とある町
宿屋

遊び人「ただまーっ」ばんっ

魔法使い「また、朝帰りですか。ほんと毎日毎日、よく飽きませんね」

遊び人「えー、だって、酒場でいろんな冒険者たちと飲むの面白いよ?」

魔法使い「なにが面白いんですか…そんなの」

遊び人「ん?まあ、いろんな冒険話とか自慢話聞いて、褒めてあげたら
貴重なアイテムくれたり、お金くれるし」

魔法使い「うっわ…」

遊び人「魔法使いちゃんも、一回くらい一緒に飲みに付き合おうよ」

魔法使い「結構です。ていうか、後ろから抱き着かないで。酒臭いし
勉強のじゃまです」

遊び人「えー、てかいっつもその本読みながら勉強してるよね?
なんなのその本?おもろい?」

魔法使い「はあ…、これは悟りの書ですよ」

遊び人「悟りの書…?」

魔法使い「あなたには関係ないものですよ。少なくとも」

魔法使い「ここからはるか北にある大陸に、賢者になるための試験が開かれる神殿があります。
この悟りの書はその試験に合格するための、バイブルっていったところですか」

魔法使い「神殿を目指しつつ、この本の内容を少しずつ理解して試験勉強してるんです。
古代文字で書かれてて、ぜんぜん勉強が先に進みませんけど」

遊び人「えーなにそれ。魔法使いちゃん、賢者になるために旅をしてるの?」

魔法使い「ええ、まあ…。私の家系は代々、この悟りの書を引き継いで
賢者になることを目指してるんです。まあ、まだ誰もそれを達成できてませんけど」

遊び人「へー、賢者になるのってそんなに難しいんだー。けど、賢者になってどーすんの?」

魔法使い「どーするって…、いやそれはまあ、親から引き継いだ
使命ですから。なんとか私の代で賢者になって、一族の使命を果たさないと」

遊び人「えーなにそれー、なんか堅苦しくない?そんなんよりさ、
もっと自分に正直に、楽しいこと考えて生きたほうがいいよっ」

魔法使い「ほっといてくださいっ、そういうあなたには、何か人生の
目的ってもんがないんですか?」

遊び人「わたし?わたしは、旅先で、富と権力もったイケメンひっかけて
玉の輿に乗って、きもちよく生きることかな」

魔法使い「ああそうですか…」

遊び人「てか、そろそろ次の町行こうよっ!わたし、もうこの町飽きちゃったよ」

魔法使い「明日出発予定ですけど…、って、なんで私の旅についてくるんですか?」

遊び人「えへへ、だって魔法使いちゃん、なんか真面目でかわいーし、面白いんだもん」

魔法使い「なんですかそれは…」

遊び人「魔法使いちゃんだって、わたしと一緒に旅したほうが楽しいでしょ?
なんだかんだもう、1年近く一緒だもんね。いいじゃん、わたしがいい男ひっ
かけて玉の輿に乗るまでつきあってよ」

魔法使い「ああもう、だからひっつかないで。はやくシャワー浴びてきてください。酒臭いです」

遊び人「かたいなあ、はいはい」


ある日 夜 

宿屋

魔法使い「はあ…、だめだ…ぜんぜん理解できない。本も分厚いし…、これじゃ、
悟りの書を内容を理解するのに何年かかることやら…」

魔法使い「…あれ、そういえばあの人。まだ帰ってこない。こんなに
雨も降ってるというのに」

魔法使い「まあ、今日も朝帰りコースでしょうから。放っておきますか…
それより勉強しないと…」

魔法使い「……けど、傘、持って行ってたかな…あの人」

……


町の郊外 酒場の前

……

冒険者A『ぎゃははは、ホントおもしれー女だな』

冒険者B『ああ、おっぱいも大きいし。俺っち、気に行っちゃったぜw』

遊び人『きゃはは、やだ、やめてよー』

……

魔法使い「やっぱりここでしたか。酒場の外からでもあの子の笑い声が
聞こえます。下品な冒険者の声もですが…」

魔法使い「傘だけ渡して帰るつもりだけど…
こういった騒がしい場所に入ること自体、苦手で嫌だし…やっぱり帰ろうかな…」

魔法使い「あの人と私はべつに、仲間というわけでもないし…、私とは旅の目的も
全然ちがうわけだし…そこまで気遣う必要は…」

………


酒場

冒険者A「なあ、遊び人ちゃん。俺たちのパーティにはいんねえか?」

冒険者B『ああ、かわいいし、おもしろいし。エッチだし。ついて来いよ」

冒険者C「俺たち実は、A級の冒険者なんだぜ?一緒についてきたら
報酬もはずむぜ?」

遊び人「えー、気持ちはうれしーけど。けどわたし、戦闘じゃ何にも役に立たないし。
好きなことして遊んでるだけだよ?」

冒険者A「いいんだよ、一緒にいてくれるだけで、なあっ!おれ、おまえのことっ…」

遊び人「えっ、ちょっ、や、やだっ…、抱き着かないでっ…、おさわりは
NGだって言ったじゃん…、ちょ、誰か…」

魔法使い「…」ばんっ

遊び人「あれ魔法使いちゃん、どうして酒場に?あ、もしかして迎えにきてくれたの?」

魔法使い「え?あ、あの…、か、傘っ…、あ、雨降ってるから。そ、それだけで、
わ、わたしはもう帰りますから」

冒険者A「なんだあ?お前は?暗くて地味な女だな。陰キャまるだしじゃねーか」

冒険者A「てか話の邪魔すんじゃねーよ、…ぷぺっ」

冒険者A「て、ってめ、だ、だれに酒をぶっかけて…!ごほっごほっ」

遊び人「あ、ごめーん。手がすべっちゃったー」

魔法使い「え、ちょっ…、」

冒険者A「て、てめえ、急になにしやがるんだっ!」

……


町の郊外

冒険者C「いたか!?」

冒険者A「いやいねえ、あのアマっ!せっかく冒険にさそってやったのにつけやがりやがって」

冒険者B「どこにげやがった、あのくそ遊び人っ!逃げ足だけは早い奴だっ!」

路地裏

魔法使い「はあ、はあ…。なにやってんですか、あなたは…ていうか、もめごとはやめてくださいよ」

遊び人「え、だって、わたしの仲間の悪口いうから」

魔法使い「べ、別にわたしとあなたは、仲間というわけじゃあ」

遊び人「ねえ、魔法使いちゃん。私の事助けてくれてありがとね」

魔法使い「べつに、たすけたわけじゃあ…、たまたまで」

遊び人「ねえ、そろそろ次の町いかない?この町だめだわ。いい男いないし、
わたしこの町、飽きちゃったわ」

魔法使い「はあ、まったく…あなたという人は…」

魔法使いと遊び人の目的の違うよくわからない旅は、それからも続いた…

とある町A

遊び人「ただまー、ねえ、みてみて。酒屋で変な商人のジジイほめちぎってたら、
変なペンダントもらったよ、ほらほら!高く売れるかなっ」

魔法使い「それ呪いのアイテムだから近づけないでください、ていうか勉強の邪魔です」


とある町B

酒場の亭主「高い酒一気飲みしたまま寝ちゃったみたいで…、もう閉店なんで。
すみませんけど持って帰ってもらえます」

遊び人「すーすー」

魔法使い「はい…すいません。ほら、起きてください、帰りますよ」

酒場の停車「あ、あのちょっと…帰る前に、お会計払ってください」

魔法使い「ええ…」


とある町C

遊び人「ちょ、ちょっと魔法使いちゃん!勉強してる場合じゃないよっ!
むかつく冒険者にビンタしちゃって怒らせちゃったから、酒場から逃げてきたっ!
早くこの町からずらかろうっ!」

魔法使い「ああもう、なにやってんですか、あなたはっ!」


とある町X

宿屋

遊び人「ほらほら、外見てよ。きれいな夕焼けだよ」

魔法使い「はあ、そうですね」

遊び人「んもう。ちゃんと見てよ。つまんない子ね。
また、悟りの書でお勉強?飽きないね」

魔法使い「ええ。まだ、内容は半分も理解しきれてませんからね。
神殿までの道のりはまだまだ先ですが、もっとよく勉強しないと。
そういうあなたもゆく先々で毎晩飲み歩いて、よく飽きませんね。今夜も酒屋めぐりですか?」

遊び人「うん、まあ。…ええっとさあ、魔法使いちゃん。この町、あとどれくらい滞在する?」

魔法使い「さあ、決めてませんけど…、なんですか。もうこの町飽きちゃったんですか」

遊び人「ううん。その逆。もう少し、できれば、もう少しこの町に長くいたいかな、って…」

魔法使い「え……?」


その夜 酒場

冒険者D「僕と一緒に旅にでよう!大丈夫、かならず幸せにするからっ!国に戻ったら、僕の
王妃になってくれ」

遊び人「え…けど、わたし…その。ただの遊び人で、さ、さすがに…わたし貴方とは釣り合わないし…」

冒険者D「そんなことないっ!こんなに頼んでもだめかっ!好きなんだ、君のことがっ」

遊び人「ええ…、け、けど…その、わたしは…その」

……

酒場の客A「あそこに座ってる冒険者、実はA国の王子なんだってよ。お忍びで旅をしてたとか」

酒場の客B「一緒に飲んでる遊び人、その王子様にこの酒場で毎晩口説かれて…、まんざらでもない感じだな」

酒場の客C「当然だろ。いい女とはいえ、遊び人なんてカタギじゃない職業ついてるやつが、
王妃にジョブチェンジなんて普通じゃありえねーし、断る道理ねーだろ」


酒場の外

魔法使い「(別に…、心配して様子を見に来たわけではないですけど)」

魔法使い「(ただ、様子がおかしかったから、様子を見に来てみたら、……そういうことですか)」

魔法使い「(……)」


次の日の朝 宿屋

魔法使い「よさそうな人じゃないですか。王妃様だなんて…、玉の輿、成功ですね」

遊び人「は、はあ!?ま、魔法使いちゃん、何言って…!え!?ひょ、ひょっとしてみ、みてたの?」

魔法使い「わたしはもう、次の町に行きますが。ここでお別れですね。それでは、お元気で」

遊び人「え、ちょ、ちょっと待ってよ!わたしも一緒に…」

魔法使い「何言ってるんですか。あなたはもう、旅の目的を果たしたんです。強欲なあなたでも
王妃の地位なら不満はないでしょ?実際、昨日はデレデレして、まんざらでもない感じでしたし」

遊び人「違っ…、確かに、心揺らいだけど…、で、デレデレしてなんかっ!いや、あの…魔法使いちゃん、わたしは」

魔法使い「はあ、もういい加減にしてください」

遊び人「え?」

魔法使い「あなたにはうんざりしてるんですよ、遊んでばっかで全然役に立たないし。
そのくせ、お金使い込んで酒飲んでばっかりっ!わたしの勉強ばっかりして!」

遊び人「ま、魔法使いちゃん…」

魔法使い「これ以上、わたしの旅の、勉強を邪魔しないでくださいっ!それじゃ、ごきげんよう」ばたんっ

……


次の町

魔法使い「……」

魔法使い「(これでいいんです。…あの人と私じゃ、旅の目的も、性格も、価値観も、考え方も…なにもかも違う。
住む世界が違いますし。あの人は、ちゃんと旅の目的を達成した。それを邪魔してはいけない)」

魔法使い「(自由に生きるあの人に対し…、わたしは賢者になるため、悟りの書に
人生を縛られた魔法使い…けど、これでいいのかな?)」

魔法使い「(目的を達成して…、賢者になれば、何か答えがみえてくるのかな…?)」

魔法使い「……それにしても」

魔法使い「一人旅って…、こんなにさびしいものだったっけ」


数年後

とある神殿

神官「おめでとう。君たちは、この難関な賢者になるための試験を
みごと合格した。今日から、胸をはって賢者を名乗り、活躍してくれたまえ」

神官「しかし、今年は豊作だな。
試験は毎年行っているが、試験に合格するのは10年に1人いるかいないかだ。
まさか同時に2人も賢者が誕生するなんて。
君たちはまだ若いし、非常に優秀だ。今後の活躍を期待しているよ」

賢者A「はい」

賢者B「はい」

神殿の外

賢者A「さてと…」

賢者B「あ、あのっ」

賢者A「え?」

賢者B「よ、よかったら。お食事でもどうです?一緒に
試験に合格した者同士。なんというか、同期会ということで」

賢者A「ええ、いいですよ」


酒場

賢者A「ええ…、それじゃあなたは悟りの書を読むことなく試験に合格したんですか?」

賢者B「ええ、まあ…」

賢者A「すごいですね…。ふつうは悟りの書なしでは賢者になれないというのに。
私なんかは、先祖代々、この悟りの書を引き継いで魔法使いとして
旅をしながら勉強を続けて、ようやく賢者になれたというのに」

賢者B「いえ…」

賢者A「しかし、悟りの書を読むこともなく、この世の真理にたどり着くとは…
そんな人に会うのはあなたで2人目です」

賢者B「え?」

賢者A「私が長年かけて翻訳した悟りの書の内容。
それは、要約すれば、自分に正直に自由に生きること、の一言につきます。
そうすることで、精神が解き放たれ、悟りを開くことができる。そう書いてありました」

賢者A「このことを理解したとき、気づいたんです。わたしのかつての旅仲間が
この境地にたどり着いていたことを」

賢者A「そのひとは、自分に正直で好き勝手生きて…いつも楽しそうで。
どうしょうもない人だったけど。賢者になるという一族のしがらみに囚われていた
私にはないものをもっていた。わたしは、そんな彼女にあこがれてました」

賢者A「彼女がもし賢者を目指してたら、きっと簡単になれたかもしれないですね。
まあ、そんな人じゃなかったですけど」

賢者B「へえ、その人はいま、どこに…」

賢者A「おそらく某国の王妃様になって、今も自分に正直に生きてることでしょう。
賢者になったいま、私もこれからは、少しは彼女を見習って生きていこうと思ってます」

賢者A「あ、すみません、わたしの話ばかりして…、あなたは、その…どのような経緯で賢者になったんですか?」
悟りの書を読むことなく、心理に到達し、賢者となったあなたの話、とても興味があります」

賢者B「わたしは…、わたしはあなたが思ってるようなたいそうな人間ではありません」

賢者B「あなたのいう…、真理にたどり着くのに、ずいぶん遠回りをしました」

賢者A「え…?」

賢者B「わたしは、ずっと遊び人として生きてきて、行く先々で旅の冒険者をたぶらかせて
金品せしめて生きてきました」

賢者B「遊ぶこと以外、何もしてこなかった人生だったけど
持ち前の美貌で、どこかで金回りのいい男を捕まえて結婚すれば、幸せになれると、
そんなことをぼんやり考えながら、一人で旅を続けてました」

賢者A「へえ、意外ですね。まじめそうなのに、そんな過去が…」

賢者B「そんなある日、1人の旅仲間ができました」

賢者B[彼女は、賢者を目指していて、いつも宿屋に引きこもり勉強してました。
そんなまじめな彼女をみて、わたしは彼女に自分にはないものを感じ、なんというか、不思議な感情が芽生え始めました」

賢者B「けど、ひょんなことから、その彼女とは、別れてしまいました。
私はというと、とある国の王子様からプロポーズされて、王妃になったのはいいものの。
なんだか、何しても楽しくなくなって…気が気じゃなくなって」

賢者B「いつの間にかその子のことばっかり考えて、普通に国から逃げてきて王妃ばっくれちゃって。
その後は、その彼女のことばかり考えるようになって…、あれ?賢者目指したら、もう一度彼女に会えるんじゃね?、とか思うようになって…」

賢者B「そこで、ようやく、真理にたどり着いたんです」

賢者B「あ、わたし、男より女が好きだわっ、って…」

賢者A「へえ…、ん…?え?」

賢者B「ひっさしぶりいいい!魔法使いちゃんっ!!」

賢者A「きゃああああ!!!」

賢者A「な、あ、あなたまさかっ…!!」

賢者B「わ、わたしも賢者になったんだよっ!ねえ、すごいでしょっ!
あなたといっしょよっ!」

賢者A「う、うそでしょ!な、なんで!?ちょ、や、やめてください、う、うそでしょ、てか
なんで王妃やめてこんなとこにいるんですかっ!」

賢者B「だから言ったでしょ!?わたしも真理にたどり着いて、賢者になったのっ!
魔法使いちゃんのことがずっとずっと好きだった、っていうこの世の真理にっ!」

賢者A「え!?いやそれ私が考えてた真理と違うっ、ちょ、こんなとこで抱き着かないで、は、はなしてっ!」

賢者B「けどびっくりしたっ!魔法使いちゃんって、私の事そんなふうにおもってたんだねっ、
嫌われちゃったと思ってたのにっ!わたしにあこがれてたんだっ、それなのにあんなにツンツンした
態度とって!かわいいねっ!」

賢者B「てかつまり魔法使いちゃんも私のこと好きなんだよねっ、そういうことよねっ」

賢者A「ち、違っ…、あ、あれは言葉のあやでっ、そういうことではっ!」

賢者B「いいじゃない、恥ずかしがらなくて!せっかく
賢者になったんだもの、これからはずっと二人で真理の先にある深淵を覗きに行こうねっ!ねっ!」

賢者A「いやどういう意味ですかっ!いいからまず離れてえ!!」

おしまい

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名前  記事の評価 情報の記憶
この記事のコメント一覧
1 . 名無しさん  ID:vnhpQaQb0編集削除
そして深淵を見たのち、二人して賢者タイムに入るわけか
2 . 名無しさん  ID:j4T5qSm90編集削除
>1
つ◇ ←座布団
3 . 名無しさん  ID:axsPEQ820編集削除
なんとなくオチは読めたんだがな

まさかの百合展開の寸止めとはww

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