勇者「このところ、旅は順調だな」

戦士「おう、俺たちもだいぶ成長したしな」

魔法使い「ここらでちょっとは歯ごたえのある敵と会いたいもんよね」

僧侶「うふふ、皆さん逞しくなられましたね」

バババッ

ゴブリンA「ギーッ!」

勇者「な、なんだ?」



戦士「後ろだ!」

ゴブリンB「ギギーッ!」

ゴブリンC「ギャースッ!」

魔法使い「ま、まずいわっ!」

僧侶「きゃああっ!」

――ドガッ!

勇者「ぐはっ……!」ドザッ…

ゴブリンA「ギギッ、ギギッ」

勇者(くそっ、ここまでか……。まさか、ゴブリンなんかに……)

シュッ プスッ!

ゴブリンA「ギャッ!」

猟師「大丈夫だべか!?」

ゴブリンB「ギッ……」サッ

スタタタタッ… ザザザッ…

勇者(猟師の矢に驚いて逃げていった……助かった……)

勇者「ありがとうございました……」

猟師「いやいや、危ない時はお互い様だべよ。んじゃな!」

勇者「……」

勇者「くそっ、バックアタックで全滅しかけるなんて情けない……!」

戦士「完全に油断してたな……」

魔法使い「私なんか棍棒一発で気絶しちゃって……」

僧侶「回復できず、すみませんでした……」

勇者「もし、ゴブリンじゃなくもっと手強いモンスターだったら、俺たちは間違いなく全滅してた」

魔法使い「そうね」

勇者「だから……ここでバックアタック対策を万全にしよう。特訓だ!」

勇者「やってくれ!」

戦士「ホントにいいのか?」

勇者「ああ、俺はこうして背を向ける。いつでも好きな時に後ろから殴りかかってくれ!」

戦士「分かった」

シーン…

勇者「あ、あの早くしてくれる……?」

戦士「いや、こういうのはいつ来るか分からないから意味あるんだろ」

勇者「そうだけどさあ」

戦士「えいっ!」

ボゴッ!

勇者「いたぁ!」

魔法使い「次は私ね。杖でいくからね」

勇者「いつでも来い!」

魔法使い「たあっ!」

バシッ!

勇者「ぐっ、かわせなかった!」

僧侶「今度は私が殴ります」

勇者「いつでもいいぞ!」

僧侶「このフレイルで!」ブンブン

勇者「ちょっと、待って……フレイルはまずい……」

ゴッ!!!

戦士「よぉーし、いつでも来いや!」

戦士(背後に意識を集中、背後に意識を集中、背後に意識を集中……)

勇者「……」サッ

戦士(来るか!?)

勇者「……」ヒュッ

戦士(ガード!)サッ

ボゴッ!

戦士「いでえええっ!」

勇者「頭を殴るとは限らないぞ」

魔法使い「え〜、私もやるの!?」

戦士「そりゃそうだろ。バックアタック対策なんだから魔法使いもやらなきゃ」

勇者「女の子だしハリセンでやるから」

魔法使い「分かったわよ……じゃあ来て!」

勇者「えいっ!」パシッ

魔法使い「いったーい! 後ろからの攻撃をかわすなんて無理よ!」

勇者「だけどこのハリセンが、例えば斧だったら死んでたんだぞ」

魔法使い「そうだけどさ……」

僧侶「お願いします!」

勇者「僧侶も女の子だし、軽めの攻撃で……」

勇者(と見せかけて、結構強めに叩く!)ビュオッ

僧侶「ハッ!」

ガシッ

勇者「と、止めた……!?」

戦士「すげえ!」

僧侶「やりました!」

魔法使い「もしかしてあんた、格闘の才能もあったんじゃない?」

僧侶「武闘家になるのもよかったですかね」

勇者「とはいえ、今のままじゃ殺意を持って向かってくる魔物のバックアタックには無力……」

勇者「時間のロスは痛いが、この地に留まって徹底的に修行しよう!」

戦士「おう!」

魔法使い「うん!」

僧侶「分かりました!」

勇者「今日からは、パーティーはお互いいつでも後ろから殴りかかっていいことにする」

勇者「ただしフレイルはやめてくれ。さっきは天国が見えたから……」

僧侶「す、すみません……」

それから――

戦士「えいっ!」

バシッ!

勇者「うぐあっ!」

戦士「甘いぜ、勇者!」

勇者「くそー、やられたか……」

魔法使い「……」ソーッ…

僧侶「!」ピクッ

魔法使い「でやぁっ!」

ベシッ!

僧侶「よけきれませんでした……」

僧侶「たああああああっ!!!」ブンッ

戦士「おっと!」ガシッ

僧侶「お見事です!」

戦士「いや、今のは叫び声があったおかげだけどな」

僧侶「あらら、気をつけます」

勇者「いくぞっ!」ノロー…

勇者「……」シュッ

魔法使い「危ない!」サッ

勇者「やるな。フェイントかけたのに」

魔法使い「だんだん背後からの気配に敏感になってきたわ」

勇者「スキありィッ!」

バキッ!

戦士「でやぁっ!」

ドゴッ!

魔法使い「えいっ!」

バシッ!

僧侶「はっ!」

ゴッ!

……

……

毎日傷だらけになる四人。やがて――


一ヶ月後――

勇者「……」

戦士「……」

戦士(無音で背後から――)シュッ

ガシッ!

戦士(攻撃の出だしを押さえられた……!)

勇者「どうよ」

戦士「完璧だったぜ。さすが勇者だ!」

他の三人も……

戦士「甘いぜ!」サッ

魔法使い「見えるわ!」サッ

僧侶「そこっ!」パシッ

勇者「うん、三人とも合格!」

勇者「これで全員、背後からの攻撃に完璧に対応できるようになった……」

勇者「ずいぶん立ち止まってしまったが、今こそ冒険再開だ!」

戦士「おう!」

魔法使い「うん!」

僧侶「はい!」

勇者「さあ、魔族ども……後ろからかかってこい!」

リザードマン「……」ススッ

勇者「……」スタスタ

リザードマン「ガアアッ!」バッ

勇者「10分前から……気配には気づいてたよ」

戦士「バレバレだぜ」

魔法使い「甘いわね」

僧侶「私たちにバックアタックなんて……愚か者のすることです」

リザードマン「!?」

リザードマン「グエエッ……!」ドサッ…

勇者「ふうっ……」

戦士「四人とも完璧に対応できたな」

魔法使い「今の私たちは背中に目がついてるようなもんだしね」

僧侶「特訓のかいがありましたね!」

勇者「俺たちを追い詰めたゴブリンどもに感謝しないとな」

勇者「ん?」

ツノイノシシ「ブモーッ!」ドドドドドッ

勇者「真正面から巨大猪か……ここは俺に任せてくれ」チャキッ

勇者(あれだけバックアタックに対応できるようになったんだ……)

勇者(今の俺なら、こんな突撃に対処するなんて楽勝すぎる)

勇者「……あれ?」

勇者「え……あれ、おかしいな……」

戦士「どうした?」

勇者「正面からの敵って……どう攻撃すればいいんだ?」

魔法使い「えええええ!?」

戦士「後ろから来る攻撃への特訓ばかりしてたから、前からの攻撃に対処できなくなっちまったのか!」

勇者「や、やばいっ! どうしよう、どうしよう……!」オロオロ

戦士「フォローしようにも、俺も同じ症状に……!」オロオロ

魔法使い「なんで正面から来るのよーっ! 後ろから来てよーっ!」オロオロ

僧侶「そうだ、勇者さん!」

勇者「なんだ!?」

僧侶「後ろを向けばいいんですよ!」

勇者「なるほど!」クルッ

ツノイノシシ「ブモッ!?」ドドドドド…

勇者「後ろを向けば、もうお前なんか怖くない!」

勇者「バックスラッシュ!」

ザシュッ……!

勇者「これだ……!」

戦士「え?」

勇者「俺たちは背後からの攻撃には無敵になった。つまり、これからは――」

――――――

――――

――

大臣「陛下、朗報です!」

国王「おお、よい知らせか。もしや――」

大臣「はい、勇者殿たちが魔王を打ち破りました!」

国王「やってくれたか!」

大臣「まもなく、この玉座の間に凱旋されます」

国王「分かった。国を挙げて彼らを祝福しようではないか」

兵士「勇者様御一行の入場〜!」パパラパー…

勇者「……」スッスッ

国王「む……?」

戦士「……」スッスッ

魔法使い「……」スッスッ

僧侶「……」スッスッ

勇者「只今戻りました、陛下」

国王「うむ、ご苦労。しかしなぜ、みんな後ろ向きに歩いてるのだ……?」

勇者「すみません、クセになってしまって……」

 
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1 . 名無しさん  ID:kUelMC5e0[評価:1 ]編集削除
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