親分「まーたヘマしやがってぇ!」
子分「すいません……!」
親分「今日という今日は勘弁ならねえ! てめえ、指詰めろやァ!!!」
子分「ひいいい……!」
親分「おい、ドス出してやんな」
部下「へい」サッ
親分「こいつで指ィ詰めろ! んで俺に差し出せ!」グサッ
子分「あわわわわわ……」
子分「親分……」
親分「なんだ?」
子分「ソーセージじゃダメですかね?」
親分「は?」
子分「ほら、指とソーセージって似てるし……」
親分「……」ギロッ!
子分「ダ、ダメですよね〜! 詰めます詰めます!」
親分「いいだろう」
子分「ふえ?」
親分「ソーセージ持ってきたら勘弁してやる」
子分「ホントですか!?」
親分「ただし……市販のはダメだ。てめえで作って持ってこい!」
子分「えっ、ソーセージなんて作ったこと……」
親分「んじゃ、指詰めっかァ!?」
子分「作ります作ります!」
女「……で、ソーセージ作ることになっちゃったわけ?」
子分「そうなんだよ……」
女「あんたもあんたもだけど、親分さんも親分さんね」
子分「とにかく、ソーセージ作って持っていかなきゃ、俺の小指が飛んじまう!」
女「もし切っちゃったら、鎖でもつけてアクセサリーにしちゃえば?」
子分「幻影旅団のアイツじゃねーんだから! オーラの弾丸なんて撃てねえし!」
女「仕方ない、手伝ってやるか」
子分「ありがと〜!」
女「ソーセージについて調べたよ」
子分「どんな感じだった?」
女「まず語源なんだけど、後期ラテン語のサルススに由来する単数女性形サルシキアから転じた」
女「古北部フランス語ソーシッシュからきてるみたい。サルススってのは“塩漬けにした”って意味ね」
子分「語源なんざどうでもいいよ!」
女「冗談だってば。材料なんだけど、肉や調味料は当然として、羊の腸がいるみたい」
子分「腸……!?」
女「なんたって腸詰めだもんねえ。それと専用の絞り袋もいるらしいよ」
子分「羊の腸なんてどこ売ってんだ……? そこらのスーパーにゃ絶対ないだろ」
女「専門の店や、ネットなら買えるみたい。頑張って調達しようよ」
子分「指がかかってるもんな」
子分「よし、なんとか材料と道具を揃えたぞ!」
女「やったね!」
子分「まず、どうすりゃいいんだ?」
女「下ごしらえからだね。塩漬けの羊の腸を、水につけて塩抜きするんだって」
子分「ボウルに水入れて……こうか」
女「だいたい20分ぐらいつけとくんだって」
女「じゃ、塩抜きしてる間に、中に詰める“肉だね”を作っちゃおう」
女「ボウルに牛と豚のひき肉を入れて……」
子分「うん」
女「牛乳少々、卵白少々、タマネギ、塩、砂糖、ブラックペッパーを入れて」
子分「ふむふむ」パッパッ
女「で、こねていく」
子分「よーし!」コネコネ
女「肉が温かくなるとおいしくなくなるから、適度にボウルを氷水につけながらやった方がいいみたい」
子分「……」コネコネ
子分「……」コネコネ
子分「こんなもんか?」
女「うん、いいでしょ。あんまり混ぜすぎるのもダメみたいだし」
子分「腸詰めなんつー豪快な料理のわりにデリケートなんだな」
女「じゃ、いよいよ腸に肉を詰めていく作業開始!」
女「絞り袋に口金をセットして、腸を口金に取りつけます」
子分「こうか?」
女「羊腸を口金の方に手繰り寄せるように、全部はめちゃう」
子分「ちょうど風船に空気入れる寸前みたいな感じになるな」
女「絞り袋に肉を入れたら……ちょっと肉を絞って」
子分「よっと」ニュル…
女「そしたら腸の端を結んで、いよいよ本格的な腸詰めスタート!」
女「少しずつ、肉を絞って詰めていくの」
女「あまり詰め過ぎると、腸が破けちゃうから気をつけてね」
子分「パンパンにしちゃダメってことか。よーし……」
ニュルルルル…
ニュルルルルルルル…
子分「お、お、お! 肉が入ってソーセージになってきた!」
女「ホント!」
ニュルルルルルルルル…
子分「これは楽しい!」
女「あたしにもやらせてー!」
子分「できたぞ! すごい長いソーセージが! これもうソーセージの親玉だろ!」
女「あとはこれを適当な長さでねじっていくみたい」
子分「いつも見るソーセージの長さにするわけだな。よーし……」ネジネジ
女「このねじってる時も、適宜氷水をあてた方がいいんだって」
子分「大変だな……」
子分「よっしゃ、こんなもんでいいか!」
女「あとはこのソーセージを茹でて……」
子分「仕上げだな!」
女「これもお湯が熱すぎるとおいしくなくなるから、80℃ぐらいのお湯がいいんだって」
子分「温度計も買っておくべきだったな。まあ、沸騰しない程度でいいか」
グツグツ…
女「20分ぐらい茹でたら、取り出して、水気を切って……さっきねじったところをハサミで切ったら……」
子分「完成だ!」
子分「なんか、市販のものより白いな」
女「添加物入ってないから、そういう色になるらしいよ」
女「このまま食べてもいいけど、フライパンで軽く焼いた方がおいしいんだって」
子分「んじゃ、軽く……」
ジュワァァァ…
子分「いただきまーす!」モグッ
女「いただきます」モグ…
子分「うん、ソーセージになってる!」
女「ホント! おいしいよ、これ」
子分(あとは……親分に認めてもらえるかどうかだ!)
子分「約束通り、ソーセージを作ってきました」
親分「……」
部下(マジで作ってきたのかこいつ……)
子分「食べて下さい!」
親分「どれ」モグッ
子分(これでもし口に合わなかったら、俺の小指が……)
子分(“俺の小指は豆鉄砲(シングルピーシューター)”になっちゃう!)
親分「ほう……悪くねえな」
子分「ホントですか!」
親分「しかし、メチャクチャうまいってほどじゃねえ。まだまだ改善の余地はある」
子分「で、ですよね……」
親分「お前しばらく、毎日ソーセージ作って持ってこい」
子分「ふええ? な、なんで――」
親分「嫌なら小指詰めるか?」
子分「作ります作ります!」
女「どうだった?」
子分「とりあえず、この通り小指は助かったけど……」
女「けど?」
子分「毎日ソーセージ作るはめになっちゃった」
女「毎日? どうして?」
子分「分かんねえ……。だけど、やらなきゃ指詰めろって……」
女「……」
女「しょうがない。だったら作るっきゃないじゃない。あたしも手伝うからさ」
子分「ありがとう……!」
女「色んなソーセージ買ってきたよー」ドサッ
子分「ソーセージってこんなにあるの!?」
女「たくさん食べて研究しなきゃね」
……
子分「肉やスパイスも試しまくって、自分なりの正解を見つけなきゃな」
女「鶏肉入れてみるってのはどう?」
……
子分「うーん、歯ごたえイマイチ」モグッ
女「シャウエッセンみたいな音出したいよね」
子分「どうぞ!」
親分「肉のプリプリ感が足りん」
……
子分「今日のはいかがです?」
親分「肉にもう少しスパイスが欲しいところだ」
……
子分「これはどうでしょう!」
親分「うま……まだまだだ! こんなもんで満足するんじゃねえ!」
…………
……
子分「今日のは自信作です」
親分「……」モグモグ
子分「どうでしょう?」
親分「うん……うまい!」
親分「このジューシィさ、この歯ごたえ、後味の爽快感……どれも満点だ!」
子分「やった!」
部下「俺も一ついいですかい?」モグッ
部下「うまぁぁぁぁぁい!!!」
親分「いいソーセージ作るようになったな……」
親分「おめえよぉ……店出しな」
子分「店?」
親分「このソーセージなら、十分勝負できるはずだ。俺のベロが保証してやらァ」
子分「いきなり店っていわれても……」
親分「指詰めるかァ!?」
子分「詰めたくないです!」
親分「だったら店出すんだな?」
子分「はいっ! 出します出します!」
子分「そうか、親分はソーセージを新しいシノギにするつもりですね!?」
子分「俺のソーセージが売れまくったら、組もさらにでかく――」
親分「ハァ?」
親分「あいにく、ウチはタピオカだので小銭稼ぐような、軟派な組とはワケが違うんでえ!」
親分「ソーセージでシノギなんてみっともなくてできるかァ!」
親分「つまり、てめえは今日で“絶縁”だァ! 二度と俺の前にツラァ出すな!」
子分「そ、そんなぁ……」
子分「組……クビになっちゃったよ」
女「あらら……」
子分「だけど、ソーセージ作りは上手くなった……」
子分「だからさ……二人で店やらないか? お前とならやっていけると思うんだ」
子分「親分から餞別も貰えたしさ……」
女「うん、いいよ。あたしはあんたにどこまでもついていくよ」
子分「俺……たとえ何があろうとお前だけは幸せにする!」
女「ふふっ、期待しててあげる」
…………
……
ワイワイ… ガヤガヤ…
「ここのソーセージうまいよな〜」
「ホント、スーパーで買うのと大違い!」
「いつも夫婦仲良さそうで、微笑ましいしさ」
マスク男「……」
店長「いらっしゃいませ!」
マスク男「ソーセージ……10本」
店長「どうぞ!」
マスク男「ありがとう……」
店長「ところで、お客さん……どこかで会ったことありません?」
マスク男「いや、気のせいだろう」
店長「そうですか、失礼しました」
マスク男「奥さんを大切にな」
店長「はいっ!」
マスク男「ふぅー……グラサンとマスク取るか」パッ
親分「……」
部下「あいつは元気でやってました?」
親分「ああ、すっかり一人前になってやがった」
部下「親分……ひょっとして、指詰めろっていった時、最初からあいつをこうするつもりだったんじゃ……」
親分「さあてねえ」ポリッ
親分「うまいソーセージだ……。指なんざもらうより、こっちのがよっぽどいいぜ」
おわり
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