魔法使い「はああああああ……!」

コポコポコポ…

魔法使い「できた! 容器の中に、小さな石が出来上がった!」

師匠「よくやった……ワシですら完成できなかった魔法をついに完成させおったか」

魔法使い「はい! これでボクは……隕石魔法を習得できたんですね!」

師匠「いや、尿路結石魔法じゃ」



魔法使い「は?」

魔法使い「ちょっと待って下さい! なんですか、尿路結石って!?」

師匠「主にシュウ酸カルシウムを成分とする、腎臓・尿管・膀胱・尿道にできる結石のことじゃ」

魔法使い「そんなこと聞いてるんじゃなくて!」

魔法使い「ボクは“石系魔法の最高峰を教える”と聞いて、あなたに弟子入りしたのに!」

魔法使い「だからてっきり隕石魔法かと……」

師匠「なんの、この魔法はすごいぞ。体内に自在に尿路結石を作ったり操ったりできるのだからな」

魔法使い「んなもん作ったり操ってどうするんですか!」

魔法使い「魔王が復活して、今世の中は優れた戦士を求めています」

魔法使い「そして、勇者様が近々、パーティー選考会を兼ねた闘技大会を開きます」

魔法使い「ボクはその大会で勝ち抜いて、勇者様の仲間になりたかったのに!」

魔法使い「こんな魔法でどう勝ち抜けってんですかぁ!」

師匠「尿路結石を甘く見てはいかんぞ。その激痛は、“痛みの王様(キングオブペイン)”とも称され――」

魔法使い「もういいです!」

魔法使い「今さら他の魔法を習得するなんて無理ですし、やるだけやってみますよ」


闘技大会当日――

ワイワイ… ワイワイ…

魔法使い(強そうな人がいっぱいだ……)

魔法使い(勝てる気しないよ……。どうしよう、帰ろうかな……)

受付「あんた、出場希望者かい?」

魔法使い「え?」

受付「出るの? 出ないの? どっち?」

魔法使い「で、出ます!」

受付「じゃあ、ここに名前書いて! 立て込んでるんだから!」

魔法使い「わ、分かりました」

魔法使い(出ることになってしまった……一回戦負けだな、こりゃ)


一回戦――

ワァァァァ……!

巨漢「ガッハッハ、一回戦は魔法使いか!」

魔法使い(いきなり強そうだ……)

巨漢「いっとくが、俺様に生半可な魔法は通じねえ! さぁ、撃ってこい!」

魔法使い「……ファイヤー! サンダー!」

ボワァッ! バリバリッ!

巨漢「ガーッハッハ! なんだそりゃ!? かゆいぜぇ!」

魔法使い(ダメだ……全然通じない!)

巨漢「こっちから行くぜぇ!」ドドドッ

魔法使い「わわっ!」

魔法使い(こうなったらヤケだ! 尿路結石魔法を使うしかない!)

魔法使い「えーいっ! 尿石よ!」パァァァ…

巨漢「?」

魔法使い「やっぱり……効きません、よね……」

巨漢「……」

巨漢「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

魔法使い「え!?」

巨漢「が、あっ……! 脇腹が……ッ!」ビクンビクン

魔法使い「だ、大丈夫ですか!?」

審判「勝負あり!」

審判「巨漢選手、戦闘不能……魔法使い選手の勝利!」

ワアァァァァァ……!

「あっさり決まった!」 「どんな魔法使ったんだ!?」 「あのデカイの泣いちまってるぜ……」

魔法使い「か、勝っちゃった……」

魔法使い(尿路結石は脇腹や下腹部に疼痛という激痛を引き起こすって聞いたけど、ここまで効くだなんて……)


二回戦――

女戦士「一回戦は見させてもらったわ。なかなかやるようね」

魔法使い(この人も強そうだ……)

魔法使い(だけど尿路結石魔法、女性にも効くのかな……?)

女戦士「行くわよ!」

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

女戦士「……」

女戦士「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

魔法使い「効いた!」

女戦士「う、ううう……」

係員「タンカだ! タンカを早く! 急げ!」

ザワザワ…

魔法使い「二回戦も勝っちゃった……」

魔法使い(そういえば、師匠が――)

師匠『尿路結石は決して、男だけに起こる病気ではない』

師匠『男が2.5に対し女性は1という割合じゃが、女性にも起こり得る病気なのじゃ』

魔法使い(っていってたっけ……。特に更年期を過ぎた女性は危ないとか)


三回戦――

剣豪「参る!」

魔法使い(ものすごく強そうだ……さすがに尿路結石ぐらいで倒れないだろ……)

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

剣豪「あぐあぁぁぁぁぁっ!!!」

審判「勝負あり!」

剣豪「む、無念……」ガクッ

魔法使い「なんか……ごめんなさい」

この調子で勝ち進み――


決勝戦――

賢者「同じ魔法使い同士、正々堂々戦おう」

魔法使い「はい!」

魔法使い(国内最高峰の魔法使いといわれる、賢者さんじゃないか!)

魔法使い(ここは胸を借りるつもりで――)

賢者「隕石よ!」パァァァ…

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

賢者「う゛!?」

賢者「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

審判「優勝は、魔法使い選手!」

ワアァァァァァ……!

魔法使い「優勝しちゃった……」

勇者「優勝おめでとう」

勇者「君はもちろん、私のパーティーメンバーに内定した」

魔法使い「ありがとうございます!」

勇者「ところで、君の魔法……何かを飛ばすわけでもなく、相手を倒すとは不思議な魔法だね」

魔法使い「師匠が新開発した魔法なので……」

勇者「なるほど」

勇者「私も戦士のはしくれ、君の魔法に興味が湧いた。ぜひ手合わせしてくれないか?」

魔法使い「かまいませんけど……」

勇者「いくぞ!」

魔法使い「はいっ!」

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

勇者「む、これは……?」

魔法使い(さすが勇者様! 通じないか!)

勇者「いでえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

勇者「はうっ、うっ……!」ビクッビクッ

魔法使い「勇者様ぁ!」

魔法使い(勇者様にも通じちゃうのかぁ……)

魔法使い(勇者様までタンカで運ばれてしまった……)

魔法使い(もし、今魔王が攻めてきたらまずいんじゃ……)

フハハハハハ……!

魔法使い「なんだ、この笑い声は!?」

魔王「フハハハハ……!」

魔王「優れた戦士が集まる大会が開かれると聞いて、そやつらを一網打尽にしようとやってきたが」

魔王「まさか、勇者が戦闘不能になっているとはな! これは傑作だ!」

魔法使い「ま、魔王……!」

キャーッ! ザワザワ… ドヨドヨ…

魔王「勇者をやったのは貴様か?」

魔法使い「ええ、まあ、一応……」

魔王「よくやった! つまり後は貴様を殺せば、人間界は手に入ったも同然というわけだ」

魔王「ドラゴン! ゴーレム! スライム!」

ドラゴン「はい」

ゴーレム「ハイ」

スライム「は〜い」

魔王「栄えある魔王軍三幹部よ、こやつを血祭りに上げい!」

魔法使い「ひいいい……!」

ドラゴン「俺様の炎で焼き尽くしてくれるわ!」スゥゥゥ…

魔法使い「あ……ああ……」

魔法使い(ドラゴンの火炎なんか喰らったら、きっと一瞬で蒸発してしまう!)

魔法使い(効くわけないけど……やるしかない!)

ドラゴン「喰らえ――」

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

ドラゴン「グ……!」

ドラゴン「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」ズゥン…

魔法使い「効いた!」

ゴーレム「殴リ殺シテヤル!」

魔法使い「ゴーレム……! 魔力で動く石人形……!」

魔法使い(ゴーレムが排泄なんてするわけないから……絶対効かないけど……)

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

ゴーレム「?」

魔法使い「やっぱりダメか……」

ゴーレム「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」ドザァッ…

魔法使い「効いちゃったよ!」

スライム「だらしねえ奴らだ。俺が溶かしてやらぁ!」ネバネバ…

魔法使い「スライム……どう考えても効かないけど……」

魔法使い(嫌な予感しかしない……)

スライム「溶かしてから食ってやる!」ネバァァァァ

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

スライム「ぎょああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」ネバァ…

魔法使い「やっぱり効くんかい!」

係員A「タンカで運べ!」ザッザッザッ

係員B「ゴーレムとドラゴン重すぎ……」ザッザッザッ

魔王「バカな……我が三幹部がこうもあっけなく……」

魔法使い「本当に……すいません……」

魔王「だが、ワシはこうはいかんぞ!」

魔王「我が暗黒の魔力で、貴様を地獄に送ってやろう!」

魔法使い「送られる前に、尿石よ!」パァァァ…

魔王「ぐがっ!? ぐおおおおおおおっ!!!」

魔法使い「やっぱり効くんだ!」

魔王「なんの……これしき……」ヨロッ…

魔法使い「!?」

魔王「この程度の痛みで倒れていては――魔界の王は務まらぬ!」ヨロヨロ…

魔法使い「そうですか、だったら……」

魔王「え?」

魔法使い「尿石を巨大化させ、さらに針状の突起物を生やし、しかも体内でグリグリ動かします」

魔王「ちょっ、やめ……」

魔法使い「“痛みの魔王様(デビルオブペイン)”!!!」パァァァ…

魔王「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

ドサッ…

魔法使い「ふぅ……」

魔法使い「すいません、タンカをお願いします!」

国王「よくやってくれた、魔法使いよ」

魔法使い「はい……」

国王「この功績を称え、おぬしには多大なる名誉と報酬を……」

魔法使い「……」

国王「どうした? 嬉しくないのか?」

魔法使い「なぜだか、複雑な気分です」

魔法使い「まるでキレの悪い小便が出た時のような……」

国王「余は毎回キレが悪い。気にするな。ワァッハッハッハ!」

魔法使い(尿路結石の持病もありそうだな……)

魔法使い(ボクは尿路結石魔法のおかげで大活躍することができた)

魔法使い(だけど、どうしても確かめたいことがある)

魔法使い(尿路結石ってホントにそんなに痛いのかなぁって)

魔法使い(みんな大げさに痛がってるだけなんじゃないかって)

魔法使い(というわけで、ボクは自分に魔法をかけてみることにした)

魔法使い「尿石よ!」パァァァ…

魔法使い「……」

魔法使い「ぐおわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

師匠「……ふむ、それがおぬしの結論か」

魔法使い「はい、この魔法は余りにも危険すぎます。存在してはならない魔法です」

魔法使い「よって、禁術として封印することにいたします」

師匠「魔法を完成させたおぬしがそういうのなら、止めることはできん」

師匠「この魔法は禁術としよう。ワシも二度と他人には教えまい」

魔法使い「ありがとうございます、師匠……!」

師匠「いや、ワシもおぬしのような弟子を持って誇りに思うぞ」

師匠「ワシと初めて出会った時は小さな結石のようだったおぬしが……今では立派な巨大結石じゃ!」

魔法使い「あんまり嬉しくないですね」

それからというもの――

司会「本日は尿路結石研究の第一人者である魔法使いさんより、『尿路結石の予防法』について講演が行われます」

司会「皆さま、ご清聴をお願い致します」

パチパチパチパチパチ…

魔法使い「皆さん、こんにちは」

魔法使い「尿路結石は非常に恐ろしく、そして身近にある病気です」

魔法使い「私はその恐ろしさを知る者として、今日はしっかり予防法についてお伝えしたいと思います」

魔法使い「まず、重要なのは水分を取ることです」

魔法使い「積極的に水を飲むようにし、できれば一日2リットルの飲水を心がけましょう」

魔法使い「それと結石の主成分であるシュウ酸を取らないようにすることも重要です」

魔法使い「シュウ酸を多く含むホウレン草、紅茶、チョコレートなどは食べ方に気をつけた方がよいでしょう」

魔法使い「また運動不足も結石の原因になるといわれており、適度な運動を心がけましょう」

魔法使い「まだまだ未知の面も多い尿路結石ですが、皆さんの努力で十分予防は可能なのです……」

尿路結石魔法は、二度と使われることはなかったという――

END 

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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:ekpG56gQ0編集削除
タンカでゴーレムとドラゴン運べる係員が最強なんじゃね?
2 . 名無しさん  ID:VANcsTry0編集削除
>>1
そんなことを言う君に
「尿路結石魔法!」
3 . 名無しさん  ID:z4rauRD10編集削除
「ぐおわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

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