勇者「ん?」

女魔法使い「その龍いる?」

勇者「いるよぉ。カッコイイじゃん」

女魔法使い「でも龍が邪魔で敵を切れなさそう」

勇者「そこは龍のパワーがあるから大丈夫」

女魔法使い「なにそれ?」

勇者「この剣の…巻きついてる龍には神聖な力が込められていて、敵に当たるとダメージを与える」

女魔法使い「ん??切ってないってこと?」



勇者「ん???切ってるよ、剣だもん」

女魔法使い「龍の力でダメージを与えるんでしょ」

勇者「そうだよ」

女魔法使い「切ってないじゃん」

勇者「いやぁ、剣で攻撃してるんだから斬撃、つまり切ってるだろ?」

女魔法使い「ていうか剣である必要なくない」

勇者「え…?」

女魔法使い「龍が巻きついてればなんでもよくない」

勇者「え…?え???」

女魔法使い「なんだったら龍そのものを振り回して戦えばよくない」

勇者「いや、いやいや、あのな…」

勇者「俺、勇者。剣、使う。それは分かるよね?」

女魔法使い「なんで??別に剣じゃなくてもよくない」

勇者「よくないんだよ。勇者だから俺は。剣を使わなくちゃいけないんだ」

女魔法使い「それは、なにか理由があるの?」

勇者「…ないけど。でも勇者は剣を使うだろ?」

女魔法使い「使わなくてもよくない別に。他にいろいろ武器ってあるでしょ」

勇者「…じゃあ分かった。俺が仮に弓矢を武器に戦うとしよう」

勇者「それもう勇者じゃなくないか???」

女魔法使い「なんで???」

勇者「弓矢を使う勇者ってどう考えても変だろ???」

女魔法使い「龍が巻きついた剣で戦う方がよっぽど変だと思うけど」

勇者「じゃあブーメラン、ブーメランに龍が巻きついてるとしよう。お前がいうように剣じゃないが龍が役に立つ武器だ」

女魔法使い「うん」

勇者「ダサくないか???」

女魔法使い「それは別に。龍が巻きついた剣の時点でダサいから」

勇者「いやいやいやいやいやいや」

勇者「だっ…ダサい?この剣が???マジで言ってる?」

女魔法使い「ダサい。ブーメランのほうがまだ、龍が飛んでる感じでビジュアル的に自然だと思う」

勇者「いや、自然かどうかは別にいいんだ。この剣のデザインの話だぞ??」

女魔法使い「ダサい。なんか龍の目ところが、宝石みたいに光ってるのが特にダサい」

勇者「こっこれが力の、龍の力の源なんだが」

女魔法使い「えっ、じゃあそこだけあればよくない」

勇者「いやいやいやいや」

勇者「龍が巻きついてるからいいんだよ。この龍石<ドラゴンストーン>だけじゃ味気ないだろ」

女魔法使い「それドラゴンストーンって言うんだ。名前もダサい。味気ないとかどうでもよくない」

勇者「フーーーーーー。」

勇者「落ち着こう一旦。落ち着こう」

女魔法使い「私は落ち着いてるけど…」

勇者「剣は切れるだけじゃダメなんだ。それは分かるよな?」

女魔法使い「あと何がいるの?手入れのしやすさ?」

勇者「カッコよさだろ???」

女魔法使い「なんで?????」

勇者「なにが『なんで?????』剣=カッコいいもの。これがまず基本だろ?」

女魔法使い「剣=切れるもの じゃないの?」

勇者「違ッッッッ…いや切れるに越したことはないんだが」

勇者「分かった。いい剣の方程式を教えてやる」

女魔法使い「方程式」

勇者「いい剣=」

勇者「カッコよさ×」

勇者「切れ味×」

勇者「呪われてさ…だよ」

女魔法使い「『呪われてさ』???」

勇者「『呪われ度』のほうが分かりやすいか」

女魔法使い「なにそれ?ここに来て新しい要素足さないでよ」

勇者「足し算じゃなくて掛け算だよ」

女魔法使い「つまり呪われてる剣ほどいいものなの?」

勇者「そう。言うまでもなくこの剣は龍に呪われている」

女魔法使い「呪いというか物理的に一体化してるけど」

勇者「これが呪われてなかったらただのよく切れる剣なんだぞ」

女魔法使い「それでよくない?剣なんだから」

勇者「…分かった。問題です 」

勇者「よく切れる普通の剣と、切れ味では劣るが呪われている剣、どっちがいい剣か?」

女魔法使い「よく切れる普通の剣」

勇者「呪われてるほうだろうがッッッッ!!!!!」

女魔法使い「なんで????」

勇者「呪われてるってことは、カッコよさも上がるってことだろうが!!!!!」

女魔法使い「??????」

勇者「いいか?さっきの方程式を声に出して言ってみなさい」

女魔法使い「……いい剣=かっこよさ×切れ味×呪われてさ。でもこれよく考えたら方程式でもなんでもないと思う」

勇者「いいんだよ!」

勇者「でだ、この方程式に実際に数字を当てはめてみるぞ」

勇者「まず、『よく切れる普通の剣』」

勇者「カッコよさ50、切れ味100、呪われてさ0だと考えよう」

勇者「50×100×0=0!!!!」

勇者「はい、いい剣度0ですね!」

女魔法使い「……」

勇者「次はこの龍の剣な。はいカッコよさ100、切れ味50、呪われてさ100」

勇者「100×50×100=?」

女魔法使い「500000」

勇者「ハイっその通り!いい剣度500000になりました!!!」

女魔法使い「やっぱりその式おかしい。まず掛け算なのが意味わからないし、それぞれの数字の基準が分からないし」

女魔法使い「足し算のほうが自然だと思うんだけど」

勇者「足し算じゃ数字がしょぼいだろ!!」

女魔法使い「足し算なら最初の剣は150、勇者の剣は250になるでしょ」

女魔法使い「さらに、そこに実用性を足すべきだと思う」

勇者「いやいや、切れ味=実用性だぞ?」

女魔法使い「切れ味だけじゃないでしょ。だってその剣は龍がついてる分持ちにくそうだし」

勇者「……つまりどうなる?」

女魔法使い「普通の剣が実用性100、勇者の剣は実用性50だとして」

勇者「250と300か。でもまだ50の差があるぞ」

女魔法使い「ここでもうひとつ追加」

勇者「なにを?」

女魔法使い「女ウケの良さ」

勇者「は?」

女魔法使い「普通の剣は可もなく不可もなく0。勇者の剣はかっこ悪いから-100」

勇者「いやいやいやいやいや」

女魔法使い「はい、これで250と200」

勇者「なんだ-100って!その数字どこから来たんだ!?」

女魔法使い「勇者が最初に言ったカッコよさが100だったから。私は逆に、ぜんぜんカッコよくないと思うから-100」

勇者「あれえ!?カッコよくないと思ってたの!?」

女魔法使い「うん。なんでそんな誇らしげなのかぜんぜん分からない」

勇者「いや分かっ…分からない???ホントに分からないのか?この…龍が巻きついていい感じになってるこの剣のカッコよさが???」

女魔法使い「龍が巻きついてる必要ないと思うからいい感じに思えない」

勇者「おいおいおいおい!聞いたかよ!」

女魔法使い「誰に言ってるの?」

勇者「あのね、この世はなんでもかんでも必要性がありゃいいわけじゃないのよ」

女魔法使い「……」

勇者「そんなこと言ったらな、お前、この世の趣味嗜好すべてを否定することになっちゃうぞ??」

女魔法使い「でも、私たちは魔王を倒すための旅をしているわけで」

女魔法使い「そこにあなたの趣味嗜好を混ぜる意味はあるの?」

女魔法使い「誠実さに欠けると思う」

勇者「う、うーーーーん…?そうなのか…??俺は不誠実なのか????」

勇者「分かった!つまり、旅の最終目標である魔王に認めさせればいいわけだ」

勇者「この剣で魔王を倒せば、この剣を使っていた俺 が正しかったってことになる」

女魔法使い「そうね。でも普通の剣でも倒せるかもしれない」

女魔法使い「同じ『魔王を倒した』という状況でも、その剣で1時間かかったことが普通の剣なら30分でできたかもしれない。そうしたらどうするの?」

勇者「そ、それは試してみないと分からないだろ……」

女魔法使い「そうね。だからあなたは普通の剣も使ってみるべきだと思う」

女魔法使い「そうすれば最終的にどちらの剣が優れているかはっきりするわ」

勇者「二刀流でもやれっていうのか?」

女魔法使い「1本ずつ使って、魔王と2回戦うのはどう」

勇者「ええ!?」

女魔法使い「いや、でもそうすると、2回目に戦う時は1回目の戦いで得たノウハウが反映されて、剣だけの優劣が分からなくなるかも…」

勇者「まぁたしかに初見と2回目じゃ戦い方も変わってくるだろうしな」

女魔法使い「……」

女魔法使い「わかった。勇者と同程度の実力者に、普通の剣を持たせて一緒に戦わせればいいんだ」

勇者「そんなやついるか?」

女魔法使い「ちょっと探してもいないかも。でも私なら用意できる」

勇者「どうやって?」

女魔法使い「こういう魔法があるの」

女魔法使い「パワコピー!」バッ

勇者「うわああああああ!!??」ビビビビビビ

勇者「…ん!?何したんだ今!?」

女魔法使い「パワコピーは、自分の力を、魔法をかけた相手と同じだけの力量に変える魔法」

女魔法使い「普通の戦闘で使っても互角になるだけだけど、こういうときにはこれが便利」

勇者「じゃあ今、お前は俺と同じ強さってことか」

女魔法使い「そういうこと。ちなみに元に戻るまでしばらく魔法も使えないから」

勇者「これでお前が普通の剣で魔王と戦えば、どっちの剣がより強いかはっきりするってことか!」

女魔法使い「ううん」

勇者「…じゃあどうするんだ?」

女魔法使い「勇者が普通の剣を使うって、そし私があなたの龍の剣を使うの。なぜなら力量が同じでも、あなたには『龍の剣を使ってきた経験値』があるから」

勇者「……なるほど、お互いに使い慣れてない剣を使うことで、より正確に剣の性能差が測れるわけだ」

女魔法使い「そういうこと」

女魔法使い「とはいえ、あなたは曲がりなりにも今まで剣で戦ってきたから、剣の形に関わらず『剣術』というスキルを身につけているわけで、それがない私とはやっぱりまだ対等ではない」

勇者「難しいんだなぁ…」

女魔法使い「だから私は魔王のもとにたどり着くまで、龍の剣を使って剣術を身につけなければいけないというわけ」

女魔法使い「そしてそのあいだにあなたが普通の剣を使って戦ってしまうと、そこでまた経験値の差をつけられてしまうから、しばらく剣なしで戦って」

勇者「ええぇ!?剣なし!?」

女魔法使い「腕がなまらないようにときどき使うのはいいけど」

勇者「いやいや厳しいって!」

女魔法使い「……」ブンブン

勇者「ど、どうだ龍の剣は。扱えそうか?」

女魔法使い「思った以上に持ちづらいし、あと龍の目がいちいちキラキラ光って鬱陶しい」

勇者「そこがいいんだろ!」

女魔法使い「あとなんで刀身が金色なの?すごく眩しいんだけど勇者は今まで気にならなかったの」

勇者「そこがいいんだろ!」

女魔法使い「でもよく見るとところどころ金の部分が剥げて下の色がむき出しになってる」

勇者「そこ…はあんまりよくないな!」

女魔法使い「じゃあしばらくこんな感じで旅を進めましょう」

勇者「マジかー…」

それからしばらくして、女魔法使いの『パワコピー』は解けた

女魔法使い「魔法が解けた瞬間にこの剣が重くなった気がする…。これは気合い入れて練習しないと…」

勇者「な、なぁ、それ本当にこの先ずーっとお前が使うのか?」

女魔法使い「ずーっとじゃなくて、魔王を倒すまでだから心配しないで」

勇者「だから心配なんだって」

女魔法使い「……ふーん。普通の剣で戦っていく自信がないんだ」

女魔法使い「勇者は今まで得物の性能に頼ってばかりで、マトモに鍛錬を積んでこなかったの?」

勇者「そんなことないぞ!ちゃんとやることはやってきた!はず!!」

女魔法使い「じゃあ問題ないでしょ」

勇者「……お、おうよ…」

道中、女魔法使いは戦い方をそれまでの魔法主体のものから一転して龍の剣を使ったものに変更
苦戦しながらも魔王のところに迫っていった。

勇者もこれでも勇者。腐っても勇者!
これまでの戦いで培われたセンスが花開き、剣なしでも難敵を超えていけるほどに成長していった。

そして、ふたりはついに魔王城にたどり着いた!

魔王「フッ、よく来たな…」

勇者「ここであったが100年目!」

女魔法使い「なに?そのセリフ」

魔王「ムッ!?なんだその剣は…」

女魔法使い「龍の剣よ」

魔王「な、なかなか良いではないか…」

勇者「だろ!?」

女魔法使い「ふーん、魔王的にもこれはかっこいい剣なの?」

魔王「も!もちろん…ブフッ!!」

勇者「ん?」

女魔法使い「…なにがおかしいの?」

魔王「いやだってそんなダッサい剣…よく見つけたなと思って…しかも使い手が女の子…ありえないだろ…w」

勇者「ダッ…!!!??」

女魔法使い「やっぱり人に笑われてしまうような剣なんだってば」

勇者「魔王!お前だけは分かってくれると思ってたのに!!同じ男として見損なったぞ!」

女魔法使い「でもたしかに、男の人はみんなこういうので喜ぶのかと内心見下していたから、魔王の反応が正常なのは意外だったかも」

魔王「フン!見くびるなよ。この魔王も魔剣の使い手。貴様の玩具とは違う、真のかっこいい剣を見せてやろう!」

魔王「これこそが『大魔聖剣・暗黒†輪廻(ブラックリィンカーネイション)』だ!!!!」

女魔法使い「………」

勇者「…ダッっっっサ!!?!?!!?」

女魔法使い「ええっ。あなたがそれ言っちゃうの?」

勇者「だって…えっ。ダサくね??ビビったわ。あんなダサい剣ある?」

魔王「…なんだと?」

勇者「なにその鎖。そんなもんジャラジャラさせてたら戦いの邪魔にしかなんねーだろ。あとそこら中にくっついてる十字架はなに?おまえそのナリで敬虔なクリスチャンなんか?」

勇者「ていうか大魔聖剣ってなんだよ。『魔』と『聖』って一緒にしたら具合悪くなりそうだな。あとブラックリィンカーネションはシンプルに変だからやめな」

女魔法使い「すごい、私が言いたかったこと全部言ってくれた」

魔王「ま、まて…この剣が、大魔聖剣・暗黒†輪廻がダサいだと…?本気で言ってるのか???」

勇者「ぜんぜんかっこよくないね」

女魔法使い「この剣も大概ダサいけど、正直そっちのほうがキツいと思った」

魔王「馬鹿な…?これほど破壊力と、邪悪さと、呪われてさ、しかもオリジナリティに溢れた剣が…?ダサい????」

女魔法使い「まさか、それ全部掛け合わせて方程式とか言っちゃう系?」

勇者「オリジナリティなんてぜんぜんないよ、バーカ!」

魔王「ありえない、ありえない、ありえなああああああああい!!!!」ブンッ!!!

女魔法使い「!来たっ」

勇者「おい、龍の剣貸しな!」

女魔法使い「えっ?」

勇者「コイツに、本当にかっこいい剣ってもんを見せてやるぜ!!!」

女魔法使い「…ああ、うん、好きにしたら」パシッ

魔王「ぜぇあああああああああああ!究極奥義!《真・深淵漆黒刃》!!!」

勇者「うおおおおおおおおおおおお!最大必殺技!《超・龍神覇王斬》!!!」

女魔法使い(2人とも終わってる…センスが)

ガキーーーーーーン!

魔王「ぬおおおおおおお!」

勇者「ずあああああああ!」

女魔法使い「…ネーミングはともかく、威力はバカにできないわ…2人の攻撃は完全に互角…!」

ピキィ!

魔王「むっ!」

勇者「あっ!」

女魔法使い(お互いの剣にヒビが…)

パキィイイイン!!

魔王「こ、この魔王の闇の力が!!!」

勇者「封じられていた龍の力が!!!」

女魔法使い「空に散っていく…!」

魔王「フッ…まさか我が魔剣が砕けるとはな…」

勇者「俺の龍の剣が…折れるなんて…」

魔王「やるではないか勇者よ!そして剣も…笑ってすまなかったな」

勇者「俺の方こそすまねえ。お前の剣も、最高にカッコよかったぜ!」

魔法使い「悔いはない!」

勇者「ああ、いい戦いだった!」

勇者vs魔王、ここに決着!!!

女魔法使い「いや、なんでそんな晴れやかな感じになってるのかぜんぜん分からないんだけど」

数ヶ月後

勇者「おーい魔法使い、これ見ろよ!」キラーン

女魔法使い「なにそれ」

勇者「新しい『勇者の剣』だよ」

女魔法使い「その小さいのが?」

勇者「あのときさ、俺と魔王の剣が砕けて、欠片があちこちに飛んでっただろ」

勇者「いま職人たちが、飛び散った欠片を使って小っちゃい剣を作ってるんだってさ。これも俺の剣に似てるだろ?」

女魔法使い「ふーん。でもこの大きさじゃ切れないんでしょ」

勇者「もう使う相手もいないしな。ただの飾りだよ。でもいろんな職人がいろんな形の剣を作ってさ、そういうのってワクワクしないか?」

女魔法使い「私は別に…」

勇者「お前はほんっと…最後までこのカッコよさが分からないんだもんなぁ」

女魔法使い「でもこれ、売れるかもね」

女魔法使い「この世界って案外、あなたや魔王みたいに、変わったセンスの人が多いみたいだから」 
 
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この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:RbbuwIwk0編集削除
魔法少女のステッキや衣装だって色々余分な装飾が付いているじゃないか
2 . 名無しさん  ID:FvTRFCYi0編集削除
お前らが買った裁縫箱w

オイラはおっさんだから、んなモン知らね

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