俺「異世界に来てから早一か月、か」

俺「大体街の仕組みは覚えたし、技術水準も確認した」

俺「神様からもらった【ステータス】と【聖剣】の奇跡で生活も安定してきたし、そろそろ処女奴隷一号でも買い漁るとするか!」

俺「来た来た、奴隷市場…」

俺「ヒヒ、あっちこっちに裸の女がいやがるぜ」

俺(俺の【ステータス】の奇跡は、設定を弄れば、相手の好きな詳細を見れる)

俺(性格から才能、病気から性体験までなんでも暴ける)

俺「ハハハハ! もっと金ができたら奴隷トレーダーで儲けるのも悪くないかもしれないな! 株みたいに!」

俺「……今の持ち金は八十万ゴールド、綺麗どころの性奴隷は簡単に二百万ゴールドくらいに乗っちまうからな」

俺「なんとか安くて優良な奴を当てておきたい。最悪多少ブスでもいいか、また売ればいいだけだし」

奴隷商人「キキ、旦那、初顔ですかい?」

俺「あ、ああ、わかるのか?」

奴隷商人「ええ、この場になれてないってウブな顔だ」

奴隷商人「安くしときますぜ、今後仲良くやっていくためにもね」ニマァ

俺(……不気味な奴だな)

俺(まぁ、ボラれることはないか。俺の【ステータス】に、都内市場価値をセット……これで確実に足許を見られないで済む)

奴隷商人「この子はどうですかい? 耳長ですよ」

俺「……エルフか、美人だが」

エルフ「……」ギロッ

◆◆
種族:エルフ
年齢:215
性格:人間嫌い
病気:マンドラゴラ病
経験:258人
特筆:魔力高
市場価値:400万ゴールド
◆◆

俺「ひぇっ」

奴隷商人「どです? んんー、390万ゴールドくらいで?」

俺「うーん……悪いが、あまり金も持ってないもので」

奴隷商人「なんだ、そうかい。もう少し手頃なのを見繕ってあげようかね」

俺(……いきなりハードなもの見せられちまった、嫌な背景がありあり想像できる)

俺(……処女、いないなあ。テンション下がるわ)ハァ

俺(俺の処女性奴隷ハーレムの夢が)

奴隷商人「どの子もお気に召しませんでしたか……ムム。ではまた、御機会があれば」

俺「その奥の子、まだよく見てなかったな。そいつはいくらだ?」

根暗そうな女の子「……」

奴隷商人「あ、旦那、それはその……」

◆◆
種族:ヒューマン
年齢:15
性格:心神喪失状態
病気:コボルト腫瘍、マンドラゴラ病、ゴブリン疣、魔毒、膣ゴレーム症、ゼウス風邪、スライム赤痢
経験:2031人
特筆:将来の夢は優しいお嫁さん
市場価値:20ゴールド
◆◆

俺「」

女の子「…………」

俺「こ、この子は……」

奴隷商人「へへへ……下取りで、得意先様から押し付けられちゃった娘で」

奴隷商人「ほら、左目の周りとか凄いでしょ? 脱いだらもっと酷いですよ」

俺「どうするんですか……?」

奴隷商人「まあ……ここまで酷いと、何もしなくても来週には死ぬでしょうね」

俺「…………」

奴隷商人「拷問好きのお客さんなら買われるかもしれませんね。殺しても惜しくないわけだし」

俺「拷問好きの」

奴隷商人「そういう人に他の子と抱き合わせか、五万ゴールドくらいで捌こうかなと」

俺「買います」

奴隷商人「……え?」

俺「買いますと、言ったんだ。売り物なんだろ」

奴隷商人「旦那……? いやぁ、でも、止めておいた方がいいですよ? 新入りにこんなの掴ませたなんて噂が広がると、私も……」

ジャラッ

俺「八十万ゴールドある。これで文句ないだろ」

俺「ふう……どうにか急ぎで、予備のポーションが売れてよかった」

俺「パンを切って、野菜とハムを挟んで、ゆで卵スライスを加えて……香辛料はまだあるな」

俺「よし、即席サンドだ! 俺のこっちでの好物なんだけど」

女の子「…………」

俺(ダメ……か)オドオド

女の子「…………」モグモグ

俺「……!」パアッ

俺(……しかし、食べ方、綺麗だな。こっちの世界では珍しいぞ。この子、教育のしっかりしている家で育ったのかもしれない)

女の子「…………」

俺「なぁ、もしかして貴族の家柄とか……」

女の子「……!」ビクッ

俺「そんなわけないか」

女の子「い、嫌ッ! 嫌ッ!」

俺「お、おい、どうしたんだ!」

女の子「やだぁ! 嫌だ、やだぁ! やめて! やめてください!」

女の子「ごめんなさい! ごめんなさい! 生まれてきてごめんなさい!」ガクガク

俺「お、落ち着け! 安心しろ! 俺は絶対に酷いことなんてしないから! な?」ギュッ

女の子「ごめんなさい、ごめんなさい……」ガクガク

俺「ここにはお前に酷いことする奴は一人もいない! 俺がそんなことさせない! だから大丈夫だ!」

女の子「……うう、うう……」

俺(よ、よし、落ち着いてきたか……)ナデナデ

俺「…………」

奴隷商人『まあ……ここまで酷いと、何もしなくても来週には死ぬでしょうね』

俺(お、俺が……俺が、どうにかしてあげないと)


―ある豪邸―

女侯爵「どうかしら、例の娘?」

部下「は……奴隷市場に売られ、その後、娼館へ流れ着いたようです」

部下「その後、性病が発覚して、貧民街の最低位の娼館、通称【便所穴】に落とされたようですな」

部下「死ぬより辛い目に遭われたことかと」

女侯爵「ホホホ、それでいいわ。あんな泥棒猫の娘、当然の末路ね」

女侯爵「ねぇ、これでわかったでしょう? 貴方は、私だけ見ていればいいの」ギロ

夫「……」

女侯爵「何か言いたいことがありそうねぇ? 別にいいわよ、また夜遊びしても」

部下(恐ろしいお人だ……夫の妾を拷問死させ、その子供まで地獄に突き落とすとは)ゾオッ

部下(民衆から吸血侯爵と恐れられるだけはある)

女侯爵「……で、今その娘はどうなってるの?」

部下「え……? い、いえ、【便所穴】に落とされ、死んだのでは?」

女侯爵「確認していないの? とんだ無能ね」ギロッ

部下「しし、しかし! 死んだにきまっています!」

女侯爵「万が一ってこともあるでしょうがああああ! あのゲロブスの娘が生きているかもしれないと思うと、気が気じゃないのよおおお!」バンッ

部下「ももも、申し訳ございません!」

女侯爵「いいことを考えたわ。娼館に連絡して、死体を取り返しなさい。あの人に見せつけてあげるわ」ニマア

部下「は、はは、はいい!」


―冒険者の酒場―

俺「……そういや、昼飯も後回しにしたまま、まだだったんだよな。もう夕刻か」グウ

俺「あーあ、全財産渡したのは馬鹿だったなぁ」ポリポリ

剣士「あの感じ悪いオッサンいるじゃん」

槍使い「ああ、強そうだったから誘ったら鼻で笑いやがった奴だな。誰に対してもあんな調子だとよ」

剣士「なんか頼んで回ってるみたいだが……馬鹿にされてるみたいだな」

槍使い「だろうよ、いいザマだ」

俺「な、なぁ、アンタ、以前はその、悪かった」バッ

剣士「うわ、こっち来たwww笑うわwww」

剣士「アンタじゃなくて、剣士さんだが?」

槍使い「おい、止めとけ、こいつ短気でクズだって……」

俺「す、すまない、剣士さん、その、訊きたいことがあるんだ」バッ

剣士「wwww」

槍使い「…………」

俺「白魔導士を、探してるんだ……それも、最低でもB級以上の」

俺「もう時間がなくて、遠出して会いに行く猶予はないんだ」

俺「頼む、噂でもいい、何か知っていることがあったら……!」

剣士「知るかよそんなの! この都市に、そう都合よくB級の凄腕白魔導士がいるわけないだろバカかよ」

俺「……そう、ですよね」

槍使い「……貧民街に、仙人と呼ばれている白魔導士の男がいるらしい」

剣士「おい、お前……!」

槍使い「キナ臭い話だがな、行くなら気を付けろ」

俺「ありがとう、ございます。行ってみます」ペコッ


―翌日―

女の子「ごほ、ごほ」

俺「わ、悪い、連れ回して……。背負おうか?」

「見ろよ、あいつ、病持ち連れてるぜ」
「あの目、魔毒の症状じゃないか? よく触れるわ……」
「あんな汚物、表に出すなよなぁ、非常識だなあ」

女の子「…………」

俺「うるせぇぞテメエらぁ! お前達に、この子の何がわかる!」

女の子「!」

「おいおいあいつ、目に涙浮かんでんぞ」
「ビビってんじゃねぇか。無理するなよ雌犬の飼い主さん」


―貧民街―

俺(噂通りの、小汚い、変わった頭の形の爺さんだ……)

俺「あなたが、仙人さんですか……?」

浮浪者「よーお、貴族の遣いが頼みに来るね。そんなこと言って」カカカ

浮浪者「そっちの子が病持ちか」ジロッ

女の子「…………」

浮浪者「で、ゼニは持ってるか?」

俺「う……その、金目のものなら……」

浮浪者「ほーう」

俺(足りるか……? 大したものは持っていない)

俺(相場を確かめるべきだったか……)

俺(いや、その前に、こいつが本物かどうか確かめておいた方がいい。確認事項を【ステータス】にセットして……)

◆◆
種族:ヒューマン
年齢:64
性格:狡猾
技能:【ペテン:B】【カリスマ:C】
◆◆

俺「なっ!」

浮浪者「どうしたか?」

俺「か、帰らせてもらう! この子には時間がないんだよ!」

浮浪者「はぁ……お前ら、出番だ」

孤児A「…………」ザッ
孤児B「…………」ザッ
孤児C「…………」ザッ

女の子「……!」ギュッ

俺「……なんの、つもりだ?」

浮浪者「ゼニ持ってる、わざわざ病気の治療のために暢気にこんなとこ入り込むお貴族様にはわからんか?」

浮浪者「噂でカモ呼び込んで、身ぐるみはがすんだよ。こんなふうにな」ギロッ

浮浪者「お前ら仕事や、どっちも殴り殺せ。女も犯すんじゃないぞ、あれは汚物の塊だ」

浮浪者「叩き殺せ、毒女の血は浴びるなよ。穢れるぞ」

孤児A「……」バッ

女の子「きゃぁぁぁっ!」

俺「ぐっ!」バッ

グサッ

孤児A「……」ニイ

女の子「お、俺さん!」オドオド

俺「だ、大丈夫だ、浅い……。はは、初めて名前呼んでくれたな」ヨロッ

孤児B「……」シュン

俺「……【聖剣】の奇跡」カンッ

浮浪者「な、なんだあの剣は!」

俺「神様からもらった……俺だけが自在に出し入れ可能な【聖剣】だ」ギロ

浮浪者「ううっ」

俺「はぁっ!」ズパァツ

孤児B「がぁっ! う、腕が!」

孤児A・孤児C「!」

俺「退け……ここから先は、殺すぞ。俺は本気だ」

浮浪者「うう、うぐう……」

女の子「俺さん、俺さん、死なないでください!」ボロボロ

俺「大丈夫だ……これくらい、なんてことない」ゼエゼェ

俺「悪かったな、下調べが甘くて、とんでもないところに連れてきてしまった」

俺(……無駄に日数を使ってしまった)ギリ

俺「この子には……もう、時間がないっていうのに」


―冒険者の酒場―

俺「どうしよう……どうしよう……あれからいくら探しても、一向に見つからない……」ガリガリ

槍使い「……なぁ、オッサンよ」

俺「お前は……」

槍使い「悪い、以前、とんでもないデマを教えてしまったようだな」

俺「いや……噂でいいから教えてくれと言ったのは俺だ」

槍使い「あれから俺も、調べてみた。都市長が、隠し子の治療のために極秘で白魔導士を読んでいたらしい」

槍使い「これは、恐らく間違いない」

俺「ほ、本当か!」ガタッ


―宿屋二階―

デブ「なんだね、チミ。私は忙しいのだがね」

俺(身なりがいい……そうだ、真っ当な白魔導士なら、かなり金を持ってないとおかしいんだ)

◆◆
種族:ヒューマン
年齢:45
性格:傲慢、怠惰
技能:【白魔導:A】
◆◆

俺(ま、間違いない、本物だ! ありがとう、槍使い……!)ジワッ

俺「お、お願いです! 病気の治療をしてほしい子がいるんです!」バッ

デブ「はー、どっから話が漏れたのか」ハナホジー

俺「お願いします!」

デブ「う〜ん、まずどういう病気なのかもしらんし」

俺「そ、それは……」

俺「コボルト腫瘍、マンドラゴラ病、ゴブリン疣、魔毒、ゼウス風邪、スライム赤痢……あとは、膣ゴレーム症……」

デブ「よくわかるね」

俺「こ、これは間違いないです!」

デブ「ま、私ならいけるね、付きっ切りでかかれば」

俺「ほ、本当ですか!」

デブ「五十万ゴールド」

俺「っ! か、返します! 払って見せます! すぐには用意できませんが……」

デブ「一日五十万ゴールド」

俺「……え?」

俺「そ、それは、何日掛かるんですか……? あの、目安とか……」

デブ「わかるわけないじゃんそんなの見てもないのに」

俺「一日に、五十万……」ブツブツ

デブ「三日以内に百万ゴールド用意出来たらとりあえず見てあげるわ」

俺(【聖剣】を売れば、行けるか……?)

デブ「勿論、チミが逃げられないように患者は私が預かるし、破れば死に至る、魔縛りの契約書も書いてもらうけどね」

俺「……わかりました、絶対に、用意してみせます」ザッザッ

デブ「ん、頑張ってね」

デブ「馬鹿な奴だ、何十日でも居座ってやる」ニチャア


―試練の洞窟・再奥地―

翡翠竜「ガアアアアア!」

キンキンキィン!

俺(さすがにA級モンスター、強すぎる……)

俺(だが、翡翠竜の角は、一本で三十万ゴールドになる。手っ取り早く集めるには、これしかない!)

俺「らああっ!」ブゥン

翡翠竜「ギッ」

俺「力を貸してくれ、【聖剣】!」

俺「俺はどうしようもないクズだったけど……初めて誰かを守りたいと、そう思えたんだ!」ザクッ

翡翠竜「ギャアアアアアアアッ!」

俺「……やった、のか?」ハァハァ


―当日―

俺「ごめん、ごめん……」ボロボロ

女の子「……」

俺「百万ゴールドあれば、助けてあげられるはずだったのに……!」

俺「市場で足元を見られて、半分しか溜められなかった……!」

女の子「……」

俺「いつもさ、そうなんだ。前の世界でも、勉強とか必死に頑張っても、過去問もらってる奴らには敵わないし……部活だって、恋愛だって、何一つ上手く生きやしなかったんだ」

俺「この世界でもさぁ……!」

女の子「ありがとう……」ギュッ

俺「!」

女の子「俺さん、ありがとう……。私、あのまま生まれて来なければよかったって思いながら、死ぬところだった」

女の子「でも、俺さんのお陰で、私、すごく幸せだった」

俺「う、うう……」ガクッ

奴隷商人「キキ、旦那、邪魔するよ」

俺「お、お前は、あのときの……」

奴隷商人「随分ヘンな奴があちこち奔走してるって、噂になっててね」

奴隷商人「そういやお釣りを忘れたマヌケな人がいたなって、思い出したのさ」ドサッ

俺「!」

奴隷商人「七十五万ゴールドだ」

俺「な、なんで……!」

奴隷商人「ぼったくったって言われちゃ、看板に傷がつくのさ。アタシの店は、信用が売りなんでね」

俺「ど、奴隷商人さん!」ジワア

俺「ありがとうございます! これで、これで、この子を助けられます!」バッ

奴隷商人「甘いね」

俺「えっ」

奴隷商人「お前の頼ろうとしてる奴は、腕は確かだが、タカリで有名な奴さ」

俺「……そ、そんな。でも、腕は確かなんですよね?」

奴隷商人「馬鹿言うんじゃない。それじゃ、旦那が報われないさ」

奴隷商人「契約に私が付き添ってやる。引き受けるって言質は取ってるし、逃げるには旦那は奇人で有名すぎる」

奴隷商人「あの強欲怠惰にきっちり働かせてやろうじゃないか」

俺「ほ、本当ですか!」

俺「ありがとうございます、本当に」

奴隷商人「いいってことさ、惚れた弱みって奴だね」

俺「えっ……?」

奴隷商人「フフ、なんでもないよ」

女の子「…………」ジー

女侯爵の部下「クソ……あのガキ、【便所の穴】行きになった後の行方が追えない……!
                     このままじゃあ、私があの吸血侯爵に殺されてしまう」ゾオッ

俺(なんだ今の人、凄い怖い顔してたが……)


―宿屋二階―

俺「こ、この子を診てほしいんだ。約束の百万ゴールドもある……」

デブ「ほほう、やるじゃないか、チミ」ニマァ

デブ(罠にかかりやがって……ケツの毛まで毟って、自殺するまで搾り取ってやる)ニチャア

奴隷商人「アンタの注文通り、魔縛りの契約書を用意しておいてやったよ」 バンッ

デブ「な……最大、二百万ゴールド!?」

デブ「ち、違う、一日ごとに五十万ゴールドだ!」

奴隷商人「アンタの腕を見込んでも、妥当な値段だと思うがね」ハァ

デブ「な、何日拘束されるかわからないんだぞ! この私の時間を取るということの意味の重さがわかっておらんな!」

俺「……う」

奴隷商人「高名な白魔導士様が、随分と汚い商売やってるもんだね。洗えば他にもボロが出るんじゃないのかい?」ギロッ

デブ「ぐ……き、貴様!」

奴隷商人「受けてもらえるね」

デブ「……こ、このアマ……」

デブ「わ、わかった、引き受けよう……」ガクッ

女の子「お、俺さ……」パァッ

俺「や、やった! やったあ!」ブワァ

奴隷商人「アンタもいい歳だろうに、そう人前で外聞なく泣きなさんな」

俺「だ、だって、俺もう、本当に駄目かと思ってて……! ぐすっ! お、お願いします! この子をお願いします!」バッ

デブ「……フン、魔縛りの契約を結んだんだ。手は抜かんよ」


―一週間後―

女の子「俺さん……」ヒョコッ

俺(顔色、よくなってる……)

◆◆
種族:ヒューマン
年齢:15
性格:健気、気弱
病気:なし
経験:2031人
特筆:将来の夢は俺さんのお嫁さん
◆◆

俺「よ、よかった……病気がなくなってる」ヘタッ

俺「う、うう〜」ヘタッ

女の子「お、俺さん!? 泣かないで!」オロオロ

俺「だ、だって……!」

デブ「…………」

俺「本当に、ありがとうございました。貴方がいなければ、あの子はどうなっていたか」

デブ「……まさか、本当に何の縁の所縁もない奴隷だったとはな」

俺「…………」

デブ(こんな人間が、まだこの国にいたとはな。それに引き換え、私は……)

デブ「一目惚れか、苦労する性分だな。ああ、安仕事を負っちまった。どこぞで幸せにでもなんでもなるがいい」フンッ

俺「……」

俺「そういうのとは、少し違うんです」

デブ「なに?」

俺「確かに最初は、適当に女を買いたくて奴隷市場をうろついてたんです」

俺「俺は本当にロクデナシで、何も考えてなくて、たまたま力を手にしても誰にも必要とされない奴で……」

デブ「…………」

俺「でもあの時、この子を純粋に、一人の人間として助けてあげたいって、思えたんです」

俺「こんなに人のために頑張ったのは、正直これが初めてです。救われたのは、俺の方だったかもしれません」

デブ「……そうか」

デブ「これからどうするんだ? やはり、あの子と結婚するつもり……」

俺「いやいや、まさか」

デブ「む?」

デブ「それはどういう……」

俺「……俺はもうおっさんですからね。娘くらいの歳の女の子に、恩を被せて結婚迫る様な真似はできませんよ」

デブ「し、しかし、あの子も慕って……」

俺「今は、そうでしょう」

俺「でもあの子も、目を開けてゆっくり周囲を見たら、もっと適した相手が見つかると思いますよ」

デブ「…………そんなものか」

デブ「お前、いい奴だな」

俺「……正直、色んな事は考えます。でも、今は、自分を卑下せずに真っ直ぐ生きてみたいって思えたんだ」

俺「こういうふうに、街を歩いたことはなかったな」

女の子「はい! あれもこれも、全部俺さんのお陰です!」

俺「……別に、そこまで気負わなくてもいいんだぞ」

槍使い「あ、お前は以前の」

俺「その節は助かったよ。おかげでこの子を助けることができた」

女の子「この方は……?」

俺「あの大柄の白魔導士を勧めてくれた人だ」

女の子「あ、ありがとうございました!」ペコッ

槍使い(か、可愛い……)ドキッ

俺(…………)

女侯爵の部下「……フ、フフ、ようやく見つけたぞ……」

女侯爵の部下「これで私の首も繋がる」

女侯爵の部下「しかし……まさか、【聖剣】持ちの護衛付きとはな」チッ

女侯爵の部下「使える部下を集めて、折を見て囲んでしまうか」

女侯爵の部下「……女侯爵様の領地から外れては、下手に兵やら暗殺やらは使えなくなる」

女侯爵の部下「気取られる前に、【聖剣】持ちを殺し、あの女を女侯爵様に引き渡さねば!」

女の子「…………」

俺「どうした? 浮かない顔をして」

女の子「実は、あの方からその、また二人で食事を取らないかと誘われてしまいまして……」

俺「槍使いの奴か。いいじゃないか、ハンサムだし、根がいい奴なのは保証する。年齢だってお前と近い」

俺「そこらの冒険者みたいに荒くれ者じゃなく、教養がある。文字の読み書きだってできる」

女の子「でも……」

俺「それに、実は遠方の貴族の長男だというじゃないか」

俺「今は家との連絡は断って冒険者として生きているようだが、いずれ元の鞘に戻るかもしれない」

女の子「わ、私は、俺さんが……」

俺「食事くらい一緒に行ってやれ。それとも、槍使いは嫌いか?」

女の子「そうじゃ、ないけれど……」

俺「最近はどうだ?」

槍使い「あ、ああ、実はその、贈り物をしたいんだが……好きなものか何か、わからないだろうか?」

俺「そういえば、装飾品屋をよく羨ましそうに見ているな……」

俺「あいつは緑色が好きなんだ。上手く見繕ってやれ」

槍使い「か、感謝する、お義父さん!」バッ

俺「誰がお義父さんだ誰が!」

槍使い「で、でも、いいんですか? その……」

俺「別に俺が止める理由はないだろう。父親でさえないんだからな」ハア

俺「……ただ、お前があいつを傷つけることがあったら、絶対に許さないからな。手を出すつもりなら、責任はきっちり取ってもらう」ジャキ

槍使い「わ、わかっている!」

俺「欲を言えば、冒険者なんていつ死ぬかわからない仕事はやめて、貴族に戻ってほしいんだがな」

槍使い「…………」

女の子「か、かわいい……ですか?」

俺「ああ、よく似合ってるよ」

女の子「えへへへ……」

俺「槍使いからもらったのか?」

女の子「はい!」

女の子「それから、実は……その……」

俺「…………」

俺「プロポーズでもされたか?」

女の子「っ!!」

俺(あいつもせっかちな奴だな)ニマッ

俺(幸せ……だな)

俺(まさか、俺がこんな気持ちに浸れる時が来るなんて、思ってもみなかった)クスッ

俺「……!」ピクッ

女の子「俺さん?」

俺「……お前、今日は槍使いの奴に泊めてもらえ」

女の子「え? そ、そんな……」カアッ

俺「いいか? これは冗談なんかじゃない、真っ直ぐ表通りまで行って振り返るな」

女の子「お、俺さん……? は、はい!」ダッ

俺「……出て来いよ」

女侯爵の部下「おや、よく気が付きましたねぇ。私達に気付いていて逃げないなんて、大したものですよ」バッ

俺「達……?」

兵A「俺達には気づいてなかったのか」クク

兵B「残念だったなぁ、おっさん。これも仕事だから、恨まないでくれよ」ニヤニヤ

俺(……十人!)

女侯爵の部下「いかに【聖剣】持ちとは言え、精鋭兵十人を相手にはできないでしょう」クク

俺(武器も防具も、整ってる。手入れもされてる)

俺(……冒険者やゴロツキじゃない、貴族の兵だ!)ツー

俺「お前ら、何が狙いだ!」

女侯爵の部下「貴方がいけないんですよ。余計なガキに色欲を出すから、厄介ごとに巻き込まれるのです」ニイ

俺「余計な、ガキ……?」

女侯爵の部下「とっとと殺してしまえ! こいつさえ片付ければ、あの小娘はどうとでもなる!」

兵A「任せてください!」サッ

兵B「油断はしませんよ、確実に仕留めてやります!」シュンッ

 ブンッ

兵A「がぁっ!」

兵B「ぐぼ……お、俺の足! 脚がァ!」

俺「……あいつを殺させるつもりはない。死ぬ覚悟がある奴だけ掛かってこい」ジャキンッ

女侯爵の部下「なんだと…?」

俺「…………」ハァハァ

女侯爵の部下「なんだと……? 精鋭兵十人が、敗れたのか……?」

女侯爵の部下「私は、夢でも見ているのか……?」

俺(さすがに、体力が続かない……血もかなり流した)ゼェゼエ

俺「どうする? お前はやらないのか?」

女侯爵の部下「う、うぐ……や、やってやる! 貴様も既に死にかけじゃないか! やってやるぞおっ!」シャキン

俺「…………」ギロッ

女侯爵の部下「うっ、うわあああああっ!」ダッ

俺(いった、か……)

俺(……随分、きな臭いことになってきたな)

女の子「俺さん、大丈夫ですか?」オロオロ

俺「……ああ、手当してもらったおかげで随分よくなったよ」

俺「今日、明日はこのまま寝させてもらうけどな」

俺「悪いな、ゴロツキがいたから根性直してやろうと思ったら、このザマだよ」ハッ

女の子「……危険なことは、しないでくださいね。俺さんがいなくなったら私、どうすればいいのか……」グスッ

槍使い「…………」

俺「いたのか、お前」

槍使い「少し、俺さんと二人で話したいことがある。席を外してくれ」

女の子「え……? わ、わかりました」ペコッ

槍使い「どういうことだ?」

俺「…………」

槍使い「竜種を一人で仕留めたS級冒険者の貴方が、たかだかゴロツキ相手に苦戦するとは思えないのだが」

俺「……お前、あいつのこと好きか?」

槍使い「え……? あ、ああ、そりゃあもう!」ダンッ

俺「命を懸けて、持ってるもん全部放り出して守れって言われて、頷けるか?」

槍使い「え……?」

俺「……無茶なこと言っちまったな、忘れてくれ」

槍使い「…………で、できる」

俺「!」

槍使い「できるって言ったんだ! やってやるさ! 俺のことを見縊ってくれるな!」グッ

俺「……」

槍使い「……」フーフーッ

俺「そっか、ありがとうな」ニコッ

槍使い「あ、ああ! 礼には及ばんともさ!」

俺「……あいつは、多分だが、貴族か、それに準ずる権力持ちに狙われている」

俺「相手は、街中で兵を嗾けることもいとわない連中だ」

槍使い「な……!」

俺「実家に帰って貴族に戻って、正式にあいつを娶ってやってくれ」バッ

槍使い「お、俺があの子を……」

俺「そうすれば、連中も手出しはしづらくなるはずだ」

俺「……もっとも、もしかしたら以降も何かの嫌がらせを受けるかもしれないがな」

槍使い「…………」

俺「さすがに……呑めないか」

槍使い「わ、わかった! やってみせる!」


―天魔の塔・再奥地―

紅緋竜「ギャオオオオ!」

翡翠竜「ガァアアアアア!」

蒼碧竜「グオオオオオオオ!」

長髪の男「アァ、つまんねぇ、なぁ」

ザンッ、ドサァ!

紅緋竜「ギオッ!?」

長髪「おっ、綺麗に腕が落ちたか」

長髪「デカくて頑丈ってだけで、トロ臭いし、魔物の中じゃマシってだけで頭も悪い」

長髪「人間と違って、信念や意地って奴も持ち合わせてねぇ。もう慣れちまったし、暇潰しにもならないか」

長髪「違うんだよなあ、俺の求めた闘いって奴はよお」ハァ

蒼碧竜「オ、オオ……」ブルッ

長髪「どうした? 竜って奴は、世界最強の種族なんだろ? もっとどっしり構えようぜ、興醒めだ」


―ある酒場―

長髪「……またテメェか、辛気臭い面見せんなよ」

女侯爵の部下「……たまには仕事をしたらどうか、筆頭騎士様」

長髪「つまんねぇんだよ。頼まれたから名前貸してやってるだけ感謝してくれや」

長髪「俺は名声も金もいらねンだわ」

女侯爵の部下「……竜種を屠れるS級冒険者を一人、殺してほしい」

長髪「……」ニマァ

長髪「いいねェ……そういうのを、待ってたんだよ」

槍使い「よし、このままとっとと別領地まで逃げるぞ!」

俺「お前……思い切りがいいな。この短期間でよく、こんな一級品の馬車まで……」

女の子「ど、どうして、こんな……」オドオド

俺(恐らく、彼女にとって貴族関係はトラウマだ。言わない方がいい)

俺(ここで槍使いの親の領有地まで逃げられれば、何も問題はない……!)グッ

御者「あ、あの、後ろから付けて来る野盗団が……!」

槍使い「馬鹿な奴だ。ここには俺さんもいるっていうのに」スッ

俺「……いや、野盗じゃない」

槍使い「えっ」

女侯爵の部下「フ、フフ……借りを返させてもらうぞ俺ェ……」

俺「やはり、奴か……!」

俺(来るなら、領地境で僻地のここしかないと思っていた……)グッ

俺「ちょっと待ってろ……騎乗兵くらい、片付けてやる。俺を降ろせ」

槍使い「そ、それはいくらなんでも……」

俺「ふんっ!」タン

ズサササササササァ!

槍使い「そ、そのまま跳んだ!?」

女の子「俺さん!?」

俺「来い! 全員ぶっ飛ばしてやる!」

俺(前の戦いで、精鋭は削ったはずだ。恐らく、雑兵の類……!)

女侯爵の部下「フ、フフフ……」

俺「……」

騎乗兵A「馬鹿め、踏み殺してや……」

俺「……」シュンッ

騎乗兵A「え、消え……」

馬「ヒイイインッ!」ドサァッ

騎乗兵B「い、一瞬で回避して、馬の脚を斬り飛ばした!?」

騎乗兵C「こ、これがS級冒険者の動き……!」

槍使い「よ、よし! 馬車を止めてくれ! 俺も参戦する!」

御者「は、はい!」

俺「決着をつけてやるよ、小悪党」ギロッ

女侯爵の部下「…………」

騎乗兵B「ぐああああああっ!」ドサッ

俺「さあ、次はどいつだ! 同時か!」

長髪「なんだ……こンなもんかよ」ヒョイ

俺「なんだアイツ、馬を降りて……」

キィイイイン!

俺「ぐ、お、重い……!? 嘘だろ、聖剣のステータス補正があるんだぞ!?」

長髪「ま、期待し過ぎただけで上玉か」

槍使い「はああああっ!」ドスッ

騎乗兵D「こ、こいつ……!」

槍使い「そんなもんかよ……へへ……」ゼェゼェ

女侯爵の部下「そこそこやると思ったら、伯爵家の放蕩息子か」ププッ

槍使い「部下がやられてるのに、随分余裕……」

ドゴォオオオン!

槍使い「な、俺さんが地面に叩きつけられて……!」

長髪「はあ…ただの武器の加護頼みかよ」

長髪「ま、40点、てとこか。人間にしちゃあいい反応と力だが、技量がカスなンだわ」

槍使い「俺さんっ!」

女侯爵の部下「ハハハハハ! 長髪に勝てるわけないだろうが!」

女侯爵の部下「こいつは剣聖の称号を持つ、この国の……いや、世界最強の剣士だぞ!」

長髪「で、そいつもついでに斬ればいいのか?」

槍使い「く、くそっ!」ダッ

長髪「やれやれ……力量の差もわかんねえのか。こんな小僧くらい、そっちで処理しろよな」シュッ

キイイイン!

俺「…………」ゼェゼェ

槍使い「お、俺さん!」

槍使い「生きてたんですね! そいつは、二人掛かりで……!」

俺「馬鹿野郎が! とっとと馬車に戻って逃げろ!」

槍使い「えっ……」

槍使い「そ、そんな……俺さんだって、全然歯が立っていないじゃないか! 一人じゃ……」

俺「お前なんかいても変わるわけねえだろうが自惚れるな!」

槍使い「そ、そんなことはやってみないとわからないだろうが!」

俺「ふざけたこと言ってるんじゃねえ! お前が死んだら、誰がこいつらからあの子を守る! 誰があの子を幸せにする!」

槍使い「え……」

槍使い「お、俺さん、それ……そんな、あの子になんて説明すれば……」ジワッ

女侯爵の部下「おい長髪、早く俺とそこの雑魚を片付けて、馬車を襲え!」

長髪「へいへい……」シュッ

俺「速く行けぇっ!」

俺「あああああああああっ!」シュッシュッシュ

長髪「へえ、まだそんな気力があるのか」ニイ

槍使い「すいません……俺さん、すいません!」ダッ

女侯爵の部下「クッ! くそ、なら私が直々に、あの駄目貴族も馬車も始末してやる!」バッ

俺「ぐっ……!」

長髪「……おめ、無粋なンだわ」ザンッ

女侯爵の部下「えっ……ど、どうして私が、斬られ……?」

俺「なっ……」

俺「な、何のつもりだ!」

長髪「これでよそ見しなくていいだろ?」ククク

長髪「シンプルでいいじゃねェか。お前が俺を殺れれば、馬車は無事だ」

長髪「だが、俺が勝てば、あの馬車の奴は追いついて全員殺してやる」

長髪「もっと本気を出せよ。久々に楽しめそうなンだわ、お前」ニイイイ

俺(こいつ……狂ってやがる)ゾオオ

長髪「どうしたァ!? そんなもんかぁあああ!?」

キィンキィン!
ガッ!

俺「ぐはっ!」

俺(速さも、力の、俺の方が……いや、聖剣の加護の方が勝ってる……)

俺(でも……動きが尽く読まれてるんだ……)

俺(俺みたいな紛い物じゃ、こんな本物の化け物には勝てないのか……?)

長髪「どうしたァ! 終わりじゃねぇだろおおお! オメェが死んだら、全員惨殺してやるぞおおお! どうしたああああ!」

キンキンキンキン!

俺(いや、そんなこと考えてる場合じゃない。勝つしかないんだ!)

俺「頼む……聖剣……俺の全部を投げ出していい……」

俺「だからっ! こいつにだけは勝たせてくれっ!」ザンッ

長髪「……おっと」スッ

長髪「俺が避けることになるとはな。今のはそれなり……」ポタッ

長髪「……ア、血……?」

俺「掠り傷だが……ようやく当たった……」ゼェゼェ

長髪(こいつ、戦いの中で、急成長してやがる……)

俺「勝負はここから……」

長髪「いい、いいねェ……60点をくれてやる」ニィィィ

俺「っ!」ゾクッ

長髪「これでようやく、俺も本気で戦える」

俺「……は?」

長髪「ここからは一切手ェ抜かねぇから、すぐ死ぬんじゃねえぞ」

俺「あああああああああっ!!」

キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!

長髪(この感覚だ……)

長髪(アア、ずっと忘れていた)

長髪(ひ弱な雑魚共への一方的な狩りじゃあねぇ)

長髪(魔物みたいな抜け殻相手じゃねェ)

長髪(信念と意地の伴った相手との、ホンモノの命の奪い合い)ニィィィ

俺「…………」ゼェゼェ

キンキンキンッ!

長髪「わかってんだろ、もう」

長髪「オメェは凄い速さで成長してやがるが……」

長髪「俺に会うのが十年早かったンだわ」ザシュッ

俺「ぐはっ!」

俺(ここで……負けられないんだ……!)

俺(俺の、命に代えても……!)

俺「うおおおおおおおおおおおおっ!」

長髪(自棄の猛進……じゃなくて、勢いで俺を背後の崖に叩き落とすのが狙いか)チラッ

長髪「有利な場所に誘導しようって考えは悪くなかったが……ンな手で俺をヤレると本気で……」ガッ

俺(剣を弾かれたっ!)

長髪「思ってたのかァ!」ザクッ

長髪「これで終わりだな。ま、七十点やっても……」

俺(ここだ!)

俺「うおおおおおおおおッ!」

長髪「……ア?」

ドンッ!

長髪「うぐっ!」

長髪「……自分ごと、崖に……?」

俺「俺と心中してもらうぞ……!」

長髪(大した覚悟なンだわ……まさか、道連れを狙って来るとはな)

長髪(だが……大人しくこのまま落ちてはやらねンだわ)スッ

長髪(剣を崖壁に突き立てて、途中で止まって這い上がってやる!)ガッ

ガリガリガリガリガリ

長髪「久々にゾクゾクさせられたンだわ」

長髪「いいぜ……最高点数、八十点をくれてやる」

長髪「結構下まで落ちちまったな。この高さはちっと骨が折れる……」

俺「うおおおおおおっ!」バッ

長髪「……は?」

長髪(落下しながら、剣を構えてやがる!?)

長髪(正気じゃねえ!)ゾォッ

俺「これで終わりだ化け物野郎!」

長髪「…………」ゾクゾクゾク

長髪「上等だ……返り討ちにしてやンだわ!」

俺「うおおおおおおおおおおっ!」

キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!

長髪「らぁああああああああっ!」

キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
カァンッ!

俺「ぐっ!」

長髪「死にやがれェェェェエエッ!」

 ゴッ!

長髪(ぐっ……崖の凹凸に、足が……!)

俺(……ここしかないっ!)スッ
ドスッ

長髪「オ、メ……」

長髪「百点なンだわ……」ゴフッ

長髪「」

俺「勝った、のか?」ゼェゼェ

俺「ふ、ふふ……」

俺「槍使い、あの子は頼んだぞ……」

ゴシャッ


―三日後―

槍使い「まだ見つからないのか!」

部下「お、お待ちください次期領主様」

部下「崖が険しすぎてまともに調べられませんし、それに、この崖に落ちたとも限りませんし……」

槍使い「血痕からして、ここから落ちたとしか思えないだろうが!」

部下「見つかっても生きているはずはありませんし、急がなくても……」

槍使い「だとしても、一日でも早く遺体を引き上げなければならない! 俺と妻の恩人なのだ!」

部下「……その件についても、考え直してください」

女の子「…………」

部下「この娘……元娼館の嬢で性奴隷で、おまけに某家の隠し子だというじゃありませんか」

部下「スキャンダルのデパートですよ」

槍使い「俺は、あの人からあの子を任されたのだ! そしてこの世界にデパートなぞあるかっ!」

槍使い「つまらんことばかり言っていないで、早く捜せ!」

部下「うう……ようやく戻ってきてくださったと思えば、また無茶なことを……」

部下2「次期領主様、崖下で、人が見つかりました!」

女の子「!」

槍使い「本当か!?」

部下2「はい」

部下2「……それから……信じられないことに、生きています」

女の子「えっ……?」

槍使い「……な、なんだと?」

部下2「は、はい。重傷ではありましたが……」

部下2「横に、不自然な形に折れた聖剣がありまして……」

部下2「恐らくは、身代わりになったのではないかと」

女の子「すっ、すぐに、すぐに会わせてください!」

女の子「私っ、まだ、まともにお礼も……!」

槍使い「お、俺もだ!」バッ

神父「槍使い様よ、あなたは彼女と永遠の愛を誓いますか?」

槍使い「は、はみ、はい! 誓います!」

女の子「……」クスッ

シーン

プププ
イマ,ジキリョウシュサマ,スゴイカミカタシタナ
ククッ

槍使い「わ、笑わなくていいじゃないか!」アセアセ

女の子「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、笑ってはいけないと思うと余計に……!」アセアセ

俺「…………はぁ」

奴隷商人「なんだい? このめでたい日につまらない欠伸なんかして。つまみ出されるよ」

俺「なんでお前いるんだ……?」

俺「よく見たら白魔導士のおっさんもいるし……」

俺(おっさん、号泣してやがる。藪治療でぼったくろうとしてたくせに……)

奴隷商人「恩人として招待されたからね」

奴隷商人「もっともあの子を売り買いしてたのアタシなんだけど」

俺「…………」

奴隷商人「それより、どうしたのさ」

俺「……俺の力は全部、もらいものだったんだよ」

奴隷商人「へえ」

俺「驚かないのか?」

奴隷商人「まあ不相応な力だったし、そんなところだと思ってたさ」

俺「ずばずば言いやがって……」

俺「……とにかく、それが全部なくなっちまったんだよ」

奴隷商人「ふうん、そうかい」

俺「終わりだ終わり、ぜーんぶ終わりだ。助からなきゃよかった」ハァ

俺「せっかく転移してチートもらって気分よく無双してハーレム作れるはずだったのに」

俺「性格と要領の悪いクズが残っただけじゃねぇか」

俺「せめてステータスさえあればいくらでも稼ぎようがあったのに、剣と一緒に壊れやがって」

俺「こんなんでこの超ハードな世界で生き残れるわけないだろうが」

奴隷商人「…………」

俺「……どうでもよさそうだな」

奴隷商人「どうでもいいじゃないか、たまたま拾ったもの失くしただけなんだから」

俺「他人事だと思いやがって」

奴隷商人「……それに、昔のお客さんは知らないけど、今のお客さんがクズだとは思わないけどね」

俺「適当におだてやがって」ハンッ

奴隷商人「随分と拗ねてるね……」

奴隷商人「……お客さんがもしよかったら、アタシの商売を手伝ってみないかい? アタシ、結構持ってるんだよ」

俺「俺なんか役に立たねえよ」

俺「……それに奴隷の売買は俺には無理だ。買おうとしてはっきりわかったわ」

奴隷商人「……もしも、そういう商売から足を洗ったら来てくれるかい?」

俺「なんでそんなグイグイ来るんだ……俺なんか騙しても金にならないぞ」

奴隷商人「鈍い人だね……」ハァ

俺「……まあでも、他に行く場所もないし、もしもそうなったときには雇ってもらおうかな」

奴隷商人「よしっ、じゃあ決まりだね」

俺「即決できる話じゃないだろ!? やっぱり裏があるんじゃ……」

奴隷商人「もう言質は取ったさ。さて、式が終わったらついてきてもらうよ」ニヤッ

完 
 
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この記事のコメント一覧
1 . ジョーカー  ID:bSRG9J6D0編集削除
ジョーカー
2 . 名無しさん  ID:hxQLYVdc0編集削除
最初から全く面白くないのな。
突然すぎるんよ、行動が。
3 . 名無ーし  ID:rb.GMuHT0編集削除
ただ長いだけの文章
4 . 名無しさん  ID:TCYib1v90編集削除
おもんな

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