面接官「……なるほど、よく分かりました。続いては自己PRをして下さい」

男「はい」

面接官「ではどうぞ」

男「私は宇宙人です」

面接官「は?」

男「もう一度申し上げます。私は宇宙人なのです」

面接官「からかってるのですか?」

男「私はいたって真面目です」



面接官「だって……どう見てもあなたは地球人ではないですか」

男「それは私の擬態能力が大変優れているからです」

面接官「つまり、今の姿は仮の姿と?」

男「その通りです」

面接官「ではずばり聞きましょう。あなたはいったいなんという星から来たのですか?」

男「地球から50億光年離れているヒソーリ星からやってきました」

面接官「聞いたことありませんけど……」

男「その名の通り、ひっそりした惑星ですから」

男「ヒソーリ星人は擬態能力に優れており、この通り地球人にも完璧に化けることができるのです」

面接官「そうなのですか……!」

面接官「地球に来た目的はなんですか? まさか、侵略……?」

男「我々はそんな野蛮な種族ではありません」

男「地球に来たのはあくまでも視察……社会勉強といったところでしょうか」

男「少なくとも地球や地球人をどうこうするつもりはありません」

面接官「それを聞いて安心しました」

面接官「ところでヒソーリ星人さんは、当然地球より文明が進んでいるんですよね」

男「ええ、もちろんです」

面接官「あなたから見て、弊社はいかがでしょうか?」

男「そうですねえ……」

男「今のままでは間違いなく倒産するでしょうね」

面接官「と、倒産!?」

男「ええ、間違いないです」

面接官「教えて下さい! 倒産しないためには……どうすればいいのでしょう!?」

男「簡単なことです」

面接官「え?」

男「この私を採用すればいいのです」

男「そうすれば、たちまちのうちにこの会社の経営を立て直してみせましょう」

男「さて、どうしますか?」

面接官「……」

男「我々が正体を明かして、こんな提案をするなど滅多にありませんよ」

面接官「……分かりました」

面接官「あなたを採用しましょう!」

男「ホントですか?」

面接官「ええ、4月からよろしくお願いします」

……

男「やったーっ!」

男(なかなか内定を貰えず、思い切って戦略を変えてみたが……)

男(≪宇宙人作戦≫大成功!)

男(あの会社が倒産寸前? そんなわけないだろうが。潰れそうな会社なんか受けるもんか)

男(むしろ斬新な商品を次々出して、これから伸びる優良企業なのは明らかだ)

男(ウソはついてしまったが、面接にウソはつきものだし、受かっちまえばこっちのもんだ!)

男「さあ、就職まで遊ぶぞー!」


入社式――

社長「えー、新入社員の皆さん。おはようございます」

社長「あなた方は我が社の希望であります」

社長「一日も早く戦力となってくれることを期待します」

パチパチパチパチパチ…

男(戦力ねえ……俺としてはそこまで大層な野心はない)

男(テキトーに仕事して、お金稼いで、楽しい暮らしができればそれでいい)

男(いい上司に恵まれればいいけど……)

男(研修を経て、いよいよ配属が決まった)

課長「よろしく」

男「よろしくお願いします!」

課長「社会人になって分からないことだらけだろうが、分からないことはどんどん聞いてくれ」

男「はい!」

男(よかった、いい人そうだ。とりあえず上司ガチャは当たりかな)

課長「ところで――」

課長「君……宇宙人なんだってね?」

男「へ? 宇宙人?」

課長「ああ。君は地球人じゃなくて宇宙人なんだろう?」

男「な、なんのことですか?」

課長「人事部から回ってきた資料に……ほら。君は≪ヒソーリ星人≫だって」

男「え」

男(俺が宇宙人だって話は面接で終わったものかと……。どうしよう……?)

課長「君は……ヒソーリ星人なんだろう?」

男「え、ええ、そうです! ヒソーリ星人です!」

男(ええい、ヒソーリ星人でいくしかない!)

課長「そうか! 宇宙人が配属されるとは心強い!」

課長「ぜひ宇宙人の観点から、我が社の力になって欲しい!」

男「はいっ! 頑張ります!」

男(マジかよ……こんなはずじゃ……)

先輩「よぉ〜、新入りクン!」

男「あ、どうも……」

先輩「オメー、宇宙人なんだって?」

男「あ、はい……一応……」

先輩「ヒューッ! 宇宙人と仕事ができるなんて光栄だぜ!」

男「僕もですよ〜」

先輩「よろしくな、宇宙人!」

男「は、はいっ!」

OL「今日からよろしくね!」

男「よろしくお願いします」

OL「ところでさ、ヒソーリ星ってどんな星なの?」

男「え? そ、そうですねえ……とても自然が豊かで、空気がおいしくて、文明が進んでて……」

OL「海はあるの?」

男「ありますよ。地球ほど広くはないですが……」

OL「擬態ってどうやるの?」

男「そこらへんは企業秘密でして……」

OL「ケチ〜!」

男(あまりヒソーリ星について聞かないで欲しい……反応に困る)

……

課長「うーん……」

男「どうしました?」

課長「君、宇宙人のわりにイマイチ特徴がないんだよね。あまりにも普通すぎる」

男「そうでしょうか」

課長「そうだ、語尾に“ヒソ”をつけるというのはどうだろう?」

男「いや、それはちょっと……」

男(なんか猛毒をばら撒く宇宙人みたいで嫌だ)

先輩「なぁなぁ、UFOとか呼べねーの?」

男「あまり目立つ行為はできないんで……」

先輩「ちぇっ、得意先までひとっ飛びできると思ったのによ」

OL「ね、ね、ね、ヒソーリ星人って、たとえばリップクリーム食べるの?」

男「食べませんよ。基本的に地球人と同じものを食べます」

OL「なんだ、つまらない。食べるとこ見たかったのに」

男(みんなして俺を宇宙人扱いして、いじってくる……めんどくさい)

男(≪宇宙人作戦≫、もしかしたら失敗だったのかも……)

課長「今日は男君の歓迎会をしよう!」

先輩「おっ、いいっすね!」

OL「さんせー!」

先輩「じゃあ、店は俺がとっときますよ」

OL「たっぷり歓迎してあげるからね!」

男「嬉しいです!」

男(全然嬉しくない。なぜなら……)

課長「乾杯!」

先輩「ウェ〜イ!」

OL「イェ〜イ!」

課長「よーし、ではさっそく……宇宙人ならではの一発芸をやってくれ!」

先輩「そうだそうだー!」

OL「頑張れーっ!」

男「は、はい……」

男(ほぉら来た。今までのノリから、こうなるのは分かってたからだ)

男「では……いきます!」

男「スペースダンス!」

ウネウネウネ… ウネウネウネ…

課長「……」

先輩「……」

OL「……」

男(ヤバイ、滑ったか!?)

課長「ハハハ、いいじゃないか」

先輩「おもしれぇ!」

OL「最高!」

男「あ、ありがとうございます!」

課長「じゃあ次はヒソーリ星のギャグをやってもらおうか?」

男「ギャ、ギャグですか……」

先輩「ギャーグ! ギャーグ!」

OL「ギャーグ! ギャーグ!」

男「えぇと……じゃあ……。ヒソーリ星に伝わる小噺を……」

課長「ハッハッハ、ヒソーリ星のギャグなんかやらなくていいよ」

男「え?」

課長「だって君はヒソーリ星人なんかじゃなく地球人なんだろう?」

男「え……え?」

先輩「なんだ課長、もうバラしちゃうんですか」

OL「まあ、しょうがないよ。これ以上からかうのは可哀想だもん」

男「え……?」

課長「我々はね、君が地球人だということは最初から知っていたんだよ」

男「つまり、知ってた上で俺を宇宙人扱いしてたわけですか……人が悪い」

男「ん、ってことはあの面接官さんも……」

課長「もちろん、君のウソを見抜いていた。その上で君を採用したんだよ」

男「そうだったんですか……」

課長「君はなかなか見どころがある」

課長「お詫びもかねて、我々の正体を明かそうじゃないか」

男「正体?」

課長「私はジョーシ星人だ」グニャリ

男「え!?」

先輩「俺はチャラ星人」グニャリ

男「ええ!?」

OL「私はオエル星人」グニャリ

男「えええええ!?」

男「こ、これはいったい……!?」

課長「ハッハッハ、驚いたかね。我々はみなこの地球にとっては異星人……宇宙人なんだ」

課長「実は我が社は、地球にやってきてる宇宙人の受け皿となるための会社でね」

課長「君以外は全員、どこかしらの宇宙人なのだよ」

男「そうだったんですか……。しかし、よく宇宙人だけを採用できますね」

課長「面接官の彼、彼はミヌーク星人でね。生物の正体を見抜く能力に長けている」

課長「つまり、君が地球人だということは最初から見抜かれていたわけだ」

課長「しかし、今年は方針を少し変えて、一人ぐらい地球人を採用しようということになってね」

課長「それが君だったというわけさ」

課長「おそらく、面接の場で“自分は宇宙人”といってのけた度胸が評価されたんだろう」

男「な、なるほど……」

課長「さて、どうする?」

男「え?」

課長「我々はいうまでもなく友好的な宇宙人の集まりだが……」

課長「もし、宇宙人だらけの職場で働くのが不安ならば、普通の職場を紹介することもできる」

課長「この会社の社長ももちろん宇宙人だが、それぐらいの人脈は持っているからね」

男「……」

男「そりゃもちろん、この会社で働きますよ!」

男「職場の人が宇宙人だってぐらいで辞めちゃうほど、俺は臆病じゃありません!」

課長「そうか……嬉しいぞ!」

先輩「これからもよろしく頼むぜ! 地球人!」

OL「一緒に仕事しようね!」

男「はいっ!」

……

……

男「ウイ〜、飲み過ぎた……」

男「それにしても、驚いたなぁ……」

男「まさか……宇宙人だらけの会社に就職しちゃったなんて……」

男「それと……驚いたことが……もう一つ……」

男「まさか、ミヌーク星人でさえ俺の正体に気づかなかったとはね……」

男「俺のヒソーリ星人としての擬態の腕も、それだけ上がったってことか」グニャリ

 
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1 . 名無しさん  ID:8n3xcaHz0編集削除
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