夫「ついに見つけたぞ!」

夫「この本を開けば、きっと悪魔が……!」ペラ…

モワモワモワモワモワ…

フハハハハハ……!

夫「この笑い声は……!」

悪魔「我は悪魔……我を呼び出したのは貴様か」

夫「そ、そうだ!」

悪魔「望みを言え。どんな望みでも叶えてやろう」

夫「では……妻を殺してくれ!」

悪魔「よかろう……」

夫「おおっ!」

悪魔「ただし、もしその望みを叶えたら……貴様の魂を頂くが、よいな?」

夫「ああ……もちろんだ! 俺の魂ぐらい安いもんだ!」

悪魔「フハハハ……よほど女房に恨みがあると見える」

夫「で、どうやって殺してくれるんだ?」

悪魔「我の魔力で周辺の人や物を操って……といったところだろうな」

夫「なんだ、自分でやるんじゃないのか」

悪魔「もちろん、我がやれば手っ取り早いが、実体化はそれなりのリスクも伴うのでな」

夫「なるほど」

悪魔「まあ、任せておけ。我にかかれば、貴様の女房などすぐにあの世行きよ」

夫「頼んだぞ!」

…………

……

契約した者のみ、悪魔を認識することができる。

悪魔「貴様も女房に家で死なれるのは嫌だろう……」

夫「ああ、俺が警察に疑われかねない」

悪魔「ならば外に連れ出せ」

夫「分かった」

夫「おーい」

妻「なにあなた?」

夫「たまには二人で外を散歩しないか?」

妻「いいわよ」

夫「いい天気だねー」

妻「ホント」

夫(さて、悪魔はどんな手段で……)

通行人「ん?」

キュルルル… ブオン…

通行人「なんだ? 誰も乗ってない車が……」

ブロロロロ…

通行人「うおっ!?」

ブオオオオオオッ!

妻「!」

夫「!」

夫(車が猛スピードで妻に――)

ドカァンッ!

悪魔「フッ、我にかかればこんなものだ……」

妻「ふんっ!」ガシッ…

悪魔「な、なにい!?」

妻「ふぅ〜、ビックリした」ドスン

夫「だ、大丈夫かい?」

妻「ええ、軽い軽い」

悪魔「バカな……車を受け止めただと……!」

悪魔(なるほど、この妻を殺るのは一筋縄ではいかんようだな)

悪魔(ならば――)

ブチッ

妻「ただ散歩するだけじゃつまらない。買い物でも行きましょうよ」

夫「そうだな」

バチバチッ!

妻「ギャッ!」

夫「切れた電線が妻に!」

シュゥゥゥゥ…

妻「……」

夫「おい、大丈夫かっ!? しっかりしろっ!」

悪魔「ククク、名演だな」

妻「……」ムクッ

夫「うわっ!?」

妻「なかなかシビれたわ。おかげで肩コリが治っちゃった」コキッコキッ

夫「そ、そうかい」

悪魔「なんだとォ!?」

悪魔(ならばいっそ、人の手で!)

悪魔(邪気の多い者ならば、我の手で操ることができる! あの若者を――)

DQN「……」ビクン

悪魔「貴様に力を貸してやる」

悪魔「持ってるナイフで……あの女を襲え!」

DQN「ウ……」

DQN「ウオオオオオオオオオオオッ!」ダダダッ

悪魔「我に操られた人間は、自動車以上の脅威だぞ!」

DQN「オオオオオオオオオオオッ!」ダダダッ

妻「ハッ!」

ボゴォッ!

DQN「グエッ……!」ゴロゴロゴロ…ドサッ

妻「あー、驚いた。いきなり襲ってくるなんて」

悪魔「あっさりと……!」

悪魔「ではこれはどうだ!」

ミシミシ…

妻「なんの音?」

ギシッ メキッ

ヒュゥゥゥゥゥ…

夫「看板が――」

ドガシャァンッ!!!

店主「店の看板が……大丈夫ですか!?」

妻「あ、平気でーす」

夫「ご迷惑をおかけしました」

店主「いや、迷惑かけたのはこっちなのに……」

妻「行きましょ、あなた」

夫「うん」

悪魔「ぐぬぬぬぬ……」

ブブブブブブ…

妻「あら」

夫「スズメバチの大群が!」

チクチクチクッ

夫「二度刺されたらアナフィラキシーショックが……」

妻「二度どころか、200回は刺してくれないとそんなもの起きないわよ」

夫「……おい!」

悪魔「な、なんだ」

夫「いつまでたっても、妻を殺せないじゃないか!」

悪魔「すまん。まさか、あそこまでの化け物とは思っていなくて……」

夫「だからお前に頼んだのに……どうすんだよ!」

悪魔「家に戻ってくれ。最後の手段で奴を仕留める!」

夫「頼んだぞ!」

妻「ただいまー」

夫「ただいま」

妻「さっそくお夕飯の支度するわね」

夫「頼むよ」

シュゥゥゥゥゥ…

妻「あら? なにかしらこの匂い」クンクン

夫(これはまさか――)

妻「ちょっと見てくるね」タタタッ

妻「あ、やっぱりガスが漏れてる」

妻「おかしいわね。ちゃんと元栓閉めたはずなのに」

悪魔(今だ……着火!)シュボッ

ドォンッ!!!

ガタガタガタ…

夫「うわああああっ!?」

悪魔「フハハハ、やったぞ! 女房を仕留めた!」

夫「いてて……」

悪魔「キッチンは犠牲になったが、まあいいだろう? 約束通り魂を――」

プスプス…

ガラガラ…

妻「今日はツイてないわねぇ〜」ムクッ

悪魔「は……!?」

悪魔「爆発でも……倒せぬだとォ!?」

夫「おい、どうすんだ!? ここまでやって、“殺せませんでした”じゃすまねえぞ!」

悪魔「分かってるよ!」

悪魔「こうなれば……本当に最後の手段だ……」

悪魔「実体化!」ズズズ…

夫「おおっ!?」

悪魔「かくなる上は我の手で殺してやる! ハラワタ引き裂いて冥府に送ってくれるわ!」

悪魔「きえええええええっ!!!」グワッ

妻「やっと……」

悪魔「?」

妻「やっとこれで仕留められる」

悪魔「な!?」

妻「ふんっ!!!」

ズドォッ!

悪魔「げはぁっ……!」

悪魔「貴様……一体!?」

妻「……」

悪魔「まさか……まさか、貴様は“デビルスレイヤー”か!?」

悪魔「たった一人で悪魔を何匹も葬ってるという……」

妻「ええ、そうよ。ちょっと違うけどね」

悪魔「……!」

妻「これまでに何十何百何千という人間の魂を弄んできたんでしょう? 覚悟なさい」

悪魔(どうりで異常な身体能力を持つわけだ……! 実体化はすぐには戻せんし……!)

悪魔「ちっ!」ババッ

バチバチッ

悪魔「結界!? いつの間に!?」

妻「逃がすわけないでしょう、悪魔!」

悪魔「く、くそぉぉぉぉぉぉっ!」

妻「魔界に還りなさい……滅ッ!!!」

ボッ!!!

悪魔「ぐば……はぁぁぁ……」

妻「これで、奴に囚われてた魂はあの世に行けるはず……」

妻「お疲れ様、あなた」

夫「お疲れ」

妻「ナイス結界だったわ」

夫「君こそナイスパンチだったよ」

妻「悪魔の宿る道具を見つけるのが上手いあなたが悪魔と取引し――」

夫「実体化したところを君が仕留める」

妻「この夫婦のコンビネーション、今回も上手くいったわね」

夫「派手に台所は壊れたけどね」

妻「どうする?」

夫「しばらくは外食でもしようか」

妻「いつも本当によくやってくれて……」

妻「私は悪魔に殺されてもあの世に行くだけ。だけどあなたは、もし私が敗れ契約が遂行され魂を奪われたら」

妻「永久に地獄以上の苦しみを味わうことになるのに……」

妻「いつもいつも危険な役割をやらせてごめんなさい……」

夫「戦うのは君の方なんだから、俺がその程度のリスクを負うのは当然のことさ」

妻「あなた……」

夫「だって俺たちは……二人で“デビルスレイヤー”なんだから」

END

コメントの数(0)
コメントをする
コメントの注意
名前  記事の評価 情報の記憶

今月のお勧めサイト



週間人気ページランキング
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

記事検索
月別アーカイブ
タグ
ブログパーツ ブログパーツ