〜洞窟内〜

勇者(あそこ、宝箱がある……)

勇者(だけどもうオーガの居所は分かってるし、遠回りになる)

勇者(後で回収すればいいか……)

……

勇者「たああああっ!」ザシュッ!

オーガ「グオオオッ……!」ドサッ

勇者「ふぅ、オーガを倒せたぞ。村の人に報告に行かないと」

勇者(宝箱も気になるけど……後でいっか)

次の日――

勇者(いやー、村を脅かしてたオーガを倒したら、すっかりごちそうになっちゃった)

勇者(例の宝箱を回収したら……次の土地に向かうとしよう)

村人「あれ、勇者様。どこに行かれるんです?」

勇者「オーガがいた洞窟だよ。もう一度入ろうと思って」

村人「あの洞窟ならもう入れませんよ」

勇者「は?」

勇者「なんで!? なんで入れないの!?」

村人「昨夜、あの洞窟埋もれちゃったんですよ」

勇者「埋もれちゃった!?」

村人「多分、勇者様とオーガの戦いが激しくて、それで洞窟ごと崩れてしまって……」

勇者「えええええ!?」

村人「なんなら洞窟に行ってみますか」

勇者「行く行く!(絶対あの宝箱回収しなきゃ!)」


〜洞窟跡地〜

村人「ほら」

勇者「うわああああああ!」

勇者(洞窟の入り口を岩がふさいでるとかそういうレベルじゃなく……)

勇者(山ごと崩れて埋まっちゃってる……!)

村人「だからもう入れないんですよ。洞窟そのものがなくなっちゃったんですから」

勇者「だとしたら宝箱はどうなる!? 俺が取り損ねた宝箱は!?」

村人「そんなこといわれても……」

勇者「もしすごいものが入ってたら……」

村人「いや、そんなことないと思いますよ。大した洞窟でもないですし」

勇者「どうしてそう言い切れる!」

村人「そりゃ根拠はないですけど……」

勇者「それに宝箱ってのは中身がどうこうより、開けることが大事なんだ!」

勇者「密かに宝箱コンプ目指してたのに……」

村人「なんですかコンプって」

勇者「俺はこういう“取り返しのつかない要素”が大嫌いなんだよォ!」

村人「そんなこといっても、もうどうしようもないじゃないですか! 諦めましょう!」

勇者「……やだ、諦めない」

村人「いや、でも諦めないと先に進めませんよ?」

勇者「掘る」

村人「え?」

勇者「宝箱を掘り出してやる!」

村人「なんですって!?」

村人「無茶ですよ! 山ごと崩れてるんですから!」

村人「この状態から埋もれた宝箱を回収するなんて、山を動かすようなもんだ!」

勇者「だとしてもやる!」

村人「えええ……」

勇者「とりあえず、このでかい岩をどけるか」

勇者「俺の剣で切り裂いてやる!」ビュオッ

パキィンッ!

勇者「……折れちゃった」

村人「ほらぁ、だからいわんこっちゃない!」

勇者「だったら持ち上げる!」

村人「いやいやいや! 何トンもありますってそれ!」

勇者「ふんっ!」ガシッ

勇者「ぐぎぎぎぎぎ……!」

グキッ

勇者「ギックリった……」

村人「絶対やると思った!」

村人「大丈夫ですか?」

勇者「ああ、少し休んだら治った」

村人「さすが勇者様、回復が早い」

勇者「しかし、あの岩……並みの腕力で持ち上げられる代物じゃないな」

村人「あ、だったらこういうのはどうでしょう?」

勇者「?」

村人「この丸太を岩の下に入れて、テコの原理で岩を動かすんです!」

勇者「でかした!」

勇者「入れたか?」

村人「はい!」

勇者「せーのっ!」

グイッ

ボキッ!

村人「丸太が……!」

勇者「折れた……!」

村人「あんな大きな岩動かすなんて、やっぱり無理なんですよ」

村人「もう諦めて……」

勇者「いや、そうじゃない」

勇者「剣だの丸太だの原理だの、小手先の技術に頼ろうとしたのが間違いだったんだ」

勇者「俺は一から鍛え直す」

勇者「鍛え直して、この崩れた洞窟から宝箱を見つけ出す!」

村人「なんですって!?」

勇者「鍛錬するのに、どこかいい場所はないか?」

村人「近くにもう一つ山がありますけど……」

勇者「よし、そこにこもろう。案内してくれ」

村人「わ、分かりました」

勇者「うん、なかなかいい山だ」

村人「たしかに修行にはもってこいですね」

勇者「ではさっそく、この石を持ち上げながらスクワットだ!」

勇者「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」グッグッ…

勇者「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」グッグッグッ…

村人「……」

勇者「よし、次は――」

村人「あ、あの……」

勇者「ん?」

村人「僕もトレーニングしてもいいですか?」

勇者「え、どうして?」

村人「なんていうか、目標に向かってまい進してる勇者様を見てたら……」

村人「僕もお付き合いしたくなってきちゃって……」

勇者「トレーニング仲間が増えるのは大歓迎だ! 一緒にやろう!」

村人「ありがとうございます!」

勇者「腕立て伏せぇぇぇ……!」グッグッ

村人「ぬおおおお……!」グッグッ

勇者「腹筋……!」グッグッ

村人「ふっ、ふっ!」グッグッ

勇者「よく鍛えたら、よく食べて――」ガツガツ

村人「はいっ!」ガツガツ

勇者「よく寝る! パワーをつけるにはこれが一番だ!」

村人「おやすみなさい!」

ZZZ…

勇者「このやや大きめの岩を持ち上げながらぁ……」ググッ…

村人「ぐおおおおおっ……!」ググッ…

勇者「スクワット! とりあえず100回!」グッグッグッ…

村人「がああああああっ……!」グッグッグッ…

勇者「今日は野生の牛を狩ってきたよ」

村人「僕は魚を釣ってきました」

勇者「いただきまーす」

ガツガツ… ムシャムシャ…

勇者「食ったら寝るかァ!」

村人「はいっ!」

村人「見て下さい、勇者様!」

勇者「ん?」

村人「腕の太さが……倍ぐらいになりましたよ!」ムキッ

勇者「おおっ、やるなぁ!」

村人「だけど勇者様こそ……」

勇者「ん?」ムキィッ

村人「腹筋バキバキですねえ。八つどころか十六個ぐらいに割れてますよ」

勇者「ちょっと割りすぎたかな?」

勇者「二人とも、ずいぶん筋肉がついた……」

勇者「この調子でいけば……宝箱を掘り出せるようになる日も近いかもな!」

村人「もっともっと鍛えましょう!」

勇者「今日は岩を抱えながら、山の中で鬼ごっこだ!」

村人「はいっ!」

…………

……

ヒュゥゥゥゥ…

勇者「あの二つの岩が、この山で最も大きな岩だろう」

勇者「まず俺からいこう」

村人「勉強させてもらいます」

勇者「……」コォォォ…

勇者「ハッ!!!」

ボゴォォォォォンッ!!!

村人「正拳突き一発で、巨大岩を粉砕した!」

勇者「さ、次は君の番だ」

村人「はいっ!」

村人「はっ!」ガシッ

村人(この岩を上空に投げ上げ――)ポーイッ

勇者「ほう?」

村人(飛び上がって――)バッ

村人「セヤッ!!!」

バコォォォォォンッ!!!

勇者「蹴り砕いたか……見事!」

……

勇者「確信できた……今の俺たちならいける」

村人「今こそあの洞窟を掘り返し、宝箱を回収する時ですね!」


〜洞窟跡地〜

勇者(かつて、俺の剣を折り、テコの原理すら敵わなかった岩……)

勇者「今となっては――」

勇者「奮ッ!!!」ピンッ

ズガァンッ!!!

村人「デコピンで粉砕とは……味なマネを」ニヤッ

勇者(岩を持ち上げ――)ヒョイッ

村人(岩を粉砕!)ボゴォンッ!

勇者(素手で山を掘っていき――)ザクザク

村人(時には蹴りでまとめて吹き飛ばす!)ドゴォンッ!

この様子をたまたま目撃していた旅人はこう語る。

旅人「ええ……信じられますか?」

旅人「崩れた山が、たった二人の人間の手によってみるみる掘り返されていくんですよ」

旅人「しかも、周辺に迷惑をかけることなく……」

旅人「はい、道具を使ってる様子は全く無かったです。素手ですよ、素手」

旅人「私も旅人として色んな人間を見てきたつもりでしたが……」

旅人「人間の秘めた可能性というものを改めて思い知った気分ですよ……ハハ」

……

魔王「側近よ」

側近「はい」

魔王「勇者はどうしておる?」

側近「それが……城を出発してからすぐ近くの村に立ち寄り」

側近「洞窟のオーガを倒した後……そのまま動きがありません」

魔王「解せんな。何をしているのだ?」

側近「さぁ、そこまでは……」

魔王「まぁいい。ここで勇者の死を待っていてもいいのだが、冒険を通じて勇者が強くなることも考えられる」

魔王「ならばいっそこちらから出向いて、勇者を叩き潰してしまおうではないか」

側近「さすが魔王様、素晴らしいお考えでございます」

魔王「ではゆくか……勇者を滅ぼしに!」

勇者「そろそろ慎重に作業しないとな」

村人「そうですね。勢い余って宝箱を粉砕してしまったらアウトですし」

勇者「岩を丁寧にひとつひとつ持ち上げて――」

村人「直径1メートルぐらいの岩なんて、今となっては軽いですねえ」ヒョイッ

勇者「鍛錬さまさまだな」ニコッ

フハハハハハハ……!

勇者「ん?」

魔王「勇者よ……」

勇者「誰だお前?」

魔王「ワシは魔王だ」

勇者「魔王? ふうん、そうか。今俺たちは忙しいんだ。用があるなら後にしてくれ」

魔王「そうはいかん。貴様が弱いうちに息の根を止めねばならんからな」

勇者「……」ザクザク

村人「……」ヒョイッヒョイッ

魔王「……!」

魔王「おい、無視するんじゃないッ!」

魔王「カァァッ!!!」

ズガガァンッ!

魔王「フッ、直撃――」

勇者「おい……」シュゥゥゥ…

魔王「え(バカな……無傷!?)」

勇者「俺は今大事な用の真っ最中なのに……」

勇者「邪魔すんじゃねえよォォォォォォォォォ!!!!!」

魔王「ひいっ!?」

勇者「……」ガシッ

魔王「わっ!?」

勇者「オラァッ!!!」ブオンッ

魔王「うわあああああああっ!?」

勇者が魔王を上空に投げ上げると――

魔王「なんだ、このパワーは……! こうなれば空から攻撃……!」

村人「上だよ」

すぐさまジャンプしていた村人が――

村人「セヤッ!」

ドゴォ!!!

魔王「ぐばっ!」

蹴り落とす。

凄まじい勢いで落下する魔王。

魔王「あああああっ……!!!」ギュゥゥゥゥゥン…

勇者「……」

勇者「滅せよ」ムキメキ…

魔王「ま、待っ――」

ボッ!!!

勇者の全力正拳をまともに受け、魔王は消滅した……。

勇者「さて、作業再開だ」

村人「はいっ!」

ザクザク…

側近「魔王様があっさりと……!」ガタガタ

側近「人間界侵攻は諦めよう……みんなで魔界に帰ろう……」

村人「……ん」

勇者「どうした?」

村人「ありました、勇者様! これじゃないですか!?」サッ

勇者「間違いない! その宝箱だ! よくやった!」

村人「上手く岩と岩の隙間に位置していたようで、押し潰されず無事でしたよ」

勇者「よかった……」ホッ

村人「それでは勇者様、どうぞ! 開けて下さい!」

勇者「ありがとう……」

勇者「では、ご開帳!」

パカッ

……

……

国王「勇者よ、よくぞ魔王を倒し、世界に平和を取り戻してくれた」

勇者「はっ、勇者として当然のことをしたまでです」

国王「おぬしと村人には、多大な恩賞と今後の栄光を約束しよう」

勇者「ありがとうございます」

国王「ところで、あの恐ろしい魔王を倒した武器というのは、きっとさぞかし凄いものなのだろうな」

勇者「武器?」

国王「うむ、今右手に握り締めてるものが、その武器なのではないのか?」

勇者「ああ、これは……」

勇者「宝箱から見つけた薬草ですよ」

〜おわり〜
 
コメントの数(4)
コメントをする
コメントの注意
名前  記事の評価 情報の記憶
この記事のコメント一覧
1 . いっち  ID:XcAjMgZI0[評価:5 ]編集削除
面白かったです
2 . 名無しさん  ID:5YFbXYS70編集削除
おもんな
3 . 名無しさん  ID:mVlmRFRf0編集削除
読み始めた時、あんなに苦労して掘ったのに
入ってたのは薬草ってオチだろうなーと思ったら
やっぱりそうで、なんか安心
4 . 名無しさん  ID:0DXD44XS0編集削除
『魔王を倒した』と認識はされてたんだ
犬死にじゃなくてよかったね魔王君

コメントを書き込む

今月のお勧めサイト



週間人気ページランキング
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

記事検索
月別アーカイブ
タグ
ブログパーツ ブログパーツ