隊長「ほう、敵兵の一人を捕虜にしたか」

兵士A「はい、なにやらコソコソしてたので、重要な情報を握ってると思われます!」

兵士B「ケッ、わざわざ捕まえず殺しちまえばよかったんだよ、こんな奴ゥ!」

兵士C「……」

隊長「後は……この捕虜に隠してることを喋らせれば、我が隊の勝利は目前というわけだ」

隊長「では拷問官、よろしく頼む」

拷問官「ククク、お任せ下さい……」



捕虜「待って! 待って! 待って!」

捕虜「喋ります! 喋ります! 隠してること全て喋りますぅぅぅぅぅ!!!」

兵士A「なんだ、あっけない」

兵士B「ギャハハ、笑わせやがる! とんだヘタレじゃねえか、このゴミがァ!」

兵士C「……」

拷問官「おやおや、出る幕がなくなってしまい残念です」

隊長「では喋ってもらおうか。隠してることとやらを」

捕虜「はいぃぃぃ! 分かりましたぁぁぁ!」

捕虜「隊長さん、あなた……下痢してますね?」

隊長「え、なんで分かった!?」

捕虜「匂いです」

隊長「匂い……? え、ウソ……」クンクン

捕虜「便の匂いじゃありませんよ。口からほのかに胃薬の匂いがしたんです」

捕虜「この匂いは胃薬に使われる薬草の匂いですから」

捕虜「それに胃腸が悪い顔色をしている……だから下痢をしてるんじゃ、と思ったんです」

隊長「ぐぬぬ……」

捕虜「なぜ、あなたが胃が悪いのか当ててみせましょうか」

隊長「え……」

捕虜「隊長さん、あなたひょっとしてかなりのストレスを抱えてるのでは?」

捕虜「それも戦争によるストレスではなく、部隊内でのストレスによって……」

捕虜「この戦場も、膠着状態に入ってから久しいですからね」

捕虜「例えば、この部隊の副隊長さんはかなり優秀だと小耳に挟んでますし……」

隊長「うぐぐ……!」

兵士A「ってちょっと待て待て! 隊長が隠してることを喋ってどうする!」

兵士B「そうだそうだァ! ナメてんじゃねえぞ、このゴミがァ!」ドカッ!

捕虜「ぐっ!」

拷問官「あっ、拷問は私の役目なのにひどい」

兵士C「……」

兵士A「隊長、こんな奴のいうことを気にする必要はありませんよ」

隊長「うむ、別に気にしてはいないが……」

兵士A「さあ、隠してることを喋れ!」

捕虜「本当にいいんですか……?」

兵士A「いいに決まってるだろ!」

捕虜「では遠慮なく」

捕虜「あなた……カツラですよね?」

兵士A「!?」ギクッ

兵士A「な、なにを……」

隊長「お前……カツラだったのか!?」

兵士B「そうなのかよ!?」

兵士C「……」

兵士A「いや、違、あの……。な、なんの根拠があってぇ!」

捕虜「根拠もなにも、生え際がどう見ても不自然です」

捕虜「しかもさっきからしきりに頭を気にしてらっしゃった。サイズが合ってないのでは?」

兵士A「あうう……」

捕虜「それと、靴……」

兵士A「靴がなんだっていうんだ!」

捕虜「シークレットシューズを履いておられる。3cmぐらい身長をごまかしてますね」

兵士A「!?」ギクギクッ

兵士A「な、なん……で……。なんで……分かる……」

捕虜「分かりますよ。このぐらい見ればすぐに」

捕虜「軍隊では敵だけでなく味方にもナメられたら終わりですからね。見た目を気にするのは分かりますけど」

捕虜「他にも鼻にシリコン――」

兵士A「や……やめろ……。やめてくれええええっ!!!」タタタッ…

兵士B「お、おいっ!」

シーン…

隊長「うむう……」

兵士B「ちっ、逃げちまいやがった!」

兵士C「……」

隊長「気を取り直して、尋問に戻ろう」

拷問官「ここはやはり、私が拷問した方が手っ取り早いでしょう。覚悟なさい」

隊長「うむ、よろしく頼む」

兵士B「たっぷり痛めつけちまえ!」

拷問官「では爪剥ぎから……」

兵士B「いいねえ! 手足全部剥がしちまえ!」

捕虜「拷問官さん」

拷問官「なんです? 今更喋ろうったって――」

捕虜「あなた本当は……ドMですよね」

拷問官「な……!」

兵士B「ドMって……?」

隊長「痛みを味わうのが好きな人間、という意味だが……」

兵士B「ええ!? 拷問官なのに!?」

拷問官「な、なにをいう! デタラメをいうな!」

捕虜「デタラメじゃありませんよ。こう推理するに至った根拠もあります」

拷問官「根拠だと……!?」

捕虜「服の袖からうっすらと傷が見えます」

拷問官「う!?」

捕虜「歯もいくつか人工のものになっている。虫歯で仕方なく抜歯したという感じではない」

捕虜「きっと日頃から、虐められるプレイをなさってるに違いない。歯まで抜くとはあなた本物ですね」

捕虜「本当は拷問するより、拷問されたい……そんなお人なんでしょう?」

拷問官「違う……私はドS……」

捕虜「なにより今も……こうして暴露されることに快感すら覚えている……息づかいで分かります」

拷問官「あ……あ……」ハァハァ…

拷問官「うわあああああ……!」タタタッ…

隊長「くっ、拷問官まで……」

兵士C「……」

兵士B「もういいでしょう、隊長! こんな不気味な野郎とっととブッ殺しちまいましょう!」

兵士B「生かしててもろくなことねえですぜ!」

隊長「しかし……」

兵士B「オラッ、銃殺刑だ! 最後に言い残すことがあんなら聞いてやるぜ!」チャッ

捕虜「じゃあ……一つだけ」

捕虜「あなた、女性ですよね?」

兵士B「なっ……!」

隊長「え!?」

兵士C「……」

兵士B「ふざけんな! 俺のどこが女だってんだ! 殺すぞ!」

捕虜「そうやって物騒な言葉ばかり使うのも、女であることを隠すためです」

捕虜「女でも戦えることを証明するため、性別を隠して軍隊に入ったというところでしょうか」

兵士B「ぐうっ……!?」

捕虜「胸はサラシで締め付け、押さえつけてるのでしょうし」

捕虜「声も頑張って低くはしてますが、明らかに男のものではありません」

捕虜「そしてなにより、骨格が違う。筋肉は鍛えられても、骨はごまかせない」

捕虜「私からすれば、あなたが女だと見抜くことなど、魚屋で新鮮な魚を見抜くより容易いことです」

兵士B「あぐ、う、う、う……」

隊長「お前、女だったのか……?」

兵士B「ちくしょおおおおおお!!!」タタタッ

隊長「ああっ!」

捕虜「……喋りすぎましたね」

隊長「……」ゴクッ

兵士C「……」

隊長(なんだ……なんなんだ、こいつは……)

隊長(私を始め、皆が隠してることを次々と看破するなんて……!)

捕虜「隊長さん」

隊長「な、なんだ?」

捕虜「人数も少なくなりましたし、ここでとっておきの情報をお教えしましょう」

隊長「! 教えてくれ!」

捕虜「この部隊……まもなく反乱を起こされますよ」

隊長「えっ!?」

隊長「だ、誰が!? 誰が反乱を起こすのだ!?」

捕虜「驚くことはない……副隊長さんに決まってるじゃないですか」

捕虜「彼はあなたの首を取り、自分が隊長に収まるつもりなのです」

捕虜「自分が隊を指揮すれば、部隊を勝利に導ける、と思ってることでしょうから」

隊長「やはり……! あいつめ……!」

捕虜「その証拠に……彼はすでにスパイをあなたに送り込んでいます」

隊長「スパイ!? そいつは誰だ!? 教えてくれ! 君のいうことなら全て信じられる!」

捕虜「すぐそこにいるじゃないですか。ほら」

兵士C「……え」

捕虜「彼がずっと無言だったのは、あなたを殺すチャンスを伺ってたからなのです」

隊長「そういうことかぁ〜!」

兵士C「いや……私は元々無口――」

隊長「氏ねえ!!!」パァンッ!

兵士C「ぐはっ……!」

ドサッ…

隊長「ふ、ふふふ……やった、やったぞ。ざまあみろ」

捕虜「お見事です」

隊長「次は!? 次はどうすればいい!?」

捕虜「もちろん、反乱を食い止めるのです」

捕虜「信頼できる部下を集め、副隊長の派閥の兵士どもを皆殺しにするのです!」

隊長「なるほど、よく分かった!」

隊長「副隊長の隠された殺意を暴いてくれてありがとう!」

隊長「あの野郎……とうとう本性を現したな! ブチ殺してやる!!!」

――

――

捕虜「……戻りました」

上役「よくやった」

上役「君を捕虜にした敵部隊は、真っ二つに割れて殺し合いをした挙げ句――」

上役「双方とも全滅したよ。おかげでこの戦場での勝利は決定的となった」

捕虜「多分、あの部隊の副隊長は反乱を起こすつもりなんて微塵もなかったでしょう」

捕虜「しかし、他の連中の“隠してること”を全て暴いてみせることで」

捕虜「全くデタラメの“隠してること”すら真実だと思わせることができました」

上役「フフ、いつもながら恐ろしい手腕だ」

上役「わざと捕虜になり、その恐ろしい観察眼と推理力で敵を信用させ、内紛を起こさせる……」

上役「君が敵じゃなくて本当によかったよ」

捕虜「私としても、喋る間もなく殺されればそれまで、というリスクはありますけどね」

上役「敵はきっと“捕虜に喋らせることができれば勝ち”と思ったに違いないが――」

上役「実際には“捕虜に喋らせたせいで負け”だったというわけだな」


― 終 ― 
 
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