「山田」の名を継ぐ子供はいないことになる。
母が俺を身ごもった頃、伯父は会うたびに
「頼むから男を生んでくれよ」
と繰り返していたらしい。
よくある「孫梅攻撃」というよりひたすら「懇願」だったらしい。
一方の祖父母たちは「男でも女でも孫は可愛い。元気な子を産んでくれればそれでいいですから」くらいで特に何も言ってこなかったそうだ(結婚した伯母達の中には男生んだ人が何人かいた)。
で俺が生まれて、当時の伯父は狂喜乱舞で父も誇らしげだったとか。
なのに俺が苗字変えることにしたから父はショックだったんだろう、とは母の談。
何が衝撃だったって、勝手に俺を跡取りとして扱ってた割に(俺は別に跡取り様を名乗るつもりはないけど。そんな時代でもないし)、妹達ばかり可愛がって散々俺をぞんざいに扱ってきたこと。
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