妹「きゃははっ! マジさ〜、あいつ何様? ってカンジだよね!! まず鏡見ろよ、ってカンジ!」
兄「ただいま」
妹「……。あ、ごめんね〜、うちにいるキモイのが帰ってきてさぁ。……えぇ、いらないよアレ。本当にキモイし」
兄「通るぞ」 かたっ
妹「うわっ、触られたっ! キモイキモイッ、腐っちゃう!!」
兄「お前が少しも避けないからじゃないか」
妹「はぁ? 何言い訳してんの? ……あ、ごっめ〜ん、それでそれで、何話してたっけ? あ、そうそう、だよね〜!」
兄「……」
TV『私ぃ、昔から骨董品が大好きで〜、この番組もよく観てたんですよ〜』
兄「つまんね」 ぷちっ
妹『……きゃはははっ』
兄「うるせぇ。……隣の部屋にいるのに、俺は面と向かって文句も言えないのかよ」
兄「昔も仲は悪かった。でも、こんなに酷くはなかった」
兄「俺が何をした? あんな言われ方しなきゃならない事、何かしたかよ? してないだろ」
兄「俺は……、俺は……ぁ……」 くかー
……ぶぃーん
ざぁざぁざぁざぁ
ざぁざぁざぁざぁ
……ぱっ
TV『というわけなんだよジェニファー! ――まぁ、とってもお徳ね! ――もう一つ付けても、お値段変わらず――円!!』
兄「……ん、あれ。テレビが付いて、る?」
TV『さぁ次の商品はこれだ! 全国1億の兄達が熱望した、この商品! 妹コントローラーだ!』
兄「変な名前」
TV『全然変な名前じゃないぜ!』
兄「……え」
TV『いいかい、この妹コントローラー、使い方はごくごく簡単さ! 使いたい妹に、このコントローラーを向けるんだ! 掌に収まるサイズだから大丈夫、バレないさ!』
兄(ああ。これは夢か。なるほど)
TV『すると画面に相手の状態が表示される。好感度、感情。この二つだ! 操作も簡単、スイッチを押すだけで相手の心も自由自在、素人にも扱える便利な代物だ!』
兄「本当だったら、いいのにな」
TV『物は試し、後は君次第さ』
兄「そう、だな。……それじゃ、ひとつ……たのむ、よ……」 くぅー TV『……お買い上げ、ありがとうございます』
じりりりりりりりりりっ かちゃ
兄「朝か。今日もまた、退屈な一日が始まるのか」 かたっ
兄「え? これは、夢で見た『妹コントローラー』? 夢だけど、夢じゃなかった!?」
ドンッ!
兄「……壁ドンかよ。話すのも嫌だ、ってか。なら俺も迷わねぇよ」
兄「おはよう、妹」
妹「……チッ」
兄「舌打ちしてんじゃねぇよ、バーカ」
妹「は? 今何か言った?」
兄「バカ。お前以上のバカは探してもなかなかいないよ、バカ」
妹「ふざけてんの? あんたみたいなバカでキモくて汚いイキモノにバカとか言われたくないんだけど? 今すぐ謝れよ。土下座して。早く」
兄「いやだね」
妹「くぁwせdrftgyふじおp@「」!!」
兄(状態は……「−35」「怒・大」か)
妹「人と話してるのにどこ見てんだよ、汚物!」 がんっ
兄「うげ……っ!」
妹「あーキモイ。ホントキモイ。あんたみたいなキモイのに構って時間無駄にしちゃったじゃん。死ねよ」
兄(……『平・中』で固定) カチカチッ チカチカッ ヴゥーン
妹「あームカつく! ホント、……ムカつ、く? あれ。私なんで怒ってたんだっけ」
兄「さぁな。バカだからじゃないか」
妹「バカはあんたでしょ。私はあんたの相手してる暇なんかないんだから」 すたすた
兄「短気な妹が悪口を無視する、か。あれだけ怒ってたのに平常心に戻ったし、これは本物なのかな」
兄「……はっ、ははっ、ははははっ!! すげぇ、すげぇよこれ! ……でも、待てよ。これは危なくないのか?」
??「いえいえ、特に危険はございませんよ」
兄「誰だっ!?」
幼女「どうも初めまして。この度は当社の商品をお買い上げいただき、誠にありがとうございます」
兄「は? いや、何家に勝手に入ってきてるんだ。つか、いつからそこにいた? 商品って……いや、そうか。これはお前がくれたのか?」
幼女「はぁ、ご理解が早くて助かります。最近の人間は柔軟性に欠ける頭の硬い者が多くて、あなたのような人間は意外と少ないのですよ」
兄「少し整理させろ」
幼女「どうぞ」
兄「これは、何だ?」
幼女「番組で紹介した通り、妹コントローラーですね。通販を観て注文しましたでしょう?」
兄「観たけど、あれは夢の中で」
幼女「一応は現実でございますよ。最近はなかなか魔術書を使うほど冒険心のある人間もいませんから、こちらも営業が必要でして」
兄「魔術書?」
幼女「エロイムエッサイム、というやつですね。知りませんか?」
兄「どっかで聞いた気がするけど」
幼女「我は求め、訴えたり。つまりは悪魔召喚ですね」
兄「悪魔召喚っ!?」
幼女「ええ」
兄「悪魔なんているわけ……って、こんなコントローラーもあるはずないのか」
幼女「理解が早くて本当に助かります。それに、私もこう見えて悪魔ですので、よろしくお願い致します」
兄「いや、悪魔によろしくされても……」
幼女「既に契約済みなわけですし、仲良くしましょうよ」
兄「は? 契約?」
幼女「ええ。昨日の夜にしましたでしょう?」
兄「そんなの知らな、……くはないけど、悪魔と契約なんて俺は嫌だ!」
幼女「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか」
兄「ふざけるな! 悪魔と契約なんて、魂が奪われたり、結局は自業自得なオチが待ってるに決まってるだろ!」
幼女「最近の人間は疑り深いですね。たしかに昔は、魂を対価に契約をしたり、信心深い神の奴隷を騙したりしましたが、今は時代が違いますから」
兄「……時代が違う?」
幼女「ええ。最近の人間は神も信じず、魂も軽く、価値がないのです。ですから、代わりに煩悩を提供してもらうのです」
兄「煩悩?」
幼女「ええ、人間の煩悩は尽きませんから。魂よりも価値は下がりますが、お互いに損もありませんので。私の姿も、人間界で流行りの煩悩に合わせているのですよ」
兄「俺にロリコン趣味はない。……それで、俺はどうすればいいんだ?」
幼女「特に何もありません。ご自由にどうぞ。貴方の好きなように楽しめばよいかと。一週間以内ならクーリングオフも受け付けますよ。……まぁ、今まで返品した方はいませんが」
兄「へぇ。美味い話だな。裏がありそうだ」
幼女「いえいえ。ただの悪魔の善意でございますよ。……では、一通りの説明も終わりましたので、失礼します。何かありましたら、いつでも申し付けください」 すぅ
兄「消えた」
兄「悪魔、か。嘘みたいな話だが、信じるしかないか。……一週間以内なら、返品できるんだし、せいぜい楽しむさ」
一日目
兄「もう妹は学校に行ったか。……そこらで時間を潰してから、迎えに行くか。その後は色々と……くくくっ」
ぶらぶら ぶらぶら
女「もう、男くんってばぁ!」 いちゃいちゃ
男「女こそなんだよー!」 いちゃいちゃ
兄(リア充死ね。……そうだ、リモコンで別れさせちまえば)
兄「あれ、画面が表示されない?」
幼女「それはそうです。お相手が妹ではありませんから」
兄「うわっ! 急に現れるなよっ!」
幼女「わが社のアフターサービスは業界一なのです。24時間365日、創世記から終末戦争まで、いつでもどこでもがモットーですから」
兄「そんなに嬉しそうに言われても。……それにしても、本当に妹にしか使えないんだな」
幼女「そういう機械ですから。あまり汎用性がありますと、それはそれで皆さん、現実的な欲求に走りがちでして」
兄「そんなものか」
幼女「そんなものです。例えば、あそこで私をじろじろ見てる人間がいますでしょう?
兄「ああ、いるな」
幼女「あれはロリコンです。どす黒く、純粋で、ドロドロとした良い煩悩を持っています」
兄「……悪魔の『良い』の基準は難しいな」
幼女「文化の差でしょう。……あれに向けて、たとえば私が、このスカートを」 ぺろり
炉人(よよよよ幼女のパンツっ! いやガン見してはバレかねん。じっくりと、横目で、舐めるように……) じぃーっ
兄「すごい見てるぞ」
幼女「そうでしょうね。しかし、あの類の人間に『万能コントローラー』を与えると、満足してしまうのです」
兄「満足?」
幼女「鈍化してしまうのです。何もかもが叶う状況に、欲望が清く濁ってしまうのです」
兄「ふぅん。わかったような、わからないような」
幼女「単なる無駄話ですから、気にしなくてもよろしいかと。そろそろ時間ではないですか?」
兄「ん、本当だ」
幼女「それでは、また会いましょう」 すぅ
兄「ああ。……悪魔も暇なのかな。無駄話に付き合うなんて」
兄「さて、と。校門で待ってれば、その内に……と、ちょうど来たか」
妹「でさぁ、その店員が私にぃ〜」
兄「よう、妹」
妹友「え。誰この人? 妹の知り合い?」
妹「こんな奴知らないし。……あんた誰? マジキモイんだけど」
兄「俺だよ、俺。お前の兄貴。もう忘れたのか、今朝もあったばかりだろ?」
妹「しつこい。先生呼ぶよ。不審者がいるって」
妹友「え? え? どういうこと?」
妹「頭おかしんだよ、こいつ。いいから早く行こう」 ぎろっ
兄「ふぅん」
兄(『−57』『殺・小』。怒りを通り越して、殺意に変わるほどか。さて、ここで感情を『悲・中』にすると)
妹友「でも、この人妹を知ってるみたっ、てえぇ?」
妹「……ぅ、ぇぐっ、うぅぅぅぅっ!」
妹友「なな、なに、どうしたの妹!? 大丈夫、ちょ、ねぇ!?」
兄「どうしたんだ、妹。急に泣き出して。何か悲しい事でもあったのか?」
妹「はっ、はなじかげっ……うぅ、るなっ、このふじんじゃっ!」 ぽろぽろ
妹友「ほ、本当にどうしたの、妹? ……あなた、妹に何したんですかっ!!」
兄「別に」
妹「うぅ、どうじでっ、なんでごんなに、がなじぃの……っ!」
兄「あれじゃないかな。今朝、自分の兄貴を怒りに任せて蹴り飛ばしたからじゃないか?」
妹友「え? え?」
妹「うるざいっ! あんだなんが、げられで、とうぜんじゃないっ!」
兄「今になって心が痛んだんだろ。それとも、他に心当たりがあるのか?」
妹「ないっ、ないげどっ! でもっ!」
兄「なら、やっぱりそうなんじゃないか? 人を蹴り飛ばして心が痛まないはずないだろ?」
兄(好感度修正、『−57』から『−30』に)
兄「な? そうだろう?」
妹「うっ、うぅ……っ! そう、かもじれなぃ、けどっ」
兄「そうなんだよ。……心が痛いんだろ、妹」
妹「うぅ」 ぽろぽろ
兄「なら、何をするべきかわかるだろう?」
妹「ぢがっ、ぢがぅ!」
ざわざわ ざわざわ
兄(人が集まってきな。……仕方ない。『悲・大』に変更) カチカチッ チカチカッ ヴゥーン
兄「……別にいいんだよ、俺は。でも、悲しいのは苦しいだろ? お前の心が軽くなるなら、と思ったんだが、まあいいさ。じゃあな」
妹「……なさ、い」
兄「何か言ったか?」
妹「ごめん、なさいっ。……けって、ごめんなざい、ゆるじでくださぃ」 ぽろぽろっ
兄「ああっ、いいんだよ。俺の方こそ、あんなこと言って悪かった」 だきっ
兄(感情、『悲・大』から『喜・中』へ)
妹「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」 ぎゅっ
兄「いいんだ。いいんだよ」 なでなで
妹友「えと、私、置いてけぼりなんだけど……感動の仲直り、みたいな?」
野次馬(……よくわからないけど、なんか感動っぽいし、拍手の流れ?)
ぱちぱちぱちぱち!! ぱちぱちぱちぱち!!
兄「ああ最高に笑えたっ! 茶番だよ茶番っ! あの妹の顔を思い出すと、くくっ、あははははははっ!!」
幼女「ずいぶん楽しそうですね」
兄「ああ、お前か。最高だよ、最高! あいつが僕に謝ったんだっ!! それも人前で、泣きながら、僕に抱きしめられて!!」
幼女「本当に楽しそうですね。今までのユーザーにも、あなたほど喜んだ人はいないんじゃないでしょうかね」
兄「そいつらがバカなのさ。こんなに嬉しい日はないさ。あは、はははははははっ!!」
幼女「ええ。それは良かったですね。しかし、あまりイモコンを酷使なさらない方がいいかと。一応、機械ですから、壊れますよ」
兄「イモコン? ああ、これか。壊れるのか、これ」
幼女「一応、職人が丹精込めて作っていますから簡単には壊れませんが、電池の消費が激しいのです」
兄「ふぅん、気を付けるよ。……って、あれ」
幼女「どうかいたしましたか?」
兄「いつの間にか数値が変わってる」
幼女「それはそれは、押し間違いですか?」
兄「いや。そんなはずはないんだけど」
幼女「どう変わっていますか?」
兄「『−30』から『+1』になってる。おかしいな」
幼女「ああ。プラス修正ならば、さきほどの件でしょう」
兄「ん? どういうことだ?」
幼女「感情の修正をかけましたでしょう? あれにより好感度にも影響があらわれたのでしょう」
兄「そんな事もあるのか」
幼女「飴と鞭、というやつですね。『深い悲しみ』から『大きな喜び』へ。急な落差に心が変わったのでしょう」
兄「それは……気を付けて使わないと、まずいな」
幼女「いえいえ。あくまで人間の正常な心の働きですから、面倒ならリモコンで戻してしまえばいいのです」
兄「ふむふむ。面白いな。ああ、実に面白い」
幼女「それにです、ね。さきほどの様子からわかりますでしょうが、人は自分の心に起きた変化に理由を求めます」
兄「ああ。そんな感じだったな、あれは」
幼女「はい。悲しければ悲しい理由を、嬉しければ嬉しい理由を、勝手に見つけるのです」
兄「『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』とか、そんな感じか」
幼女「ええ。面白いものです、人間というものは」
兄「そうかもな。……それじゃ、今日はとっとと寝るとするか。イモコンも休ませたいしな」
幼女「それでは、私もそろそろ失礼しましょうか」
兄「ああ。じゃあな。……寝るのがワクワクする。あの通販のおかげだな」
幼女「それは幸いです。おやすみなさいませ」 すぅ
二日目
兄「おはよう、妹」
妹「……おはよ」
兄(おはよ、おはよ、おはよ……嘘みたいだな。くくっ)
妹「何にやにやしてんの?」
兄「ん、いや。こうやって普通に挨拶できるのが嬉しくてな。ほら、久しぶりだからさ」
妹「……少し反省した。それだけ。じゃ、私学校行くから」
兄「おう、じゃあな」
兄「……なんかなぁ」
幼女「どうかいたしましたか?」
兄「うわっ、またかよ! 急に出てくるなっ!」
幼女「それは失礼しました。それで、どうかいたしましたか?」
兄「んー。なんつーか、違う気がして」
幼女「違う、とは?」
兄「いや、あいつが普通に話すのも、イモコンの力だろ? 別に俺が何かしたわけじゃないしさ」
幼女「……それは、クーリングオフをする、ということですか?」
兄「いや違う違うっ! でも、物足りないというか」
幼女「……なるほど。では、今度は自分以外の好感度も弄ってみてはどうですか?」
兄「え? そんな事できるのか?」
幼女「操作性を優先してボタン操作にしていますが、持ち主の思考を読み取り、対象を変える事が可能です」
兄「思考で動かした方が簡単じゃないか?」
幼女「……好感度や感情の指定を思考で操作する事が下手な人間がいまして、支離滅裂な指令にコントロール対象が発狂してしまったのです」
兄「うげっ」
幼女「こちらとしても正常に契約が終了した方が都合が良いので、人間に合わせた規格にしたのです」
兄「でも、俺は思考で操作した方が楽だと思うよ」
幼女「その内に考えておきます」
兄「頼むよ。……それよりも、新機能を使ってみたいが、どう使うべきか迷うな」
幼女「ええ。そこはお任せいたします。私はあくまで、サポートですから」
兄「うん。わかってる。……ま、色々やってみるかな」
幼女「頑張ってください。それでは、失礼します」 すぅ
妹「……ただいま」
兄「おかえり、妹」
妹「……なんか恥ずかしいね、これ」
兄「あははっ、そうだな。でも、こんなもんだろ、普通の兄妹は」
妹「そっか。そうかもね」
兄「……ところで、妹。今日は妹のためにDVDを借りてきたんだ」
妹「え? なになにっ、○ョニー・デップとか出てる?」
兄「出てないな」
妹「えー……イケメン俳優出てる?」
兄「それも出てない」
妹「それじゃ何なの? 全然わからないんだけど」
兄「正解は、これだ!」
妹「……なに、これ」
兄「見ての通りだけど?」
妹「気持ち悪いオタクが観るような、気持ち悪い絵の女の子が描かれてるけど」
兄「魔法少女」
妹「……なにそれ」
兄「3シリーズ全20巻」
妹「……」
兄(好感度がもの凄い勢いで下がっていく。……『−20』『蔑・中』)
妹「私、部屋に行くから。二度と話しかけないでね」
兄(さて、と。対象は『魔法少女』、『−50』から『+50』へ)
妹「……っ! …………ねぇ」
兄「……」
妹「ねぇ!!」
兄「なんだよ、『話しかけるな』っていうから黙ってたのに」
妹「そのDVDって、どうするの?」
兄「返してくるよ。お前も気に入らなかったみたいだし、もったいないけど仕方ないさ」
妹「……観てもいいよ、それ」
兄「いや、無理しなくていいって。気持ち悪いんだろ。しょうがないって、人それぞれ好き嫌いはあるし」
妹「私に観て欲しくないの!」
兄「でも、嫌なんだろ」
妹「いいから渡しなよ!!」
兄「そんなに言うならいいけど、お前の部屋じゃDVD再生できないだろ」
妹「あ、でも……あぁ」 がっくり
兄「俺の部屋で良かったら、一緒に観るか?」
妹「え……うっ、うん!」 にぱー
兄「それじゃ準備してくるから、何か飲み物でも取って来いよ」
妹「わかった! 急いで取ってくるから、すぐに観れるようにしといてよね!」 トテトテっ
兄「はいはい。……見たかよ、あの顔。隠し切れないくらい嬉しそうにしてさ」
幼女「気付かれていましたか。……そうですね、人間とは本当に不可解で、面白いものですね」
兄「ははっ、そうかもな。それじゃ、俺は準備をしなくちゃいけないから」
幼女「ええ。それじゃ、私はお邪魔でしょうし、失礼します」 すぅ
兄「まったく。本当に面白いよ、あいつは」
妹「……」 ドキドキ ワクワク
兄「ふわぁ」
妹「うわっ、すごい! 変身した! 女の子が変身した!」
兄「変身って、それだと別のアニメっぽいぞ」
妹「でも、うわっ、すごい!! 杖が喋ったよ!!」
兄「喋るだろうなぁ」
妹「フェ○トちゃんかわいい!」
兄「……」 ぐぅぐぅ
妹「なの○ハァハァ」
兄「……んぅー」 ぐぅぐぅ
妹「『スターライト○レイカー!!』」
兄「うわっ! な、なんだっ!?」
妹「私も魔砲少女になりたいっ! それでなの○ちゃんとフェイ○ちゃんと一緒に時○管理局で働くのっ!!」
兄「ああうん、頑張れば叶うんじゃないかな」
妹「でしょっ!? あ、でもまだ三期観てる途中だから静かにしててね。うるさくしたら撃墜するからね」
兄「え、うん」
兄「……あ、はい。そうです。すいません。急に風邪を引いたみたいで。……えぇ、申し訳ありません」
妹「……感動した」
兄「それは良かったな」
妹「ヴィヴィ○ちゃん娘にして、キャ○ちゃん妹にして、エリ○くん弟にして、毎日なの○さんと一緒に寝たい……」
兄(……これはやりすぎたかもしれない。……『+80』、また増えてるし)
妹「ねぇ、続きはないの? もっとみんなに会いたいのっ!」
兄「ああ、漫画版とか映画版とかあるが、とりあえず少し落ち着こうな。冷静になれ」
兄(対象、『魔法少女』。『+82』、って増えてるし。『+10』に下げて、っと)
妹「ねね、一緒にやろうよ。『スターライ○ブレイカー!!』って……え、っと」 かぁっ
兄「どうしたんだ、急に赤くなって」
妹「あっ、ちょっ、今のなし! 全部なし! 忘れて、ってか忘れろっ!!」
兄「そんなに必死にならなくても」
妹「違っ、あれは私じゃなくて、何か別の私がっ!」
兄「厨二病じゃないんだから。あ、あれか? 観終わった途端に、熱が冷めたとか?」
妹「違う、違うの。あれは私じゃない、あれは私じゃない……」
兄「観てる時は面白かったんだろ。なら、別にいいんじゃないか?」
妹「だから、あれは違うの!」
兄「怒るなよ。……意外と面白かっただろ。食わず嫌いで『気持ち悪い』とか言うもんじゃないぞ」
妹「……それは認める」
兄「だろ?」
妹「あーもう、何なのっ! その『俺は寛大です!』みたいな態度っ! 腹立つ、なんか腹立つっ!」
兄(表示では『+20』『照・中』だけどな。しかし予定外に好かれたな。どうしたもんか)
妹「……まぁ、また今度誘ってよ。徹夜で疲れたから、今日はもう寝るけど」
兄「ああ。おやすみ」
妹「……おやすみ」 がちゃ……ばたん
兄「『また今度誘ってよ』、だってさ。あれがツンデレってやつか? 笑えるね」
幼女「一応は好意なのですから、素直に受け取ってはどうですか?」
兄「イモコンの力だけどな」
幼女「……ずいぶん拘りますね、そこに。力は力、好きに使えばいいじゃないですか」
兄「使うさ。でもな、もしイモコンが壊れたり盗まれたりした時、俺はどうなる?」
幼女「さて。どうなるでしょうか?」
兄「どうにもならなくなるんだよ。もう妹を操る事もできない。つまりイモコンは俺の力じゃない、貸し与えられた力なんだよ」
幼女「それは否定できませんね。……あなたは不安なのですか?」
兄「そうかもしれないな。まるで元々自分が持ってた力みたいに感じる。なのに、これは俺の力じゃないんだ」
幼女「人間というのは複雑ですね」
兄「ああ。悪魔にはわからないだろうな。悪魔に怖いものなんてないだろうからな」
幼女「いえ、ありますよ。少なくとも、私には」
兄「意外だな。魔王か、神様か?」
幼女「そんな者達は遊び相手に過ぎません。私が怖いのは退屈です」
兄「退屈? そんなものが怖いのか?」
幼女「我々は永遠の時間を生きています。神や天使は幸福と人間愛に、多くの悪魔は悪意と怠惰に酔い痴れています」
兄「微妙に気持ち悪いな、それ」
幼女「私もそう思います。人間愛も幸福も犬の餌同然、悪意も怠惰も永遠には敵わない」
兄「それで、お前はどうしたんだ?」
幼女「……だから、こうして遊んでいるのですよ。遥か昔から今に至るまで、ずっとずっと」
兄「ぷはははっ!! それはいいな!! 少なくとも、他の天使や悪魔よりはマシだ!!」
幼女「そうでしょうね」
兄「いいね。お前が神様になったら、世界も面白くなるんだろうな」
幼女「神の真似はもう十分ですよ。箱庭の世界を作ってみた事もありますが、面白くもありません」
兄「そんなもんかね。まぁ、いいや。俺も寝不足なんだ。そろそろ寝かせてもらうよ」
幼女「ええ。それでは、良い悪夢を」
兄「ああ。おやすみ」
幼女「おやすみなさいませ」 すぅ
三日目終了
四日目
妹「頭痛い……寝すぎた」
兄「……」 ずきずきっ
妹「そっちも痛そうだね」
兄「まあな」
妹「はぁ……友達からめっちゃメール着てるし、二日連続は休めないし」
兄(休む、か……ああ、今日はどうするかな。全然考えてなかった)
妹「うぅー……がんばれ、私!」
兄(どうしよう)
幼女「どうしましょうね」
兄「えっ? お、おいっ、出てくるなよ!」
妹「大きい声出さないでよ、なに?」
兄「あれ」
幼女「人間の目を誤魔化すくらい簡単な話です」
兄「意外とすごいんだな、お前は。俺も超能力があれば、この頭痛を消したいよ」 ずきずきっ
妹「……ああもう、面倒臭い。もうどうしっ」 ぴたり
幼女「邪魔なので止めます。今日はどうしますか?」
兄「何か悪いな。色々と。……そうだな、今日は好感度を直接弄るか」
幼女「……そうですか」
兄「何だよ? 何かまずいのかよ?」
幼女「……いいえ。頑張ってください」 すぅ
兄「無駄に意味深だな」
妹「……っよう! 学校行きたくないー!」
兄「行かなきゃいいだろ。なんなら、これから一緒に出かけようぜ」
妹「そうも行かないでしょ! 学校のみんなも待ってるし、授業だって出とかないとうるさいし」
兄「そうか。残念だな。妹と一緒に出かけたかったんだけど」
兄(『+22』『慌・小』。ふぅん。それなら、『+45』『安・大』にして)
妹「もうしつこいっ! 自分が暇だからって、人まで巻き込ま……あっ! ごっ、ごめんなさいっ! こんな事言うつもりじゃなくて」
兄「いや、いいよ。俺も実際しつこかったし、妹の都合も考えてなかったから」
妹「違うよ。お兄ちゃんは私が辛そうだから、優しくしてくれたんでしょ? お兄ちゃん辛いのに、私、自分のことばっかり考えてて。ごめんなさい」 ぺこり
兄「お兄ちゃん?」
妹「え、変かな? 普通に出ちゃったんだけど」
兄「別に、いいが……急に言われてから驚いてな」
妹「ま、いいじゃん。私がお兄ちゃんって呼びたい気分だったんだからっ!」
兄「ふぅん」
妹「そんなことより! ね、一緒に出かけるようよ。私も言い過ぎたから、そのお詫びにね?」
兄「いや、お詫びって、何言ってるかよくわからないんだが」
妹「いいからっ! 私、今から準備してくるから待っててねっ!」 トタトタっ
兄「……おい」
幼女「何でしょうか?」
兄「一緒に付いて来い」
幼女「お望みとあれば、そうしましょう。しかし、どうしてですか?」
兄「知るか。いいから付いて来い」
妹「ごめんね。遅くなって」
兄「ああ。別にいいよ。ほんの一時間だからな。ほんの。気にしてないさ。まったくな」
妹「お兄ちゃん、優しい……」 ぽーっ
兄「チッ……行くぞ」
幼女「はい」
妹「あ、待ってよ。ねぇねぇ、どう? 頑張ってお兄ちゃんのために洋服選んだんだけど、ねーえ、お兄ちゃーん!」
幼女「ここですか」
兄「ああ。到着だ」
妹「遊園地だーっ! うわぁ、こんな所に来るのって子供の頃ぶりだーっ!」
兄(うるさいな。……『嬉・中』から『悲・小』へ) カチカチッ チカチカッ ヴゥーン
妹「もう、なんで今まで来なかったんだろ、うぅ……でも、今日はお兄ちゃんと一緒だもんねっ!」
兄(……元に戻ってる。どうすりゃいいんだよ、これ。本当に面倒臭ぇ)
兄「それじゃ、どれに乗るんだ? できれば速いのとか高いのは断りた」妹「ジェットコースター!!」
兄「だから」妹「ジェットコースター!! 一緒に乗ろうよっ!! 二人で、隣の席に座ってぇ、手を繋ぐのっ!」
幼女「大変そうですね」
兄「……」
妹「ね、早く乗ろうよーっ! ほーらー!」 ぐいぐいっ
兄(嫌われても好かれても面倒臭ぇ)
兄「おぇ……」
妹「大丈夫? 具合悪いの?」
兄「お前が何回も乗るからだろ……」
妹「えーっ、だって楽しいんだもんっ! ねね、もう一回乗ろうよっ! ほらほらぁ!」
兄「……くそっ」
幼女「こんな時にこそ、イモコンを使うべきではないですか?」
兄「つまらない使い方はしたくないんだよ。わかるだろ?」
幼女「それならば、面白おかしく使えばよろしいかと。物は考えよう、といいますし」
兄「……なるほど」
妹「ぶつぶつ言ってないで、早く乗るのーっ!!」
かちゃん うぃーん ……かたん、かたん
妹「わわっ、すごい高〜いっ! 全部が小さく見えるね。……世界が、お兄ちゃんと私だけみたい」 うっとり
兄(対象、『高さ』『−50』に、『速さ』『−50』に、『ジェットコースター』『−50』に。そして、感情『怖・中』に)
妹「わぁ。もうすぐテッペンに付いて、それがぐわーって…………あ、う……お、……お兄、ちゃんっ」
兄「どうしたんだ。手が震えて、顔が青ざめてるぞ? 具合でも悪いのか?」
妹「これ……どうして、私っ! お、おりたい……今すぐ、おりたいのっ!」
兄「そう言ってもな、もう動き始めてるわけだし、それに」
妹「な……なに?」
兄「もうすぐ落ちる」
がたん、がたん…………ごぉぉぉぉぉっ!!
妹「ひっ、いやぁああ―――っ!!?」
兄「おい、妹。着いたぞ? ……妹?」
妹「……先に行ってて」 ぷるぷる
兄「そうも行かないだろ。ほら、早く立ち上がって」 ぐいっ
妹「いやっ! 触らないでよっ!!」
兄「っ!?」
兄(拒絶された? 好感度は『+53』。むしろ増えてるぞ……感情が『恥・極大』?)
妹「いいから、どっか行ってよっ!!」
ぽたり。ぽたり。 ……ぽたり。ぽたり。
兄「……妹。その、座席のシートから垂れてる、少し黄色い透明な液体は」
幼女「おもらし、というやつですね。人間の生理現象の一つで、子供に多く見られる、尿意を我慢できずに放尿してしまう現象ですね」
妹「いやっ、見ないで……見ないでよぉ! うぅっ……おねがいっ!」
係員「どうかしましたか?」
妹「いやっ、いやっ、いやっ……」
兄(……『恥・極大』から『悦・大』へ)
係員「あの……?」
兄「ああ、すいません。こいつがシートに小便をぶちまけて」
妹「……っ、……あはっ。いっぱい、いっぱい出ちゃったのぉ……んぁ、ふぅっ!」
係員「これは……」
妹「ねぇ、見てぇ! もっと、子供みたいにおしっこ漏らした私のっ、汚い姿見てよぉ!」 くちゅくちゅっ くちゅくちゅっ
係員「……もし意図的な行為でしたら、汚れたシートの弁償をお願いする事になりますが」
兄「いやいや、こいつ少しおかしいんですよ。俺も何度も止めたんですけど、こんな事になっちゃって」
妹「いいのぉ! すごく気持ちいいのぉ! あ、あぁぁんっ!!」 びくんびくん
係員「……わかりましたから、早くお連れの方をよそへ連れて行ってください」
兄「本当に申し訳ありません。ほら、行くぞ」
妹「……やぁ! もっと、もっとみんなに見てもらうのぉ!」
妹「あはっ、ねぇ見てよ、ねぇっ!」
兄(鬱陶しいな……『平・大』) カチカチッ チカチカッ ヴゥーン
妹「…………スカートと下着が濡れて気持ち悪い」
兄「着替えでも買ってくるか?」
妹「そうだね。……その前に、お兄ちゃん。聞きたい事があるの」
兄「なんだ?」
妹「……最近、手に何か持ってるよね。何なの、それ」
兄「は? 別に何も持ってないだろ、ほら」
妹「ポケット。少し膨らんでる」
兄(……『大』はやりすぎだったか)
妹「私はお兄ちゃんが好きだよ。大好き。でも、おかしいと思うの。何日か前まで、あんなに嫌いだったのに、こんなに好きになるなんて」
兄「人間関係なんて、少しのきっかけで変わるものだろ」
妹「そうだね。でもね、おかしいの。時々、私の心が他の誰かに操られてるみたいに、変になるの。絶対におかしい」
兄「……情緒不安定なんだろ」
妹「それじゃ説明が付かないよ。さっきの私は絶対におかしかった。急に怖くなって、気持ち良くなって……今もそう。変に落ち着いている。ねぇ、これは何なの?」
兄「お前は疑心暗鬼になってるんだよ。人が人の心をどうこうなんて、できるもんじゃないだろ」
妹「そう思うよ。でも、信じたいから疑うの。これが私の妄想だと思いたいから、お兄ちゃんを疑うの」
兄(……強引に使っちまうか。そうすりゃ、後でなんとでも誤魔化しは利くはずだ)
妹「動かないで。何が入ってるか知らないけど、それに触ったら殴ってでも止めるよ」
兄「……」
兄(こんな事で、ダメになるのか? これが何かはわからないだろうが、絶対に返してはくれないだろうし、破壊するかもしれない)
妹「そのまま、動かないでね」
幼女「絶対絶命のピンチですね」
兄「……ああ」
妹「そのままだよ」 じりじりっ
幼女「お助けしましょうか? 対価は、そうですね。あなたの魂がいいですね」
兄「ふざけるなっ!」
妹「……ポケットを調べるだけでしょ。何もないなら、いいはずだよ」
幼女「これは私の善意で言ってるのですよ? 全てはあなた自身が招いた状況です。注意を怠った結果です」
兄「俺が悪いって言うのかよ」
妹「違う。でも、私の中の疑いは晴らしたいの」
幼女「そうです。愚劣な慢心を抱き、相手を侮ったのが間違いです。……一筋縄でいかないからこそ、遊びは面白いのですから」
兄「……わかった、頼む。それで気が済むなら、そうしてくれ」
妹「うん。すぐに済むから、待っててね」
幼女「対価の取り立ては死後になされますが、本当によろしいのですか? 失うのは魂、手にするのは玩具ですよ?」
兄「いい。構わない。……退屈よりはマシだ」
妹「? 何言ってるのか知らないけど、ほら、このポケットに……」
幼女「契約成立です。どうぞ、ご自由にお使いください。使い方はわかるはずです」 パァァァァァァ キュィィィン!!
兄(……っ、よし、把握した) キュィィィン!!
妹「……え、これって」
兄「……悪いかよ、妹の写真を持ち歩いてちゃ」
妹「あ。……えと、その、最近ずっと持ってたのは」
兄「……お前と仲良くなりたくてな。定期に写真を入れて、持ち歩いてた」
妹「嘘。本当に? ……ごめんなさい、私」
兄「いいよ。別に。すぐに説明しなかった俺も悪いし。……それ、返してもらえるか?」
妹「う、うん」 すっ
兄「ありがとう。……それよりも、それ、早く着替えた方がいいぞ」
妹「あ、うん。その、色々ごめんなさい」
兄「いいよ。俺は兄貴だからな。少しくらい何かあったって、俺はお前の味方だよ」 にこっ
妹「……っ! ありがと、お兄ちゃん!!」 だきっ
兄(俺のズボンに小便が付くだろうが)
幼女「さて、今日は色々な事がありましたね」
兄「……そうだな。俺の魂は、もうお前の物なんだよな」
幼女「ええ。死後は私の奴隷として永遠を暮らすのです」
兄「気が滅入る話だが、それでもいいさ」
幼女「ふふっ、あなたもずいぶん悪魔的になってきましたね」
兄「……そうか?」
幼女「ええ。肉体も既に人間からは逸脱していますし」
兄「おい、それは聞いてないぞ?」
幼女「生身の人間のまま、精神操作が行使できるはずがないでしょう。それとも、あのまま助けない方がよろしかったですか?」
兄「そんな事はないけど。……それで、俺はどうなったんだ?」
幼女「脳を直接改造しました。まずは知っての通り、認識を錯誤させる能力を付加しました」
兄「怖っ! 何勝手に人の脳味噌弄ってるんだよっ!!」
幼女「魂を明け渡したのですから、もう小さい事を気にしても仕方がないでしょう」
兄「……」
幼女「大体の改造はあなたが眠っている間にしたのですがね」
兄「今朝の頭痛はお前のせいかっ! 順序がおかしいだろ、頼んでもないのに人の脳を改造してんじゃねぇよっ!」
幼女「悪魔の善意ですよ。こんな事態になるだろうと、事前に用意しておいたのです。もし準備せずに能力を付加したなら」
兄「……したなら?」
幼女「1割の確率で成功していました」
兄「残りの9割は?」
幼女「内側から爆発します」
兄「施術してくれてありがとう」
幼女「どういたしまして。誤認能力は妹以外にも効果がありますが、あまり使用は控えてください」
兄「なんで?」
幼女「過負荷で脳が壊れます。ベースは人間のままですから」
兄「どうにかならないのか? 今回の事で、イモコンを持ち歩くリスクも理解したし、できれば俺自身の能力にしたい」
幼女「しばらくは無理ですね。一度に多くの改造を施せば、あなたも壊れてしまいます」
兄「不便だな」
幼女「あなたは人間ですから」
兄「はいはい、悪魔様はすごいな。性格は悪いし、人の魂も騙し取る。本当にすごいよ」
幼女「くくくっ、あなたもなかなかのものですよ」
兄「は? 俺は普通の人間だぞ?」
幼女「今朝、私が言い濁した事を覚えていますか?」
兄「好感度がどうとかの時か」
幼女「ええ。……仲の悪い兄妹に同じようにイモコンを与えた場合、多くは好感度操作の前後で契約を破棄するのです」
兄「は? なんで?」
幼女「『仲が悪いから、イモコンが欲しい』。では、仲が悪くなくなったら? ……もう必要としないのです、イモコンを」
兄「……」
幼女「あなたもそうかもしれないと危惧したのですが、大きな勘違いでしたね。ふふふっ」
兄「ふん」
幼女「お気を悪くしたなら申し訳ありません。……さて、そろそろ失礼します」 すぅ
兄「……本当に性格が悪い。ああ、もしあいつを操られたら、さぞかし面白いんだろうな」
兄「寝るか」
四日目終了
五日目
妹「……はぁ」
兄「どうしたんだよ、朝っぱらから」
妹「うん……」
兄(好感度『+79』……急激に増えたな。感情は『憂・中』か)
兄「何か悩んでるのか?」
妹「ううん……別に。ただ、学校に行きたくないなー、と思って」
兄「嫌な事でもあるのか?」
妹「ないよ。でも学校に行ったら、みんな明るい私しか知らないし、なんか、そういうの疲れちゃった」
兄(……なんだそりゃ)
妹「お兄ちゃんは素の私も受け入れてくれるし、ずっとお家にいたいなー、なんて思って。あははっ、無理だけどね」
兄「……もう一日くらいなら、大丈夫じゃないか?」
妹「んー。前も言ったけど、みんな心配してるし。妹友なんか電話してきて、『何か悩みあるなら聞くから!』なんて言ってくるんだよ?」
兄「ふぅん。そりゃ良い友達を持ったな。……でもさ、そういえば今日は祝日じゃなかったか?」
妹「え、違うと思うけど?」
兄「いや、今日は祝日だよ。ほら、思い出してみろよ」 キュィィィン!!
妹「……あ、本当だ。なんで忘れてたんだろ」
兄「せっかくだから、今日もどこかに行こうぜ。そうだな、少し遠出して、電車で隣町に行こうか」
妹「それ楽しそうっ! 行こ行こっ!」
兄「それじゃ準備開始。今度は早く終わらせろよ」
妹「わかってるよん」 トテトテっ
かたんかたんっ かたんかたんっ
妹「そういえば、隣町で何するの? あそこ、何もないよね。かなり田舎だし」
兄「散歩、かな。今まで一緒に過ごす時間も少なかったし、色々な風景を妹と一緒に見たいんだ」
妹「ふーん……ふふっ、そういうのも逆に新鮮かも」
兄「だろ?」
妹「到着っ! 駅前なのにコンビニくらいしかないっ!」
兄「そうだな」
妹「で、どっち行くの?」
兄「ま、適当に。プラプラと」
妹「本当に何もないね。時々農家っぽい家があるくらいで」
兄「そうだな。……じゃ、そろそろいいかな」
妹「ん、何かするの?」
兄「いや……どうして妹は服なんて着てるんだろうな」
妹「え、えぇぇ?」
兄「服を着てるなんて恥ずかしくないのかな。妹は服を着てるのが恥ずかしい。裸が自然だ。そうだろ?」 キュィィィン!!!
妹「……んっ、いやっ、違うっ……違うぅ!」 ぶるぶる
兄「くっ……裸が自然だ。裸じゃない方がおかしい。妹は裸が大好きだ。裸でいたい。そうだろっ!」 キュィィィィィン!!!!
妹「……あ、そうだよね。どうして私、服なんて着てるんだろ」 ぬぎぬぎっ
兄「おい、地面に置いたら汚れるぞ」
妹「服なんていいじゃん、汚れても。それよりお兄ちゃんは脱がないの? 服着てるなんて変態みたいだよ?」 ぬぎぬぎっ
兄「実は俺は変態だったんだ。それに寒がりだからな、服を着てないと風邪を引いちゃうだろ?」
妹「私は変態より寒い方がいいな。そっちのが自然だし。……あ、ホック外してくれる?」
兄「はいはい」 ぷちっ
妹「あー、スッキリした」 ぷるるんっ
兄(服は拾っておくか)
妹「本当に脱がないの?」
兄「ああ。俺は変態だからな」
妹「お兄ちゃんが変態かー。……うぅん。それじゃ、その内、私も一緒に服着てあげるよっ!」 ぷるぷるっ
兄「いいのか? お前は変態は嫌なんだろ?」
妹「お兄ちゃんに付き合ってあげる。でも、今はまだ恥ずかしいからダメだよ。ね?」 ぷるっ
兄「それは、どうもありがとう」
妹「あー、風が気持ち良いねっ!」 ふぁさーっ
兄「だろうな」
妹「空気も美味しいし、風景も綺麗だし。……二人でここに住んじゃおうか?」
兄(お前は全裸だけどな)
男「……」 テトテトっ テトテトっ
妹「あ、地元の人かな? 挨拶しちゃおうかな?」
兄「そうだな。元気に声を掛けたら、向こうも快く返事してくれるんじゃないかな」
妹「こんにちはーっ!」 ぷるるんっ
男「……えっ!? な、何ですか、何してるんですかっ!?」
妹「散歩です。この辺りって、すごく良い所ですよねっ!」 ぷるるっ
男「なっ、な……っ!」 まじまじっ
兄「おい妹、この人も困ってるじゃないか」
妹「あ、お兄ちゃん」
男「おにっ、お兄ちゃんっ!? あ、あんたら何やってるんですかっ!?」
妹「? 散歩ですけど」
兄「そんな感じですね」
男(気が狂ってる。まだ若くて可愛いし……おっぱいも……) ごくりっ
妹「お兄ちゃん、この人も服着てる変態さんだよ。お兄ちゃんの仲間だね」
兄「……ま、そうだな。この人も立派な変態だな」
男(何を言ってるんだ、こいつら。変態はお前らの方だろ。……やっぱり気が狂ってるんだ。関わらない方がいい) トテトテトテトテっ!
妹「あ、行っちゃった。どうしたんだろ、あの人。やっぱり服着てるのが恥ずかしくなったのかな」
兄「そうだな。男なら、逃げずに見続けるくらいが正しいのにな」
妹「? なにそれ?」
兄「こういうことだよ」 キュィィィン!!!
妹「……え? 嘘、なんで……きゃぁああっ!!」 ずささっ
兄「どうしたんだ、妹? 急に叫んだりして」
妹「なんで、なに、私に何したのっ!?」 ぎろりっ
兄「言ってる意味がわからないな」
妹「服っ、服返してよっ!!」
兄「お前が勝手に脱ぎ捨てたんだろ。『服を着るなんて変態だ』とか言い始めてさ」 じろじろっ
妹「見るなっ、見るなぁっ!!」 ぎゅぎゅっ
兄「そんなに俺に谷間を見せたいのか? 今日は色々面白いものを見せてもらったし、別にいいけどな。ほらっ」 ばさっ
妹「何したのっ、私に、何したのよっ!?」 すさっ すっ すっ
兄「知らないな。お前が勝手に脱いだ。それだけだろ」
妹「うぅっ、うーっ!!」 じたばた
兄「傑作だったな。楽しそうに全裸で話しかけてさ。向こうは変態だと思っただろうな」
妹「……殺してやる」 じゃりっ
兄「怖いな。俺は何もしてないのに」
妹「やっぱり、あの時の写真。あれのせいだ……そうなんでしょ」
兄「写真、ねぇ。これか?」
妹「それよ……今すぐ破いて捨ててやる。そしたら、きっと全部、嘘になる。そうだよ」
兄「嘘にしたいのか?」
妹「そう。全部嘘。嘘だ。嘘なんだ。そうだよ」
兄「じゃ、そうしよう」
妹「なに、それ」
兄「お前は裸で散歩なんかしてない。普通に楽しく散歩した。今日はとても楽しい一日だった。そうだろ?」
妹「……そう、なの? これは、夢なの?」
兄「夢だ。悪い妄想だった。全裸で散歩なんて事があるはずないから、全部夢だった。変な妄想だった」 キュィィィィン!!!
妹「妄想、だった……そう、だよね。私、服着てるもん」
兄「そうだ。妄想だった。お前は少し露出癖があるから、そんな妄想をしてしまった。そうだな?」 キュィィィン!!
妹「そう……妄想だった。……あれっ、もう日が暮れてきたみたいだね」
兄「それじゃ、帰るか」
妹「あ、鼻血」
兄「え」 たらーっ
妹「何かやらしい事でも考えてたの?」
兄「あははっ、それはお前だっ……てぇっ!」 ずきずきっ!
妹「お兄ちゃん、大丈夫っ!?」
兄「ああ。平気だ。少し頭が痛んだ。それだけさ。早く帰ろう」
幼女「使いすぎには気を付けた方がいいと申しましたのに」
兄「想像以上に消耗した。それだけだよ」
幼女「注意が足りなかったようですね。脳の寿命が縮みますよ?」
兄「悪魔と契約して、長生きできるなんて思ってないよ。だから今を最大限に楽しむさ」
幼女「そうですか。それは大変良い考えだと思いますよ」
兄「ふんっ。別にお前に誉めてもらいたくもないさ」
幼女「さようですか」
兄「ふぅ。……今日はもう疲れた。お前も消えろ」
幼女「それでは、また」 すぅ
六日目
ぴんぽーん ぴんぽーんっ
兄「……誰だ」
ぴんぽーん ぴんぽーんっ
兄「しつこいな。……少し待ってろよ」
「にゃ〜っ!」
兄「はいはい、誰ですか、っと」 がちゃっ
妹友「すいません。妹に会いたいんですけど?」
兄「ええと、君は確か、妹の友達の子だよな」
妹友「はい。……それで、妹はいますか?」
兄「いや。今はちょっと出掛けてるみたいだな。また今度来てくれないか?」
妹友(靴。妹の靴がある。……この人、多分、嘘ついてる)
妹友「……今日、何回かメールしたんですけど、返信がないんです。それに、風邪で休んでたはずなのに、どうして出掛けてるんですか?」
兄(なるほどね、靴か。確かに、わかりやすい嘘をついちまったな。……ふんっ、いいさ)
兄「コンビニにでも行ったのかもな。結構きまぐれな奴だし、すぐに帰ってくるだろ。あがってくかい?」
妹友「……いいんですか?」
兄「妹の友達なら問題ないさ。それに紹介したい子がいるんだ」
妹友「紹介したい子?」
兄「いいからいいから」
妹友(この人、前に会った時も変な感じだったし、妹が何かされてるかもと思ったんだけど。……うーん)
兄「ほら、この子。可愛いだろ?」
「なーぅ」
妹友「えっ」
兄「可愛い猫だろ。……ねっ?」
妹友「あ、はい。可愛いですね」
妹友(何か今、すごい違和感が)
猫「ふぅ〜っ!」
兄「こらっ!」
猫「……にゃー」
兄「ごめんな、機嫌が悪いみたいで」
妹友「私、猫好きですから。可愛いですよね、猫。……猫ちゃん、お名前はなんて言うんでしゅかー?」
兄「『妹』っていうんだ」
妹友「え?」
兄「同じ名前にしたんだ。ほら、目元なんかよく似てるだろ?」
猫「な〜っ」
妹友「え、と。……言われてみれば、似てなくもないかもしれないですね」
兄「だろ? それじゃ何か飲み物でも持ってくるから、妹の相手を頼むよ」
妹友「はい。……妹ちゃん、よろしくね」
猫「にゃ〜っ」
妹友「……普通の猫、だよね」
妹友(なのに、すごく不安な気持ちになる。この子は猫。でも、別の生き物な気もする、ような)
兄「お待たせ。どうぞ粗茶ですが」
妹友「いえ。……あの、この猫ちゃん、なんて種類の猫なんですか?」
兄「どうして?」
妹友「興味というか。……よく知らない種類みたいですから」
兄「多分、雑種じゃないかな。最近飼い始めたばかりで、猫の事はよく知らないんだ」
妹友「そう、ですか」
兄「……世の中にはさ、ペットに服を着せる人とかいるだろ? ああいうのって、どう思う?」
妹友「え。あー、そうですね。私も、少しおかしいと思います。可愛がるにしても、人間の可愛がり方を押し付けるみたいで」
兄「だろ? だから、妹には何も着せてないんだ」
妹友「……猫の話ですよね」
兄「それ以外にないだろ? まさか、本物の妹の話だと思った?」
猫「にゃ〜」 すりすり
兄「はいはい。後で可愛がってやるからな」 ごろごろ
妹友「……妹、遅いですね」
兄「そうだね、どこにいるんだろうね。……そうだ。見てくれよ、この首輪」
妹「んにゃ〜っ!」
妹友「えと、もう少し優しくてしてあげた方が……」
兄「高かったんだよ、これ。なかなか合うサイズのがなくてね」
妹友「大きいですもんね。なんか、まるで……」
兄「まるで?」
妹友「……人間みたい、な」
兄「そう見える?」
妹友「いえ。猫、ですよね」
兄「猫だねぇ」
妹友(……頭が痛い。私、変だ。おかしいよ。おかしいのに、何がおかしいのか、わかんない……)
妹友「……帰ります」
兄「そうかい。見送るよ」
妹友「いいです。……妹が帰ってきたら、連絡するように言っておいてください」
兄「そう。じゃあね」
妹友「……はい」 トタトタっ がちゃり ……ばたんっ
兄「お前の友達が行っちゃったぞ?」 なでなでっ
猫「な〜ぅ」
兄「なかなか気付けないものだな」
幼女「一応は悪魔の力ですからね。人間が抵抗するのは難しいでしょうね」
兄「なんだか、な」
幼女「どうかしましたか?」
兄「飽きた」
幼女「それはまた」
兄「お前のくれた力、誤認の能力があれば大体の事はどうにかなるだろ」
幼女「そうですね。人間の世界は認識により形成されていますからね」
兄「調子に乗るつもりもないが、妹友に実験した感じだと誤認が破られる可能性も低いみたいだし」
幼女「しかし、あなたが不意に襲われてしまえば、死にますよ?」
兄「……殺す気か? お前にとっては俺が死んだ方が都合が良いだろ」
幼女「殺しましょうか?」
兄「死ぬ時は自分で決める。邪魔したら」 キュィィィィン!!!
幼女「無謀な人ですね。殺しますよ?」
兄「……冗談だよ。お前に勝てると思うほど、慢心も耄碌もしてないさ。ただ、刺激が足りないんだ。これじゃ、つまらない」
幼女「……契約を破棄しますか?」
兄「普通に生きる、か」
幼女「今ならまだ、クーリングオフも効きますが?」
兄「……ぶっちゃけさぁ、それしたら俺、死ぬだろ?」
幼女「なぜ、そう思うのですか?」
兄「お前さ、一番初めに会った時、言ったよな。『今まで返品した方はいない』だっけ?」
幼女「言いましたね」
兄「で、『多くは好感度操作の前後で契約を破棄する』んだっけ?」
幼女「そうですね」
兄「それつまり、『契約を破棄したら返品できない状態になる』ってことだろ。で、多分死ぬ」
幼女「……さてさて、どうだったでしょうかね」
兄「やっぱり最初に言った通りじゃねぇか。自業自得なオチが待ってる、ってよ」
幼女「いえいえ。映画のラストシーンは観るまでわからないものですよ」
兄「けっ。あーあ、どうするかね。クソ生意気だった妹も、今じゃこの有り様だし。正直、今さら普通に生きる気もねぇ」
妹(猫)「うにゃ〜っ」 すりすり
幼女「……うじうじと、退屈な奴ですね。主人公ならもう少し面白おかしくできませんか?」
兄「あ?」
幼女「今のあなたに用はありません。私は私で、遊ぶ事にしましょう」 すぅ
兄「……おい、待てよっ!」
妹「なーぅ」
兄「……なんだってんだよ」
妹友(まだ妹からメールが帰ってこない……やっぱり、何かあったのかなぁ)
妹友「はぁ。どうして帰っちゃったんだろう」
??「錯誤した認識に心が圧迫されたからでしょう」
妹友「……えっ、誰?」
幼女「どうも、こんばんは。……真実が知りたいですか?」
妹友「……何か知ってるんだね。お願い、教えて」
幼女「いいでしょう。後悔しないと、友人のために戦えると誓えるなら、お教えしましょう」
妹友「……」 こくりっ
六日目終了。
最後の日
妹「おはよー……くしゅんっ!」
兄「風邪か?」
妹「みたい。変な夢みたからかも」
兄「ふぅん」
兄(結局、あいつは何度呼んでも戻って来なかったな)
ピロリキン♪ 妹「……あ、妹友からメールだ。なんか緊急の用事みたい」
兄「ふぅん」
妹「ちょっと行ってくるね。すぐ帰ってくるから」
兄「あぁ」
兄(何もやる気がしねぇ。人間相手なら誰にも負けない。でも、悪魔相手じゃ手も足も出ない。本当、つまんねぇ)
妹「死、ねぇぇぇっ!!」 ぶんっ!
兄「うごっ!? ……いってぇぇぇっ!! お、折れた、腕がぁっ!?」
妹「殺す。動いたら殺す。動かなくても殺す。絶対に殺す」
妹友「落ち着いて、妹。ちゃんと私が殺すから」
兄(どういう状況だ、何がどうなってるっ!)
兄「妹、落ち着け。その手に持ってるバットを捨てろ。俺とお前の仲だろう?」
妹「黙れ」
妹友「……犬猿の仲でしょう。それを、あなたが機械で操った。全部知ってるんです」
兄「……あいつの入れ知恵か。契約もクソもあったもんじゃないな」
幼女「あなたを守るという契約はしていませんから」
妹「あんたも黙れ。手は貸してくれたけど、発端もあんたでしょ」
妹友「それはもういいでしょ。悪魔なんかに期待しても無駄だよ。……利用できるだけすればいいんだから」
兄「……俺はここにいない。俺はどこかへ消えた。俺はどこにもいない」 キュィィィィン!!
妹「え、嘘。どこっ、どこに行ったのっ!?」
兄(今の内に逃げるしかないか) そそくさっ
妹友「燃えろぉっ!!」 ごぉぉぉぉぉぉぉっ!!
兄「うがぁあああああっ!!?」 ぱちぱちッ!
妹「え、何? どうしたの?」
妹友「また誤認を使ったんだよ。今、解くから待ってて」 キュィィィィン!!
兄「……ちっくしょぉおおおおっ!!」 ダッダッダッ!!!
妹友「あ、待てっ!!」
兄(どうしてこうなった? ちくしょう、あのクソ悪魔っ!)
幼女「絶対絶命のピンチですね」
兄「あれはチートだろうがっ! パイロキネシスに、しかも誤認が効きやがらないぞっ!?」 ダッダッダッ!!!
幼女「その方が盛り上がるかと」
兄「普通に能力が二つもあるじゃねぇか。お前、脳が壊れるとか言ってたじゃねぇかっ!!」
幼女「……後ろを見ればわかるかと」
兄「あ?」
妹友「コロスッ! 私が、妹を守るんだげぼらっ!!」 びしゃびしゃっ
兄「めっちゃ吐血してるぞおい」
幼女「力にはリスクが付き物という事です」
妹友「燃え、ろぉ!!」 ごぉぉぉぉぉぉぉっ!!
兄「うわぁぁっ!! ……っぶねぇ!?」
幼女「危機一髪ですね」
兄「俺にも何か秘められた力とかねぇのかよ!」
幼女「内側から爆発する前提でなら何でもできますが」
兄「使え、ねぇ!」
妹友「逃げるなぁっ!」
兄(きりがないな。こうなったら人ごみに出て……っ!) ダッダッダッ!!!
おいなんだあれ 腕折れてるぞ 火傷? うわっ、火事でもあったの?
兄「聞けっ! いいか、あいつは敵だっ!! お前達を殺そうとする敵だっ!! 殺される前に殺せぇ!!」 キュィィィィィィィィィィィン!!!
兄(頭が割れる……っ、くそがぁあああああっ!!) ギュィィィィィン!!!!
妹友「はぁ……はぁ……、コロ、スゥッ……」
あいつだ 殺される前に殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ殺せ殺せ殺せ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
兄「はぁ。よし、今の内に……」
妹友「邪魔だ、どけぇぇっ!!!」 ゴォォォォォォォォッ!!!
いぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!
幼女「阿鼻叫喚、というやつですね」
兄「能力差が酷すぎる」
幼女「これはゲームではないですから、バランスを考える必要もないですし」
兄「……お前は何がしたいんだよ」
幼女「愉快な結末を求めているだけですよ。あなただって、退屈してたんでしょう?」
兄「……く、くふふふっ、あはははははっ!! たしかに、たしかにそうだなぁ!! 面白い、面白いよっ!」
幼女「でしょうね。あなたなら気に入ってくれると思っていましたよ」
兄「……そうだな。それじゃ、まずは、あいつを探さなきゃな」
妹友「どこダっ、どこにいるっ!?」
街頭TV『原因不明の火災により――名が死亡、今現在の重軽傷の――名、行方不明者も――にのぼっています』
妹友「はぁ、ぐぅぅっ!!」 びしゃびしゃ
妹友「私が、私が妹を守るんだから。絶対に、あの悪魔達から……」
街頭TV『まるで地獄の業火のような―― 被害者の遺族達は悲しみに――』
妹友「待っててね、妹……」
妹「妹友ちゃんっ!」
妹友「妹っ!」
妹「大丈夫だった? 何か大変な事になってるみたいだし、心配で!」
妹友「大丈夫。大丈夫だよ。私が妹を守るから。絶対に、あいつらをコロスから」
妹「私も手伝うよ。元々は私の問題なんだからっ!」
妹友「……ありがとう、妹」
妹「バットはなくしちゃったから、もっと強そうなナタを見つけてきたよ」
妹友「そう。それは心強いね」
妹「うん。これなら一撃で殺せるよね」
妹友「それにはまず、あいつを見つけなきゃ。どこに行ったんだろ……」
兄「よぉ」
妹友「……あはっ、あははははっ! 死ぬために現れるなんて、馬鹿だよねぇ!! ほら、燃え、」
妹「えいっ」 ぐさっ
妹友「ふ、ぐぇ」 ばたり
兄「…………なんというか、まぁ、間抜けな死に方だな」
幼女「友情というやつでしょう。麗しき人間の証明ですね」
妹友「ぐ、げぇっ!」 びちゃびちゃっ!
兄「あっけないな」
幼女「攻撃力は悪魔級ですが、防御力は並の人間ですからね。仕方ないでしょう」
兄「ボスの設定としては最悪だぞ、それ。先手必勝じゃねぇか」
妹友「がっ、ぐぅぅ……い、ぼうと……っ」
妹「あはっ、あはははっ!」
兄「『大好きな友達は殺そう。殺すべきだ。それが幸福への道だ』……なーんてな」
妹友「あ……ぁ、……い、もう、……と…………」
兄「死んだか?」
幼女「ええ。息絶えましたね」
兄「そうか。……いや、なかなか面白かったぞ、あれは。相手の脳味噌があれじゃなかったら、俺が死んでた」
幼女「そうですね。おおむね同意します」
兄「おおむね?」
幼女「間違いがあります」
兄「なんだよ。言ってみろよ?」
幼女「あなたも死にます」
妹「……死ね」 すぱっ
兄「あ?」 どぼっ
幼女「油断大敵、というやつですね」
兄「く、は、ははははっ、これは、これは死んだなっ! 血が止まらねぇっ!」
妹「死ね、早く、死ねぇ!」
兄「お前は、猫だっ!」 キュィィィィン!!!
妹「……っ、……なーぅ」
兄「……おい、俺はあとどれくらいで死ぬんだ?」
幼女「持って三分でしょうか? 止血しても間に合わないでしょうね」
兄「なんとも、あっけねーな」
幼女「どうやら彼女、死ぬ間際に妹の誤認を解いたようですね。いやぁ、やっぱり最後までわからないものですね」
兄「どうせ、知ってたんだろうが」
幼女「どうでしょう。……それで、死後に私の奴隷として働く心構えはできていますか?」
兄「できるか、んなもん。奴隷、なんて。退屈で、死ぬ」
幼女「では、契約をしましょう」
兄「また、かよ」
幼女「今度は、対等な契約ですよ。罠も仕掛けもありません。……私の部下になれ」
兄「ぶか?」
幼女「そう。私と共に、人を騙し欺き玩具にし、死や裏切り、背徳と混沌が入り混じる世界で遊ぶ」
兄「は。そりゃ、い、いな」
幼女「どうです?」
兄「……けいやく、してやるよ。たいかは、なんだ?」
幼女「永遠を分かち合うことです。地獄の刑罰よりも辛い、退屈の時間をあなたに与えましょう。……せいぜい、あがけ」
兄「は、はは、は……あ、あ。いい、さ」
幼女「それでは、また会いましょう」
兄「けっ……………………」 ことりっ
幼女「さてさて、それでは舞台の最後はお決まりの、お約束の、定番のオチでしめるとしましょうか」
妹「なーぅ? う?」 ……ドッッグオォォォォォォンッッッッッッッッ!!!
妹 が 爆 発 し た
どこかの街角
とある兄「くそっ、なんだよ。あいつが悪いんじゃないかよっ!」
??「どうかしましたか?」
とある兄「あぁん? なんだよ、お前」
??「もしかしたら、力になれるのではないかと思いまして」
とある兄「うっせぇよ。話しかけんな」
??「……そうですね、悩みの種は兄妹ですね」
とある兄「……っ、なんでわかるんだよっ!」
??「昔、私も似たような事で困っていましたから」
猫「なーぅ」
とある兄「……実は、うちの妹が最近反抗期で、俺の言う事を全然聞かないんだ」
??「なるほど。そうですか、それでは、これなんかどうでしょう?」
とある兄「……機械? 何に使うんだ、これ」
??「これが『妹コントローラー』と言って、そりゃもう効果絶大、画面に映る好感度と感情を操作すれば、どんな妹もイチコロ!」
とある兄「胡散臭ぇ。大体ダジャレじゃねぇか」
??「まぁ、そう言わずに。役に立たなければ返品してくれればいいですから」
とある兄「……値段は?」
??「心ばかりで結構です。支払いは返品するかどうかを決めた後で結構です」
とある兄「ふーん。ま、それなら気休めにもらっとくわ。ありがとな、おっさん」
??「まだ若いんですがね、こう見えても」
とある兄「マジで? ずいぶん老けて見えるけど」
??「あははっ、そうですか? ……それでは、また会いましょう。……行くぞ、妹」
妹「うんっ!」
とある兄「えっ!? ……今、その猫が一瞬、人間に見えた」
??「それはそれは、あなたには才能があるのかもしれませんね」
とある兄「才能?」
??「そうです。こちら側の才能が。……退屈な日常に飽きたなら、こちら側に来る事をオススメしますよ」 すぅ
とある兄「え、あれ? ……おっさんっ! おい、おっさんっ!!」
いつか、あなたの元にも、妹コントローラーが届けられる日が来るかもしれない
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