魔王「揃ったか」
火の四天王「はいッ! 参上いたしましたァ!」
水の四天王「お呼びでしょうか、魔王様」
土の四天王「我らをまとめて呼び出すなど、よほどの事態のようですな」
風の四天王「フッ、穏やかではありませんね」
魔王「実はこの四天王の中に……人間のスパイがいる!」
四天王「!!!!」
魔王「今から四人で、そのスパイを見つけ出すのだ。よいな!」
火の四天王「スパイなど本当にいるのか!?」
水の四天王「とても信じられませんね。よりによって四天王にスパイなど……」
土の四天王「だが、魔王様は聡明なお方……何らかの確証があると思われる」
風の四天王「ってことは、この中に人間が混じってるというわけかい。だったらいい方法がある」
火の四天王「言ってみろ」
風の四天王「この中に人間がいたら、正直に手を挙げよう」
シーン…
風の四天王「フッ。こんな方法で割り出せたら、苦労はないよね」
火の四天王「当たり前だ。ふざけている時か!」
火の四天王「スパイなどいるわけないんだ……下らんッ!」
水の四天王「本当にそうでしょうかねえ?」
火の四天王「どういう意味だ」
水の四天王「あなたは少々疑わしいことがあったんですよ」
火の四天王「何を言うか!」
風の四天王「まあまあ。興奮するのはよくないよ。彼の言い分を聞こうじゃないか」
土の四天王「うむ」
火の四天王「ちっ……」
水の四天王「あなた、以前ある町を火の海にするといって……」
水の四天王「凍り付いた町を解凍してしまったことがありましたよねえ?」
水の四天王「あれは完全なる人間への利敵行為ですよ」
風の四天王「たしかにそんなことがあったね。凍死しかけてる人間をかえって助けてしまった」
土の四天王「説明してもらおうか」
火の四天王「下らんッ! ただの偶然だァ!」
火の四天王(……といいつつ、偶然じゃないんだよな)
火の四天王(実は俺は炎魔法が得意な人間だ。魔王の動向を探るため、魔王軍に潜り込み、四天王にまでなった)
火の四天王(ここから本格的に人類を助けようとしてた矢先に……疑われるとは! なんという失態!)
火の四天王(まだバレるわけにはいかない。どうにかしないと……)
火の四天王「たかがちっぽけな町を誤って救ったぐらいでなんだというんだ!?」
火の四天王「俺の魔王様への忠誠心は絶対だ!(忠誠心でゴリ押しするしかない!)」
水の四天王「忠誠心……。でしたら示してもらいましょうか」
火の四天王「どうやってだ?」
水の四天王「あなたは火の魔族、なおかつ鋼鉄の忠誠心があるなら、どんな熱さにも耐えられるはず」
水の四天王「あなたが本当に火の魔族であれば、この熱々の鉄板に手を置けるはず!」
ジュゥゥゥゥ…
火の四天王「な……!」
火の四天王「何秒ぐらい置けばいいんだ?」
水の四天王「一分といったところでしょうか」
火の四天王(くそっ、さりげなく秒といったのに分にしやがって!)
風の四天王「フッ、これは面白い試みだね」
土の四天王「どうした、早くやれ」
火の四天王(ただの人間である俺がこんなのに手を置いたら……うぐ)
火の四天王(だが、やるしかない! 世の中には焼けた鉄板の上で土下座した人間もいるという!)
火の四天王(俺だってぇぇぇ!)サッ
ジュゥゥゥゥ…
火の四天王(あっちぃぃぃぃぃぃ!!!!!)
火の四天王(あっちぃ! あづいよぉぉぉぉぉ! 想像以上ォォォォォ! 火傷確定ィィィィィ!)
水の四天王「10秒経過」
火の四天王(10秒!? まだ10秒!?)
土の四天王「20秒経過だ」
火の四天王(こっちはもう10年ぐらいやってる感じだよ! カウント遅くしてんじゃねえだろうな!)
風の四天王「40秒経ったね」
火の四天王(あと20秒ォォォォォ!)
水の四天王「……一分」チッ
火の四天王「ふん、他愛もない(あっちぃ、あっちぃ、あっちィわ!)」
火の四天王「これで俺への疑いは晴れたわけだな」
水の四天王「そうですね。疑って申し訳ありませんでした」
土の四天王「ふと思ったが、水の四天王よ。貴様にも怪しいところがあるぞ」
水の四天王「なんですって?」
土の四天王「ある町を水没させる作戦で、貴様は結果的にプールを作るだけにとどまったことがあっただろう」
火の四天王「あったあった!」
風の四天王「なるほどね、君がスパイだったというわけか」
水の四天王「バカいわないで下さい。私がスパイなどと……」
水の四天王(まあ、スパイなんですけどね……)
水の四天王(魔族になりすまして、苦労の末四天王にまでなりましたが、ついにこの時が……)
水の四天王(火の四天王にスパイ疑惑を押し付けるという策も失敗しましたし、どうすれば……)
水の四天王(そうだ!)
水の四天王「なら私もやりますよ、鉄板の上に手を置きます」
火の四天王「なにっ!?」
水の四天王(鉄板と手の間に水の膜を張れば、楽々クリアできる……)
土の四天王「いや、同じじゃつまらんだろう。芸がなさすぎる」
水の四天王「へ?」
土の四天王「これを飲め」
水の四天王「なんですかこれは?」
土の四天王「水の四天王なら飲めるはず。この……汚染されまくった水も!」
水の四天王(なんですってぇ!?)
土の四天王「ほら、飲め」
ドヨーン…
水の四天王(ううっ、濁ってる。なんか浮いてる。こんなの飲んだら絶対腹を壊す……)
火の四天王「イッキ、イッキ、イッキ!」
水の四天王(くそっ、火の四天王め! 自分の疑惑が晴れたからって!)
水の四天王「いいでしょう。私の体の中で浄化しますよ(できないけど)」グイッ
風の四天王「おっ、飲んだ!」
水の四天王(まっずぅぅぅぅぅぅぅ!)
水の四天王「ぷはぁっ! 飲みましたよぉ!」
土の四天王「くそっ、見事だ」
水の四天王(おええ……しばらくは水の便が出ることになりそうですね……)
火の四天王「これで四天王のうち、二人はシロが確定したわけだが……」ニヤッ
水の四天王「あなた方はどうでしょうねえ?」ギュルル
土の四天王「ふん、下らん。我らは潔白――」
風の四天王「フッ、それはどうかな?」
土の四天王「なんだと?」
風の四天王「土砂崩れを起こし、ある都市を破壊する作戦のはずが……土砂が防壁のようになってしまったことがあったよね」
風の四天王「あれであの都市はかえって攻めにくくなってしまった。君こそ、人間だったんじゃないのかい?」
土の四天王「!」
火の四天王「む、そんなことが!」
水の四天王「あなたがスパイだったのですか!」
土の四天王「そんなわけがない!(その通りだよ!)」
土の四天王(我はれっきとした人間……大地を操る術を得意とするゆえ、それを利用して土の四天王になった)
土の四天王(バレないようにやってきたつもりだったが、最大のピンチ……!)
火の四天王「さて、土の四天王にも忠誠心を示してもらわんとな」ニヤニヤ
水の四天王「何をしてもらいましょうかねえ?」ニヤニヤ
土の四天王「うぐ……」
風の四天王「これなんかどうだろう?」
ウゾウゾ…
土の四天王「なんだこれは……」
風の四天王「ミミズの塊だよ。土の四天王なんだから、これぐらい食えるだろ?」
土の四天王(食えるかボケェ! いつの間に用意したんだよ!)
土の四天王「火の四天王よ」
火の四天王「ん?」
土の四天王「このままじゃさすがにあれだから、焼いて……」
火の四天王「焼く必要なんてあるか?」
土の四天王「え……」
水の四天王「ミミズぐらい生で食べれるでしょう? 大地を司る、土の四天王なんだから……」
風の四天王「食べられないなら君がスパイということになるけど……」
土の四天王(ダメだ……食わないと殺られる! 食うしかないッ!)
土の四天王「いただきまぁす!」ガバッ
火の四天王「おおっ!」
水の四天王「一気にいきましたね!」
土の四天王(丸飲み……できない! 噛むしかない!)
グニュッ グニュッ グニュッ
土の四天王(うげええ……なんだこの未知の弾力は! おぞましい!)
ブチュッ
土の四天王(なんか液が出たァ! 口の中を想像しちゃいかん、我はマシン! ミミズを食うマシンだ!)
ゴクリ…
土の四天王「食べたぞぉっ! ほら! 口の中見ろ!」パカッ
風の四天王「くっ……」
土の四天王「これで残りは貴様一人……」
風の四天王「うぐ……」
水の四天王「そういえばあなたも、竜巻で難民の人間どもを吹き飛ばすだとかいって」
水の四天王「結果的に難民を大都市に送り届けたことがありましたよね」
火の四天王「つまり、お前がスパイか!」
風の四天王「違う! 信じてくれ!」
風の四天王(実はそうなんだよなぁ……僕はれっきとした人間なんだ。他の三人と違って……)
土の四天王「といっても、もう貴様しかおらんだろうが!」
風の四天王「鉄板でも、汚染水でも、ミミズでもやるから!」
火の四天王「いや、そんなんじゃつまらない」
風の四天王「え?」
火の四天王「この魔界一の扇風機に耐えてみせろ」ゴトッ
風の四天王「……!」
土の四天王「それはいい!」
水の四天王「面白いですね!」
風の四天王「やめてくれ! それだけは! 他のにしてくれ!」
火の四天王「スパイじゃないというなら、耐えてみせろ!」ポチッ
ビュゴォォォォォォォッ!!!
風の四天王「ぐわあああああああっ!!!」
土の四天王「悲鳴を上げている。どうやら、風の四天王がスパイで確定……」
水の四天王「いや、ちょっと待って下さい!?」
ベリベリ…
ベリィッ!
風の四天王「……」ツルーン
火の四天王「えええええ!?」
水の四天王「なんですって!?」
土の四天王「風の四天王……お前……ズラだったのか」
風の四天王「そうだよォォォォォ!!!」
風の四天王「いつもクールを気取ってたけど、頭までクールだったんだよォォォォォ!!!」
風の四天王「お前たちには知られたくなかった……。だから、やめろっていったのに……」
火の四天王「すまん……!」
水の四天王「申し訳ありません……」
土の四天王「謝罪する……」
風の四天王「もういいよ……いずれバレることだったし」
風の四天王(スパイ疑惑は晴れたようだけど……死にたい)
火の四天王「とにかくこれで、四人ともスパイではないことが分かった!」
水の四天王「どうします?」
土の四天王「これだけやって結果が出なかったのだ。ありのままを報告するしかあるまいな」
風の四天王(死にたい……)
火の四天王「魔王様ァ!」
魔王「おお、会議が終わったか。誰がスパイだった?」
水の四天王「我々の中に……スパイはいませんでした!」ギュルル
魔王「なんだと? そんなはずはない! ちゃんと探したのか!?」
土の四天王「本当ですとも! みんな体を張ったんです!」
風の四天王「信じて下さい!」ベリッ
魔王「うわっ!?(こいつカツラだったのか!)」
火の四天王「それでも信じられぬというのなら、魔王様の手で四人を葬って下さい!」
火の四天王「さあ、どうぞ!」
魔王「む……分かった。信じることにしよう。四天王の中にスパイはおらん!」
四天王「ありがとうございます!!!!」
魔王「……」
魔王(マジかよ……いないのか)
魔王(実はワシは人間だ。ワシは長年、人が魔族に狙われないようにするにはどうすべきか考えていた)
魔王(やがて、魔族を抑えるならいっそ魔王になればいいと、持ち前の戦闘力で魔族の王になったのだ)
魔王(もし四天王の中に人間がいたら、そいつを処刑するふりをして)
魔王(ワシの手元に置き、一緒に人間への手助けをやっていこうと思ったのだが……)
魔王(今後もワシ一人でやっていかねばならんのか。辛いなぁ……)
…………
……
一方、その頃――
国王「では勇者よ、必ずや魔王を倒してくれ!」
勇者「ははっ、お任せください!」
勇者(ククク、実は俺は魔族の剣豪よ)
勇者(人間のふりをして人間界で活躍し、ついに勇者に選ばれた)
勇者(あとは勇者のふりをしつつ、魔王様の人間界征服の手伝いをしなければな)
― 完 ―
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