20XX年。現在社会人三年目の僕は、今日もスーツを着て車のハンドルを握る。
ドラえもんが未来に帰ってもう10年が過ぎようとしているが、相変わらず車は地上を走っている。タイムマシンや不思議な道具はもちろん、知能を持ったネコ型ロボットが発明される予兆などはまるで感じられない。
中学で人並の努力を覚え、無事中堅高校に進学した僕を見て、彼は自分の役務が完遂した事をさとったらしい。主人であるセワシのもとへと帰っていった。
その後の僕は高校でもそれなりの成績をキープし、推薦で私立大学に進学。卒業後は業界では大手と呼ばれる製薬会社に入社した。僕の仕事は薬の営業、いわゆるMRだ。
MRとは営業要素よりも医者の機嫌取り要素が強い仕事で、ストレスや自分のプライドと戦わなければならない大変な仕事である。
が、僕自身にはどうも「高慢な人間に気に入られる素質」があるらしく、そこそこの評価と世間的には「高給」と言われる額の給与をもらいながら毎日頑張っている。
このぶんならセワシのお年玉が50円になるなんて事はないだろう。ドラえもんの当初の目的は達成されたといえよう。
ドラえもんが変えた未来とやらが、少しずつ現実に近づいているのだなとあらためて感じた。
そう、「しずかちゃんと結婚する」という部分以外は。
小学校時代の仲間とはそれなりに連絡をとりあい、卒業後も仲のよい友達関係を続けてきた。
ジャイアンは同じ公立中学を卒業した後、商業高校に進学。卒業後は家業の剛田商店を継ぎ、若旦那として仕事をしている。
スネオは小学校卒業と同時に私立中学に進学し、そのまま大学までエスカレーター進学。
大学は僕が推薦で入学した所と同じ大学だったので、在学中は同じサークルに参加したりと一緒にいる事が多かった。
現在は父親のコネで某代理店に入社し、仕事はそこそこにコンパでブイブイいわせているとの噂だ。
しかし、しずかちゃんだけは中学で女子高に進学して以来、一度も連絡もとっていなければ姿も見ていない。
もちろん今どこで何をしているのかなど、知るわけもない。
ドラえもんが描いた未来通りになるのなら、僕らはどんなロマンチックな再会を果たすのだろうという期待。
もう一方で「未来は簡単に変わる。もしかしたらしずかちゃんと結婚するという未来はかわってしまったのかもしれない」という不安。
毎日のように考えていたそんな事も、最近は仕事の忙しさから忘れがちになっていった。
僕の起床時間は毎朝5時半。買い置きしてある菓子パンとコーヒー牛乳をほおばり、「社員寮」というのは名ばかりの、会社に借り上げられた綺麗なマンションをあとにする。
朝一で卸や特約店との打ち合わせを終了させ、昼前から市内の大病院に向かう。
上司の話では、「今日面会予定の医師はかなり有望な若手医師で、その医師の信頼を得られるかどうかが今後その病院内でのわが社の立場の鍵になる」との事らしい。
医局の前で一時間待った後、「この仕事は失敗できない。」と自分に言い聞かせドアをあけた。
「野・・・比・・・くん?」
端正で凛々しい顔立ち、自信に満ちた瞳、胸につけられたバッチの「出来杉英才」という文字を読む前に、僕は彼が誰であるのかを理解した。
のび「出来杉くん!?君、医者になっていたのかい?」
出来「野比くんこそMRになっていたんだね。昔の友人とこんな所で再会するなんて思ってもいなかったよ!一緒に医療に貢献できるなんて嬉しいな」
懐かしさにひたる時間もほどほどに、僕は自社の新薬の説明を開始した。真剣に聞く出来杉。
「(出来杉のやつ、そんな優秀な医者になっていたのか)」
仕事の話を終え医局を出る間際、出来杉が僕に声をかけた。
出来「それにしても本当に再会できて嬉しいよ。今度一度お酒でも飲みながら話さないか。」
のび「ああもちろんさ!たっぷり接待させていただくよ!」
その週末、僕と出来杉は街の外れの繁華街にあるバーで酒を飲んだ。
日頃は飲めないような高い酒とその肴にたくさんの思い出話。これが会社の経費から出てしまうなんて、何だか罪悪感を感じてしまう。
3時間ほど飲んで店を出ようという空気になった時、不意に出来杉が口をひらいた。
出来「野比君、よければもう一件寄っていかないかい?といってももう酒は充分だがね」
のび「え?お酒を飲まないなら一体どこへいくんだい?」
出来「おいおいおいwwwwwwwそんなもん風俗にきまってまんがな〜ムヒョヒョヒョヒョおおおぉぉぉ」
酔いと少しの好奇心から、僕は風俗へ足を運ぶ事を承諾した。出来杉の豹変ぶりに少しばかり狼狽しながらも。
二人は「ペロペロ倶楽部」という名のヘルスの中へと足を踏み入れた。
出来「おいおいどうしたんだいのび太っち〜緊張してるじゃないか!!もしやどどど童貞なのかい!??そうなのかい!?どっちなんだい!!!!どっち!!!」
きんに君の真似がウゼぇ。
というか僕は別に童貞じゃない。一応経験人数は二人だ。
童貞は高校生の時に当時中学生のジャイ子に誘われるがままに捨てたし、
今の会社の研修時にも一度酒の勢いで同期の女の子とトイレでヤッた事はある。
出来「あああもうビンビンだよはぁはぁはぁ。じゃあのび太っち、また後でね!」
こんな奴が医療界の将来を担っていると考えると少し悲しくもなる。とか考えながら、それぞれ別の部屋へと入っていった。
そう、この後知る事になる悲しい事実などほんの少しも予想しないまま。
「あけみで〜す、どうぞよろしくおねがいしま〜す」
そう言って現れた女性は、まぎれもなく僕の初恋の人だった。
のび「しずか・・・・・ちゃん?」
しずか「・・・・・・・」
のび「しずかちゃん!どうしてこんなところで!」
しずか「・・・・・・・人違いよ」
のび「そんなわけがない!僕が君を見間違うわけが・・・うっ!」
言い終わる前に彼女はぼくのズボンを下ろし、ペニスにかぶりついた。
のび「違う!僕はこんな事を望んでいるんじゃない!」
と言いながらも僕の意に反してペニスは硬くなっていく。
無言で凄い勢いでペニスをしゃぶり続ける憧れの初恋の女の子。
一分もたたないうちに、彼女の口の中に大量の精液を放出してしまった。
のび「はぁはぁはぁ・・・・」
しず「のび太さん・・・もうここには来ないで。私はもうあなたの知っている源静香じゃないの。」
のび「そんな!僕h
しず「帰ってって言ってるの!今すぐ帰って!!!」
ものすごい剣幕と勢いに押され、僕は言われるがまま部屋の外へと出てしまった。
あれから一週間。どうしても仕事に集中できない日々が続いた。
一生懸命医薬品のこと、患者のこと、思考を仕事にシフトしようとしてもしずかちゃんの事が頭から離れない。
なぜあんなところであんな仕事を。
今日は出来杉の病院を訪ねる日だ。彼に相談する事にしよう。
僕は出来杉に全てを話した。
出来「な、なんてこったい・・・あああのしししししずかちゃんがふふふ風俗嬢だなんて・・・。はぁはぁはぁはぁはぁはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
のび「というわけなんだ・・・僕はしずかちゃんと話をして、もし何か困っているなら力になりたいと考えている。どうすれば・・・」
出来「はぁはぁはぁはぁああああああああああっーーーーー!」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。
さらに一週間後。僕は再び出来杉の病院を訪れた。出来杉はやけに上機嫌だった。
出来「やあ野比君。君が来るのを心待ちにしていたよ!」
のび「どうしたんだい、今日はやけに機嫌がいいじゃないか。」
出来「実は一昨日例のぺろぺろ倶楽部に行ってさ。しずかちゃんを指名したんだ。」
のび「な、なんだってーーーー!?」
出来「君が風俗嬢をやっている事を皆にバラすって脅したらなんとヤり放題!!!うひゃひゃひゃひゃ〜〜〜!」
のび「・・・・・」
出来「大丈夫大丈夫!君に聞いたなんて事は言ってないからさ安心しなよひぁっひぁっひぁっ!!」
この職について3年。色んな医師に色んな理不尽な仕打ちも受けたし、
罵倒や侮辱もうけた。しかし、その時とは比べ物にならないくらいの殺意が僕の中に芽生えた。
拳をかたく握る。
しかし今の僕は野比のび太ではなく、大手製薬会社○○の代表としてこの病院にきている。
こんなダメ人間な僕を採用し評価し続けてくれた会社に対して、その恩をあだで返すわけにはいかない。
僕は無言で医局を出ようとした。
出来「そうそう、君の会社の新薬、使わせてもらう事にするよ。
今後の医療に欠かせない素晴らしい薬だと思う。それに君のおかげで初恋の女の子と出来るなんて素晴らしい思いをする事ができたんだ。
この恩を忘れやしないよ。うちの病院の他の課の先生にも、君の会社の薬を採用するように働きかけておくよ。」
出来杉の働きかけのおかげだろうか。僕の営業成績は現在エリア内でトップらしい。
上司の話では、今年のボーナスは去年とは比べ物にならない額が出るから楽しみにしていろ、との事だ。
もちろん嬉しい。こんなに嬉しい事はない。が、僕の心は未だ晴れないままであった。
午後10時、今日の仕事を終え帰宅した僕は、携帯を手にある友人へ電話をかけた。
のび「もしもし、久しぶりだね。まだ起きてるかい?」
スネ夫「ああ起きてるぜ!今日はコンパもないからね。」
のび「少し相談したい事があるんだけど・・・」
スネ「おうなんでも話せよ!もしよかったらザギンあたりでシーメーしながら話さねぇ?もちろん奢るぜ!何せ俺の月給は50万だからな!!」
のび「いや、明日は早いし今から東京へ行くのは不可能だからやめておくよ」
そして僕は全てを話した。
スネ「これは人づてに聞いた話なんだけど・・・」
スネ「しずかちゃんは高校を卒業してから家出をしたらしい。
のび「家出だって!?」
スネ「高校までは優等生だったんだけどさ…音大の受験に失敗したらしいんだ。
バイオリニストになるのが夢で音大を目指してたらしいけどほら、しずかちゃんの残念な音楽センスはお前も知ってるだろ?」
のび「ああ」
スネ「自暴自棄になって夜遊びをするようになって、親からもほぼ勘当状態だったらしくてさ。受験失敗から一年も経たないうちに家に帰らなくなって、
それ以降ずっと行方がわかっていなかったらしい。」
のび「そうだったのか・・・それで風俗で・・・」
スネ「ところでのび太。」
のび「?」
スネ「しずかちゃんの働いている店と源氏名を教えてくれ!!ちょっくら抜いてもらう事にするよ。」
僕は無言で電話を切った。
スネ夫との電話から2週間。僕は未だしずかちゃんのもとに足を運べないでいた。
何度か店の前までは行ったものの、勇気が出ずその一歩を踏み出せずにいた。
自己嫌悪に陥る最中、僕の足はある場所へ向かった。
剛田商店。
古ぼけた看板の店先では、大柄で優しい顔をした男が店番をしていた。
その男に、かつての粗暴だった面影はない。今や近所で評判の剛田商店の若旦那、ジャイアンだ。
ジャイ「おう!のび太じゃないか!珍しいな。どうした?」
のび「実は相談があるんだ。」
ジャイ「あと15分で閉店だ。少しあがって待っていてくれ。」
仕事を終えたジャイアンに僕は全てを打ち明け相談をした。
しずかちゃんの事。本当は彼女をむかえに行きたいという事。その勇気がないという事。
そして高校生の頃、ジャイ子とをしてしまったという事実もついでに打ち明けた。
ジャイ「そうだったのか・・・。相変わらずハッキリしない野郎だが、お前の熱意はわかった。
お前に勇気がないというのなら、俺が背中を押してやる。」
のび「ジャイアン・・・」
ジャイ「だが、ジャイ子をもてあそんだぶんの責任はとってもらうからな。」
のび「じゃ、ジャイアン!?」
ジャイ「服を脱いで四つんばいになれ。」
のび「アッーーーーーーーーー!!!!!!!」
今日もまた5時半に目覚ましが鳴り、僕はベッドから身を起こした。
…ケツが猛烈に痛い。
ジャイアンがゲイだった事には正直驚かされた。
僕は新しい世界を垣間見たが、そちらへ行きたいとは思わない。まぁいたってノーマルだという事だ。
ひとまずこれで、僕がジャイ子にしてしまった過ちは清算された。
ジャイアンは行為のあとすべてを見ずにながし親身に相談にのってくれた。厳しい口調で、だがしっかりと僕の背中を押してくれた。
やはり持つべきものは心の友だ。僕の心に勇気がやどった。
僕は今、ぺろぺろ倶楽部の前で彼女を待っている。
何時になるかはわからない。明日も仕事はある。早く寝なくちゃいけない。だが、そんな事よりもっと大切な事があるんだ!
午前三時になった。正直キツい。が、立って人を待つ事には仕事柄慣れている。
こうなったら日が登ろうが何時になろうが、いつまででも粘ってやる!
そう思った時、店の階段から降りてきたのは僕が待ち焦がれた彼女だった。
「お〜い!し………」
僕が呼びおわる前に、彼女は派手なスーツに身を包んだ3人のコワモテの男たちに囲まれていた。
僕には割って入る勇気などない。ただあとをつける事しかできない。
辿り着いた路地裏では、僕にとって最も見たくない光景が繰り広げられていた。
抵抗もしなければ声もあげない。しずかちゃんはもはや奴らにとって「女性」ではなくただの「人形」同然であった。
後日、僕はまた剛田商店を訪れた。
ジャイ「よかったのか、ホイホイやってきて。俺はお前を喰っちまった人間なんだぜ」
のび「その事はいいんだよ。何があろうとジャイアンは僕の心の友だからね」
ジャイ「うれしい事言ってくれるじゃねぇの。で、用件は何だ?まさか告白がうまくいかなかったのか?」
僕はジャイアンに、裏路地で見たこと、聞いたことを全て話した。
ジャイ「なるほど、何もできなかった自分が悔しいというわけか」
のび「ああ、何故あの時立ち向かっていかなかったのか」
ジャイ「のび太、それは違うぞ」
のび「え?」
ジャイ「お前が出ていってボコられたところで誰が喜ぶ?犯された直後のしずかちゃんにお前のどんな言葉が届くっていうんだ?」
のび「…」
ジャイ「お前が貰う予定の莫大なボーナスはそもそも誰のおかげだ?お前は高給取りなんだろう。」
ジャイ「しずかちゃんが借金を返せないならお前が返してやれ。風俗で働かなくてすむように養ってやれ。お前がドラえもんのタイムマシンで見てきた未来を忘れたのか?お前の隣には誰がいた」
のび「…」
ジャイ「いいこと思いついた。お前、今すぐ店にいってしずかちゃんを指名しろ。話はそれからだ。」
今僕は、ぺろぺろ倶楽部にいる。
しずかちゃんがいるであろう部屋の前にいる。もう迷う事はない。
「ガチャ」
しず「の・・・・のび太さん。もう来ないでっていったのに・・・」
のび「しずかちゃん、僕と一緒にくるんだ。こんな所にいてはいけない。」
しず「こんな所ですって?私は好きでこの仕事をしているの。。」
のび「嘘だっ!!!!!!!!!!」
しず「・・・・。」
のび「僕は君を愛している。小学生の頃からずっと。そりゃ他の女の子に目移りした事もあるし、
抱いた事だってある。けど、やっぱり僕は君じゃなきゃダメなんだ!」
しず「無理よ・・・」
しず「親にも見離され、こんな所で体を売りながら働いているアバズレよ。借金も山のようにある。
もうあなた達とは違う世界の住人なのよ・・・」
のび「借金なら僕がなんとかする!君を養えるだけの生活力はあるさ。」
しず「クスクスクス・・・あの勉強もからっきし駄目でなまけ者だったあなたが?
世の中って不思議なものね。それともまたドラちゃんに頼ったのかしら?」
のび「ドラえもんは関係ない!!!」
のび「ドラえもんは10年以上前に未来へ帰ったよ。きっともう会う事もない。
今の僕の生活は、僕自身でつくりあげてきた。僕の職業も決して人に誇れるようなものじゃないさ。
医者の鞄持ち、男芸者、色んな事を言われる。」
しず「・・・」
のび「それでも僕は自分の仕事に誇りを持っている。僕はドラえもんのおかげで変わる事ができた。
就職も出来ず、自分の会社を不注意で燃やし、孫にお年玉を50円しかやれないような人生からは逃れる事ができた。
あと僕の人生に必要なのは君だけなんだ!!」
しず「さっきから聞いてれば自分の人生の話ばっかり。私の意志は関係無いのかしら?
相変わらず馬鹿な人。」
のび「・・・」
しず「でもそんなあなたが好きだった。ずっと会いたかった。おちぶれてからもあなたを忘れた事はなかった。
だからあなたの事はきれいな思い出として私の中にしまっておこうと思った。
なのにどうして現れるの?どうして私の決意が揺らぐような事を言うの!!」
のび「僕は君にどんな過去があろうが、誰とどんな関係を持っていようが、全てを受け入れる。
だから僕についてきてほしい。一緒に幸せになろう。」
僕が言い終わると同時に彼女は泣き崩れた。
僕は彼女をそっと抱きしめる。
しず「のび太さん、これがが私のぺろぺろ倶楽部での最後の仕事よ。
御願い。私を抱いてちょうだい。今までの空白の時間を埋めてちょうだい。」
のび「しずかちゃん・・・」
しず「そして、明日からはあなたのそばにいさせて。こんな借金持ちの汚れた女が本当に図々しいわよね。
それでも私はあなたのやさしさに甘えたいの。」
のび「もちろんさ・・・」
今僕はとても清々しい気分で岐路についている。
初恋の女の子を抱いた喜び?お嫁さんにできる喜び?
もちろんそれもあるが、一番の理由は「やっとドラえもんの目指した未来が実現した」という事だった。
どうしてもニヤけてしまう顔を無理に元に戻し、僕はタクシーを待つ事にした。
ドンっっ・・・・・・・・・・・・・・・
脇腹に凄まじい異物感。一瞬何が起こったか理解できなかった。
ゆっくりふり返ると、一人の老人が僕の脇腹にナイフを突き立てている。
現状を理解すると同時に、激痛が走った。
老人「おおおま、おま、お前だなぁぁぁぁ。うちの娘が風俗嬢だなどというくだらん噂を流したのは!
きさまがペラペラいらん事を喋ったせいで、ワシの家族は・・・家族は・・・・
う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
老人は叫びながら僕の脇腹に2度、3度とナイフを突き立てる。
驚き叫ぶ人々。パニック状態の野次馬。
老人が巡回中の警官に取り押さえられると同時に、僕は地面に倒れた。
老人「はぁ・・・はぁ 間に合った・・・間に合った・・・・
私の殺したい奴はこれで全員!!ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
警官1「く、狂ってやがる!!おとなしくしやがれ!!」
警官2「おい君!!しっかりするんだ!!救急車を呼んだからな!!何とかもちこたえてくれよ!」
僕は朦朧とする意識の中、救急車で病院へと運ばれた。
そういえばMRになってから、仕事以外で病院に来ることなんて初めてだっけ。
意識を失う直前、僕の目には見慣れた男の顔が映った。
出来杉「野比君、もう大丈夫だ。君の命は僕が絶対に救ってみせる!!
僕の全ての技術とこの病院の全設備を駆使して、君を助ける事を誓う!!
だから安心して、今は眠ってくれ。」
気がつくと僕は、病院のベッドの上にいた。
僕が目を開けると同時に、パパとママが歓喜の声をあげる。
よかった、僕は生きている。
まだ脇腹に痛みは残るし体に力も入らないが、間違いなく生きている。
思えば社会人になってから、両親と会ったのは初めてかもしれない。
年末年始も盆休みも、接待やら学会やらで帰る事が出来なかったから。
半日両親とのんびりした時間を過ごした後、僕はナースコールを押し、やってきたナースに告げた。
「出来杉先生を呼んできてくれ。」
出来「野比君、調子はどうだい」
のび「まだ痛むけどこの通り、生きているよ。」
出来「本当に君を死なせなくてよかった。ほんというとかなり難しい手術だったんだ。」
のび「出来杉くん・・・・・・本当にありがとう。」
出来「僕は自分の使命を全うしたまでさ。しかし、本当に医者になってよかった。
大切な友人の命を救う事が出来たんだから、こんなに嬉しい事はないよ。」
のび「出来杉くん・・・」
出来「野比くん、また完治したら一緒に飲みにいこう。楽しみにしているよ。」
のび「ああ!!」
出来「そして2次会はもちろん・・・・・・ぐへへへへへへたまりまへんなぁ!!
むひょひょひょひょひょひょひょ!!!!!!」
のび「・・・・・・」
出来「風俗!!!!風俗!!!!」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。
出来「なぁ野比君・・・・おちついて聞いてくれるか?」
のび「なんだい?」
出来「君の病室にはテレビがないからきっとまだ知らないと思うんだが…落ち着いて聞いてほしい。」
のび「どうしたっていうんだよ?」
出来「しずかちゃんが・・・・・・・・死んだんだ。」
「20XX年6月11日深夜、都内の歓楽街で女性と男性を刺したとして、源○○容疑者(61)が逮捕された。
被害者は容疑者の娘である風俗店勤務、源静香(25)と製薬会社勤務、野比のび太(25)。
源容疑者は静香さんの勤務する風俗店の前で待ち伏せし、持っていた刺身包丁で腹部を刺した後、
近くのタクシー乗り場でタクシー待ちをする野比さんを刺した模様。
源容疑者は「汚れた娘と、口の軽い不届き者を始末してやった。後悔はしていない。」と供述している。
被害者の二人は共に都内の病院に搬送され、野比さんは命に別状はないが、しずかさんは今朝未明亡くなった。」
はっきり覚えてはいないが、出来杉に連れられて行った医局のテレビで、
だいたいこんな内容のニュースを聞いた。
意識が遠のいていく感覚がした。
その後の僕は色んな取材を受けた。
しずかちゃんとの関係や過去の事など。マスコミ共は面白がって根掘り葉掘り聞いては脚色して報道する。
ただ、そんな事はどうでもいい。マスゴミ共が何を騒ぎ立てようが、僕は何も感じなかった。
最愛の人を失ったショックが、僕の感覚を麻痺させていった。
〜30年後〜
ジャイ「いいこと思いついた。今日の特売品はジャンボフランクにしよう。」
のび「えええ〜またかい兄貴!週に三回はソーセージセールをやっているじゃないか!」
ジャイ「今日のソーセージは一味違うんだ!見てくれ、こいつをどうおもう?」
のび「すごく・・・おおきいです。」
ジャイ「そうだろう!これは完売間違いなしだ!!」
55歳になった僕は、大型スーパーマーケットに成長した剛田商店の専務として働いている。
30歳でジャイ子と結婚した僕は、40歳で会社を退職し、家業を手伝う事にした。
今ではたくさんの子供に恵まれ、毎日を幸せに過ごしている。
20代の時は毎日が悲しくて地獄のようだったが、悲しみは時と共に薄れていくという事を身をもって実感した。
しかし、時折こんな事が頭をよぎる。
「ドラえもんが僕に見せた未来は一体何だったのだろう。」
しずかちゃんのいる未来。環境保護庁で働く未来。そしてドラえもんのいる未来。
ドラえもんとはそもそも、幼い事に見た幻だったのかもしれない。
そんな事すら考えた。
タイムマシンや不思議な道具なんて開発される気配すらない。
やはりドラえもんとの日々は僕の妄想だった。僕の考えはそう固まっていた。
そんな中、ある日の新聞でこんな見出しが目に入った。
「SONYが人口知能の開発に成功。ロボット工学に革命」
5年後、僕は60歳になった。もう立派なじいさんだ。
SONYの快挙によって、各メーカーはこぞって知能を持ったロボットの開発に着手。
完成させては発売を開始した。
僕も事あるごとに新作ロボットをチェックする中で、東芝のカタログに「猫型ロボット、近日発売予定!」という文字をみつけた。
僕は即座に予約をした。価格は僕がMR時代から貯めた全財産を持ってして買えるギリギリの価格。
それでも僕は迷わず購入を決意した。
ジャイ子は泣きながら僕にデンプシーロールをくらわせたし、子供は呆れて口もきいてくれなくなった。
しかし僕は後悔していない。
猫型ロボットの発売直前。
長女に子供が生まれた。小さい頃の僕にそっくりな男の子だ。
何の打ち合わせもしていないが、長女は孫に「セワシ」と名前をつけた。
セワシよ、ロボットの購入に全財産を使ってしまった僕は、君にお年玉をあげられないかもしれない。
あげれるとしたら多分50円くらいだ。ただ、そのロボットはきっと君にとって欠かせない存在になるだろう。
君が大きくなったら、きっと色んな不思議な道具やタイムマシンが発明されていると思う。
どうかその猫型のロボットを、過去へと送ってやってくれないか。
きっとそこには、馬鹿で怠け者でどうしうようもない少年がいる。
そいつはそのロボットによってまともな人間へと成長する。
そして、ひょっとするとそのロボットが過去を変える事によって、一人の女性が死ななくてすむかもしれない。
過去をかえたところで、きっと僕のいるこの世界は変わらない。
ただもう一つの未来ができるというだけ。それはなんとなくわかる。
だって、今僕がいるこの時代はドラえもんに見せてもらったものとは大きく変わっているのだから。
でも、もうひとつ別の未来ができるとしたら、しずかちゃんが幸せで過ごしている未来がいい。
別に僕と結婚しなくてもいい。
ただお父さんを凶行に駆り立てるような事もなく、彼女が笑って過ごせるような未来がいいなぁ。
そんな事を考えていると、東芝から電話がかかってきた。
東「お客様、まことに申し訳ないのですが、注文されていたネコ型ロボットの納期が遅れてしまいます。」
のび「何故ですか?」
東「倉庫に置いているとネズミが耳をかじってしまったらしくて・・・耳が欠品してしまったんですよ。色も黄色から青に変色してしまって。」
のび「ふふふ・・・」
東「どうされましたか?」
のび「僕は耳のないデザインの方が好きだし、色も青が好みです。そうかそのまま売っていただけませんか。」
〜のび太君が社会人になったようです〜 完
番外編 〜のび太の就職活動〜
大学4回生の四月、僕は今就職戦争の真っ只中にいる。
同学年でも早い奴は内定を貰っていてもおかしくないこの時期、僕はどうも波に乗れずにいた。
母「のび太〜〜〜〜!!!」
のび「な、なんだよぅ!」
母「何なのこのいやらしいDVDは!『隣のパイズリお姉さん』ですって!?ああ汚らわしい」
のび「そそそそそれは僕の大切な竹内あいのDVD!!!」
母「就職活動の大切な時期にこんなものを・・・母さん悲しいわ。これは捨ててしまいますからね!」
のび「そんなぁ〜〜ちょっとした息抜きじゃないか〜〜」
父「な〜るへそ!!息と一緒に違う物も抜いちゃおうってわけだな!!こりゃぁ父さん一本とられた!あはははははは」
母「あなたは黙っててちょうだい!!!!」
うちの中では相変わらず緊張感のないやりとりが続いている。
この光景からは想像もつかないかもしれないが、僕は少しばかり焦っていた。
「僕はどの会社からも必要とされていないのだろうか」
ドラえもんが未来に帰って約7年。彼が僕を変えてくれたおかげで、
僕は人並みに勉強をするようになりほどほどに順調な人生をおくってきた。
しかし、僕の中には「自分は本質的にはダメ人間」「ドラえもんがいなけりゃ何もできない予定だった」という考えが残っていた。
そのせいか、面接にしろエントリーシートにしろ、どうしても自信を持てず、消極的なものになってしまっていた。
自信なさげで控えめな青年を企業が欲しがるわけはない。
そんな事はわかっているが、どうしてもうまくいかない。
学生時代のエピソードをアピールしようにも、足ツボサークルで足ツボを押す以外何もしてこなかった僕にそれは難しい。
笑顔を装っていたが、心の中は胃が痛くなるほど真っ暗だった。
スネ夫「のび太〜〜〜どうだい就活の調子は!」
のび「相変わらず、さっぱりさ。」
スネ「そうか。ぼくはパパのコネで電○の内定が決まったぜ!!いいだろ〜うらやましいだろ〜〜」
のび「そいつはよかったね、おめでとう」
スネ「ああ、これでスイーツ(笑)共とコンパでヤり放題さ!!ま、おこぼれでよければのび太にも譲ってやるからさ!」
のび「うん、ありがとう。それじゃあね。」
スネ「おう!ま、のび太も就活頑張れよ!」
世の中というやつは、どうしてこうも不平等に出来ているのだろう。
のび「やあジャイアン」
ジャイ「おおのび太、ひさしぶりだな。大学の調子はどうだ?」
のび「なかなか楽しいよ。けど就活動はさっぱりさ。ジャイアンは仕事頑張ってるんだね。」
ジャイ「おう!これが今日入荷した大根だ!よ〜く見てくれ、こいつをどう思う?」
のび「すごく・・・大きいです。」
ジャイ「でかいのはいいからさ、美味そうだろう。このままじゃおさまりがつかないんだ。
持って帰って煮物にでもするといい。」
のび「ありがとうジャイアン!!」
ジャイ「元気が出ない時は美味い物食って栄養つけないとな!!いい報告楽しみにしてるぜ!!」
スネ夫はまぁおいといて、ジャイアン、両親、僕の成功を願ってくれる人がいるのに、僕はそれにこたえられない。
そもそもこのままでは、ドラえもんが過去に来た意味すら無くしてしまう事になる。
僕のネガティブ思考は最大限に達していた。
明日は最後の持ち駒、記念受験でエントリーした某出版社の面接だ。
まぐれにまぐれが続いて最終面接まで辿り着いたが、とても受かる気がしない。
どうしよう。
面接室の前でも、僕は浮かない気分だった。
どうせ受からない面接のために何故こんなところまで・・・
ここを落ちたらまた一からやり直し・・・
そんな事を考えながら部屋へと入った。
・自己紹介
・学生時代に頑張ったこと
・自分の強み、弱み
今まで飽きるほど聞かれた質問がループする。
面接官は皆顔をしかめている。
ほうらな、思った通りさ。
「では次が最後の質問です。」
はいはい、ひと思いに楽にしちゃってくだせぇ。
「即興で子供に勇気を与える簡単な話を考えて、私にPRしてください。」
未来から猫型のロボットがタイムマシンでやってくる。
勉強もスポーツもからっきしな男の子を不思議な道具で助ける。
男の子はロボットに甘え頼り切るが、その生活の中で少しずつ強さと勇気を覚えていく。
そんな内容の話を、僕は今までにないほど生き生きと喋った。
自然と表情は明るく、面接官の目を真っ直ぐと見据えながら。
あれほど退屈そうだった面接官が、今は僕の話を食い入るように聞いている。
「話の筋も面白く、設定も非常に具体的で、あなたが素晴らしい発想力を持っている事が伝わってきました。
またPRの話し方や熱意からあなたのまっすぐな人間性も伝わってきました。
是非我が社で働いてほしい。」
面接官は僕の手をかたく握り、笑顔で言った。
「おめでとう、内定です。」
結論から話すと、僕はその会社の内定を辞退した。
内定の知らせを聞き歓喜していた両親は、必死で僕を説得した。
でも、駄目なんだ。
あの面接は、本当の僕個人の力が評価されたものではなかった。
ただドラえもんと過ごした経験を話しただけ。
僕の発想力から出たものでもないし、そもそも実体験を話すだなんて出題意図を無視している。
ドラえもんは僕を成長させるために過去へやってきた。
こんな棚ボタのような形で就職先を決めるわけにはいかない。
僕は気分を一新し、新たに業界研究を始めた。
色々な会社の説明会に足を運ぶ事にした。
志望業界はまた一から考え直さなきゃいけないけど、どうせなら人を救う事ができるような仕事がいいなぁ。
今日、リクルートスーツに身を包んで玄関に立つ僕は、以前とは比べ物にならないほど自信にあふれていた。
あの面接と内定は、ドラえもんが最後に僕にくれた「勇気」だったんだ。
あの場で僕はあんなにイキイキと喋れた。初めて自分の言葉に自信を持つ事ができた。
棚ボタだとしても、初めて企業に自分が必要だと言ってもらえた。
玄関をあけようとする僕を見送りに来た母が、弁当を渡しながら口を開いた。
「あらのびちゃん、今日はなんだかひとまわり大きく見えるわね。たのもしいわよ。」
番外編〜のび太の就職活動〜 完
続編もしくはサイドストーリーをという声があったので、「せっかく就職板だしのび太の就活時代の話を書きたいな」と思って書いてみましたが・・・。
何だか駆け足な上におもしろみのない話になってしまったような気がします。
もしこれを読んでくれた方で、続編やサイドストーリー、他キャラ目線の話などを
書いて下さるという方がいたら、是非御願いしたい次第です。
このスレも幸いまだ700件以上書き込みが出来るので、大勢で盛り上げて楽しくしていけたらいいなぁとか考えています。
それでは失礼します。
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