<魔王城>

勇者パーティーと魔王の戦いは、佳境を迎えていた。

魔王「ぐぬぅ……!」ガクッ

勇者「ハァ、ハァ……ついに追い詰めたぞ、魔王!」

勇者「覚悟しろっ!」チャキッ

魔王「おのれぇ……!」グググッ…

勇者「!」

魔法使い(魔王の様子がおかしい……?)

戦士「あのヤロウ、最後の力を振り絞って、なにかやるつもりだ……!」

僧侶「勇者さん、気をつけて下さい!」

魔王「かくなる上は──」グググッ…

勇者「なんだっ!?」

僧侶「勇者さん、魔王から離れて下さい! 危険です!」

戦士(俺ら三人と、勇者たちには少し距離ができちまってる……!)

戦士「魔法使い! 勇者を援護してやれ!」

魔法使い「…………」

魔法使い「じ、実は……ボクももう魔力を使い果たしてしまって……」

戦士「くっ……マジかよ!」

勇者(危険は大きいとはいえ、魔王が弱っているのはたしかだ……)

勇者(つまり、今こそ魔王を倒すチャンスだ!)チャキッ

勇者「魔王ッ! 今こそ私の剣が、お前を倒すッ!」ダダダッ

勇者「でやぁぁぁっ!」シュバァッ

ズバシュッ!

魔王「ぐはァッ……!」ガクッ

魔王「や、やるではない、か……勇者よ……」

魔王「まさか危険を恐れず、トドメを刺しにくるとは……!」

魔王「さすが、勇者……!」ニィッ…

魔王「だが、忘れるな……」

魔王「ワシはこれまで幾度も、その時代の“勇者”に倒されてきたが──」

魔王「そのたびに、よみがえってきた……!」

魔王「今度もまた……よみがえってみ、せる……!」

魔王「グオオオオオオオオオオッ!!!」

ブシュゥゥゥゥゥゥゥ……!

ビチャチャッ……! ビチャチャチャッ……!

勇者「ぐっ!?」

戦士「な、なんだァ!?」

魔法使い「大量の血がこっちに降りかかってきた……!」

僧侶「いやっ……!」

シ〜ン……

戦士「魔王が……跡形もなく消えちまった……」

戦士「ってことは──」

魔法使い「これは……ボクたちの勝利ということだよね?」

僧侶「ええ、そうです! 私たちの勝利ですよ!」

勇者(やった……ついにやったんだ!)

勇者「ようし、では今夜はテントで一泊した後、我々の故郷に凱旋しよう!」

戦士「この時のために、いっぱい酒を買っておいたからな」

戦士「俺たちだけで、一足早い祝賀会といこうや!」


<勇者パーティーテント>

戦士「みんな、ジャンジャン飲めよ〜!」グビッ

魔法使い「もう飲んでるって……」フゥ…

僧侶「お酒、おいしいれふ〜」ウイ〜…

魔法使い「オイオイ、女の子がみっともないよ」

勇者「ハハハ……みんな、国に帰るまでには酔いをさましておくようにな」

勇者「赤ら顔で凱旋、じゃみっともないからな」

魔法使い「そうだね……ボクちょっと、トイレに行ってくるよ」スッ…

戦士「お〜う!」

勇者(こんなにみんなで大騒ぎするのは、いつぶりかな……)

勇者(これで……やっと平和が戻るんだな)

『ククク……すっかりはしゃいでおるようだな、勇者よ』

勇者「!?」

勇者「だれか……今、なにかいったか?」

戦士「へ?」

僧侶「なにもいってまへんよ〜?」

勇者「……そうだよな。いや、変なことをいってすまなかった」

勇者(なんだったんだ、今の妙な声は……)

『ワシを倒したとでも思ったか?』

勇者「!」

『ククク……ワシは魔王だ!』

勇者「な……!?」ガタッ

『幻聴の類だとでも思っておるのなら、誰もいないところに行ってみるがいい』

勇者「二人とも、私も外に出てくるよ」

戦士「なんだよ、お前もションベンかぁ〜?」

僧侶「行ってらっしゃ〜い」

勇者「…………」タタタッ

勇者「なぜだ、魔王はたしかにこの手で倒したはず……!?」

『クククッ……どうやら誰もいないところに来たようだな』

『では、キサマが思っているであろう疑問に答えてやろう』

『ワシは最期にこういったな……?』

『ワシは幾度も勇者に倒されたが、そのたびによみがえってきた、と』

『これがその答えだ』

『ワシはキサマの体──否、存在そのものに寄生を果たしたのだ!』

勇者「な……!」

勇者「ま、まさか、お前は自分を倒した勇者に寄生して生き延びてきたのか!」

『ワシはな、自分の血を浴びた人間のうち、だれか一人に寄生することができる』

『そして、そやつの氏後、百年ほどの時を経て──』

『そやつの存在を糧に、そやつが死を迎えた地にて、復活することができるのだ!』

『つまり、キサマらが血を浴びた時点で、ワシの復活は確定していたのだ!』

勇者「くっ……!」

『もちろん、復活したてのワシはさほどの強さを持たぬが──』

『魔族を生むことができる』

『魔族を少しずつ生み増やし、強大な軍を作り上げるという仕組みだ』

勇者(そうか……! 全ての魔族は、魔王によって生み出されたものだったのか!)

『いっておくが、このことを他人にしゃべるなどとは考えない方がいいぞ』

『すでにワシとキサマの五体五感は連結関係にある』

『つまり、いつでもワシはキサマを殺せるということだ』

『なにか余計なことをしたが最期──』

『キサマは後世に名が残るような、おぞましい死に方をすることになる』

『勇者どころか魔王を復活させる材料になってしまったという、悪名を残してな!』

『いかに正義感の強いキサマとて、そのような死に方は望むまい……?』

勇者「ぐっ……!」

『ワシは倒されるたび、ワシを倒した勇者に寄生してきたが──』

『色々な勇者がいたものだ……』

『絶望して自害する者、発狂する者、開き直って贅沢する者……さまざまだ』

『それと、もう一つ』

『ワシはキサマの体ではなく、存在そのものに寄生したのだ』

『つまり、キサマの死体を焼こうが埋めようが消そうが、ワシはよみがえる』

『そういった余計な努力もせぬことだな』

『ま、どうしてもというなら、やってもかまわんがな』

勇者「うぐっ……!」

『クククッ……苦しんでいるキサマの顔が、目に見えるようだわい』

『せいぜい魔王に寄生された勇者として』

『これから先の長い人生を、悔いのないように楽しむがよい』

『ワッハッハッハッハッハッハッハ……!』


<勇者パーティーテント>

勇者「…………」ザッ

戦士「おう勇者、遅かったな」

魔法使い「なにかあったのかい?」

僧侶「ふぇ〜……お酒おいしいれす」

勇者「い、いや……なんでもないんだ」

戦士「顔色が悪いが、もしかして悪酔いしたか?」

戦士「俺も飲ませて悪かったな。水飲んで、とっとと寝た方がいいぜ」

勇者「あ、ああ、そうさせてもらうよ」

自分のテントで、一人寝そべる勇者。

勇者「…………」ゴロン…

勇者「…………」モゾ…

勇者(せっかく……)

勇者(せっかくやっとの思いで、魔王を倒したのに──)

勇者(私は──)

勇者(魔王に寄生されてしまった……!)

勇者(なんということだ……!)


<城下町>

ワァァ……! ワァァ……!

「勇者様、バンザイ!」 「バンザーイッ!」 「ありがとう、勇者!」

戦士「すげぇ! 国民が大勢集まってんな!」

魔法使い「国をあげた、大パレートってわけか」

僧侶「苦労して、魔王を倒したかいがありましたね!」

勇者「…………」

ワァァ……! ワァァ……!

市民A「なんだか……勇者様の様子がおかしくねえか?」

市民B「ああ、ずっと下向いて黙っちまって……」

市民C「疲れてるんだろうぜ、きっと! なんたって魔王を倒したんだからな!」


<城>

魔法使い「ふぅ、とんだお祭り騒ぎだったな」

戦士「まぁいいじゃねえか。世界が平和になったんだしよ」

戦士「次は国王との謁見だな!」

魔法使い「王様には悪いけど、ボクはパスさせてもらうよ」

魔法使い「どうもこういう賑やかな空気は肌に合わなくてね。疲れちゃったよ」

戦士「ったく、マイペースなヤツだな〜」

僧侶「まあまあ、魔法使いさんはこの冷静さでパーティーを支えてくれたんですから!」

戦士「しゃあねえな……」

戦士「ま、俺たち全員、きっと褒美がたんまりもらえるぜ!」

戦士「特に勇者は、な!」ニヤッ

勇者「…………」


<謁見の間>

国王「おお、勇者よ」

国王「よくぞ、魔王を倒してくれた!」

国王「おぬしこそ、まさに我が国の次代を担うに相応しい英雄だ!」

国王「ぜひ、我が娘である姫を、伴侶としてくれまいか!」

国王「国民全員が、それを強く望んでおる!」

姫「勇者様……」

勇者「わ、私は──」

『今やキサマは、ワシと人魔一体だ』

勇者「!」

『キサマの汚れた体と血が、高貴な王族に混ざってしまってもよいのかな……?』

勇者「…………!」

勇者「私は……私は……」

姫「?」

勇者「私は──姫と結婚することはできませんっ!」

勇者「褒美もいりませんっ!」

勇者「私はこれから、一人で生きていきます!」

国王「なんじゃとぉ!?」

姫「勇者様、どうしてっ!?」

勇者「…………」グッ…

勇者「失礼しますっ!」タタタッ…

バタンッ!

戦士「ア、アイツ、なに考えてんだ!?」

戦士「アイツも姫様のことを、好きだったはずなのに……!」

僧侶「ずっと様子がおかしかったですが、なにかあったんでしょうか……」

姫「勇者様……!」グスッ…

国王「おお、姫よ。泣くでない」

国王「きっと勇者にはなにか事情があるんじゃ」

国王「お前にはもっと相応しい婿を見つけてやろう」ナデナデ…


<勇者の家>

ドンドンッ!

戦士「おいっ、勇者! 開けろよ!」

戦士「姫との結婚を断るなんて、なに考えてんだよ、お前!」

僧侶「勇者さん、お願いです! 出てきて下さい!」

魔法使い「……二人とも、今はそっとしておこう」

魔法使い「彼は世界に一人しかいない、勇者なんだ」

魔法使い「彼にしか分からない苦悩というのが、あるんだろうさ……」

戦士「ちっくしょう! 俺たちは仲間じゃねえのかよ!」


<勇者の家>

勇者(すまない、みんな……)

勇者(もう、魔王の復活は避けられない……)

勇者(魔王に寄生されたことを、誰かに話すこともできない……)

勇者(この汚れた身で、だれかと交わることも許されない……)

勇者(魔王が復活した時のことを考えると、王国の近くで死ぬことも避けるべきだ……)

勇者(ならば……)

勇者(私が勇者としてなすべきことは、ただひとつ──)

勇者(勇者として、ただ一人で死ぬこと……)


<酒場>

戦士「──クソッ!」

戦士「アイツ、あれから失踪しちまった!」

戦士「せっかく心配してやってるのに……もう勇者なんざ知ったことか!」

戦士「俺は国からもらった金で、剣術道場でも開くとするぜ!」

僧侶「勇者さんのことは気がかりですが……」

僧侶「私も褒賞金でより大きな教会を建て、これからも神に仕えようと思います」

魔法使い「仕方ないよ。ボクたちにはボクたちの人生があるんだ」

魔法使い「さて、ボクは城に向かうとしよう。王様に呼ばれているんでね」ガタッ

魔法使い「みんな、元気でね」

戦士「……ああ、お前もな」

僧侶「魔法使いさんも、お元気で……」


<城>

国王「フフフ……よくやってくれた、魔法使い」

国王「魔王は倒さねばならん。魔王を打倒した勇者に権力を与えたくもない」

国王「この二つを達成するために、おぬしを勇者パーティーに潜り込ませたのだが──」

国王「よくぞ勇者を破滅させてくれた!」

魔法使い「ええ、本来は魔王との対決の時に」

魔法使い「わざと足をひっぱって、勇者と魔王を相討ちに持ち込みたかったのですが」

魔法使い「残念ながら、それは失敗に終わってしまったので──」

魔法使い「思念伝達(テレパシー)魔法にて」

魔法使い「勇者に寄生した魔王を演出し、彼を追い込むことにしました」

魔法使い「多少大がかりな魔法陣を必要とする術なのですが」

魔法使い「うまく勇者たちから距離を置くことで、魔法を使うところを隠せました」

魔法使い「一度魔法が成功しまえば、勇者はあっさり騙されてくれましたよ」

魔法使い「彼は世界一強い男でしたが、世界一愚直な男でもありましたからね」

国王「姫はすでに隣国の王子とムリヤリ結婚させた」

国王「いくら剣の腕が立つとはいえ、勇者はしょせん平民出身」

国王「あんな男に、我が娘とこの国を渡したくはなかったからな」

国王「おぬしには約束通り、最上級の待遇を与えよう!」

魔法使い「ありがたき幸せ……」スッ…

国王「それにしても、勇者がいくら愚直とはいえ」

国王「よくもこうまでみごとに騙されたものだな」

国王「よほど、おぬしの考えた魔王寄生シナリオが優れていたものと見える」

魔法使い「えぇ……私も自分自身の作り話の才能に驚いていますよ」

魔法使い「勇者を騙すに足る、リアルな“寄生する魔王”のシナリオが」

魔法使い「次々に頭に思い浮かんできましたから」

魔法使い「少しでも嘘っぽいところがあれば、騙すことはできなかったかもしれません」

国王「ところで、勇者は今どうしておるのだ?」

魔法使い「水晶で捜索してみたところ──」

魔法使い「船でもうかつに近寄れない絶海の孤島で、土を耕して暮らしているようです」

魔法使い「あそこであれば、自分が死んで魔王が復活してもすぐには活動できない」

魔法使い「という判断でしょう」

魔法使い「たしかに、魔王は飛行能力には長けていませんでしたのでね」

国王「なるほど、未来の人間のために、孤独死を選んだのか……」

国王「まったく、愚かな奴だわい。ワッハッハッハッハ……!」

──────

────

──


それから、およそ数十年の時が流れた……。


<城>

魔法使い(水晶で時折、奴を観察していたが──)

魔法使い(相変わらず島で種をまき、植物を育て、土を耕すしかしていない)

魔法使い(寄生されたというショックで、本当に頭がおかしくなったようだ)

魔法使い(それに──)

魔法使い(いよいよ勇者の氏期が間近に迫っているようだ)

魔法使い(どれ、勇者の死に様をこの目で拝見するとしよう)

魔法使い(なにしろずっと、この時を待っていたのだからな)

魔法使い(それにしても、絶海の孤島とは面倒なところに行ったものだ)

魔法使い(勇者とは二人きりになりたいし……途中まで王国の船で送ってもらい)

魔法使い(魔法のじゅうたんで島まで向かうとしよう)


<絶海の孤島>

勇者(体に力が入らない……)ガクッ

勇者(私が死ぬのも、もうまもなく、だな……。だが、これで……)

すると、魔法のじゅうたんに乗った魔法使いがやってきた。

フワァ〜…… ザンッ……

勇者「!」

魔法使い「やぁ、勇者。お久しぶり。お互いに年を取ったねぇ」

勇者「お前は魔法使い、か? 懐かしいな……」ヨロッ…

魔法使い「あぁ、そうさ」

魔法使い「君に大切なことを教えに来たんだ」

魔法使い「もうまもなく君は死ぬだろうが、話を聞く力ぐらい残ってるだろう?」

勇者「ああ……」

魔法使い「まず──」

魔法使い「君は魔王に寄生なんかされていない」

魔法使い「君に語りかけてきた魔王の声は、全部ボクの魔法(テレパシー)だったのさ」

魔法使い「全て、君のことを邪魔者だと思っていた王様の命令でやったことさ」

勇者「…………」

魔法使い「つまり君は、ボクの作ったニセ情報に踊らされて」

魔法使い「こんなところで、みじめな生涯を終えるはめになったわけだ」

魔法使い「勇者どころか、君は哀れな道化(ピエロ)だったんだよ」

勇者「そう、だったのか……」

魔法使い「もう一つ教えておこう」

魔法使い「己の血をまき散らした魔王が寄生したのは君ではなく──このボクだ」

勇者「!?」

魔法使い「いや……ワシというべきかな?」ニヤッ

魔法使い「長い時間をかけ、もはやこの魔法使いの意識のほとんどは」

魔法使い「このワシが乗っ取っておる……この魔王がな!」ニタァ…

勇者「な……!」

魔法使い「せめてもの慰めに告げておくと」

魔法使い「魔法使いがキサマに伝達した、ワシの寄生能力に関する話は全て本当だ」

魔法使い「キサマは魔法使いの作り話を真実だと判断し」

魔法使い「自分は魔王に寄生されたと思い込んでしまったが、無理ないことだ」

魔法使い「なにしろ、本当のことだったのだからな……信じてしまうだろうよ」

勇者「…………」

魔法使い「ワシはこれまで、敗北した時は勇者に寄生していたのだが──」

魔法使い「今回は、キサマの仲間である魔法使いに寄生した」

魔法使い「その理由は二つある」

勇者「二つ……?」

魔法使い「一つは、この魔法使いがキサマを殺したがっていたことが」

魔法使い「キサマらと戦っていたワシには察することができたからだ」

魔法使い「コイツを使えば、なにも勇者に寄生せずとも」

魔法使い「憎き勇者は破滅させられる、とな」

魔法使い「事実、寄生したワシが心の中でワシの“寄生能力”について教えてやったら」

魔法使い「ヤツはそれを利用し、キサマをテレパシーで破滅させることを思いついた」

魔法使い「ヤツはこれら全てを自分のアイディアだと思い込んでいたようだがな」

魔法使い「しかし、これだけなら、別にキサマに寄生してもかまわなかった」

魔法使い「そこに、もう一つの理由があるのだ」

勇者「…………」

魔法使い「二つ目の理由、それは──」

魔法使い「ワシは勇者が死ぬところを是非“この目”で見たかったのだ!」

魔法使い「勇者自身に寄生しては、ワシが勇者の死を見ることはかなわんからな!」

魔法使い「幾度も幾度も、ワシを滅ぼしてきた勇者……」

魔法使い「その憎き敵のみじめな死に様を、一度ぐらいこの目で眺めたかったのだ!」

魔法使い「全ての真実を知り、絶望して死んでいくところをな……」

魔法使い「そして、この願いはみごと達成できたというわけだ」

魔法使い「キサマはこのとおり破滅し、まもなく死にゆくのだからな……」

勇者「…………」

魔法使い「さて、話は終わりだ」

魔法使い「ワシはキサマの死を見届けた後、復活のためここで死ぬとしよう」

魔法使い「もうこのじゅうたんもいらぬ。国に戻ることもないのだからな」ボワァッ…

勇者「…………」

魔法使い「キサマはおそらく、ワシが復活した際」

魔法使い「この島ならば身動きがとれぬと思ったのだろうが──逆だ」

魔法使い「こうした人間が来にくい場所の方が、復活後の拠点としてはありがたい」

魔法使い「百年後、またワシはここに城を築いて、人間界征服を目指すのだ」

魔法使い「もしかすると、百年後にも勇者は現れるかもしれんが──」

魔法使い「ワシは何度でも寄生して、復活を繰り返す!」

魔法使い「キサマら人間に、真の平和が訪れることはないのだ!」

魔法使い「ワァッハッハッハッハッハ……!」

勇者「…………」

魔法使い「さて……」

魔法使い「勇者よ、最期になにか言い残すことはあるか?」

勇者「…………」

勇者「私は……まんまと、騙されたが……」

勇者「私は最期まで勇者として生きた……そのことに悔いはない……」ドサッ…

魔法使い「……ククク、死んだか」

魔法使い「バカめ。こんなところで、一人土と木とたわむれて死ぬ生涯とは」

魔法使い「キサマのどこが勇者だ! マヌケが! ピエロが! 愚者が!」

魔法使い「ワァッハッハッハッハッハ……!」

魔法使い「さて、ワシもこの魔法使いの体とともに死ぬとしようか」

魔法使い「百年後……この地にて復活するためにな!」ドシュッ…

魔法使い「ハハハ、ハハ……」ガクッ…

──────

────

──


百年後──


<絶海の孤島>

魔王「フハハハハハ……! ──復活だ!」

魔王(おお、勇者のおかげで緑豊かな島になっておるではないか)

魔王(これは城の建てがいがありそうだ)

魔王(あそこにあるのは、勇者の白骨……無様なものだ!)

魔王(しかし、この島からでは人間界がどうなっているか分からん……)

魔王(さっそく飛行型の魔族を生み出し、この世界を偵察させることにしよう)

魔王「いでよ、我が部下たちよ!」パァァ…

魔族A「行ってまいります」ザッ

魔族B「人間どもの様子を調べてまいります、魔王様」ザッ

魔王「うむ、頼んだぞ」

魔王「ワシはまだ完全復活したわけではないゆえ」

魔王「しばらくの間は、おぬしらが中心となってくれねばならぬ!」

魔王「そして、徐々に魔族を増やし、勢力を拡大していくのだ!」

魔族A&B「ははっ!」バッサバッサ…

魔王(クククッ……)

魔王(この島を拠点に少しずつ魔族を生み出し、新たな魔王軍を作り上げ──)

魔王(今度こそ人間界を征服してくれるわ!)

魔王(ひとまずは、あの二匹の報告を待つとしよう)

しばらくして──

バッサバッサ…… バッサバッサ……

魔族A&B「…………」スタッ

魔王「……どうした? やけに早いではないか?」

魔族A「魔王様……いや魔王! 俺たちは、お前の目論み通りには動かんぞ!」

魔王「な、なにをいっておる!?」

魔族B「この島を上空から眺めると、植物の緑が文字になっていた……」

魔族B「百年前、アンタに仕えていた部下が、俺たちにメッセージを残していたのさ!」

魔族A「それによると──」

魔族A「アンタは自分の部下を、利用するだけして最終的に餌としていたらしいな?」

魔族A「……勝手なもんだ!」

魔王「なにい!? 待て、この辺の緑は全て勇者が植えたもの──」

魔族A「お前がそう言い訳するであろうことも、メッセージにあった」

魔王「バ、バカな!?」

魔王「よ、よせ! ワシを殺せば、魔族は滅んでしまうのだぞ!?」

魔族A「そう言い逃れするであろうこともメッセージにあったよ……魔王」ジリ…

魔族B「配下ならまだしも、餌になるなどまっぴらゴメンだ!」ジリ…

魔王(ま、まずい……!)

魔王(人間に殺されなければ──魔族に殺されたら、寄生はできない!)

魔王(つまり……二度と復活できないッ!)

魔王「ま、待てっ! 待ってくれっ! 落ちついて、ワシの話を聞くのだ!」

魔族A「余計なことをいう暇も与えず殺せ、とアドバイスが残っていたよ」ジャキッ

魔族B「今ならまだ……我々の方が強い!」ジャキッ

魔王「わ、わわっ!」

魔王(勇者め……まさか、このために絶海の孤島に……!?)

魔王(百年後にワシが飛行型の部下を生み出し、裏切られ、殺されるよう罠を……!?)

魔王(自分に寄生したワシを、二度とよみがえらせぬために……!)

魔王(なんという、なんという愚直な男よ!)

魔王(だから、実際には魔法使いに寄生していたワシがこの島で復活すると知って──)

『私は最期まで勇者として生きた……そのことに悔いはない……』

魔王(……勇者! あの時、キサマは勝利を確信しておったのか!?)

魔王「お、おのれ……勇者ァァァァァ……!!!」

ドシュッ……!

< 完 > 

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