男「ついに……ついに完成したぞ!」

女「なにこれ? ずいぶん大きいけど……」

男「名づけて……」

男「液体が満たされたカプセルに人の全身を入れてコポコポして傷を回復させる装置、だ」

女「長い……」



女「ようするに、ドラゴンボールに出てきたアレみたいなやつ?」

男「そう! アレみたいなやつ!」

女「で、これをどうするの?」

男「もちろん、これで商売するのさ」

女「ってことは売りつけるわけね。誰に売りつけるの?」

男「そりゃあ傷を回復させる装置だから、怪我しやすい職業の人に売るべきだろう」

女「だとしたら……工事現場とか、格闘ジムとか?」

男「いや……もっと売りつけたい場所がある」

男「ここだ」

女「ここって……思い切りヤのつく職業の人のおうちじゃない?」

男「その通り」

男「泣く子も黙る“竜牙組”の事務所だ」

女「……!」

女「えぇと、私帰っていい?」

男「まあまあ、せっかくだからお前も付き合えよ」

女「私、まだ死にたくなーい!」

男「はじめまして」

組長「なんじゃい、お前は」ギロッ

男「今この町では、竜牙組は“虎尾組”と、血で血を洗う抗争を繰り広げてますよね?」

男「暴対法も恐れず、隙あらばカチコミの日々」

男「お互い海外から大量の銃器を購入していて、今や警察もうかつに手を出せないくらいになってるとか」

組長「だったらなんだというんじゃ!」

女(こ、怖い……!)

男「実はこちらの組にお売りしたい装置がございまして」

組長「装置ィ〜?」

組長「どんな装置じゃい! はよ説明せい!」

男「液体が満たされたカプセルに人の全身を入れてコポコポして傷を回復させる装置、です」

組長「……」

組長「ようするに、ドラゴンボールのアレみたいなやつ?」

男「そう、アレです」

女(組長さん、ドラゴンボール知ってるんだ……)

男「これがあれば、虎尾組に負けることは絶対なくなりますよ!」

男「なぜなら、どんな重傷を負っても、生きてさえすれば治せますからね!」

組長「それがホントなら……たしかに欲しいところではある。ここんとこ毎日のように怪我人が出とるからのう」

組長「今日もきっと……」

組員A「オヤジィ! 大変でさあ!」ドタドタッ

組長「どうしたァ!?」

組員A「こいつが……今そこで虎尾組の野郎に撃たれやした!」

組員B「う、うう……」

組長「なんじゃとぉ!?」

組員B「あう、う……」

組長「しっかりせえ!」

組長「腹を撃たれとる……すぐワシの組指定の病院に連れていくんじゃ!」

組員A「へい!」

男「お待ち下さい」

組員A「なんだてめえは!?」

男「組長さん、この組員さんの治療……この装置に任せてもらえませんか?」

組長「なにぃ!?」

女「ええっ!?」

男「怪我を見る限り、重要な臓器を損傷しています。病院に運んでもまず助かりませんよ」

男「しかし、私の装置を使えば……」

組長「助かる、と?」

男「ええ……100%」

組長「いいじゃろう……この装置に賭けてみよう」

組長「ただし……もしこいつが死ねばおめえ、小指ぐらいじゃ済まさんぞ!」

男「もちろん」

女「ちょっ、大丈夫なの!?」

男「ではさっそく、この組員さんを中に入れて下さい」

組員A「えぇと……こうか?」ザバッ

組員B「ゴボッ……」

男「そうです。あとは私がやります」カチカチッ

組員B「……」コポコポ…

組員B「……」コポコポ…

男「コポコポが始まりました。あとは終わるのを待つだけです」

組長「おお、コポっとるのう」

組員A「コポってやがる……こんなんで本当に大丈夫なのかぁ〜?」

男「まあ、見ていて下さい」

ビーッ!

男「コポコポが終わったようです」

男「では組員さんを装置から出します」

ザバッ

組員B「……」

組長「どうじゃ?」

組員A「たしかにキズは塞がってるみてえですが……」

女(この人が生きてなきゃ意味ないわよ……?)

組員B「……」ムクッ

組員B「治ったぁぁぁぁぁっ!」

組長「おおっ!」

組員A「すげえ!」

男「いかがでしょう? 組長さん」

組長「いやはや……大したもんじゃ。あの重傷をこうもあっさり治すとは」

組長「分かった。この装置、購入しよう!」

男「ありがとうございます」

男「どうだ?」

女「すごい、大儲けじゃない!」

女「ただ……」

男「ただ?」

女「暴力団を助けちゃうなんて、なんだか複雑な気分」

女「いっちゃ悪いけど、あいつら助けても結局泣くのは善良な市民だし……」

男「……」

男「大丈夫、これでいいんだよ」

……

組員B「ハァ、ハァ……」ヨロヨロ…

組員A「お前! どこ行ってたんだ!?」

組員B「虎尾組にカチコミに……」

組員A「バカヤロウ! この前あんな怪我したばかりなのになんて無茶しやがる! すぐ病院に――」

組員B「いや……俺を今すぐあの装置に入れてくれぇ!」

組員A「えっ!?」

コポコポコポコポコポ…

組員B「治ったァ〜! 最高の気分だぜぇ!」

組員A「……」

組員A「ひょっとしてお前……わざと怪我してきたんじゃ……」

組員B「よく分かったな」

組員A「やっぱりか! なんでそんなこと……! ドMかよ!?」

組員B「なんでって、この装置にコポられるとメッチャ気持ちいいからだよ!」

組員A「えっ!?」

組員B「この中でコポってると、まるで無重力の中で全身をマッサージされてるような感じでさ……」

組員B「ここは極楽かよってくらい気持ちいいんだ!」

組員A「へえ……俺もやってみよっかな……」

組員B「やってみろ! ただし、傷があった方が絶対気持ちいいぜ。治ってく感触がたまらねえ」

組員A「だったら自分で……いてっ!」ザクッ

組員A「よし、入ってみるか」

コポコポコポコポコポ…

組員A「……」

組員B「どうだった?」

組員A「これ、超イイ!」

組員B「だろぉ〜?」

組員A「リストカットしてもう一回やろ!」

組員B「おいずるいぞ! 今度は俺だって!」

ゾロゾロ…

「どうしたどうした?」 「なに揉めてやがる」 「内輪揉めは虎尾組を潰してからやれや」

組員AB「あ、お前らにも教えてやるよ!」

しばらくして――

組長「ったく、あいつら近頃カチコミにも行かねえで、なにやってやがる……」

組長「……!?」

ワイワイ…

コポコポコポ…

「まだかな〜」 「早くコポりてえ〜!」 「一人10分だぞ〜!」

組長(あのコポコポ装置に行列ができてやがる……!)

組長「なにやっとんじゃ、てめえらァ!!!」

組員A「あ、組長!」

組員B「いやー、この通りみんなコポコポにハマっちゃって」

組長「なにい!?」

組長「遊んでねえで、とっとと虎尾組に乗り込んでこんかぁっ!」

組員A「えー……」

組員B「コポコポしてた方が楽しいし……」

組長「……!」

組長(あんの野郎、とんでもないもん売りつけやがって! ただじゃおかん!)

組員A「まあまあ、組長」ガシッ

組員B「せっかくだから組長も入ったらどうです? ほら!」グイグイ

組長「コラ、やめい!」

ザブゥンッ!

コポコポコポコポコポ…

組長「……」

組員A「どうでした、組長?」

組長「これ……超気持ちいい!!!」

組員B「でしょ?」

組長「よぉ〜し、みんなでもっとコポコポじゃ! 仲良う使うんじゃぞ!」

組員たち「は〜い!」

コポコポコポコポコポコポコポコポコポコポ…

とあるビルの屋上――

男「竜牙組の様子はどうだ?」

女「うん、みんなあの装置に群がってるよ。まるで砂糖に群がるアリみたい」

男「だろうな」

女「どんなマジック? ひょっとしてあの装置に変なクスリでも混ぜてたの?」

男「いや……ラリられたらかえって危ないしな。液体自体には本当に治療用の成分しか入ってない」

男「あの状況を作ったのは、あくまでコポコポの快感だけだ」

男「何度も何度もあの装置に入って、自分で実験して、最高のコポコポ感を味わえるようにしたんだから」

女(コポコポ感ってなに……)

男「装置開発で一番大変だったのは、俺自身がコポコポ中毒にならないようにすることだったよ」

女「だけど、どういうつもり?」

女「このままいけば、竜牙組は牙を抜かれた竜になるだろうけど……」

女「それはそれで、虎尾組がますます町にのさばっちゃうんじゃない?」

男「その心配はない」

女「なんで?」

男「だって、虎尾組にも全く同じ装置を売りつけたからな」

女「あ……!」

男「きっと今頃、虎尾組の事務所も……」

コポコポコポコポコポ…

キモチイイ〜 サイコウダ〜 カイカン〜

市長「……ありがとう」

市長「君のおかげで、みごと我が市の治安は回復した」

市長「これ、少ないが……受け取ってくれたまえ」パカッ

男「ありがたく」

女「なるほど……真の商売相手はこっちだったってわけね」

男「そういうことだ」

女「で、次はどうするの?」

男「そりゃもちろん、今回儲けた金であの装置をもっともっと量産して――」

男「いずれ世界中の治安をコポコポで回復させてみせるさ」

―おわり―  
 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:aaRPhd5C0編集削除
最近テキストは長くて読みずらかったんでスルーしてたけど、
こんくらい短くて読み易ければ、テキストもいいんじゃね、
と久しぶりに思わせてくれた。
最後の落ちがつまらんけど。
2 . 名無しさん  ID:cHK2mLuB0編集削除
祈とう師「これじゃ!!これにバイオブロリーを入れれば安心じゃ!!!」

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