古くからの伝統である冒険の仲間を募る出会いの酒場の隅で

私はさして希望も抱かずに勇者を待っていた

勇者は元々私の幼馴染みではあるが、だからこそ絶対に彼が自分を選ばないことは確信が持てる

同じく幼馴染みである戦士と武道家は私と違いすでにパーティー入りを決めているはず

……あの二人は嫌いだ

自分の無能力ぶりを散々からかわれ、虐められてきたから……

確かに私は無能だ

それを一番良く知ってるのは勇者

勇者は私を選ばない

そう思っていた

だけど勇者は私の前に来て

勇者「仲間にならないか?」

そう言ってくれた

しかしすぐに後ろの二人が笑いながらそれを止める

戦士「マジかよ、有り得ねえぜそんな無能者!」

武道家「そうそう、こいつって……」

魔法使い「メラしか使えない」

先に言ってやった

何年も何年もよくぞ同じネタで人をバカにできるものだ

私は小さい頃呪いに犯され、何故かメラしか使えない状態になっていた

メラしか使えないならいっそ転職しようかと武道家の家に弟子入りしたりもしたが、力もなくいじめを受けてすぐに辞めた

しかし無駄な時間だった

走り込みばかりやらされていたので多少足は速くなったが

勇者「でも神父様も言ってたけど、呪文はメラしか使えないけど魔力は恐ろしく強力らしいよ?」

勇者「何かのきっかけで目覚めるかも知れないし……」

戦士「メラだけ使えたって魔導師の杖の代わりにしかならねえよ!」

武道家「そうですぜ、おまけにこいつ根性無しだし!」

こちらとしてはこの二人と旅することが有り得ない

それならばいっそ自分一人で呪いを解く旅にでも出る

そうだ、何も勇者と一緒じゃなきゃ旅しちゃいけない法は無いんだ……

ここで私ははっきりと断った

魔法使い「私はあなたたちとは行けません」

勇者はしばらく残念そうにしていたが

勇者「いつかパーティーに入りたくなったら、来てよ」

そう言って去っていった

私は家に帰ると荷物を整えた

早くに両親を無くした私は意地悪な叔父と叔母に養われていた

この家に未練はない

一言だけ礼を言って家を出た

街を出てしばらくは、私は魔物との戦いに慣れるために寄り道をすることにした

魔物の巣くう森に入る

最初のうちは良かった

小さな火の玉を放つ魔法、メラだけでも乗り越えられた

しかし敵が二匹、三匹出てくるだけでもたちまち苦境に陥る

大ネズミが三匹……

私は先制で一匹焼き払ったが、残りの二匹に集中的に殴られ、踏まれた

痛い……

魔法使い「メラ、メラ!」

幸い魔力だけは底がない

神父様には本当か嘘か、人間の限界より強い魔力を持っていると賞賛された

そして私がメラしか使えないのはそのあたりに理由があるのではないか、と、この世界にあるありとあらゆる魔法を教えてくれた、が

しかし不思議とメラしか使えなかった

戦いで傷を負った私は、使えそうな薬草などを摘み取り道具屋に売り、一晩の宿代に

このままでは近い将来限界が来る……

ベッドで今日の戦いを思い出していた

私、無意識にメラを二発同時に放っていたような……

そこまで考えて、疲れ切っていた私は眠りに落ちた

………………

???「貴様の魔力はいずれ災禍の種となる」

???「だが貴様を消せばその魔力は誰か他の者に宿ると言われている……」

???「ならばお前に呪いを」

???「その身を檻としてその力を封じるが良い」

………………

……思い出した

あの時確か綺麗なお姉さんが、私に呪いをかけて行ったのだ……

あの人を探し、呪いを解いてもらわねばならない……

手掛かりは少ないが……

昨日の戦いのおさらいも兼ねて、私はここから一番近くの村へと旅立つことにする

早速醜いブヨブヨしたスライムの群が現れた

四匹……いけるか……?

魔法使い「メラ、メラ、メラメラ!」

いきなり四発は無理が有ったようで、一発は不発だったが三匹までは焼き払った

しかしこれならメラしか使えなくとも多少の戦力になるのでは無かろうか……

いや、勇者にはあの気分の悪い二人がつきまとっている……

道々薬草を拾いつつ、歩く

……水を持ってきていなかったことに気付いた

しまったな……

そこからは渇きと戦いながら歩いた

……私のバカ……

喉が焼ける

体が重くなる

とても……苦しい……

途中、水たまりを見つけて飲もうとしたが、お腹を壊しそうなのでやめた

苦しい……

なんとか村に着いた

村人を見つけてただ水を求める

村人「こんな貧しい村じゃ水だって貴重なんだ、ただではやれねえ」

魔法使い「……薬草なら、少し……」

村人「薬草か……、いいだろう」

やっと水にありついて私は村の様子に気付く

酷く荒れ果てている……

魔法使い「魔物が、出るのですか?」

自分でどうにかできるとは思わなかったが、聞いてみた

村人「近くの洞穴に魔物が住み着いていて夜な夜な村を襲う」

村人「畑は荒らされて全く仕事にならん」

村人「魔物の群だけなら木の柵でどうにかなるが……」

魔法使い「……何か?」

村人「デカい牛みたいな魔物が一匹いて、そいつが厄介だ」

それならなんとかなるかも知れない

魔法使い「私が……倒します」

村人「あんたが?」

村人「そんなほっそい体で、女一人で?」

明らかにバカにした様子

村人「まあ、やるって言うなら止めねえよ」

ほれ、と言うと村人は水を入れる皮袋をくれた

魔法使い「あ、ありがとうございます……」

村人「まあ死なない程度に頑張りな」

死ぬつもりは無い

私はできるだけたくさんメラを放てるように特訓を兼ねて魔物を倒すことにした

洞窟までの道のりを守るように魔物の群が襲ってくる

魔法使い「メラ、メラメラ、メラ、メラメラメラ……」

五発……六発まではいけるだろうか?

洞窟の奥までは労せず進めた

しかし……

魔法使い「大きい……」

牛魔物「ゴフッ、ゴフッ……」

見上げるような巨体

恐らく一発や二発のメラでは毛を焼くのが関の山であろうか

巨大な牛の魔物は突然襲いかかって来た

開戦……!

魔法使い「ぐふうっ!」

あ、が……

先制で一撃食らう

防御力の無さは致命的……!

一発で目の前が暗転しそうになるが、踏ん張る

魔法使い「メラ、メラメラメラメラメラメラ……!」

放てるだけ放つしかない

怯んでいてはあっと言う間に命を奪われる…………

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラ……!」

牛魔物「ぐほおおお……!」

五〜七発ずつ、凡そ五十発は放っただろうか、牛の魔物は苦しそうな声を上げ、倒れた

取っておいた薬草を使う

焼けた牛の魔物はとても美味しそうな匂いを放っていた

この先食料の事を考えると、これくらい動物に近い魔物なら食べられた方が良いのでは……?

ちょうどお腹も減っていたので、理性を失ってかぶりついた

……塩が欲しい

海に出たら塩を作って持って歩こう……

口に入れると皮が厚いし多少臭いはキツいが、メラで焼きながらお腹一杯になるまで食べて洞窟を出た

あとはナイフも欲しいな……と口元を拭きつつ思う

物々交換のため、森に入り猪を探す

気付けば夜……

少し持ってきた牛の肉をかじり、焚き火にあたりながら眠った……

メラだって便利だ……

私は魔導師の杖とは違う

次の日の夕方頃になってようやく小さな猪を見つけ、メラで焼く

多少焼き肉になってしまったが仕方有るまい

……重い……

結局もう一晩、野宿

水はあと少し

後で知るのだが、この頃勇者たちは私が倒した牛の魔物の死骸を見つけていたらしい

村に帰ると牛の魔物を倒したのは勇者、と言う事になっていた

村人「ああ、あんた無駄足だったな」

魔法使い「……この猪と引き換えに、ナイフ、あと皮袋をいくつかもらいたいんですが……」

村人「あ、ちょうどいい、勇者様に賄おう」

村人「……しかしこりゃ、魔法で焼いたのか?」

魔法使い「それしかできないから……」

村人「まあいいや、肉なんて久々だしな」

村人「小さいナイフと皮袋……まあ好きなのを持って行きな」

薬草袋は持ち出しがあるし、水袋はもらった

後は塩と食料を入れる分……他にも何か必要になるかも知れないからもう一つ二つ

小さなフライパンももらって再び旅立つ……

牛の魔物を倒したのは、勇者……

あの牛に食らった一撃がどれほど痛かったか思い出すと腹が立つ……

どうせあの二人の差し金だが

しかし肉も食べられたから、構わない

この大陸とは違う大陸に、魔力の強い者だけが住む街があるらしい

そこは魔王が住む大陸でも有るのだが、魔力の強い者になら私の呪いの謎も解けるかも知れない

神父様にも解けない、重篤な呪い……

とりあえず私は魔王の住む大陸へ行く

その大陸に渡るためには船に乗らないといけないか……

まずはその港町を目指すとしよう

少し海に出て、砂場を掘り、そこに貯めた海水にメラを放つ

トレーニング代わりだ

メラ、メラ、メラメラメラメラ……

やがて水が少なくなってきたので海水を足す

メラ、メラメラ、メラメラメラメラ……

ゲシュタルト崩壊を起こして魔法を損ねたりした

やがて塩が固まってくる

上澄みの部分を砕いては袋に詰める

少し舐めてみた

……苦い

塩も十分採れただろう

森に入りいくらか薬草を採り、そのまま港町に向かう

途中で色々魔物と戦うことになったが、なんとかメラだけで乗り越えられた

私にかけられた呪いの効果なのか、その他の呪いは一切効かないのは幸いだった

眠りの呪文も、魔封じの呪文も効かない

……食べられそうな兎の魔物をメラで焼いてナイフで解体し、塩焼きにして食べた

すごくジューシーだ

美味い……

もう一匹狩って保存食にしよう

お腹一杯で幸せな気持ちで目を閉じた

血まみれで多少獣臭くなったかも知れない

今勇者が私を見つけたら、野生のメラ使いが現れた!とか言われるかも知れない

野生のメラ使い……

一人で吹き出して眠る

港町に着いた

人がとても多い……

臭くないかな?

早めに宿を取り、服を買い、お風呂をもらうことにしよう

町を歩き道具屋を探す

薬草や塩を売り、いくらかお金ができた

試しに兎の肉を売ろうとしたが、断られた

もう少しお金が欲しいので仕事をもらうため酒場に行く

途中

絡まれているのか船乗り風の人が、盗賊風の男二人に取り囲まれている

私はよく話しを聞くために近寄った

盗賊「ああ、なんだオメエ?」

いきなり怒鳴りつけられた

魔法使い「荒っぽい……喧嘩は良くないよ?」

盗賊「はん、なんか獣臭えが顔は上玉じゃねえか」

盗賊子分「綺麗に飾ったらどこぞの変態貴族が高く買ってくれそうですぜ!」

盗賊「そう言うわけだ、お前が俺らに着いてきたらコイツはゆるしてやるぜ?」

盗賊は私の腕を掴んできた

私は何か言おうと口を開く

魔法使い「メラ」

つい最近一番よく口にする言葉を放ってしまった

……てへっ

盗賊「ぐああっ……!」

盗賊子分「ああっ、親分!」

盗賊「た、ただのメラだ……こんくらい……」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ!」

盗賊「はっぎゃあああああぁあぁあぁんっ!!!」

盗賊子分「ああっ、親分!」

……これは食べられそうにないのでこれくらい焼いたらいいだろう……

魔法使い「お金……全部置いていって」

盗賊子分「イエッサァァアーッ!」

盗賊子分は何故か敬礼すると自分の親分の財布を投げて親分を引きずりつつ逃げ出した

魔法使い「自分の財布は出さないで逃げ出した……」

船乗り「あんた……、色々すげえな……」

魔法使い「私は魔王の大陸に渡りたい、仕事はない?」

船乗り「ああ、じゃあ用心棒をやってくれ!」

船乗り風の男はちょうど魔王の大陸に向かう船の船員だったらしい

海の幸食べ放題……

いや、渡りに船だ

私は盗賊の金で服を買い換え、宿に泊まる

翌朝船乗りが宿に迎えに来てくれた

はやく海の幸、じゃなくて船に乗ろう

船乗り「じゃあ先生、船長に紹介しますんで」

先生とかくすぐったい

船長の部屋に案内される

船長「この娘さんが凄腕の魔法使いさんか」

魔法使い「メラしか使えない」

船乗り「ちょっ、メラ十発以上一気に放てます!」

船長「メラ十発……下手な魔法より威力が高そうだな」

魔法使い「燃える物はなるべく置かないで」

船長「船は海賊に備えて火が着きにくくなってる、心配しないでメラを何百発でも放ってくれや」

船長「賃金は……こんなもんでいいか」

宝石が幾つか買える額を提示された

即座に二つ三つ首を縦に振った私

海の幸は食べ放題だし、海は渡れるし、大金をもらえるし、とてもいい仕事だ

いや、まだ海の幸は食べられるか分からないが

船が出る

……酔う

船乗り「せ、先生!」

海に撒き餌をしたので魚や蟹やイカが寄ってきた

……魔物だが

船長「お前ら、魔物だ〜!」

勇者「分かった」

戦士「任せときな!」

武道家「お安いご用だぜ〜!」

同じ船に乗っていたのか、勇者達…………

勇者はこちらに気付いて笑顔で駆け寄ってくる

子犬のようだ

勇者「魔法使い!」

魔法使い「久しぶり……うぷっ!」

思わず勇者を美しいゲロまみれにする所だった

這い上がってきた魔物が甲板を埋め尽くす

魔法使い「メラ、メラメラメラメラメラメラメラうぷっメラメラメラ……おえっ!」

これでは感動の再会がゲロまみれだけど

とりあえず海の幸ゲット……お腹空っぽになったしちょうどいい

船室に帰る

勇者「すごいメララッシュだったね!」

魔法使い「……たいしたこと、ない」

船長「いやあ、金の分は仕事してくれたぜ!」

船乗り「百近い魔物半分以上が焼き料理です」

魔法使い「いただきます」

目の前の海鮮料理を素手で掴みかぶりつく

しっかりした歯触りに潮の香りが口一杯広がって……

魔法使い「美味しい……」

ひたすら食べる

食べる

戦士「……すげえな……」

武道家「さっきまであんなに吐いてたのに……」

勇者「魔法使い、改めて僕のパーティーに入らないか?」

私は不快な二人を見ないように口と手をハンカチで拭いながら、口の中の物を飲み込むと言った

魔法使い「いや」

勇者「どうして?」

勇者は優しいのだが、空気は読めない

昔からだ

魔法使い「愉快な女一人旅、邪魔しないで欲しい……」

勇者「そ、そうなの?」

その不愉快な二人の顔を見ながら旅など、とんでもない!

レアアイテムを勇者が捨てようとしたらそれを捨てるなんてとんでもない!と突っ込むレベルでとんでもない

それに魔王なんてどうでもいい

私は私の呪いを解きたい

それだけだ

船は一週間ほど航海を続ける

多少酔わなくなってきたし

海鮮料理も毎日海から這い上がってきた

良い旅

魔王の大陸の港につき、勇者と船乗り達に別れを告げると街を散策する

あ、戦士と武道家は無視

魔力の強い者達の町の場所を聞く

いくらかアイテムや食料を買い込むと、宿に泊まる

海が見えるお風呂が素晴らしい

船長が気前が良くて良かったな……

朝早くに出る

草原の旅は気楽だった

獲物が見つかり辛いのは困るが

兎の塩焼きが襲ってきたので、食べた

もとい

兎の魔物が襲ってきたので、メラで焼き、ナイフで解体して塩で焼いて食べた

港町で手に入れた胡椒が美味しい

普通の人は草原で野兎を焼いて食べないか

兎以外の食べられそうにない魔物に襲われたが、海での経験も有ってかだいたいは返り討ち

しかし防御力の無さは変わっていない

報酬で買った身かわしの服が無ければきつかっただろう

裁きの杖と言う杖も使い勝手が良い

振りかざすと集団攻撃の魔法が放たれる

メラ以外の魔法が使えたと言う事で、じーん、としてしまう

途中で猪のような獣人、オークが出た

塩で焼けば食べられなくはなかった

オークを食べた人はあまり居ないだろうな

厄介なのはメタル系のモンスターだ

メラで溶けるまで放ちに放つ

倒せなくは無かったが、食べられなかった

お腹空いた

仕方なくパンを食べた

喉が渇く

美味しくない

だいぶ獣に近付いたなあ

何日かかけて町に着く

町は小さいが魔導師が多いようで、何か故郷に帰ってきたような気分だ

道具屋や武器屋も魔法使い専門店ばかり

旅の身じゃなければ住みたいくらいだ

ここでキメラの翼と言う記憶にある街に転送してくれるアイテムを手に入れた

町の中を歩く

情報を集めるために酒場を兼ねた魔法使いギルドの建物を訪れた

まずはキノコのグラタンを頼む

うん、たまには肉以外食べないとね!

美味しくグラタンを食べていると見知らぬおじさんがテーブル対面の椅子に座った

あげないよ……いらないか

そのおじさんは笑って自己紹介した

ギルド長「私はここのギルド長です」

……ギルド長だったのか

ギルド長「旅人は珍しいからね、薬を求めてくる商人くらいで……」

私は獣食べ歩き旅……ではなく呪いを解く旅をしていると話した

旅先でこの話をしたのは初めてだな

ギルド長「呪いか……しかも神官でも解けない……興味深い」

魔法使い「誰か解ける人は居ませんか?」

ギルド長「何人か当たってみよう」

魔法使い「あの、お金はあまり有りませんが……」

ギルド長「こちらは研究になるからギブアンドテイクで良いよ」

有り難い

でも私に何か出来ることは無いだろうか

聞いてみた

ギルド長「少し面倒なミッションがある」

ギルド長「魔法の通じ辛い動く石像が研究対象の神殿で暴れている」

魔法使い「危険ですね……」

ギルド長「断ってくれて構わない」

ギルド長「呪いについてはさっきも言ったように研究価値がある、喜んで調べさせてもらう」

魔法使い「一応行ってみます」

ギルド長「では一人お供をつけよう」

ギルド長はそう言うと席を立った

今のうちにグラタンを頬張る

あつあつうまうま……

サラダや魚のソテーを頼んで食べていると、ギルド長に連れられて私と変わらないくらいの年格好の少女が訪れた

ギルド長「よく食べるな」

ギルド長「こちらの導師、回復魔法にも攻撃魔法にも長けていて賢者にも匹敵する人材だ、連れて行ってくれ」

導師「よ、よろしくお願いします……」

もう半分ケダモノの私と比べて、可愛い

兎の塩焼き好きかな?

導師「神殿までの道、ご案内致します……それにしてもギルド長に聞いたとおり魔王のような魔力の持ち主ですね……」

魔法使い「メラしか使えない」

導師「ほわっ!?」

魔法使い「変わりにメラを一度に二十発放てる」

導師「ほえっ!?」

反応が可愛いなあ

ギルド長「ぜひ見てみたい」

どうやらより深く研究対象にされたようだ

………………

私は物言わぬわら人形に向かい、唱える

魔法使い「メラ」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……」

魔法使い「……ラメーッラメラメラ」

わら人形は灰になってしまった

導師「ひゃっほーっ!」

導師はハイになってしまった

ギルド長「こんな凄まじい連続魔法は見たことも聞いたことも有りません……凄まじい素質をお持ちですね」

ギルド長「このいかずちの杖を差し上げましょう、良い物を見せてもらいました」

やった

いかずちの杖はかなりな高級アイテムだ

攻撃力も非常に高い

もう魔法だけで戦わなくても済むんだ

正確にはメラだけ

導師「こんなすごい人と旅ができるんだ……」

ん?

何故か導師が旅の仲間に加わったようだ

神殿までのつもりだったのだが

オーク食べられるかな?

なんとなく詐欺のような気はするが黙って歓迎すると告げて

導師「嬉しいです、お師匠様!」

賢者に匹敵する彼女に師匠はいらないと思うが

まあ心強いし、いっか

こうして女二人旅が始まった

手始めに神殿に向かう

途中で兎を見つけて

魔法使い「食料」

と呟くと導師の顔が引きつった

魔法使い「食料」

もう一度言った

導師の顔は青くなった

魔法使い「メラメラメラ」

兎が上手に焼けた

とりあえず解体して、火を起こし肉を炙る

塩と胡椒を振る

一口かじれば

んーまーいっ!

はいっ

導師に差し出す

導師イヤイヤと首を振る

匂いを嗅がせる

お腹は空いてるはず

仕方なく、導師は兎にかぶりつく

目が星になった

導師「おおお……美味しい?!」

魔法使い「高級食材、兎のジビエ」

導師「もう一匹狩りましょう」

おう

成長したな

やはりサバイバルは人間を育てるようだ

都会的な可愛い導師が野性味溢れる美少女になるのも遠くない

彼女は強力な真空魔法で野兎を狩った

すごい魔力無駄遣い

メラしか使えない私にはうらやましくもある

二人で野兎を三匹平らげた

そのまま草の上で寝る

導師は少し逡巡したが、同じように草の上で寝た

再びギルド長とまみえる頃には獣臭の漂ういい野生児ができているだろうか

一晩明けてようやく神殿に着いた

ボロボロの神殿だが所々古代文字が残っている

確かに研究価値がありそうだ

その神殿の奥、あからさまに不自然な石像があった

導師「あれです、お師匠様!」

魔法使い「分かった、導師は回復のために魔力を温存して回避に専念」

導師「はい!」

魔法使い「メラ」

私は試しに石像にメラを浴びせる

多少は欠けたか

石像はこちらに気付き、襲いかかってきた

身かわしの服のお陰でひらりとかわせる

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……」

メラを二十発一気に片腕に放つと、ずずず……と音を立ててその腕がくずれ落ち、石畳に当たって砕け散った

導師「流石です!」

その調子で私達はなんとかダメージを受けずに石像を倒した

一撃もらえば死んだかも知れないが……

快勝では有ったが、今後こんな敵がたくさん現れるかも知れない……

少し先が不安になった

せめて呪いが解ければ良いけれど……

呪いが解けたら

旅も終わるのかな?

最初は喉は渇くしお腹は空くし、良いことのない旅だったのに

私は少し惜しくなっていた

導師「兎……」

魔法使い「食料……」

野性味溢れる導師と私は帰途に着いた

たくさん木の実やキノコも食べた

街に着いた時は野生児二人

異臭を漂わせながらギルドに帰る

導師「まずはお風呂に入りましょう……服は洗濯してもらいますので……」

導師は自分の異臭に気付いてトーンダウン

久しぶりにお風呂に入れるのは嬉しいがギルド長に獣導師の感想を聞きたかったな

二人で広い温泉に入った

しっかり臭いを洗い流して湯船に浸かる

ふう……

ゆっくりと浸かる……

たまには良いな……

導師「呪い解けたらいいですね」

魔法使い「うん……」

その後二人で洗いっこして風呂を出た

私は別に呪いが解けなくても良かった

旅をしていたかったから

寝間着のような服にカーディガンを羽織り、寝室に

ギルド長と会うのは明日になるようだ

食事を運んでもらい部屋で二人で食べる

導師「二人でゆっくり食事するのは良いものですね」

魔法使い「うん、美味しいね」

考えたら勇者以外とこんな風にのんびりすることは無かった

ベッドに入ってからも導師は色々喋っていた

私も色々、久しぶりに喋った

翌日、朝からギルド長は何人か神官や魔導師を連れてきていた

私の体に魔力を当て呪いの状態をチェックしている

呪いを解く呪文やアイテムも惜しみなく使ってくれる

しかし、解呪系呪文を霧散させる効果のある呪いが重ねがけしてあるらしく、ほとんど効果を発揮しなかった

自分の呪いがどういう状態か分かっただけ良かったと思うしかない

後、この呪いをかけられそうな女性について聞いてみたが、こちらも皆心当たりが無いようだ

ギルド長「一つ有り得るとすれば、魔物ではないかと……」

導師「魔物が死に際に強力な呪詛を放つことは聞いたことがありますが……」

ギルド長「強力な魔神ならそれくらいの知識を持っているかも……」

なんの事はない

結局魔王に会いに行かないと駄目なのだ

勇者に誘われた時から運命で決まっていたのかも知れない

魔法使い「お世話になりました」

導師「では、行って参ります、ギルド長」

やっぱり着いてくるのか

良いんだけど

私はキメラの翼を使い、とりあえず港町まで帰った

ここから東に進むと城があり、更に山をいくつか超えると魔王の領地があるらしい

勇者達はどこまで進んだだろうか?

港町で色々準備を済まし、東の城の城下町を目指す

また旅ができるのは、良いな

水を大量に運ぶために小さなロバを買った

小麦粉や各種調味料も載せた

これで飢えや渇きに悩まされず旅することができる

導師「えいえいおーっ!」

元気一杯の可愛い導師だが、三日もすれば獣導師に逆戻りだ

それもいい

変に人間らしく生きようとするのは窮屈だ

この頃から私は人より魔物に近くなっていた気がする

道すがら食べられそうな魔物を探す

小型の恐竜を見つけて、メラを二十数発叩き込む

こんがり焼けた

解体して食べられそうな部分を取り分け、改めてフライパンで焼く

とてもジューシーな脂が出てくる

美味しそうだ

導師も楽しみなようでかぶりつくように焼ける肉を見ている

皿に分けて自分の分を焼く

導師「美味しいです〜」

魔法使い「良かった」

毒は無いようだ

いや、毒見にした訳じゃないが

毒見にした訳じゃないが

そう、そもそも遅効性の毒なら死なば諸共だし

とにかく自分の分の肉を食べよう

…………これは!

美味い

出汁の効いた鶏肉のようだ

恐竜で満腹になると残った肉を塩で加工して、ロバに吊す

肉を吊されたロバ

このロバには非常食と言う立派な名前を付けた

干し肉を運ぶ非常食

頑張れ非常食

途中鶏肉が居たので焼き鳥に

もとい、鳥の魔物をメラで焼き、羽をむしり解体、非常食に吊す

当分食料には困らないな……

明日は海際を歩いて蟹を取るかな?

野宿の準備をする

森の中にトイレを作る

用を足して、埋める

慣れた

導師はまだ大変だろうが、漏らすよりいい

一応紙は十分用意してあるが、足りなくなったら葉っぱで

導師「イヤです」

すごい顔で睨まれた

サバイバル生活は背に腹は変えられないことばかりなのだが

夜になると大きな月が出ていた

明日は大漁だろう

導師は

導師「星が綺麗ですね」

とロマンチックな事を言うが

そう言った感性を喪失してる自分が少し嫌だとは思った

翌朝海岸に出る

城下町まではまだ数日かかるだろうか?

蟹の魔物を見つけてメラ

メラメラメラ

魔法使い「大漁だーっ!」

導師「ひゃっはーっ!」

ジューシーな蟹の肉を鍋で味わう

幸せだ……

モンスターは肉が大ぶりなのが良いな

肉は十分だろう

蟹の脚も干しておく

野菜が欲しいので草原に入る

野草は貴重だ

サラダにしてドレッシングを作る

恐竜肉をミンチにして炒めその脂に酢と塩胡椒

旨味の強いドレッシングの出来上がりだ

導師「素晴らしい……」

魔法使い「肉を焼いてスープも作ろう」

導師「なんだかちゃんとしたディナーの出来上がりですね」

魔法使い「まあ元々家畜も野生動物だった訳だし、野菜もね」

元々野生の物を品種改良して野菜や豚が生まれたのだから野生の味だってそんなに悪いはずはない

むしろ人によってはこちらの方が自然の味で好かれたりするくらいだ

食べるのに困らなくなった私達は先を急ぐことにする

山上、東の城の関所を通る

導師の持っていたギルドの紋章を見せると、すんなり通してもらえた

関所の兵士の話でははぐれ巨人が一匹道中を塞いでいるらしい

私は嬉々として交渉を持ちかけた

魔法使い「巨人を倒すので宝石五つ分報酬が欲しい」

兵士達は悩んでいたが兵士長が出てきて念書を書いてくれる

東の城で報酬宝石五つ分を支払う、と

とりあえず逃げ出さないように、後、討伐確認のために女兵士が一人着いてきた

また仲間が増えた……

私達は二人とも後衛だし、前衛職は助かる

食料は十分あるし

私はなんの肉とは言わず女兵士に恐竜の干し肉を食べさせた

焼けばまだ十分な脂が出る

女兵士「と、とても美味しいっす」

魔法使い「恐竜肉は出汁が効いてるものね」

女兵士「えっ」

魔法使い「恐竜肉」

その後女兵士の絶叫が響いたが、落ち着いたらめっちゃ食べた

私も導師も大食いだと思うが、負けそう

初な女の子に野生を体験させるのは良いな

趣味になりそうだ

翌日山の陰から見える巨人の頭を確認する

動く石像に匹敵する巨体

サイクロプスか

巨人はこちらを発見して、岩を投げてくる

私達はバラバラにそれをかわす

メラを……三十発放つ!

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……ラメラメラぁっ!」

導師「スカラ!」

導師が防御強化の呪文をかけてくれる

防御強化の呪文は何故か効いた……?

分析は後だ

巨人は三十発のメラに怯みながらも反撃してくる

流石に並みの魔物とは違う

魔法使い「メラメラメラメラメラメラ…………メラメラメラメラあっ!」

ここが修行の好機だ

導師「ラリホーマ!」

導師の眠りの呪文で巨人の動きが鈍る

魔法使い「メラメラメラメラ……メラメラ、メラメラメラああっ!」

声の限りに呪文を放つ

メラしか使えないから仕方がないが、それでも流石に巨人の肉が煮えてくる

表皮が水膨れになり、はぜる

……少し美味しそうな匂いがする

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラあっ!」

女兵士「加勢します!」

導師「バイキルト!」

女兵士の剣に導師が強化をかける

強力な一撃で女兵士は動きの鈍った巨人の腕をはね落とした

巨人の絶叫

私は倒れた巨人の頭部を脳が焦げるまでメラで焼いた

唸り声を上げていた巨人もやがて静かになった

今回もなんとかなったか

私ははね飛ばされた巨人の腕の肉をナイフで削ぎ落とす

導師「えっ」

女兵士「いやいやいや、それは無いでしょ」

二人が戸惑っているが薪を集めメラを放ち、金串に刺した肉を炙る

塩胡椒を振る

さっきから感じていた美味そうな匂いが強まる

導師「…………ごくっ」

女兵士「お、美味しそうな匂い……」

私は一口巨人の肉にかじりつく

うん、多少大味だが恐竜の味に似ている

魔法使い「美味い」

導師「ええ〜っ……」

女兵士「あんたの師匠野生児過ぎでしょ」

魔法使い「食べないの?」

女兵士「巨人が食えるとなると世界の食料問題が解決しちゃいそうだね」

導師「いただきます」

女兵士「えっ」

導師もだいぶ馴染んできたな

やっぱりオークや巨人の肉くらい食べられないとこんな世界じゃ旅は出来ないよね

導師「多少臭いがあるのでガーリックをあわせても美味しいかも」

魔法使い「そうしよう」

私は巨人の切り身をガーリックステーキにする

とても良い香り

女兵士「…………ごくっ」

魔法使い「はい」

私は女兵士に焼きあがった肉を渡す

女兵士「…………美味いっす……」

その後は野生児三人で食べきれない量の肉を楽しんだ

とりあえずミッションコンプリートだ

肉にもありつけたし保存食も追加できたし、悪いことがない

導師と女兵士は若干自己嫌悪に陥っていたが

巨人を倒した後山を一つ超え、ようやく城下町に辿り着く

大きな城下町は一日では回りきれない

まずは宿を取る

お金が少し心許ないが、城まで行けば報酬が手に入る

城に着いたら路銀を稼ぐのも良いだろう

二人は慌てて風呂に走っていった

獣臭がするなと思ったら自分の臭いだった…………

巨人の肉の臭いがする年頃の娘……

どんなマニアックな人が嫁にもらってくれるだろうか?

私も慌てて二人の後を追った

女兵士「ふうっ」

導師「落ち着きますね〜」

魔法使い「全く」

女兵士「そう言えば二人は何故旅を?」

魔法使い「私の呪いを解くために」

女兵士「呪い?」

魔法使い「メラしか使えない」

女兵士「あ〜、あんな馬鹿デカい巨人もメラだけでやっつけたもんねえ」

導師「メラゾーマであれをやったらどうなるんですかねえ?」

魔法使い「呪いを解いたらやってみたい」

女兵士「国一つ滅びそうだね」

女兵士「火炎系の魔物が出たらどうするの?」

魔法使い「芯まで焼き尽くす」

女兵士「ワイルドだなあ……」

導師「メラもあれだけ束ねたらイオナズン並ですよね」

超強力な爆裂呪文、イオナズン……ではあるが、負けてる気はしない

メラを百発も放てるようになれば他のあらゆる呪文を凌駕できるはず

導師「お師匠様って魔法使いなのに脳筋ですよね〜」

魔法使い「ふふふ……」

魔法使い「生きるためには躊躇しない、それが旅で学んだこと」

女兵士「巨人の肉には躊躇して欲しかった」

導師「師匠はマタンゴ肉でも平気でかじりそうですね〜」

魔法使い「マタンゴ肉はまだ試してなかった」

導師「毒ですよっ?!」

魔法使い「キングコブラは食べられるらしい」

女兵士「なんつか、肉食系女子ってより肉食人種だね」

魔法使い「マージマタンゴ美味しそうじゃない?」

導師「あの青紫の奴間違いなく毒でしょう」

風呂から上がると夕食を食べに町に出る

残ったお金で高価なディナーを頼むが、なんと言うか物足りない

女兵士「……普通の女の子に戻りたい」

導師「同感です」

魔法使い「残ってる干し恐竜肉炙ろうか」

女兵士「楽しみと思った自分を殴りたい」

導師「町では野菜を食べましょう……」

巨人や恐竜をジビエで食べてるのは私達くらいだろうな

肉ばかりも問題あるのでピーマンのお化けとか食べてみよう

ご飯の後でカジノに寄ると大勝ちした

有るレアアイテムをゲットし、ニコニコしながら宿に帰る

導師「あ〜、久し振りにベッドで寝られる」

女兵士「野宿もたまには良いけど、やっぱりベッドだね」

導師「この国の向こうには魔王が住んでるはずですが、まだ魔物が大人しいですね?」

女兵士「そうでもないよ?」

女兵士「東の城のお姫様は魔物にさらわれちゃったしねえ」

導師「それ大問題じゃないですか」

女兵士「だよねえ」

導師「魔王とは不戦協定を結ぶ話が出ていたはずでは?」

女兵士「そうなんだよ、でも東の王が約束を反故にして領地拡張を計っちゃってね」

導師「はあ、人間の側が協定違反ですか」

女兵士「魔物に良くない感情を抱いてる人は多いからねえ」

魔法使い「ふん……いじめっ子は、嫌い」

導師「お師匠様は公平に物を見る人なんですねえ」

女兵士「何が本当に公平かは難しい話だよ」

魔法使い「……そうだね」

旅立った頃の私からしてみれば今の食うにも困らず弟子もいる地位はとても不公平に見えたかも知れない

あの時から私は変わらず、メラしか使えないのだから

私はゆっくり目を閉じ

そして夜は明けた

今日は城へと向かう

ロバを引いて街中を歩くと、旅人と言うより商人のようだ

この辺りで恐竜の肉や巨人の肉を販売して町人の反応を見てみたい衝動に駆られる

そう言えば勇者達は今頃どこを旅しているのだろう?

巨人が居たのでまだこの街には来てないかも知れない

勇者が預言者達に啓示を受けて十年以上経つ

その間に魔物との間に不戦協定の話が出たり、それを人が反故にしたり

その結果として彼は旅立つ事になったのだろう

そう思うと周りに振り回された人生ではないか

少し幼馴染みを哀れにさえ思う

やがて、東の城に着いた

女兵士の出した証文によって私の巨人退治の功績は認められ、騎士号と賞金が与えられた

魔法使いに騎士号とは妙な話ではあるが、権力がいただけるならもらっておこう

うひひ

話を聞いた国王から謁見を許可される

城で準備をしてもらう事になった

旅の身には派手目なドレスをまとわせられたり、変な匂いの香水をかけられるのは面倒だ

女兵士は末端の兵士が王に会うなど、とか言いながらウキウキオロオロしている

全く無骨な武人なら扱いやすいものを

導師は何故か頬を赤らめぼーっとしている

やがて執事から声がかかるとはひっ、とか言ったので緊張していたんだろう

国王の謁見室に通される

なんつーか謁見室見れば賢王か暗愚の王かは分かる

派手に装飾したシャンデリアに豪華な刺繍をしたカーテン、宝石だらけの燭台

はっきり言って愚の骨頂だ

愚者の王は面倒臭そうに言った

東の王「巨人を退治たお主に儂から要請がある」

いきなりこれだ

魔法使い「姫様を助けろと?」

東の王「!」

王は、にいっと嫌らしく笑う

東の王「賢しいな、大魔導師よ」

お前のような浅ましい人間の考えることなど手に取るように分かる

はっきり言ってこの国は滅ぼしたい

魔法使い「私より適任がおります」

東の王「ほほう」

魔法使い「勇者です」

東の王「おおっ、彼の者が我が地に?!」

私は早々に話を切り上げ、城を出る

とりあえず女兵士は正式に雇用した

女兵士「分かんねー、何考えてるの?」

魔法使い「姫様は助ける」

女兵士「ほあっ!?」

導師「それは、姫様は助けるけど報償は受け取らないと言う事ですか?」

女兵士「ますますわっかんねーっ!」

簡単な話だ

報償を受ければ受けただけ、私はあの愚者の王に縛られる

そんなのはまっぴらごめんだ

その上で、勇者達がお姫様を取り戻せるとは思わない

一週間程経ってるのに未だに勇者達はこの国にも来れていないのだ

なら私が勇者に手柄を立てさせ、愚者の王の興味を勇者に集めておいた方が、自分がうっかり手柄を立ててもそうそう取り立てようと言う話にならないだろう

それだけの計算だ

女兵士「はあ……、考えてるなあ」

導師「確かに注目されてしまうと取り立てられて辞退するのが難しくなりますね」

魔法使い「おそらく魔王の領地に入るために偵察をしたり、この城を拠点にせざるを得なくなる」

魔法使い「出来るだけあの王に取り立てられて戦争で前線に送られるような事態は避けたい」

女兵士「すごいなあ、よくそこまで考えた」

導師「ぶっちゃけて言えば師匠は自由大好きなんですね」

魔法使い「そう、動機は単純」

導師「それってやっぱり呪いのせいですか?」

考えたこともなかった

だが確かに私はメラしか使えないと言うかなり窮屈な呪いに、今まで苦しめられてきた

自由が欲しいのかも知れない

女兵士「まあ頭の悪い私にはよく分かんなかったけど、とにかく次はドラゴン退治だな!」

導師「ドラゴン!?」

魔法使い「姫様を監禁してるのがドラゴンって言う事ね?」

魔法使い「定番の物語過ぎて、笑える」

導師「笑えません、ドラゴンなんてメラで勝てるんですか?」

魔法使い「ドラゴン肉のステーキ」

導師「えっ」

魔法使い「ドラゴン肉のハンバーグ」

女兵士「くっ、食いたい……!」

導師「ドラゴンの肉は金と同じ価値……!」

だいぶ私の欲深さに導師が毒されてきたようだ

勝てる勝てないではない

メリットが有るか無いかだ

こうして私達のドラゴン討伐は決まった

愚王の授ける権力には唾を吐きかけても一片の肉の為になら命を懸けられる

なんだか素晴らしいじゃないか

私達は早々と旅の準備を整える

巨人退治の報償で炎の効きづらい服や鎧を買う

冷却系の武器を女兵士に与える

メラは確かに効きづらい相手だが、導師は氷撃系の超強力な呪文、マヒャドが使えた

ここまで準備すれば勝てない相手では無いはずだ

私達はドラゴンが姫を捕らえている幽閉の塔へ向かう

幽閉の塔攻略の難しさの一つに、その険しい道のりがある

距離も数日、峻険な山岳、屈強な魔物、ドラゴン

私達はしっかりと蓄えた肉をロバの非常食に載せ、山岳を進む

導師や女兵士は緊張しているが、私はむしろにやけていた

この先にはどんな珍味が待っているのだろう

すっかり私自身が野生の猛獣である


それは人間を突き動かす、素晴らしいエネルギー

欲深い者は正義

まず私達を迎えたのは山羊の魔物たち

上等な山羊肉と言った方が良いか?

にやり

山羊達は明らかに私の気迫に震え上がって逃げ出そうとした

しかし私はたまたま手にした星降る腕輪の機動力で回り込んだ

導師「お師匠様、チート!」

女兵士「いつのまにあんなものを……」

魔法使い「なんか城下町のカジノでスライムレースで大穴開けて貰った」

導師「さすが強欲!」

女兵士「しかも豪運!」

私はそれに答えるように唱えた

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ!」

上等な山羊肉で食事を作る

焼き山羊肉に臭い消しのスパイス、チーズをかけて……

とろーり、うまーっ!

導師「お師匠様に付いてきて良かった!」

いやー、良い旅だなー

あれ?何のための旅だっけ?

仮にお姫様を解放したとしても勇者に引き渡せないと面倒だな〜

勇者が巨人がいなくなった後の街道を通り城に着くまで二日

その後王と謁見してこちらに向かうまで二日くらいか

最低でそのくらいを見積もっていれば正解かも知れない

ここから塔まで急げばあと一日だが、もう二日も時間を潰せば多少の誤差が有っても行き帰りの内に勇者に会えるはず

こんな小賢しい計算をしつつ私は周辺の魔物を倒すことでレベルアップすることを提案してみる

女兵士は新しい武器に馴染みたかったらしく、すぐに応じた

導師も何か新呪文のアイデアがあるらしく

比較的平たい土地を見つけて非常食……ロバを中心にキャンプを張った

干し蟹肉のスープが美味い

上手く干せたものだ

野晒しが良かったのか

それはそれとして、新たな肉、もとい、魔物の気配がする

ん、猿か

猿肉は不味そうなのでただ単純に焼き払った

やはり警戒されているようでその後も山羊肉や牛肉に襲われた

いや、肉じゃないが

導師「寝る暇が無さそうです」

女兵士「交代で見張りするか」

魔法使い「私はぜんぜん問題なし」

予定通りの日程をこなし、私達は塔に着いた

塔の中にはアンデッドや野人系などおよそ食えそうにない魔物が巣くっていた

メラ連射力をひたすら強化する

食えないゴミは焼却だ〜!

やがていかにもそれらしい門の前に着く

ついにドラゴンの肉に……じゃなくて姫様に手が届く

糞みたいな愚王も姫様に諭されて心を改めるかも知れない

ドラゴンのハンバーグ食べたいとかではなく

私達はドラゴンに対峙した

導師「美味そう」

ちょ、誰だこの子壊したの

私か

女兵士「いよいよドラゴンハンバーグを味わえるっすね?」

うん、その前に倒さないとね

ステーキ、倒す

ドラゴン「……口上を述べて良いか?」

ドラゴンは何故か震えながら聞いてきた

何故だろう?

屈強なドラゴンが何を怯えているのだろう

そんな美味しそうな肉で何を怯えるのか!

……

すみません

魔法使い「いいよ」

ドラゴン「そうか!」

ドラゴン「我が迷いの塔をよくぞ乗り越えた」

ドラゴン「この奥に汝等の求める姫は確かに在る!」

ドラゴン「汝等が栄光を求めるならば」

ドラゴン「我と言う闇に打ち勝って見せよ!!」

ドラゴンは高らかに叫ぶと、強烈な炎の息を吐き出した

しかし私達はトレーニングにより多少の攻撃は回避できるレベルになっていた

すかさず導師はマヒャドを放ち、女兵士は氷結斬りを放つ

私のメラはドラゴンにダメージを与え辛かったが

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラ……メラメラメラメラメラ!!」

力押しとはまさにこのこと

およそ五十発のメラを叩き込む

ドラゴン「ぐっはああああああああっ!!」

しかしそこは流石のドラゴン、肉弾攻撃で一人ずつ倒しにかかる

私もドラゴンに一撃をもらえば致命傷だ

魔法使い「ぐほっ!?」

食らった

その一撃で私の意識は遠い世界に連れて行かれた

その瞬間導師のベホマ……完全回復魔法が飛んでくる

どうやら回復呪文も効くようだ……助かった……

私は完全に意識を失う直前に立ち直った

しかし

すでに女兵士と導師は打ち倒されていた……

私にはメラしか使えない

ドラゴンに勝つ術はあまり多くない

ドラゴン「覚悟おおおおおおっ」

魔法使い「貴様だああああああああああっ!」

私はドラゴンの瞳に二指を突っ込んで唱えた

魔法使い「メラ!」

ぼごん、と言う音と共にドラゴンの頭がはじける

流石に頭を失っては竜と言えど命はない

こちらも指が折れた……

私はふらふらになりながら導師を起こす

導師「……あ……お師匠様……」

どうやら命は有るようだ

女兵士の方も起こしに行く

女兵士「前衛なのに真っ先にぶっ倒れて……申し訳ないっす」

そんなことよりドラゴンをさばこう

ついに憧れの竜の肉が手に入った

女兵士の剣で竜を裂く

血抜きをしてはらわたを取り出し、丁寧に皮を剥ぐ

これも高級品だ

持てるだけ持って帰ろう

そして肉をさばく

流石にこれだけの量を全部持ち帰るのは無理がある

ここでいくらか食べていこう

導師「んふふ」

野生の導師はのりのりである

塔の中で料理すると換気の問題で良くない

ひとまずドラゴンを導師の魔法と女兵士の腕力で塔から引きずり落とす

何か忘れてる気がするが……

気のせいか

ドラゴンを丁寧にさばき、大量の肉を手に入れた

とりあえず竜の皮を縫い合わせ袋を作りそこに詰め込んだ

これで最低三日は食べられる

残りは干し肉に

それでもまだまだ肉は余っている

悔しいが山野に返すしかない……が

その残った肉はこの場でステーキとハンバーグにする

どれだけ食べられるかは分からないが

まずは一枚、上等な腰の肉を焼く

塩胡椒する

肉汁が溢れ出し、芳醇な香りがあたりに広がる

導師「ん〜〜!」

女兵士「こっ、これは……」

二人のよだれがヤバい事になっている

焼いた一枚を三つに分けてとりあえず初めてのドラゴン肉を味わおう

導師「いただきますう〜!」

女兵士「いただきまっす!」

魔法使い「いただき」

口に入れた瞬間香ばしさと甘さが広がる

噛む度に旨味と脂の甘味が広がる

魔法使い「美味いっ!」

導師「美味しい!」

女兵士「ひゃ〜、最高!」

竜肉の薬効なのか全身の疲れが溶けるように無くなっていく

目的のドラゴンステーキを腹一杯食べた

もう一度ドラゴンと戦うのはキツいが、また食べたい

骨も薬品にできるので持ち帰りたいが、荷物は一杯なので諦めて放置

後で取りに来よう

さて、帰る前にハンバーグの下拵えでもしようかな

女兵士「さっきから何か忘れてないっすか?」

魔法使い「…………モツも食べてみるか」

女兵士「いや、そう言う話じゃなかったような」

導師「あーーーっ!」

あ、お姫様忘れてた

また塔に登らないと駄目なのか

面倒だから勇者に登らせたいが、まだ来る様子は無い

仕方ない

私達はまたゾンビだの仔竜だのを倒しつつ塔を登る

最初よりも楽々登れた

竜肉の効能で戦闘力が上がっているようだ

そして再び扉の前に立つ

私が鍵をメラで焼き切ると女兵士が力任せに扉を開いた

奥から可愛らしい女性の声がする

姫だろう

勇者であれば感動のシーンだろうが、私達には竜肉のついででしかない

消化イベントだ

姫「勇者様……じゃ無いみたいね」

姫「くっさ!」

姫「どこの田舎娘?」

なんだろう、どうでもいい相手に罵られると怒りが倍加する

魔法使い「置いてく?」

導師「ですね、なんか豪華な部屋でのんびりしてるみたいだし」

女兵士「これ、あのドラゴンが集めたのかな?」

女兵士が宝石に触るとお姫様の怒号が飛ぶ

姫「勝手に触らないで下さる?!」

姫「これは捕らわれた私を不憫に思ったお父様がわざわざ集めて下さった物なの、あなたのような下々の者が……」

言い終える前に平手打ちした

お姫様の首根っこを掴んで塔から落とす振りをする

姫「きゃあああああっ!」

どうもこの姫が城に帰っても良いことが無さそうだ

事故って事でちょっと落としてみるか

姫「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

魔法使い「他に言う事ある?」

魔法使い「辞世の句とか」

ちょっとからかっただけだが姫は泣き出した

導師「どうせ嘘泣きですけどそろそろ許してあげましょう」

魔法使い「うん、私も腕力無いから腕が痺れてきた」

女兵士「魔法使いですもんね」

姫「早く……助けて……」

おや、ガチ泣きでしたか

私は姫を引き戻してベッドに座った

ドラゴンの肉の薬効が切れてきたかも知れない

魔法使い「捕らわれてる間ご飯は何を食べてたの?」

姫「一応竜の使いが運んでくれた人間の料理を……」

姫「……ぐすっ」

薬が効き過ぎたようだ

魔法使い「竜の使いとやらが来たら面倒だし、降りる?」

女兵士「そっすね」

導師「姫様お腹空いてませんか?」

姫「えっと、空いてます」

導師「じゃあお肉食べます?」

姫「えっ?」

塔から降りると導師は非常食に吊り下げた袋から肉を取り出す

導師が選んだ肉……あれ多分巨人の肉だ

しかし姫は調理したその肉を美味しそうに食べた

導師「いたずらが過ぎましたかね?」

魔法使い「別に変な肉じゃないし、美味いし」

よく分からないフォローをしておいた

魔法使い「ここで勇者が来るのを待とうと思う、お姫様もそれでいい?」

お姫様は力無く頷いた

姫「勇者様、早く助けに来てください……」

勇者の事は特に好きでもないが、こんな性悪の相手をさせるのは申し訳ない気もする

何よりあの勇者はお人好し過ぎる

その夜はドラゴン肉の残りを食べ、姫にも振る舞った

姫「こんな上等なお肉……初めて食べましたわ」

魔法使い「ドラゴン肉です」

姫「えっ」

魔法使い「あなたを閉じ込めていたにっくきドラゴン肉です」

姫「は?」

姫「えええ〜〜〜っ!!」

導師「最高級の肉料理なのは間違いないですよ」

女兵士「私なんか生涯食べることも無かっただろうってくらい上等な肉ですよ?」

姫「ま、まあそれは分かりますわ……でも良く話をしていたものだから……あのドラゴンと……若干ショックで……」

そこでお姫様は気付いた

気付いてしまった

姫「昼のは、昼のお肉は?」

導師「あれは王国の街道を閉ざしていた、にっくき巨人の肉です」

姫「ふう……」

あ、気絶した

この姫も一週間くらい旅すれば野性に染まるのに

欲は大事だが分け与えることも同じだけ大事だ

獣の世界で独り占めなんかしたら殺される

そういう自然の摂理を学んでもらいたい

魔法使い「水を汲んでこようかな?」

導師「塔の北側に泉がありましたよ」

魔法使い「良く見てるね」

私はロバの非常食から荷物を下ろし、水袋だけを背負わせて連れて行く

姫「私も手伝わせてください」

は?

なんで?

姫「今回のことでよく分かりました、自分が口にする物はしっかり起源を調べないとダメだって……」

魔法使い「ちょっと成長したね」

魔法使い「私マージマタンゴ美味しそうに思うんだけど、どう?」

姫「あれ絶対毒ありますよね?」

魔法使い「青紫色のキノコだもんね」

姫「はあ……、私もそれくらい野生に染まった方が良いんですかね……」

魔法使い「まあオークの肉を躊躇なく食べられるくらいには」

姫「無理ですわ!」

魔法使い「自然の中では食える物は食わないと死ぬ」

魔法使い「しばらくは干した蟹モンスターの肉のスープやキノコ、山野草を食べてもらう」

姫「分かりましたわ……他に食べるもの無いんですよね……?」

魔法使い「味は最高に良いから、そこだけは保証する」

姫「あー、楽しみで仕方ありませんわ!」

まだ嫌味を言えるなら、元気だ

ドラゴンの肉が効いてるようだ

そう言えばドラゴンの肉には魔力を補う働きもあるのだが、私は魔力が尽きたことがない

メラ百発撃つと達人級の魔法使いでも疲弊する

私の魔力には底が無い……

泉に到着する

綺麗な水でお姫様も満足したようだ

水袋を洗ってから綺麗な水を貯める

姫「……この美味しい水も野生の物ですわね」

魔法使い「そう」

姫「私も少しはあなたのように強く……」

魔法使い「ん?」

姫「何でもありませんわ!」

その後ほとんど魔物の居なくなった塔で私達は眠った

火に当たれる野宿の方が楽ではあるが、塔の中の方が魔物の心配は少ない

やがて夜が明けた

この日も勇者は来ない

私達は付近の森で香草を取ったりした

肉はたくさん残っている

そろそろ魚も食べたいな

半魚人って食えるのかな?

釣るか

野草やキノコを採る間、ずっとお姫様も付いてきた

虫にも怖じないし、どうやら少し野生児に近付いてきたようだ

今のお姫様なら勇者を任せられる

後は動物を解体する所を見せてやろうかな?

まあ肉は大量に有るので当分そんな機会は無いが

姫「そう言えばあなた達は何のために旅をしてますの?」

姫「やっぱり魔王を倒すため……?」

どうも魔王を根っからの悪魔とするのも間違ってる気がしてきた

それに本質的な目的からはずれる

魔法使い「私にかけられた呪いを解くために」

姫「呪い……」

姫「西の魔法の町では?」

魔法使い「解けなかった」

姫「あらまあ……しつこい呪いですわね」

その言い方だと台所の汚れみたいだな

姫「ん〜、もう一つ可能性が有るとすれば、エルフの森ですかね?」

魔法使い「エルフ?」

姫「南の国が何度か交戦してるので危険ではありますが……長寿のエルフ達は私達の想像もつかないような秘術を持っていると聞きます」

姫「有名なのは飲み薬ですわね」

魔法使い「あの魔力を限界まで漲らせると言う……」

姫「そう、だから呪いを解く秘術もひょっとしたら……」

魔法使い「……有り難い情報」

姫「あなたのお役に立てて幸いですわ」

次の目標が決まった

私達が塔に帰ると導師と女兵士二人の他に人影が見えた

あれは……

魔法使い「あれ、勇者」

姫「えっ、勇者様?」

勇者は私に気付いた

港以来だろうか

少しは強くなったかな?

勇者「魔法使い!」

勇者は横にいるお姫様にも気付かず私に手を振った

ハグされる

魔法使い「こっちがあなたのお姫様」

私はお姫様を勇者に突き出した

勇者「あ、姫様、お助けに参りました……ってもう助けられてますね」

勇者「すごいな、ドラゴンを倒したのか?」

魔法使い「危なかった」

勇者「ひょっとしてあの巨人を倒したのも……」

魔法使い「私」

勇者「すごいな!」

勇者「なあ、魔法使い、やっぱり僕と魔王を倒しに行かないか?」

魔法使い「しつこい男は嫌われる」

魔法使い「それに……」

勇者「?」

魔法使い「私には魔王が悪の権化とは思えない」

魔法使い「今回も不戦協定を破ったのは浅ましい人間の王」

勇者「そ、そうなのか」

魔法使い「勇者、できれば王室に入りあの王を止めて欲しい」

魔法使い「お姫様」

姫「は、はい」

魔法使い「戦争、止められる?」

姫「……私にできるでしょうか?」

魔法使い「巨人の肉も竜の肉も平らげたお姫様が何を怖じ気づくの?」

お姫様は笑った

可愛い笑顔だった

勇者を任せるに足る…………

姫「私、やってみます!」

姫「勇者様もお力をお貸し下さいませ!」

お姫様は勇者に伏して頼み込んだ

勇者「ひ、姫様」

勇者「お顔をお上げ下さい」

魔法使い「勇者、戦士と武道家は?」

勇者「……城で享楽に耽っている……」

魔法使い「一人でここまで?」

勇者「ああ」

魔法使い「強くなったね……」

勇者「……君ほどじゃないさ」

私は勇者に竜の肉を振る舞った

今日は竜のテールスープ

その日は塔に泊まる

次の日から、キメラの翼を用意して無かったこともあって歩いて帰る

長い道のりだがお姫様も自分自身の足で歩く

お姫様も逞しくなってきた

私達はエルフの森に向かい、南の国との戦争を止める

二人は王の侵略行為を止める

そう言う方針で行くことにした

私の呪いもエルフなら解けるかも知れない

呪いを解くヒントも幾つか見つけた

導師と女兵士も私に着いてきてくれるし

きっと何とかなるはずだ

私は勇者にドラゴンを倒すまでの経緯を話しておいた

勇者はしきりに感心していた

帰り道の戦闘では勇者も十分な強さを見せてくれた

流石は勇者だ

呪いが解けたら、勇者と旅しても良かったかも知れない

あの二人が居なければ

お人好しな彼も流石に愛想が尽きただろう

でももうそれは無理だ

もう勇者はお姫様の物だ

それでいい

私が呪いを解いたら、どうするだろう

メラしか使えない、この呪いを解いたら

…………貴様の魔力はいずれ災禍の種となる…………

帰路、夜の見張りの間にメラの応用が出来ないか練習してみる

例えば空中に留めたり、逆に高速で打ち出したり、いくつかぶつけ合わせたり

そんなことをしていると勇者が見にきた

勇者「メラしか使えない」

勇者「……のに、良くもここまで応用が利くものだね」

魔法使い「メラしか使えないから、やらないと」

勇者「連続魔法のコツみたいなもの有るの?」

魔法使い「……ん〜?」

魔法使い「溢れ出る魔力に任せて呪文に転換する」

魔法使い「そもそもこの呪いは私の魔力を封じるためにかけられた物らしい」

勇者「そうなのか」

かけた本人が言っていたから間違いない

災禍の種と言われた極端に高い魔力

そして私が死ぬと他に魔力が移る

この呪いの穴はそこにある

回復や防御のような保護の力はこの壁を通れるのだ

しかし複雑な呪い

どうすれば解けるかは見当もつかない

勇者「その呪いを解く力になりたいな」

魔法使い「……勇者は優しいね」

魔法使い「でもこれからはお姫様にだけ優しくしてあげて」

魔法使い「ほら、私は肉と見れば魔物にも食らいつく女だから」

勇者「あはははっ!」

なぜそこで笑うのか

少し顔が熱い

勇者に見張りを任せて、今日は寝ることにする

城へと二人を送ると私達はエルフの森までの計画を練った

女兵士「途中城塞都市を抜けて行かないと駄目なんで、手形の準備してきます」

導師「ありがとう」

魔法使い「悪いね」

魔王の土地が近いのだからそういった物があるのも当然か

しかしお姫様をさらう程度の可愛いいたずらをしてくる魔王が、戦争を仕掛けてくるとは思えない

あっさり侵攻を許したり、兵力が足りていないのだろうか?

翌朝私達はキメラの翼を使いドラゴンの骨を回収

いい路銀になった

余った肉は残念ながら腐りもきていたので土に埋めてきた

まだ干し肉はあるけど

整備された街道をロバを引き、歩く

導師「ロバ車もついて快適になりましたね」

女兵士「干し肉を吊しまくった姿は異様だったしね……」

魔法使い「お金はたっぷり有るしこの辺りは都会、全く困らなくはあるのだけど」

導師「なんだか、つまらないですよね」

女兵士「分かる」

やがて城塞都市に辿り着く

一泊だけして通過

ここから更に東には魔王領

南西にはエルフと戦う南の国

南にはエルフの森

魔法使い「まぁ、真っ直ぐエルフの森かな?」

女兵士「何か食べるもの有りますかね?」

魔法使い「女兵士ちゃんも随分このパーティーに染まったな、ふふっ」

導師「感性が野人になって行きますね」

森に入って最初に出会ったのは

マージマタンゴだ

憧れ?の

魔法使い「高速メラ」

私は一撃でマージマタンゴを仕留めた

繊維に沿ってさくっと裂いて串に刺し

導師「だめえええっ!」

魔法使い「おうふっ」

激しく導師に止められた

わりと胸があった

どうでも良いが

魔法使い「大丈夫、多分キアリーとかの毒消しの魔法は効く」

女兵士「そういう問題?!」

私は二人が止めるのも聞かず裂いたマージマタンゴ肉を炙る

匂いは悪くない

導師「食べない食べない食べないこれは食べない」

女兵士「私も無理っすわ……」

魔法使い「ミミズ肉よりは良いはず」

女兵士「まさかミミズ肉も……」

魔法使い「食ったことは無いよ?」

とにかくしっかりと火を通したマタンゴ肉に塩だけ振り、かじる

魔法使い「おおっ……食える」

導師「キアリー!キアリー!」

導師「変な幻覚が出たらどうするんですか!」

魔法使い「ん〜、呪いがあるから多分弾かれると思うんだよね」

女兵士「それお師さんだけっすよね」

魔法使い「仕方ないな、他の食料も探すか」

既に魔物イコール食料になってるのはなんか問題ある気もするが

その後泥の魔物や木の魔物は出て来るが、食べられそうな魔物がなかなかいない

オークは……

女兵士「獣人は勘弁してください」

と言う事なので、やめた

巨人食べたくせに

とりあえず二人は干し肉を食べた

しかし森の中は方向が分かりづらい

今どの辺りだろう?

歩いている道はほとんど獣道

ロバ車もギリギリの道幅だ

どこからか人の声が聞こえる

前から駆けてきたのはエルフの娘だった

エルフ娘「た、助け……」

どうやら人間の兵士に追われているようだ

女兵士「南の国の兵士っすね」

導師「まさかエルフを拐かそうと……」

魔法使い「高速メラメラメラメラメラ」

五人ほどの兵士たちを先制でぐうの音も出なくなるまで叩きのめした

エルフの娘は女兵士に抱きついて震えている

魔法使い「どうしたの?」

出来るだけ優しく聞く

エルフ娘「森で木の実を拾っていたら……突然襲われて……」

導師「もう大丈夫ですよ」

女兵士「こいつらどうする?」

魔法使い「縛って小川に投げ込む」

女兵士「流石えげつない」

魔法使い「尊敬?」

女兵士「尊敬はしないっす、魔法以外は」

ここで私は悪癖を発揮してエルフ娘にドラゴンの干し肉を振る舞う

エルフ娘「お、美味しい」

女兵士「エルフって肉食うんだ?」

導師「狩人とかいますし食べるのでは?」

魔法使い「小食みたいだけど」

エルフ娘「これ……なんのお肉でしょう?」

魔法使い「ドラゴン肉」

エルフ娘「えっ」

魔法使い「ドラゴン肉」

エルフ娘の絶叫が響いたが、ちゃんと出された分は食べた

魔法使い「早速本題なのだけど、私の呪いを解ける人を探している」

エルフ娘「あなたの呪い……ん?」

エルフ娘「それは呪いなのですか?」

ん?

エルフ娘「……ちょっと私では無理ですが、長老になら出来るかも……」

魔法使い「会える?」

エルフ娘「助けていただいたお礼に、話をしてみます」

魔法使い「有り難い」

導師「一目見ただけで呪いの種類が分かったんですか?」

エルフ娘「はい、私達には魔力が色濃く見えますので」

女兵士「大出力の魔力だと色が着いて見えるっすね」

エルフ娘「はい、私達はそれが更にはっきりと」

それより気になることがある

魔法使い「呪いじゃないの、これ?」

エルフ娘「いえ、呪いと言えば呪いなのですが……保護する性質の呪いなんて有るんですかね?」

魔法使い「この呪いをかけた人は私が死ぬと困るようで」

導師「……なるほど、保護……」

導師「呪いと言うより祈りに近い物……だとすると解呪は効果無いですよね」

エルフ娘「後は長老に会ってから聞いてみて下さい」

魔法使い「ん、案内よろしく」

エルフの娘はなんとかロバ車の通れる道を通り、エルフの国に導いてくれた

エルフの長老ってすごい人見知りだろうな

人間に侵略されているわけだし

エルフ長老「いらっしゃひゃっほーーーっ!!」

導師「!?」

女兵士「なんかハイテンションなのが来たっすね」

魔法使い「予想を裏切ってきた」

エルフ長老「えっ、なんでなんで?」

エルフ長老「妖精は本来陽気なんだよ〜!」

疲れるタイプだが、人間の愚王よりずっといい

それにしても長老で有りながら若い女性とは

エルフと言うのは本当に長命なのだなあ

魔法使い「何か仕事ある?」

エルフ長老「ほへっ?」

女兵士「いきなりっすね」

エルフ長老「なるほど、その呪いを解いて欲しいからなんか仕事すると」

エルフ長老「とけねーよそれ」

はっきり返された

エルフ長老「ああ、仕事はあるの、南の国と和平結んで欲しい」

魔法使い「いいよ」

導師「で、でも呪いを解けないんじゃ……」

エルフ長老「解けるかもな人紹介しちゃう!」

導師「そ、それなら良いですけど」

魔法使い「停戦は元々の方針でもあるし」

魔法使い「呪いを解ける解けないじゃなく、メリットが有るか無いかだと」

魔法使い「醜い略奪をやめさせるのは私にもメリットがある」

女兵士「まあ旅したり獲物取ったりするのに人間の兵隊や戦争は邪魔っすね」

魔法使い「分かってきたね」

女兵士「自由大好きっすもんね」

争いは私がやる物だ

なんだかそんな風に思った

エルフ長老「助かる〜!」

エルフ長老「じゃあじゃあ、エルフの兵士一人連れてく?」

女兵士「ああ、前衛は助かるっす!」

エルフ長老「まあエルフだし体力無いけどー、わりと力持ちな子でー」

喋り方が苛ついてきた

まあ良いけど

長老は娘にエルフの兵士を呼ばせた

魔法使い「そう言えば長老に一つ聞きたいことが」

エルフ長老「何々〜?」

魔法使い「マージマタンゴの食べ方」

導師「やめてください」

女兵士「何故こだわる」

エルフ長老「マージマタンゴね〜、塩漬けにしたら美味いよ〜」

導師「え、毒は?」

エルフ長老「河豚毒は塩蔵一年くらいかかるけどマタンゴは三カ月も塩漬けしたら抜ける〜」

エルフ長老「塩蔵せず食べ過ぎると中る〜」

女兵士「面倒っすね、つかやっぱり毒あるんだ」

導師「よし、食べない!」

エルフ長老「ちょうど塩蔵品あるよ〜」

導師「出さない!」

そこにエルフの女兵士がやってきた

エルフ兵「お待たせしました長老」

エルフ長老「ん〜、待ってたっけ〜?」

導師「待ってた待ってた」

エルフ長老「あっ、そっか〜、戦争止めてきて〜!」

エルフ兵「えっ」

エルフ長老「この人たち協力者〜」

なんだか乱暴に紹介された

エルフのイメージがだいぶ狂ったな

エルフ兵「人間……こんな奥地にまで……」

どうやら普通のエルフには歓迎されていないらしい

これが普通だよね

なんだか落ち着いた

女兵士「ちょっと手合わせしないっすか?」

エルフ兵「なに?」

エルフ長老「あ、面白そう〜!」

魔法使い「ふむ、戦力は把握しておきたい」

魔法使い「確認するけど、戦争を止めたらいいんだよね?」

エルフ長老「うん……ん…………まさか……?」

勘は悪くないんだなあ、流石はエルフの長老だ

エルフ長老「魔法使い殿〜、お主も悪よのう〜!」

魔法使い「長老こそ」

エルフ長老「んふふ、あいつらにうちの娘だいぶ拐かされたからね〜!」

エルフ長老「はっきり言ってご立腹なの〜!」

エルフ長老「エルフ兵ちゃん、思いっきりやっておしまい!」

エルフ兵「えっ、はあ……」

女兵士「さあさあ、やるっすよ〜!」

エルフ兵と女兵士はその場で打ち合いを始めた

エルフ兵は隙を見ては魔法を放つ

攻撃魔法から呪詛まで、かなり幅が広い

だが金に物を言わせて揃えた女兵士の装備は魔法に強い、いわゆる魔法の鎧だ

面白い戦いになってきた

エルフ兵「くっ、やるな!」

女兵士「力じゃ負けないっす!」

そうは言いつつも女兵士も頭を使い、剣を振りかざし魔法を放つ

対ドラゴンに用意した剣、吹雪の剣だ

勝負は女兵士に分があった

エルフ長老「まあ、そこまでだね〜」

魔法使い「そうそう、力の振るい所が違うしね」

エルフの長老はしっかりとした口調で言った

エルフ長老「エルフ兵さん、女兵士さん、懲らしめてやりなさい!」

導師「誰を?!」

魔法使い「南の国の軍を沈黙させ、こちらに有利な条約を突きつける」

導師「ひょえっ!?」

導師はたった四人で軍隊と戦うと思ったらしく、かなり慌てた

まあそれでも良いのだが

魔法使い「軍隊はエルフさんたちに借りる」

魔法使い「私達は敵陣をかき回すだけ」

女兵士「おおっ」

エルフ兵「出来るのか?」

魔法使い「まあ多分」

導師「でも……場合によってはドラゴンより厳しい敵ですよ?」

魔法使い「まあね」

私達は長老に書状と証をもらい、エルフ軍本陣に向かう

本陣ではエルフにしてはゴツゴツした兵士達がたむろしていた

いい雰囲気だ

士気は低くない

やはり弓兵が多い

基本的な戦術は森での待ち伏せのようだ

エルフの将軍に会う

エルフ将軍「ふむ、この間延びした文体は確かに長老の書状、協力傷み入る」

そこで判断するのか

私は戦場の状況、密偵の報告から割り出した敵陣の形状を把握する

敵兵は二万、こちらは五千

これで良く守っているな……

まず私は全軍を退かせるように提案

エルフ将軍「なっ……」

導師「守りの軍退いちゃうんですか?」

魔法使い「うん」

エルフ将軍「なるほど、敵を……誘い入れると言う事か」

魔法使い「察しがいい」

私は地図を指し示す

魔法使い「ここに水場があるから、多分この辺りに兵糧庫がある」

魔法使い「私達はそれを焼きに行く」

エルフ将軍「むう……」

将軍は頭を掻いた

私の提案をどうして思いつかなかったのか、と言った風だ

しかし敵陣奥に斬り込める兵がいないとこの策は成立しない

だから今

私達が来たから出来る策なのだ

翌朝、私達は数人の兵を伴い移動

部隊を退く前に前線から森の中に隠れる

エルフの特徴である尖った耳を隠し、エルフ兵達が先導する

もし見つかっても旅人と見せるためだ

準備が整うとゆっくり前線の部隊が退いていく

しばらくは息を潜めるしかない

非常用の糧食を食べる

火が使えないので冷えてるが、仕方ない

そのまま数日……冷たい糧食に飽きた頃

導師「……敵が動き始めました!」

女兵士「早くこい〜早くこい〜」

エルフ兵「これで……」

魔法使い「敵の補給線は延びきり、そのタイミングで兵糧庫を焼き討ちしたらパニックに陥る」

エルフ兵「そこを本陣から火矢で攻める……」

魔法使い「挟み撃ち」

エルフ兵「森を焼いてしまうのは胸が痛むが、しかし……」

魔法使い「エルフさん達には思い付きづらい戦術かもね……」

導師「森が無くなっちゃう……」

女兵士「戦争っすから、仕方ないっすね……」

エルフ兵「だが、だからこそ敵の裏を突ける……!」

魔法使い「ぐずぐずしてたら兵站を移されてしまう、敵の大隊が通り過ぎたら行くよ」

エルフ兵「分かりました」

女兵士「ラジャっす」

導師「緊張してきました〜!」

しばらくは森の中を進む

しかし街道に出ると所々警戒が強い場所がある

強行突破するには距離があるので遠回りして奥へ、奥へ

女兵士「あ、美味そうな猪がいる」

魔法使い「勝ったらたっぷり食べよう」

女兵士「しばらくはひもじいのも仕方ないっすね」

ほぼ半日歩き、ようやく水場を確認

この近くに兵糧庫が無ければ不味いが、当然敵も隠しているはず

どこにあるのか……

暗闇の中、兵の出入りの激しいポイントを見つけた

エルフ兵「ここだな……!」

女兵士「行きましょう!」

やっと思いっきり戦える

一度に五十人程度なら不意打ちで倒せるはず

まず森の中から兵糧庫に

魔法使い「メラメラメラメラメラ……」

積み上がった小麦粉が吹き出し、爆発を起こす

導師「わわっ、フバーハ!」

導師は炎を防ぐ呪文を放った

魔法使い「少し離れた方がいい」

かなり広い兵糧庫を焼き尽くし、敵の退路を断つために数ヶ所で火を放つ

何人かなぎ倒した末、敵将と思しき人物に遭遇した

敵将「ひ、火を放ったは貴様等か!」

敵将「……ネズミがっ!」

あの敵将が着ている鎧は魔法の鎧だ

私は前に出た

女兵士「お師さん、そいつにメラは……!」

私は、にやりと笑う

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ」

敵将「な、なんじゃこのメラは……空中で止まっとる……」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラ……」

敵将「はははっ、ワシにこんな小さい魔法など効く……きぐっ?!」

敵将は急にもがき始めた

魔法使い「残念……酸素を吸わないと人間は死ぬ」

導師「お師匠様、空気を焼いて……」

女兵士「魔法防御関係ねえな……!」

私はメラを消し、敵将を縛り上げ

導師に蘇生をかけさせた

導師「ザオラル!」

敵将「……はっ!?」

魔法使い「捕虜ゲット〜」

エルフ兵「ははっ、お見事だ」

私達は捕虜に聞き出した敵兵の手薄な所を奇襲し、焼き討ち

これで南の国への退路を断った

その後エルフ達の攻勢に遭った敵の大隊は城塞都市に逃げていった

私達は南の国に程近い山の中に身を隠してタイミングを見計らう

……南の国に乗り込む

エルフ達はもぬけの殻になった敵の砦を次々に占領

これで勝ちは決まった

……………………

南の王「して」

南の王「エルフの森への不可侵」

南の王「武装の解除と降伏宣言、これは分かる」

南の王「ふふふ……エルフに不埒を働いた者達の処刑、これも当然と言えよう」

南の王「……で、じゃ……」

南の王「なんでワシが裸で土下座行脚せねばならんのじゃ!!」

魔法使い「メラ」

南の王「痛いッ!」

魔法使い「パンツははいて良い」

魔法使い「まだ何か?」

南の王「じゃって、ワシ六十……」

魔法使い「メラ」

南の王「ギャッ!」

南の王「その小さいメラ地味に痛いのじゃ!」

魔法使い「犬の躾用?」

南の王「動物虐待反対じゃっ!」

魔法使い「あんたが無駄に戦争を起こした結果苦しんだ領民に謝罪するだけ」

魔法使い「別に敵に謝れとは言ってない」

南の王「しかしっ、王の威厳が……」

魔法使い「あんたが居なくても代わりいっぱいいるから」

魔法使い「あんたんとこの捕虜に聞いた所、反戦派の王族がいるらしいね」

魔法使い「その人に治めてもらうわ」

南の王「ワシ恥のかき損ッ!!」

魔法使い「メラ」

南の王「痛いッ!」

魔法使い「ちょっと面白かった」

南の王「ひどい」

こうして数日後には南の国は反戦派の国王を立て、エルフとの共存を宣言した

魔法使い「よし、なんとか終わった、帰ろ」

エルフ兵「エルフの国で戦勝祝いの準備がしてあります」

導師「やっとゆっくり温かいもの食べられますね〜」

女兵士「もう今ならマタンゴ肉でもかじりつきたいっすよ〜」

魔法使い「長老に頼んどく」

女兵士「ちょっ」

冗談っすよ〜、とか言ってたが晩餐にマタンゴ肉の塩漬けがあったのを気付かず食べていた

美味しそうな顔をしてたから内緒にしておこう

エルフ長老「いや〜、魔法使いちゃんお見事〜!」

エルフ長老「ひと月も待たずに戦争終わっちゃったよ〜!」

魔法使い「森焼いちゃったけどね」

エルフ長老「それはこれから人間達と植樹してなんとか蘇らせる〜」

魔法使い「そう言えば呪いを解ける人を教えてもらえるんだった」

導師「……いよいよですね……!」

エルフ長老「まあまあ、ちょっとアレな話だからさ〜」

エルフ長老「今日は戦勝祝いを楽しんでね〜!」

魔法使い「楽しむ」

導師「お師匠様、鹿肉がありますよ〜!」

魔法使い「食う」

エルフ兵「面白い人だ……」

エルフ長老「エルフ兵ちゃん〜、分かってるよね〜?」

エルフ兵「はい」

エルフ兵「彼女を無事にあそこに送り届けます」

楽しい宴が始まる

ドラゴン肉パーティー以来の充実感

ただエルフは小食でお酒はわりと飲むタイプ

私は森で猪を見つけ、エルフの弓兵に捕らえてもらう

森の中で手早く解体し、スライスして野菜と炒めたりして調理

晩餐を盛り上げた

エルフ長老「主役なのに何やってんの〜、あははっ!」

女兵士「いや美味いっすよこれ!」

導師「久し振りのたっぷりお肉っ!」

エルフ兵「ははっ、飽きない旅が出来そうだな」

女兵士「おー、楽しいよ!」

導師「けものパーティーにようこそ!」

エルフ長老「いーねー、ナチュラルでワイルドだね〜!」

たっぷりと楽しんだ後、エルフの宿屋でお風呂とベッドにありついた

すっかり疲れが取れて、朝

長老の下に集まる

長老「じゃあ皆、ちょっと魔王の国に行ってもらうよ〜!」

魔法使い「まあここまで来たら魔王の国しか無いよね」

導師「い、いよいよですね」

女兵士「めっちゃ駆け足だった気がするなあ」

エルフ兵「……」

エルフ兵「道案内は任せて欲しい」

魔法使い「魔王の国なのに道案内、ね……」

エルフ長老「魔法使いちゃん察しがいいね〜、隠しても無駄かな〜」

エルフ兵「魔王の国で会うのは、私の姉です」

魔法使い「!」

導師「魔王の国に住むエルフもいるんですね?」

女兵士「何のために?」

エルフ兵「それは……知らない」

魔法使い「その回答、無難」

導師「言えない事情も有りますよね」

エルフ長老「怖いな〜」

魔法使い「まあ、聞かないでおく」

エルフ兵「すみません……」

恐らくエルフと魔王の間には何らかの密約があるのだろう

その事を人間に知られたらまた再び攻められるかも知れない、と……

エルフ兵はロバ車に荷物を積み込んだ

いよいよ魔王の拠点、魔王領へ……!

導師「ふぁいとーっ!」

女兵士「叫んだら魔物出るよ姐さん」

エルフ兵「この近くに沼がある……ガメゴンに気をつけろ」

魔法使い「焼きガメか……滋養によさげ」

エルフ兵「食うんですか?!」

女兵士「いつもの事っすね」

導師「ドラゴン系だからだいぶマシかな〜」

女兵士「もう無くなったけど巨人肉食ってたからね」

エルフ兵「きょじっ……!?」

導師「ドラゴン肉はまだ干したのが」

エルフ兵「ドラゴン肉……そう言えば森の娘が食べたって言ってましたね……」

魔法使い「ぜひ食べてみて」

エルフ兵「えっ」

お昼、他に食料も無いのでドラゴンの干し肉を食べさせた

エルフ兵「うう……なんだか元気が出る味でした……」

導師「美味しいよね〜っ」

エルフ兵「ま、まあ確かに」

その後ガメゴンに遭遇

食料が無いので狩る

導師「お師匠様、反射呪文マホカンタをかけられたらどうします?」

魔法使い「物理的にメラで熱した石をぶつける」

女兵士「器用っすね!」

エルフ兵「君たちのリーダーはメラだけで魔王を倒しそうだな」

導師「倒すんじゃないですかね?」

女兵士「あー、倒すんだろうなあ」

エルフ兵「……魔王にメラって……」

ガメゴンの硬い殻を割って肉をさばいた

これは……臭いがキツい……

不思議な旨味があるが、香草などで相当ごまかさないと食べられなかった

次にマンモスの魔物を見付ける

魔法使い「マンモスって美味いのかな……?」

エルフ兵「え、いや、やめませんか?」

導師「お師匠様を止めるには十分な食料が必要です」

女兵士「野生児マックスだからな」

結局マンモスもステーキになった

導師「おお……結構いけます!」

女兵士「ほんとだ……思ったより柔らかい」

エルフ兵「うん……わりと美味い」

これでだいぶ食料問題は解決

魔王領に入って数日、高い山に登る

恐竜がいた!

導師「美味しい食材発見っ!」

女兵士「よっしゃーっ!」

エルフ兵「楽しみだな」

どうやら食の細いエルフ兵もこの道に染まり始めたようだ

エルフ兵「いや、知的好奇心と言うか……」

みんなでたっぷり美味い肉を味わおう

山頂に辿り着くとそこに開いた洞窟に入る

洞窟の中の魔物は水系や氷結系でメラが良く効くのが幸いだ

イエティって食えるかな?

導師「止めておきますね」

残念

そこで私が見つけたのは魚系の魔物

久し振りに魚が食える!

小さいイカの魔物も出てきて

これが美味かった

溢れる肉汁、広がる甘味、旨味、しっかりかつモチモチとした歯ごたえの肉が焼けば香ばしく……

導師「イカの魔物百匹くらい狩ってきます!」

おう、いっといで

山のようなイカを食料袋に詰め込み、階下へ

やっと目的の部屋に着く

エルフ兵「ずいぶん大変な……大変だったかな?」

エルフ兵「大変だったかも知れない道程、ご苦労様でした」

なんだか気を使わせて申し訳ない

エルフ兵「居るといいけど……」

エルフ兵が部屋に入ると暖かい風が流れ出る

部屋は暖房が効いているようだ

私達の周りには常にメラが漂っているので暖かいが

部屋の中から叫び声がしたので慌てて駆け込む

そこにいたのはエルフ兵とその姉と思しき銀の眼鏡を着けたエルフ……

なんだか不自然に絡まり合っている

眼鏡エルフ「人肌〜うふふ……」

エルフ兵「こ、こんな所に閉じこもっているからおかしくなったか!」

眼鏡エルフ「え〜、ずっとこんな感じでしょ〜、うふふ……すべすべ」

え〜と

魔法使い「メラ」

眼鏡エルフ「あちいっ!?」

眼鏡エルフ「あら、お客様?」

眼鏡エルフ「初対面でいきなり攻撃ってどんだけ無礼なの!?」

エルフ兵「初対面なのに無視して妹に絡んでる方が失礼だ」

帰ろっかな?

女兵士「一応話聞きましょ?」

いいけど

眼鏡エルフ「ん?」

眼鏡エルフ「また、やっかいげな呪い……」

眼鏡エルフ「私に解けって?」

導師「こちらの方がお姉さんです?」

エルフ兵「はい、ちょっと壊れてますが……」

エルフ兵「ここでさるお方に請われてある封印を解こうとしているのです」

魔法使い「ふむ」

眼鏡エルフ「こわれてこわれた……魔王に……天国の扉の封印なんだけどね」

魔王……天国の扉?

エルフ兵「姉さん、それは機密……!」

眼鏡エルフ「いや、構わない」

眼鏡エルフ「どうせあんたら魔王に会うんだから」

薄々分かっていたが、嫌な展開だ

眼鏡エルフ「あんたの呪いをかけたのは」

眼鏡エルフ「どう考えたって魔王」

眼鏡エルフ「私は世界一封印だの呪いに詳しくて」

眼鏡エルフ「二番目は魔王」

眼鏡エルフ「つまり私しか解けない呪いは魔王にしか作れない」

眼鏡エルフ「でね、これ」

眼鏡エルフ「呪いって言うのはかけるより解くのが大変なのよ」

眼鏡エルフ「特殊な機序の呪いはそれを理解して把握してる人にしかほぼ解けないの」

眼鏡エルフ「暗号を知ってたら解読できるけど知らないと読めないようなものね」

眼鏡エルフ「だからそれ、魔王にしか解けないの」

眼鏡エルフ「ま、魔王に会って死んでこいって感じ?」

エルフ兵「死んでこいは酷いだろう」

眼鏡エルフ「でも魔王だぞ?」

魔王……

あの綺麗なお姉さんが……

眼鏡エルフ「魔王が決めて呪いをかけたんだから魔王は解かない、解くには魔王をぶっ殺すしかない」

眼鏡エルフ「ほら死んだ」

確かに

メラで魔王を倒せると導師達は言うが、実際にはそんな簡単にいくはずがない

でも行くしか……ないか

眼鏡エルフ「そうだ、一つ良い物をあげよう」

眼鏡エルフ「天国への扉を開いて完全な死者をも蘇らせる」

眼鏡エルフ「いわゆる、世界樹の葉」

眼鏡エルフ「研究のために一枚だけ有るんだけどね」

眼鏡エルフ「まあ一枚じゃ無駄だろうけど」

とりあえず受け取る

しかし魔王……

…………

決めた

なぜ魔王がわざわざ私にこんな厄介な呪いをかけたのか、聞きに行こう

それで諦められるなら、諦める

そうしよう

女兵士「お師さんがそう決めたなら」

導師「……行きます」

導師「魔王に会いに」

分かっている

もう魔王に会わなければ、私の旅は終わりも始まりもしない所に来ている…………

魔王に…………会いに行く!

魔王に会いに行くとなって、私は急に不安に襲われた

勇者はどうしてるだろう?

魔王と会うためには勇者の力も必要なのではないか

私達は一旦東の国へ帰ることにした

エルフ兵の姉に別れを告げ、導師の脱出の呪文、リレミトで洞窟から出る

キメラの翼を一枚投げると、大変だった旅が嘘のように

私達は東の国へ帰ってきた

東の国は物々しい雰囲気に包まれていた

いったい何が……

お姫様……大丈夫だろうか?

私はその辺の男を捕まえて聞く

何があったのか

男「クーデターだ!」

男「姫様と勇者、騎士団が組んで国王を牢獄に幽閉した!」

ちょっ

大胆にも程がある

大胆にも程があるだろう!

女兵士「すげえ、姫さんやりやがったな!」

導師「流石は我等が野生児同盟の一員……」

いつの間にそんな同盟を……

しかしあの愚王が折れず、温厚だが他人に流される勇者を勇敢になった姫様が説得してこうなった

という流れが分からなくもない

しかし大胆だ

私は何としても二人の話を聞いておきたくなった

城まで駆けていく

速く走れて良かった

城の入り口は騎士が固めていたが、私を見るとすぐに城に入れてくれた

迎えに来たのはお姫様その人

姫「やりました……」

姫「魔法使いさん、私……」

戦争を止めろとは言ったが、まさかここまでするなんて

でも姫様の様子を見ていたら分かった

これは本当に苦渋の決断だったと

私に言えたのは一言

魔法使い「よくやった」

お姫様の頭を抱き寄せた

お姫様は泣いている

愛すべき肉親を牢獄に投げ込んだ悲しみではなく

自分が立ち上がったことを誇りに思って泣いている

私はなんだかとても嬉しくなって貰い泣き

この国を守る為には戦いが必要だったのだ

彼女は重い決断を乗り越えた

そう、強かった

単純に強いと言う事はこんなにも胸を打つ……

私がこの国に帰ってきたのは勇者に助けを求めるため

それは自分の中に残っていた弱さ故だった

だから彼女の強さが胸に染みた

それから私は勇者と会う

最後の時にそこにいて欲しかったから

今の私にある強さ

それをくれたのは

きっとあの始まりの酒場で、声をかけてくれた彼だったから

お姫様が勇者を呼ぶ

おそらくは忙しく走り回っているだろう彼を一時とは言えここから連れ去るのは忍びないが

相手は魔王だから

私は彼にいて欲しい

勇者「ついに……魔王と対峙するのか……」

魔法使い「私の呪いの理由を聞きに行く」

勇者「倒すのか?」

魔法使い「戦うならば」

勇者「一緒にいて、いいのか?」

魔法使い「一緒にいて欲しい」

勇者「保護者みたいな?」

魔法使い「あははっ、そうだね」

魔法使い「巣立ちを見守って欲しい小鳥の気持ちかな」

勇者「ドラゴンも食うのに小鳥?」

魔法使い「確かに!」

やっぱり勇者は私を強くしてくれる

大切な幼馴染み

勇者「僕は魔法使いの事が好きだ」

魔法使い「ほあっ!?」

勇者「そして姫様が好きだ」

魔法使い「う、うん」

勇者「好きなんだ、弱い自分を乗り越え強くなっていく人達が」

勇者「だからぜひ、見守らせて欲しい」

魔法使い「ほんとに……勇者は慈悲深いと言うか……憧れてしまう程に……」

魔法使い「例え倒れるとしても、看取って欲しい」

私の覚悟は決まった

しかし魔王の居城への道は半端ではない険しさ

姫様には許可を得ているが勇者を連れてなお一週間以上の旅

途中ドラゴンがたくさん出てきて最高の肉が食べられたが

いやいや

過酷な高山を越え……

巨人もたくさん出てきたから食ったが

いやいや

魔法使い「敵も増えたし過酷な旅なのに何故か楽しいんだが」

勇者「肉ばっかり食べてるから?」

導師「たくさん歩いてなかったら確実に太りますね」

女兵士「竜肉とか体力完全に回復してくれますし」

エルフ兵「なんだか不思議な心地よさがあるんだな」

分かる

私にとっては憧れだった勇者との旅

私自身が自分の無能さ故の激しいコンプレックスがあって受け入れられなかった

勇者との旅を

今は堂々とできる

気付いた

今このパーティーを率いているのは自分なんだ

その自分が、自信に満ち溢れている

いつかお姫様に言った自分の言葉を思い出す

『巨人の肉も竜の肉も平らげたお姫様が何を怖じ気づくの?』

躊躇してるのは私らしくない

魔王も

平らげてやろうじゃないの!

流石に熾烈を極める魔王城周辺

いくつかの魔物の軍隊を相手取る

大型故、数は少ないが強敵ばかり

超高速

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……メラメラメラメラメラメラ!!」

数体の魔物を一瞬で葬り去る

エルフ兵「魔法使いさん……なんたる魔力……」

勇者「すごいとしか言えない……!」

導師「届かないな……この魔力」

女兵士「ふはは……私役に立つかな?」

前例通り私の魔力は尽きない

目の前にあるのは焼け野原

後ろには灰の山

導師「うむむ〜っ!」

導師「ベギラゴン、マヒャド、イオナズ〜〜〜ンっ!!」

ドラゴン肉は魔力も回復する

導師も獅子奮迅の大活躍だ

魔王の主力軍が火山に落ちる小石のように心許ない

まるで落ち着いた庭園を散歩するように魔王の城に辿り着いた

魔王が引き笑いをしているのが見える気がする

城の中で遂に最強の側近と相見える

炎の化身……

私の倒すべき敵だ

女兵士の吹雪の一撃や導師のマヒャドは大きなダメージを与えられているようだ

私はメラをとにかく空中停止で無尽蔵に放つ

魔法使い「メラ、メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……」

炎の魔物はどうして火山で無限に巨大になったり熱くなったりしないのだろう?

答えは簡単、そうなれないから

それは例えば酸素や燃料、魔力を束ねる意思の限界など、何らかの制限があるからだ

ならばそれを打ち壊したら彼らはどうなるだろう

生命が形を保てるのは、リミッターが存在する故である

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……!」

最初から感じていたが

私の魔力にリミッターなんか存在しない

この力……私が呪いを受け封じられた力とは…………

炎の側近は思っただろう

自分が火に焼かれて死ぬと思わなかった、と

束ねに束ねた炎を一気に撃ち込む

核まで燃え尽き、炎は消えた

…………

ついに来た

……………………

ついに

魔王がそこにいた

薄暗い部屋の中、荘厳な玉座に腰掛け、小さな冠を着けた

赤い髪に冷たい目線で少し気怠そうな、かつて見た美しい顔立ちのままの

魔王が、現れた

魔王「懐かしいな、その魔力」

魔法使い「久し振り」

魔王「やはり私の呪いなど小細工に過ぎなかったかな」

魔王が

なんとなく震えている?

魔法使い「何故私にこんな呪いをかけたか、聞きに来た」

魔王「……ここまで来たお前にはもう分かっているだろう」

魔王「お前のその力は世界の形有ろうとする物全てを破壊する…………破壊神の力」

理解した

魔王

きっとあなたは破滅を防ごうとしたのだろう

魔法使い「あなたは正しかった」

魔法使い「それが知れて、良かった」

魔王「ふふ、泣けることを言うじゃないか」

魔王「知ってるか?」

魔王「魔王とは破壊神を抑え込む最後の砦でもあると言われている」

勇者「破壊神を抑え込む……勇者の仕事のようだな」

魔王「おお、神託を受けた勇者まできたか」

魔王「いよいよあの世が近付いた」

魔法使い「ご冗談を」

魔王は依然強い力を保っている

破壊神を抑え込む?

魔法使い「あなたは平和に暮らしたかったんだね」

魔王「私は、そうだ」

魔王「よって魔法使いよ、私に一つ提案がある」

魔王「世界の半分を渡そう、私の仲間にならないか?」

?!

一瞬、意味が分からなかった

およそ悪らしい悪も行わず、侵略さえ否定しているように見える魔王

その提案は世界を制圧しなければ叶えられない提案

その意図する所とは

そうか…………

この理不尽な状況、すなわち自分を閉じ込める世界のルールを共に破壊してみないかと言ってるんだ……

破壊神の無尽蔵な魔力を持って生まれてしまった私や

魔王として生まれた彼女自身……

天国への扉はそのために準備しているのだろう……

神へ直談判でもするつもりだったのかも知れない

その提案への答えは、もちろんイエスだった

だが、魔王の提案に乗るのではなく、私は私であるために

…………こう、答えた

魔法使い「半分じゃ…………足りない!」

魔王はにいっと口角を上げた

魔王「強欲なる魔法使いよ、ならばここで滅びるが良い!」

戦闘が始まった!

魔王は

果てしなく強かった

最強クラスの呪文を何連打もし

ただ見守りに来た勇者さえ危なかった

私はメラを空中で固めて魔王の呪文を緩和するのが精一杯で……

例え私の魔力が破壊神の物でも、今の私にはメラしか無かった

メラを唱えた

メラ

メラメラ

メラメラメラ

まず空気を焼いたが、力ずくで突破された

いくつも高速でぶつけたが

全て打ち消された

私はいつしかメラで結界を作り

メラを槍に変え

メラを星に変えた

魔王「紛い物で私は倒せんぞ!」

魔王「貴様の呪いを解く唯一の手段」

魔王「それは私を殺すことだ!!」

勇者「……無茶だ…………でも!」

導師「お師匠様〜〜!」

女兵士「まだいけるっすか?」

エルフ兵「あなたはエルフの英雄……負けないで!」

魔法使い「メラ……メラメラメラ……」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラ……」

そうだ

最初から私には

魔法使い「メラしか使えない!!」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ!!」

魔王「ぐっ、おおおおおおおおおっっ!!」

魔王にダメージが通っている

私は既に一回に百発を超えるメラを放っていた

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ……!!」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ…………メラメラメラメラメラメラメラ!!」

魔法使い「メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ!!」

魔王「ぐおおおおおおおおおっ!!」

私の全魔力を

ぶつけるだけだ!

魔王「ぐはっ!!」

ついに、私の放つ魔力は魔王を上回り……

魔王「うおおおおおおおおっっ!!」

魔王は、ゆっくりと膝をつき

そして…………倒れた!

魔法使い「…………!」

魔王が倒れた瞬間

私の中の何かが溢れ出す

神父様に教わったおよそ全ての魔法も使えるようになったのが分かる

私は遂に、私の目的を自分の力で果たしたのだ

私にかけられた呪いは完全に、解けた…………!

私は震え、その場で立ち尽くしていた

魔王を倒したことでひょっとしたら破壊神の力を制御できなくなるのではないか

そんな不安が無かった訳ではない

力の奔流に戸惑いもしたが

だが自分は自分

その自分の意志を信じた

結果今ここにいるのは私自身

仲間達の声がかかる

導師「ついに、魔王を……お師匠様!」

女兵士「やりやがった、流石だぜ!!」

エルフ兵「ふふ……背中に汗をかいた……素晴らしい戦いでした」

勇者「魔法使い」

勇者「君が本物の勇者だな!」

魔法使い「…………!!」

私は遂に目的を成し遂げた

だから私は満足し……

そして次にやることも決まっていた

その時――――


戦士「なんだ、魔王もう死んだのか?」

武道家「ちっ、俺らで手柄を立てて一旗揚げようと思ったのに…………!」

勇者たちが東の城でクーデターを起こした頃、この二人は居場所を無くしてしまったらしい

なんとか自分達が抱いていた、魔王を倒す勇者の仲間と言う妄想に縋ってここまで来たらしかった

私達がほとんどの敵軍を蹴散らした後で……

魔法使い「魔王を倒したいの?」

戦士「はあ?」

武道家「なんだお前、偉そうに」

魔法使い「魔王を倒したいんでしょう?」

戦士「……ああ!」

武道家「んだけど魔王はもう死んだんだろうが!」

私は魔王の小さな冠を拾い、さっきまで魔王が座っていた荘厳な玉座に

ゆっくりと腰掛けた

戦士「!」

武道家「それはてめえ、そう言うことで良いんだな?」

戦士「お前を殺したら俺達が魔王を倒したってことで…………!!」

ああ

それでいいから

魔法使い「そうだ、導師、あれを魔王にあげて」

導師「あれ、あ!」

導師は魔王に世界樹の葉を絞って与えた

魔王は息を吹き返した!

武道家「!?」

戦士「ま、魔王が……」

魔王「……なっ、なぜ……」

魔法使い「よく考えたら世界全部一人で統治とか無理だったわ」

魔法使い「それに」

魔法使い「私が災禍の種にならないよう、これからもよろしく」

魔王「は」

魔王「あっはっはっはっは!!」

魔王「最初からこうするつもりだったのか……」

魔王「お前は……面白い奴だ」

戦士と武道家はいきり立っている

戦士「俺達を無視してんじゃねえ!!」

武道家「無能者のくせに!」

まわりにいる全員がクスクス笑い出した

魔王もエルフ兵も女兵士も、可愛い導師や穏やかな勇者も笑う

戦士「な、なにがおかしい?」

武道家「くっ、お前を倒すだけだろうがっ!」

魔法使い「ああ、さっさと終わらせましょう」

武道家「けけっ、馬鹿め、俺達だって強くなってるんだぜ!」

戦士「手柄はもらったあっ!!」

二人が襲いかかってくる

およそこの世の全ての魔法を知り尽くし

無限に近い破壊神の魔力を持ち

魔王の玉座に座る覚悟を持った私は最初にこう唱えた

魔法使い「メラ」

――終わり――

かなり速い展開でしたがこれで終わりです
あとおまけが一個あります

武道家と戦士はめでたく灰になりました
まあ勝てないよね

スタートと最後の魔法使いが魔王の玉座に座るシーンだけ考えて始めたんですが総じてご飯要素多かったですね
あれが無かったら鬱々とした展開の末破壊神になった魔法使いが勇者に倒される鬱エンドになったかも

ともあれここまでお付き合いありがとうございました
たっぷりご飯食べて下さい

――おまけ――

導師達と、後から勇者に連れられてきたお姫様は、魔王城の台所を走り回っている

竜肉でシチューを作ったり恐竜の唐揚げや揚げ魚のあんかけを作ったり

旅の最中はあまり出来なかったパスタやご飯を使った料理

チーズやハム、新鮮な野菜のサラダや炒めもの、デザートも

それはそれは豪華なご馳走を作っていく

戦いが終わった記念に大パーティー

ただ椅子に座って待ってるのも暇だ

ふと、何故メラだけは使えたのか気になったので

魔王に聞く

魔王「そりゃ封印が完全だと逃げ場を無くした魔力が暴走して本当の破滅を招くからな」

魔王「言うならば魔力の逃げ場、水が貯まり続ける皮袋に開けた穴」

魔王「そこから呪いが破綻しないように滅茶苦茶気を使った」

魔王「まあメラならいいか、と、その辺りは適当だったな」

はあ、器用なことで

話が終わった所でパーティーは始まる

「かんぱ〜い!」

……その後、私達は世界を平和に支配し神に会って文句を言うのだが、それはまた別のお話

全てが終わったら私はまた旅に出るだろう

これまでの自由を得るための旅が無駄にならぬように

――終わり―― 
 
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この記事のコメント一覧
1 . @  ID:iRkJ1R3u0編集削除
ジョーカー
2 . かず  ID:qsbmIEcB0編集削除
全部読んだ。
3 . 名無しさん  ID:073WU9..0編集削除
し、しんじられん
4 . 名無しさん  ID:.6aiNEN30編集削除
テキストって要らなくね?
5 . 名無しさん  ID:JIKhxyq.0編集削除
やばい、凄いおもしろかったわ!
6 . 名無しさん  ID:uOnhNc5I0編集削除
よかった。
楽しい話、ありがとう。

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