テキスト:男「死刑執行のボタンを押すバイト……?」 [おもしろ]

ハローワーク――

男「あーあ、ろくな求人ねえな。やっぱり不景気だなー」

男「ん? なんだこの本? 誰かの忘れ物か?」

男「『刑務官の苦悩 〜死刑執行のボタンを押す時〜』……」

男「くだらねえ。俺だったらこんなのポチポチ押せるのによ」ポイッ

…………

……



男「これ以上検索しても無駄だな。帰るか」

男「……ん?」

眼鏡「ハローワークから出てこられましたが、お仕事をお探しですか?」

男「ああ、まあね……」

眼鏡「例えばどのような?」

男「給料よくて、拘束時間短めで、特別なスキルもいらない。そういうやつ」

眼鏡「でしたら、うってつけのバイトがありますよ」

男「バイト? バイトって大変なわりに大して稼げないでしょ」

眼鏡「いえいえ、指一本動かすだけで大金を稼げる仕事です」

男「なにそれ?」

眼鏡「死刑執行のボタンを押すバイトです」

男「からかってるの? そんなバイトあるわけが……」

眼鏡「思いのほかストレスの溜まる職務なので、外部に委託されるケースも増えてるんですよ」

男「へえ……」

眼鏡「どうです? やりませんか? もちろん給料はその場で払います」

男(もし本当にボタン押すだけで金貰えるなら、これほど楽な仕事もないよな)

男「……やるよ」

眼鏡「ありがとうございます。ではさっそく今日から働いて頂きたいのですが……」

男「え、今日から!?」

眼鏡「執行場所はここです」

男「ずいぶん粗末な小屋だね」

眼鏡「なにせ人が死ぬ場所ですし、豪奢にしても仕方ないですから」

男「まあ、そりゃそうだね」

中に入る。

男「これが……処刑台か」

眼鏡「はい、あそこにあるボタンを押すと床が開き、首が絞まる仕組みになっています」

男「……」ゴクッ

大男が一人の若者を連れてくる。

大男「……」ポイッ

ドサッ…

若者「ううっ……」ピクピク

男「うわっ、あの二人は?」

眼鏡「大男は仲間です。そして、連れてこられた若者が死刑囚ということになります」

眼鏡「あの若者を処刑台に乗せ次第、処刑を開始します」

眼鏡「処刑台に乗せなさい」

大男「……」ガシッ

若者「ひっ……なんだよこれ!?」

眼鏡「それでは死刑執行です。ボタンを押して下さい」

男「うん……」

若者「おい、なにする気だよ! やめてくれぇっ!」

男(これを押せば……あいつは死ぬ……)

男「ええいっ!」

ポチッ

ガシャンッ!

若者「ぐえっ……!」

ガクッ…

眼鏡「確認します」サッ

眼鏡「……ん、死んでますね。お疲れ様です。これで業務は終了です」

男(これで終わりか……命なんてあっけないもんだ……)

眼鏡「では、本日の報酬です」

男「え、こんなにくれるの!?」

眼鏡「ええ、あなたはそれだけのことをしてくれたのです」

男「どうもありがとう!」

男(おいおい……こんだけあればしばらく職なんか探さなくていいじゃないか)

眼鏡「では、またよろしくお願いします」

男(ホントに指一本動かすだけで大金を稼げた……)

プルルルル…

男「もしもし」

眼鏡『またお仕事です。すぐに来て下さい』

男「分かった」

ピッ

男「……」

男(死刑執行なんてめったにないと思ったら、意外とすぐ次の仕事が来た……)

大男「……」

スーツ男「ひいいい……!」

眼鏡「処刑台に乗せ次第、ボタンを押して下さい」

男「うん」

ポチッ

ガシャンッ!

ガクッ…

眼鏡「お疲れ様でした。本日の報酬です」

男「あれ、最初より多いね」

眼鏡「ええ、仕事によって額が変わるので」

男「そんなもんなんだ」

それからというもの――

プルルルルル…

男「もしもし……」

ポチッ ガシャンッ!

ポチッ ガシャンッ!

ポチッ ガシャンッ!

眼鏡「お疲れ様でした」

男「だいぶこの仕事にも慣れてきたよ」


ある日――

眼鏡「本日の報酬です」

男「ありがとう」

男(これでもう10人以上処刑したけど……)

男(死刑執行ってこんなにも頻繁に行われるもんなのか? たしか裁判ってすげえ時間かかるはずだし……)

男(それにそもそも眼鏡と大男は何者なんだ? 気になる……)

男(よし……!)

男(今日は帰るふりをして……この辺に潜んでいよう)

男「……」

男「……」

男(――誰か来た!)

客「……」スタスタ

眼鏡「お待ちしておりました。中へどうぞ」

男(……聞き耳を立てていよう)コソコソ

眼鏡「標的は?」

客「この男です。私の娘を弄び、ゴミのように捨て、自殺へと追いやったのです」

客「なんとか1000万円用意しました。どうか……!」

眼鏡「分かりました。お引き受けしましょう」

客「ありがとうございます!」

男「……!」

眼鏡「仕事です」

大男「……」

眼鏡「あなたの取り分は300万です。この男を捜し、捕えてきなさい」

大男「……」コクッ

男(そうか……そういうことだったのか……)


数日後――

プルルルルル…

男「もしもし」

眼鏡『仕事です。14時までにいつもの場所に来て下さい』

男「分かった」

男(大男が“標的”を捕まえたってことか)

チャラ男「助けてくれぇっ……! 俺が何したっていうんだぁ……!」

男「……」ポチッ

ガシャンッ!

チャラ男「がっ……!」ガクッ

眼鏡「死んでいますね」

眼鏡「お疲れ様です。本日の報酬です」

男「100万円ねえ……」

眼鏡「?」

男「1000万貰ったのに俺に渡すのはたった一割って、ずいぶんピンハネするんだねえ、あんた」

眼鏡「! なぜそれを……」

男「あんたの正体は分かってるんだ。あんたの正体は……殺し屋だろ?」

眼鏡「……」

男「標的を捕まえて、ここに連れてきて、死刑執行を模して仕留めるスタイルなんだ」

男「なんで全部あの大男にやらせないかっていうと、多分あいつは人を殺せない性分なんじゃないかな?」

男「だから捕まえるまではあいつにやらせて、ボタン押しは違う奴にやらせてるんだ」

男「ハロワに本を置いたのももしかしたらあんたじゃないか? このバイトに向いてる奴を探すために……」

眼鏡「隠していたのは謝ります。しかし、あなたに殺し屋の片棒を担いでるという罪悪感を味わわせたく……」

男「そんなことはどうでもいいよ。俺の要求はただ一つ。もっと給料よこせってことだ」

男「なんたって、一番肝心なトドメをやってやってるんだからな。二割……いや三割は欲しい」

眼鏡「……」

眼鏡「その要求は飲めません」

男「なんだと……!」

眼鏡「この小屋や処刑台を準備し、依頼人と交渉しているのは私です。標的を捕まえているのは大男です」

眼鏡「一方、あなたのやることといえばボタンを押すことだけ……」

眼鏡「一割でも破格でしょう」

眼鏡「申し訳ありませんが、お引き取り下さい」

男「くっ……」

男「――ふざけんな!」

男(殺し屋にとって一番重要なところは“殺す”ところだろう?)

男(俺はその一番重要なところを担ってるんだ! 当然もっと報酬があっていいはず!)

男(なのにあいつが六割、大男が三割、俺がたったの一割だと? 割りに合わねえ!)

男(だが、あいつは交渉には応じそうもないし……)

男「こうなったら……!」

男「おーい!」

大男「……」

男「こうしてあんたと二人きりになるのは初めてだな」

男「なぁ、あんた。あの眼鏡のことどう思う?」

大男「……」

男「あいつはあんたには標的を捕まえさせて、俺には処刑のボタンを押させて」

男「自分は指示だけしてる癖に報酬のうち六割を自分のもんにしてるんだ。ムカつかねえか?」

大男「……」

男「そこで提案だ。どうだ、二人であいつを殺さないか。あんたが捕まえ、俺がボタンを押す」

男「これからは俺ら二人で殺し屋をやるんだ!」

男「そうすれば、あんたの取り分も増やしてやるよ! 例えば俺6であんた4とか……」

大男「……」ズイッ

男「おおっ、やってくれるか!」

大男「……」

ガシッ!

男「え……?」

ギュゥゥゥゥゥ…

男「ちょっ、苦し……! やめ……! ぐえっ……!」

……

……

男「うう……ここは……?」

眼鏡「目覚められましたか」

男「あんたは……うっ!?」

男「首にロープ!? ――ま、まさかっ!?」

眼鏡「そのまさかです」

眼鏡「大男にはね、“バイトから私を裏切るよう持ちかけられたら捕まえろ”といってあるのですよ」

男「……!」

眼鏡「こんな結末になってしまうとは、本当に残念です」

男「ま、待ってくれ! 許してくれっ!」

眼鏡「私のことを探ったことは許します。賃金値上げを要求したことも許します」

眼鏡「しかし、私を殺そうとしたことは……許すことはできません」

男「ひっ!」

眼鏡「文字通り、あなたは“クビ”です」

男「やめ――」

ポチッ

ガシャンッ!

眼鏡「うう……心が痛む。またしばらく気持ちが沈んだ状態で過ごさねばならないようです……」

眼鏡「食事も喉を通らないでしょうね……」

大男「……」ソッ

眼鏡「大丈夫です。心配かけてすみません。あなたの手は汚させませんよ」

眼鏡「私のメンタルがもっと強ければ……あなたと二人で仕事をすればいいのですが、情けないものです」

眼鏡「さて……また新しいボタン押しのバイトを探さなくてはなりませんね」

―おわり― 
 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:qe.UwZsd0編集削除
とうとう3か月前に上げた内容すら覚えていられなくなったのか?

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