王「勇者よ、魔王を倒してくれ!」
王「もし倒してくれれば、国宝≪紅竜の涙≫をおぬしに与えよう!」
勇者「必ずや我が使命、成し遂げてみせます」
王「ところで……おぬしの武器はなんなのだ?」
大臣「見たところ帯剣すらしてないようだが……」
勇者「投石機(カタパルト)です」
王「へ?」
大臣「あの城攻めに使ったりする?」
勇者「はい、私専用のもので、城外に置いてあります」
勇者「これです」
王「うわぁ……」
大臣「おっきい……」
勇者「このレバーを引くと」グイッ
ガコンッ!
勇者「あそこが動いて、てこの原理で石を放り投げる仕組みです」
王「ほぉ、よく出来てる」
大臣「しかし、これを移動させながら旅をするのは大変だろう」
勇者「旅をする必要なんてありませんよ」
大臣「なぜだ?」
勇者(精神を集中……)
勇者「どうやら東の村がオークに襲われているようですな」
王「え!?」
大臣「なぜ分かる!?」
勇者「さっそくこの石をセット」ゴトッ
勇者「発射!」グイッ
ガコンッ!
ビューンッ!
東の村――
村人「ぐわぁっ!」ドザッ
オーク「生意気な野郎だ、俺様に逆らうなんてよォ!」
村娘「お願い、やめて!」
オーク「やめるかよ! こいつを食ったら、次はお前の番だからよ!」
ヒュルルルル…
オーク「ん?」
オーク「うわっ、なんだ! 石が降ってきて――」
ゴッ!!!
兵士「伝令ーッ!」タタタッ
大臣「どうした!?」
兵士「東の村を襲撃していたオークが……飛んできた石に当たって死亡しました!」
王「なにい!?」
大臣「当たったのか!?」
勇者「こんな感じで敵を倒して参りますので」
王「なるほど……頑張ってくれたまえ」
……
スライムA「うへへへ……」
スライムB「溶かして食ってやる!」
冒険者「ひいいっ! 誰か助けて……」
ヒュルルルル…
冒険者「ん?」
グシャッ! グチャッ!
冒険者「空から降ってきた石がスライムを潰した!」
……
オーガ「ガッハッハッハ、大したことのねえ道場主だぜェ!」
武闘家「うぐぐ……」
娘「お父さん!」
オーガ「今日からこの道場は魔物の住処になるんだ!」
ヒュルルルル…
ゴッ!!!
オーガ「あぐ……」ドサッ
……
勇者「次はあっち」グイッ
ガコンッ!
勇者「次はこっち」グイッ
ガコンッ!
大臣「勇者殿が石を投下した地方からは、次々に感謝の声が上がっています」
王「本当にここから一歩も動かず世界を救っておる……」
大臣「石を正確に投下する技術も凄いですけど、あの千里眼みたいな能力も凄いですよね」
王「投石マスターたる者、あれぐらいは出来て当然なのだろうか……」
老婆「あの〜、勇者さん……」
勇者「なんでしょう?」
老婆「家で漬物をやろうと思ってるんだけど、いい石がなくてねえ……」
王「あーこれこれ、おばあさん」
大臣「勇者殿は今忙しいので、話なら後で……」
勇者「いえ、これぐらいかまいませんよ」
勇者「今からおばあさんの家に漬物石を送ります」
勇者「それっ」グイッ
ヒュルルルルル…
ストンッ
勇者「これでいい漬物ができるはずです」ニコッ
老婆「ありがとうねえ」
王「敵を倒すだけでなく、このような身近な人助けもこなすとは……」
大臣「勇者の名に恥じぬ人格者ですね」
魔王城――
魔族「魔王様!」
魔王「なんだ、騒々しい」
魔族「大変でございます。人間どもの城から飛ばされる謎の石によって、各地の魔族がやられております」
魔王「なんだと……?」
魔族「狙いも正確で、上級魔族ですら頭に正確に石を喰らい一撃で……」
魔王「ふん、ならばこちらも大軍を投入するまでよ!」
魔王「その石を飛ばしている城に、暗黒騎士を攻め込ませよ!」
魔族「ははっ!」
王「おぬしのおかげで世界各地が救われた!」
大臣「勇者殿さまさまだよ」
勇者「いえいえ、私など石を飛ばしてるだけですから」
兵士「陛下ーッ!」
王「ん?」
兵士「魔王軍の総攻撃です! 空を覆わんばかりの大軍が来襲しております!」
王「総攻撃……!」
大臣「勇者殿がここから投石してるのがバレたのか!」
勇者「……来たか」
バサバサバサ… バサバサバサ…
市民A「なんだありゃあ……」
市民B「空が黒く塗り潰されてるようだ」
市民C「あれ全部魔族なんだろ!? 勝てっこねえ!」
バサバサバサ…
飛竜「ギャース!」バサバサ
暗黒騎士「全軍、城と城下を攻撃せよ! 人間どもを皆殺しにするのだ!」
王「ここまでか……!」
勇者「ご安心を。打つ手はあります」
大臣(こんな時にも石のように冷静だ……)
勇者「皆を総動員して砂利を集めて下さい」
大臣「砂利を……? わ、分かった!」
王(砂利などどうする気だ……)
ジャリジャリ…
勇者(だいぶ集まったな。これを――)
勇者「かたっぱしから発射!」
ガコンガコンガコンガコンガコンガコンガコン!!!
王「うおおおっ!?」
大臣「すごい連射だ!」
ブワァァァァァッ……
ズガガガガガガガッ! ズガガガガガガッ!
「ギャアッ!」
「グゲエッ!」
「グワッ!」
暗黒騎士「何事だ!?」
部下「砂利が……凄まじいスピードで発射され、手勢の者たちが次々撃ち抜かれています!」
暗黒騎士「砂利だと!?」
部下「これでは大軍も意味をなさな……ぐああっ!」ズガッ
暗黒騎士「お、おのれえっ!」
ガコンガコンガコンガコンガコンガコンガコン!!!
勇者「……ふぅ」
王「なんと……」
大臣「砂利による散弾で、魔族を蹴散らしてしまった……」
ズバッ! ザシュッ!
兵士A「あぐっ!」
兵士B「ぎゃあっ!」
勇者「……!?」
暗黒騎士「……やってくれたな。おかげで我が軍は壊滅だ」
王「魔族の騎士……!」
大臣「生き残りがいたのか……!」
暗黒騎士「投石機とは予想もしなかったぞ。だが、投石機には弱点がある」
暗黒騎士「それは……接近されたらどうしようもないということだ! ちょうど今のようにな!」
勇者「……」
大臣(確かにその通りだ……この距離まで近づかれたらどうしようもない!)
暗黒騎士「軍は壊滅したが、貴様らの首を手土産に帰るとしよう! 死ぬがいい!」
勇者「発射!」グイッ
ガコンッ! ヒュルルルル…
大臣「遠くへ飛んでいってしまった!」
暗黒騎士「無駄だ! 投石機による石は放物線を描く! 懐に入った敵は倒せないのだ!」
暗黒騎士「まずは貴様からだ……もらったァ!」ギュオッ
勇者「……」
王「勇者よ、逃げろォ!」
大臣「……ん?」
ドスンッ!
大臣(勇者殿の放った石が、落ちて……)
ギュルルッ
大臣「え」
ギュルルルルルッ
大臣「バックスピン!?」
ギュルルルルルルルルルッ
暗黒騎士「!?」
大臣(回転のかかった石が、暗黒騎士を背後から――)
暗黒騎士「し、しまっ――」
ズガァッ!
暗黒騎士「こんな……バカな……」ガクッ
王「さすが勇者だ!」
大臣「投石機は接近戦もできるのだな……」
勇者「しかし、私の詰めが甘かったせいで犠牲が出てしまいました」
勇者「魔王を許すことはできません」
勇者「こちらも魔王城へ最後の攻撃をかけます!」
魔王城――
魔王「何? 暗黒騎士が破れた?」
魔族「は、はい……」
魔王「ぬうう……だらしない部下どもだ。かくなる上はワシが出て……」
ゴンッ… ゴンッ… ゴンッ…
魔王「なんだ? なんの音だ?」
ドゴンッ! ズガンッ! バゴンッ!
魔族「巨大な石です! 石が飛んできて、城が……!」
グシャンッ!
魔族「ぐぎゃああっ!」
魔王「ぬうう……こしゃくな!」
魔王「だが、ナメるなよ! ワシは投石如きでは倒せんぞ!」
ヒュルルルルル…
魔王「むん!」バリバリッ
魔王「この通り全て迎撃してやる!」
勇者「……」
勇者(さすがは魔王。ただの投石では倒せんか。ならば――)
ズンッ!
王「でかい……!」
大臣「今までで一番の大きさの石だ! というか岩だ!」
勇者「これを……(全力でッ!!!)発射!!!」
ガゴンッ!
ヒュルルルルルル…
投石機で打ち上げられた巨岩は――
ヒュルルルルルル…
やがて大気圏外に達し――
ボワァァァァッ
再度大気圏に突入する際、熱を帯び――
ゴォォォォォォォッ!!!
灼熱の隕石へと変貌する!
勇者「これぞ……メテオ投石!!!」
グオオオオオオオオッ!
魔王「なんだあれは……!」
魔王「隕石……いや、投石!?」
魔王(凄まじいスピードと熱量……とても迎撃できん!)
グオオオオオオオオオオッ!
魔王「ワシは……投石に敗れるのか……ッ! 投石……恐るべし……ッ!」
ドゴォォォォォンッ……!
……
……
王「おぬしの投石で魔王は滅びた」
大臣「よくやってくれた」
勇者「使命を果たしたまでのことです」
大臣「武器が投石機というのにも驚いたが、最後まで投石でやり遂げるとは思わなかった」
王「では約束通り、褒美を与えよう」
王「国宝≪紅竜の涙≫……しかと受け取るがよい!」
勇者「こ、これは……! なんという美しさ! 神々しさ!」
王「うむ、赤く輝く巨大宝石……これが≪紅竜の涙≫の正体よ」
勇者「こんな石を頂いてしまったら……ああっ!」
勇者「投石せずにはいられない! えいっ!」
ガコンッ!
大臣「こ、国宝ォォォォォォ!!!」
王「勇者にとって石とは飾るものではなく、飛ばすものなのだな」
―おわり―
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