勇者「……トドメだっ!」
勇者「雷神斬ッ!!!」
ズバシュッ!
魔王「ぐあああああっ……!」
魔王「500年前の恨み、晴らせず、かっ……!」ガクッ
女魔法使い「やったぁ!」
勇者「ふぅ……これでようやく世界に平和が戻る」
国王「勇者よ、魔法使いよ、よくぞ魔王を倒してくれた」
国王「さすが勇者の血を引く者と、魔法の名家で育った者のコンビだけある」
勇者「いえ、魔王は復活したてで、強さは不完全でしたから」
女魔法使い「それにあたしたちは自分の使命を果たしたまでです」
国王「そう謙遜するでない。ではさっそく……」
国王「国を挙げての大宴会といこうではないかァ!!!」
勇者「大騒ぎが好きだからなぁ、この人……」
女魔法使い「一週間はやるわね、きっと……」
勇者「あー、ようやく解放されたぁ……」
女魔法使い「一週間どころか、一ヶ月もやるとはね……」
女魔法使い「でも、女の子にもキャーキャーいわれて気分よかったでしょ?」
勇者「そりゃ気分はいいけど……」
キャーキャー! ユウシャサマー! コッチムイテー!
勇者「どこ歩いててもこれだと、さすがに参っちゃうよ。落ち着ける場所がない」
女魔法使い「だったら気晴らしに、他の町でも行こっか」
勇者「他の町?」
女魔法使い「あんたを知ってる人がいそうにない町よ。そうすれば一息つけるでしょ」
ある小さな町
女魔法使い「この町なら、あんたの顔知ってる人も少ないんじゃない?」
勇者「ああ、ゆっくり休めそうだ」
女魔法使い「じゃあ、その辺の店でご飯でも食べよっか?」
勇者「そうだな」
キャーキャー! ユウシャサマー! ステキー! カッコイイー!
女魔法使い「うわっ!」
勇者「この町にも、俺を知ってる人がいたのか……!」
女魔法使い「やっぱりここでもあんたは休めないみたいね。あんたの知名度舐めてたわ」
勇者「はぁ……」
勇者「いや、ちょっと待てよ?」
女魔法使い「ん?」
勇者「どうやら、今の声は俺に対してじゃなくて――」
「ステキー!」 「勇者様ー!」 「こっち向いて〜!」
偽勇者「いやぁ〜、苦しゅうない、苦しゅうない」
勇者「あいつに対するものだ」
女魔法使い「なにあれ……」
キャーキャー! キャーキャー!
偽勇者「みんな、押さないで、押さないで〜!」
勇者「……」
勇者「どうやら俺になりすまして、みんなからチヤホヤされようって魂胆みたいだ」
女魔法使い「有名になると、ああいうバカが現れるからね〜」
女魔法使い「どうする?」
勇者「ほっとけよ、別に悪さしてるわけじゃないし」
勇者「それにここで出しゃばったら、俺が勇者だってバレて、この町に来た本来の目的がパーになる」
女魔法使い「それもそっか」
主人「あの、勇者様〜、酒場の者なんですが」
偽勇者「あん?」
主人「先ほどのお代を……」
偽勇者「おい、俺は勇者だぜ? 金取ろうってのかよぉ〜? あ?」
主人「しかし、私にも生活がありますから……」
偽勇者「知らねえよ、ンなこたぁ! 魔王をやったこの剣で斬られてえのか!?」ジャキッ
主人「ひっ!」
偽勇者「……ん」
田舎娘「?」
偽勇者「君、可愛いね! チューしよ! チュー!」
田舎娘「ええっ!?」
偽勇者「んーっ!」
田舎娘「ちょ、ちょっと、やめて……」
偽勇者「いいじゃねえかよ、チュー! ベロ入れてチュー!」
女魔法使い「ちょっとちょっと、悪さし始めちゃったよ?」
勇者「放っておくわけにはいかなくなったな……」
偽勇者「チューッ!」
勇者「あのー、勇者様!」
偽勇者「ちっ、いいところで……なんだお前?」
勇者「勇者様に憧れている者です」
偽勇者「そりゃいい心がけだ。それで?」
勇者「あなたは魔王を倒した……あの勇者様なんですよね?」
偽勇者「うむ、その通りだが?」
勇者「へぇ〜、そうなんですかぁ!」
勇者「しかし、そんな重要人物が城下町を離れて、いったいなにをやってるんです?」
偽勇者「う……」
女魔法使い(自分だって離れてるのに、よく言うわ……)
偽勇者「えーと……城下には、俺のことを知ってる人が多すぎてな。落ち着ける場所がないのだ」
偽勇者「だから、この町に休息に来たのだよ」
勇者「なるほどなるほど〜」
勇者「でも、それだとさっきみたいに自分が勇者って誇示するのはおかしくないですか?」
偽勇者「う……」
ドヨドヨ… タシカニ… ムジュンシテル…
偽勇者「うるっせえな! だからなんだってんだよ! 俺は正真正銘、勇者なんだよ!」
勇者「分かりました分かりました」
偽勇者「分かったならもういいだろ、消え失せろ!」
勇者「ちょっと待って下さい」
偽勇者「なんだよ?」
勇者「俺も剣をやってるんですが、ぜひとも勇者様の剣術を見せてもらえませんか?」
偽勇者「……いいとも」チャキッ
偽勇者「えいっ! えいっ! せやっ!」ブンッブンッブンッ
オオッ…
勇者(なんだこのへっぴり腰は……笑いをこらえるのがキツイ)
女魔法使い(剣は素人のあたしでも、おかしい構えだって分かるわ……)
勇者「お願いがあります!」
偽勇者「え?」
勇者「ぜひ俺に、稽古をつけて下さいませんか? こんな機会、めったにありませんから!」
偽勇者「え!? いや、それは、その……」
勇者「いいじゃないですか。ちょっとだけでいいんで!」
イイゾー! ユウシャサマオネガイシマス! ケンジュツミターイ!
偽勇者「あ、う……」
勇者「みんな見たがってますけど、どうしますか?」ニヤッ
偽勇者「分かった、やるよ……やりますよ!」
勇者「……」チャキッ
偽勇者「ううう……」チャキッ
シーン…
「すごい睨み合いだ……」 「達人同士の対決って感じ!」 「緊張してきた……」
女魔法使い(達人同士? 超のつく達人とド素人の対決だっての……)
偽勇者「じゃあ、行くぜぇ! とおりゃああああああっ!!!」
ギュオッ
勇者「!?」
――ギィンッ!
勇者「ぐ……ッ!?」ミシミシ…
キィンッ! ギィン! ガキィンッ!
勇者(なんて重さ! なんて鋭さ! こいつ、やりやがる!)
偽勇者「……」ヒュオッ
スパッ!
勇者「ぐっ!」ブシュッ
勇者(まずい、このままじゃやられる! ――仕方ないッ!)
勇者「十連斬!」
偽勇者「十連斬!」
ギギギギギギギギギギンッ!!!
勇者「……!」
偽勇者「……」ニヤッ
勇者(マ、マジか! 完全に同じ技で返された……! いや、むしろ精度はあっちの方が――)
女魔法使い「ウソでしょ……!?」
女魔法使い(あたしの目がたしかなら、勇者の方が押されてない……?)
勇者「こうなったら……」
偽勇者「!」
勇者「あんたなら、これを受けても大丈夫だろ」
勇者「はあああああああああああああああ……!!!」バチバチバチッ
勇者「喰らえ、雷神斬ッ!!!」
偽勇者「雷神斬ッ!!!」
ズガガガガァァァァァンッ!!!
勇者(そんな、最強の奥義であるこの技まで!?)
偽勇者「……」
グググッ……!
勇者(ぐっ、しかも同じ技なのに押され――)
偽勇者「……」
偽勇者「稽古はこの辺にしておこうか」スチャッ
勇者「……くっ」ガクッ
ザワザワ…
「よく分からんけどどっちも凄かった……」 「ひええ……」 「まるで勇者が二人いるみたいだ……」
勇者「ハァ、ハァ、ハァ……」
偽勇者「ゆめゆめ鍛錬を忘れるなかれ……だ」
勇者「……!」
偽勇者「ああ、それとさっきはすまなかったな、お嬢さん! 怖がらせちゃって!」
田舎娘「い、いえ……」
偽勇者「あとちゃんと金は払う。受け取ってくれ」サッ
主人「え!? あ、こりゃどうも……」
偽勇者「それじゃさいなら!」スタスタ…
シーン…
勇者「……」
女魔法使い「勇者……」
勇者「俺は魔王を倒したことで、知らず知らずのうちに慢心してた」
勇者「だけど世界はまだまだ広い……世の中にはあんなに強い人もいるんだ」
勇者「これからも剣の修行は欠かさず続けるぞ!」
女魔法使い「一休みするはずが、とんだ達人に出会っちゃったね」
……
……
過去戦士「お、帰ってきたか」
過去戦士「冥界の神にやっと許可をもらえて、500年ぶりに行った現世はどうだった?」
偽勇者「……ふふっ、なかなか楽しめた」
偽勇者「俺の子孫を見つけたからニヤニヤしながら喝を入れてきてやったよ」
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