商人「奴隷ー、奴隷はいらんかねー」

奴隷「あ…あの…」

商人「ん?どうしたの?」

奴隷「私、やっぱり売られてしまうんでしょうか…」

商人「うん、とびっきり良い値段で売ってあげるよ」

奴隷「そうですか…」

商人「売れないなぁ…」

奴隷「すいません…」

商人「こんなに可愛いのに何でだろうね」

奴隷「か…可愛い?」

商人「うん、とっても可愛いよ。あっ、そうだ。新しい服を買ってあげよう。きっとすぐに買い手が見つかるよ」

奴隷(…可愛い)

商人「うん、とっても似合ってるよ」

奴隷「あ…ありがとうございます」

商人「お礼なんていいよ。君を売るために創意工夫してるだけなんだから」

奴隷「はぁ…」

商人「それにしてもここまで可愛いと奴隷階級だってのが嘘みたいだね。もしかして元は貴族のお嬢様とか?」

奴隷「………」

商人「え?もしかして本当にそうなの? だとしたらかなりのレアモノだよ。さすが僕だ。貴族のお嬢様を掘り当てただなんてさ」

奴隷「あ…あの…」

商人「どうしましたお嬢様?」

奴隷「わ…私…貴族様なんかじゃありません…ただの貧しい家の生まれなんです…」

商人「……え?そうなの?」

奴隷「…すいません」

商人「あ…いいよ…勝手に僕が先走っちゃっただけだし…」

奴隷「すいません…ただの奴隷で本当にすいません…」

商人「…はぁ、今日も売れなかった」

奴隷「あの…何人かはお客様が来ていましたよね?」

商人「ああ、あいつらは駄目だな」

奴隷「なんでですか?」

商人「あいつらはただ単に君で商売をしたいだけなんだよ」

奴隷「…商売?商人さんみたいに私を売るんですか?」

商人「ちょっと違うけどね。僕としては商品を大切にしてくれる人に売りたいんだよ」

奴隷「…商人さん」

商人「それにさ、なんだよあのはした金。あんな額で買おうだなんて商人を馬鹿にしてるとしか思えないよ」

奴隷「………商人さん」

奴隷「………」グゥー

商人「お腹減ったの?」

奴隷「あ、いえ、大丈夫です。空腹にはなれてますから」

商人「駄目だよ。商品には常に最高の状態でいてもらわないとね。ちゃんと栄養のあるもの食べてもらうよ」

奴隷「ありがとうございます」

商人「だから、お礼はいらないんだって」

奴隷「商人さんには本当に感謝しています」

商人「なんで?うらまれる覚えはあっても、感謝されることをした覚えはないんだけど」

奴隷「商人さんは、空腹で、死にそうになっていた私を助けていただいただけでなく、こんな綺麗なお洋服まで着させていただいて…それだけじゃありません。いくら感謝しても足りないくらいです」

商人「君は馬鹿だなぁ…僕は君を高い値段で売りたいだけなんだよ。君を見つけたときも、良い商品を見つけたくらいにしか思わなかったしね」

奴隷「…本当にそうなんですか?」

商人「本当にそうなんだよ」

奴隷「こほっ…こほっ…」

商人「風邪かい?」

奴隷「あ、大丈夫です」

商人「今日はもう宿をとって休もうか」

奴隷「本当に大丈夫です。このくらい」

商人「はぁ…まったく君は…商売ってものがわかってないねぇ…」

奴隷「はぁ…」

商人「じゃあ…例えば…君は病気の牛と元気な牛どっちがほしい?」

奴隷「…どっちも欲しいです」

商人「…これだから貧乏人は」

商人「そろそろ暗くなるころかな? 悪いけど今日は野宿になりそうだな」

奴隷「そうですか」

商人「僕としたことが…商品を野ざらしにしてしまうなんて…」

奴隷「全然かまいませんよ。なれてますから」

商人「そういうわけにはいかないんだ。僕の商人としてのプライドが…」

盗賊「おい、お前商人だな」

商人「ん?はい、いかにも、そういうあなたはお客さんですか?」

商人「何かご希望の品でもありますか? 無い場合は仕入れますけど」

盗賊「もってる物を全てもらおうか。ああ、あとその女もおいてけ」

商人「お客さん、太っ腹ですねぇ、いまお値段を計算しますから待ってて下さいね」

盗賊「俺は買うなんて言ってねえぞ」

商人「………は?」

盗賊「おい、野郎ども」

手下A「へい頭」

手下B「なんでしょう?」

商人「もしかしてあなた達は夜盗かなんかでしょうか?」

盗賊「よくわかったな」

商人「つまり、客ではないんですね」

盗賊「当たり前じゃねえか阿呆」

ドカッ

手下A「へぶっ」

盗賊「な……」

商人「まったく…商人から商品を奪おうだなんて愚か者がまだいたとは…」

盗賊「な…なんだお前は…」

商人「商人だよ商人。商人ってのはな、商品を自分の命にかえても守る職業なんだよ。お前らごときに大切な商品奪われてたまるか」

盗賊「い…いけ!おまえら!」

手下B「わかりやした」チャキッ

商人「…なんだ?そのサビだらけの剣は。僕が値段をつけたとしたらひのきの棒以下の値段だな」

手下B「…う…あ…」バタッ

盗賊「な…全員やられただと…」

商人「ひのきの棒以下の武器に負けるわけないだろ。それに引き換え、僕の武器は凄いぞ」

盗賊「武器ってそのわけのわからねぇもので…」

商人「かつて、魔王と呼ばれるものを倒した勇者一行に、商人がいたといわれている…」

盗賊「…突然なにを」

商人「これはな、その商人が使っていたと言われる伝説の武…いや、たしかに武器だな。商人にとってそろばんは立派な武器さ」

盗賊「くっ…」ガバッ

奴隷「きゃっ…」

商人「しまった…」

盗賊「動くなっ!この女がどうなってもいいのか?」

商人「…………」

盗賊「ははは、よっぽど大切な女みたいだな」

商人「……その汚い手を離せ、価値が下がる」

盗賊「お…おい…近づくなって言ってんだろ!」

商人「少しでも怪我させてみろ……」

盗賊「こ、このナイフが見えないのか!」

商人「……ばらして売るぞ」

盗賊「ひ、ひぃぃいいいい!」

ドカッ

商人「さて…じゃあ野宿の準備でもするかね」

奴隷「あ…あの…さっきの人達は?」

商人「捨てた」

奴隷「…捨てた?」

商人「いや、あんなの一文の価値にもなりそうもないからね」

奴隷「はぁ…」

商人「それに引き換え君は凄いよ。同じ種類の商品とは思えないね」

商人「ん?寒いの?」

奴隷「い…いえ…」ガクガクブルブル

ペタッ

商人「んー、熱は無いみたいだけど…一応僕のぶんの布団もあげるね」

奴隷「い…いえ…」

商人「君に拒否権はないからね」

奴隷「ほ、本当に寒くなんてないんです!」

商人「じゃあどうして震えてるの?」

奴隷「その…安心したら急に震えが…」

商人「…まいったなぁ。心に傷でもできたら価値が下がっちゃうじゃないか…」

ナデナデ

商人「大丈夫だよ。君の安全は僕が守るから」

奴隷「………」

商人「僕が信用できないかい?」

奴隷「そ、そんなことありません!」

商人「そうかい?ところで震えはもう大丈夫かい?」

奴隷「あ…は…はい」

商人「ふふっ、良かった」

商人「うーん…しかし、どうみても育ちの良さそうなお嬢様だよなぁ」

奴隷「あ…あの…」

商人「なんだい?」

奴隷「私がお嬢様のふりをしたら、買い手が見つかるのではないでしょうか…」

商人「あーダメダメ」

奴隷「どうしてですか?」

商人「商品の偽装だなんて僕のプライドが許さない。それに」

奴隷「それに?」

商人「君はそこらの貴族の豚どもより、ずっと価値のある商品さ」

奴隷「私のお値段ってどのくらいなのでしょうか?」

商人「んー、少なく見積もっても…」パチパチ

商人「これくらいかな?」

奴隷「あ…あの…」

商人「なに?」

奴隷「それっていくらなんですか?」

商人「あ…そろばんがわからないか、まずこれがね…」

商人「わかった?そろばんはこうやって見るんだ」

奴隷「えっと…これが1だから…10、100………えぇ!」

商人「どうしたの?」

奴隷「だってこんなお値段…」

商人「僕は目利きには自信があるからね。これでも少ないくらいなんだよ」

奴隷「こ…こんなお値段で私が売れるわけありません…」

商人「いいや、売れるね。これ以上は何があってもまけないよ」

奴隷(…こんなお値段じゃ絶対に売れないな)

商人「なんで嬉しそうなんだい?」

奴隷「いえ…なんでもないです」

奴隷「私が売れなかったらその後はどうなるんでしょうか?」

商人「売れないなんてことはないさ。君は魅力的な商品だからね」

奴隷「も…もしもです…」

商人「そんなことないと思うけど…まぁ、売れるまでは面倒みるよ」

奴隷「そうですか」

商人「だから、なんで嬉しそうなの?」

男「安いですねぇ、街の商店よりずっと安いですよ」

商人「品質も保証しますよ」

男「決めました買います」

奴隷「さっきの人は何を買われていったのですか?」

商人「剣」

奴隷「そんなものを買うってことは兵士さんですか?」

商人「兵には武器は支給されるからね。違うんじゃないかな?」

奴隷「じゃあ勇者様ですか?」

商人「はっはっは、もしかしたらそうかもね」

商人「さて、仕入れにでもいくかな」

奴隷「仕入れですか?」

商人「まぁ、商品が無ければ商いなんてできないからね」

奴隷「はぁ…」

商人「君が売れればいいんだけど」

奴隷「…すいません」

商人「君が謝る必要はないんだよ。僕の商人としての腕が悪いだけなんだから」

男「いやぁ、いつきても安いですね」

商人「商品のあるべき値段で売ってるだけですから」

男「もう装備いっしきをここで揃えちゃいましたよ」

商人「ごひいきありがとうございます」

奴隷「あ…あの…」

商人「ん?」

奴隷「他の商品は安いのになんで私だけ高いんですか?」

商人「別に安いわけじゃないんだよ。僕の鑑定眼で値段を決めているだけだから」

奴隷「でも…これ金ですよね? これよりもずっと高いだなんて……」

商人「僕の目利きは間違ってないと思うけどなぁ」

貴族「調教とかはしてないのかね?」

商人「はい、そのようなことはしておりません」

貴族「ふん、つまらん」

商人「…なにがつまらんだ。調教なんかしても価値が下がるだけじゃないか。やりたいだけなら商売女でも買え豚が…」

奴隷「商売女って何ですか?」

商人「えっと…女の商人だよ…」

商人「そうかなぁ…綺麗なほうがいいと思うけど…」

奴隷「は…はぁ…」

商人「君だって汚いのは嫌だろ?」

奴隷「いえ、そういうのにはなれてますから」

商人「うーん…やっぱり駄目だな。商品を汚すなんて僕のプライドが許さない」

奴隷「あの…」

商人「どうしたのかな?」

奴隷「私…本当に何もしてないので、料理くらいはさせてもらえないでしょうか?」

商人「そんなのいいよ。君は商品なんだから」

奴隷「でも…でも…」

商人「…うーん、まぁ確かに料理くらいできたほうが商品価値も上がるし」

奴隷「が、頑張ります!」

商人「あ…包丁気をつけてね。あと火も」

奴隷「大丈夫です」サクッ

商人「あーっ!」

奴隷「ちょっと切っちゃっただけですから」

商人「ま、待っててね!今一番良い薬出すから」

奴隷「あ…あの…本当に大丈夫ですよ?」

商人「商品価値がぁ!商品価値がぁ!」アタフタ

貴族「…で、生娘かね?」

商人「なーにーが、生娘かね?だよ。そんなもんで価値観決めてんじゃねえよ。だいたい何するか魂胆見え見えなんだよ。誰がお前なんかに売るか」

奴隷「生娘って何ですか?」

商人「男性経験があるかどうかってこと」

奴隷「男性経験?どういう意味ですか?」

商人「…なるほど、値段にいろつけとかないとな」

商人「水かー、水なら凄いのがあるんだけど」

奴隷「凄いのですか?」

商人「有害な障気のせいで普通の人間には立ち入ることのできない泉の水だよ」

奴隷「美味しいんですか?」

商人「あ、飲んじゃ駄目だよ」

奴隷「あ、いえ、商品には手を出さないですよ」

商人「そうじゃないんだ。有毒なんだよ…その水」

奴隷「毒?」

商人「うん、障気が水に溶け込んでるんだよね。当然っちゃあ当然なんだけど」

奴隷「竜の牙とかはどうやって仕入れてるんですか?」

商人「そりゃあ、竜から抜き取ってだよ」

奴隷「りゅ…竜ですか…」

商人「ああ、死んだ竜からだからね」

奴隷「なんだ…そうだったんですか」

商人「でも竜の墓場って寒くてあんまり行きたくないんだよね」

奴隷「これって香水ですよね」

商人「うん」

奴隷「私もつけてみていいですか?」

商人「あーダメダメ、商品だから」

奴隷「すいません…忘れていました」

商人「香水なんてかけたら君の価値が下がっちゃうからね」

商人「お客さん、お目が高いねぇ。これはかの有名な魔王城より手に入れた伝説の武具ですよ」

男「え?…魔王城?」

商人「嘘じゃないですよ。実際に僕がとってきたんですから」

男「…ちょっと試してみていいですか?」

商人「論より証拠ですね。どうぞ」

スパッ、ズドンッ

男「…すごい、岩が真っ二つに」

商人「お客さんのたち筋もなかなかですよ」

奴隷「あの人…本当に勇者様なんじゃないでしょうか?」

商人「それなら尚更良いじゃないか。こんな最初のほうから伝説武具が手に入って大助かりだろうしさ」

奴隷「う…うーん…あ、おはようございます」

商人「おはよう、ぐっすり眠れた?」

奴隷「はい」

商人「うん、いいねぇ。ぐっすり眠って健康にすくすく育つってね」

奴隷「が、がんばります」

商人「よし、じゃあ朝ご飯にしようか」

商人「なんで君はそんなに生き生きしてるの?」

奴隷「はい?」

商人「普通奴隷とかいったら死んだ魚のような目をしてるものだよ。いや、生き生きとしてて商品価値に貢献してて良いところなんだけどね」

奴隷「だ…だって…毎日が楽しいんです…」

商人「楽しい?」

奴隷「はい」

商人「…楽しいかぁ」

奴隷「なにを探してるんですか?」

商人「薬草、あと茸かな」

奴隷「茸ですか?」

商人「うん、食用とか薬になるものとか」

奴隷「そうなんですか」

商人「毒のあるものもあるから気をつけたほうがいいよ」

奴隷「これは食べれますか?」

商人「それは駄目、覚醒作用があるからね」

奴隷「覚醒?」

商人「加工したら簡単に麻薬ができちゃうんだ」

奴隷「は…はぁ…」

商人「まぁ、君は知らなくていいこと思うよ」

奴隷「商人さん、この瓶は何ですか?」

商人「お酒だよ。良いのが安く手に入ったんだよね」

奴隷「お酒ですか」

商人「ちょっと飲んでみるかい? 試飲用に貰ったのが少しのこってるんだけど」

奴隷「あ…いえ…私お酒飲んだことないんで」

商人「少量のお酒は健康にも良いからね。少し飲んでみなよ」

奴隷「じゃあ少しだけ…」

30分後

奴隷「うー…ひっく…商人さぁん…」

商人「…一杯だけしか飲ませてないはずなんだけどなぁ」

奴隷「商人さぁん…商人さぁん…」

商人「大丈夫かい?気持ち悪いんなら吐いたほうが楽だよ」

奴隷「商人さん…本当にありがとうございます…」

商人「いや…だから、お礼はいいって。僕は君を売りたいだけなんだから」

奴隷「…ぐすっ…う…うぇ…うぇえええ」

商人「ど、どうしたの?」

奴隷「ひっ、ひっく…私のこと売らないで下さい…うぇえええん」

商人「そういうわけには…」

奴隷「ぐすっ、えっぐ…嫌です…ずっと商人さんと一緒にいたいです…嫌なんです…」

商人「…………」

奴隷「お料理だって…洗濯だってします…お仕事だっておぼえます…だから…だから…えっぐ…」

商人「…今日はもう寝ようか」

奴隷「すー…すー…」

商人「僕としたことが…」

商人「…あやうく流されてしまうところだった」

商人「僕は商人だ。物を売るのが仕事だ」

商人「彼女は…商品なんだ…」


商人「さぁ、起きて」

奴隷「う…うーん…」

商人「今日は街をまわってみようと思うんだけど」

奴隷「街を…ですか?お仕事でしょうか?」

商人「仕事ではないんだけどな」

奴隷「はぁ…」

奴隷「あ…あの…」

商人「お腹すいてる?」

奴隷「え?あ…はい」

商人「じゃあ、どこかで食べていこうか」


商人「美味しいかい?」

奴隷「あ…はい」

商人「そうか、それはよかった」

奴隷「………あの」

商人「他に食べたいものはないかい?」

奴隷「あ…いえ…」

商人「露店商がこんなに…僕もうかうかしていられないな」

奴隷「綺麗なものがいっぱいですね」

商人「何か欲しいものがあるのかい?」

奴隷「あ、別に欲しいわけじゃ…」

商人「じゃあ僕が選ぶよ」

商人「このペンダントなんてどうだい?」

奴隷「素敵だと思います」

商人「よしっ、じゃあこれに決めた」

露店商「まいどありー」

奴隷「ふっふふーん♪」

商人「ずいぶんとご機嫌だね」

奴隷「だって、商人さんからプレゼントとして貰った初めての物ですから」

商人「ああー…確かにプレゼントはあげてなかったかな」

奴隷「絶対大切にしますからね」

奴隷「今日はありがとうございました」

商人「そうかい、楽しかった?」

奴隷「はい、とっても」

商人「そうか良かったね。これからは何時でも好きなときにこれるんだもん」

奴隷「は…はい?」

商人「君の買い手が見つかったんだよ」

奴隷「あ…あの…それって…」

商人「安心してよ、信頼できるお客さんだから」

奴隷「………」

商人「お得意様の貴族の人なんだけどさ、早くにお子さんを亡くしたらしくて、君の話をしたら是非会ってみたいって」

奴隷「………」

商人「そこからは僕の話術のたまものなんだけど、君を養子にほしいとさ」

奴隷「………」

商人「いやぁ、ようやく君を売れたよ。本当によかった」

奴隷「…いままで…ありがとうございました」

商人「お礼はいらないって言ってるだろ」

貴族「話で聞いたよりずっと素敵なお嬢さんじゃないか」

奥様「そうですねぇ」

奴隷「………」

商人「ほらほら笑顔笑顔、君の一番の魅力はその生き生きとした笑顔なんだから」

奴隷「は…はい…」

商人「では、僕はこれで…」

奴隷「まっ…」

商人「お幸せにね」

奴隷「………」

貴族「さぁ、ここが今日から君の家だよ」

奴隷「はい…」

奥様「ふふ、緊張してるのかしら」

奴隷「……はい」

貴族「……なぁおまえ」

奥様「…はい」

貴族「君がここの家の子になったのは事実なんだ。もうあの商人の商品ではないんだよ」

奴隷「…はい」

貴族「うむ、ときにお前、我が家の家訓は何だったかな?」

奥様「可愛い子には旅をさせろです」

貴族「そうだな、我が家の子になってさっそくで悪いが、旅に出てくれないかな?」

奴隷「た…旅?」

貴族「うむ、貴族たるもの世の中の情勢を知っていなければならない。それも庶民の目の位置でだ」

奥様「目的地なんてのは別にないのよ。自分の行きたいところを自分の足でいくの」

貴族「さて、では早速準備を」

奴隷「だ、大丈夫です!」

貴族「そうだったな。君の荷物はまだ開いてなかった」

奥様「ところで、全然関係ない話になりますけど、あの商人のかたは今頃どこにいるのでしょうかね?」

貴族「たしか、今日街を出ると言ってだが」

奴隷「!」

奥様「でも、今ならまだ追い付くかもしれませんね」

貴族「はっはっは、追い付いてどうするんだ」

奴隷「あ、あの…私、もう行きます!」

貴族「気をつけて行ってきなさい」

奥様「ここはあなたの家なんですからね。いつでも帰っていらっしゃい」

奴隷「は、はいっ!…では行ってきます! おっ、お父さん!お母さん!」

奥様「行ってしまいましたね」

貴族「心配することはないさ。なんたって私達の娘なんだからな」

奥様「ふふふっ、それもそうですね」

商人「さてと…この街ともおさらばだな…」

商人「なに、いつだって来ようと思えばこれるんだ…」

商人「いや、そもそも僕は何を考えてるんだ。彼女はただの商品、そしてそれを売っただけの話だ」

奴隷「しょ、しょうにんさーん!」

商人「…幻聴まで聞こえてくる始末だ。まったく…」

奴隷「商人さーん!待って下さーい!」

商人「幻聴じゃ…ない?」

奴隷「はぁ…はぁ…やっと追い付きました…」

商人「な…なんで君が…君はあの家の子になったはずだろ」

奴隷「はい、私はあの家の子供です。それは今も変わりません」

商人「じゃあなんで…」

奴隷「あの家の家訓を知ってますか?」

商人「い…いや…」

奴隷「かわいい子には旅をさせろ、らしいです」

奴隷「貴族として、広い視野を身につけるため。私は旅をしてるんです」

商人「あ…あの夫婦…」

奴隷「商人さんにお願いがあります」

商人「お…お願い?」

奴隷「お願いします!私を弟子にしてください!」

商人「なっ…」

奴隷「今まで、商人さんと一緒に行動してきて、いろんなところをまわりました。商人さんについて行けば、世界中をみてまわれると思うんです」

商人「……もう君は商品じゃないんだよ」

奴隷「お願いします!」

商人「だから…もう今までみたいな特別扱いはしないからね」

奴隷「そ、それじゃあ!」

商人「ほらっ、ぼさっとしない。今日中に隣町までいくんだからね」

奴隷「は…はいっ!」

商人「弟子ってからには雑用はこなしてもらうよ」

奴隷「はい!」

商人「あと、僕のことは師匠て呼びなよ。弟子なんだから」

奴隷「はい!師匠!」

貴族「にしても、あの商人ずいぶんとそそっかしいな」

奥様「はい、代金を受け取るのを忘れるなんて」

貴族「まったく、それで娘さんを返して下さいなんて言われても、絶対に返してやらないからな」

奥様「うふふっ、それはいったい、どういう意味なのかしらね」

その後も、おかしな商人の師弟の珍道中は続きますが、それはまた別のお話。

これにて、商人と奴隷のお話は幕を閉じさせていただきます。

なんだか前回と幕引きが似てしまいましたがご勘弁を

では皆さんまた会う日まで


 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無し  ID:gu4jFogZ0編集削除
なげー
2 . 週休4日  ID:VVH3b.SX0編集削除
やりてババ
3 . @  ID:hQrKWZAd0編集削除
ジョーカー
4 . 名無しさん  ID:u4ejjhVq0編集削除
テキストなんていらね〜
5 . 名無しさん  ID:mRWwtkck0編集削除
まぁ、想像通りの結末だったわ。
飛ばして読んでも変わらんのじゃないかな

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