処刑人「最後に言い残す言葉はありますか?」
死刑囚「……クソッたれこの世、だ」
処刑人「ありがとうございます。メモしとかないと」
死刑囚(なんだこいつ)
処刑人「じゃ、今から首を斬るんですけど、首斬るの初めてでして……失敗したらごめんなさい!」
死刑囚「え!?」
処刑人「それじゃ斬りますね」
死刑囚「ちょっと待って! 失敗ってどういうこと?」
処刑人「刃が三割ぐらいのところで止まっちゃうとか……」
死刑囚「冗談じゃねえ!」
死刑囚「一撃で決めてくれよ! 一撃で!」
処刑人「難しいんですよね。骨の隙間を狙うのって」
死刑囚「だからって中途半端なところで止められるのは絶対嫌だぁ! 助けてくれぇ!」
処刑人「そもそもあなた、どうして死刑になったんです?」
死刑囚「へ? 処刑人なのにそんなことも知らないのかよ」
処刑人「処刑人の仕事は原則“死刑になった人を処刑すること”ですから。事情を知る必要なんてないんです」
処刑人「ただ、あなたがそんな悪い人とはどうも思えなくて」
死刑囚「はぁ」
処刑人「よかったら話してみませんか」
死刑囚「なんか調子狂う処刑人だなぁ」
死刑囚「俺の罪状は……領主に対する反逆と館に火をつけたことだ」
処刑人「法に照らすと確実に死刑ですね!」
死刑囚「だけど俺はハメられたんだ!」
処刑人「ハメられた?」
死刑囚「領主はひどい奴だった。税をどんどん吊り上げ、かといって領民の要望なんざ聞きもしない」
死刑囚「横暴はエスカレートし、近年になると気に入った若い女を連れ去るようになった」
処刑人「女性をテイクアウト……とんでもないですね」
死刑囚「やがて、ついに領主は俺の妹に目をつけやがった。まだ16だってのに」
死刑囚「怒り狂った俺は、屋敷に突入した! だけど、警備兵にボコボコにされて……」
処刑人「あらま」
死刑囚「領主の前に引っ立てられた。するとあいつは……」
領主『やれやれ、私の屋敷に侵入しようとするなどとんだならず者だ』
男『ぐっ……! 妹を、妹を返せ!』
領主『貴様の妹はもう私のものだ。税を払えなかったんだからねえ』
男『あんなメチャクチャな税、払えるわけないだろ!』
領主『税を払えぬ者は領民じゃない。つまり、どうしてもいいということだ』
男『ど、どうする気だ……』
領主『こうする』
ボワァッ!
男『は!?』
男(倉庫に火をつけた!?)
領主『とりあえず……君には放火犯になってもらおうか。間違いなく死刑だ、おめでとう』ニッコリ
死刑囚「その後は、あっという間に裁判かけられて、あれよあれよと死刑になっちまった」
処刑人「まぁ……」
処刑人「それがホントなら、あなたは悪くないじゃないですか!」
死刑囚「そうだよ!」
処刑人「しかも、妹さんはさらわれたままじゃないですか!」
死刑囚「そうだよ! 今頃どんな目にあってるか……」
処刑人「そうですよね。心配ですよね」
死刑囚「ああ……もう、どうしようもないけどさ」
処刑人「助けに行きたいですか?」
死刑囚「そりゃね。行きたいよ、行けるもんなら」
処刑人「じゃあ行きましょう!」
死刑囚「は!?」
死刑囚「なにいってんだ、あんた」
処刑人「そのままの意味ですよ。助けに行きましょう」
死刑囚「俺を斬った後、あんたが便宜を図ってくれるってことか?」
処刑人「いえいえ、あなたも一緒に行くんですよ」
死刑囚「えええ!? いや、俺、今まさに処刑されるとこだったんだけど……」
処刑人「実はですね、処刑人には“処刑を取りやめて、囚人を釈放していい権限”があるんですよ!」
死刑囚「マジで……?」
処刑人「滅多なことじゃ使っちゃいけないし、使いませんけどね。じゃ、縄ほどきますね〜」グッ…
死刑囚(ホントにほどこうとしてるよ、こいつ)
処刑人「結構固く結ばれてますね……手伝ってくれません?」
死刑囚「縛られてるんで無理!」
処刑人「やっとほどけた〜」
死刑囚(マジでほどいちゃったよ……俺、死刑囚よ? いいの?)
処刑人「出ますから、ついてきて下さい」
死刑囚「ちょっと待て! ホントにいいのかよ!?」
処刑人「いいですってば」
死刑囚「部屋を出たとたん、『脱獄の罪で逮捕だ!』されるんじゃ……」
処刑人「あのー、さっきまで首斬られそうだった人にそんな罠張ってどうするんです?」
死刑囚「そ、そういやそうか」
処刑人「それに……あなたは悪い人じゃない感じがするんで」
死刑囚「そんなノリで出しちゃうのかよ。軽いなぁ……」
処刑人「いえいえ、これでも命がけですよ」
死刑囚「ウソつけ!」
処刑人「処刑人権限でこの人を出します!」
衛兵「分かりました」
処刑人「さ、行きましょう」
死刑囚「う、うん」
ザッザッ…
処刑人「いいお天気ですねー、絶好の処刑日和!」
死刑囚「嫌な日和だ……」
処刑人「こんな日は、天にでも昇りたくなりますよね!」
死刑囚「昇ることにならなくて本当によかった」
処刑人「ところで、お腹すきません?」
死刑囚「え……まあ、すいてるかな。捕まってからろくに食べてないし」
処刑人「私も! 緊張が解けたら、お腹すいてきちゃって! 腹が減っては処刑は出来ぬといいますし、ちょっと食べて行きましょう!」
死刑囚「いや、でも……妹が……」
処刑人「妹さんなら大丈夫です」
死刑囚「どうしてそう言い切れる?」
処刑人「あなたの話を聞いた限り、領主さんは権力を誇示し、相手を屈服させたがるタイプです」
処刑人「だからあなたのことも、わざわざ一思いに殺さず、裁判所や兵を操って死刑にするなんて方法を取った」
処刑人「あいにく私にその影響はありませんでしたけど……」
処刑人「だから妹さんもしばらく閉じ込めて、己の無力さを味わわせてから……という流れになるはず」
死刑囚「な、なるほど……」
―レストラン―
店員「お待たせ致しました」
処刑人「おいしそ〜! いただきまーす!」
死刑囚「…………」
処刑人「見て下さい、このお肉。ちょっと人の形っぽくありません?」
処刑人「首がこの辺りとすると……」キコキコ
処刑人「首もこんな風に斬れればいいんですけどねー」パクッ
処刑人「うん、おいしいっ!」
処刑人「あれ? 食べないんですか?」
死刑囚「誰かさんのせいで食欲がみるみる落ちててね」
店員「お会計、2000Gになります」
処刑人「はーい。あの、ワリカンにしません? 1000Gずつで……」
死刑囚「あの、俺……ついさっきまで囚人だったんだけど」
処刑人「じゃ、ここは私が払っておきます! 貸しにしておきますね!」
死刑囚「う、うん」
処刑人「お腹もふくれたし、妹さんを助けに行きましょう!」
死刑囚「不安だ……」
―村―
死刑囚「みんな……ただいま!」
村人「お前、捕まったはずじゃ……」
村娘「お帰りなさい!」
村長「死刑になったと聞いていたが……」
死刑囚「えぇと、まあ、なんていったらいいか……死刑になったんだけど……」
処刑人「悪い人ではなさそうなので、とりあえず釈放しました!」
村長「それならよかったが……」
死刑囚「ところで、なんかみんな疲れてないか?」
村長「そ、そうかの?」
村人「んなことねえけど……」
処刑人「あ、ひょっとして税の追加徴収が行われるんじゃありません? だから一生懸命金策していると」
村長「ど、どうしてそれを……」
処刑人「この村から屋敷の襲撃犯が出た。倉庫に火までつけられた。追加徴収するにうってつけの理由です」
処刑人「死刑囚さんを放火犯に仕立て上げたのはこれが狙いだったんでしょう」
処刑人「放火の被害で、国から補助金が出ることも期待できますしね」
死刑囚「あの野郎……どこまで強欲なんだ!」
村長「どうする気じゃ?」
死刑囚「今から領主の屋敷に殴り込んで、妹を取り戻してくる! 無茶な取り立てもやめさせてやる!」
村人「バカ! 今度こそ殺されるぞ!」
村娘「そうよ、せっかく釈放されたんだからどこかに逃げて!」
処刑人「大丈夫です、私がついてますから! ご安心下さい!」
死刑囚「……というわけ。とにかく行ってくるよ」
ザッザッ…
村長「……大丈夫じゃろうか」
村人「俺にも分かんないっす」
領主の屋敷近く――
死刑囚「あそこだ」
処刑人「大きいお屋敷ですねー、潤ってるんですね」
死刑囚「俺たちから巻き上げた金でな……」
処刑人「しかし、それだけでここまでの家を建てられるものでしょうか……」
死刑囚「え、どういうこと?」
処刑人「きな臭くなってきましたねえ。はりきって参りましょう!」
死刑囚「う、うん」
門番A「…………」
門番B「…………」
死刑囚「うわ、やっぱり門番がいる」
処刑人「二人とも強そうですね」
死刑囚「ああ、俺はあいつらにボコボコにされて、領主に引っ立てられたんだ」
処刑人「ってことは侵入すらできなかったんですか!」
死刑囚「ん……まあ、そうなる、かな」
処刑人「さっきは突入したっていってましたけど」
死刑囚「ちょっと見栄張っちゃってごめん!」
処刑人「じゃ、行きましょう!」
死刑囚「俺の話聞いてた!? どこか裏口を探して……」
処刑人「あなたは悪いことしてないんでしょう? だったら正面から堂々行きましょう!」
死刑囚「えええ……!」
門番A「……む!」
門番B「なんだ貴様らは!? そっちの男はどこかで見たような……」
死刑囚(覚えられてすらいないのかよ。泣けてくる)
処刑人「領主さんに用があるので、入れて下さい!」
門番A「入れるわけないだろ!」
処刑人「サービスしますから」ピラッ
門番A「お前みたいな小娘に欲情するほど飢えちゃいねえよ」
門番B「とっとと帰れ!」
処刑人「いえ、帰るわけにはいきません!」
門番A「いい加減にしろよてめえ」サッ
門番B「とっとと帰らねえと、串刺しにすんぞ」サッ
処刑人「…………」
死刑囚(ヤバイ! この子は剣の素人! なんとか俺が棍棒で立ち向かって逃がさないと!)
処刑人「いい槍ですね」
門番A「あ?」
処刑人「斬るのが勿体なくなっちゃうくらい」
門番A「なにいって――」
ヒュヒュンッ!
門番A「え……?」
門番B「あ……?」
ボトトッ…
死刑囚「!?」
死刑囚(槍が……斬れた……!?)
処刑人「いい服ですね。高そうです」
門番A「え……」
ヒュババッ!
門番A「ひっ!」ハラ…
門番B「服が! やだ、恥ずかしいっ!」ピラ…
処刑人「いい体ですね」
門番A「わっ……うわぁぁぁぁぁっ!」
門番B「ひえええええっ!」
タタタッ…
処刑人「門ががら空きになりましたね。入りましょう!」
死刑囚「…………!」
死刑囚「待ってくれ!」
処刑人「待ちます!」
死刑囚「宣言して待たなくても!」
死刑囚「あ、えぇと……すごい腕だったけど、あんた、首を斬ったことなかったんじゃ……」
処刑人「ないですよ。だけど――首以外の箇所なら、だいたい斬ったことあります」
死刑囚「え……」
処刑人「おっと、雑談してる暇はありませんね。進みましょう」
死刑囚「う、うん」
処刑人「それと、さっきあなた私を助けようとしましたよね? ありがとうございます!」
処刑人「やはりあなたはいい人です!」
死刑囚「どういたしまして……」
―屋敷敷地内―
ザザザッ… ダダダッ…
警備兵A「お、侵入者だ!」
警備兵B「若い男と女か……」
警備兵C「楽しませてくれよぉ……」
死刑囚「たくさん来た……!」
処刑人「あの方たち、カタギの人ではありませんね。町のならず者たちを雇って、自分の兵にしているようです」
処刑人「ようするに、領主さんは裏社会と深い関係を築いてるようです」
死刑囚「な……!」
処刑人「領主として彼らを取り締まる立場でありながら……潤うわけですね、これじゃ」
処刑人「参ります」チャキッ
処刑人「はっ!」ヒュオッ
ザシッ! ビシュッ! ザンッ!
「うおおっ……!」
「なんだこいつ、強いぞ!」
警備兵A「だったら、こっちを……」
死刑囚「だああっ!」
ガゴンッ!
警備兵A「がはっ……」
処刑人「死刑囚さん、やるぅ!」
死刑囚「処刑をやめてもらって、敵も全部倒してもらった、じゃ流石にかっこ悪すぎるからな!」
ワーワー…
傭兵「なにやら騒がしいようで」
領主「うむ……どうやら侵入者のようだ。かなり手強いらしい」
傭兵「まあ、この俺に任せて下さい。裏の世界で数々の粛清をこなしてきた……この俺にね」
領主「頼んだぞ」
領主「私はこんな片田舎の領主で終わるつもりなどないのだ」
領主「裏の力をも利用して……もっともっとのし上がる! 近隣の村など踏み台にすぎぬ。吸い取るだけ吸い取ってポイだ」
傭兵「そのためにあんな無茶な税の取り立てを……ふふ、あなたもワルですね」
領主「上に立つ者というのは、えてして悪なものよ」
処刑人「てやっ!」ザンッ
警備兵D「うぐぅ!」
イテェ… アウゥ… タスケテ…
死刑囚(ほとんど一人で片付けちゃった……)
死刑囚(しかも殺してない……慈悲なのか、それともそうするまでもなかったってことなのか)
処刑人「さあ、どんどん行きましょう!」
死刑囚「そうだな!」
傭兵「全く頼りない連中だ」
処刑人「む!」
死刑囚(うおっ、やたら強そうなのが来た……)
傭兵「貴様は何者だ?」
処刑人「私ですか? 私は……処刑人です!」
傭兵「それは奇遇だな。実は俺も業界では“処刑師”の異名を持っている」
死刑囚(なんて物騒な異名だ……!)
傭兵「勝負といこうじゃないか!」チャキッ
死刑囚(処刑人vs処刑師! ど、どっちが勝つんだ……!?)
傭兵「…………」チャキッ
処刑人「…………」スッ
死刑囚(両者構えた!)
傭兵「…………」
処刑人「…………」
死刑囚(二人とも動かない……先に動いた方が不利ってやつか)
傭兵「…………」スッ
処刑人「…………」
死刑囚(動いた!?)
傭兵「…………」ザッ
死刑囚(膝をついた! ここからどういう攻撃を――)
傭兵「…………」ガシャン
死刑囚(剣を置いた! 素手で攻撃してくる!?)
傭兵「…………」サッ
死刑囚(え、首を差し出すように……これは……“首を斬ってくれ”のポーズ!?)
死刑囚(処刑される寸前、俺がやったような……)
傭兵(なぜだ!? 自然とこういうポーズになってしまった……)
傭兵(俺の中の剣士としての本能が……強さとかではない、あの娘との“格の違い”を感じてしまったということか!?)
処刑人「……頭を上げて下さい」
傭兵「!」
処刑人「私はあなたを処刑するつもりはありませんから」
傭兵「うぐう……」
処刑人「行きましょう、死刑囚さん」
死刑囚「う、うん……」
傭兵(俺がやってきたことは……しょせん“処刑人ごっこ”に過ぎなかったということか……)
処刑人「屋敷は広いですねー、妹さんはどこでしょうか」
死刑囚「な、なぁ」
処刑人「はい?」
死刑囚「あんた、何者なんだ? ただの首切り役人じゃないのか?」
処刑人「私は処刑人ですよ」
処刑人「処刑人の仕事は二つ。一つは死刑判決を受けた罪人を斬首すること」
処刑人「もう一つは……世に蔓延る極悪人を処刑すること」
死刑囚「!」
処刑人「もちろん裁判なしです。それぐらいの特権を与えられているんです、私たちの一族は」
死刑囚「一族……ということは……」
処刑人「はい、私の家は代々処刑人をやってるんです。まだ父も現役なんですが、私が後継ぎになりますかね」
処刑人「悪い人を倒す仕事は、父を手伝って、よくやってきたんですけど……斬首の方はなかなかやらせてもらえなくて」
処刑人「ですが、やっとやらせてもらえることになって……」
死刑囚「それが……俺と」
処刑人「はい」
死刑囚「だけど、取りやめちゃったと」
処刑人「そうなりますね」
死刑囚「なんか……ごめん」
処刑人「アハハハッ! なんで謝るんですか!」
死刑囚「いやぁ、せっかくの初仕事なのに水差しちゃったみたいで」
処刑人「あなたを釈放した私の目は間違ってませんでした。なんだか嬉しいですよ」
ガシッ!
執事「ぐえっ!」
死刑囚「領主はどこだ!?」
執事「あ、あちらの部屋に……」
処刑人「ド迫力ですね。私も思わず首をすくめちゃいましたよ」
死刑囚「首を斬る仕事の人間に首をすくめられたら光栄だよ」
処刑人「いよいよ大詰めですね」
死刑囚「ああ、妹を助け出してみせる! 首を洗って待ってろよ、領主!」
バァンッ!
妹「お兄ちゃん……!」
死刑囚「無事だったか!」
領主「ふん」ガシッ
妹「むぐっ!」
死刑囚「あっ、領主!」
領主「驚いたぞ。死刑になったはずの奴が舞い戻ってくるとはな。いったいどんな手品を使ったんだか……」
領主「だが、ここまでだ! 妹を捕らえられては、手も足も出まい」
領主「まだ兵は残ってるんだ。ここに呼びつけて、お前たち二人とも死刑にしてやるぅ!」
死刑囚「くっ!」
処刑人「…………」
死刑囚「ど、どうしよう……?」
処刑人「死刑囚さん」
死刑囚「え?」
処刑人「残念ですが、私は処刑人。こういう時に妹さんを助け出すノウハウは持ってません」
死刑囚「何をいって……」
処刑人「妹さんのために殺されるつもりもありません。ですから、妹さんの命は諦めて下さい」
死刑囚「おいっ!?」
領主「なっ!?」
処刑人「ですが安心して下さい」
処刑人「もし、領主さんが妹さんの命を奪ったなら……」
処刑人「この私が処刑人としての使命にかけて、領主さんにできうる限りの苦痛を与えた後……」
処刑人「その首を刎ねてみせましょう。初めてなので、失敗するかもしれませんが」
死刑囚「…………!」
領主「ひいっ!」
妹(あっ、力がゆるんで……)
妹「お兄ちゃん!」ダッ
領主「あっ!」
処刑人「今です、今! 決めちゃって下さい!」
死刑囚「うおおおおおっ!」
ガンッ!
領主「ぐはぁぁぁ……!」ドサッ
妹「お兄ちゃん……!」
死刑囚「無事だったんだな!」
妹「うん、ずっと閉じ込められてて……」
死刑囚「よかった……」
死刑囚「処刑人さん、ありがとう」
処刑人「いえいえ。私の脅しが通じてよかったです!」
死刑囚(脅しだったのか……マジに見えたけど)
処刑人「さて、領主さんの処遇ですが……」
領主「あうう……」
処刑人「この場で処刑することも可能です。ですが、今このめでたい場に流血沙汰は相応しくありません。やめておきましょう」
処刑人「ただしこの件は国に報告しますし、あなたが領主を続けられなくなることは間違いないでしょう」
領主「ぐ、うう……っ!」
処刑人「これにて一件落着ですね!」
死刑囚「ああ!」
妹「はい!」
スタスタ…
死刑囚「……ん?」
妹「きゃっ!」
?「…………」
死刑囚(なんだ、メチャクチャ強そうなのが屋敷の出口にいる……。さっきの処刑師よりも……。まだ敵がいたのか!?)
処刑人「あ」
死刑囚「処刑人さん、あそこに強そうなのが……。二人がかりで……」
処刑人「お父さん!」
死刑囚「お、お父さん!?」
父「娘よ」
処刑人「お父さん……」
父「お前に死刑囚処刑の初仕事をやらせ、いきなり特権を使い、釈放したと聞いてあわてて駆け付けたが……」
父「この様子だと、どうやらその判断に誤りはなかったらしい」
処刑人「はい、死刑囚さんは嵌められていただけでした」
父「うむ、よかったよかった」
死刑囚「もしかして、応援に駆けつけて下さったんですか?」
父「それもあるのだが……」
父「もし、娘が君を取り逃したり、判断が誤っていたりしたら、ペナルティを与えねばならんからな」
死刑囚「ああ……なるほど。お給料カットとか?」
父「そんな軽いものではない」
死刑囚「え、クビになってたとか?」
父「クビというか、娘の首を我が手で斬らねばならないところだった」
死刑囚「斬るって……殺しちゃうんですか!? 自分の娘を!?」
父「当然だろう。判決が下った罪人を、自分の判断だけで釈放したのだ。それぐらいの責任は持たねばならん」
父「場合によっては私も連帯責任で自分で自分を斬っていただろう。そうならなくてよかったよかった」
処刑人「私もほっとしてますよ、お父さん」
死刑囚「…………!」
処刑人『いえいえ、これでも命がけですよ』
死刑囚(あれはホントだったのか……!)
死刑囚「ワンミスだけで処刑されちゃうなんて……」
処刑人「強大な特権を持っていれば責任も重くなる。当然のことですよ。ねえ?」
父「うむ」
死刑囚「俺、ぶっちゃけ“このまま逃げちゃおう”って気持ちもあったよ。どうしていってくれなかったんだ」
処刑人「だってそれはこっちの都合ですから。あなたが逃げたら、それまでのことです。全て受け入れるつもりでした」
死刑囚「…………」
死刑囚「あんたってさあ、ホント変わってるよ」
処刑人「あなたこそ、死刑になったのにとてもいい人でした! 会えてよかったです!」
死刑囚「俺も……あんたが処刑人でよかったよ」
死刑囚「それじゃあ……また」
妹「本当にありがとうございました!」
父「領主の件については、私がきっちり処理する。任せておいてくれ」
死刑囚「よろしくお願いします」
処刑人「またお会いしましょう!」
死刑囚「次会う時は牢屋や処刑場じゃないことを祈るよ」
処刑人「ああ、それと――」
死刑囚「?」
処刑人「いつか1000G返して下さいね!」
死刑囚「強大な特権を持つ一族の娘なのにケチくさっ!」
…………
……
それから――
領主の領民への横暴や、裏社会との繋がりは全て明るみにさらされた。
結果、領主は地位を剥奪され、逮捕された。
この地域の行政は大きく変革を遂げることとなる。
男「……ん」
妹「お兄ちゃん、起きて! 朝だよ〜!」
男「おう、おはよう!」
男「メシは?」
妹「今日はいい卵が取れたから……目玉焼き!」
男「うまそうだな、いただきま〜す!」
妹「ああ、あと新聞あるよ」
男「新しい領主さんのおかげで、よその地域の情報も入ってくるようになった。ありがたいことだ」
妹「ホントだね!」
男「さて、どんな記事があるかな、と」
男「多くの町や村を襲った強盗団の頭が処刑、か……」
妹「怖いね〜」
男(ひょっとすると、これを担当したのは彼女かもしれない)
男(ちゃんと首を斬れただろうか……。近いうち、1000G返しに行くかな)
―おわり―
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